【解決手段】適応フィルタ(1111-1113)は、スピーカ12からキャンセル音を出力し、セレクタ1116は、異なる位置に各々対応する複数の補助フィルタ1115の出力を選択し、減算器1114は選択された出力をマイク13の出力から減算してエラー信号として適応フィルタに出力し、位置検出装置14は、ユーザの頭部の位置を検出する。補助フィルタ1115には対応する位置で騒音がキャセンセルされたときにエラー信号が0となると推定された伝達関数を予め設定する。切替制御部112は、ユーザの頭部に近い位置に対応する補助フィルタ1115が変化したときに、当該補助フィルタ1115の出力がセレクタ1116で選択される頻度を段階的に増加100%まで漸増させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した補助フィルタを用いてマイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルする技術を用いてユーザに聞こえる騒音をキャンセルする場合、ユーザの変位に伴って、ユーザの頭部が騒音キャンセル位置からずれてしまうと、ユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルできなくなる場合がある。
【0007】
そこで、異なる複数の騒音キャンセル位置について補助フィルタの伝達関数を学習しておき、ユーザの頭部の変位に伴って、補助フィルタの伝達関数を、ユーザの頭部の位置に対応する騒音キャンセル位置について学習した伝達関数に切り替えることにより、ユーザの頭部の変位によらずにユーザに聞こえる騒音をキャンセルすることが考えられる。
【0008】
しかし、このようにすると、補助フィルタの伝達関数の切り替え時に、適応フィルタが発散したり、騒音キャンセル音にノイズが発生するなどの支障が生じることがある。
【0009】
そこで、本発明は、騒音をキャンセルすべき対象の変位に応じて、変位後の位置において騒音をキャンセルするように特性を支障なく切り替える能動型騒音制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、対象体に聞こえる騒音を低減する能動型騒音制御システムとして、マイクと、騒音を表す騒音信号を入力とする適応フィルタと、適応フィルタの出力を騒音キャンセル音として出力するスピーカと、前記騒音信号を入力とする、各々異なる複数の位置に対応して設けられた複数の補助フィルタと、前記マイクの出力であるマイク出力信号を、いずれかの補助フィルタの出力を用いて補正しエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段と、対象体の位置を検出する位置検出手段と、位置検出手段が検出した対象体の位置に前記対応する位置が整合する補助フィルタが変化したときに、当該対応する位置が対象体の位置に整合する補助フィルタを切替後補助フィルタとして、前記エラー補正手段を制御して、前記エラー補正手段から前記エラー信号として出力される信号を、前記マイク出力信号を前記切替後補助フィルタの出力を用いて補正した信号に切り替える切替動作を行う切替制御手段とを備えたものである。ここで、前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号が表すエラー用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新する。また、前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、騒音キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記エラー信号が表すエラーが0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されている。そして、前記切替制御手段は、当該切替動作前に前記マイク出力信号の補正に出力を用いていた補助フィルタを切替前補助フィルタとして、前記切替動作において、前記マイク出力信号を前記切替前補助フィルタの出力を用いて補正した信号が前記エラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に0%まで減少し、当該減少分、前記マイク出力信号を前記切替後補助フィルタの出力を用いて補正した信号が前記エラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に100%まで増加する。
【0011】
このような能動型騒音制御システムによれば、対象体の位置の変化に応じて、適応フィルタに入力するエラー信号の生成に用いる補助フィルタを、対象体の位置に整合する位置で騒音を良好にキャンセルできる補助フィルタである切替後補助フィルタに切り替えることができるので、対象体の変位によらずに対象体に聞こえる騒音を良好にキャンセルすることができる。
【0012】
