【解決手段】回転軸2に取り付けられる回転側要素Rとともに周方向に回転する回転摺動環4と、静止側要素Sに固定される静止摺動環6とが相対摺動する摺動部品1に用いられ、回転摺動環4を回転側要素Rに対し回り止めし、若しくは静止摺動環6を静止側要素Sに対し回り止めする回り止め機構であって、回り止め機構は、凹部6bと、凹部6b内に嵌入される嵌入部17と、から構成されており、凹部6bの内面若しくは嵌入部17の外面に、流体を導入する溝部6fが設けられている。
回転軸に取り付けられる回転側要素とともに周方向に回転する回転摺動環と、静止側要素に固定される静止摺動環とが相対摺動する摺動部品に用いられ、前記回転摺動環を前記回転側要素に対し回り止めし、若しくは前記静止摺動環を前記静止側要素に対し回り止めする回り止め機構であって、
前記回り止め機構は、凹部と、前記凹部内に嵌入される嵌入部と、から構成されており、前記凹部の内面若しくは前記嵌入部の外面に、流体を導入する溝部が設けられている回り止め機構。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような摺動部品に適用される回り止め機構にあっては、摺動環同士の回転摺動により、摺動環の背面側の凹部内面と嵌入部外面との当接箇所に発生する振動等を原因として、嵌入部や凹部に摩耗や破損が生じ易く、回り止め機構の耐久性に乏しかった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摩耗や破損の発生を抑制して耐久性の高い摺動部品用の回り止め機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の回り止め機構は、
回転軸に取り付けられる回転側要素とともに周方向に回転する回転摺動環と、静止側要素に固定される静止摺動環とが相対摺動する摺動部品に用いられ、前記回転摺動環を前記回転側要素に対し回り止めし、若しくは前記静止摺動環を前記静止側要素に対し回り止めする回り止め機構であって、
前記回り止め機構は、凹部と、前記凹部内に嵌入される嵌入部と、から構成されており、前記凹部の内面若しくは前記嵌入部の外面に、流体を導入する溝部が設けられている。
これによれば、凹部の内面若しくは凹部内に嵌入された嵌入部の外面に設けられた溝部を通じて、周囲の流体が導入されることで、嵌入部の外面と凹部の内面との間に、流体膜を生成できるため、この流体膜によって嵌入部と凹部との接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0008】
前記溝部は、前記嵌入部の外面と前記凹部の内面との接触領域と、前記接触領域を除く非接触領域とにかけて延設されていてもよい。
これによれば、凹部の内面と嵌入部の外面との非接触領域から接触領域に向けて流体を導入し易く、この接触領域に流体膜を確実に生成できる。
【0009】
前記溝部は、前記嵌入部の軸方向の両端にかけて延設されていてもよい。
これによれば、流体を凹部内の軸方向により広い領域で流体膜を得ることができるばかりか、摺動環の軸方向の移動の際に引っ掛りが生じない。
【0010】
前記溝部の端部は、前記嵌入部の軸方向に開放されていてもよい。
これによれば、溝部の軸方向に開放された端部を通じて流体を導入し易く、また摩耗粉を溝部から排出し易い。
【0011】
前記溝部は、流路を分岐する分岐部を有していてもよい。
これによれば、溝部に導入した流体を分岐することで流体膜の形成領域を広範囲に拡げることができる。
【0012】
前記溝部は、前記凹部に流体を供給する連通路と対向する位置に形成されていてもよい。
これによれば、連通路を介し凹部に供給される流体の流れを利用して、溝部に流体を導入し易い。
【0013】
前記溝部は、流体を導入する入口側から出口側に向けて幅狭に形成されていてもよい。
これによれば、溝部の入口側の間口を広げて流体を導入し易くできるうえに、出口側に向けて流体の圧力を増大させて潤滑性を高めることができる。
【0014】
前記溝部は、前記嵌入部の全周に亘り延設されていてもよい。
これによれば、凹部の内面と嵌入部の外面との接触領域に流体を確実に導入することができる。
【0015】
前記溝部は、前記摺動環の径方向に閉塞されていてもよい。
これによれば、摺動環に軸方向に作用する振動を利用して、動圧の発生効果を得ることができる。
【0016】
前記溝部は、流体を滞留させる幅広部を有していてもよい。
これによれば、幅広部にて滞留した流体が凹部の内面または嵌入部の外面に接することで、流体膜の形成領域を確保できる。
【0017】
前記溝部は、前記嵌入部の外面に複数条設けられてもよい。
これによれば、凹部内の潤滑性を高めることができる。
【0018】
前記複数条の溝部は、同一ピッチに離間していてもよい。
これによれば、凹部内に均質な流体膜を生成することができる。
【0019】
前記複数条の溝部は、同一幅及び同一深さで延設されていてもよい。
