【解決手段】本発明は、車両の前後方向に並び、かつ車両の前後方向で対面した状態となり、乗員α1、α2が車両の前後方向で対面して着座される第1シート3および第2シート5と、車両のフロア1に設けられ、車両の衝突時、車両のフロアから、対面した状態の第1シートと第2シートとの間へエアバッグ19を膨張展開させるエアバッグモジュール17とを備えた車両の乗員保護装置であって、エアバッグモジュールのエアバッグは、第1シートと第2シートとが対面した状態における衝突時、車両のフロアから着座した乗員の下肢部α1a,α2aまで膨張展開し、遅れて着座した乗員の上肢部α1b,α2bへと段階的に膨張展開されるものとした。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を
図1から
図4に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
図1は、車両、例えば自動車の車室内を示している。ちなみに自動車(車両)は、乗員の操作を必要とせずに運転が行える自動運転機能を有することを前提としている。
まず、
図1を参照して車室内の各部を説明すると、
図1中の符号1は車室内のフロア、3はフロア1の前部に配置されたフロントシート(本願の第1シートに相当)、5は同フロントシート3の後側(車両前後方向)に並んで配置されたリヤシート(本願の第2シートに相当)である。
【0012】
フロントシート3、リアシート5は、いずれもシートクッション7aの後部にシートバック7bを有したベンチシートから構成される。これら各シート3,5に乗員α1、α2が着座される。乗員α1は、フロントシート3エアバッグに着座する乗員を示し、乗員α2はリアシート5に着座する乗員を示す。
またフロントシート3は、シート下部に設けた反転機構9を介して、フロア1に据え付けられる。これにより、フロントシート3は、反転機構9から延びる操作レバー(操作部材:図示せず)を操作すると(手動)、シート中心を支点に回動して、
図1中の二点鎖線に示される前向きの姿勢から
図1中の実線に示される後向き姿勢に変えられる(反転)。
【0013】
つまり、
図1に示されるようにフロントシート3、リアシート5は、任意で車両前後方向で対面した状態にでき、乗員α1、α2の対面着座が可能となる。
なお、フロントシート3には、シートの向き、すなわちフロント各シートが前向き姿勢であるか後向き姿勢であるかを検出するシート向きセンサ11が設けられる。
ちなみに、図示はしないが、前向き姿勢におけるフロントシート3の前方には、助手席側、運転席側のエアバッグモジュールが格納されたインストルメントパネルやハンドルが設けられ、前向き姿勢でフロントシート3に着座した乗員に対する保護が行える。
【0014】
こうした自動車には、衝突時の衝撃から、対面したフロントシート3、リアシート5に着座した乗員α1,α2を保護する乗員保護装置15が設けられる。
この乗員保護装置15は、エアバッグモジュール17に格納されたエアバッグ19にて、衝突時、ここでは前突時、衝突初期から衝突後期まで、対面着座した乗員α1、α2を保護するものである。
【0015】
すなわち乗員保護装置15を説明すると、
図1〜
図4に示されるようにエアバッグモジュール17は、フロア1の下部、具体的にはフロントシート3とリアシート5間のフロア1下に格納される。
エアバッグモジュール17には、折畳まれたエアバッグ19や、同エアバッグ19へガスを送り込むインフレータ21が収容される。折畳まれたエアバッグ19は、衝突時、インフレータ21の発生するガスにより、
図2,3や
図4のようにフロア1に形成された扉部1aから、乗員α1、α2の下肢部α1a,α2aへ膨張展開し、遅れて乗員α1、α2の上肢部α1b,α2bへと段階的に膨張展開する。
【0016】
本実施形態においては、例えば
図4のように乗員α1、α2の上肢部α1b、α2b間へ膨張展開する一つの袋状のチャンバ部23(本願の第1チャンバ部に相当)と、チャンバ部23の展開具合を制御する展開機構部25とを用いて、チャンバ部23の膨張展開を衝突初期においては下肢部α1a、α2a間(例えば膝頭上側)までとし、衝突後期においては、遅れて上肢部α1b、α2b間(例えば胸部や頭部)まで行う。
【0017】
具体的にはチャンバ部23には、
