特開2020-189775(P2020-189775A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-189775ナノワイヤ構造体、その製造方法、イオン交換材料、光触媒材料、および、金属固定化材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-189775(P2020-189775A)
(43)【公開日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】ナノワイヤ構造体、その製造方法、イオン交換材料、光触媒材料、および、金属固定化材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20201030BHJP
   B01J 21/16 20060101ALI20201030BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20201030BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20201030BHJP
   B01J 39/10 20060101ALI20201030BHJP
【FI】
   C01G23/00 BZNM
   C01G23/00 C
   B01J21/16 Z
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   B01J39/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-97230(P2019-97230)
(22)【出願日】2019年5月24日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】井出 裕介
(72)【発明者】
【氏名】板東 義雄
【テーマコード(参考)】
4G047
4G169
【Fターム(参考)】
4G047CA06
4G047CB04
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD05
4G047CD07
4G169AA02
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BA16A
4G169BA16B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC04A
4G169BC04B
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC10A
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC55A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169CB07
4G169CC33
4G169DA05
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB10
4G169HA01
4G169HB10
4G169HC07
4G169HC29
4G169HD03
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】 レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を含有する新たなナノワイヤ構造体、その製造方法、イオン交換材料、光触媒材料、および、金属固定化材料を提供すること。
【解決手段】 本発明のナノワイヤ構造体は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を含有し、組成式ATi2−y4+z(Aは、K、Rb、CsおよびHからなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li、Mg、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、NbおよびFeからなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表す)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、0.5≦x≦1.1、0≦y≦0.9、および、−0.1≦z≦0.1を満たす。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状チタン酸塩を含有するナノワイヤ構造体であって、
前記層状チタン酸塩は、レピドクロサイト型構造を有し、
組成式ATi2−y4+z(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表す)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.5≦x≦1.1、
0≦y≦0.9、および、
−0.1≦z≦0.1
を満たす、ナノワイヤ構造体。
【請求項2】
前記ナノワイヤ構造体は、5nm以上15nm以下の範囲の直径、および、60nm以上10μm以下の範囲の長さを有する、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項3】
前記ナノワイヤ構造体は、8nm以上12nm以下の範囲の直径、および、1μm以上10μm以下の範囲の長さを有する、請求項2に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項4】
前記層状チタン酸塩は、0.78nmより大きく1.2nm以下の範囲の層間距離を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の記載のナノワイヤ構造体。
【請求項5】
さらにアナターゼ型酸化チタンを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のナノワイヤ構造体。
【請求項6】
前記アナターゼ型酸化チタンは、5wt%以下の範囲で含有される、請求項5に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項7】
前記A元素は、少なくともKであり、前記B元素は、Liである、請求項1〜6のいずれかに記載のナノワイヤ構造体。
【請求項8】
前記A元素は、さらにHを含有する、請求項7に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項9】
前記組成式は、KTiLiで表され、パラメータa〜e、それぞれ、
