スピーカー10は、放射面15を含む。放射面15は、第1領域15aと、第2領域15bと、第1領域15a及び第2領域15bの間の第3領域15cと、を有する。第3領域15cを通り放射面15から離れていくように延びる軸を基準軸10Xと定義したとき、スピーカー10は、第1領域15aから基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、を形成する。
前記スピーカーが形成する前記第1領域における音波を第1音波と定義し、前記スピーカーが形成する前記第2領域における音波を第2音波と定義し、前記スピーカーが形成する前記第3領域における音波を第3音波と定義したとき、前記第1音波の位相と前記第2音波の位相の正負が同じであり、前記第1音波の位相と前記第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、前記第2音波の位相と前記第3音波の位相の正負が逆である期間が現れる、
請求項1に記載のアクティブノイズコントロールシステム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明するが、以下は本発明の実施形態の例示に過ぎず、本発明を制限する趣旨ではない。また、以下では、同一又は類似する構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0010】
[アクティブノイズコントロールシステム]
図1に、実施形態に係るアクティブノイズコントロールシステム(ANCシステム)500を示す。ANCシステム500は、構造物80と、スピーカー10と、を備えている。スピーカー10は、構造物80に取り付けられている。
【0011】
図示の例では、構造物80は、板状体である。板状体である構造物80は、例えば、縦方向寸法が20cm〜600cm(20cm〜200cmであってもよい)であり、横方向寸法が20cm〜600cm(20cm〜200cmであってもよい)であり、幅方向寸法が0.1cm〜15cmである。ここで、縦方向、横方向及び幅方向は、互いに直交している。縦方向寸法と横方向寸法とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0012】
構造物80の具体例は、パーティションである。
【0013】
スピーカー10は、放射面15を有している。放射面15は、振動することによって、音波を放射する。この音波により、騒音が低減される。図示の例では、放射面15は、ひとつながりの放射面である。
【0014】
具体的には、構造物80は、対向する端部81及び82を有している。ANCシステム500は、端部81及び82で生じる回折音を低減するのに適している。以下、この点について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0015】
図2に示すように、騒音源200からの騒音が構造物80に向かって伝搬してきたとする。この場合、第1端部81及び第2端部82において、回折が生じ得る。端部81及び82での回折により生じた波面は、構造物80の背後に回り込むように伝搬する。具体的には、第1端部81での回折により生じた波面81w及び第2端部82での回折により生じた波面82wは、軸80Xに近づくように伝搬する。ここで、軸80Xは、第1端部81及び第2端部82の間を通り構造物80から離れる方向に延びる軸である。具体的には、軸80Xは、構造物80におけるスピーカー10の取付面に直交している。軸80Xは、取付面の中心を通っていてもよい。
【0016】
ANCシステム500は、端部81及び82でこのようにして生じる回折音を低減することに適している。具体的には、
図3に示すように、放射面15は、第1領域15aと、第2領域15bと、第3領域15cと、を有する。第3領域15cは、第1領域15a及び第2領域15bの間の領域である。スピーカー10は、第1領域15aから基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、を形成する。具体的には、本実施形態では、放射面15が振動することによって、そのような第1波面16a及び第2波面16bが形成される。ここで、基準軸10Xは、第3領域15cを通り放射面15から離れていくように延びる軸である。念のため断っておくが、波面は、波の位相の等しい点を連ねた面を指す。
【0017】
第1端部81での回折由来の波面81w及び第2端部82での回折由来の波面82wは、
図3に示す基準軸10Xに近づくように伝搬するとも言える。このため、第1端部81の回折由来の波面81w及び第2端部82の回折由来の波面82wと、ANCシステム500由来の第1波面16a及び第2波面16bとには、伝搬方向に共通性がある。このことは、騒音が第1端部81及び第2端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。
【0018】
互いに離間した2つのスピーカーを構造物80に取り付け、一方のスピーカーにより第1波面16aに相当する波面を形成し、他方のスピーカーにより第2波面16bに相当する波面を形成することは、不可能ではない。しかし、そのようにする場合、2つのスピーカーから出力される音の位相差の調整等が必要となる。これに対し、本実施形態では、1つのスピーカー10における放射面15(図示の例ではひとつながりの放射面)により、第1波面16a及び第2波面16bを形成できる。このことは、スピーカー10の制御をシンプルにする観点から有利である。
【0019】
本実施形態では、基準軸10Xは、非振動時における第3領域15cに直交している。基準軸10Xからの第1波面16aの伝搬方向の逸れ角θ1は、例えば5°〜85°の範囲にあり、15°〜75°の範囲にあってもよく、25°〜65°の範囲にあってもよい。基準軸10Xからの第2波面16bの伝搬方向の逸れ角θ2は、例えば5°〜85°の範囲にあり、15°〜75°の範囲にあってもよく、25°〜65°の範囲にあってもよい。第3領域15cは、非振動時において平面であってもよい。また、放射面15全体が、非振動時において平面であってもよい。基準軸10Xは、放射面15の中心を通る軸であってもよい。
【0020】
図4に示す従来のダイナミックスピーカー610は、その放射面から略半球面波を放射する。その略半球面波の波面610wもまた、略半球面状である。
図4において、軸610Xは、ダイナミックスピーカー610の放射面を通りその放射面から離れていくように延びる軸である。
【0021】
図5に示す従来の平面スピーカー620は、その放射面から略平面波を放射する。その略平面波の波面620wもまた、略平面状である。
図5において、軸620Xは、平面スピーカー620の放射面を通りその放射面から離れていくように延びる軸である。
【0022】
図3、
図4及び
図5から理解されるように、本実施形態に係る、第1領域15aから基準軸10Xに近づくように伝搬する第1波面16aと、第2領域15bから基準軸10Xに近づくように伝搬する第2波面16bと、の組み合わせは、従来のスピーカー610及び710では得られない。本実施形態のスピーカー10は、
図6Aに示すように、放射面15の端部も良好に振動できるように構成されている。放射面15は、全体として、振動の自由度が高い。詳細については今後の検討を待つ必要があるが、このことが、第1波面16a及び第2波面16bの形成に寄与している可能性がある。また、放射面15は、自由端振動モードにある程度近いモードで振動している可能性がある。具体的には、放射面15は、1次自由端振動モードにある程度近いモードで振動している可能性がある。
【0023】
従来のスピーカー610及び710と比較したスピーカー10の消音効果の優位性は、騒音源200からの騒音の周波数が高いときに現れ易い傾向にある。
【0024】
典型例では、第1領域15aに、放射面15の端部の一部が形成されている。第2領域15bに、放射面15の端部の一部が形成されている
【0025】
ここで、スピーカー10が振動しておらず、ANCシステム500がその消音機能を発揮していない状況を考える。この状況においては、構造物80のサイズ及び騒音源200からの騒音の波長にもよるが、騒音源200からの騒音が構造物80の第1端部81及び第2端部82において回折することにより、第1領域15aにおける音波の位相と第2領域15bにおける音波の位相の正負が同じであり、第1領域15aにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2領域15bにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆である期間が現れ得る。
【0026】
この点、本実施形態では、第1音波の位相と第2音波の位相の正負が同じであり、第1音波の位相と第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2音波の位相と第3音波の位相の正負が逆である期間が現れる。ここで、第1音波は、スピーカー10が形成する第1領域15aにおける音波である。第2音波は、スピーカー10が形成する第2領域15bにおける音波である。第3音波は、スピーカー10が形成する第3領域15cにおける音波である。本実施形態によれば、第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cにおいて上記のような位相分布を有する騒音源200由来の騒音を、ANCシステム500由来の音により低減できる。
【0027】
上述のように、第1音波は、スピーカー10が形成する第1領域15aにおける音波である。第1音波は、第1領域15aに面する空間のうち、第1領域15aに限りなく近い位置の音波を包含する概念である。よって、第1音波の測定は、この「限りなく近い位置」の音波の測定により実現できる。第2音波及び第3音波についても同様である。
【0028】
なお、上記のような第1音波、第2音波及び第3音波の位相分布が得られるという事実は、放射面15を1次自由端振動モードにある程度近いモードで振動しているという仮定と整合する。
【0029】
本実施形態では、ANCシステム500は、制御装置110を備える。制御装置110では、ある周波数範囲が設定されている。制御装置110は、スピーカー10から出力される音の周波数を、上記周波数範囲内の値に制御する。上記周波数範囲は、例えば20Hz〜20000Hzであり、20Hz〜6000Hzであってもよい。
【0030】
本実施形態では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15は、対向する第1端部15j及び第2端部15kを有する。放射面15を平面視で観察したとき、第1端部15jと構造物80の端部の間の第1マージンM1は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。放射面15を平面視で観察したとき、第2端部15kと構造物80の端部の間の第2マージンM2は、ゼロ以上基準波長の1/10以下である。ここで、基準波長は、上記周波数範囲の上限の音の波長である。このようにすることは、騒音が第1端部81及び第2端部82で回折して生じる回折音を低減することに適している。なお、1/10という比率は、一般的なANCの消音領域が制御対象となる騒音の波長の1/10であることに由来している。
【0031】