図4中の実線のようなフロア1から上方の、乗員α1、α2の下肢部α1b、α2b間、上肢部α1b、α2b間へ壁状に膨張展開可能とした袋状部材が用いられる。袋状部材の上部は、
図2および
図3の破線に示されるように内側へ谷形に折込んである。符号23aは、その折込んだ上部部分を示す。
また展開機構部25は、
図2〜
図4に示されるように複数本のテザー部材27(紐部材:本願の第1テザー部材に相当)と、エアバッグモジュール17内に収容された刃物装置29(本願の刃物部に相当)とを有している。
【0018】
テザー部材27は、いずれも
図3のように一端部が上記折込んだ上部部分23aの先端部に固定され、他端部がチャンバ部23の基端側、例えばエアバッグモジュール17に固定されて、これら間に掛け渡されている。これらテザー部材27は、いずれも所定長さ、具体的にはチャンバ部23の膨張展開を、乗員α1、α2の下肢部分α1a,α2a(例えば膝頭上側)までに止める長さに設定されている。
【0019】
つまり、チャンバ部23の膨張展開は、テザー部材27の張状態が保ち続けられることで、下肢部分α1a,α2aまでに規制され、テザー部材27の張状態が解除、具体的には切断されると、上肢部分α1b,α2bまでとなる(規制解除)。
刃物装置29は、テザー部材27を切断可能とした電気制御式の刃物部(図示しない)を有し、上記下肢部α1a、α1bまでの膨張展開工程と、上記上肢部α1b、α1bまでの膨張展開工程とを切換可能としている。
【0020】
刃物装置29は、
図1に示されるように制御部31(例えばマイクロコンピュータにより構成)が接続されている。そして、制御部31にて刃物装置29を制御して、フロントシート3とリアシート5とが対面した状態で、衝突時(前突)、車体に所定以上の衝突力が加わる場合、衝突初期においては下肢部α1a,α2bまでの膨張展開が行われ、衝突後期においては上肢部α1b,α2bまでの膨張展開が行われるようにしている。
【0021】
具体的には制御部31には、
図1に示されるようにシート向きセンサ11、自動車の衝突(前突など)を検出する衝突センサ35が接続される。
制御部31は、衝突センサ35が所定以上の衝撃力を検出し、シート向きセンサ11が対面状態を検出していた場合、衝撃力の感知と同時に、インフレータ21を作動して、テザー部材27を掛け渡したままチャンバ部23を膨張展開させたり、衝撃力の感知から所定時間経過後、刃物装置29を作動させてチャンバ部23を最後まで膨張展開させる設定がなされている。
【0022】
つまり、チャンバ部23の膨張展開は、
図2および
図3に示されるように衝突初期においては、テザー部材27の張状態の継続により、下肢部α1a,α2aまでに規制され、
図4に示されるように衝突後期においては、テザー部材27による規制の解除により、上肢部α1b,α1bまで膨張展開へ進む。
つぎに、
図2〜
図4を参照して乗員保護装置15の作用について説明する。
【0023】
今、自動車が自動運転下での運転となり、乗員α1による操作を必要とせずに走行が行われたとする。
このとき、リラックスするため、フロントシート3を後向き姿勢にして、フロントシート3とリアシート5とを対面させた状態にし、これら各シート3,5に
図2のように乗員α1、α2が着座しているとする。
【0024】
こうした乗員α1、α2が対面着座しているシーンで、例えば前突(衝突)により、車体に所定以上の衝撃力Fが加わったとする。
すると、衝突センサ35は、加わる衝撃力を感知する。
ここで、制御部31は、シート向きセンサ11から検出信号(後向き)を受けて、既にフロントシート3とリアシート5とが対面した状態であることを検出している。
【0025】
これにより、制御部31は、前突とほぼ同時に、エアバッグモジュール17のインフレータ21を作動させる。この時点では、刃物装置29は非作動。
これによりチャンバ部23は、フロントシート3とリアシート5との間のフロア部分から、扉部1aを通じて上方へ膨張展開する。
つまり、
図2および
図3に示されるようにチャンバ部23は、対面した乗員α1、α2の下肢部α1a,α2a間を割り込むながら、
図3中の矢印のように上方へ壁状に膨張展開が進む。
【0026】
