【解決手段】炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
前記無機鋳型材が、酸化亜鉛粒子、過酸化亜鉛粒子、酢酸亜鉛粒子、硝酸亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子、塩基性炭酸亜鉛粒子、リン酸亜鉛粒子、及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材である、請求項1に記載の製造方法。
さらに、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを混合して前記混合物を得る工程を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せずとも簡便且つ効率的に製造する方法を提供することを課題とする。好ましくは、高比表面積の多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せずとも簡便且つ効率的に製造することも可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を進めた結果、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. 炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法.
項2. 前記無機鋳型材が、酸化亜鉛粒子、過酸化亜鉛粒子、酢酸亜鉛粒子、硝酸亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子、塩基性炭酸亜鉛粒子、リン酸亜鉛粒子、及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材である、項1に記載の製造方法.
項3. 前記無機鋳型材が酸化亜鉛粒子である、項1又は2に記載の製造方法.
項4. 前記無機鋳型材の平均粒子径が10〜50nmである、項1〜3のいずれかに記載の製造方法.
項5. 前記炭素源が糖である、項1〜4のいずれかに記載の製造方法.
項6. 前記炭素源が単糖及びオリゴ糖からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の製造方法.
項7. 前記混合物中の前記炭素源の含有量が74v/v%以上である、項1〜6のいずれかに記載の製造方法.
項8. さらに、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを混合して前記混合物を得る工程を含む、項1〜7のいずれかに記載の製造方法.
項9. 前記加熱処理が、前記金属亜鉛の気体化温度域で加熱する工程を含む、項1〜8のいずれかに記載の製造方法.
項10. 前記加熱処理が、前記有機化合物の炭化温度域で加熱する工程、及び前記金属亜鉛の気体化温度域で加熱する工程を含む、項1〜9のいずれかに記載の製造方法.
項11. 前記加熱処理が、前記金属亜鉛の気体化温度まで昇温させる工程、及び前記金属亜鉛の気体化温度域で加熱する工程を含む、項1〜10のいずれかに記載の製造方法.
項12. 項1〜12のいずれかに記載の製造方法で得られた、多孔質炭素材料.
項13. BET比表面積が800m
2/g以上である、項12に記載の多孔質炭素材料.
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せずとも簡便且つ効率的に製造する方法を提供することができる。本発明の好ましい一態様においては、高比表面積の多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せずとも簡便且つ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本明細書中において、「及び/又は」なる表現については、「及び」と「又は」のいずれを選択した場合の意味も包含する。すなわち、「A及び/又はB」なる表現には、「A又はB」と「A及びB」のいずれの意味も包含される。
【0013】
本明細書中において、「気体化」は、液体から気体への変化(気化)と、固体から気体への変化(昇華)の両方を包含する用語である。
【0014】
1.多孔質炭素材料の製造方法
本発明は、その一態様において、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0015】
炭素源である有機化合物としては、加熱によって炭化して炭素材料に変換し得る化合物である限り、特に制限されない。炭素源としては、例えば糖、高分子化合物、炭化水素化合物等が挙げられる。
【0016】
糖としては、例えば単糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられる。
【0017】
単糖としては、例えば、七炭糖、六炭糖、五炭糖、四炭糖、又は三炭糖等が挙げられ、これらの中でも六炭糖が好ましく挙げられる。六炭糖としては、ガラクトース、グルコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、マンノース、フルクトース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、イドース、プシコース、ソルボース、又はタガトースが挙げられる。
