【実施例】
【0049】
[K
0.80Ti
1.73Li
0.27O
4(KTLO)の調製]
試薬には、炭酸カリウム(K
2CO
3、ナカライテスク株式会社製、純度99.5%)、炭酸リチウム(Li
2CO
3、東京化成工業株式会社製、純度98%以上)および酸化チタン(TiO
2、日本エアロジル株式会社製、P25)を用い、モル比でK
2CO
3:Li
2CO
3:TiO
2=2.4:0.8:10.4となるように試薬を秤量した。秤量した試薬を撹拌機で2時間混合し、得られた混合物を、大気中、600℃で2時間焼成した。室温まで冷却した後、得られた焼成体を粉砕し、再度、大気中、600℃でさらに20時間焼成した。
【0050】
粉末X線回折(株式会社リガク製、SmartLab)を用い、得られた粉末がレピドクロサイト型構造を有するKTLO粉末であることを同定した。X線源にCu Kα線を用い、管電圧および管電流はそれぞれ40kVおよび30mAであった。
【0051】
KTLO粉末のモルフォロジを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU−8230)で観察した。加速電圧は10.0kVであった。結果を
図3に示す。
【0052】
図3は、KTLO粉末のSEM像を示す図である。
【0053】
図3によれば、得られたKTLO粉末は、横方向に100nm以上200nm以下の大きさ、および、最大70nmの厚さを有する板状粒子であった。
【0054】
KTLO粉末にフッ酸溶液を用いた高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES、Agilent 710−ES分光装置)を行い、組成分析を行ったところ、K
0.80Ti
1.73Li
0.27O
4であることを確認した。
【0055】
[水熱合成の実験:例1〜例5]
先に合成したKTLOまたはアナターゼ(触媒学会から供給されたJRC−TIO−1、一次粒子の粒径:20nm)、第4級アンモニウム化合物としてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液(東京化成工業株式会社製、40wt%水溶液)、および、ハロゲン化アンモニウムとしてフッ化アンモニウム(NH
4F、シグマアルドリッチ製、純度99.9%以上)を用い、表1にしたがって秤量し、テフロン(登録商標)容器を内筒できるステンレス鋼容器に投入し、水熱合成を行った。水熱合成の条件は、170℃、1時間であった。水熱合成後、生成物をエタノールで洗浄し、60℃で乾燥させた。
【0056】
【表1】
【0057】
得られた生成物のモルフォロジをSEM(加速電圧10kV)で観察した。結果を
図4〜
図8に示す。得られた生成物をKTLOと同様の条件で粉末X線回折により同定した。結果を
図9〜
図11に示す。得られた生成物を電解放出形透過電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM−2100F)によりHRTEM観察を行った。結果を
図12に示す。HRTEM観察は加速電圧200kVで行った。
【0058】
得られた生成物の組成分析をICP−AESにより行った。結果を表2に示す。生成物について熱分析(株式会社日立ハイテクサイエンス製、TG/DTA6200)を行った。結果を
図13に示す。さらに、得られた生成物の紫外線可視光吸収スペクトルを分光光度計(日本分光株式会社製、JASCO V−570)により測定した。結果を
図14に示す。以降では例1〜例5で得られた生成物をそれぞれ例1〜例5の試料と称する場合がある。
【0059】
図4は、例1の試料のSEM像を示す図である。
図5は、例2の試料のSEM像を示す図である。
図6は、例3の試料のSEM像を示す図である。
図7は、例4の試料のSEM像を示す図である。
図8は、例5の試料のSEM像を示す図である。
【0060】
図4によれば、例1の試料は、
図3に示す原料のKTLOの様態と完全に異なり、一次元のワイヤ状であった。詳細には、例1の試料は、5nm以上15nm以下の範囲の直径(例1では、8nm以上12nm以下の範囲の直径であることを確認した)、および、60nm以上10μm以下の範囲の長さ(例1では、1μm以上10μm以下の長さを有することを確認した)を満たし、ナノワイヤ構造体であることが分かった。
【0061】
一方、
図5〜
図7によれば、例2〜例4の試料は、いずれも、紡錘状粒子の形態を有しており、ナノワイヤ構造体ではなかった。また、第4級アンモニウム化合物のKTLOに対するモル比が増大するにつれて、均一な紡錘状粒子が生成した。図示しないが、原料KTLOに対してTPAOHを0.05モル未満では、原料KTLOの変化が見られないことを予備的実験から確認した。このことから、ナノワイヤ構造体を得るには、水熱合成において、第4級アンモニウム化合物が原料である層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす必要があることが分かった。
【0062】