0.6≦a≦0.65、
0.15≦b≦0.25、
1.7≦c≦1.8、
0.2≦d≦0.3、および、
3.9≦e≦4.1
を満たす、請求項8に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項10】
Ti2−y(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表し、パラメータxおよびyは、それぞれ、0.5≦x≦1.1および0≦y≦0.9で表されるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を、第4級アンモニウム化合物およびハロゲン化アンモニウムを含有する水溶液中で水熱合成する工程を包含し、
前記第4級アンモニウム化合物は、前記層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす、請求項1〜9のいずれかに記載のナノワイヤ構造体の製造方法。
【請求項11】
前記第4級アンモニウム化合物は、前記層状チタン酸塩に対して0.1以上0.2以下の範囲のモル比を満たす、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ハロゲン化アンモニウムは、前記層状チタン酸塩に対して0.3以上0.4以下の範囲のモル比を満たす、請求項10または11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記水熱合成する工程は、120℃以上250℃以下の温度範囲で行われる、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記水熱合成する工程は、150℃以上190℃以下の温度範囲で行われる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記水熱合成する工程は、24時間以上14日以下の範囲で行われる、請求項10〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記水熱合成する工程で得られた生成物を洗浄する工程をさらに包含する、請求項10〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノワイヤ構造体を含有するイオン交換材料。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノワイヤ構造体を含有する光触媒材料。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノワイヤ構造体を含有する金属固定化材料。
【請求項20】
Cd(カドミウム)、Ni(ニッケル)、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Cr(クロム)、Hg(水銀)およびPt(白金)からなる群から少なくとも1種選択される金属イオンを固定化する、請求項19に記載の金属固定化材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤ構造体、その製造方法、および、それを用いた用途に関し、詳細には、層状チタン酸塩を含有するナノワイヤ構造体、その製造方法、イオン交換材料、光触媒材料、および、金属固定化材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チタニアやチタン酸塩は、豊富に存在し、無毒性であり、また安定性が高いため、太陽光発電、光触媒作用による汚染の分解、光触媒作用によるHの生産等の光反応に主にかかわる多くの用途のための重要な材料である。
【0003】
近年、このようなチタン酸塩のうち層状チタン酸化合物KTiからナノワイヤー形状のチタニア・ナノ構造体が得られることが報告されている(特許文献1を参照)。特許文献1によれば、KTiをテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、水およびNHF中で水熱処理することによって、多空芯構造を有するナノワイヤー形状となり、UV吸収剤として有効である。
【0004】
また、チタンアルミ合金からチタン酸ナトリウムナノワイヤが得られることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、TiAl94リボンを5MのNaOH水溶液に浸漬することにより、NaTi2−x/4x/4(ここで、x≒1、◇は空孔)で表されるレピドクロサイト型層状チタン酸塩のナノワイヤとなり、優れたストロンチウムイオンの吸着能を示す。
【0005】
Ti(OCからTiOナノワイヤが得られることが知られている(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、Ti(OCにH水溶液、アンモニア水溶液を添加し、pHを10.5に維持する。これに、NaOH水溶液を添加し、沸騰させる。得られた析出物を加熱することにより、レピドクロサイト型TiOナノワイヤが得られ、優れた充放電特性を示す。
【0006】
また、白色顔料用にロッド状のチタン酸ナノ粒子が知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2によれば、レピドクロサイト型層状チタン酸ナノシートを、塩酸水溶液と、アミン類及び/又はホスホニウム類を含有する溶液でシート状に剥離させて得られる種結晶の1部が存在する分散液を熱処理することによって得られる。
【0007】
新たな特性を有する一次元構造を有する層状チタン酸塩が開発されれば望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−101504号公報
【特許文献2】特開2011−32317号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yoshifumi Ishikawaら,Nano Lett. 2015, 15, 2980−2984
【非特許文献2】Feixiang Wuら,J. Mater. Chem., 2011, 21, 12675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上から、本発明の課題は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を含有するナノワイヤ構造体、その製造方法、イオン交換材料、光触媒材料、および、金属固定化材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による層状チタン酸塩を含有するナノワイヤ構造体は、前記層状チタン酸塩が、レピドクロサイト型構造を有し、組成式ATi2−y4+z(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表す)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.5≦x≦1.1、