なお、現実には、製品化の都合で、第1マージンM1及び第2マージンM2をある程度大きくするべき場合もある。これを考慮し、第1マージンM1及び第2マージンM2の上限を、基準波長の1/10よりも大きくしてもよい。回折音を低減する効果を得つつ無理のない製品化を行う観点から、例えば、第1マージンM1を、ゼロ以上基準波長の1/3以下にすることができる。また、放射面15を平面視で観察したとき、第2マージンM2を、ゼロ以上基準波長の1/3以下にすることができる。
【0032】
第1マージンM1は、例えば0cm〜50cmであり、0cm〜10cmであってもよい。第2マージンM2は、例えば0cm〜50cmであり、0cm〜10cmであってもよい。
【0033】
第1マージンM1は、放射面15を平面視で観察したときの、第1端部15jと構造物80の端部の間の距離(具体的には最短距離)である。第2マージンM2は、放射面15を平面視で観察したときの、第2端部15kと構造物80の端部の間の最短(具体的には最短距離)である。本実施形態では、第1マージンM1は、放射面15を平面視で観察したときの、第1端部15jと第1端部81との間の距離である。本実施形態では、第2マージンM2は、放射面15を平面視で観察したときの、第2端部15kと第2端部82との間の距離である。
【0034】
第1マージンM1及び第2マージンM2について、
図7〜
図12を参照しながらさらに説明する。
図8〜
図12では、放射面15を平面視で観察したときの構造物80の長手方向80L及び短手方向80Sを示している。
図8〜
図12では、制御装置110の図示を省略している。
【0035】
図7及び
図8に示す例では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の周縁部と構造物80の周縁部とが全周にわたって完全に一致している。このため、第1マージンM1及び第2マージンM2は、ゼロである。
【0036】
図9〜
図12に示す例では、第1マージンM1及び第2マージンM2は、ゼロよりも大きい。
【0037】
図9の例では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の外周縁のいずれの部分においても、その部分と構造物80の端部の間の距離が、基準波長の1/3以下である。具体的には、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の外周縁のいずれの部分においても、その部分と構造物80の端部の間の距離が、基準波長の1/10以下である。
【0038】
図10の例では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の長手方向は、構造物80の短手方向80Sと同じである。第1マージンM1及び第2マージンM2は、短手方向80Sのマージンである。一方、
図10の例では、放射面15を平面視で観察したとき、長手方向80Lに関する構造物80の端部と放射面15の端部の間のマージンは、基準波長の1/3よりも大きい。
【0039】
図11の例では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の長手方向は、構造物80の長手方向80Lと同じである。第1マージンM1及び第2マージンM2は、長手方向80Lのマージンである。一方、
図11の例では、放射面15を平面視で観察したとき、短手方向80Sに関する構造物80の端部と放射面15の端部の間のマージンは、基準波長の1/3よりも大きい。
【0040】
図示は省略するが、別例では、放射面15を平面視で観察したとき、放射面15の長手方向は、構造物80の長手方向80Lとも短手方向80Sとも異なる。第1マージンM1及び第2マージンM2は、短手方向80Sのマージンである。一方、この別例では、放射面15を平面視で観察したとき、長手方向80Lに関する構造物80の端部と放射面15の端部の間のマージンは、基準波長の1/3よりも大きい。
【0041】
一具体例では、
図7〜11の例及び上記別例の構造物80及びスピーカー10のアセンブリは、短手方向80Sが水平方向と平行となり、長手方向80Lが鉛直方向と平行になるように、配置される。別の具体例では、アセンブリは、短手方向80Sが鉛直方向と平行となり、長手方向80Lが水平方向と平行になるように、配置される。さらに別の具体例では、アセンブリは、短手方向80Sが水平方向及び鉛直方向から傾斜した方向と平行になり、長手方向80Lも水平方向及び鉛直方向から傾斜した方向と平行になるように、配置される。参考までに、
図12に、この傾斜配置を
図10のアセンブリに適用したものを示す。
図12において、符号HDは水平方向を指し、符号VDは鉛直方向を指す。
【0042】
第1マージンM1及び第2マージンM2は、同じであってもよく、異なっていてもよい。第1マージンM1及び第2マージンM2の一方がゼロで、他方がゼロよりも大きくてもよい。
【0043】
平面視における放射面15の縦方向の寸法及び横方向の寸法は、同じであってもよい。この場合、上述の説明における「放射面15の長手方向」及び「放射面15の短手方向」を、「放射面15の第1方向」及び「放射面15の第2方向」と読み替えることができる。この読み替えをする場合、第1方向と第2方向は、互いに直交する方向であり得る。
【0044】
放射面15を平面視で観察したとき、構造物80は、縦方向の寸法及び横方向の寸法が同じであってもよい。この場合、上述の説明における「構造物80の長手方向」及び「構造物80の短手方向」を、「構造物80の第3方向」及び「構造物80の第4方向」と読み替えることができる。この読み替えをする場合、第3方向と第4方向は、互いに直交する方向であり得る。
【0045】
図7〜
図12を参照した説明から理解されるように、構造物80に対するスピーカー10の取り付け方向は、特に限定されない。当然ながら、この点は、構造物80がパーティションである場合も同様である。
【0046】
[フィードフォワードANCシステム]
一具体例では、ANCシステム500は、フィードフォワード制御を行う。以下、フィードフォワード制御を行うANCシステム500を、フィードフォワードANCシステム500A又はANCシステム500Aと表記することがある。また、ANCシステム500Aにおける制御装置110を、制御装置110Aと表記することがある。一例に係るANCシステム500Aについて、
図13A〜
図13Dを参照しながら説明する。
【0047】
図13Aに示すように、フィードフォワードANCシステム500Aは、参照マイクロフォン130と、誤差マイクロフォン140と、制御装置110Aと、を備えている。
【0048】
図13Aに示すように、打ち消されるべき音波が、騒音源200から領域300に到達し、領域300において波形290を有するとする。スピーカー10は、領域300に到達したときに波形290とは位相が逆の波形90を有することとなる音波を放射する。これらの音波が、領域300で互いに打ち消し合う。別の言い方をすると、これらの音波は領域300で合成され、振幅がゼロ又は小さいレベルに低減された波形390を有する合成音波が生成される。ANCシステム500Aでは、このようにして消音が実現される。
【0049】
図13Aに示すANCシステム500Aでは、参照マイクロフォン130、誤差マイクロフォン140及び制御装置110Aを用いたフィードフォワード制御がなされる。具体的には、参照マイクロフォン130は、スピーカー10から見て騒音源200側に配置される。参照マイクロフォン130は、騒音源200からの音を感知する。誤差マイクロフォン140は、領域300に配置され、領域300における音を感知する。制御装置110Aは、参照マイクロフォン130及び誤差マイクロフォン140で感知した音に基づいて、スピーカー10から放射される音波を調整する。
【0050】
図13Aの例では、ANCシステム500Aが有する誤差マイクロフォン140の数は、1つである。このようなANCシステム500Aを、シングルチャネルANCシステム500Aと称することができる。
【0051】
ANCシステム500Aが有する誤差マイクロフォン140の数は、複数であってもよい。このようなANCシステム500Aを、マルチチャネルANCシステム500Aと称することができる。
【0052】
図13Bに、シングルチャネルANCシステム500Aを模式的に示す。
図13Cに、マルチチャネルANCシステム500Aを模式的に示す。シングルチャネルANCシステム500Aは、シンプルな制御を実現する観点から有利である。一方、マルチチャネルANCシステム500Aによれば、各誤差マイクロフォン140の点において騒音を低減できる。複数の誤差マイクロフォン140により騒音を低減できる点(制御点)を複数設けることは、広い空間の消音を実現する観点から有利である。
【0053】
図13Dに、一例に係る制御装置110Aの構成図を示す。制御装置110Aは、プレアンプリファイア(以下、アンプリファイアをアンプと称することがある)111と、ローパスフィルタ112と、アナログデジタルコンバータ(以下、ADコンバータと称することがある)113と、パワーアンプ114と、ローパスフィルタ115と、デジタルアナログコンバータ(以下、DAコンバータと称することがある)116と、プレアンプ117と、ローパスフィルタ118と、ADコンバータ119と、演算部120Aと、を有する。
【0054】
プレアンプ111は、参照マイクロフォン130の出力信号を増幅する。ローパスフィルタ112は、プレアンプ111の出力信号の低域成分を通過させる。ADコンバータ113は、ローパスフィルタ112の出力信号をデジタル信号に変換する。これにより、ADコンバータ113から、時刻nにおける参照信号x(n)が出力される。
【0055】
プレアンプ117は、誤差マイクロフォン140の出力信号を増幅する。ローパスフィルタ118は、プレアンプ117の出力信号の低域成分を通過させる。ADコンバータ119は、ローパスフィルタ118の出力信号をデジタル信号に変換する。これにより、ADコンバータ119から、時刻nにおける誤差信号e(n)が出力される。
【0056】
演算部120Aは、参照信号x(n)及び誤差信号e(n)から、時刻nにおける制御信号y(n)を生成する。演算部120Aは、例えば、DSP(Digital Signal Processor)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等によって構成される。演算部120Aは、例えば、filtered-xアルゴリズムに基づいて動作する。
【0057】
DAコンバータ116は、制御信号y(n)をアナログ信号に変換する。ローパスフィルタ115は、DAコンバータ116の出力信号の低域成分を通過させる。パワーアンプ114は、ローパスフィルタ115の出力信号を増幅する。パワーアンプ114から出力された信号が、制御信号としてスピーカー10に送信される。この信号に基づいて、放射面15から音が出力される。
【0058】
以上の説明から理解されるように、ANCシステム500Aは、誤差マイクロフォン140と、参照マイクロフォン130と、制御装置110Aと、を備える。参照マイクロフォン130と、構造物80と、スピーカー10と、誤差マイクロフォン140と、はこの順に並んでいる。制御装置110Aは、参照マイクロフォン130の出力信号及び誤差マイクロフォン140の出力信号に基づいて、スピーカー10から出力される音を制御するフィードフォワード制御を実行する。フィードフォワード制御によれば、周期信号のみならず、非周期信号の消音も可能である。
