【課題】モールド表面の凹凸構造を樹脂表面に転写する際に、モールドへの樹脂の充填不足、樹脂の硬化不足、及び、モールド表面における樹脂詰まりの発生を抑制可能な、モールドを提供する。
【解決手段】交差して延びる複数の溝により複数の凸部が形成された凹凸表面を有するモールドであって、主凹凸表面領域と、溝の最深部が前記主凹凸表面領域のそれよりも浅い凹凸表面領域Aとを備え、前記凹凸表面領域Aは、平面視で、前記凹凸表面全体の50%以下を占める、ことを特徴とする、モールド。
前記主凹凸表面領域の上から液体を供給したときに、当該液体を前記凹凸表面領域Aの溝からオーバーフローさせることが可能な構造を有する表面領域Bを更に備える、請求項1に記載のモールド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような樹脂への転写においては、樹脂(未硬化の樹脂)の流動性に起因して、モールドの特に端部近傍の凹凸表面に対して当該樹脂を十分に行き渡らせることができない虞があった。このようにモールドの凹凸表面に樹脂の充填が不足している箇所があると、エアーが樹脂に混入し易くなる。そして、樹脂にエアーが混入すると、紫外線の照射により当該樹脂の硬化を試みても、酸素阻害作用によって当該樹脂に未硬化部分が残存してしまう、ひいては、得られる樹脂シートの品質が悪化するという問題が生じる。このようなエアーの混入は、転写条件を適宜調整したとしても、完全に回避することは不可能である。
【0008】
更に、紫外線の照射後においても樹脂に未硬化部分が残存していると、剥離後もモールド表面に樹脂が残り(「樹脂詰まり」ともいう)、樹脂シートの生産続行が困難となる。
【0009】
なお、上述した事態は、モールドにおける凸部(ピラー)の高さが10μmを超える場合や、凸部の密度が高い場合に、特に頻発する。
【0010】
本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、モールド表面の凹凸構造を樹脂表面に転写する際に、モールドへの樹脂の充填不足、樹脂の硬化不足、及び、モールド表面における樹脂詰まりの発生を抑制可能な、モールドを提供することを目的とする。また、本発明は、上述したモールドを用いて得られる、凹凸構造が転写された樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、モールドにおける一部分の表面領域について溝底を浅くし、モールド上に樹脂が流し込まれた場合に当該樹脂を堰き止めるようにすることで、上述した問題を有利に解決できることを見出し、本発明をするに至った。
【0012】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 交差して延びる複数の溝により複数の凸部が形成された凹凸表面を有するモールドであって、
主凹凸表面領域と、溝の最深部が前記主凹凸表面領域のそれよりも浅い凹凸表面領域Aとを備え、
前記凹凸表面領域Aは、平面視で、前記凹凸表面全体の50%以下を占める、ことを特徴とする、モールド。
【0013】
<2> 前記主凹凸表面領域の上から液体を供給したときに、当該液体を前記凹凸表面領域Aの溝からオーバーフローさせることが可能な構造を有する表面領域Bを更に備える、前記<1>に記載のモールド。
【0014】
<3> 前記凹凸表面領域Aが、前記凹凸表面の端部に位置する、前記<1>又は<2>に記載のモールド。
【0015】
<4> 前記凹凸表面領域Aの溝の最深部が、端部側に向かって浅くなるように傾斜している、前記<3>に記載のモールド。
【0016】
<5> ロール状である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載のモールド。
【0017】
<6> 複数の凹部が形成された凹凸表面を有する樹脂シートであって、
主凹凸表面領域と、凹部の最頂部が前記主凹凸表面領域のそれよりも低い凹凸表面領域A’とを備え、
前記凹凸表面領域A’は、平面視で、前記凹凸表面全体の50%以下を占める、ことを特徴とする、樹脂シート。
【0018】
<7> 前記<6>に記載の樹脂シートの凹凸表面領域A’を除去してなる、樹脂シート。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、モールド表面の凹凸構造を樹脂表面に転写する際に、モールドへの樹脂の充填不足、樹脂の硬化不足、及び、モールド表面における樹脂詰まりの発生を抑制可能な、モールドを提供することができる。また、本発明によれば、上述したモールドを用いて得られる、凹凸構造が転写された樹脂シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
(モールド)