図8によれば、例5の試料の形態は、水熱合成によって粒子サイズの増大が見られたが、原料のアナターゼと同様の形態を維持した。このことは、本発明の水熱合成による形状の変化は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩に特異な現象であることが示唆される。
【0063】
図9は、例1の試料のXRDパターンを示す図である。
図10は、例2〜例4の試料のXRDパターンを示す図である。
図11は、例5の試料のXRDパターンを示す図である。
【0064】
図9によれば、例1の試料のXRDパターンは、ごくわずかにアナターゼ型酸化チタン(単にアナターゼという)を示すピークを示したが、主として、原料であるKTLOのそれに良好に一致した。
【0065】
なお、例1の試料に含有されるアナターゼは、0.1wt%と算出された。アナターゼの含有量の算出には、検量線を用い、X線回折パターンにおけるアナターゼの(010)面と、KTLOの(020)面との強度比から算出した。このことから、例1の試料は、水熱合成後もKTLOを主成分とするレピドクロサイト型構造を有することが分かった。
【0066】
一方、
図10によれば、例2〜例4の試料のXRDパターンは、第4級アンモニウム化合物の濃度が多くなるにつれて、KTLOを示す回折ピークが低減し、アナターゼを示す回折ピークが増大した。特に、例4の試料のXRDパターンは、アナターゼのそれに実質的に一致し、KTLOを示す回折ピークは見られなかった。
【0067】
また、
図11によれば、例5の試料のXRDパターンは、原料のアナターゼのそれに一致したが、ピークの半値幅が低減し、結晶性が向上したことが分かった。このことは、
図8に示す結果と良好に一致し、水熱合成により、結晶性および粒成長が生じたためである。
【0068】
図12は、例1の試料のHRTEM像およびEDパターンを示す図である。
【0069】
図12によれば、例1の試料のナノワイヤ構造体の層間距離が0.79nmであり、
図9に示すX線回折の結果に良好に一致することが分かった。このこの層間距離(0.79nm)は、原料のKTLOのそれ(0.78nm)よりも大きかった。また、ナノワイヤ構造体の長手方向に層が延び、直径方向にその層が積層した層状構造をなしていることを確認した。
【0070】
以上の結果から、組成式A
xTi
2−yB
yO
4+z(Aは、K、Rb、CsおよびHからなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Bは、Li、Mg、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、NbおよびFeからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.5≦x≦1.1、
0≦y≦0.9、および
−0.1≦z≦0.1
を満たすレピドクロサイト型構造を有するナノワイヤ構造体が得られたことが示された。
【0071】
また、
図2を参照して説明した本発明の方法は、上述のナノワイヤ構造体を得るに有効であることが示された。特に、
図4〜
図7および
図9〜
図10の結果を参照すれば、KTLOは、水熱合成において第4級アンモニウム化合物が、層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす条件では、辺および角を共有したTiO
6八面体の一次元鎖に分解されて、それらが再度構築されて準安定なレピドクロサイト型構造を維持したままナノワイヤ構造体となるが、上記モル比を超えると、Ti
4+まで分解され、安定なアナターゼを形成することが分かった。
【0072】
次に、ICP発光分光分析の結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
原料に用いたKTLOは、K
0.80Ti
1.73Li
0.27O
4で表され、K、TiおよびLiは、それぞれ、16.1wt%、43wt%および0.92wt%であったが、例1の試料(ナノワイヤ構造体)は、K
0.63H
0.21Ti
1.72Li
0.2O
4で表され、K、TiおよびLiは、それぞれ、12.8wt%、44.5wt%および0.94wt%であった。ここで、それぞれのホスト層の電荷密度は、ほぼ一致した(詳細には[Ti
1.73Li
0.27O
4]
0.80−および[Ti
1.72Li
0.28O
4]
0.84−)が、例1の試料は、層間にK
+とともにH
+が存在した。
【0075】
図13は、例1の試料の熱重量曲線を示す図である。
【0076】
図13には、原料KTLOの熱重量曲線も併せて示す。
図13によれば、例1の試料は、原料KTLOに比べて、100℃にて大きな重量変化を示し、層間にH
2OまたはH
3O
+を多く含有した。この結果は、上述の層間にH
+が存在すること、また、
図12に示す層間距離の増大に良好に一致した。
【0077】
このことから、上記一般式においてAがKおよびHであり、BがLiである場合、本発明のナノワイヤ構造体は、組成式K
aH
bTi
cLi
dO
eで表され、パラメータa〜e、それぞれ、
0.6≦a≦0.65、
0.15≦b≦0.25、
1.7≦c≦1.8、
0.2≦d≦0.3、および、
3.9≦e≦4.1