これによれば、凹部内に均質な流体膜を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る回り止め機構を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図1から
図5を参照して説明する。以下、
図1の紙面右側を大気領域である機外側、紙面左側を機内側として説明する。
【0023】
図1に示されるように、実施例1の摺動部品としてのメカニカルシール1は、回転軸2とともに回転する回転摺動環としての回転密封環4と、シールカバー10に配設されたコイルスプリング8により付勢されているリテーナ18から押圧される静止摺動環としての静止密封環6と、を備えた静止形のメカニカルシール1である。また、本実施例のメカニカルシール1は、機外側のシールカバー10と機内側のシールカバー10’に対し回り止めされる円環状の静止密封環6,6’と、回転軸2に固定されたスリーブ3に対し回り止めされる回転密封環4,4’とが、軸方向に同一方向を向いて配設されているタンデム型のメカニカルシール1である。このメカニカルシール1は、シールカバー10,10’に回り止めピンとしてのノックピン7,7’を介して固定された円環状のケース9に回り止めされている静止密封環6,6’を有する静止側要素Sと、回転軸2とともに回転する回転密封環4,4’を有する回転側要素Rとで主に構成されている。
【0024】
図1を用いて、回転側要素R及び静止側要素Sをより詳しく説明する。
図1に示されるように回転側要素Rは、回転軸2に固定状態で取付けられたスリーブ3と、該スリーブ3に固定された回転環保持部材20,20’と、該回転環保持部材20,20’から機外側にそれぞれ略水平に延出する回り止めピンとしてのドライブピン5,5’と、該ドライブピン5,5’を介して回転軸2から伝えられる回転力によって周方向に回転する円環状の回転密封環4,4’と、から主に構成されている。
【0025】
静止側要素Sは、シールカバー10,10’が軸方向に隣接するように配置され、連結ボルト11をシールカバー10,10’の軸方向に挿通させて機器本体Mに固定されている。また、シールカバー10,10’には、リテーナ18,18’を背面側から軸方向に向けて付勢するコイルスプリング8,8’と、回転密封環4,4’と摺接される静止密封環6,6’の供回りを防止するノックピン7,7’とが取り付けられている。ノックピン7,7’は、ケース9,9’の背面側から軸方向に向けて係合するようになっており、ケース9,9’は、シールカバー10,10’内において、静止密封環6,6’の外径側に内嵌されている。
【0026】
また、
図1に示されるようにシールカバー10は、径方向に形成されたバリア液流入口19とクエンチング液流入口49を有し、またシールカバー10’は径方向に形成されたフラッシング液流入口39とバリア液流出口29を有している。バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、ケース9によって径方向に連通されている連通路L1を通過し、後述する空間Zに流入され、空間Zからバリア液流出口29へ流動するようになっている。また、バリア液Bは、被密封流体Hよりも高圧になるように流体圧は管理されている。本実施例のメカニカルシール1は、上述したようにタンデム型であり、軸方向に同様に配置された構成を有しているため、以下は機外側の静止密封環6、回転密封環4等の構成について説明し、機内側の構成については説明を省略する。
【0027】
図1に示されるように、シールカバー10は、軸方向視環状に形成されており、リテーナ18を軸方向に向けて付勢するようにコイルスプリング8が周方向に等配に複数配設されている。このようにコイルスプリング8が複数等配に配設されていることで、リテーナ18が静止密封環6の背面6aを均等な面圧で、回転密封環4に向けた付勢力を軸方向に伝達するように構成されている。また、シールカバー10には、周方向に等配されているコイルスプリング8よりも外周側に穴部10aが同様に周方向に等配に形成されており、この穴部10aに後述するノックピン7の圧入部27が圧入固定されるようになっている。
【0028】
次に、ケース9について詳しく説明する。
図2に示されるようにケース9は、軸方向視円環の筒状に形成された筒部90と、該筒部90から内径側に突出して軸方向に延設された柱状の嵌入部としての突出部91と、該筒部90に径方向に貫通形成された連通路L1と、から主に形成されている。突出部91は連通路L1と同位相、すなわち周方向及び径方向に対向する位置に配置されている。突出部91は、周方向に面して配置される一対の平面からなる側壁部91aと、内径方向に面する平面からなる底部91bとから構成された角柱状に形成されており、側壁部91aには、複数条の溝からなる溝部93が形成されている(