【0059】
[フィードバックANCシステム]
一具体例では、ANCシステム500は、フィードバック制御を行う。以下、フィードバック制御を行うANCシステム500を、フィードバックANCシステム500B又はANCシステム500Bと表記することがある。また、ANCシステム500Bにおける制御装置110を、制御装置110Bと表記することがある。一例に係るANCシステム500Bについて、
図14A〜
図14Dを参照しながら説明する。
【0060】
図14Aに示すように、フィードバックANCシステム500Bは、誤差マイクロフォン140と、制御装置110Bと、を備えている。
【0061】
図14Aに示すように、打ち消されるべき音波が、騒音源200から領域300に到達し、領域300において波形290を有するとする。スピーカー10は、領域300に到達したときに波形290とは位相が逆の波形90を有することとなる音波を放射する。これらの音波が、領域300で互いに打ち消し合う。別の言い方をすると、これらの音波は領域300で合成され、振幅がゼロ又は小さいレベルに低減された波形390を有する合成音波が生成される。ANCシステム500Bでは、このようにして消音が実現される。
【0062】
図14Aに示すANCシステム500Bでは、誤差マイクロフォン140及び制御装置110Bを用いたフィードバック制御がなされる。具体的には、誤差マイクロフォン140は、領域300に配置され、領域300における音を感知する。制御装置110Bは、誤差マイクロフォン140で感知した音に基づいて、スピーカー10から放射される音波を調整する。
【0063】
図14Aの例では、ANCシステム500Bが有する誤差マイクロフォン140の数は、1つである。このようなANCシステム500Bを、シングルチャネルANCシステム500Bと称することができる。
【0064】
ANCシステム500Bが有する誤差マイクロフォン140の数は、複数であってもよい。このようなANCシステム500Bを、マルチチャネルANCシステム500Bと称することができる。
【0065】
図14Bに、シングルチャネルANCシステム500Bを模式的に示す。
図14Cに、マルチチャネルANCシステム500Bを模式的に示す。シングルチャネルANCシステム500Bは、シンプルな制御を実現する観点から有利である。一方、マルチチャネルANCシステム500Bによれば、各誤差マイクロフォン140の点において騒音を低減できる。複数の誤差マイクロフォン140により制御点を複数設けることは、広い空間の消音を実現する観点から有利である。
【0066】
図14Dに、一例に係る制御装置110Bの構成図を示す。制御装置110Bは、パワーアンプ114と、ローパスフィルタ115と、DAコンバータ116と、プレアンプ117と、ローパスフィルタ118と、ADコンバータ119と、演算部120Bと、を有する。
【0067】
プレアンプ117は、誤差マイクロフォン140の出力信号を増幅する。ローパスフィルタ118は、プレアンプ117の出力信号の低域成分を通過させる。ADコンバータ119は、ローパスフィルタ118の出力信号をデジタル信号に変換する。これにより、ADコンバータ119から、時刻nにおける誤差信号e(n)が出力される。
【0068】
演算部120Bは、誤差信号e(n)から、時刻nにおける制御信号y(n)を生成する。演算部120Bは、例えば、DSP又はFPGA等によって構成される。演算部120Bは、例えば、filtered-xアルゴリズムに基づいて動作する。
【0069】
DAコンバータ116は、制御信号y(n)をアナログ信号に変換する。ローパスフィルタ115は、DAコンバータ116の出力信号の低域成分を通過させる。パワーアンプ114は、ローパスフィルタ115の出力信号を増幅する。パワーアンプ114から出力された信号が、制御信号としてスピーカー10に送信される。この信号に基づいて、放射面15から音が出力される。
【0070】
以上の説明から理解されるように、ANCシステム500Bは、誤差マイクロフォン140と、制御装置110Bと、を備える。構造物80と、スピーカー10と、誤差マイクロフォン140と、はこの順に並んでいる。制御装置110Bは、誤差マイクロフォン140の出力信号に基づいて、スピーカー10から出力される音を制御するフィードバック制御を実行する。フィードバック制御によれば、
図13Aの参照マイクロフォン130を必要とすることなく、周期信号を消音することが可能である。
【0071】
ANCシステム500A及び500Bに関する説明から理解されるように、ANCシステム500の制御装置110は、少なくとも1つのアンプを有し得る。制御装置110は、少なくとも1つのローパスフィルタを有し得る。制御装置110は、少なくとも1つのADコンバータを有し得る。制御装置110は、少なくとも1つのDAコンバータを有し得る。これらの要素は、スピーカー10から出力される音の制御に寄与し得る。
【0072】
ANCシステム500は、オフィス等に設けられ得る。一具体例では、パーティションである構造物80に、スピーカー10が取り付けられる。騒音源200は、ある会議スペースの人間である。領域300は、別の会議スペースである。
【0073】
[スピーカー10の第1構成例]
図15及び
図16を用いて、第1構成例に係るスピーカー10を説明する。第1構成例では、スピーカー10は、圧電フィルムを含む圧電スピーカーである。以下、第1構成例に係るスピーカー10を、圧電スピーカー10と称することがある。
【0074】
圧電スピーカー10は、圧電フィルム35と、第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、を備えている。第1接合層51と、介在層40と、第2接合層52と、圧電フィルム35とは、この順に積層されている。
【0075】
圧電フィルム35は、圧電体30と、第1電極61と、第2電極62と、を含んでいる。
【0076】
圧電体30は、フィルム形状を有している。圧電体30は、電圧が印加されることによって振動する。圧電体30として、セラミックフィルム、樹脂フィルム等を用いることができる。セラミックフィルムである圧電体30の材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンであってもよい。また、圧電体30は、無孔体であってもよく、多孔体であってもよい。
【0077】
圧電体30の厚さは、例えば10μm〜300μmの範囲にあり、30μm〜110μmの範囲にあってもよい。
【0078】
第1電極61及び第2電極62は、圧電体30を挟むように圧電体30に接している。第1電極61及び第2電極62は、フィルム形状を有している。第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、図示しないリード線に接続されている。第1電極61及び第2電極62は、蒸着、めっき、スパッタリング等により圧電体30上に形成され得る。第1電極61及び第2電極62として、金属箔を用いることもできる。金属箔は、両面テープ、粘着剤、接着剤等によって圧電体30に貼り付け可能である。第1電極61及び第2電極62の材料としては、金属が挙げられ、具体的には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロム、モリブデン、鉄、鈴、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、炭素、導電性高分子等も挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、これらの合金も挙げられる。第1電極61及び第2電極62は、ガラス成分等を含んでいてもよい。
【0079】
第1電極61及び第2電極62の厚さは、それぞれ、例えば10nm〜150μmの範囲にあり、20nm〜100μmの範囲にあってもよい。
【0080】
図15及び
図16の例では、第1電極61は、圧電体30の一方の主面全体を覆っている。ただし、第1電極61は、圧電体30の該一方の主面の一部のみを覆っていてもよい。第2電極62は、圧電体30の他方の主面全体を覆っている。ただし、第2電極62は、圧電体30の該他方の主面の一部のみを覆っていてもよい。
【0081】
第1構成例では、介在層40は、圧電フィルム35と第1接合層51との間に配置されている。介在層40は、接着層及び粘着層以外の層であってもよく、接着層又は粘着層であってもよい。第1構成例では、介在層40は、多孔体層及び/又は樹脂層である。ここで、樹脂層はゴム層及びエラストマ層を含む概念であり、従って樹脂層である介在層40はゴム層又はエラストマ層であってもよい。樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層等が挙げられる。多孔体層である介在層40としては、発泡体層等が挙げられる。具体的には、多孔体層及び樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム発泡体層、ブチルゴム発泡体層、ニトリルゴム発泡体層、天然ゴム発泡体層、スチレンブタジエンゴム発泡体層、シリコーン発泡体層、ウレタン発泡体層等が挙げられる。多孔体層ではないが樹脂層である介在層40としては、アクリル樹脂層等が挙げられる。樹脂層ではないが多孔体層である介在層40としては、金属の多孔体層等が挙げられる。ここで、樹脂層は、樹脂を含む層を指し、樹脂を30%以上含んでいてもよく、樹脂を45%以上含んでいてもよく、樹脂を60%以上含んでいてもよく、樹脂を80%以上含んでいてもよい層を指す。ゴム層、エラストマ層、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層、金属層等についても同様である。また、圧電体30として採用され得る樹脂フィルム、セラミックフィルム等についても同様である。介在層40は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0082】
介在層40の弾性率は、例えば10000N/m
2〜20000000N/m
2であり、20000N/m
2〜100000N/m
2であってもよい。
【0083】
一例では、多孔体層である介在層40の孔径は、0.1mm〜7.0mmであり、0.3mm〜5.0mmであってもよい。別の例では、多孔体層である介在層40の孔径は、例えば0.1mm〜2.5mmであり、0.2mm〜1.5mmであってもよく、0.3mm〜0.7mmであってもよい。多孔体層である介在層40の空孔率は、例えば70%〜99%であり、80%〜99%であってもよく、90%〜95%であってもよい。
【0084】
発泡体層である介在層40として、公知の発泡体を利用できる(例えば、特許文献2の発泡体を利用できる)。発泡体層である介在層40は、連続気泡構造を有していてもよく、独立気泡構造を有していてもよく、半独立半連続気泡構造を有していてもよい。連続気泡構造は、連続気泡率が100%である構造を指す。独立気泡構造は、連続気泡率が0%である構造を指す。半独立半連続気泡構造は、連続気泡率が0%よりも大きく100%よりも小さい構造を指す。ここで、連続気泡率は、例えば、発泡体層を水中に沈める試験を行い、式:連続気泡率(%)={(吸水した水の体積)/(気泡部分体積)}×100を用いて計算することができる。一具体例では、「吸水した水の体積」は、発泡体層を水中に沈めて−750mmHgの減圧下で3分間放置した後に、発泡体層の気泡中の空気と置換された水の質量を測り、水の密度を1.0g/cm