を満たすことが示された。
【0078】
図14は、例1の試料のUV−visスペクトルを示す図である。
【0079】
図14には、原料KTLOおよびベンチマークである酸化チタン触媒P25(日本アエロジル社製)のUV−visスペクトルも併せて示す。
図14によれば、例1の試料のバンドギャップは、原料KTLOのそれに一致し、実質的に同じバンド構造を有することが分かった。このことから、例1の試料は、一次元のナノワイヤの形状を有していても、二次元層状構造である原料KTLOの特徴も維持していることが示唆される。
【0080】
[光触媒の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)の光触媒活性について調べた。
【0081】
光触媒活性としてギ酸の酸化反応について調べた。パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中で5vol%のギ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度98%)を含有する水溶液(5mL)に例1の試料(15mg)を分散させ、バブリングにより酸素を通気させた。その後、ガラス管をゴム隔膜で封止し、攪拌しながらソーラーシミュレータ(株式会社三永電機製作所製、λ>300nm、1000Wm
−2)で紫外線を照射した。ガラス管の上部空間の気体(CO
2)を、バリア放電イオン化検出器(BID検出器)を備えたガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、GC−2010 Plus)で評価した。結果を
図15に示す。なお、比較のため、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼについても同様にギ酸の酸化反応を調べた。
【0082】
また、光触媒活性として水からの水素発生について調べた。パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中でメタノール水溶液(5mL、V/V比で1/1)に例1の試料(15mg)を分散させ、次いで、H
2PtCl
6・H
2O(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度99.9%、例1の試料に対するPt:0.5wt%)を溶解させた。得られた分散液にバブリングによりアルゴンを通気させた。上述したギ酸の酸化反応と同様にして紫外線を照射し、ガラス管の上部空間の気体をガスクロマトグラフで評価した。結果を
図16に示す。なお、比較のため、原料KTLOについても同様に水素発生を調べた。
【0083】
図15は、例1の試料のCO
2発生の変化を示す図である。
図16は、例1の試料のH2発生の変化を示す図である。
【0084】
図15には、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼの結果を併せて示す。
図15によれば、例1の試料は、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼと比較して、CO
2の発生量が顕著に増大していた。
【0085】
図14を参照して説明したように、実施例1の試料と原料KTLOとが同じバンド構造を有していることから、実施例1の試料の高い光触媒活性は、一次元ナノワイヤ形状に起因して電荷分離が増大したためといえる。
【0086】
図16には、原料KTLOの結果を併せて示す。
図16によれば、原料KTLOは、H
2を発生しなかったが、例1の試料は、H
2の発生量が顕著に増大していた。水からの水素発生は二電子還元によって生じるため、原料KTLO等の低活性なTiO
2基光触媒は、通常、このような触媒活性を示さない。このことからも、実施例1の試料では、一次元ナノワイヤ形状に起因して電荷分離が増大することによって、光触媒活性が増大したことが分かった。
【0087】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、光触媒材料として機能することが示された。
【0088】
[イオン交換の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)のイオン交換能について調べた。
【0089】
パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中でCdCl
2(Strem Chemicals,Inc.製、純度99.9%)およびNiCl
2(シグマアルドリッチ製、純度99.9%)の水溶液(20mL、Cd
2+およびNi
2+の濃度は、それぞれ、50ppmおよび95ppm)に例1の試料(15mg)を添加し、バブリングによりアルゴンを通気させた。その後、犠牲剤としてメタノールを添加し、ガラス管をゴム隔膜で封止し、攪拌した。混合物を分離し、上澄み液中のCd
2+およびNi
2+の量をICP−AESにより評価した。結果を
図17に示す。なお、比較のため、原料KTLO、および、酸化チタン触媒P25についても同様にイオン交換能を調べた。
【0090】