図4参照。)。詳しくは溝部93は、断面視略矩形状の溝底を有し軸方向にかけて貫通する溝からなり、径方向に所定ピッチで離間して平行に独立して複数条形成されている。また、静止密封環6の外周面6cには、軸方向に亘って矩形状の凹部6dが形成されており、先述したケース9の突出部91が遊嵌するように大形に形成されている。これによりケース9の突出部91が静止密封環6の凹部6d内に径方向若しくは軸方向から挿入され、周方向に嵌合するようになっており、回転密封環4と摺接される静止密封環6の供回りを防止することができるようになっている。すなわち凹部6dと突出部91とにより回り止め機構が構成されている。
【0029】
次に
図3を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時において、被密封流体Hと、被密封液体としてのバリア液Bと、漏れ側である大気Aとが占有する領域を説明する。
図3に示されるように、機内側である紙面左方側には、被密封流体Hが回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’によって密封されている。機外側である紙面右方側には、大気Aが回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eによって区画されている。また、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eとの間に形成されている空間Zには、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bが密封されている。
【0030】
また、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eと、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、シールカバー10,10’とから形成される空間Zに充填され、バリア液流出口29から流出されるようになっている。また、バリア液Bは被密封流体Hより高圧になるように管理されているので、摺動部E’の摺動不良により異常が発生したとしても、被密封流体Hが空間Z側へ流入することを抑えるように構成されている。
【0031】
図4を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時における、ケース9と静止密封環6との嵌合態様について詳しく説明する。リテーナ18(
図1参照)を介してコイルスプリング8に付勢された静止密封環6に対向する回転密封環4が周方向に回転すると、この静止密封環6の凹部6d内に遊嵌状態で嵌入された突出部91の側壁部91aが、凹部6dの一方の内壁面6eに周方向に押圧状態で当接することで、静止密封環6の供回りを規制する。ケース9の突出部91における側壁部91aには、軸方向に延びる溝部93が両端にかけて形成されているので、空間Z内に流入されるバリア液Bを溝部93を通じて凹部6d内に導入するようになっている。尚、ケース9’と静止密封環6’については、被密封流体Hを凹部6d’内に導入するようになっている。
【0032】
溝部93は、突出部91の側壁部91aにおいて軸方向に亘って形成されているので、溝部93を通じて導入されたバリア液Bは、側壁部91aと、静止密封環6の外周面6cにおける凹部6dとの間、より詳しくは、突出部91の側壁部91aと、この側壁部91aに押圧状態で当接する凹部6dの径方向かつ軸方向に延びる平坦な内壁面6eとの当接箇所に、流体膜Fを形成させるようになっている。流体膜Fは、バリア液Bが突出部91の溝部93を通じて側壁部91aの平坦なランド部91cに漏出することで、前述した当接箇所の全面に亘り形成される。
【0033】
また、突出部91における側壁部91aの溝部93は、軸方向に亘って端部93aまで形成されているので、凹部6dとの接触領域S1と、凹部6dとの非接触領域S2とにかけて延設されることとなり、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bを、非接触領域S2から接触領域S1に向けて導入させ易くなっている。よって、バリア液Bを凹部6dの軸方向の内奥まで導入させ、より広い領域で流体膜Fを得ることができるばかりか、コイルスプリング8による静止密封環6の軸方向の移動の際に引っ掛りが生じないようになっている。
【0034】
先述したように溝部93は、複数条の溝からなり、各溝は径方向に同一ピッチに離間して溝部93が形成されている。加えて、各溝は、同一幅及び同一深さで延設されており、凹部6d内において流体膜Fを均一形成させることができるようになっている。
【0035】
ここで
図5に示されるように、溝部の変形例として、静止密封環6の凹部6dの内壁面6eに、同一幅及び同一深さ、同一ピッチの溝部6fを形成してもよい。また、内壁面6eの両端にかけて溝部6fを形成することで、流体を導入し易く、摩耗粉を溝部6fから排出し易い。また、溝部を凹部6dと突出部91との両方に設けてもよい。
【0036】