また、この切り替えを、切替前の補助フィルタを用いて生成した信号がエラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に小さくしていきながら、切替後補助フィルタを用いて生成した信号がエラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に大きくしていくことにより行うので、適応フィルタの発散や、騒音キャンセル音のノイズの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、対象体に聞こえる騒音を低減する能動型騒音制御システムに、マイクと、騒音を表す騒音信号を入力とする適応フィルタと、適応フィルタの出力を騒音キャンセル音として出力するスピーカと、前記騒音信号を入力とする、各々異なる複数の位置に対応して設けられた複数の補助フィルタと、前記マイクの出力であるマイク出力信号を、いずれかの補助フィルタの出力を用いて補正しエラー信号として前記適応フィルタに出力するエラー補正手段と、対象体の位置を検出する位置検出手段と、位置検出手段が検出した前記対象体の位置が変化したときに、二つの補助フィルタであって、当該二つの補助フィルタに対応する二つの位置の間が、当該対象体の位置となる二つの補助フィルタを、第1混合対象補助フィルタと第2混合対象補助フィルタとして、前記エラー補正手段から前記エラー信号として、前記マイク出力信号を第1混合対象補助フィルタの出力を用いて補正した信号と、前記マイク出力信号を第2混合対象補助フィルタの出力を用いて補正した信号とが、前記第1混合対象補助フィルタに対応する位置と前記対象体の位置との距離と前記第2混合対象補助フィルタに対応する位置と前記対象体の位置との距離との比に応じて定まる比率である切替後比率で出力されるように、前記エラー補正手段を制御する切替制御手段とを備えたものである。ここで、前記適応フィルタは、前記エラー補正手段から入力するエラー信号が表すエラー用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新する。また、前記複数の補助フィルタには、対応する位置において、前記騒音キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、前記エラー信号が表すエラーが0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されている。
【0014】
このような能動型騒音制御システムによれば、対象体の位置が、当該位置において騒音を良好にキャンセルできる補助フィルタが用意されていない位置であっても、騒音を良好にキャンセルできる位置の間の位置が対象体の位置となる二つの補助フィルタを用いて、対象体に聞こえる騒音をキャンセルすることができるようになる。
【0015】
ここで、このような能動型騒音制御システムは、前記切替制御手段において、前記切替動作において、前記エラー補正手段から前記エラー信号として出力される、前記マイク出力信号を第1混合対象補助フィルタの出力を用いて補正した信号と、前記マイク出力信号を第2混合対象補助フィルタの出力を用いて補正した信号との比率を、徐々にまたは段階的に前記切替後比率まで変化させるように構成してもよい。
【0016】
ここで、このような能動型騒音制御システムは、前記対象体を、所定の範囲内において変位可能な座席に着座したユーザの頭部とし、前記変位範囲内の異なる複数の前記座席の位置について求めた、当該位置にある座席に着座した人体の頭部が標準的に位置する位置の各々が、前記複数の補助フィルタのそれぞれに対応する位置としてもよい。
【0017】
また、本発明は、併せて、前記マイクと、前記適応フィルタと、前記スピーカと、前記複数の補助フィルタと、前記エラー補正手段とを備えた系統を第1系統と第2系統との二つの系統備えた能動型騒音制御システムも提供する。ここで、前記第1系統の複数の補助フィルタと前記第2系統の複数の補助フィルタは1対1に対応づけられており、対応づけられた前記第1系統の補助フィルタに対応する位置と前記第2系統の補助フィルタに対応する位置関係は、前記対象体に対して固定された所定の2つの位置の位置関係に一致もしくは近似している。また、前記第1系統の前記適応フィルタと第2系統の前記適応フィルタは、当該第1系統の前記エラー補正手段が出力するエラー信号と、前記第2系統の前記エラー補正手段が出力するエラー信号を用いて、所定の適応アルゴリズムを実行して当該適応フィルタの伝達関数を更新する。そして、前記第1系統の前記複数の補助フィルタと前記第2系統の前記複数の補助フィルタには、当該補助フィルタに対応する位置と当該補助フィルタに対応する補助フィルタに対応する位置において、前記第1系統のスピーカと前記第2系統のスピーカが出力する騒音キャンセル音によって騒音がキャンセルされたときに、当該第1系統の前記エラー補正手段が出力するエラー信号と、前記第2系統の前記エラー補正手段が出力するエラー信号とが0となる伝達関数として学習した伝達関数が予め設定されている。
【0018】
ここで、このような能動型騒音制御システムにおいては、前記対象体を、所定の範囲内において変位可能な座席に着座したユーザの頭部とし、前記変位範囲内の異なる複数の前記座席の位置について求めた、当該位置にある座席に着座した人体の左耳が標準的に位置する位置の各々を、前記第1系統の複数の補助フィルタのそれぞれに対応する位置とし、当該位置にある座席に着座した人体の右耳が標準的に位置する位置の各々を、前記第2系統の複数の補助フィルタのそれぞれに対応する位置とし、前記対応づけられた前記第1系統の複数の補助フィルタと前記第2系統の複数の補助フィルタを、同じ座席の位置について対応する位置を求めた前記第1系統の複数の補助フィルタと前記第2系統の複数の補助フィルタとしてもよい。
【0019】