0≦y≦0.9、および、
−0.1≦z≦0.1
を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記ナノワイヤ構造体は、5nm以上15nm以下の範囲の直径、および、60nm以上10μm以下の範囲の長さを有してもよい。
前記ナノワイヤ構造体は、8nm以上12nm以下の範囲の直径、および、1μm以上10μm以下の範囲の長さを有してもよい。
前記層状チタン酸塩は、0.78nmより大きく1.2nm以下の範囲の層間距離を有してもよい。
さらにアナターゼ型酸化チタンを含有してもよい。
前記アナターゼ型酸化チタンは、5wt%以下の範囲で含有されてもよい。
前記A元素は、少なくともKであり、前記B元素は、Liであってもよい。
前記A元素は、さらにHを含有してもよい
前記組成式は、KTiLiで表され、パラメータa〜e、それぞれ、
0.6≦a≦0.65、
0.15≦b≦0.25、
1.7≦c≦1.8、
0.2≦d≦0.3、および、
3.9≦e≦4.1
を満たしてもよい。
本発明による上記ナノワイヤ構造体の製造方法は、ATi2−y(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表し、パラメータxおよびyは、それぞれ、0.5≦x≦1.1および0≦y≦0.9で表されるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を、第4級アンモニウム化合物およびハロゲン化アンモニウムを含有する水溶液中で水熱合成する工程を包含し、前記第4級アンモニウム化合物は、前記層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記第4級アンモニウム化合物は、前記層状チタン酸塩に対して0.1以上0.2以下の範囲のモル比を満たしてもよい。
前記ハロゲン化アンモニウムは、前記層状チタン酸塩に対して0.3以上0.4以下の範囲のモル比を満たしてもよい。
前記水熱合成する工程は、120℃以上250℃以下の温度範囲で行われてもよい。
前記水熱合成する工程は、150℃以上190℃以下の温度範囲で行われてもよい。
前記水熱合成する工程は、24時間以上14日以下の範囲で行われてもよい。
前記水熱合成する工程で得られた生成物を洗浄する工程をさらに包含してもよい。
本発明によるイオン交換材料は、上記ナノワイヤ構造体を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明による光触媒材料は、上記ナノワイヤ構造体を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明による金属固定化材料は、上記ナノワイヤ構造体を含有し、これにより上記課題を解決する。
Cd(カドミウム)、Ni(ニッケル)、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Cr(クロム)、Hg(水銀)およびPt(白金)からなる群から少なくとも1種選択される金属イオンを固定化してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナノワイヤ構造体は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を含有し、組成式ATi2−y4+z(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表す)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、0.5≦x≦1.1、0≦y≦0.9、および、−0.1≦z≦0.1を満たす。
【0013】
このような特定の組成を有することにより、優れたイオン交換能、光触媒活性を示す。これらの特性を利用することにより、層状チタン酸塩の層間に金属イオンを包摂させ、固定化できる。このことから、本発明のナノワイヤ構造体は、イオン交換材料、光触媒材料ならびに金属固定化材料として有利である。
【0014】
本発明のナノワイヤ構造体は、ATi2−yで表されるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を、第4級アンモニウム化合物およびハロゲン化アンモニウムを含有する水溶液(ただし、第4級アンモニウム化合物は、層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす)中で水熱合成することによって得られる。原料を混合し、水熱合成するだけでよいため、特別の技術が不要であり、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のナノワイヤ構造体を示す模式図である。
図2】本発明のナノワイヤ構造体の製造プロシージャを示す模式図である。
図3】KTLO粉末のSEM像を示す図である。
図4】例1の試料のSEM像を示す図である。
図5】例2の試料のSEM像を示す図である。
図6】例3の試料のSEM像を示す図である。
図7】例4の試料のSEM像を示す図である。
図8】例5の試料のSEM像を示す図である。
図9】例1の試料のXRDパターンを示す図である。
図10】例2〜例4の試料のXRDパターンを示す図である。
図11】例5の試料のXRDパターンを示す図である。
図12】例1の試料のHRTEM像およびEDパターンを示す図である。
図13】例1の試料の熱重量曲線を示す図である。
図14】例1の試料のUV−visスペクトルを示す図である。
図15】例1の試料のCO発生の変化を示す図である。
図16】例1の試料のH2発生の変化を示す図である。
図17】例1の試料のCd2+イオンの吸着量の変化を示す図である。
図18】Cd2+イオン交換後の例1の試料のCd金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
図19】Ni2+イオン交換後例1の試料のNi金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
図20】Cd2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射後のXPSスペクトルを示す図である。
