【実施例1】
【0016】
実施例1に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図1から
図7を参照して説明する。以下、
図1の紙面右側を大気領域である機外側、紙面左側を機内側として説明する。
【0017】
図1に示されるように、実施例1の摺動部品としてのメカニカルシール1は、回転軸2とともに回転する回転摺動環としての回転密封環4と、シールカバー10に配設されたコイルスプリング8により付勢されているリテーナ18から押圧される静止摺動環としての静止密封環6と、を備えた静止形のメカニカルシール1である。また、本実施例のメカニカルシール1は、機外側のシールカバー10と機内側のシールカバー10’に対し回り止めされる円環状の静止密封環6,6’と、回転軸2に固定されたスリーブ3に対し回り止めされる回転密封環4,4’とが、軸方向に同一方向を向いて配設されているタンデム型のメカニカルシール1である。このメカニカルシール1は、シールカバー10,10’に回り止めピンとしてのノックピン7,7’を介して固定された円環状のケース9に回り止めされている静止密封環6,6’を有する静止側要素Sと、回転軸2とともに回転する回転密封環4,4’を有する回転側要素Rとで主に構成されている。
【0018】
図1を用いて、回転側要素R及び静止側要素Sをより詳しく説明する。
図1に示されるように回転側要素Rは、回転軸2に固定状態で取付けられたスリーブ3と、該スリーブ3に固定された回転環保持部材20,20’と、該回転環保持部材20,20’から機外側にそれぞれ略水平に延出する回り止めピンとしてのドライブピン5,5’と、該ドライブピン5,5’を介して回転軸2から伝えられる回転力によって周方向に回転する円環状の回転密封環4,4’と、から主に構成されている。
【0019】
静止側要素Sは、シールカバー10,10’が軸方向に隣接するように配置され、連結ボルト11をシールカバー10,10’の軸方向に挿通させて機器本体Mに固定されている。また、シールカバー10,10’には、リテーナ18,18’を背面側から軸方向に向けて付勢するコイルスプリング8,8’と、回転密封環4,4’と摺接される静止密封環6,6’の供回りを防止するノックピン7,7’とが取り付けられている。ノックピン7,7’は、ケース9,9’の背面側から軸方向に向けて係合するようになっており、ケース9,9’は、シールカバー10,10’内において、静止密封環6,6’の外径側に内嵌されている。
【0020】
また、
図1に示されるようにシールカバー10は、径方向に形成されたバリア液流入口19とクエンチング液流入口49を有し、またシールカバー10’は径方向に形成されたフラッシング液流入口39とバリア液流出口29を有している。バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、ケース9によって径方向に連通されている連通路L1を通過し、後述する空間Zに流入され、空間Zからバリア液流出口29へ流動するようになっている。また、バリア液Bは、被密封流体Hよりも高圧になるように流体圧は管理されている。本実施例のメカニカルシール1は、上述したようにタンデム型であり、軸方向に同様に配置された構成を有しているため、以下は機外側の静止密封環6、回転密封環4等の構成について説明し、機内側の構成については説明を省略する。
【0021】
図1に示されるように、シールカバー10は、軸方向視環状に形成されており、リテーナ18を軸方向に向けて付勢するようにコイルスプリング8が周方向に等配に複数配設されている。このようにコイルスプリング8が複数等配に配設されていることで、リテーナ18が静止密封環6の背面6aを均等な面圧で、回転密封環4に向けた付勢力を軸方向に伝達するように構成されている。また、シールカバー10には、周方向に等配されているコイルスプリング8よりも外周側に穴部10aが同様に周方向に等配に形成されており、この穴部10aに後述するノックピン7の圧入部27が圧入固定されるようになっている。
【0022】
次に、ケース9について詳しく説明する。
図2に示されるようにケース9は、軸方向視円環の筒状に形成された筒部90と、該筒部90から内径側に突出して軸方向に延設された柱状の嵌入部としての突出部91と、該筒部90が径方向に貫通形成された連通路L1と、から主に形成されている。突出部91は連通路L1と同位相、すなわち周方向及び径方向に対向する位置に配置されている。
図4から