3として体積に換算することで得られるものである。「気泡部分体積」は、式:気泡部分体積(cm
3)={(発泡体層の質量)/(発泡体層の見かけ密度)}−{(発泡体層の質量)/(材料密度)}を用いて計算される値である。「材料密度」は、発泡体層を形成する母材(中実体)の密度である。
【0085】
発泡体層である介在層40の発泡倍率(発泡前後の密度比)は、例えば5〜40倍であり、10〜40倍であってもよい。
【0086】
非圧縮状態における介在層40の厚さは、例えば0.1mm〜30mmの範囲にあり、1mm〜30mmの範囲にあってもよく、1.5mm〜30mmの範囲にあってもよく、2mm〜25mmの範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層40の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。また、典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、第1接合層51よりも厚い。
【0087】
第1接合層51は、その表面により固定面17を形成している。第1接合層51は、構造物80に接合される層である。
図15の例では、第1接合層51は、介在層40に接合している。
【0088】
第1構成例では、第1接合層51は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第1接合層51は、接着層又は粘着層である。固定面17は、接着面又は粘着面である。第1接合層51は、構造物80に貼り付けられ得る。
図1の例では、第1接合層51は、介在層40に接している。
【0089】
第1接合層51としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第1接合層51として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第1接合層51は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0090】
第1接合層51の厚さは、例えば0.01mm〜1.0mmであり、0.05mm〜0.5mmであってもよい。
【0091】
第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35との間に配置されている。第1構成例では、第2接合層52は、粘着性又は接着性の層である。別の言い方をすると、第2接合層52は、接着層又は粘着層である。具体的には、第2接合層52は、介在層40と圧電フィルム35とに接合している。
【0092】
第2接合層52としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第2接合層52として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第2接合層52は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0093】
第2接合層52の厚さは、例えば0.01mm〜1.0mmであり、0.05mm〜0.5mmであってもよい。
【0094】
第1構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面17側の層と一体化されている。具体的には、第1構成例では、当該接着面又は粘着面は、第2粘着層又は接着層52の表面により形成された面である。
【0095】
圧電スピーカー10は、ANCシステム500に適用可能である。圧電スピーカー10は、ダイナミックスピーカーに比べ、自身に電気信号が届いてから音が出るまでにかかる時間(以下、遅延時間と称することがある)が短い。このため、圧電スピーカー10は、自身のサイズが小さい点のみならず、参照マイクロフォン130と圧電スピーカー10との距離を短くできる点でも、小型のANCシステムの構成に適している。例えば、参照マイクロフォン130、制御装置110及び圧電スピーカー10を1つのパーティションに取り付けることも可能である。
【0096】
圧電スピーカー10が構造物80に固定された状態で、電圧が、リード線を介して、圧電フィルム35に印加される。これにより、圧電フィルム35が振動し、圧電フィルム35から音波が放射される。
【0097】
圧電スピーカー10及び圧電スピーカー10が適用されたANCシステム500について、さらに説明する。
【0098】
圧電スピーカー10は、固定面17によって、構造物80に固定され得る。そのようにして、圧電スピーカー10を用いたANCシステム500を構成できる。ANCシステム500では、介在層40は、圧電フィルム35と構造物80との間に配置される。
【0099】
作用の詳細については今後の検討を待つ必要があるが、圧電フィルム35の片方の主面を介在層40によって適度に拘束することにより、圧電フィルム35から可聴音域における低周波側の音が発生し易くなっている可能性がある。これを考慮すると、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において介在層40が配置されるようにしてもよい。また、圧電スピーカー10における固定面17とは反対側の主面38の50%以上を圧電フィルム35よって構成することができる。主面38の75%以上を圧電フィルム35によって構成してもよく、主面38全体を圧電フィルム35によって構成してもよい。
【0100】
第1構成例では、第2接合層52によって、圧電フィルム35と介在層40との分離が防止されている。上記の「適度な拘束」の観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において第2接合層52及び介在層40が配置されるようにしてもよい。
【0101】
ここで、介在層40が多孔体である場合、介在層40が配置される領域の比率は、その多孔質構造に由来する細孔を考慮した微視的な観点ではなく、より巨視的な観点から規定されるものである。例えば、圧電フィルム35、多孔体である介在層40及び第2接合層52が平面視で共通の輪郭を有する板状体である場合、圧電フィルム35の面積の100%の領域において第2接合層52及び介在層40が配置されていると表現される。
【0102】
第1構成例では、介在層40の拘束度は、5×10
9N/m
3以下である。介在層40の拘束度は、例えば、1×10
4N/m
3以上である。介在層40の拘束度は、好ましくは5×10
8N/m
3以下であり、より好ましくは2×10
8N/m
3以下であり、さらに好ましくは1×10
5〜5×10
7N/m
3である。ここで、介在層40の拘束度(N/m
3)は、以下の式のように、介在層40の弾性率(N/m
2)と介在層40の表面充填率との積を介在層40の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。介在層40の表面充填率は、介在層40における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の孔が均等に分布している場合、表面充填率は、介在層40の3次元的な充填率に等しいとみなすことができる。
拘束度(N/m
3)=弾性率(N/m
2)×表面充填率÷厚さ(m)
【0103】
拘束度は、介在層40による圧電フィルム35の拘束の程度を表すパラメータと考えることができる。介在層40の弾性率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の表面充填率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の厚さが小さいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の拘束度と圧電フィルム35から発生する音との関係については今後の検討を待つ必要があるが、拘束度が過度に大きい場合には、低周波側の音を出すのに必要な圧電フィルム35の変形が妨げられている可能性がある。逆に、拘束度が過度に小さい場合には、圧電フィルム35がその厚さ方向に十分に変形せず、その面内方向(厚さ方向に垂直な方向)のみに伸縮し、低周波側の音の発生が妨げられている可能性がある。介在層40の拘束度を適度な範囲に設定することによって、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換され、圧電フィルム35が全体として適切に屈曲し、低周波側の音が発生し易くなっていると考えることができる。
【0104】
上述の説明から理解されるように、圧電フィルム35と固定面17との間に、介在層40とは異なる層があってもよい。当該異なる層は、例えば、第2粘着層52である。
【0105】
介在層40に比べ、構造物80は、大きい拘束度を有していてもよい。この場合であっても、介在層40の寄与により、圧電フィルム35から低周波側の音が発生し得る。ただし、構造物80は、介在層40と同じ拘束度を有していてもよく、介在層40よりも小さい拘束度を有していてもよい。ここで、構造物80の拘束度(N/m
3)は、構造物80の弾性率(N/m
2)と構造物80の表面充填率との積を構造物80の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。構造物80の表面充填率は、構造物80における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。
【0106】
典型的には、介在層40に比べ、構造物80は、大きい剛性(ヤング率と断面2次モーメントの積)、大きいヤング率及び/又は大きい厚さを有する。ただし、構造物80は、介在層40と同じ剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよく、介在層40よりも小さい剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよい。構造物80のヤング率は、例えば1GPa以上であり、10GPa以上であってもよく、50GPa以上であってもよい。構造物80のヤング率の上限は特に限定されないが、例えば1000GPaである。
【0107】
図示の例では、圧電フィルム35は、介在層40によって完全に包囲されているわけではない。図示の例では、介在層40及び圧電フィルム35をこの順に通りその後介在層40を経由せずにスピーカー10の外部に至る仮想直線が存在する。ここで、「仮想直線が存在する」とは、そのような直線を引くことができるという意味である。図示の例では、介在層40は、圧電フィルム35から見て固定面17側のみに拡がっている。
【0108】
図示の例では、圧電フィルム35における固定面17とは反対側の主面38が、放射面15を構成している。ただし、他の形態も採用され得る。
【0109】
具体的には、圧電フィルム35における介在層40とは反対側に、第1の層が設けられていてもよい。例えば、第1の層は、圧電フィルム35の保護に用いられる。この場合、第1の層の主面が、放射面15を構成し得る。あるいは、第1の層とは別の第2の層が、放射面15を構成し得る。