以上、実施例1及び変形例と説明したように、回転軸2に取り付けられる回転側要素Rとともに周方向に回転する回転密封環4と、静止側要素Sに固定される静止密封環6とが相対摺動する摺動部品に用いられ、回転密封環4を回転側要素Rに対し回り止めし、若しくは静止密封環6を静止側要素Sに対し回り止めする回り止め機構であって、回り止め機構は、凹部6dと、凹部6d内に嵌入される嵌入部としての突出部91と、から構成されており、凹部6dの内壁面6eに接する突出部91の側壁部91aに溝部93が設けられていることから、摺動環の凹部6d内に嵌入した突出部91の溝部93を通じて、周囲の流体が導入されることで、突出部91の側壁部91aと摺動環の凹部6dの内壁面6eとの間に、流体膜Fを生成できるため、この流体膜Fによって突出部91と凹部6dとの接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0037】
また、溝部93は、突出部91の側壁部91aと凹部6dの内壁面6eとの接触領域S1と、接触領域を除く非接触領域S2とにかけて延設されていることから、凹部6dの内壁面6eと突出部91の側壁部91aとの非接触領域S2から接触領域S1に向けて流体を導入し易く、この接触領域に流体膜Fを確実に生成できる。
【0038】
また、溝部93は、突出部91の軸方向の両端にかけて延設されていることから、流体を凹部6d内の軸方向により広い領域で流体膜Fを得ることができるばかりか、摺動環の軸方向の移動の際に引っ掛りが生じない。
【0039】
また、溝部93の端部93aは、突出部91の軸方向に開放されていることから、溝部93の軸方向に開放された端部93aを通じて流体を導入し易く、また摩耗粉を溝部93から排出し易い。
【0040】
また、溝部93は、突出部91の外面に複数条設けられることから、凹部6d内の潤滑性を高めることができる。
【0041】
また、複数条の溝から形成されている溝部93は、同一ピッチに離間していることから、凹部6d内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【0042】
また、複数条の溝部93は、同一幅及び同一深さで延設されていることから、凹部6d内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【実施例2】
【0043】
次に、実施例2に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図6ないし
図8を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
実施例2におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図6に示されるように、本実施例においては、リテーナ18を省略しコイルスプリング8が静止密封環6の背面に接して付勢するものであり、静止密封環6の背面6aに径方向に切欠かれた切欠き部6bが形成され、シールカバー10の側面に形成された穴部10bに圧入された水平方向に延びるノックピン7Aが切欠き部6bに嵌入されることにより、静止密封環6が回転密封環4との摺動による供回りを規制させるものである。
【0045】
図6に示されるように、ノックピン7Aは、シールカバー10の穴部10bと略同径に形成され、穴部10bに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される嵌入部17と、から主に構成されている。
【0046】
また、ノックピン7Aの嵌入部17は、静止密封環6の背面6a側にノックピン7Aの配置に対応して形成された凹部としての切欠き部6b内に、軸方向に遊嵌状態で嵌入するように配設され、回転密封環4との摺動による静止密封環6の周方向の移動を規制しつつ、軸方向への移動を許容されるようになっている。この切欠き部6bは、ノックピン7Aの嵌入部17よりも大径且つ軸方向に長寸に形成されている。
【0047】
嵌入部17は円柱状に形成され、その外周面17bには、複数条の溝からなる環状溝部17aが形成されている。より詳しくは環状溝部17aは、断面視略矩形状の溝底を有し嵌入部17における周方向に亘り形成された溝からなり、嵌入部17の軸方向の基端側(圧入部27側)から先端側にかけて、軸方向に平行に離間して複数条形成されている。環状溝部17aは、本実施例では嵌入部17の外周面17bにおける基端側から先端側に、同一ピッチ、同一幅、及び同一深さで形成されている。
【0048】
また、環状溝部17aは、嵌入部17の全周に亘り延設されており、上方から導入されるバリア液Bを嵌入部17と切欠き部6bとの当接面に導入させ易くなっている。このことから
図6に示されるように、流体膜Fを嵌入部17と切欠き部6bとの当接面の全面に亘り形成させることができるようになっている。
【0049】
また、特に図示しないが、回転密封環4をスリーブ3に対し回り止めするドライブピン5の外周面に、上述したノックピン7と同様に環状溝部が形成されていてもよい。
【0050】