図6に示されるように、突出部91は、周方向に面する側壁部91a,91aと内径方向に面する内面部91bと、外径方向に面する外面部91cと、軸方向に面する端面部91dから構成された角柱状に形成されており、側壁部91a,91aと内面部91bと外面部91cと端面部91dとには、孔部93を構成する複数の開口部94が形成されている。詳しくは、開口部94はケース9の周方向、径方向、軸方向にそれぞれ同一ピッチに離間して側壁部91a,91aと内面部91bと外面部91cと端面部91dの全面にそれぞれの面上において独立して、マトリックス状に整然と並設された状態で複数形成されている。孔部93は、一方の側壁部91aから他方の側壁部91aに貫通して、それぞれ平行に形成された通路95Aと、内面部91bと外面部91cとに貫通して径方向に形成された通路95Bと、突出部91の軸方向に形成された通路95Cと、が突出部91内部で互いに連通し、これら通路95A,95B,95Cにそれぞれ連通する側壁部91a,91aと内面部91b外径方向に面する外面部91cと端面部91dの全面に形成された全ての開口部94が連通して構成されている。なお、これらの通路95A,95B,95Cは互いに同じ内径に形成されているが、これに限らず、高い流通性が望まれる方向の通路を大径に形成してもよい。また、静止密封環6の外周面6cには、軸方向に亘って矩形状の凹部6dが形成されており、先述したケース9の突出部91が遊嵌するように大形に形成されている。これによりケース9の突出部91が静止密封環6の凹部6d内に周方向から嵌合するようになっており、回転密封環4と摺接される静止密封環6の供回りを防止することができるようになっている。すなわち凹部6dと突出部91とにより回り止め機構が構成されている。
【0023】
次に
図3を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時において、被密封流体Hと、被密封液体としてのバリア液Bと、漏れ側である大気Aとが占有する領域を説明する。
図3に示されるように、機内側である紙面左方側には、被密封流体Hが回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’によって密封されている。機外側である紙面右方側には、大気Aが回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eによって区画されている。また、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eとの間に形成されている空間Zには、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bが密封されている。
【0024】
また、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、回転密封環4と静止密封環6との摺動部Eと、回転密封環4’と静止密封環6’との摺動部E’と、シールカバー10,10’とから形成される空間Zに充填され、バリア液流出口29から流出されるようになっている。また、バリア液Bは被密封流体Hより高圧になるように管理されているので、摺動部E’の摺動不良により異常が発生したとしても、被密封流体Hが空間Z側へ流入することを抑えるように構成されている。
【0025】
図4を用いて、本実施例のメカニカルシール1稼働時における、ケース9と静止密封環6との嵌合態様について詳しく説明する。リテーナ18(
図1参照)を介してコイルスプリング8に付勢された静止密封環6に対向する回転密封環4が周方向に回転すると、この静止密封環6の凹部6d内に遊嵌状態で嵌入された突出部91の側壁部91aが、凹部6dの一方の内壁面6eに周方向に押圧状態で当接することで、静止密封環6の供回りを規制する。ケース9の突出部91における側壁部91a,91aと内面部91bと外面部91cと端面部91dとには、孔部93を構成する複数の開口部94が形成されているので、空間Z内に流入されるバリア液Bを孔部93を通じて凹部6d内に導入するようになっている。尚、ケース9’と静止密封環6’については、被密封流体Hを凹部6d’内に導入するようになっている。
【0026】
孔部93を通じて凹部6d内に導入されたバリア液Bは、側壁部91aと、静止密封環6の外周面6cにおける凹部6dとの間、より詳しくは、突出部91の側壁部91aと、この側壁部91aに押圧状態で当接する凹部6dの内壁面6eとの当接箇所に、流体膜Fを形成させるようになっている。流体膜Fは、バリア液Bが突出部91の孔部93を通じて側壁部91aに導出することで、前述した当接箇所の全面に亘り形成される。この突出部91の側壁部91aと静止密封環6の凹部6dの内壁面6eとの間に生成された流体膜Fにより、突出部91と凹部6dとの接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0027】
図4に示されるように、孔部93は、突出部91の外面である一方の側壁部91aと、この側壁部91aに押圧状態で当接する凹部6dの内面である内壁面6eとの接触領域S1と、接触領域S1を除く非接触領域S2である他方の側壁部91a、内面部91b、外面部91c及び端面部91dとにかけて貫通形成されているため、非接触領域S2である他方の側壁部91a、内面部91b、外面部91c及び端面部91dから導入されたバリア液Bは、突出部91の内部の通路95A,95B,95Cを通して一方の側壁部91aの接触領域S1に向けて導出され、接触領域S1に流体膜Fを確実に生成できる。