また、以上の能動型騒音制御システムにおける、前記所定の座席は、自動車の座席であってよい。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、騒音をキャンセルすべき対象の変位に応じて、変位後の位置において騒音をキャンセルするように特性を支障なく切り替える能動型騒音制御システムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る能動型騒音制御システムの構成を示す。
図示するように能動型騒音制御システム1は、騒音制御装置11、スピーカ12、マイク13、位置検出装置14を備えている。
そして、能動型騒音制御システム1は、自動車に搭載されるシステムであり、自動車に搭乗したユーザの頭部の位置をキャンセルポイントとして、騒音源2の発生する騒音をキャンセルポイントにおいてキャンセルするシステムである。
【0023】
また、
図2に示すように、スピーカ12とマイク13は、たとえば、自動車車内の騒音キャンセルの対象とするユーザが着座する座席である対象座席(図では右前席)の前方の天井に配置される。
【0024】
また、位置検出装置14は、ユーザの頭部の位置を検出する装置であり、
図2に示す対象座席の前方に設けた対象座席周辺を撮影するカメラ141や、対象座席のシートの前後方向の位置やバックレストの傾きを検出するセンサ(図示を省略)を備え、カメラ141で撮影した画像や、センサで検出した対象座席のシートの位置やバックレストの傾きから、ユーザの頭部の位置を検出する。
【0025】
図1に戻り、能動型騒音制御システム1の騒音制御装置11は、騒音源2の発生する騒音を表す騒音信号x(n)と、マイク13でピックアップした音声信号であるマイクエラー信号err(n)を用いて、キャンセルポイントにおいて騒音源2の発生する騒音をキャンセルするキャンセル信号CA(n)を生成しスピーカ12から出力する。
【0026】
次に、
図3に、能動型騒音制御システム1の騒音制御装置11の構成を示す。
図示するように、騒音制御装置11は、信号処理部111と、切替制御部112とを備えている。
信号処理部111は、可変フィルタ1111、適応アルゴリズム実行部1112、予め伝達関数S^(z)が設定された推定フィルタ1113、減算器1114、各々予め伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)が設定された3つの補助フィルタ1115、切替制御部112の制御に従って3つの補助フィルタ1115の出力のうちの一つの出力を選択して出力するセレクタ1116とを備えている。
【0027】
このような信号処理部111の構成において、入力した騒音信号x(n)は、可変フィルタ1111を通ってキャンセル信号CA(n)としてスピーカ12に出力される。
また、入力した騒音信号x(n)は3つの補助フィルタ1115をそれぞれ通ってセレクタ1116に送られ、セレクタ1116は、切替制御部112の制御に従って3つの補助フィルタ1115の出力のうちの一つの出力を選択して減算器1114に送る。減算器1114は、マイク13でピックアップしたマイクエラー信号err(n)からセレクタ1116の出力を減算して補正し、エラーとして、適応アルゴリズム実行部1112に出力する。
【0028】
次に、可変フィルタ1111と適応アルゴリズム実行部1112と推定フィルタ1113はFiltered-X適応フィルタを構成している。推定フィルタ1113には、信号処理部111からマイク13までの伝達関数S(z)を実測等により推定した推定伝達特性S^(z)が予め設定されており、推定フィルタ1113は、伝達特性S^(z)を入力した騒音信号x(n)に畳み込んで、適応アルゴリズム実行部1112に出力する。
【0029】
そして、適応アルゴリズム実行部1112は、推定フィルタ1113で伝達関数S^(z)が畳み込まれた騒音信号x(n)と、減算器1114から出力されるエラーとを入力として、NLMSによる適応アルゴリズムを実行し、エラーが0となるように可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を更新する。
【0030】
次に、信号処理部111の各補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)は、それぞれについて、予め第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を行うことにより設定する。
【0031】
ここで、3つの補助フィルタ1115の伝達関数H1(z)、H2(z)、H3(z)は、それぞれ異なるキャンセルポイントに対応している。
すなわち、伝達関数H1(z)は、
図4aに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置よりも距離D前方の位置に設定されているときのユーザの頭部の標準的な位置であるキャンセルポイントP1に対応しており、伝達関数H2(z)は、
図4bに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置に設定されているときのユーザの頭部の標準的な位置であるキャンセルポイントP2に対応しており、伝達関数H2(z)は、
図4cに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置よりも距離D後方の位置に設定されているときのユーザの頭部の標準的な位置であるキャンセルポイントP3に対応している。