本発明のモールドは、交差して延びる複数の溝により、複数の凸部が形成された凹凸表面を有する。そして、本発明のモールドは、主凹凸表面領域と、溝の最深部(溝底)が上記主凹凸表面領域よりも浅い凹凸表面領域Aとを備えることを一特徴とする。
【0023】
本発明のモールドは、転写により樹脂シート等のシートの表面に凹凸構造を形成するためのモールド(インプリント用のモールド)として、好適に用いることができる。また、本実施形態のモールドを用いることにより、後述する本発明の樹脂シートを作製することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るモールド(以下、「本実施形態のモールド」と称することがある。)について、図を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施形態のモールドの一部分(例えば、主凹凸表面領域)における凹凸表面を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態のモールド100は、一方向に向かって複数の溝11aが延びるとともに、それとは別の方向に向かって複数の溝11bが延び、これら複数の溝11a、11bが交差することにより、複数の凸部12が表面に形成されている。この凹凸表面の構造は、樹脂シート表面に形成させようとする所望の凹凸構造を反転させた構造とすることができる。
【0026】
なお、凸部12の形状は、特に制限されず、
図1に示すように四角柱状であってもよく、四角柱状以外の角柱状であってもよく、また、三角錐又は四角錐等の角錐状であってもよい。
【0027】
図2Aは、本実施形態のモールドの一部分の断面を示す概略図である。
図2Aに示すように、本実施形態のモールド100は、主凹凸表面領域に加え、溝の最深部13が当該主凹凸表面領域のそれよりも浅い(即ち、堤防構造を有する)凹凸表面領域Aを備える。かかる堤防構造は、モールド上に樹脂が流し込まれた場合に、モールドの凹凸表面に充填された樹脂を堰き止める機能を有する。そのため、このようなモールド上に樹脂を積極的に流し込むことで、樹脂をモールドの凹凸表面全体、特には主凹凸表面領域に滞りなく供給することができ、充填不足の発生を効果的に抑制することができる。
なお、
図2Aでは、ロール状のモールドの表面付近の断面を示したが、本実施形態のモールドは、ロール状のものに制限されない。
【0028】
また、本実施形態のモールドによれば、上述の通り樹脂の充填不足の発生が抑制されるので、当該モールドを用いて樹脂シート表面に凹凸構造を転写する際に、樹脂へのエアーの混入、紫外線照射後の樹脂における未硬化部分の残存、ひいてはモールド表面の樹脂詰まりといった事態を、効果的に回避することができる。
【0029】
凹凸表面領域Aの溝の最深部13は、主凹凸表面領域の溝の最深部13よりも浅くなっていればよく、例えば
図2Bに示すように、主凹凸表面領域の溝の最深部との関係で段差が設けられていてもよい。但し、凹凸表面領域Aの溝の最深部13は、加工容易性の観点から、
図2Aに示すように、端部側に向かって浅くなるように傾斜していることが好ましい。或いは、凹凸表面領域Aの溝の最深部は、端部側に向かって深くなるように傾斜させることもできる。
【0030】
なお、モールドにおける「主凹凸表面領域」は、転写されて得られる樹脂シートのうち、製品化対象の部分に対応する凹凸表面領域を指し、具体的な表面構造は特に制限されない。また、主凹凸表面領域及び凹凸表面領域Aにおける複数の凸部の高さh1は、樹脂シート表面に付与すべき所望の凹凸構造に応じて適宜変えることができるが、主凹凸表面領域の溝の最深部を基準として例えば10〜100μm程度であり、通常は
図2A、
図2B、
図3に示すように略一定である。
【0031】
図2Aに示す凹凸表面領域Aにおいて、溝の最深部(溝底)13の傾斜角度θは、樹脂の堰き止め機能を十分に発揮させるため、2°以上であることが好ましく、また、加工容易性の観点から、40°以下であることが好ましい。同様の観点から、傾斜角度θは、3°以上であることがより好ましく、5°以上であることが更に好ましく、また、30°以下であることがより好ましく、20°以下であることが更に好ましい。
【0032】
本実施形態のモールドにおいて、凹凸表面領域Aは、平面視で、凹凸表面全体の50%以下を占める。凹凸表面全体における凹凸表面領域Aの割合が50%超であると、当該モールドを用いて作製される樹脂シートのうち、スクラップとなる部分の割合が過度に多くなり、樹脂シート製品の製造に係るコスト優位性が悪化する。また、本実施形態のモールドの凹凸表面全体における凹凸表面領域Aの割合は、樹脂シート製品の製造に係るコスト優位性の観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
【0033】