【0110】
第1の層の厚さは、例えば、0.05mm〜5mmである。第1の層の材料は、例えば、ポリエステル系の材料である。ここで、ポリエステル系の材料は、ポリエステルを含む材料を指し、ポリエステルを30%以上含んでいてもよく、ポリエステルを45%以上含んでいてもよく、ポリエステルを60%以上含んでいてもよく、ポリエステルを80%以上含んでいてもよい材料を指す。一例では、介在層40の材料と第1の層の材料とは異なる。第1の層は、フィルム形状を有していてもよい。第1の層は、不織布であってもよい。
【0111】
第1構成例では、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の少なくとも一部が固定面17と重複する(
図15の例では第1接合層51と重複する)ように、固定面17が配置されている。圧電スピーカー10を構造物80に安定して固定する観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において固定面17が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において固定面17が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において固定面17が配置されるようにしてもよい。
【0112】
第1構成例では、圧電フィルム35と固定面17との間に存在する互いに隣接する層は接合されている。ここで、「圧電フィルム35と固定面17との間」は、圧電フィルム35及び固定面17を含む。具体的には、第1接合層51と介在層40は接合されており、介在層40と第2接合層52は接合されており、第2接合層52と圧電フィルム35とは接合されている。このため、構造物80への取付姿勢によらず、圧電フィルム35を安定して配置でき、しかも構造物80への取付が容易である。さらに、介在層40の寄与により、取付姿勢によらず、圧電フィルム35から音が出る。従って、第1構成例では、これらが相俟って、使い勝手がよい圧電スピーカーが実現される。なお、「互いに隣接する層は接合されている」は、互いに隣接する層が全体的又は部分的に接合されていることを意味する。図示の例では、圧電フィルム35の厚さ方向に沿って延び圧電フィルム35、介在層40及び固定面17をこの順に通る所定領域において、互いに隣接する層が接合されている。
【0113】
第1構成例では、圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さが実質的に一定である。このことは、圧電スピーカー10の保管、使い勝手、圧電フィルム35から出る音の制御等の種々の観点から有利である場合が多い。なお、「厚さが実質的に一定」は、例えば、厚さの最小値が最大値の70%以上100%以下であることを指す。圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さの最小値が最大値の85%以上100%以下であってもよい。
【0114】
ところで、樹脂は、セラミック等に比べ、クラックが発生し難い材料である。一具体例では、圧電フィルム35の圧電体30は樹脂フィルムであり、介在層40は圧電フィルムとしては機能しない樹脂層である。このようにすることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく圧電スピーカー10をハサミ、人の手等で切断する観点から有利である(圧電スピーカー10がハサミ、人の手等で切断可能であることは、ANCシステム500の設計自由度向上に寄与し、また、ANCシステム500の構築を容易にする)。また、このようにすれば、圧電スピーカー10を曲げても圧電体30又は介在層40でクラックが生じ難くなる。また、圧電体30が樹脂フィルムであり介在層40が樹脂層であることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく湾曲面上に圧電スピーカー10を固定する観点から有利である。
【0115】
図15の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で輪郭が一致している。ただし、これらの輪郭がずれていても構わない。
【0116】
図15の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1接合層51及び第2接合層52は、平面視で短手方向及び長手方向を有する長方形である。ただし、これらは、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0117】
また、圧電スピーカー10は、
図15に示す層以外の層を含んでいてもよい。
図15に示す層以外の層は、例えば、上述の第1の層及び第2の層である。
【0118】
[スピーカー10の第2構成例]
以下、
図17を用いて第2構成例に係る圧電スピーカー110を説明する。以下では、第1構成例と同様の部分については、説明を省略することがある。
【0119】
圧電スピーカー110は、圧電フィルム35と、固定面117と、介在層140と、を備えている。固定面117は、圧電フィルム35を構造物80に固定することに利用可能である。
【0120】
介在層140は、圧電フィルム35と固定面117との間(ここで、「間」は固定面117を含む。第1構成例についても同様である)に配置されている。固定面117は、介在層140の表面(主面)により形成されている。
【0121】
介在層140は、多孔体層及び/又は樹脂層である。介在層140は、粘着層又は接着層である。介在層140として、アクリル樹脂を含む粘着剤を用いることができる。介在層140として、他の粘着剤、例えば、ゴム、シリコーン又はウレタンを含む粘着剤を用いてもよい。介在層140は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0122】
介在層140の弾性率は、例えば10000N/m
2〜20000000N/m
2であり、20000N/m
2〜100000N/m
2であってもよい。
【0123】
非圧縮状態における介在層140の厚さは、例えば0.1mm〜30mmの範囲にあり、1mm〜30mmの範囲にあってもよく、1.5mm〜30mmの範囲にあってもよく、2mm〜25mmの範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層140は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層140の厚さの比率は、例えば3倍以上であり、10倍以上であってもよく、30倍以上であってもよい。
【0124】
第2構成例では、介在層140の拘束度は、5×10
9N/m
3以下である。介在層140の拘束度は、例えば、1×10
4N/m
3以上である。介在層140の拘束度は、好ましくは5×10
8N/m
3以下であり、より好ましくは2×10
8N/m
3以下であり、さらに好ましくは1×10
5〜5×10
7N/m
3である。拘束度の定義は、先に説明した通りである。
【0125】
第2構成例では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面117側の層と一体化されている。具体的には、第2構成例では、当該接着面又は粘着面は、介在層140により形成された面である。
【0126】
圧電スピーカー110も、固定面117によって、構造物80に固定され得る。そのようにして、圧電スピーカー110を用いたANCシステム500を構成できる。
【実施例】
【0127】
実施例により、本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0128】
(サンプルE1)
固定された支持部材680に圧電スピーカー10の固定面17を貼り付けることによって、
図18に示す構造を作製した。具体的には、支持部材680として、厚さ5mmのステンレス平板(SUS平板)を用いた。第1接合層51として、不織布の両面にアクリル系粘着剤を含侵させた、厚み0.16mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。介在層40として、エチレンプロピレンゴムとブチルゴムとを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで独立気泡型の発泡体を用いた。第2接合層52として、基材が不織布でありその基材の両面に無溶剤型のアクリル樹脂を含む粘着剤が塗布された、厚さ0.15mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。圧電フィルム35として、両面に銅電極(ニッケルを含む)が蒸着されたポリフッ化ビニリデンフィルム(総厚み33μm)を用いた。サンプルE1の第1接合層51、介在層40、第2接合層52及び圧電フィルム35は、平面視で縦37.5mm×横37.5mmの寸法を有しており、平面視で輪郭が重複した非分割かつ非枠状の板状形状を有している(後述のサンプルE2〜E17及びR1でも同様である)。支持部材680は、平面視で縦50mm×横50mmの寸法を有しており、第1接合層51を全体的に覆っている。このようにして、
図18に示す構成を有するサンプルE1を作製した。
【0129】
(サンプルE2)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含むものである。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE2を作製した。
【0130】
(サンプルE3)
サンプルE3では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ5mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE3を作製した。
【0131】
(サンプルE4)
サンプルE4では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE4を作製した。
【0132】
(サンプルE5)
サンプルE5では、介在層40として、サンプルE2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ20mmの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE2と同様のサンプルE5を作製した。
【0133】
(サンプルE6)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含まないものであり、サンプルE2〜E5の介在層40として用いた発泡体に比べて柔軟である。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE6を作製した。
【0134】
(サンプルE7)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約20倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE7を作製した。
【0135】
(サンプルE8)
