特開2020-189764(P2020-189764A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-189764(P2020-189764A)
(43)【公開日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】光劣化抑制材
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20201030BHJP
【FI】
   C01G19/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-95277(P2019-95277)
(22)【出願日】2019年5月21日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた光劣化抑制効果を有する光劣化抑制材を提供することを課題とする。
【解決手段】価数の異なる2種以上のスズ(Sn)原子と酸素(O)原子とからなる結晶体を含有する光劣化抑制材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
価数の異なる2種以上のスズ(Sn)原子と酸素(O)原子とからなる結晶体を含有する光劣化抑制材。
【請求項2】
200〜800nmの波長の光の少なくとも一部を吸収する請求項1に記載の光劣化抑制材。
【請求項3】
前記結晶体が、+2価、及び、+4価の前記スズ原子を含有する、請求項1又は2に記載の光劣化抑制材。
【請求項4】
更に界面活性剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光劣化抑制材。
【請求項5】
前記界面活性剤が、前記結晶体に担持されている、請求項4に記載の光劣化抑制材。
【請求項6】
更に有機系、及び/又は、無機系のバインダを含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光劣化抑制材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光劣化抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外及び可視光照射(以下「光照射」と呼称する。)は、日焼け、肌の「たるみ」及び「しわ」、印刷物の褪色、並びに、プラスチックの硬化及び「ひびわれ」等の多様な劣化現象の原因となることが広く知られている。この光照射により惹起される現象は、総称して「光劣化」と呼ばれている。
【0003】
この光劣化を防止するための技術として、特許文献1には、「平均粒径70〜300mμの微粒子状酸化亜鉛(ZnO)を1〜25重量%配合することを特徴とする日焼け防止化粧料」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−228006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載された日焼け防止化粧料によっては、光照射下における肌の「たるみ」及び「しわ」等に代表される光劣化の発生を十分には抑制できない場合があることを知見している。
【0006】
そこで本発明は優れた光劣化抑制効果を有する光劣化抑制材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] 価数の異なる2種以上のスズ(Sn)原子と酸素(O)原子とからなる結晶体を含有する光劣化抑制材。
[2] 200〜800nmの波長の光の少なくとも一部を吸収する[1]に記載の光劣化抑制材。
[3] 上記結晶体が、+2価、及び、+4価の上記スズ原子を含有する、[1]又は[2]に記載の光劣化抑制材。
[4]
更に界面活性剤を含有する[1]〜[3]のいずれかに記載の光劣化抑制材。
[5] 上記界面活性剤が、上記結晶体に担持されている、[4]に記載の光劣化抑制材。
[6] 更に有機系、及び/又は、無機系のバインダを含有する[1]〜[5]のいずれかに記載の光劣化抑制材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた光劣化抑制効果を有する光劣化抑制材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】金属酸化物の典型的な電子構造(バンド)図を模式的に示したものである。
図2】本発明の実施形態に係る光劣化抑制材に含有される上記結晶体のバンド図を模式的に示したものである。
図3】ZnO、酸化チタン(TiO)、及び、上記結晶体のバンド図を模式的に示したものである。
図4】上記結晶体の一例の結晶構造モデルの平面図(a)及び側面図(b)である。
図5図4の結晶体の電子顕微鏡像である。
図6図4の結晶体の光電子分光測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[光劣化抑制材]
本発明の実施形態に係る光劣化抑制材は、価数の異なる2種以上のスズ(Sn)原子と酸素(O)原子とからなる結晶体(以下、「特定結晶体」ともいう。)を含有する光劣化抑制材である。
【0013】
上記光劣化抑制材により本発明の課題が解決される機序としては必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれるものとする。
【0014】
従来、光劣化の防止技術として、防護対象の表面、又は、内部に、光劣化の原因となると考えられる波長の光(典型的には200〜800nmの波長の光)を透過しにくい、十分な光反射率、及び/又は、吸収率を有する光遮蔽材を塗布、又は、分散させるものが知られている。このような技術は、光を反射、及び/又は、吸収することで、防護対象の表面から内部への光透過を抑え、光劣化を防ごうとするものであった。