図21】Cd2+イオン交換後かつ紫外線照射後の例1の試料のHRTEM像を示す図である。
図22】Cd2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射前後のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明のナノワイヤ構造体を示す模式図である。
【0018】
本発明のナノワイヤ構造体100は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩を主成分として含有する。レピドクロサイト型構造は、粉末X線回折により判定できる。
【0019】
さらに本発明のナノワイヤ構造体100は、組成式ATi2−y4+z(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表す)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.5≦x≦1.1、
0≦y≦0.9、および
−0.1≦z≦0.1
を満たす。
【0020】
図1において、酸素およびTi(必要に応じてB元素)からなる八面体の内部に薄く示される元素が、Ti(場合によってはB元素)である。
【0021】
本願発明者らは、上述の特定の組成を有し、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩が、通常の二次元層状構造体ではなくナノワイヤ構造体となることを見出した。
【0022】
本発明のナノワイヤ構造体100は、二次元層状構造であるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩のイオン交換能、光触媒活性をさらに向上させることができる。
【0023】
本発明のナノワイヤ構造体100は、直径がナノオーダである一次元構造を有するものを意図するが、好ましくは、5nm以上15nm以下の範囲の直径を有し、かつ、60nm以上10μm以下の範囲の長さを有する。これにより、高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。なお、本願明細書において、ナノワイヤ構造体100の直径とは、走査型電子顕微鏡写真の5視野中のナノワイヤ構造体100個を無作為に選び、それらの断面積から算出した円相当径の平均値をさす。同様に、長さも、走査型電子顕微鏡写真の5視野中のナノワイヤ構造体100個を無作為に選び、それらの長さの平均値をさす。
【0024】
本発明のナノワイヤ構造体100は、より好ましくは、8nm以上12nm以下の範囲の直径を有し、かつ、1μm以上10μm以下の範囲の長さを有する。これにより、さらに高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。本発明のナノワイヤ構造体100は、なおさらに好ましくは、1.5μm以上5μm以下の範囲の長さを有する。
【0025】
本発明のナノワイヤ構造体100を構成する層状チタン酸塩は、好ましくは、0.78nmより大きく1.2nm以下の範囲の層間距離を有する。この層間距離は、原料に用いる層状チタン酸塩の層間距離よりも大きい。これにより、高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。
【0026】
図1に示すように、本発明のナノワイヤ構造体100において、層状チタン酸塩は、ナノワイヤの長手方向にホスト層が延び、直径方向にそのホスト層が積層した層状構造をなしている。すなわち、ナノワイヤ構造体100において層状チタン酸塩の層状構造はランダムではない。これにより、本発明のナノワイヤ構造体100は、高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。
【0027】
本発明のナノワイヤ構造体100は、層状チタン酸塩単体からなってもよいが、層状チタン酸塩に加えて特性を低下させない程度にアナターゼ型酸化チタンを含有してもよい。この観点から、本発明のナノワイヤ構造体100に含有される層状チタン酸塩の主成分とする量は、80wt%以上であればよい。
【0028】
好ましくは、アナターゼ型酸化チタンは、0wt%より多く5wt%以下の範囲で含有される。これにより、イオン交換能および光触媒活性を維持し得る。さらに好ましくは、アナターゼ型酸化チタンは、0wt%より多く1wt%以下の範囲で含有される。これにより、高いイオン交換能および光触媒活性を維持し得る。
【0029】
A元素は、好ましくは、少なくともKであり、B元素は、好ましくは、Liである。この場合、原料に層状チタン酸カリウム(例えば、K0.8Ti1.73Li0.27に代表されるKTLO)を用いることができ、本発明のナノワイヤ構造体100を高収率で得られる。
【0030】
A元素は、さらにHを含有してもよい。これにより、高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。
【0031】
この場合、さらに好ましくは、上記組成式は、KTiLiで表され、パラメータa〜e、それぞれ、
0.6≦a≦0.65、
0.15≦b≦0.25、
1.7≦c≦1.8、
0.2≦d≦0.3、および、
3.9≦e≦4.1
を満たす。これにより、高いイオン交換能および光触媒活性を示し得る。
【0032】
次に、本発明のナノワイヤ構造体の製造方法について説明する。
図2は、本発明のナノワイヤ構造体の製造プロシージャを示す模式図である。
【0033】
本発明のナノワイヤ構造体は、ATi2−y(Aは、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)およびH(水素)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Tiはチタンであり、Bは、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)およびFe(鉄)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Oは酸素を表し、パラメータxおよびyは、それぞれ、0.5≦x≦1.1および0≦y≦0.9で表されるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩(原料層状チタン酸塩)200を、第4級アンモニウム化合物およびハロゲン化アンモニウムを含有する水溶液210中で水熱合成する工程を包含する。
【0034】