介在層40として、金属多孔体を用いた。この金属多孔体は、材料がニッケルであり、孔径が0.9mmであり、厚みが2.0mmのものである。第2接合層52として、サンプルE1の第1接合層51と同じ粘着層を用いた。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE8を作製した。
【0136】
(サンプルE9)
サンプルE1の第1接合層51及び第2接合層52を省略し、圧電フィルム35と構造物80との間に介在層140のみを介在させた。介在層140として、アクリル系粘着剤によって構成された、厚さ3mmの基材レス粘着シートを用いた。それ以外は、サンプルE1と同様の、
図18の支持部材680に
図17の積層体が取り付けられた構成を有する、サンプルE9を作製した。
【0137】
(サンプルE10)
介在層40として、サンプルE9の介在層140と同じ介在層を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE10を作製した。
【0138】
(サンプルE11)
介在層40として、厚さ5mmのウレタンフォームを用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE11を作製した。
【0139】
(サンプルE12)
介在層40として、厚さ10mmのウレタンフォームを用いた。このウレタンフォームは、サンプルE11の介在層40として用いたウレタンフォームに比べて孔径が小さいものである。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE12を作製した。
【0140】
(サンプルE13)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のアクリルニトリルブタジエンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE13を作製した。
【0141】
(サンプルE14)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のエチレンプロピレンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE14を作製した。
【0142】
(サンプルE15)
介在層40として、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとがブレンドされた厚さ5mmで独立気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE15を作製した。
【0143】
(サンプルE16)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のシリコーンの発泡体を用いた。それ以外は、サンプルE8と同様のサンプルE16を作製した。
【0144】
(サンプルE17)
介在層40として、サンプルE1の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。第2接合層52として、サンプルE1と同じ粘着シートを用いた。圧電フィルム35の圧電体30として、厚さ35μmのトウモロコシ由来のポリ乳酸を主原料とした樹脂シートを用いた。圧電フィルム35の第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、厚さ0.1μmのアルミニウム膜であり、蒸着によって形成した。こうして、総厚みが35.2μmの圧電フィルム35を得た。それ以外は、サンプルE1と同様のサンプルE17を作製した。
【0145】
(サンプルR1)
サンプルE1の圧電フィルム35を、サンプルR1とした。地面に平行な台上に、接着せずにサンプルR1を置いた。
【0146】
サンプルE1〜E17及びR1を、以下のようにして評価した。
【0147】
<介在層の厚さ(非圧縮状態)>
介在層の厚さは、厚みゲージを用いて測定した。
【0148】
<介在層の弾性率>
介在層から、小片を切り出した。切り出した小片に対して、引張試験機(TA Instruments社製「RSA−G2」)を用いて、常温で圧縮試験を行った。これにより、応力−ひずみ曲線を得た。応力−ひずみ曲線の初期傾きから、弾性率を算出した。
【0149】
<介在層の孔径>
顕微鏡により、介在層の拡大画像を得た。この拡大画像を画像解析することにより、介在層の孔径の平均値を求めた。求めた平均値を、介在層の孔径とした。
【0150】
<介在層の空孔率>
介在層から直方体の小片を切り出した。切り出した小片の体積及び質量から見かけの密度を求めた。見かけの密度を、介在層を形成する母材(中実体)の密度で除した。これにより、充填率を算出した。さらに1から充填率を差し引いた。これにより、空孔率を得た。
【0151】
<介在層の表面充填率>
サンプルE2〜16については、上述の充填率を表面充填率とした。サンプルE1及び17では、介在層は表面スキン層を有しているため、表面充填率は100%とした。
【0152】
<サンプルの音圧レベルの周波数特性>
サンプルE1〜E8及びE10〜E17を測定するための構成を、
図19に示す。圧電フィルム35の両面の角部に、厚さ70μmであり縦5mm×横70mmである導電性銅箔テープ70(3M社製のCU−35C)を取り付けた。また、これらの導電性銅箔テープ70のそれぞれに、みのむしクリップ75を取り付けた。導電性銅箔テープ70及びみのむしクリップ75は、圧電フィルム35に交流電圧を印加するための電気経路の一部を構成する。
【0153】
サンプルE9を測定するための構成を、
図20に示す。
図20の構成には、
図19の第1接合層51及び第2接合層52がない。
図20の構成には、介在層140がある。
【0154】
サンプルR1を測定するための構成は、
図19及び
図20に倣ったものである。具体的には、
図19及び
図20に倣って、圧電フィルム35の両面の角部に導電性銅箔テープ70を取り付け、これらのテープ70にみのむしクリップ75を取り付けた。こうして得られたアセンブリを、地面に平行な台上に接着せずに置いた。
【0155】
図21及び
図22に、サンプルの音響特性を測定するためのブロック図を示す。具体的に、
図21は出力系を示し、
図22は評価系を示す。
【0156】
図21に示す出力系では、音声出力用パーソナルコンピュータ(以下、パーソナルコンピュータをPCと簡略化して記載することがある)401と、オーディオインターフェース402と、スピーカーアンプ403と、サンプル404(サンプルE1〜E17及びR1の圧電スピーカー)と、をこの順に接続した。スピーカーアンプ403からサンプル404への出力を確認できるように、スピーカーアンプ403をオシロスコープ405にも接続した。
【0157】
音声出力用PC401には、WaveGeneがインストールされている。WaveGeneは、テスト用音声信号を発生させるためのフリーソフトである。オーディオインターフェース402として、ローランド株式会社製のQUAD−CAPTUREを用いた。オーディオインターフェース402のサンプリング周波数は、192kHzとした。スピーカーアンプ403として、オンキヨー株式会社製のA−924を用いた。オシロスコープ405として、テクトロニクス社製のDPO2024を用いた。
【0158】
図22に示す評価系では、マイクロフォン501と、音響評価装置(PULSE)502と、音響評価用PC503と、をこの順に接続した。
【0159】
マイクロフォン501として、B&K社製のType4939−C−002を用いた。マイクロフォン501は、サンプル404から1m離れた位置に配置した。音響評価装置502として、B&K社製のType3052−A−030を用いた。
【0160】
このように出力系及び評価系を構成し、音声出力用PC401からオーディオインターフェース402及びスピーカーアンプ403を介してサンプル404に交流電圧を印加した。具体的には、音声出力用PC401を用いて、20秒間で周波数が100Hzから100kHzまでスイープするテスト用音声信号を発生させた。この際、スピーカーアンプ403から出力される電圧を、オシロスコープ405により確認した。また、サンプル404から発生した音を、評価系で評価した。このようにして、音圧周波数特性測定試験を行った。
【0161】
出力系及び評価系の設定の詳細は、以下の通りである。
【0162】
[出力系の設定]
・周波数範囲:100Hz〜100kHz
・スイープ時間:20秒
・実効電圧:10V
・出力波形:サイン波
【0163】
[評価系の設定]
・測定時間:22秒
・ピークホールド
・測定範囲:4Hz〜102.4kHz
・ライン数:6400
【0164】
<音が出始める周波数の判断>
暗騒音よりも3dB以上音圧レベルが大きい周波数域(音圧レベルが暗騒音+3dB以上に保たれる周波数範囲がピーク周波数(音圧レベルがピークとなる周波数)の±10%に満たないような急峻なピーク部を除く)の下端を、音が出始める周波数と判断した。
【0165】
サンプルE1〜17及びサンプルR1の評価結果を、
図23A〜
図42に示す。
図43に、暗騒音の音圧レベルの周波数特性を示す。なお、
図24において、E1〜E17はサンプルE1〜17に対応する。
【0166】
(ANCシステムの評価)
平面視の寸法を縦35cm×横50cmとしたこと以外はサンプルE1の圧電スピーカー10と同様の圧電スピーカー10を用いて、
図44に示すANC評価系800を構成した。
【0167】
圧電スピーカー10を、パーティション780に取り付けた。騒音源700と、参照マイクロフォン730と、パーティション780の中心と、圧電スピーカー10の中心と、誤差マイクロフォン735と、がこの順に直線上に並ぶように、これらを配置した。また、パーティション780からみて圧電スピーカー10側に、制御領域790を設定した。制御領域790に、測定用マイクロフォン740を配置した。
【0168】
図44において、x方向は、制御領域790の縦方向である。y方向は、制御領域790の横方向である。z方向は、制御領域790の奥行方向である。x方向、y方向及びz方向は、互いに直交する方向である。
【0169】
z方向は、騒音源700と、参照マイクロフォン730と、パーティション780の中心と、圧電スピーカー10の中心と、誤差マイクロフォン735と、が並ぶ方向でもある。z方向は、圧電スピーカー10の放射面15が面する方向でもある。
【0170】
騒音源700として、富士通テン株式会社製のEclipse TD508MK3を用いた。パーティション780として、有限会社ミハシ工芸製のデスクサイドスクリーンRを用いた。参照マイクロフォン730として、ソニー株式会社製のECM−PC60を用いた。誤差マイクロフォン735として、ソニー株式会社製のECM−PC60を用いた。測定用マイクロフォン740としてソニー株式会社製のECM−PC60を用いた。
【0171】
騒音源700と参照マイクロフォン730との間隔は5cmである。参照マイクロフォン730とパーティション780との間隔は60cmである。圧電スピーカー10の放射面15と誤差マイクロフォン735との間隔は17.5cmである。これらの間隔は、z方向の寸法である。
【0172】