本実施形態のモールドにおいて、凹凸表面領域Aは、モールドの凹凸表面の端部に位置することが好ましい。凹凸表面領域Aがモールドの端部に位置することで、当該モールドを用いて作製される樹脂シートのうち、スクラップとなる部分の割合が低減するため、樹脂シート製品の製造に係るコスト優位性を向上させることができる。なお、本実施形態のモールド(母体)が平板状である場合、凹凸表面領域Aは、モールドの凹凸表面の縁に沿って位置することが好ましく、また、本実施形態のモールド(母体)がロール状である場合、凹凸表面領域Aは、ロール軸方向の両端部に位置することが好ましい。
【0034】
また、本実施形態のモールドは、凹凸表面領域Aに加えて、主凹凸表面領域の上から液体(例えば、未硬化の樹脂など)を供給したときに、当該液体を凹凸表面領域Aの溝からオーバーフローさせることが可能な構造を有する表面領域Bを更に備えることが好ましい。本実施形態のモールドが表面領域Bを更に備えることにより、モールド上に樹脂が流し込まれた場合に、樹脂がモールド外部に漏れ出ることを抑制し、ライン汚染を回避することができる。また、本実施形態のモールドが表面領域Bを更に備えることにより、樹脂の塗布幅のコントロールが容易になる。
また、上記表面領域Bは、凹凸表面領域Aの溝からオーバーフローした液体を受け入れ可能な構造(プール構造)を有することが好ましい。
【0035】
表面領域Bに関し、本実施形態のモールドにおいては、例えば
図3に示すように、凹凸表面領域Aよりも更に端部側に、且つ凹凸表面領域Aに隣接するようにして、凹凸表面領域Aからのオーバーフローを受け入れ可能なプール構造を形成することができる。このプール構造の幅は、例えば5〜10mm程度とすることができ、また、このプール構造の深さは、例えば凸部の高さh1の30〜80%程度、特には50〜80%程度とすることができる。
【0036】
また、本実施形態のモールド(モールドの母体)は、平板状であってもよく、ロール状であってもよい。但し、本実施形態のモールドは、後述する
図8に示すような形状転写装置を用いて連続的に樹脂シートを作製するために、ロール状であることが好ましい。
【0037】
(モールドの製造)
本実施形態のモールドの製造方法としては、特に制限されない。以下、ロール状である本実施形態のモールドを作製するための方法の一例について説明する。
【0038】
まず、モールド母材を準備する。モールド母材の形状は、例えば中心軸を有する円柱形状又は円筒形状である。また、モールド母材の材質としては、特に制限されないが、例えば、SUS304、S45C等が挙げられる。
【0039】
次に、モールド母材の周面にめっきを施し、めっき層を形成する。めっきを構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、ニッケル−リン合金、銅等が挙げられる。めっきの種類としては、特に制限されないが、例えば無電解めっき等が挙げられる。
【0040】
次に、めっきを施したモールド母材を精密旋盤に載置した後、めっき層に対し、平滑化処理を行う。平滑化処理は、例えばR形状のバイトを用いて行うことができる。より具体的に、めっき層が形成されたモールド母材を、その中心軸を回転軸として回転させ、平滑化用バイトの切削部をモールド母材の一方の軸方向端部に押し付ける。その後、モールド母材を回転させながら、平滑化用バイトを一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に移動させる。以上の工程により、めっき層が平滑化される。
【0041】
次に、平滑化されためっき層に対し、溝加工処理を行う。溝加工処理では、ダイヤモンドバイト等の切削工具を用い、必要に応じて回転させたモールド母材のめっき層に対し、2方向以上の任意の方向に延びる複数の溝が形成されるように切削する。これにより、モールド母材表面に複数の凸部(ピラー)が形成されることとなる。複数の溝を形成する方向は、例えば、モールド母材の中心軸に平行な方向及び当該中心軸に垂直な方向の2方向とすることができ、また、モールド母材の中心軸に対して傾斜させた任意の2方向とすることもできる。
【0042】
凸部の形状は、溝の形成方向の数(2方向、3方向など)、溝のピッチ、切削工具の先端形状などを適宜調節することで、調整することができる。例えば、
図4Aに示すように、先端が矩形形状の切削工具15を用いることで、凸部12を角柱状とすることができ、
図4Bに示すように、先端がV字状の切削工具15を用いることで、凸部12を角錐状とすることができる。
【0043】
ここで、切削の際、モールド母材の一部の切削領域おいては、切削工具による切削深さを適宜調整して、溝の最深部が他の切削領域よりも相対的に浅くなるようにする。参考までに、
図5に、モールド母材表面への切削の軌跡の一例を示す。
図5に示すように、モールド母材16の一部の切削領域(
