【実施例】
【0012】
実施例に係るメカニカルシール用回り止めピンにつき、
図1から
図6を参照して説明する。以下、
図1の紙面右側を大気領域である機外側、紙面左側を機内側として説明する。
【0013】
図1に示されるように、本実施例のメカニカルシール1は、回転軸2とともに回転する回転密封環4と、シールカバー10に配設されたコイルスプリング8により付勢された静止密封環6と、を備えた静止形のメカニカルシール1である。また、本実施例のメカニカルシール1は、機内側のシールカバー10と機外側のシールカバー10’とに円環状の静止密封環6,6’が対向状態で並設配置され、これら静止密封環6,6’の間に、回転環2に固定されたスリーブ3に接続されている回転密封環4,4’が背面同士で近接して配設されているダブル型のメカニカルシール1である。このメカニカルシール1は、シールカバー10,10’に回り止めピンとしてのノックピン7,7’を介して固定された円環状の静止密封環6,6’を有する静止側要素Sと、回転軸2とともに回転する回転密封環4,4’を有する回転側要素Rとで主に構成されている。
【0014】
図1及び
図2を用いて、回転側要素R及び静止側要素Sをより詳しく説明する。
図1に示されるように回転側要素Rは、回転軸2に固定状態で取付けられたスリーブ3と、スリーブ3に固定され該スリーブ3から機内側と機外側にそれぞれ略水平に延出する回り止めピンとしてのドライブピン5,5’と、該ドライブピン5,5’を介して回転軸2から伝えられる回転力によって周方向に回転する円環状の回転密封環4,4’と、から主に構成されている。
【0015】
静止側要素Sは、円環状に形成されたシールカバー10,10’が軸方向に対向するように配置され、連結ボルト11をシールカバー10,10’の軸方向に挿通させて互いに連結されている。また、シールカバー10,10’には、静止密封環6,6’を背面側から軸方向に向けて付勢するコイルスプリング8,8’と、回転密封環4,4’と摺接される静止密封環6,6’の供回りを防止するノックピン7,7’とが取り付けられている。加えて、また、シールカバー10,10’には、静止密封環6,6’の外径側に円環状のケース13、13’が内嵌されている。また、
図1に示されるようにシールカバー10は、径方向に形成されたバリア液流入口9を有し、またシールカバー10’は径方向に形成されたバリア液流出口9’を有している。バリア液流入口9から流入されたバリア液Bは、ケース13によって径方向に連通されている連通路L1を通過し、後述する空間Zに流入され、空間Zからケース13’の連通路L2を通過し、バリア液流出口9’へ流動するようになっている。また、バリア液Bは、被密封流体Hよりも高圧になるように流体圧は管理されている。本実施例のメカニカルシール1は、上述したようにダブル型であり、軸方向に対向配置された同様の構成を有しているため、以下は機内側の静止密封環6、回転密封環4等の構成について説明し、機外側の構成については説明を省略する。
【0016】
図2に示されるように、シールカバー10は、軸方向視環状に形成されており、静止密封環6を軸方向に向けて付勢するようにコイルスプリング8が周方向に等配に複数配設されている。このようにコイルスプリング8が複数等配に配設されていることで、静止密封環6の背面6aに均等な面圧で、回転密封環4に向けた付勢力を軸方向に伝達するように構成されている。また、シールカバー10には、周方向に等配されているコイルスプリング8よりも外周側に穴部10aが同様に周方向に等配に形成されており、この穴部10aに後述するノックピン7の圧入部27が圧入固定されるようになっている。
【0017】
次に、ノックピン7について詳しく説明する。
図3に示されるように、ノックピン7は、略円柱状に形成されており、シールカバー10の穴部10aと略同径に形成され、穴部10aに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される嵌入部17と、から主に構成されている。
【0018】
また、ノックピン7の嵌入部17は、静止密封環6の背面6a側にノックピン7の配置に対応して形成された凹部としての切欠き部6b内に、軸方向に遊嵌状態で嵌入するように配設され、回転密封環4との摺動による静止密封環6の周方向の移動を規制しつつ、軸方向への移動を許容されるようになっている。この切欠き部6bは、ノックピン7の嵌入部17よりも大径且つ軸方向に長寸に形成されている。
【0019】
嵌入部17は円柱状に形成され、その外周面17bには、嵌入部17の軸方向の基端側(すなわち圧入部27側)から先端側にかけて断面視略矩形状の溝が螺旋状に穿設された螺旋溝部17aが形成されている。螺旋溝部17aは、本実施例では嵌入部17の外周面17bにおいて4周以上旋回して形成されており、基端側から先端側に、同一ピッチ、同一幅、及び同一深さで旋回している。また、螺旋溝部17aの先端部17cは軸方向に開放されている。なお、螺旋溝部17aは、少なくとも1周以上旋回していればよく、また、螺旋溝部17aは、嵌入部17の外周面17bに複数条形成されていてもよい。更に特に図示しないが、静止密封環6をスリーブ3に対し回り止めするドライブピン5の外周面にも、上述したノックピン7と同様に螺旋溝部が形成されていてもよい。
【0020】
次に
図4を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時において、被密封流体Hと、被密封液体としてのバリア液Bと、漏れ側である大気Aとが占有する領域を説明する。
図4に示されるように、機内側である紙面左方側には、代替フロンなどの被密封流体Hが回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eによって密封されている。機外側である紙面右方側には、大気Aが回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’によって区画されている。