このときのチャンバ部23の膨張展開は、テザー部材27が張状態(緊張状態)となる位置、ここでは乗員α1、α2の膝頭上側までに抑えられる。つまり、衝突初期においては、チャンバ部23の膨張展開は、乗員α1、α2の膝頭の上側までとなる。
衝突初期においては、フロントシートα1に着座した乗員α1は、衝突方向である車両前方へ反り、リアシート5に着座した乗員α2は、前のめりとなり、乗員α2が乗員α1の下肢部α1a(膝頭)とぶつかるおそれがある。
【0027】
この衝突初期のときは、既に
図2および
図3に示されるように乗員α1,α2の下肢部α1a,α2a間に、膝頭上側までといった、中段まで膨張展開したチャンバ部23が所在している。
このため、たとえ衝撃力Fの影響で、
図3中の二点鎖線に示されるように乗員α2が、大きく前のめりになったとしても、乗員α2の上肢部α2bは、膨張展開したチャンバ部23で受け止められるので、乗員α1の下肢部α1aにぶつかるおそれはない。
【0028】
一方、衝突の反力から衝突後期は、
図4中の矢印に示されるようにフロントシート3に対面着座した乗員α1は、前のめりに転じる。リアシート5に対面着座した乗員α2は、前のめり姿勢のままである場合があるので、上肢部α1b,α2b同士がぶつかるおそれがある。
ここで、刃物装置29は、既に作動され、
図4に示されるようにテザー部材27を切断している。これにより、チャンバ部23の上部への規制が解除される。
【0029】
すると、折込まれていた上部部分23aへガスが流入され、チャンバ部23の上部は、更に
図4に示されるように乗員α1、α2の下肢部α1a、α2aから上方に伸びて上肢部α1b、α2b間へ壁状に膨張展開される。
つまり、衝突後期においては、既に
図2中の二点鎖線、
図4中の実線に示されるように乗員α1の上肢部α1bと、乗員α2の上肢部α2b間に、膨張展開したチャンバ部23が所在する。
【0030】
このため、たとえ
図4に示されるように衝突の反力により、乗員α1,α2同士が、前のめりになったとしても乗員α1,α2の上肢部α1b,α2b(胸部や頭部)は、膨張展開したチャンバ部23で受け止められるので、乗員α1,α2の上肢部α1b,α2b同士(頭部など)がぶつかるおそれはない。
したがって、チャンバ部23を乗員α1,α2の下肢部α1a,α2aから、上肢部α1b,α2bへと段階的に膨張展開させることにより、衝突初期の挙動がもたらす乗員α1,α2同士の干渉、その後の衝突後期の挙動がもたらす乗員α1,α2同士の干渉を防ぐことができる。
【0031】
それ故、車両の衝突時、衝突初期から衝突後期まで、対面着座した乗員α1,α2を保護することができ、乗員α1,α2の安全性の向上を十分に図ることができる。同作用効果は、後突のときも同様である。
しかも、チャンバ部23の段階的な膨張展開は、乗員α1,α2の上肢部α1b,α2bまで膨張展開可能とした袋状部材を、衝突初期は乗員α1,α2の下肢部α1a,α2aまでとし、衝突後期は乗員α1,α2の上肢部α1b,α2bまでとしたので、一つの袋状部材を用いた簡単な構造ですむ。
【0032】
特に、チャンバ部23に段階的な膨張展開の切換えには、テザー部材27の張状態により規制したり、同テザー部材27の切断により規制を解除したりする構造(展開機構部25)を用いたので、簡単な構造ですむ。
図5〜
図7は、本発明の第2の実施形態を示す。
本実施形態は、エアバッグモジュール17のエアバッグ19を二つのチャンバ部41,45(本願の第2チャンバ部、第3チャンバ部に相当)から構成し、同チャンバ部41,45に弁構造51を組み合わせて、エアバッグ19を段階的に膨張展開させるものである。
【0033】
すなわち、
図5(a)に示されるようにチャンバ部41は、フロア1から、対面着座した乗員α1、α2の下肢部α1a,α2a(膝頭上側)へ壁状に膨張展開可能とした袋状部材から構成される。むろんチャンバ部41は、エアバッグモジュール17に折畳んで格納される。
図7に示されるようにチャンバ部45は、チャンバ部41の上部に接続され、チャンバ部41から乗員α1、α2の上肢部α1b,α2bへ壁状に膨張展開可能とした袋状部材から構成される。ちなみに、折畳められたチャンバ部45は、チャンバ部41の上部に配置される。
【0034】
また弁構造51は、