図5では中心軸方向の両端部)においては切削深さが浅くなるようにして切削工具15による切削を行い、2方向以上に延びる複数の溝を形成していく。これにより、上記の「一部の切削領域」は、堤防構造を有する凹凸表面領域Aとなり、上記の「他の切削領域」は、主凹凸表面領域となる。
【0044】
次に、必要に応じ、プール形成処理を行う。プール形成処理では、バイト等の切削工具を用い、モールド母材における凹凸表面領域Aよりも軸方向端部側に、幅:5〜10mm程度、深さ:凸部の高さh1の30〜80%程度、特には50〜80%程度のプール構造を形成することができる。なお、プール構造の幅は、転写に用いる樹脂の粘度や、転写の際のライン速度に応じて、適宜変更することができる。また、プール形成処理は、溝加工処理の前に行ってもよい。
このようにして、本実施形態のモールドを作製することができる。
【0045】
(樹脂シート)
本発明の樹脂シートは、複数の凹部が形成された凹凸表面を有する。そして、本発明の樹脂シートは、主凹凸表面領域と、凹部の最頂部が前記主凹凸表面領域のそれよりも低い構造を有する凹凸表面領域A’とを備えることを一特徴とする。
【0046】
本発明の樹脂シートの凹凸表面の構造は、上述した本発明のモールドの凹凸表面の構造を反転させた構造である。また、本発明の樹脂シートは、好ましくは、上述した本発明のモールドを用いて得られる転写物である。
【0047】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂シート(以下、「本実施形態の樹脂シート」と称することがある。)について、図を参照して説明する。
【0048】
図6は、本実施形態の樹脂シートの一部分(例えば、主凹凸表面領域)における凹凸表面を示す概略図である。
図6に示すように、本実施形態の樹脂シート200は、基材21上に配置され、また、複数の凹部22が表面に形成されている。
【0049】
図7は、本実施形態の樹脂シートの一部分の断面を示す概略図である。
図7に示すように、本実施形態の樹脂シート200は、主凹凸表面領域に加え、凹部の最頂部23が当該主凹凸表面領域のそれよりも低い凹凸表面領域A’を備える。なお、凹凸表面領域A’の構造は、上述したモールドにおける凹凸表面領域Aの構造(堤防構造)を反転させた構造に相当する。
【0050】
なお、樹脂シートにおける「主凹凸表面領域」は、製品化対象の部分の凹凸表面領域を指し、具体的な表面構造は特に制限されない。また、主凹凸表面領域及び凹凸表面領域A’における複数の凹部22の深さd1は、目的に応じて適宜変えることができるが、主凹凸表面領域における複数の凹部22の最頂部を基準として例えば10〜100μm程度であり、通常は
図7に示すように略一定である。
【0051】
また、樹脂シートの作製に用いるモールドが表面領域Bを備える場合、本実施形態の樹脂シートは、例えば
図7に示すような、隆起構造を有する表面領域B’を更に備えることとなる。
【0052】
本実施形態の樹脂シートにおいて、凹凸表面領域A’は、平面視で、凹凸表面全体の50%以下を占める。凹凸表面全体における凹凸表面領域A’の割合が50%超であると、樹脂シートのうちスクラップとなる部分の割合が過度に多くなり、樹脂シート製品の製造に係るコスト優位性が悪化する。また、本実施形態の樹脂シートの凹凸表面全体における凹凸表面領域A’の割合は、樹脂シート製品の製造に係るコスト優位性の観点から、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
【0053】
本実施形態の樹脂シートは、少なくとも凹凸表面領域A’を除去することにより、製品化することができる。より具体的に、本実施形態の樹脂シートは、主凹凸表面領域以外の領域を除去し、必要に応じて枚葉化する(一定の大きさに裁断する)ことにより、製品化することができる。
本実施形態の樹脂シートは、例えば、プリズムシート、反射防止フィルム、細胞培養容器、建材フィルムなどに、好適に用いることができる。
【0054】
(樹脂シートの製造)
本実施形態の樹脂シートは、例えば、
図8に示す方法により製造することができる。
図8は、形状転写法を示す模式図である。
図8に示される形状転写装置300は、ロール状モールド100と、基材供給ロール31と、巻取ロール32と、ガイドロール33、34と、ニップロール35と、剥離ロール36と、塗布装置37と、光源38とを備える。そして、ロール状モールド100としては、上述した本発明のモールドを用いることができる。
【0055】
基材供給ロール31は、シート状の基材21がロール状に巻かれたロールであり、巻取ロール32は、凹凸構造が転写された樹脂シート200が積層された基材21を巻き取るロールである。また、ガイドロール33、34は、基材21を搬送するロールである。ニップロール35は、樹脂シート200が積層された基材21をロール状モールド100に対して密着させるロールであり、剥離ロール36は、凹凸構造が樹脂に転写された後、樹脂シート200が積層された基材21をモールド100から剥離するロールである。ここで、基材21は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)などのプラスチック製の基材とすることができる。