原料層状チタン酸塩200は、層状チタン酸塩を構成する金属元素を含有する原料粉末を、上述の組成式において金属元素の組成比を満たすように混合し、固相反応することによって得られる。このような原料層状チタン酸塩は、板状粒子であり、例示的には、平面方向に50nm以上300nm以下の大きさ、および、厚さ方向に5nm以上70nm以下の大きさを有するものが採用される。
【0035】
ここで、第4級アンモニウム化合物は、原料層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たすように調製される。第4級アンモニウム化合物が所定のモル比を満たすことにより、水熱合成により原料であるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩は、単層剥離され、ホスト層はさらに細分化され、準安定なレピドクロサイト型構造を維持した最小ユニット220が得られる。原料層状チタン酸塩の層間に位置したゲストであるAイオン230は、溶液中に溶解する。さらに水熱合成が進むと、これら細分化された最小ユニット220とAイオン230とが再構築され、本発明のナノワイヤ構造体100が得られる。
【0036】
なお、第4級アンモニウム化合物が原料層状チタン酸塩に対して0.05未満のモル比の場合には、原料層状チタン酸塩が十分に単層剥離されない場合がある。第4級アンモニウム化合物が原料層状チタン酸塩に対して0.28以上の場合には、原料層状チタン酸塩が単層剥離され、ホスト層がTi4+まで溶解するため、より安定なアナターゼまたはルチルが得られる。本願発明者らは、準安定なレピドクロサイト型構造を維持した最小ユニット220を得るに好適なアルカリ濃度の範囲を見出した。
【0037】
第4級アンモニウム化合物は、好ましくは、原料層状チタン酸塩に対して0.1以上0.2以下の範囲のモル比を満たすように調製される。これにより、原料であるレピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩は、単層剥離され、ホスト層はさらに効率的に細分化され、準安定なレピドクロサイト型構造を維持した最小ユニット220が得られる。
【0038】
第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウム塩基を含むものであれば特に制限はないが、好ましくは、第4級アンモニウム水酸化物であり、なお好ましくは、炭素数2以上6以下のアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましく、具体的には、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、テトラブチルアンモニウムムヒドロキシド、テトラペンチルアンモニウムヒドロキシド、および、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0039】
ハロゲン化アンモニウムは、好ましくは、原料層状チタン酸塩に対して0.3以上0.4以下の範囲のモル比を満たすように調製される。これにより、得られた準安定なレピドクロサイト型構造を有する最小ユニットが効率的にナノワイヤ構造体に再構築される。ハロゲン化アンモニウムは、塩化アンモニウム(NHCl)、フッ化アンモニウム(NHF)、臭化アンモニウム(NHBr)等が適用され得る。
【0040】
水熱合成する工程は、上述の原料層状チタン酸塩200を含有する水溶液210をオートクレーブ等の密閉容器に入れ、密閉し、加熱することによって行われる。
【0041】
水熱合成する工程は、好ましくは、120℃以上250℃以下の温度範囲で行われる。これにより、分解および再構築が進行し得る。水熱合成する工程は、さらに好ましくは、150℃以上190℃以下の温度範囲で行われる。これにより、分解および再構築がさらに進行し、効率的に本発明のナノワイヤ構造体100が得られる。水熱合成する工程は、例示的には、0.5MPa以上5MPa以下の圧力範囲で行われる。
【0042】
水熱合成する工程は、好ましくは、24時間以上14日以下の範囲で行われる。これにより、分解および再構築が進行し得る。水熱合成する工程は、さらに好ましくは、3日以上10日以下の範囲で行われる。これにより、分解および再構築がさらに進行し、効率的に本発明のナノワイヤ構造体100が得られる。
【0043】
水熱合成する工程に続いて、得られた生成物を洗浄する工程をさらに行ってもよい。これにより、不純物や未反応の物質が除去される。洗浄には純水、超純水、蒸留水、イオン交換水、ミリQ水等の水やエタノール等のアルコールを採用できる。
【0044】
上述したように、本発明のナノワイヤ構造体100は、高いイオン交換能および光触媒活性を有するため、本発明のナノワイヤ構造体100を用いれば、イオン交換材料および光触媒材料を提供できる。
【0045】
本発明のイオン交換材料は、本発明のナノワイヤ構造体100を含有するため、層間にあるAイオンを、例えば、Cd(カドミウム)、Ni(ニッケル)、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Cr(クロム)、Hg(水銀)およびPt(白金)からなる群から少なくとも1種選択される金属イオンに交換できる。上述の金属イオンを含有する水溶液と本発明のイオン交換材料とを接触させることにより、水溶液中から上述の金属イオンを除去でき、環境浄化、希少金属の回収等が可能である。
【0046】
本発明の光触媒材料は、本発明のナノワイヤ構造体100を含有するため、紫外線(200nm以上400nm以下の範囲の波長を有する光)を照射することによって、ラジカルの発生を利用して有機物を分解し、大気浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚等を可能にする。
【0047】
さらに、このイオン交換能を利用することにより、層状チタン酸塩の層間に金属イオンを包摂させ、固定化できる。このことから、本発明のナノワイヤ構造体100は金属固定化材料として有利である。詳細には、上述したイオン交換を行った後に、紫外線(200nm以上400nm以下の範囲の波長を有する光)を照射すればよい。これにより、Aイオンとイオン交換され、層間に包摂された金属イオンが光還元(光励起電子により還元され)され金属となり、層状チタン酸塩に固定化され得る。
【0048】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0049】
[K0.80Ti1.73Li0.27(KTLO)の調製]