【0018】
オリゴ糖は、2分子以上の単糖がグリコシド結合により1分子に連結された糖である。オリゴ糖を構成する単糖の分子数としては、例えば2〜20が挙げられ、好ましくは2〜10が挙げられ、より好ましくは2〜5が挙げられ、さらに好ましくは2〜4が挙げられ、よりさらに好ましくは2〜3が挙げられ、特に好ましくは2が挙げられる。オリゴ糖を構成する単糖の種類としては、特に限定されず、上記に示した単糖を採用することができる。またオリゴ糖を構成する単糖の組み合わせも特に限定されない。オリゴ糖の具体例としては、構成する単糖の分子数が2であるオリゴ糖(例えばラクトース、Galβ(1→3)GalNAc、Galβ(1→4)GlcNAc、Galβ(1→6)GlcNAc、スクロース、マルトース、トレハロース、ツラノース、又はセロビオース等)、構成する単糖の分子数が3であるオリゴ糖(例えばラフィノース、メレジトース、又はマルトトリオース等)、構成する単糖の分子数が4であるオリゴ糖(例えばアカルボース、又はスタキオース)、構成する単糖の分子数が5以上であるオリゴ糖が挙げられる。
【0019】
多糖としては、例えば、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、グルコマンナン等が挙げられる。
【0020】
高分子化合物としては、例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の双方を用いることができ、熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステルなどが挙げられ、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0021】
炭素源としては、より高比表面積の多孔質炭素材料が得られるという観点から、好ましくは糖が挙げられ、より好ましくは単糖、オリゴ糖等が挙げられ、さらに好ましくは単糖又は構成単糖数が2〜4のオリゴ糖が挙げられ、よりさらに好ましくは構成単糖数が2〜3のオリゴ糖が挙げられ、特に好ましくは構成単糖数が2のオリゴ糖が挙げられる。
【0022】
炭素源は、より高比表面積の多孔質炭素材料が得られるという観点から、常温で固体であることが好ましい。同様の観点から、炭素源は、無機鋳型材との混合前は粒子状であることが好ましい。また、同様の観点から、炭素源の融点は、100〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、150〜210℃がさらに好ましい。
【0023】
炭素源は、1種単独であることもでき、2種以上の組合せであることもできる。
【0024】
無機鋳型材は、亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0025】
亜鉛化合物粒子としては、加熱処理によりその一部又は全部が気体化するものである限り、特に制限されない。亜鉛化合物粒子は、亜鉛化合物を素材として含むものである。亜鉛化合物粒子中の亜鉛化合物の含有量は、亜鉛化合物が主成分である限り特に制限されず、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、100質量%等である。亜鉛化合物粒子としては、酸素原子を含む亜鉛化合物の粒子が好ましい。このような粒子であれば、加熱処理中に、亜鉛化合物が周囲の炭素との反応により還元されて、比較的低温で気体化する(沸点907℃)金属亜鉛が生じるので、比較的低温での加熱処理によりこれを除去することができ、多孔質構造を得ることができる。亜鉛化合物粒子としては、好ましくは酸化亜鉛粒子、過酸化亜鉛粒子、酢酸亜鉛粒子、硝酸亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子、塩基性炭酸亜鉛粒子、リン酸亜鉛粒子等が挙げられ、より好ましくは酸化亜鉛粒子が挙げられる。
【0026】
亜鉛粒子としては、加熱処理によりその一部又は全部が気体化するものである限り、特に制限されない。亜鉛粒子は、金属亜鉛を素材として含むものである。亜鉛粒子中の金属亜鉛の含有量は、金属亜鉛が主成分である限り特に制限されず、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、100質量%等である。
【0027】
無機鋳型材としては、好ましくは酸化亜鉛粒子、過酸化亜鉛粒子、酢酸亜鉛粒子、硝酸亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子、塩基性炭酸亜鉛粒子、リン酸亜鉛粒子、亜鉛粒子等が挙げられ、より好ましくは酸化亜鉛粒子、過酸化亜鉛粒子、酢酸亜鉛粒子、硝酸亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子、塩基性炭酸亜鉛粒子、リン酸亜鉛粒子等が挙げられ、特に好ましくは酸化亜鉛粒子が挙げられる。
【0028】
無機鋳型材の形状としては、特に制限されず、例えば球状、塊状、棒状、平板状、円盤状などが挙げられる。