【0056】
塗布装置37は、コーターなどの塗布手段を備え、紫外線硬化性樹脂を含む樹脂組成物を基材21に塗布し、樹脂層25を形成する。塗布装置37は、例えば、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター又はダイコーターなどであってもよい。また、光源38は、紫外光を発する光源であり、例えば、紫外線ランプなどとすることができる。
【0057】
紫外線硬化性樹脂は、紫外線が照射されることにより流動性が低下し、硬化する樹脂であり、具体的には、アクリル系樹脂などが挙げられる。また、紫外線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、開始剤、フィラー、機能性添加剤、溶剤、無機材料、顔料、帯電防止剤又は増感色素などを含有していてもよい。
【0058】
形状転写装置300では、まず、基材供給ロール31からガイドロール33を介して、シート状の基材21が連続的に送出される。送出された基材21に対して、塗布装置37により紫外線硬化性樹脂組成物が塗布され、基材21に樹脂層25が積層される。また、樹脂層25が積層された基材21は、ニップロール35により、ロール状モールド100に密着する。これにより、モールド100の外周面に形成された凹凸構造が樹脂層25に転写される。凹凸構造が転写された後、樹脂層25は、光源38からの光の照射により硬化する。続いて、硬化した樹脂層25(即ち、樹脂シート200)が積層された基材21は、剥離ロール36によりモールド100から剥離され、ガイドロール34を介して、巻取ロール32によって巻き取られる。
このような形状転写装置300により、樹脂シート表面に凹凸構造を連続的に形成することができる。
【実施例】
【0059】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0060】
(ロール状モールドの作製)
<実施例1>
直径130mm、長さ560mmの円柱形状の母材(材質:S45C)を準備し、研削加工により当該母材の表面を平坦化した。次に、当該母材にニッケル−リンによるめっき処理を施すことで、母材表面上にめっき層を形成した。この母材表面(めっき層)に対し、R形状のダイヤモンドバイトを用いて切削加工し、更に平滑化し、表面を鏡面加工した。次いで、母材表面に対し、先端が矩形形状であるダイヤモンドバイトを用いて切削加工し、直線状に2方向に複数延びて交差する溝(深さ(
図2におけるh1に相当):25μm)を形成した。これにより、複数の四角柱状の凸部(密度:600個/mm
2)が表面に形成された。
【0061】
なお、交差する溝を形成する際、母材表面の円柱軸方向の両方の端部においては、回転/送り/切込の3軸制御により、溝底を端部側に向かって浅くなるように傾斜させた(傾斜角度θ:5°)。これにより、母材表面の円柱軸方向の両端部に、溝の最深部が相対的に浅い構造(堤防構造)を形成した。
【0062】
更に、上記堤防構造よりも更に端部側に、且つ上記堤防構造に隣接するようにして、幅5mm、深さ20μmのプール構造を形成した。このようにして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。なお、作製したモールドにおいて、堤防構造を有する凹凸表面領域及びプール構造を有する凹凸表面領域の合計面積(平面視)は、凹凸表面全体の2%程度であった。
【0063】
<実施例2,3>
実施例1において、直線状に2方向に複数延びて交差する溝の間隔を適宜調整し、凸部の密度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0064】
<実施例4>
実施例1において、プール構造を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0065】
<実施例5>
実施例2において、プール構造を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0066】
<比較例1>
実施例1において、堤防構造及びプール構造の両方とも形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0067】
<比較例2>
実施例2において、堤防構造及びプール構造の両方とも形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0068】
<比較例3>
実施例3において、堤防構造及びプール構造の両方とも形成しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0069】