図5(a)〜(c)に示されるようにチャンバ部41とチャンバ部45との間の接続部をなす壁部43を連通させるベント口53と同ベント口53を開閉可能とした巾着形の絞り部54とを有した弁部52と、同弁部52を開閉制御する複数本のテザー部材57a,57b(紐部材:本願の第2テザー部材、第3テザー部材に相当)を組合わせた弁開閉機構部55とを有して構成される。
【0035】
すなわち、弁開閉機構部55のテザー部材57aは、
図5(a)に示されるように伸縮可能な筒部材58に収められて、チャンバ部41内に組み込まれる。詳しくはテザー部材57aおよび筒部材58は、チャンバ部41の内面において、フロントシート3側(第1シート側)に配置される内面部分(側部)とリアシート5側(第2シート側)に配置される内面部分(側部)との間を掛け渡たすように固定される。
【0036】
また筒部材58の下部からは、チャンバ部41の基部側に固定される紐状のアンカ部材58aが延びていて、膝頭の下側といった定位置でテザー部材57aおよび筒部材58が水平方向に配置される構造としている。
テザー部材57aおよび筒部材58は、所定長さ、例えば乗員α1、α2の下肢部分α1a、α2b間の距離に基づき長さに設定され、チャンバ部41が膨張展開するにしたがい緊張、すなわち張状態となる。
【0037】
またテザー部材57bは、一端部が絞り部54(弁部52)に接続され、他端部がテザー部材57aの中間部に接続される。この接続にて、テザー部材57bを絞り部54とテザー部材57aの中間部との間に掛け渡している。テザー部材57bの長さは、テザー部材57aが張状態のときは、絞り部54(弁部52)の閉状態が保てる長さに設定される。これにより、
図5(b)に示されるようにチャンバ部41の膨張展開が始まるにしたがい、絞り部54(弁部52)は閉状態となる。つまり、衝突初期にはチャンバ部41の膨張展開が行われる。
【0038】
閉状態の絞り部54(弁部52)は、対面着座した乗員α1、α2の衝突中期〜衝突後期における挙動を受けて開状態に転じる。
すなわち、衝突中期〜衝突後期において、対面着座した乗員α1は、前のめりに転じる。リアシート5に対面着座した乗員α2は、前のめり姿勢のままである場合がある。
このときのチャンバ部41が挟み込まれるという挙動により(
図6中に矢印で図示)、テザー部材57aには、
図6中の矢印のようにテザー部材57aの張状態が弛む方向へ外力が加わる。すると、テザー部材57aは弛み、その分、テザー部材57bは上方へ変位する。つまり、テザー部材57bは弛緩される。
【0039】
すると、
図5(c)に示されるように絞り部54は、テザー部材57bの弛みにより、開状態となり(弁部の開状態)、ベント口53を通じて、チャンバ部45内へガスが送り込まれる。これにより、チャンバ部45は、チャンバ部41の膨張展開から遅れて膨張展開される。
これにより、
図7に示されるようにチャンバ部45は、衝突後期においては乗員α1、α2の上肢部α1b、α2b間へ膨張展開される。
【0040】
なお、
図4〜
図7において、第1の実施形態同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略した。
こうした二つのチャンバ部41,45を用いて、乗員α1,α2の下肢部α1a、α2a、上肢部α1b、α2bへと段階的に膨張展開させる構造でも、第1の実施形態と同様、衝突初期の挙動がもたらす乗員α1,α2同士の干渉、衝突後期の挙動がもたらす乗員α1,α2同士の干渉を防ぐことができる。
【0041】
しかも、チャンバ部41,45の連通制御は、弁部52と弁開閉機構部55とを組合わせて行うので、簡単な構造ですむ。特に弁開閉機構部55は、T形に組合わせたテザー部材57a,57bを用い、衝突中期〜衝突後期における乗員α1、α2の挙動でチャンバ部41(膨張展開済)が衝突方向から挟み込まれるにしたがい、遅れてチャンバ部45を膨張展開させる構造としたので、より安価な構造で、衝突後期にチャンバ部45を膨張展開させることができる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば上述した実施形態では、車両前後方向に並ぶ2列シートにおける対面着座を例に挙げて説明したが、これに限らず、3列以上のシートにおける対面着座の場合にも適用してもよいことはいうまでもない。