【0021】
また、バリア液流入口9から流入されたバリア液Bは、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eと、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、シールカバー10,10’とから形成される空間Zに充填され、更にケース13,13’に径方向に貫通形成された連通路L1を通じて摺動部E,E’側へ導入され、連通路L2を通じてバリア液流出口9’から流出されるようになっている。また、バリア液Bは被密封流体Hより高圧になるように管理されているので、摺動部Eの摺動不良により異常が発生したとしても、被密封流体Hが空間Z側へ流入することを抑えるように構成されている。
【0022】
図5を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時における、ノックピン7と静止密封環6との嵌合態様について詳しく説明する。
図5に示されるように、コイルスプリング8に付勢された静止密封環6に対向する回転密封環4が周方向に回転すると、この静止密封環6の背面6aに形成された切欠き部6bに嵌入されたノックピン7の嵌入部17の周面が、切欠き部6bの一方の内壁面6cに周方向に押圧状態で当接することで、静止密封環6の供回りを規制する。ノックピン7の嵌入部17は、螺旋溝部17aが形成されているので、空間Z内に流入されるバリア液Bを螺旋溝部17aを通じて切欠き部6b内に導入するようになっている。
【0023】
図6に示されるように、螺旋溝部17aは、嵌入部17の外周面17bにおいて周方向且つ軸方向に亘って旋回しているので、螺旋溝部17aを通じて導入されたバリア液Bは、外周面17bと、静止密封環6の背面側6aにおける切欠き部6bとの間、より詳しくは、嵌入部17の外周面17bと、この外周面17bに押圧状態で当接する切欠き部6bの内壁面6cとの当接箇所に、流体膜Fを形成させるようになっている。流体膜Fは、バリア液Bが嵌入部17の螺旋溝部17aを通じて外周面17bに漏出することで、前述した当接箇所の全面に亘り形成される。
【0024】
以上説明したように、回転軸2に取り付けられる回転側要素Rとともに周方向に回転する回転密封環4と、静止側要素Sに固定される静止密封環6とが相対摺動するメカニカルシールに用いられ、回転密封環4を回転側要素Rに対し回り止めし、若しくは静止密封環6を静止側要素Sに対し回り止めする回り止めピンとしてのノックピン7であって、ノックピン7は、回転側要素R若しくは静止側要素Sに固定に設けられる固定部としての圧入部27と、回転密封環4若しくは静止密封環6の摺動面Eの背面6aに形成された凹部としての切欠き部6b内に嵌入される柱状の嵌入部17とを備え、切欠き部6bの内面に接する嵌入部17の外周面17bに、周方向に沿って螺旋状に延びる螺旋溝部17aが設けられていることから、密封環の切欠き部6bに嵌入したノックピン7の嵌入部17の螺旋溝部17aを通じて、周囲の流体を切欠き部6b内に導入することで、ノックピン7の外面と密封環の凹部の内面との間に、周方向且つ軸方向に拡がる流体膜Fを生成できるため、この流体膜Fによってノックピン7と切欠き部6bとの接触個所を潤滑にして、回り止めピンの摩耗や破損の発生を抑制することができる。また、回転軸2に伴う回転側要素Rの回転により、メカニカルシール1の装置全体に軸方向の振動が発生すると、この振動により流体が螺旋溝部17aに沿って移動し易くなるため、流体膜Fを広い範囲に生成することができる。
【0025】
また、螺旋溝部17aは、嵌入部17の周方向に1周以上旋回していることから、ノックピン7の外周面17bに全周に亘り流体膜Fを生成することができる。
【0026】
また、螺旋溝部17aは、嵌入部17の軸方向の両端にかけて連続して延設されていることから、バリア液Bを切欠き部6b内に導入し易く、ノックピン7と切欠き部6bとの間に流体膜Fを確実に生成できる。
【0027】
また、螺旋溝部17bの端部17cは、嵌入部17の軸方向の先端に向けに開放されていることから、螺旋溝部17bの軸方向の先端に向け開放された端部17cを通じて、切欠き部6bの軸方向の内奥まで流体を導入し易く、この流体により内奥側まで流体膜Fを形成することができる。
【0028】
また、螺旋溝部17aは、断面視で矩形状に形成されていることから、ノックピン7の外周面17bに摩耗が生じても溝幅が維持されるため、流体の流動性を確保し安定した潤滑性を得ることができる。
【0029】
また、螺旋溝部17bは、嵌入部17の周方向に同一ピッチ、同一幅、及び同一深さで旋回していることから、切欠き部6bに均質な流体膜Fを生成することができる。
【0030】
また、
図3に示されるように、静止密封環6の外径側に配設されたケース13の連通路L1が、ノックピン7の嵌入部17と軸方向に略同位相に形成されているため、この連通路L1を通じて流入するバリア液Bが、嵌入部17に形成された螺旋溝部17aに導入され易い。
【0031】
なお、螺旋溝部17bは、嵌入部17の外周面17bに複数条設けられていてもよく、このようにすることで、切欠き部6b内の潤滑性を高めることができる。
【0032】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0033】
例えば、前記実施例では、ノックピン7を円柱状と説明したが、これに限られず、四角柱や六角柱としてもよい。
【0034】
また、前記実施例では、ノックピン7に螺旋溝部17aが形成されていたが、これに限られず、ドライブピン5に螺旋溝部17aが形成されていてもよい。
【0035】
また、前記実施例では、ダブル型のメカニカルシール1に回り止めピンが適用されているが、これに限らず本発明に係る回り止めピンは、シングル型、タンデム型のメカニカルシールに適用されてもよい。