【0028】
また、突出部91における側壁部91aの孔部93は、突出部91の全面に形成されているため、凹部6dの内壁面6eと突出部91の一方の側壁部91aとの接触領域S1にバリア液流入口19から連通路L1を通り流入されたバリア液Bを確実に導入することができる。よって、バリア液Bを凹部6dの軸方向若しくは径方向の内奥まで導入させ、より広い領域で流体膜Fを得ることができるばかりか、コイルスプリング8による静止密封環6の軸方向の移動の際に引っ掛りが生じないようになっている。
【0029】
また、通路95A,95B,95Cが互いに連通することにより、側壁部91a,91aと底部91b及び端面部91cの全面に形成された全ての開口部94が連通しているため、複数の開口部94からバリア液Bを導入し易く、流体膜Fを確実に得ることができ、また孔部93内に導入したバリア液Bを複数の開口部94に分散排出することで、より広い領域で流体膜Fを得ることができる。
【0030】
また、孔部93は、凹部6dの内壁面6eと突出部91の一方の側壁部91aとの接触領域S1と、接触領域S1を除く非接触領域S2とにかけて貫通形成されている。
図6では、凹部6dの内壁面6eと突出部91の一方の側壁部91aとの接触領域S1に位置する開口部94と、凹部6dの内壁面6eと突出部91の一方の側壁部91aの軸方向において重ならない部分、すなわち非接触領域S2に位置する開口部94とが、突出部91の内部で通路95A,95Cにより連通している。これによれば、凹部6dの内壁面6eと突出部91の一方の側壁部91aとの接触領域S1に向けて非接触領域S2からバリア液Bを導入し易く、この接触領域S1に流体膜Fを確実に生成できる。
【0031】
尚、前記実施例1において孔部93の開口部94は、側壁部91a,91aと底部91b及び端面部91cの全面に形成される構成に限らず、一方の側壁部91aと突出部91における一方の側壁部91aを除くいずれかの外面とに形成されていればよい。
【0032】
また、孔部93内部の通路94は、全ての開口部94が連通できれば、
図5(a),(b)で示すような均等な格子状でなくてもよく、例えば通路95A,95B,95Cがそれぞれ平行でなくてもよいし、それぞれの形成される寸法が均一でなくてもよい。
【0033】
また、前記実施例1において一方の側壁部91aと他方の側壁部91aとには、同じ数の開口部94が形成されているが、これに限らず、例えば突出部91の一の外面に形成された一箇所の開口部94は、長手方向の途中に分岐路を有する通路により、他の外面に形成された2つ以上の開口部94に分岐する構成としてもよい。
【0034】
また、突出部91の軸方向に所定の深さで形成される通路95Cは、他の外面に連通する通路と連通すればその形成される深さ寸法は問わず、例えば突出部91の軸方向に所定の深さで形成された通路95Cを突出部91を構成する部分を超えてケース9の軸方向端面に開口部を成すように形成されていてもよい。
【0035】
また、例えば突出部91の径方向に形成される通路95Bを突出部91を構成する部分を超えてケース9の外周面まで貫通させ、外径側で貫通した開口部を連通路L1としての機能を兼ねる構成とし、連通路L1の構成を省略してもよい。
【0036】
ここで
図7に示されるように、孔部の変形例としては、孔部を突出部91に形成することに代えて、静止密封環6の凹部6dの内壁面6eと、外周面6fと、軸方向の両端面部6hとに形成された開口部97同士を貫通した孔部96が形成されてもよい。なお、例えば静止密封環6を多孔性材料により構成することで、当該静止密封環6の凹部6dの内壁面6eと外周面6fとを貫通する孔部が形成されるようにしてもよい。
【実施例2】
【0037】
次に、実施例2に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図8を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0038】
実施例2におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図8に示されるように、本実施例においては、リテーナ18を省略しコイルスプリング8が静止密封環6の背面に接して付勢するものであり、静止密封環6の背面6aに径方向に切欠かれた切欠き部6bが形成され、シールカバー10の側面に形成された穴部10bに圧入された水平方向に延びるノックピン7が切欠き部6bに嵌入されることにより、静止密封環6が回転密封環4との摺動による供回りを規制させるものである。
【0039】