パーティション780は、平面視で長方形の板状形状を有する。パーティション780の寸法は、縦60cm×横45cm×幅0.5cmである。制御領域790の寸法は、縦60cm×横45cm×奥行60cmである。これらの縦方向は、x方向である。これらの横方向は、y方向である。これらの幅方向又は奥行方向は、z方向である。
【0173】
ANC評価系800では、第1マージンM1は、5cmである。第2マージンM2は、5cmである。これらのマージンは、x方向の寸法である。
【0174】
ANC評価系800では、出力信号PC(パーソナルコンピュータ)750と、測定用PC760と、制御装置710と、を用いた。出力信号PC750を、騒音源700及び測定用PC760に接続した。
【0175】
出力信号PC750は、騒音源700に、騒音信号を送信する。これにより、出力信号PC750は、騒音源700に、正弦波を放射させる。また、出力信号PC750は、測定用PC760に、トリッガー信号を送信する。トリッガー信号により、各測定データに、共通する基準時を与えることができる。具体的には、後述する176個の測定点について、時間軸の揃った音圧データを得ることが可能となる。このことは、後述する
図45A〜
図60に示す音圧分布のマッピングを可能にする。
【0176】
参照マイクロフォン730は、騒音源700からの音を感知する。参照マイクロフォン730の出力信号は、制御装置710に送信される。
【0177】
誤差マイクロフォン735は、制御領域790における音を感知する。誤差マイクロフォン735の出力信号は、制御装置710に送信される。
【0178】
制御装置710は、参照マイクロフォン730及び誤差マイクロフォン735の出力信号に基づいて、圧電スピーカー10に制御信号を送信する。これにより、制御装置710は、圧電スピーカー10から放射される音波を制御する。
【0179】
測定用マイクロフォン740は、自身が配置された位置における音を感知する。測定用マイクロフォン740の出力信号は、測定用PC760に送信される。
【0180】
測定用PC760は、出力信号PC750からのトリッガー信号と、測定用マイクロフォン740の出力信号と、を受信する。
【0181】
制御領域790は、x方向及びz方向に延びる測定用断面790CSを有する。ANC評価系800では、測定用断面790CSに、176個の測定点が設けられている。具体的には、測定用断面790CSは、x方向に均等に11分割され、z方向に均等に16分割されている。176個という測定点の数は、x方向の分割数11と、z方向の分割数16との積である。測定用断面790CSのy方向の位置は、放射面15のy方向の中心位置と同じである。測定用断面790CS上に、誤差マイクロフォン735が設けられている。
【0182】
ANC評価系800では、測定用マイクロフォン740を、176個の測定点に順次移動させる。こうして、マイクロフォン740は、測定用PC760と協働して、176個の測定点における音圧を測定する。具体的には、測定用PC760は、176個の測定点における音圧の分布をマッピングする。このマッピングにより、測定用断面790CSの音場が可視化される。
【0183】
以下、
図45A〜
図62Cを参照しつつ、実測したデータに基づいた説明を行う。なお、
図45A〜
図62Cにおいて、
図44に示す制御領域790におけるパーティション780から遠い一部分の図示が省略されている。
図45A〜
図45C、
図47A〜
図47C、
図49A〜
図49C、
図51A〜
図51C、
図53A〜
図53C、
図55A〜
図55C、
図57A〜
図57C及び
図59A〜
図59Cにおいて、カラーバーの数値は、音圧レベルを指し、その単位はパスカル(Pa)である。この数値が正であることは音圧が正であることを意味し、この数値が負であることは音圧が負であることを意味する。
【0184】
(参考例1:回折音の測定)
圧電スピーカー10が音を発しておらず、かつ、騒音源700が正弦波を放射している状況で、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。
図45A〜
図48に、マッピングにより得た音圧分布を示す。なお、
図45A〜48では、回折音の測定を行っていることが直感的に理解され易くなるように、圧電スピーカー10の図示は省略している。しかし、参考例1の測定は、後述の実施例1と同様、圧電スピーカー10がパーティション780に取り付けられた状態で行った。
【0185】
具体的には、
図45A〜
図45Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、騒音源700由来の音圧分布を示す。
図45A〜
図45Cは、時系列の順に並べられている。
図46の一連の線は、500Hzの正弦波を放射する騒音源700によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
図47A〜
図47Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、騒音源700由来の音圧分布を示す。
図47A〜
図47Cは、時系列の順に並べられている。
図48の一連の線は、800Hzの正弦波を放射する騒音源700によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0186】
図46では、一連の線の各々は、互いに異なる時刻における「ある波面」の位置を示している。概括的にいうと、
図46では、互いに隣接する2つの線のうち、パーティション780からより離れているものが、より進んだ時刻における「ある波面」を表している。
図46のブロック矢印は、波面の伝搬方向を示す。一連の線及びブロック矢印に関するこれらの説明は、
図48、
図50、
図52、
図54、
図56、
図58及び
図60についても同様である。
【0187】
なお、
図46は、以下の手順で作成した。まず、
図45A〜
図45Cと同様の、互いに異なる時刻に関する実測に基づく音圧分布図を複数取得した。次に、それら複数の音圧分布図の各々において、ある波面に対応する線を、手作業で引いた。次に、線を引いた後の複数の音圧分布図を重ね合わせた。これにより、
図46に示す、波面の伝搬を表す一連の線が描かれた図を得た。図の作成手順に関するこれらの説明は、
図48、
図50、
図52、
図54、
図56、
図58及び
図60についても同様である。
【0188】
図45A〜
図48は、パーティション780における対向する端部において、回折が生じていることを示している。また、
図45A〜
図48は、これらの端部での回折により生じた波面が、パーティション780の背後に回り込むように伝搬していることを示している。具体的には、
図45A〜
図48は、これらの端部での回折により生じた波面が、パーティション780の中心を通りz方向に延びる軸に近づくように伝搬していることを示している。
図45A〜
図48に示す波面の伝搬の仕方は、
図2と同様である。
【0189】
(実施例1:圧電スピーカー10が発する音の測定)
参考例1と同様に騒音源700が正弦波を放射している状態で、制御装置710を用いて圧電スピーカー10を振動させ、圧電スピーカー10から消音用の音波を発生させた。この際に、制御装置710に、圧電スピーカー10に送信する制御信号を記憶させた。その後、騒音源700が音を放射していない状態で、制御装置710に、記憶させた制御信号を圧電スピーカー10に送信させた。このようにして、騒音源700が音を放射していない状態で圧電スピーカー10の振動を再現し、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。
図49A〜
図52に、マッピングにより得た音圧分布を示す。
【0190】
具体的には、
図49A〜
図49Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、圧電スピーカー10由来の音圧分布を示す。
図49A〜
図49Cは、時系列の順に並べられている。
図50の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合において圧電スピーカー10によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
図51A〜51Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、圧電スピーカー10由来の音圧分布を示す。
図51A〜
図51Cは、時系列の順に並べられている。
図52の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合において圧電スピーカー10によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0191】
図49A〜
図52は、圧電スピーカー10の放射面15の中央領域を挟む2つの外側領域から、中央領域を通りz方向に延びる軸に近づくように、波面が伝搬していることを示している。
図49A〜
図52に示す波面の伝搬の仕方は、
図3と同様である。具体的には、騒音源700からの騒音がパーティション780で回折して生じる回折波の波面と、圧電スピーカー10由来の波面とは、上記軸に近づきながら伝搬している点で、共通している。
【0192】
また、
図45A〜
図48から、パーティション780での回折により、第1領域15aにおける音波の位相と第2領域15bにおける音波の位相の正負が同じであり、第1領域15aにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2領域15bにおける音波の位相と第3領域15cにおける音波の位相の正負が逆である期間が現れていることが把握される(領域15a,15b及び15cについては、
図1〜3及び関連する説明を参照されたい)。
図49A〜
図52から、圧電スピーカー10により、第1音波の位相と第2音波の位相の正負が同じであり、第1音波の位相と第3音波の位相の正負が逆であり、かつ、第2音波の位相と第3音波の位相の正負が逆である期間が現れていることが把握される(第1音波、第2音波及び第3音波については、
図1〜3を参照して行った説明を参照されたい)。第1領域15a、第2領域15b及び第3領域15cにおける位相分布についても、騒音源700由来の騒音と圧電スピーカー10由来の音とで共通性が見られる。
【0193】
(比較例1:ダイナミックスピーカー610が発する音の測定)
実施例1の圧電スピーカー10を、ダイナミックスピーカー610に置き換えた。このダイナミックスピーカー610は、フォスター電機株式会社製のFostex P650Kである。この置き換えをしたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイナミックスピーカー610に由来する、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。
図53A〜
図56に、マッピングにより得た音圧分布を示す。なお、ダイナミックスピーカー610は、パーティション780に埋め込まれている。
【0194】
具体的には、
図53A〜
図53Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、ダイナミックスピーカー610由来の音圧分布を示す。
図53A〜
図53Cは、時系列の順に並べられている。