【0032】
さて、第1段階の学習処理は、第1信号処理部を
図5aに示す第1段階学習処理部50に、マイク13を学習用マイク41に置き換えた構成において行う。
iを1、2、3のうちの任意の数として、伝達関数Hi(z)を学習する際には、学習用マイク41は、
図4a、b、cに示すように、キャンセルポイントPiに配置する。すなわち、伝達関数H1(z)を学習するときには、
図4aに示すようにキャンセルポイントP1に学習用マイク41を配置し、伝達関数H2(z)を学習するときには、
図4bに示すようにキャンセルポイントP2に学習用マイク41を配置し、伝達関数H3(z)を学習するときには、
図4cに示すようにのキャンセルポイントP3に学習用マイク41を配置する。
【0033】
図5aに示す第1段階学習処理部50は、
図3に示した信号処理部111から、3つの補助フィルタ1115とセレクタ1116と減算器1114を排して、推定フィルタ1113を伝達関数S
v^(z)が設定された第1段階学習用推定フィルタ501に置換し、学習用マイク41の出力をエラーとして適応アルゴリズム実行部1112に入力した構成を備えている。ただし、伝達関数S
v^(z)は、第1段階学習処理部50から学習用マイク41までの伝達関数を表す。
【0034】
そして、このような構成において、適応アルゴリズム実行部1112による適応動作によって可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数W(z)を第1段階の学習処理の結果として得る。
【0035】
次に、第2段階の学習処理は、
図3の信号処理部111を
図5bに示す第2段階学習処理部51に置き換えた構成において設定する。
図5bに示す第2段階学習処理部51は、第1段階の学習処理の結果として得た伝達関数W(z)を伝達関数として設定した第2段階学習用固定フィルタ511と、第2段階学習用可変フィルタ512と、第2段階学習用適応アルゴリズム実行部513と、第2段階学習用減算器514を備えている。
【0036】
第2段階学習処理部51に入力した騒音信号x(n)は、第2段階学習用固定フィルタ511を通ってスピーカ12に出力される。
また、入力した騒音信号x(n)は第2段階学習用可変フィルタ512を通って第2段階学習用減算器514に送られ、第2段階学習用減算器514はマイク13でピックアップした信号から第2段階学習用可変フィルタ512の出力を減算し、エラーとして、第2段階学習用適応アルゴリズム実行部513に出力する。
【0037】
そして、このような構成において、第2段階学習用適応アルゴリズム実行部513による適応動作によって第2段階学習用可変フィルタ512の伝達関数H(z)を収束安定させ、収束安定した伝達関数H(z)をi番目の補助フィルタ1115の伝達関数Hi(z)として学習する。
【0038】
次に、
図3の騒音制御装置11の切替制御部112が行う切り替え動作について説明する。
切替制御部112は、位置検出装置14が検出した対象座席のユーザの頭部の位置に応じて、セレクタ1116で出力を選択して減算器1114に送る補助フィルタ1115を切り替える。
【0039】
この切り替えは、
図4a、b、cのキャンセルポイントP1、P2、P3のうちの、位置検出装置14が検出した頭部の位置に最も近いキャンセルポインを算定し、算定したキャンセルポイントが変化したときに、セレクタ1116に、算定したキャンセルポイントPxに対応する伝達関数Hx(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせることにより行う。
【0040】
すなわち、
図4a、b、cのキャンセルポイントP1、P2、P3のうちキャンセルポイントP1が、位置検出装置14が検出した頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせ、キャンセルポイントP2が、位置検出装置14が検出した頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせ、キャンセルポイントP3が、位置検出装置14が検出した頭部の位置に最も近い場合には、セレクタ1116に、伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力に減算器1114に送る出力を切り替えさせる。
【0041】
また、この切り替えは、セレクタ1116が減算器1114に送る出力が、切り替え前の出力から切り替え後の出力に段階的に変化するように行う。
すなわち、たとえば、セレクタ1116が減算器1114に送る切り替え前の出力が、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力であり、切り替え後の出力が、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力であれば、
図6aに示すように、予め設定しておいた伝達関数H1(z)から伝達関数H2(z)への遷移時間長T(H1-H2)の間に、減算器1114に入力する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H1が100%から0%まで段階的に減少すると共に、減算器1114に入力する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H2が0%から100%までR_H1+R_H2=100%を満たしながら段階的に増加し、T(H1-H2)の経過後は、比率R_H2が100%を維持するように行う。なお、