【0029】
無機鋳型材の平均粒子径(形状が非球形である場合は、長径)は、多孔質炭素材料の孔径に反映されるので、目的の孔径に応じて適宜選択することができる。無機鋳型材の平均粒子径は、例えば1〜500nm、好ましくは2〜200nm、より好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmである。無機鋳型材の平均粒子径を例えば50nm以下とすることによりメソ孔を有する多孔質炭素材料を得ることができる。
【0030】
無機鋳型材は、1種単独であることもでき、2種以上の組合せであることもできる。
【0031】
炭素源と無機鋳型材とを混合することにより、これらを含む混合物を得ることができる。この観点から、本発明の製造方法は、その一態様において、さらに、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを混合して前記混合物を得る工程を含む。
【0032】
混合方法は、特に制限されず、例えば公知の混合方法を各種適用することができる。混合方法としては、粒子を混ぜるミキサーやナウターミキサー、さらには、シェアをかけて混ぜ合わせる、乳鉢、ボールミル、メカノフュージョン等を使用する方法を採用することができる。本発明の一態様においては、例えば炭素源として糖を使用する場合においては、混錬することにより、ペースト状混合物を得ることができる。混合時間は、特に制限されるものではないが、例えば1〜30分間、好ましくは5〜15分間である。
【0033】
混合の際には、炭素源と無機鋳型材の他に、他の成分を添加することもできる。他の成分としては、例えば、上記無機鋳型材(亜鉛粒子、亜鉛化合物粒子)以外の無機鋳型材、他の炭素源、溶媒、バインダー等が挙げられる。本発明の一態様においては、混合物100質量%中、炭素源(特に糖)と上記無機鋳型材(亜鉛粒子、亜鉛化合物粒子)との合計含有量が、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、100質量%等である。
【0034】
混合比率は、特に制限されるものではない。
【0035】
混合物(或いは、混合物中の炭素源と無機鋳型材との合計)中の炭素源(特に糖)の含有量は、得られる多孔質炭素材料の比表面積の観点から、例えば30 v/v%以上、好ましくは50 v/v%以上、より好ましくは60 v/v%以上、さらに好ましくは70 v/v%以上、特に好ましくは74 v/v%以上であることが好ましい。該含有量を細密充填(74v/v%)以上とすることにより、特に比表面積の大きい多孔質構造を得ることができる。該含有量は、同様の観点から、例えば97 v/v%以下、好ましくは95 v/v%以下、より好ましくは90 v/v%以下、さらに好ましくは85 v/v%以下、よりさらに好ましくは82 v/v%以下、とりわけさらに好ましくは80 v/v%以下である。
【0036】
混合物中の無機鋳型材の含有量は、得られる多孔質炭素材料の比表面積の観点から、例えば70 v/v%以下、好ましくは50 v/v%以下、より好ましくは40 v/v%以下、さらに好ましくは30 v/v%以下、特に好ましくは26 v/v%以下であることが好ましい。該含有量は、同様の観点から、例えば3 v/v%以上、好ましくは5 v/v%以上、より好ましくは10 v/v%以上、さらに好ましくは15 v/v%以上、よりさらに好ましくは18 v/v%以上、とりわけさらに好ましくは20 v/v%以上である。
【0037】
混合物の加熱処理は、不活性雰囲気下で行う。具体的には、不活性ガス中で行われる。不活性ガスとしては、特に制限されないが、例えば窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0038】
加熱処理の温度は、亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化温度域である限り、特に制限されない。これにより、有機化合物が炭素化され(炭素化処理)、さらに亜鉛化合物及び/又は金属亜鉛の気体化が起こり(気体化処理)、多孔質炭素材料が得られる。
【0039】
本発明の好ましい一態様において、無機鋳型材として、酸素原子を含む亜鉛化合物の粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種を使用する場合、加熱処理中に、亜鉛化合物は周囲の炭素との反応により還元されて、比較的低温で気体化する(沸点907℃)金属亜鉛が生じるので、比較的低温での加熱処理によりこれを除去することができ、多孔質構造を得ることができる。このため、この場合は、加熱処理は、金属亜鉛の気体化温度域で加熱する工程を含むことが好ましい。金属亜鉛の気体化温度域は、金属亜鉛の沸点(907℃)以上の温度であり、例えば907〜1200℃、好ましくは920〜1050℃、より好ましくは930〜970℃である。
【0040】
上記気体化温度域での加熱処理の時間は、多孔質炭素材料が得られる程度の時間である限り特に制限されず、混合物の形態、容積等に応じて、適宜設定することができる。この時間は、例えば1〜8時間、好ましくは2〜4時間である。
【0041】