試薬には、炭酸カリウム(KCO、ナカライテスク株式会社製、純度99.5%)、炭酸リチウム(LiCO、東京化成工業株式会社製、純度98%以上)および酸化チタン(TiO、日本エアロジル株式会社製、P25)を用い、モル比でKCO:LiCO:TiO=2.4:0.8:10.4となるように試薬を秤量した。秤量した試薬を撹拌機で2時間混合し、得られた混合物を、大気中、600℃で2時間焼成した。室温まで冷却した後、得られた焼成体を粉砕し、再度、大気中、600℃でさらに20時間焼成した。
【0050】
粉末X線回折(株式会社リガク製、SmartLab)を用い、得られた粉末がレピドクロサイト型構造を有するKTLO粉末であることを同定した。X線源にCu Kα線を用い、管電圧および管電流はそれぞれ40kVおよび30mAであった。
【0051】
KTLO粉末のモルフォロジを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU−8230)で観察した。加速電圧は10.0kVであった。結果を図3に示す。
【0052】
図3は、KTLO粉末のSEM像を示す図である。
【0053】
図3によれば、得られたKTLO粉末は、横方向に100nm以上200nm以下の大きさ、および、最大70nmの厚さを有する板状粒子であった。
【0054】
KTLO粉末にフッ酸溶液を用いた高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES、Agilent 710−ES分光装置)を行い、組成分析を行ったところ、K0.80Ti1.73Li0.27であることを確認した。
【0055】
[水熱合成の実験:例1〜例5]
先に合成したKTLOまたはアナターゼ(触媒学会から供給されたJRC−TIO−1、一次粒子の粒径:20nm)、第4級アンモニウム化合物としてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液(東京化成工業株式会社製、40wt%水溶液)、および、ハロゲン化アンモニウムとしてフッ化アンモニウム(NHF、シグマアルドリッチ製、純度99.9%以上)を用い、表1にしたがって秤量し、テフロン(登録商標)容器を内筒できるステンレス鋼容器に投入し、水熱合成を行った。水熱合成の条件は、170℃、1時間であった。水熱合成後、生成物をエタノールで洗浄し、60℃で乾燥させた。
【0056】
【表1】
【0057】
得られた生成物のモルフォロジをSEM(加速電圧10kV)で観察した。結果を図4図8に示す。得られた生成物をKTLOと同様の条件で粉末X線回折により同定した。結果を図9図11に示す。得られた生成物を電解放出形透過電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM−2100F)によりHRTEM観察を行った。結果を図12に示す。HRTEM観察は加速電圧200kVで行った。
【0058】
得られた生成物の組成分析をICP−AESにより行った。結果を表2に示す。生成物について熱分析(株式会社日立ハイテクサイエンス製、TG/DTA6200)を行った。結果を図13に示す。さらに、得られた生成物の紫外線可視光吸収スペクトルを分光光度計(日本分光株式会社製、JASCO V−570)により測定した。結果を図14に示す。以降では例1〜例5で得られた生成物をそれぞれ例1〜例5の試料と称する場合がある。
【0059】
図4は、例1の試料のSEM像を示す図である。
図5は、例2の試料のSEM像を示す図である。
図6は、例3の試料のSEM像を示す図である。
図7は、例4の試料のSEM像を示す図である。
図8は、例5の試料のSEM像を示す図である。
【0060】
図4によれば、例1の試料は、図3に示す原料のKTLOの様態と完全に異なり、一次元のワイヤ状であった。詳細には、例1の試料は、5nm以上15nm以下の範囲の直径(例1では、8nm以上12nm以下の範囲の直径であることを確認した)、および、60nm以上10μm以下の範囲の長さ(例1では、1μm以上10μm以下の長さを有することを確認した)を満たし、ナノワイヤ構造体であることが分かった。
【0061】
一方、図5図7によれば、例2〜例4の試料は、いずれも、紡錘状粒子の形態を有しており、ナノワイヤ構造体ではなかった。また、第4級アンモニウム化合物のKTLOに対するモル比が増大するにつれて、均一な紡錘状粒子が生成した。図示しないが、原料KTLOに対してTPAOHを0.05モル未満では、原料KTLOの変化が見られないことを予備的実験から確認した。このことから、ナノワイヤ構造体を得るには、水熱合成において、第4級アンモニウム化合物が原料である層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす必要があることが分かった。
【0062】
図8によれば、例5の試料の形態は、水熱合成によって粒子サイズの増大が見られたが、原料のアナターゼと同様の形態を維持した。このことは、本発明の水熱合成による形状の変化は、レピドクロサイト型構造を有する層状チタン酸塩に特異な現象であることが示唆される。
【0063】
図9は、例1の試料のXRDパターンを示す図である。
図10は、例2〜例4の試料のXRDパターンを示す図である。
図11は、例5の試料のXRDパターンを示す図である。
【0064】
図9によれば、例1の試料のXRDパターンは、ごくわずかにアナターゼ型酸化チタン(単にアナターゼという)を示すピークを示したが、主として、原料であるKTLOのそれに良好に一致した。
【0065】
なお、例1の試料に含有されるアナターゼは、0.1wt%と算出された。アナターゼの含有量の算出には、検量線を用い、X線回折パターンにおけるアナターゼの(010)面と、KTLOの(020)面との強度比から算出した。このことから、例1の試料は、水熱合成後もKTLOを主成分とするレピドクロサイト型構造を有することが分かった。
【0066】
一方、図10によれば、例2〜例4の試料のXRDパターンは、第4級アンモニウム化合物の濃度が多くなるにつれて、KTLOを示す回折ピークが低減し、アナターゼを示す回折ピークが増大した。特に、例4の試料のXRDパターンは、アナターゼのそれに実質的に一致し、KTLOを示す回折ピークは見られなかった。
【0067】
また、図11によれば、例5の試料のXRDパターンは、原料のアナターゼのそれに一致したが、ピークの半値幅が低減し、結晶性が向上したことが分かった。このことは、図8に示す結果と良好に一致し、水熱合成により、結晶性および粒成長が生じたためである。
【0068】
図12は、例1の試料のHRTEM像およびEDパターンを示す図である。
【0069】
図12によれば、例1の試料のナノワイヤ構造体の層間距離が0.79nmであり、図9に示すX線回折の結果に良好に一致することが分かった。このこの層間距離(0.79nm)は、原料のKTLOのそれ(0.78nm)よりも大きかった。また、ナノワイヤ構造体の長手方向に層が延び、直径方向にその層が積層した層状構造をなしていることを確認した。