図17は、例1の試料のCd
2+イオンの吸着量の変化を示す図である。
【0091】
図17には、原料KTLO、および、P25の結果を併せて示す。
図17によれば、例1の試料は、原料KTLOに比べて顕著に早くCd
2+イオンが吸着し、20分以内に吸着が完了した。一方、原料KTLOは、Cd
2+イオンの吸着に60分を要した。最大吸着量は、0.7mmolg
−1と算出され、陽イオン交換容量(<1.5mequivg
−1)に実質的に一致した。このことは、添加したCd
2+イオンは、例1の試料中の層間のK
+イオンとすべてイオン交換されたことを示す。なお、P25は、Cd
2+を吸着しなかった。図示しないが、Ni
2+も同様の結果であった。
【0092】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、イオン交換材料として機能することが示された。特に、環境中の有毒な金属イオンや希少な金属イオン等をイオンに吸着できるので、有効である。
【0093】
[金属固定化の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)の金属固定化について調べた。イオン交換の実験において、紫外線を照射した以外は同様であるため説明を省略する。紫外線照射の条件は光触媒の実験と同じであった。
【0094】
紫外線照射後の例1の試料中のCd金属およびNi金属の量をICP−AESにより評価した。結果を
図18および
図19に示す。紫外線照射後の例1の試料についてX線光電子分光分析(XPS、アルバックファイ株式会社製、PHI Quantera SXM)を行った。励起X源にAl Kα線(管電圧20kV、管電流5mA)を用いた。結果を
図20に示す。紫外線照射後の試料をHRTEM観察(加速電圧200kV)した。結果を
図21に示す。また、紫外線照射前後の例1の試料についてX線回折を行った。結果を
図22に示す。なお、比較のため、原料KTLO、および、酸化チタン光触媒P25についても同様に金属固定化を調べた。
【0095】
図18は、Cd
2+イオン交換後の例1の試料のCd金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
図19は、Ni
2+イオン交換後例1の試料のNi金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
【0096】
図18によれば、例1の試料は、紫外線照射によって、瞬時に、Cd
2+がCd金属に光還元されたが、原料KTLOおよびP25は、紫外線照射によっても何ら変化は見られなかった。詳細には、例1の試料には、紫外線照射後、わずか1分以内に、約1.3mequivg
−1のCdが堆積された。
【0097】
図19によれば、
図18と同様に、例1の試料は、紫外線照射によって、瞬時にNi
2+がNi金属に光還元された。例1の試料には、紫外線照射後、1時間後には、約1.0mequivg
−1のNiが堆積されたことを確認した。原料KTLOおよびP25は、紫外線照射によっても何ら変化は見られなかった。
【0098】
図20は、Cd
2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射後のXPSスペクトルを示す図である。
【0099】
図20には、P25および原料KTLOの結果も併せて示す。
図20によれば、例1の試料では、Cd金属を示すピークが観察された。P25および原料KTLOでも類似のピークが見られたが、ピーク位置を詳細に検討したところ、これらは、未反応のCdイオンを示すものであり、Cd金属ではなかった。このことからも、例1の試料では、内部に包摂された金属イオンを金属に光還元できることが示された。
【0100】
図21は、Cd
2+イオン交換後かつ紫外線照射後の例1の試料のHRTEM像を示す図である。
【0101】
図21において、直径8nmのナノワイヤ構造体が示されるが、その内部に直径0.5nm以上1nm以下を有するコントラストが暗く示される複数の領域(
図21では例示的に一部を丸で囲って示す)が見られる。これらは、Cd金属を示しており、紫外線照射によって、K
+とイオン交換されたCd
2+は光還元され、Cd金属からなるナノ粒子となり、ナノワイヤ構造体内部に固定化されていることが示唆される。図示しないが、Ni
2+の場合も同様の様態を示した。
【0102】
図22は、Cd
2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射前後のXRDパターンを示す図である。
【0103】
図22によれば、紫外線照射によって、層間距離を示すピークは、低角側にシフトし、層間距離が増大したことが分かった。このことからも、例1の試料において、K
+とイオン交換されたCd
2+は光還元され、Cd金属からなるナノ粒子となり、ナノワイヤ構造体内部に固定化されていることが示唆される。図示しないが、Ni
2+の場合も同様の傾向を示した。
【0104】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、金属固定化材料として機能することが示された。