本発明の好ましい一態様においては、加熱処理は、上記気体化温度域での加熱処理の前に、さらに有機化合物の炭化温度域で加熱する工程を含む。炭化温度域は、炭化が十分に起こる温度である限り特に制限されないが、例えば150〜900℃である。この態様における好ましい一態様においては、加熱処理は、上記気体化温度域での加熱処理の前に、さらに金属亜鉛の気体化温度まで昇温させる工程を含む。昇温開始温度は特に制限されず、通常、0〜50℃、10〜35℃である。昇温速度は、特に制限されないが、例えば0.2〜10℃/min、好ましくは0.5〜5℃/min、より好ましくは0.8〜2℃/min、さらに好ましくは0.9〜1.5℃/minである。
【0042】
加熱処理して得られた多孔質炭素材料は、必要に応じて、粉砕処理に供することができる。粉砕処理は、従来公知の方法を選択することが可能であり、粉砕処理を施した後の粒度、処理量に応じて適宜選択されることが好ましい。粉砕処理方法の例としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを例示することができる。
【0043】
上述のとおり、加熱処理することにより、溶媒を使用せずとも、特に加熱処理後に溶媒を使用せずとも、多孔質炭素材料を(好ましくは、高比表面積の多孔質炭素材料を)得ることができる。
【0044】
2.多孔質炭素材料
本発明は、その一態様において、本発明の製造方法で得られた、多孔質炭素材料(本明細書において、「本発明の多孔質炭素材料」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0045】
本発明の多孔質炭素材料の形状としては、特に制限されず、例えば球状、楕円状、方形等の他、鱗片、薄片状等の板状、ロッド状、無定形状等である。
【0046】
本発明の多孔質炭素材料の平均粒子径は、例えば1〜1000μm、5〜500μm、10〜200μmである。
【0047】
本発明の好ましい一態様において、本発明の多孔質炭素材料は、高比表面積の多孔質炭素材料である。本発明の多孔質炭素材料における、窒素吸着等温線から算出されるBET比表面積は、例えば100 m
2/g以上、好ましくは400 m
2/g以上、より好ましくは600 m
2/g以上、さらに好ましくは800 m
2/g以上、特に好ましくは1000 m
2/g以上である。該比表面積の上限は、特に制限されず、例えば2000 m
2/g、1500 m
2/gである。
【0048】
本発明の多孔質炭素材料は、メソサイズの無機鋳型材を使用することにより、メソ孔を有する。窒素吸着等温線から算出されるメソ孔容積は、例えば0.2 cm
3/g以上、好ましくは0.4 cm
3/g以上、より好ましくは0.6 cm
3/g以上、さらに好ましくは0.8 cm
3/g以上、よりさらに好ましくは1.0 cm
3/g以上である。該メソ孔容積の上限は、特に制限されず、例えば3 cm
3/g、2 cm
3/gである。
【0049】
本発明の多孔質炭素材料は、ミクロ孔を有し得る。窒素吸着等温線から算出されるミクロ孔容積は、例えば0.05 cm
3/g以上、好ましくは0.1 cm
3/g以上、より好ましくは0.2cm
3/g以上、さらに好ましくは0.25 cm
3/g以上、よりさらに好ましくは0.3 cm
3/g以上である。該メソ孔容積の上限は、特に制限されず、例えば0.8 cm
3/g、0.5 cm
3/gである。
【0050】
本発明の製造方法は、アルカリ、酸等を使用した無機鋳型材の除去処理や賦活処理を必要とせずに、多孔質炭素材料を(好ましくは、高比表面積の多孔質炭素材料)を得ることができる。このため、本発明の多孔質炭素材料におけるアルカリ成分及び酸成分の合計残留量は、例えば100ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。本発明の多孔質炭素材料は、アルカリ成分及び酸成分を含まない。
【0051】
本発明の多孔質炭素材料は、多孔質炭素材料を利用することが可能な様々な用途に使用することができる。例えば、窒素、酸素、二酸化炭素、メタンなどのガス分離材料や、吸着材や、キャパシタ材料や、電極材料、フィルターなどに使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
実施例1.炭素源としてスクロースを用いた多孔質炭素材料の製造
炭素源としてスクロース(スクロース:和光純薬工業株式会社)を用い、無機鋳型材として、平均粒子径20nmの酸化亜鉛粒子(酸化亜鉛:和光純薬工業株式会社)を用いて、多孔質炭素材料を製造した。具体的には以下のようにして行った。
【0054】
スクロース(1.67モル部)と酸化亜鉛粒子(3モル部、5モル部、7モル部、10モル部、15モル部、又は20モル部)とを乳鉢中で乳棒を用いて10分間混錬した。ネガティブコントロールとして、スクロースのみを容器中で10分間混錬した。得られたペースト状の混合物を加熱装置にセットし、窒素雰囲気下で、常温から950℃まで1℃/minで昇温させ、続いて950℃で3時間加熱処理して、多孔質炭素材料を得た。
【0055】
実施例2.炭素源としてフルクトースを用いた多孔質炭素材料の製造