【0015】
この場合、光遮蔽材としては、化学的に安定であって、かつ、安価であり、更に生体毒性が低いことが知られているZnO、及び、TiO等の金属酸化物を含有するものが多かった。
【0016】
しかし、上記のような金属酸化物は、酸素を含有する官能基を有する有機物、及び/又は、水分の共存下において光(特に、波長400nm未満の紫外光)照射されると、活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)を光触媒的に発生することを、本発明者らは知見している。
つまり、上記のような金属酸化物は、光劣化の原因となる光を反射、吸収し、その影響を低減する機能を有する一方で、光によるROS(特にヒドロキシラジカル)の発生を惹起し、光劣化を促進する機能も有するのである。
【0017】
例えば、文献1において、所望の効果が得られないのは、微粒子状亜鉛等の金属酸化物が光照射下において光触媒として機能し、環境中の水分や小型有機分子からROSを発生し、これが、DNA鎖の切断による細胞更新の阻害、コラーゲン鎖切断による皮膚弾性の低下等をもたらし、最終的には、肌の「たるみ」や「しわ」という光劣化を生ずるためと推測される。
【0018】
本発明者らは上記のような金属酸化物がROS(特にヒドロキシラジカル)の発生を惹起する要因とその対策について検討を進めてきた。
【0019】
上記金属酸化物は、典型的な光劣化の原因と考えられている波長領域の紫外光(UVB(280nm<波長≦315nm);UVA(315nm<波長<400nm)の光)に対して吸収帯を有していることが知られている。
図1は、上記金属酸化物の典型的なバンド図(模式図)である。図1に示すとおり、光遮蔽材に対して、そのバンドギャップよりも高いエネルギーを有する光を照射した場合、光励起によって価電子帯頂上(VBT)に正孔が発生し、この正孔とOH基(例えば、水、及び/又は、アルコールのOH基)とが反応することにより、ROS(この場合、ヒドロキシラジカル(OH・))が生成される。なお、正孔は常に高いエネルギー準位に遷移しようとする性質があるため、OH・の生成促進に際しては、OH/OH・酸化準位が、VBTよりもエネルギー的に高い場所に位置していることが必要条件である。
【0020】
上記によれば、光遮蔽材としてZnO及びTiO等の金属酸化物を用いた場合、バンドギャップよりもエネルギーの高いUVB光を効果的に反射する一方、照射された光の一部を吸収し、環境の水分や酸素から光触媒的に活性酸素種(例えばOH・)を生ずるため、従来の金属酸化物を含有する光遮蔽材では、光劣化の抑制について、意図した効果が得られないことを、本発明者らは初めて知見した。
【0021】
TiO及びZnO等の金属酸化物では、価電子帯の大部分は酸素のp軌道から構成されており、結果として、VBTの真空準位に対する位置は、大きく変わらないことが知られている。上記の金属酸化物の特徴を知見したからといって、UVA及び/又はUVBに吸収帯を持ち、しかもOH・の生成を促進しない金属酸化物である光遮蔽材の実現は、従来困難であった。
【0022】
本発明者らは、鋭意検討をしたところ、価数の異なる2種以上のスズ(Sn)原子と酸素(O)原子とからなる結晶体を含有する光劣化抑制材であれば、(典型的には、化学式Snで表される固体結晶(結晶体)であって、上記結晶体中に価数の異なるSnが2種以上存在する結晶体を含有する光劣化抑制材であれば、)上記課題を解決可能であることを知見し、本発明を完成させた。
【0023】
図2は、上記結晶体のバンド図を模式的に示したものである。図2に示したように、上記結晶体は、200〜800nmの波長の光に対して(特に、UVA及びUVB)に吸収帯を持ち、しかも、その特殊な価電子帯電子構造により、VBTがOH酸化準位よりも高いエネルギー位置をとることを本発明者らは見出した。
【0024】
図3は、ZnO、TiO、及び、上記結晶体(図中、「Sn」と示した)のバンド図である(3.37、3.0、2.5はそれぞれ単位がeVである)。エネルギーギャップから、いずれもUVA及びUVBに吸収帯を有する(すなわち、光の遮蔽効果を有する)ことがわかる。Snは、価電子帯上部に、Sn2+の5d軌道に由来する状態密度を有することがわかる。この結果、UV光照射下にあっても、VBTに生成された正孔は、OH酸化準位よりもエネルギー的に高い準位に位置するため、OH基と結合してOH・を生成することが禁制される。従って、光を吸収してもROSを発生しにくい。
一方でZnO及びTiOは、価電子帯が酸素のp軌道から構成されているため、価電子帯の上端がOH酸化準位よりも低く、光照射によりOH・が生成することがわかる。
【0025】
このように、上記Snは、その特徴的な価電子帯構造のために、光劣化の原因となる光が入射した際、一部を反射し、一部を吸収し、更に、光を吸収してもOH・生成を促進しない光劣化抑制材として、従来の金属酸化物系光遮蔽材にない機能を発揮する。以下、本光劣化抑制材に含有される成分ついて詳述する。
【0026】
〔特定結晶体〕
本光劣化抑制材は特定結晶体を含有する。光劣化抑制材における特定結晶体の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する光劣化抑制材が得られる点で、一般に、光劣化抑制材の全質量に対して、1〜99質量%が好ましい。なお、光劣化抑制材は、特定結晶体の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。光劣化抑制材が、2種以上の特定結晶体を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0027】