図6aでは、一定の時間間隔で、比率R_H1を100%から0%まで10%ずつ減少させ、比率R_H2を0%から100%まで10%ずつ増加させている。
【0042】
ここで、減算器1114に入力する補助フィルタ1115の出力の比率は、セレクタ1116の切り替え前後の補助フィルタ1115の出力の選択頻度を制御することにより行う。
すなわち、たとえば、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力を80%、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力を20%とするのであれば、セレクタ1116に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力値を8回選択した後に、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力値を2回選択することを繰り返させる。同様に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力を50%、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力を50%とするのであれば、セレクタ1116に、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力値の選択と、伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力値の選択を交互に行わせる。
【0043】
また、以上のような段階的な切替を行う遷移時間長は、切替前後の補助フィルタ1115に設定されている伝達関数Hj(z)、Hk(z)に対応するキャンセルポイントPj、Pk間の距離が大きくなるほど大きくなるように設定するようにしてもよい。すなわち、たとえば、
図4のキャンセルポイントP1とP2間の距離や、キャンセルポイントP2とP3間の距離よりも、キャンセルポイントP1とP3間の距離が大きいので、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力と伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力との間の切り替え時の遷移時間長を、他の伝達関数が設定されている補助フィルタ1115の出力間の切り替え時の遷移時間長よりも大きくするようにしてよい。
【0044】
また、セレクタ1116が減算器1114に送る出力の、切り替え前の出力と切り替え後の出力の比率を変化させる段階数は、任意であってよく、たとえば、
図6bに、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力から伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力への切り替えの場合について示すように、T(H1-H2)の間に、減算器1114に入力する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H1を100%、50%、0%と減少させ、減算器1114に入力する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H2を0%、50%、100%と増加させるようにしてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように本実施形態によれば、ユーザの頭部の位置の変化に応じて、適応フィルタに入力するエラー信号の生成に用いる補助フィルタ1115を、ユーザの頭部の位置に近いキャンセルポイントで騒音を良好にキャンセルできる補助フィルタ1115に切り替えることができるので、ユーザの頭部の変位によらずにユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルすることができる。
【0046】
また、この切り替えを、切替前の補助フィルタ1115を用いて生成した信号がエラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に小さくしていきながら、切替後の補助フィルタ1115を用いて生成した信号がエラー信号として出力される比率を徐々にもしくは段階的に大きくしていくことにより行うので、適応フィルタの発散や、騒音キャンセル音のノイズの発生を抑制することができる。
【0047】
ところで、以上の実施形態においては、伝達関数H1(z)に対応するキャンセルポイントP1と伝達関数H3(z)に対応するキャンセルポイントP3の間に、伝達関数H2(z)に対応するキャンセルポイントP2が存在し、伝達関数H2(z)は伝達関数H1(z)と伝達関数H3(z)の中間的な値となっていることが期待できるので、以上の実施形態における、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力と伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力との間の切り替えは、伝達関数H2(z)を経由して行うようにしてもよい。
【0048】