<比較例4>
比較例1において、直線状に2方向に複数延びて交差する溝の間隔を適宜調整し、凸部の密度を表1に示すように変更したこと以外は、比較例1と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0070】
<比較例5,6>
比較例1において、直線状に2方向に複数延びて交差する溝の深さを表1に示すように変更するとともに、当該溝の間隔を適宜調整し、凸部の密度を表1に示すように変更したこと以外は、比較例1と同様にして、凹凸表面を有するロール状モールドを作製した。
【0071】
(樹脂シートの作製)
図8に示すような形状転写装置300を準備した。ロール状モールド100としては、各例において作製したロール状モールドを用いた。この形状転写装置300にて、シート状の基材21(PET製)に対し、紫外線硬化性樹脂を含む樹脂組成物を適量塗布した。次いで、塗布した樹脂組成物をニップロール35によりモールド100の凹凸表面に密着させ、モールド100の表面の凹凸構造を樹脂組成物に転写させるとともに、光源38としてのからの光の照射により、基材21上の樹脂組成物を硬化させた。硬化後、基材21を、剥離ロール36によりモールド100から剥離し、巻取ロール32によって巻き取った。このようにして、基材21上に転写物としての樹脂シートを作製した。
かかる樹脂シートの作製に際し、以下の評価を行った。
【0072】
(1)モールドへの樹脂充填性
基材上に塗布した樹脂組成物をモールドの凹凸表面に密着させた際、モールドの凸部間(溝)への樹脂組成物の充填状況を観察した。そして、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
◎:モールド表面に形成された溝の全てに、樹脂組成物が充填されている。
×:モールド表面に形成された溝のうち、樹脂組成物が充填されていない箇所が1箇所以上存在する。
【0073】
(2)モールドにおける樹脂詰まり
硬化後の基材をモールドから剥離した際、モールドの凹凸表面を観察した。そして、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
◎:モールドの凹凸表面に、樹脂組成物の詰まりが1箇所も存在しない。
○:モールドの凹凸表面に、樹脂組成物の詰まりが1箇所存在する。
×:モールドの凹凸表面に、樹脂組成物の詰まりが2箇所以上存在する。
【0074】
(3)モールドからの樹脂漏れ
硬化後の基材をモールドから剥離した際、モールドの端部における凹凸表面を観察した。そして、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
◎:モールドの端部における凹凸表面に、硬化樹脂が付着していない。
○:樹脂組成物の漏れに起因して、モールドの端部における凹凸表面に硬化樹脂が付着している(但し、付着幅は1mm以内であり、未硬化部分は存在しない)。
【0075】
(4)総合評価
上記(1)〜(3)の評価結果が全て◎である場合には、A評価とした。また、上記(1)及び(2)の評価結果が◎であり、上記(3)の評価結果が○である場合には、B評価とした。更に、上記(1)及び(2)の評価結果のうち少なくとも1つの評価結果が×である場合には、C評価とした。このようにして、各例において総合的な評価を行った。結果を表1に示す。
また、参考までに、実施例1の樹脂シートの表面の外観(SEM画像)を
図9Aに示し、比較例1の樹脂シートの表面の外観(SEM画像)を
図9Bに示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1より、実施例1−5では、モールドへの樹脂充填性が良好であったのに対し、比較例1−6では、モールドの端部において樹脂充填の不足が散見された。このことから、交差溝が形成されたモールド表面の一部について、溝の最深部を相対的に浅くする(モールド表面の一部に堤防構造を形成する)ことで、モールド表面の全ての溝にくまなく樹脂を充填できることが分かる。また、
図9A及び
図9Bより、実施例1の樹脂シートはエアーの混入が確認されなかったのに対し、比較例1の樹脂シートはエアーの混入が確認された。これは、比較例1における樹脂充填の不足に起因するものであると考えられる。
【0078】
また、表1の実施例1−3では、モールドからの樹脂漏れが発生しなかった一方で、実施例4−5では、モールドから若干の樹脂漏れが確認された。このことから、堤防構造に加え、樹脂をオーバーフローさせることが可能な構造をモールド表面に更に形成することで、モールドからの樹脂漏れをより効果的に抑制できることが分かる。
【0079】
なお、比較例1−6においては、モールドからの樹脂漏れが発生しなかった。これは、モールドの端部における樹脂の充填がそもそも十分でないためであると考察される。