特定結晶は価数の異なるスズ(Sn)原子を2種以上(好ましくは2種)有するため、価数の異なるSn原子が結晶格子中で隣接配置されるため、VBTが、OH/OH・酸化準位の上に位置する。
【0028】
特定結晶体における価数の異なるSn原子としては、+2価(Sn2+)、及び、+4価(Sn4+)であることが好ましく、2つのSn2+とSn4+八面体とからなる構造が規則的に配列されてなる結晶であることが好ましい。
図4は、特定結晶体の一例を示す構造モデル平面図(a)及び構造モデル側面図(b)である。
【0029】
図4に示すように、特定結晶体は、2つのSn2+とSn4+八面体(Octahedra)とからなる構造が規則的に配列されてなり、(Sn2+(Sn4+)Oで表される混合原子価Sn酸化物の結晶である。
なお、図4は、Snの化学式で表される理想的な結晶体の結晶構造の模式図を表しており、本発明の光劣化抑制材が含有する特定結晶体としては上記に制限されず、Sn2+とSn4+八面体との配列により、SnO(1<x<2)で表される常温常圧で安定な構造であってもよい。
【0030】
特定結晶の製造方法としては特に制限されないが、例えば、原料と界面活性剤とを水中に分散して、分散液を調製する工程S1と、上記分散液中にNaOH水溶液を加えて、アルカリ性分散液を調製する工程S2と、上記アルカリ性分散液を加熱して、光触媒を水熱合成する工程S3と、を有する構成が好ましい。
【0031】
(分散液調製工程S1)
この工程では、原料と界面活性剤を水中に分散して、分散液を調製する。原料としては、SnCl・2HOが挙げられる。また、界面活性剤として、クエン酸ナトリウム(Na・HO)が挙げられる。界面活性剤を添加することにより、原料をより均一に分散できる。水は超純水であることが好ましい。不純物を少なくすることにより、得られる結晶の純度を向上させることができる。
【0032】
(アルカリ性分散液調製工程S2)
この工程では、分散液中にNaOH水溶液を加えて、アルカリ性分散液を調製する。この時、NaOH濃度を0.2M以下とすることが好ましい。
【0033】
(水熱合成工程S3)
この工程では、アルカリ性分散液を加熱して、光触媒を水熱合成する。
アルカリ性分散液の加熱温度は、150℃以上200℃以下であることが好ましく、170℃以上190℃以下とすることがより好ましい。また、加熱温度に5時間以上19時間以下保持することが好ましく、10時間以上14時間以下保持することがより好ましい。これにより、水熱合成による結晶の生成効率を向上させることができる。
【0034】
特定結晶としては、例えば、特開2015−157282号公報に記載の光触媒を用いることができ、上記明細書の記載は本明細書に組み込まれる。
【0035】
〔他の成分〕
本光劣化抑制材は特定結晶体を含有していれば、本発明の効果を奏する範囲内において他の成分を含有していてもよく、他の成分としては特に制限されないが、溶媒、界面活性剤、及び、有機系、及び/又は、無機系バインダ(以下、単に「バインダ」ともいう。)等が挙げられる。
【0036】
本光劣化抑制材が界面活性剤を含有すると、親水/油性を調製でき、より優れた分散性が得られる。界面活性剤としては特に制限されず、アニオン系、カチオン系、及び、ノニオン系の界面活性剤が使用できる。
本光劣化抑制材が界面活性剤を含有する場合、その形態としては特に制限されないが、特定結晶体に担持されている形態が好ましい。
【0037】
本光劣化抑制材がバインダを含有すると、保護対象物上に本光劣化抑制材による被膜をより簡便に形成可能であり、より優れた本発明の効果が得られる。バインダとしては特に制限されないが、樹脂、及び、セラミックス等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
(実施例1)
(特定結晶の水熱合成)
まず、原料としてSnCl・2HO(0.90g、4.0mmol)、界面活性剤としてクエン酸ナトリウム(Na・HO)(0.294g、10mmol)を用意し、これらを超純水(Milli−Q water)10ml中に分散してから、撹拌して、均一分散させて、分散液を調製した。
【0040】
次に、上記分散液中に0.2MのNaOH水溶液10mlを加えて攪拌して、アルカリ性分散液を調製した。
【0041】
次に、アルカリ性分散液を40mlのポリテトラフルオロエチレン製裏地付きステンレス鋼製の加圧滅菌器(オートクレーブ)に移した。
次に、オートクレーブを電気炉内で、180℃で12時間、加熱してから、室温に戻した。
次に、遠心分離により沈殿物を得た後、この沈殿物を、0.2MNaOH水溶液にて数回洗浄後、超純水(Milli−Q water)とアセトンで逐次的に数回、洗浄した。
以上の工程により、Snの結晶を得た。
【0042】
SEM(Scaning electron microscope、Hitachi製)により、上記で得られたSnを顕微鏡観察した。
SEMにはFIB(Focused ion beam、SII Nano technology Inc.製)を備えたものを用いた。
図5は、上記結晶の顕微鏡観察結果を示す写真である。
【0043】
(X線光電子分光)
図6は、X線光電子分光の結果を示すグラフである。価電子帯頂上部に、Sn2+の5d軌道に由来する状態密度を持つ。このSn2+の5d軌道の存在によりUV光照射下にあっても、VBTに生成された正孔は、OH酸化準位よりもエネルギー的に高い準位に位置することができるため、OH基と結合してOH・を生成することが禁制される結果となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6