【0070】
以上の結果から、組成式ATi2−y4+z(Aは、K、Rb、CsおよびHからなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、Bは、Li、Mg、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、NbおよびFeからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.5≦x≦1.1、
0≦y≦0.9、および
−0.1≦z≦0.1
を満たすレピドクロサイト型構造を有するナノワイヤ構造体が得られたことが示された。
【0071】
また、図2を参照して説明した本発明の方法は、上述のナノワイヤ構造体を得るに有効であることが示された。特に、図4図7および図9図10の結果を参照すれば、KTLOは、水熱合成において第4級アンモニウム化合物が、層状チタン酸塩に対して0.05以上0.28未満の範囲のモル比を満たす条件では、辺および角を共有したTiO八面体の一次元鎖に分解されて、それらが再度構築されて準安定なレピドクロサイト型構造を維持したままナノワイヤ構造体となるが、上記モル比を超えると、Ti4+まで分解され、安定なアナターゼを形成することが分かった。
【0072】
次に、ICP発光分光分析の結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
原料に用いたKTLOは、K0.80Ti1.73Li0.27で表され、K、TiおよびLiは、それぞれ、16.1wt%、43wt%および0.92wt%であったが、例1の試料(ナノワイヤ構造体)は、K0.630.21Ti1.72Li0.2で表され、K、TiおよびLiは、それぞれ、12.8wt%、44.5wt%および0.94wt%であった。ここで、それぞれのホスト層の電荷密度は、ほぼ一致した(詳細には[Ti1.73Li0.270.80−および[Ti1.72Li0.280.84−)が、例1の試料は、層間にKとともにHが存在した。
【0075】
図13は、例1の試料の熱重量曲線を示す図である。
【0076】
図13には、原料KTLOの熱重量曲線も併せて示す。図13によれば、例1の試料は、原料KTLOに比べて、100℃にて大きな重量変化を示し、層間にHOまたはHを多く含有した。この結果は、上述の層間にHが存在すること、また、図12に示す層間距離の増大に良好に一致した。
【0077】
このことから、上記一般式においてAがKおよびHであり、BがLiである場合、本発明のナノワイヤ構造体は、組成式KTiLiで表され、パラメータa〜e、それぞれ、
0.6≦a≦0.65、
0.15≦b≦0.25、
1.7≦c≦1.8、
0.2≦d≦0.3、および、
3.9≦e≦4.1
を満たすことが示された。
【0078】
図14は、例1の試料のUV−visスペクトルを示す図である。
【0079】
図14には、原料KTLOおよびベンチマークである酸化チタン触媒P25(日本アエロジル社製)のUV−visスペクトルも併せて示す。図14によれば、例1の試料のバンドギャップは、原料KTLOのそれに一致し、実質的に同じバンド構造を有することが分かった。このことから、例1の試料は、一次元のナノワイヤの形状を有していても、二次元層状構造である原料KTLOの特徴も維持していることが示唆される。
【0080】
[光触媒の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)の光触媒活性について調べた。
【0081】
光触媒活性としてギ酸の酸化反応について調べた。パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中で5vol%のギ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度98%)を含有する水溶液(5mL)に例1の試料(15mg)を分散させ、バブリングにより酸素を通気させた。その後、ガラス管をゴム隔膜で封止し、攪拌しながらソーラーシミュレータ(株式会社三永電機製作所製、λ>300nm、1000Wm−2)で紫外線を照射した。ガラス管の上部空間の気体(CO)を、バリア放電イオン化検出器(BID検出器)を備えたガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、GC−2010 Plus)で評価した。結果を図15に示す。なお、比較のため、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼについても同様にギ酸の酸化反応を調べた。
【0082】
また、光触媒活性として水からの水素発生について調べた。パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中でメタノール水溶液(5mL、V/V比で1/1)に例1の試料(15mg)を分散させ、次いで、HPtCl・HO(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度99.9%、例1の試料に対するPt:0.5wt%)を溶解させた。得られた分散液にバブリングによりアルゴンを通気させた。上述したギ酸の酸化反応と同様にして紫外線を照射し、ガラス管の上部空間の気体をガスクロマトグラフで評価した。結果を図16に示す。なお、比較のため、原料KTLOについても同様に水素発生を調べた。
【0083】
図15は、例1の試料のCO発生の変化を示す図である。
図16は、例1の試料のH2発生の変化を示す図である。
【0084】
図15には、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼの結果を併せて示す。図15によれば、例1の試料は、原料KTLO、原料KTLOと0.1wt%アナターゼとの混合物、および、0.1wt%アナターゼと比較して、COの発生量が顕著に増大していた。
【0085】
図14を参照して説明したように、実施例1の試料と原料KTLOとが同じバンド構造を有していることから、実施例1の試料の高い光触媒活性は、一次元ナノワイヤ形状に起因して電荷分離が増大したためといえる。
【0086】
図16には、原料KTLOの結果を併せて示す。図16によれば、原料KTLOは、Hを発生しなかったが、例1の試料は、Hの発生量が顕著に増大していた。水からの水素発生は二電子還元によって生じるため、原料KTLO等の低活性なTiO基光触媒は、通常、このような触媒活性を示さない。このことからも、実施例1の試料では、一次元ナノワイヤ形状に起因して電荷分離が増大することによって、光触媒活性が増大したことが分かった。