図8に示されるように、ノックピン7は、略円柱状に形成されており、シールカバー10の穴部10bと略同径に形成され、穴部10bに圧入固定可能な固定部としての圧入部27と、この圧入部27よりも大径に形成され、シールカバー10から略水平に突出される嵌入部17と、から主に構成されている。
【0040】
また、ノックピン7の嵌入部17は、静止密封環6の背面6a側にノックピン7の配置に対応して形成された凹部としての切欠き部6b内に、軸方向に遊嵌状態で嵌入するように配設され、回転密封環4との摺動による静止密封環6の周方向の移動を規制しつつ、軸方向への移動を許容されるようになっている。この切欠き部6bは、ノックピン7の嵌入部17よりも大径且つ軸方向に長寸に形成されている。
【0041】
嵌入部17は、周方向に面する側壁部17a,17aと内径方向に面する内面部17bと外径方向に面する外面部17c、軸方向に面する端面部17d,17dから構成された角柱状に形成されており、側壁部17a,17aと内面部17bと外面部17cと端面部17d,17dには、孔部98を構成する複数の開口部99が形成されている。詳しくは、開口部99はそれぞれの面上において独立して複数形成されている。孔部98は、嵌入部17内部で連通するここでは図示しない複数の通路に、側壁部17a,17aと内面部17bと外面部17cと端面部17d,17dの全面に形成された全ての開口部99がそれぞれ連通して構成されている。
【0042】
以上、実施例2において説明したように、バリア液流入口19から流入されたバリア液Bは、切欠き部6b内に導入され、孔部98を通じて嵌入部17の一方の側壁部17aと、静止密封環6の外周面6cにおける切欠き部6bとの間、より詳しくは、嵌入部17の側壁部17aと、この側壁部17aに押圧状態で当接する切欠き部6bの内壁面6eとの接触領域に、流体膜Fを形成させるようになっている。流体膜Fは、バリア液Bが嵌入部17の孔部98を通じて側壁部17a側に導出することで、前述した当接箇所の全面に亘り形成される。この嵌入部17の側壁部17aと静止密封環6の切欠き部6bの内壁面6eとの間に生成された流体膜Fにより、嵌入部17と切欠き部6bとの接触個所を良好な潤滑状態にして、回り止め機構の摩耗や破損の発生を抑制することができる。
【0043】
凹部としての切欠き部6bの内壁面6eと嵌入部17の側壁部17aとの接触領域に流体を確実に導入することができる。
【0044】
また、特に図示しないが、回転密封環4をスリーブ3に対し回り止めするドライブピン5の外周面に、上述したノックピン7と同様の孔部が形成されていてもよい。
【実施例3】
【0045】
次に、実施例3に係るメカニカルシール用回り止め機構につき、
図9を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
実施例3におけるメカニカルシール用回り止め機構について説明する。
図9に示されるように、本実施例においては、孔部100はノックピン70の嵌入部170の側壁部170a,170a同士の間を貫通して、複数互いに独立して設けられており、切欠き部6b内の潤滑性を高めることができる。
【0047】
また、複数の孔部100は、同一ピッチに離間しているため、切欠き部6b内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【0048】
また、複数の孔部100は、それぞれ同一孔径に設けられているため、切欠き部6b内に均質な流体膜Fを生成することができる。
【0049】
尚、複数の孔部100は、その全てが独立している構成に限らず、複数の内の一部が互いに嵌入部17内部で連通していてもよい。
【0050】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0051】
例えば、前記実施例では、ノックピン7の嵌入部17を角柱状と説明したが、これに限られず、丸角柱や六角柱としてもよい。
【0052】
また、前記実施例2では、ノックピン7に孔部98が形成されていたが、これに限られず、ドライブピン5に孔部が形成されていてもよい。
【0053】
また、前記実施例では、静止密封環6若しくは回転密封環4に回り止め機構を構成する凹部が形成されているが、これに限らず例えば、メカニカルシールに静止密封環6をシールカバー10に係止する係止体、若しくは回転密封環4をスリーブ3に係止するための係止体が構成されている場合、当該係止体に凹部が形成されてもよい。
【0054】
また、前記実施例では、タンデム型のメカニカルシール1に回り止め機構が適用されているが、これに限らず本発明に係る回り止め機構は、シングル型、ダブル型のメカニカルシールに適用されてもよいし、スラスト軸受等の摺動部品に適用されてもよい。
【0055】
また、前記実施例1の変形例で説明したように、凹部の内壁面に孔部を設ける事項を、実施例2等においても適用可能である。