図54の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合においてダイナミックスピーカー610によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
図55A〜
図55Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、ダイナミックスピーカー610由来の音圧分布を示す。
図55A〜
図55Cは、時系列の順に並べられている。
図56の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合においてダイナミックスピーカー610によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0195】
図53A〜
図56は、ダイナミックスピーカー610の放射面から略半球面波が放射され、その略半球面波の波面もまた略半球面状であることを示している。
図53A〜
図56に示す波面の伝搬の仕方は、
図4と同様である。
【0196】
(比較例2:平面スピーカー620が発する音の測定)
実施例1の圧電スピーカー10を、平面スピーカー620に置き換えた。この平面スピーカー620は、株式会社エフ・ピー・エス製のFPS2030M3P1Rである。この置き換えをしたこと以外は、実施例1と同様にして、平面スピーカー620に由来する、測定用断面790CSの176個の測定点における音圧を測定し、マッピングした。
図57A〜
図60に、マッピングにより得た音圧分布を示す。
【0197】
具体的には、
図57A〜
図57Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、平面スピーカー620由来の音圧分布を示す。
図57A〜
図57Cは、時系列の順に並べられている。
図58の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合において平面スピーカー620によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
図59A〜
図59Cは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、互いに異なる時刻に関する、平面スピーカー620由来の音圧分布を示す。
図59A〜
図59Cは、時系列の順に並べられている。
図60の一連の線は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合において平面スピーカー620によって生じる、時間経過に伴うある波面の伝搬を示す。
【0198】
図57A〜
図60は、平面スピーカー620の放射面から略平面波が放射され、その略平面波の波面もまた略平面状であることを示している。
図57A〜
図60に示す波面の伝搬の仕方は、
図5と同様である。
【0199】
(消音効果)
図61A〜62Cを用いて、実施例1と比較例2の消音効果の相違を説明する。以下の説明では、スピーカーON時及びスピーカーOFF時という用語を用いることがある。スピーカーON時は、スピーカーから消音用の音が放射されている時を指す。スピーカーOFF時は、スピーカーから消音用の音が放射されていない時を指す。
【0200】
図61A及び
図62Aのカラーマップは、騒音源700から正弦波が放射されているある時刻の消音状態を示す。
図61A及び
図62Aにおいて、左のカラーマップは、実施例1の圧電スピーカー10による消音状態を示す。右のカラーマップは、比較例2の平面スピーカー620による消音状態を示す。
図61Aは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合における、ある時刻の音圧分布を示す。
図62Aは、騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合における、ある時刻の音圧分布を示す。
【0201】
図61A及び
図62Aにおいて、カラーバーの右側の数値は、増幅率を指し、その単位はdBである。増幅率がXであることは、スピーカーOFF時を基準として、スピーカーON時の音圧がXdB増幅されたことを表している。増幅率が負であることは、消音効果が現れていることを示す。増幅率が正であることは、反対に、騒音が増幅されていることを示す。リダクションエリア(R.A)は、測定用断面790CSにおいて増幅率が−6dB以下である領域(すなわち消音効果が良好に現れている領域)占める割合を示す。アンプリフィケーションエリア(A.A)は、測定用断面790CSにおいて増幅率が0dBよりも大きい領域(すなわち騒音が増幅されている領域)が占める割合を示す。
【0202】
図61Bは、
図61Aにおける増幅率が0dBよりも小さい領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。
図62Bは、
図62Aにおける増幅率が0dBよりも小さい領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。つまり、
図61B及び
図62Bでは、騒音が低減されている領域に細かいハッチングを付し、アンプリフィケーションエリアに荒いハッチングを付している。なお、
図61B及び
図62Bにおけるハッチングは、
図61A及び
図62Aの目視に基づいて手作業で付した大まかなものである。この点は、後述の
図61C及び
図62Cについても同様である。
【0203】
図61Cは、
図61Aにおける増幅率が−6dB以下である領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。
図62Cは、
図62Aにおける増幅率が−6dB以下である領域に細かいハッチングを付し、増幅率が0よりも大きい領域に荒いハッチングを付したものである。つまり、
図61C及び
図62Cでは、リダクションエリアに細かいハッチングを付し、アンプリフィケーションエリアに荒いハッチングを付している。
【0204】
図61A〜
図62Cに示すように、実施例1の圧電スピーカー10を用いた場合には、比較例2の平面スピーカー620を用いた場合に比べ、騒音が低減されている領域及びリダクションエリアが大きく、アンプリフィケーションエリアが小さい。
【0205】
具体的には、実施例1の圧電スピーカー10を用いた場合には、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合、リダクションエリアは約58%であり、アンプリフィケーションエリアは約18%である。騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合、リダクションエリアは約27%であり、アンプリフィケーションエリアは約18%である。
【0206】
一方、比較例2の平面スピーカー620を用いた場合には、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzである場合、リダクションエリアは約38%であり、アンプリフィケーションエリアは約21%である。騒音源700が放射する正弦波の周波数が800Hzである場合、リダクションエリアは約13%であり、アンプリフィケーションエリアは約61%である。
【0207】
図61A〜
図62Cから、圧電スピーカー10の平面スピーカー620に対する消音効果の優位性は、騒音源700が放射する正弦波の周波数が500Hzのときよりも800Hzのときのほうが顕著に表れている。
【0208】
なお、比較例1のダイナミックスピーカー610を用いた場合には、比較例2の平面スピーカー620を用いた場合よりも、騒音が低減されている領域及びリダクションエリアが小さくなり、アンプリフィケーションエリアが大きくなることが予想される。
【0209】
[圧電フィルムの支持構造と振動の自由度]
本発明による圧電スピーカーの支持構造の一例を参照する。
図6A、
図15、
図17、
図18及びこれらに関連する説明から理解されるように、圧電スピーカー10では、圧電フィルム35の全面が接合層51、52及び介在層40を介して構造物80に固定されている。
【0210】
圧電フィルム35の振動が構造物80により阻害されないようにするためには、圧電フィルム35の一部を支持して構造物80から離間させることも考えられる。この設計思想に基づく支持構造を
図6Bに例示する。
図6Bに示した仮想的な圧電スピーカー108では、枠体88が構造物80から離れた位置で圧電フィルム35の周縁部を支持している。
【0211】
予め一方に湾曲させて湾曲の向きが固定された圧電フィルムからは十分な音量を確保しやすい。このため、例えば圧電スピーカー108において、圧電フィルム35、枠体88及び構造物80に囲まれた空間48に上面が凸面となった厚みが一定でない介在物を配置し、圧電フィルム35の中央部を上方に押し上げておくことが考えられる。しかし、このような介在物は、圧電フィルム35の振動を阻害することがないように圧電フィルム35と接合されることがない。したがって、空間48に介在物を配置したとしても、圧電フィルム35をその振動を規定する態様で支持しているのは枠体88のみである。
【0212】
上述のとおり、
図6Bに示す圧電スピーカー108では、圧電フィルム35の局部的な支持構造が採用されている。これに対し、
図6A等の圧電スピーカー10では圧電フィルム35が特定の部分で支持されていない。意外なことに、圧電スピーカー10は、圧電フィルム35の全面が構造物80に固定されているにも関わらず、実用的な音響特性を示す。具体的には、圧電スピーカー10では、圧電フィルム35の周縁部までが上下に振動しうる。圧電フィルム35は、その全体が上下に振動することも可能である。したがって、圧電スピーカー108と比較すると、圧電スピーカー10はその振動の自由度が高く、良好な発音特性の実現には相対的に有利である。
【0213】
図6Aを参照して説明したように、振動の自由度の高さは、第1波面16a及び第2波面16bの形成に寄与している可能性がある。なお、
図6Aでは、スピーカー10が
図15に示す圧電スピーカー10である場合が描かれている。
図6Aにおいて、第1接合層51及び第2接合層52の図示は省略されている。振動の高い自由度は、スピーカー10が
図17に示す圧電スピーカー110である場合も得られ得る。
【0214】
本発明者らの検討によれば、介在層が多孔体層及び/又は樹脂層であることは、振動の自由度の確保に適している。事実、
図25〜
図41に示すように、介在層が多孔体層及び/又は樹脂層であるサンプルE1〜E17では、圧電フィルム35の全面が支持部材680に固定されているにも関わらず、実用的な音響特性が発揮されている。このため、ANC評価系800において圧電スピーカー10をサンプルE1のサイズ違い品からサンプルE2〜E17のサイズ違い品に変更したとしても、
図49A〜
図52と同様の傾向の音圧分布が現れると考えられる。
【0215】
本発明に係るANCシステム500を、以下のように解釈することも可能である;
構造物80と、
構造物80に取り付けられたスピーカー10と、を備えたANCシステム500であって、
スピーカー10は、放射面15と、圧電フィルム35と、介在層40(又は140)と、を含み
介在層40は、構造物80と圧電フィルム35の間に配置され、
介在層40は、多孔体層及び/又は樹脂層である、
ANCシステム500。