図7に示されるように、嵌入部17に形成された溝部の変形例1として、ノックピン7Bの外周面に複数の格子状の溝が形成された格子状溝部37aを形成してもよい。より詳しくは格子状溝部37aは、断面視略矩形状の溝底を有し周方向に亘り形成された溝からなり、嵌入部17の軸方向の基端側から先端側にかけて延びる螺旋状の溝が周方向に位相を異にして複数延設され、これらの溝同士の格子状に交差する部分が流体の分岐部Nとして機能している。すなわち、嵌入部17の上方側に形成されているケース9のバリア液流入口19と連通する連通路L1から流出されるバリア液Bを、格子状溝部37aの分岐部Nにおいて分岐させるようになっている。
【0051】
分岐部Nは、環状溝部17aを構成する上溝口37bから侵入したバリア液Bが、分岐部Nを通過し下溝口37cまたは下溝口37dもしくは双方の溝を通過するようになるため、流体膜Fの形成領域を広範囲に拡げることができるようになっている。
【0052】
また、格子状溝部37aは、流体を導入する入口側から出口側に向けて流路を分岐する分岐部Nを有していることから、格子状溝部37aに導入した流体を分岐することで流体膜Fの形成領域を広範囲に拡げることができる。
【0053】
図8に示されるように、嵌入部17に形成された溝部の変形例2として、ノックピン7Cの外周面に、略鉛直方向に対し傾斜させた傾斜溝部47aを形成してもよい。このようにすることで、バリア液Bを、周方向のみでなく軸方向に導入することができる。
【0054】
以上、実施例2及び変形例1,2において説明したように、環状溝部17a,格子状溝部37a,傾斜溝部47aは、嵌入部17の全周に亘り延設されていることから、凹部としての切欠き部6bの内面と嵌入部17の外面との接触領域に流体を確実に導入することができる。
【実施例3】
【0055】
次に、実施例3に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図9ないし
図10を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0056】
実施例3におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図9に示されるように、本実施例においては、ノックピン7Dの嵌入部117が略角柱形状に形成されている。これに伴い、静止密封環6には、略矩形状に切欠かれた切欠き部16bが形成されている。嵌入部117と切欠き部16bは、遊嵌状態で嵌合するようになっており、静止密封環6が回転密封環4との摺動による供回りを規制させることとして説明する。
【0057】
図9に示されるように、ノックピン7Dは、シールカバー10の穴部10bと略同径に形成され穴部10bに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される略四角柱形状の嵌入部117と、から主に構成されている。嵌入部117は、軸方向視で正方形状でもよいし、径方向に幅広若しくは幅狭の長方形状であってもよい。
【0058】
ノックピン7Dの嵌入部117は、静止密封環6の背面6a側にノックピン7Dの配置に対応して略矩形状に切欠形成された凹部としての略矩形状の切欠き部16b内に、軸方向に遊嵌状態で嵌入するように配設され、回転密封環4との摺動による静止密封環6の周方向の移動を規制しつつ、軸方向への移動を許容されるようになっている。この切欠き部16bは、ノックピン7Dの嵌入部117よりも大径且つ軸方向に長寸に形成されている。また、切欠き部16b上方に配設されている連通路L1は、切欠き部16bと周方向及び軸方向において同位相の位置、すなわち対向位置に配設されている。
【0059】
嵌入部117は四角柱状に形成され、その外径側を向く上面117bから切欠き部16bと当接する一方側面117cにかけて、図示下方へ向けられて漸次幅狭のテーパ状に形成され、径方向視で周方向に開放された半円形状を成すテーパ溝117aが形成されている。つまり、テーパ溝117aは、円錐形状を底面から頂点に向かって切り欠いた形状であって、その先端を図示下方に向けたような形状を成す溝を形成している。なお、テーパ溝117aは円錐形状を切り欠いたような形状だけでなく、三角錐や、四角推を底面から頂点に向かって切り欠いた形状でもよく、図示下方に向かって溝断面が小さくなっていればよい。また、テーパ溝117aは、本実施例では軸方向に沿って離間して形成された3つの溝からなり、これらの溝は、同一方向、同一深さで形成されている。
【0060】
また、テーパ溝117aの一方側面117cの上方側には、流体を滞留させる幅広部117dが形成されており、幅広部117dにて滞留した流体が凹部の内面に接することで、流体膜の形成領域を確保できるようになっている。幅広部117dから下方に向かうにつれて幅狭となり、下方側に向けてバリア液Bの圧力を増大させて潤滑性を高めることができるようになっている。
【0061】
また、特に図示しないが、静止密封環6をスリーブ3に対し回り止めするドライブピン5の外周面にも、上述したノックピン7Dと同様にテーパ溝が形成されていてもよい。
【0062】