すなわち、たとえば、伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力から、伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力への切替の場合には、
図7aまたは
図7bに示すように、予め設定しておいた伝達関数H1(z)から伝達関数H3(z)への遷移時間長T(H1-H3)の間に、減算器1114に入力する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H1が100%から0%まで段階的に減少すると共に、減算器1114に入力する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H2が0%から100%までR_H1+R_H2=100%を満たしながら段階的に増加し、その後、減算器1114に入力する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H2が100%から0%まで段階的に減少すると共に、減算器1114に入力する伝達関数H3(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H3が0%から100%までR_H2+R_H3=100%を満たしながら段階的に増加し、T(H1-H3)の経過後は、R_H3が100%を維持するように、セレクタ1116に出力の切り替えを行わせてもよい。
【0049】
また、以上の実施形態は、位置検出装置14が検出した頭部の位置が、
図4a、b、cのキャンセルポイントP1とP2の間や、キャンセルポイントP2とP3の間にあるときには、セレクタ1116において、位置検出装置14が検出した頭部の位置に隣接する二つのキャンセルポイントに対応する二つの補助フィルタ1115の出力を、対応するキャンセルポイントと位置検出装置14が検出した頭部の位置との間の距離の逆数の比率で減算器1114に出力することにより、二つの補助フィルタ1115とセレクタ1116を用いて、位置検出装置14が検出した頭部の位置に学習用マイク41を配置して学習した場合に得られる伝達関数を模擬する仮想の補助フィルタ1115を構成するようにしてもよい。
【0050】
すなわち、たとえば、
図8aに示すように、位置検出装置14が検出した頭部の位置Prが、キャンセルポイントP1とP2の間にあり、位置PrからキャンセルポイントP1までの距離と、位置PrからキャンセルポイントP2までの距離の比が70:30である場合には、減算器1114に入力するキャンセルポイントP1に対応する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力と、減算器1114に入力するキャンセルポイントP2に対応する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力との比率が、距離の比70:30の逆数の比となる30:70となる状態を切り替え後の状態とする。そして、位置検出装置14が検出した頭部の位置がキャンセルポイントP1の位置から位置Prに変化した場合について、
図8b1または
図8b2に示したように、切替制御部112において、減算器1114に入力する伝達関数H1(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H1が100%から30%まで段階的に減少すると共に、減算器1114に入力する伝達関数H2(z)が設定されている補助フィルタ1115の出力の比率R_H2が0%から70%までR_H1+R_H2=100%を満たしながら段階的に増加し、その後、比率R_H2が70%を維持するように、セレクタ1116に出力の切り替えを行わせる。
【0051】
このようにすることにより、ユーザの頭部の位置が、当該位置を対応するキャンセルポイントとする補助フィルタ1115が用意されていない位置であっても、対応するキャンセルポイントの間の位置が頭部の位置となる二つの補助フィルタ1115を用いて、ユーザに聞こえる騒音を良好にキャンセルすることができる。
【0052】
また、以上の実施形態では、自動車の一つの座席のユーザに対して騒音のキャンセルを行う場合について説明したが、これは、
図9aに示すように、自動車の各席毎に、スピーカ12、マイク13、位置検出装置14のカメラ141とセンサを設けて、各席のユーザに対して騒音のキャンセルを行うようにしてもよい。
【0053】
また、以上の実施形態では、スピーカ12、マイク13を対象座席前方の天井に設けたが、スピーカ12、マイク13の位置は、他の位置であってよい。すなわち、たとえば、
図9bに示すようにスピーカ12、マイク13を対象座席に固定して設けるようにしてもよい。
【0054】
また、以上の実施形態において、能動型騒音制御システム1に入力する騒音信号x(n)は、騒音源が出力するオーディオ信号や、騒音源の騒音を別途設けた騒音マイクでピックアップした音声信号や、別途設けた模擬音生成装置で生成した騒音源の騒音を模擬する信号であってもよい。
【0055】
すなわち、たとえば、エンジンを騒音源とする場合には、別途騒音マイクでピックアップしたエンジン音を騒音信号x(n)としたり、別途設けた模擬音生成装置で生成したエンジン音を模擬した模擬音を騒音信号x(n)とするようにしてよい。
【0056】