【0087】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、光触媒材料として機能することが示された。
【0088】
[イオン交換の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)のイオン交換能について調べた。
【0089】
パイレックス(登録商標)ガラス管(34mL)中でCdCl(Strem Chemicals,Inc.製、純度99.9%)およびNiCl(シグマアルドリッチ製、純度99.9%)の水溶液(20mL、Cd2+およびNi2+の濃度は、それぞれ、50ppmおよび95ppm)に例1の試料(15mg)を添加し、バブリングによりアルゴンを通気させた。その後、犠牲剤としてメタノールを添加し、ガラス管をゴム隔膜で封止し、攪拌した。混合物を分離し、上澄み液中のCd2+およびNi2+の量をICP−AESにより評価した。結果を図17に示す。なお、比較のため、原料KTLO、および、酸化チタン触媒P25についても同様にイオン交換能を調べた。
【0090】
図17は、例1の試料のCd2+イオンの吸着量の変化を示す図である。
【0091】
図17には、原料KTLO、および、P25の結果を併せて示す。図17によれば、例1の試料は、原料KTLOに比べて顕著に早くCd2+イオンが吸着し、20分以内に吸着が完了した。一方、原料KTLOは、Cd2+イオンの吸着に60分を要した。最大吸着量は、0.7mmolg−1と算出され、陽イオン交換容量(<1.5mequivg−1)に実質的に一致した。このことは、添加したCd2+イオンは、例1の試料中の層間のKイオンとすべてイオン交換されたことを示す。なお、P25は、Cd2+を吸着しなかった。図示しないが、Ni2+も同様の結果であった。
【0092】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、イオン交換材料として機能することが示された。特に、環境中の有毒な金属イオンや希少な金属イオン等をイオンに吸着できるので、有効である。
【0093】
[金属固定化の実験]
次に、例1の試料(ナノワイヤ構造体)の金属固定化について調べた。イオン交換の実験において、紫外線を照射した以外は同様であるため説明を省略する。紫外線照射の条件は光触媒の実験と同じであった。
【0094】
紫外線照射後の例1の試料中のCd金属およびNi金属の量をICP−AESにより評価した。結果を図18および図19に示す。紫外線照射後の例1の試料についてX線光電子分光分析(XPS、アルバックファイ株式会社製、PHI Quantera SXM)を行った。励起X源にAl Kα線(管電圧20kV、管電流5mA)を用いた。結果を図20に示す。紫外線照射後の試料をHRTEM観察(加速電圧200kV)した。結果を図21に示す。また、紫外線照射前後の例1の試料についてX線回折を行った。結果を図22に示す。なお、比較のため、原料KTLO、および、酸化チタン光触媒P25についても同様に金属固定化を調べた。
【0095】
図18は、Cd2+イオン交換後の例1の試料のCd金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
図19は、Ni2+イオン交換後例1の試料のNi金属の堆積量と紫外線照射時間との関係を示す図である。
【0096】
図18によれば、例1の試料は、紫外線照射によって、瞬時に、Cd2+がCd金属に光還元されたが、原料KTLOおよびP25は、紫外線照射によっても何ら変化は見られなかった。詳細には、例1の試料には、紫外線照射後、わずか1分以内に、約1.3mequivg−1のCdが堆積された。
【0097】
図19によれば、図18と同様に、例1の試料は、紫外線照射によって、瞬時にNi2+がNi金属に光還元された。例1の試料には、紫外線照射後、1時間後には、約1.0mequivg−1のNiが堆積されたことを確認した。原料KTLOおよびP25は、紫外線照射によっても何ら変化は見られなかった。
【0098】
図20は、Cd2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射後のXPSスペクトルを示す図である。
【0099】
図20には、P25および原料KTLOの結果も併せて示す。図20によれば、例1の試料では、Cd金属を示すピークが観察された。P25および原料KTLOでも類似のピークが見られたが、ピーク位置を詳細に検討したところ、これらは、未反応のCdイオンを示すものであり、Cd金属ではなかった。このことからも、例1の試料では、内部に包摂された金属イオンを金属に光還元できることが示された。
【0100】
図21は、Cd2+イオン交換後かつ紫外線照射後の例1の試料のHRTEM像を示す図である。
【0101】
図21において、直径8nmのナノワイヤ構造体が示されるが、その内部に直径0.5nm以上1nm以下を有するコントラストが暗く示される複数の領域(図21では例示的に一部を丸で囲って示す)が見られる。これらは、Cd金属を示しており、紫外線照射によって、Kとイオン交換されたCd2+は光還元され、Cd金属からなるナノ粒子となり、ナノワイヤ構造体内部に固定化されていることが示唆される。図示しないが、Ni2+の場合も同様の様態を示した。
【0102】
図22は、Cd2+イオン交換後の例1の試料の紫外線照射前後のXRDパターンを示す図である。
【0103】
図22によれば、紫外線照射によって、層間距離を示すピークは、低角側にシフトし、層間距離が増大したことが分かった。このことからも、例1の試料において、Kとイオン交換されたCd2+は光還元され、Cd金属からなるナノ粒子となり、ナノワイヤ構造体内部に固定化されていることが示唆される。図示しないが、Ni2+の場合も同様の傾向を示した。
【0104】
以上より、本発明のナノワイヤ構造体は、金属固定化材料として機能することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のナノワイヤ構造体は、レピドクロサイト型構造を有する上述の組成式ATi2−y4+zで表される層状チタン酸塩の二次元の特徴に加えて、優れたイオン交換能および光触媒活性を有するため、イオン交換材料、光触媒材料および金属固定化材料に適用される。
【符号の説明】
【0106】
100 ナノワイヤ構造体
200 層状チタン酸塩
210 第4級アンモニウム化合物およびハロゲン化アンモニウムを含有する水溶液
220 最小ユニット
230 Aイオン
図1
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