図10に示されるように、テーパ溝117aが形成された嵌入部117の変形例1として、切欠き部16bと当接するノックピン7Eの一方側面117cにのみテーパ状のテーパ溝118aを形成してもよい。この場合、上面118bには溝が形成されておらず平面状であり、幅広部118d及び幅狭部118eが一方側面117cに形成される。また、一方側面117cと切欠き部16bとが当接した際に、上面117bに形成されるテーパ溝118aの溝深さによる開口からバリア液Bを下方に向けて導入させることができる。
【0063】
以上、実施例3及び変形例1において説明したように、ノックピン7Dのテーパ溝117a及びノックピン7Eのテーパ溝118aは、凹部としての切欠き部16bに流体を供給する供給口としての連通路L1と対向する位置に形成されていることから、連通路L1を介し切欠き部16bに供給される流体の流れを利用して、テーパ溝117a及びテーパ溝118aに流体を導入し易い。
【0064】
また、テーパ溝117a及びテーパ溝118aは、流体を導入する入口側から出口側に向けて幅狭に形成されていることから、テーパ溝117a及びテーパ溝118aの入口側の間口を広げて流体を導入し易くできるうえに、出口側に向けて流体の圧力を増大させて潤滑性を高めることができる。
【0065】
また、テーパ溝117a及びテーパ溝118aは、流体を滞留させる幅広部を有していることから、幅広部117d,118dにて滞留した流体が切欠き部16dの内面に接することで、流体膜Fの形成領域を確保できる。
【実施例4】
【0066】
次に、実施例4に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図11を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0067】
実施例4におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図11に示されるように、本実施例においては、ノックピン7Fの嵌入部217に、軸直交方向に延びるスパイラル状の複数のスパイラル溝217a,217bが形成されている。
【0068】
図11に示されるように、ノックピン7Fは、シールカバー10の穴部10bと略同径に形成され穴部10bに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される略四角柱形状の嵌入部217と、から主に構成されている。
【0069】
嵌入部217には、軸直交方向に延びるスパイラル状の複数のスパイラル溝217a,217bが径方向に対向して形成されており、連通路L1から導入されたバリア液Bをスパイラル溝217a,217b内に保持させることができる。スパイラル溝217aは、その先端が切欠き部16bの内奥部(図示右側)に向けて閉塞されており、またスパイラル溝217bは、その先端が切欠き部16bの入口部(図示左側)に向けて閉塞されている。このようにすることで、静止密封環6と回転密封環4の摺動により軸方向の両方向に発生する微振動を利用して、嵌入部217と切欠き部16aとの面間に形成される流体膜Fに動圧を発生させることができるようになっている。より詳しくは、嵌入部217がより嵌入される方向に振動した場合、スパイラル溝217aに動圧が発生し、また嵌入部217が脱嵌される方向に振動した場合、スパイラル溝217bに動圧が発生するようになっている。
【0070】
以上、実施例4において説明したように、スパイラル溝217a,217bは、摺動環の軸直交方向に延びるスパイラル状に形成されていることから、摺動環に軸方向に作用する振動を利用して、動圧の発生効果を得ることができる。
【0071】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0072】
例えば、前記実施例では、ノックピン7を円柱状と説明したが、これに限られず、四角柱や六角柱としてもよい。
【0073】
また、前記実施例では、ノックピン7に環状溝部17aが形成されていたが、これに限られず、ドライブピン5に環状溝部17aが形成されていてもよい。
【0074】
また、前記実施例では、静止密封環6若しくは回転密封環4に回り止め機構を構成する凹部が形成されているが、これに限らず例えば、メカニカルシールに静止密封環6をシールカバー10に係止する係止体、若しくは回転密封環4をスリーブ3に係止するための係止体が構成されている場合、当該係止体に凹部が形成されてもよい。また例えば、シールカバー10若しくはスリーブ3に凹部が形成されてもよく、該凹部に嵌入される嵌入部が静止密封環6若しくは回転密封環4に設けられても構わない。
【0075】
また、前記実施例では、タンデム型のメカニカルシール1に回り止め機構が適用されているが、これに限らず本発明に係る回り止め機構は、シングル型、ダブル型のメカニカルシールに適用されてもよいし、スラスト軸受等の摺動部品に適用されてもよい。
【0076】
また、前記実施例1の変形例で説明したように、凹部の内壁面に溝部を設ける事項を、実施例2〜4においても適用可能である。