また、以上の実施形態は、対象座席の左耳と右耳に対応する位置を二つのキャンセルポイントして、各キャンセルポイントの騒音のキャンセルを行うように拡張してもよい。
【0057】
すなわち、この場合には、
図10aや
図10bのように、主として左耳の騒音キャンセル用の左スピーカ61と左マイク62のセットと、主として右耳の騒音キャンセル用の右スピーカ63と右マイク64のセットとを設ける。
そして、騒音制御装置11には、信号処理部111に代えて、
図11に示す左信号処理部65と右信号処理部66とを設ける。
左信号処理部65の構成は、
図3に示した信号処理部111の構成と、ほぼ同様であるが、左信号処理部65にはスピーカ12に代えて左スピーカ61を接続し、マイク13に代えて左マイク62を接続する。
【0058】
また、推定フィルタ1113に代えて、騒音信号x(n)を入力とし出力を適応アルゴリズム実行部1112に送る、左信号処理部65から左マイク62までの伝達関数S
11(z)の推定伝達特性S
11^(z)を設定した左第1推定フィルタ651と、左信号処理部65から右マイク64までの伝達関数S
21(z)の推定伝達特性S
21^(z)を設定した左第2推定フィルタ652を設ける。また、減算器1114から出力されるエラーe1と、右信号処理部66の減算器1114から出力されるエラーe2とを適応アルゴリズム実行部1112に入力し、適応アルゴリズム実行部1112において、エラーe1、エラーe2が0となるように可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を更新する。
【0059】
また、右信号処理部66の構成も、
図3に示した信号処理部111の構成と、ほぼ同様であるが、左信号処理部65にはスピーカ12に代えて右スピーカ63を接続し、マイク13に代えて右マイク64を接続する。また、推定フィルタ1113に代えて、騒音信号x(n)を入力とし出力を適応アルゴリズム実行部1112に送る、右信号処理部66から右マイク64までの伝達関数S
22(z)の推定伝達特性S
22^(z)を設定した右第1推定フィルタ661と、右信号処理部66から左マイク62までの伝達関数S
12(z)の推定伝達特性S
12^(z)を設定した右第2推定フィルタ662を設ける。また、減算器1114から出力されるエラーe2と、右信号処理部66の減算器1114から出力されるエラーe1とを適応アルゴリズム実行部1112に入力し、適応アルゴリズム実行部1112において、エラーe1、エラーe2が0となるように可変フィルタ1111の伝達関数W(z)を更新する。
【0060】
そして、切替制御部112において、
図3に示した信号処理部111における場合と同様に、位置検出装置14が検出した対象座席のユーザの頭部の位置に応じて、左信号処理部65、右信号処理部66のセレクタ1116で出力を選択して減算器1114に送る補助フィルタ1115を切り替える。
【0061】
なお、左信号処理部65、右信号処理部66の各補助フィルタ1115の伝達関数の学習も、
図3に示した信号処理部111の各補助フィルタ1115と同様に、予め第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を行うことにより設定する。
【0062】
ただし、第1段階学習処理では、学習用マイク41に代えて左学習用マイクと右学習用マイクを用いて行う。そして、伝達関数H1(z)を学習するときには、
図4aに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置よりも距離D前方の位置に設定されているときのユーザの左耳の標準的な位置に左学習用マイクを、右耳の標準的な位置に右学習用マイクを配置し、伝達関数H2(z)を学習するときには、
図4bに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置に設定されているときのユーザの左耳の標準的な位置に左学習用マイクを、右耳の標準的な位置に右学習用マイクを配置し、伝達関数H3(z)を学習するときには、
図4cに示すように対象座席の位置が標準的な前後方向位置よりも距離D後方の位置に設定されているときのユーザの左耳の標準的な位置に左学習用マイクを、右耳の標準的な位置に右学習用マイクを配置する。
【0063】
そして、伝達関数Hi(z)を学習する際の、第1段階の学習処理では、左学習用マイクと右学習用のマイク13の出力が表す騒音がなくなる左信号処理部65と右信号処理部66の可変フィルタ1111の伝達関数を学習し、第2段階の学習処理では、左信号処理部65と右信号処理部66の可変フィルタ1111の伝達関数を第1段階の学習処理で学習した伝達関数に固定し、各補助フィルタ1115とセレクタ1116を学習用補助フィルタに置き換えた状態で求めた、左信号処理部65の減算器1114が出力するエラーe1と右信号処理部66の減算器1114が出力するエラーe2が0となる学習用補助フィルタの伝達関数を求め、伝達関数Hi(z)とする。
【0064】
また、以上の実施形態は、騒音源2が一つのみである場合について示したが、以上の実施形態は、騒音制御装置11の構成を各騒音源2の各キャンセルポイントへの伝搬を考慮するように拡張することにより、騒音源2が複数存在する場合にも適用可能である。
【0065】
なお、以上の信号処理部111、左信号処理部65、右信号処理部66では補助フィルタ1115の数を3つとしたが、補助フィルタ1115は2以上の任意の数設けるようにしてよい。