炭素源としてフルクトース(フルクトース:和光純薬工業株式会社)を用いる以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を得た。
【0056】
実施例3.炭素源としてフェノール樹脂を用いた多孔質炭素材料の製造
炭素源としてテレフタルアルデヒド(東京化成工業株式会社)とレゾルシノール(和光純薬工業株式会社)を用いる以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を得た。
【0057】
試験例1.細孔特性解析
実施例1〜3で得られた各多孔質炭素材料の比表面積及び細孔分布を、測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社:BELSORP-max)を用いてガス吸着法により測定した。
【0058】
窒素吸着等温線グラフを
図1〜4に示す。
図1〜2が実施例1の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線グラフを示し、
図3が実施例2の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線グラフを示し、
図4が実施例3の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線グラフを示す。
【0059】
図1〜4の窒素吸着等温線は、全てIV型の等温線である。このことから、実施例1〜3で得られた多孔質炭素材料は、ミクロ孔とメソ孔を有する多孔質構造であることが分かった。
【0060】
次に、窒素吸着等温線のデータに基づいて、BET比表面積(S
BET)、メソ孔容積(V
meso)、ミクロ孔容積(V
micro)を算出した。また、炭素源として糖を使用したものについては、炭素源と無機鋳型材とのモル比から、加熱処理前のこれらの混合物中の炭素源の含有量(v/v%)を算出した。結果を表1〜3に示す。表1が実施例1の多孔質炭素材料の結果を示し、表2が実施例2の多孔質炭素材料の結果を示し、表3が実施例3の多孔質炭素材料の結果を示す。表1〜3中、最左列の右端の数字は、使用した酸化亜鉛粒子のモル部(炭素源は1.67モル部)を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表1〜3に示されるように、実施例1〜3で得られた多孔質炭素材料は、一定以上のBET比表面積を有する多孔質構造であることが分かった。また、炭素源として糖を使用することにより、より比表面積の大きい多孔質構造が得られることが分かった。特に、加熱処理前の混合物(炭素源と無機鋳型材との混合物)中の炭素源の含有量(v/v%)を細密充填(74v/v%)以上とすることにより、特に比表面積の大きい多孔質構造が得られることが分かった。
【0065】
最後に、窒素吸着等温線のデータに基づいて、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法により細孔径分布を求めた。結果を
図5〜8に示す。
図5〜6が実施例1の多孔質炭素材料の細孔径分布グラフを示し、
図7が実施例2の多孔質炭素材料の細孔径分布グラフを示し、
図8が実施例3の多孔質炭素材料の細孔径分布グラフを示す。実施例1〜3で得られた多孔質炭素材料は、無機鋳型材の平均粒子径(20nm)と同等の粒子径にピークを示すことが分かった。このことから、無機鋳型材がメソ孔形成の鋳型となっていることが分かった。
【0066】
試験例2.組成解析
実施例1の多孔質炭素材料の組成を、FE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope(電界放出型走査電子顕微鏡装置)、装置S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)及びEDX(Energy dispersive X-ray spectrometry(エネルギー分散型X線分析)、装置EMAXEvolution、堀場製作所社製)により解析した。
【0067】
無機鋳型材の材料(酸化亜鉛)の残存率とBET比表面積(試験例1)を表したグラフを
図9に示す。Suc-ZnO-3及びSuc-ZnO-7はZnOを含んでおらず、酸化亜鉛粒子は炭素化処理によって除去されたことが確認された。一方、酸化亜鉛粒子の添加量が多いSuc-ZnO-10及びSuc-ZnO-15は、多孔質炭素材料中に酸化亜鉛が残存し、これに伴い比表面積が減少していることが分かった。
【0068】
なお、酸化亜鉛粒子の代わりに亜鉛粒子を用いた場合、炭素化後の多孔質炭素材料に亜鉛の残存は確認されなかった。また、この場合、ミクロ孔は、酸化亜鉛粒子を用いた多孔質炭素材料よりも発達しなかった。
【0069】
以上のことから、酸化亜鉛は炭素化処理中に亜鉛に還元され、比較的低いZnの沸点(907℃)によって蒸発除去されたと考えられた。
【0070】
試験例3.画像解析
実施例1の多孔質炭素材料について、走査型電子顕微鏡(SEM)画像を取得した。
【0071】
SEM画像を
図10に示す。酸化亜鉛粒子の添加量増加とともに粒子径が小さくなることが分かった。これは、炭素化処理中の酸化還元反応により炭素が消費されたことに起因すると考えられた。