(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-191353(P2020-191353A)
(43)【公開日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20201030BHJP
【FI】
H01F17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-95127(P2019-95127)
(22)【出願日】2019年5月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】浅井 深雪
(72)【発明者】
【氏名】江田 北斗
(72)【発明者】
【氏名】荒田 正純
(72)【発明者】
【氏名】大久保 等
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB04
5E070AB08
5E070BB03
5E070CB06
5E070CB12
(57)【要約】
【課題】コイルパターン間の絶縁性向上およびコイル特性の向上が図られたコイル部品を提供する。
【解決手段】 コイル部品10においては、絶縁層40が導体パターン23の上面23aを覆っており、それにより導体パターン23と磁性体26との間の絶縁性が高められており、導体パターン23間の絶縁性が高められている。また、コイル部品10では、磁性体26が絶縁層40を覆うようにして樹脂壁24間に入り込んでいるため、導体パターン23の上方における磁性体26の体積が増大しており、高いコイル特性が実現されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の少なくとも一方面上に形成された平面コイルパターンを有するコイルと、
前記絶縁基板上に設けられ、前記平面コイルパターンの形成領域を画成し、前記絶縁基板を基準にした高さが前記平面コイルパターンの高さより高い樹脂壁と、
前記樹脂壁の間において前記平面コイルパターンの表面を覆う絶縁層と、
前記絶縁基板と前記コイルとを一体的に覆い、かつ、前記樹脂壁の間に入り込んで前記絶縁層を覆う磁性体と
を備える、コイル部品。
【請求項2】
前記絶縁層が前記絶縁基板の厚さ方向に関する厚さが最も薄い最薄部を有し、前記最薄部が前記樹脂壁の上端の幅より薄い、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記絶縁層の上面が凹状に湾曲している、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記絶縁層の上面が凸状に湾曲している、請求項1または2に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品として、たとえば特許文献1には、絶縁基板上に設けられたコイルパターンと、絶縁基板上において平面コイルパターンの形成領域を画成する樹脂壁と、コイルパターンおよび樹脂壁を一体的に覆う磁性体とを備え、コイルと磁性体との間に絶縁層を介在させたコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−148200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術に係るコイル部品では、樹脂壁を介して隣り合うコイルパターン間の沿面距離が十分ではなく、コイルパターン間の短絡が生じ得る。発明者らは、コイルパターン間の絶縁性を高めつつ、コイルパターンの上方にある磁性体の体積を増やしてコイル特性を向上することができる技術を新たに見出した。
【0005】
本発明は、コイルパターン間の絶縁性向上およびコイル特性の向上が図られたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るコイル部品は、絶縁基板と、絶縁基板の少なくとも一方面上に形成された平面コイルパターンを有するコイルと、絶縁基板上に設けられ、平面コイルパターンの形成領域を画成し、絶縁基板を基準にした高さが平面コイルパターンの高さより高い樹脂壁と、樹脂壁の間において平面コイルパターンの表面を覆う絶縁層と、絶縁基板とコイルとを一体的に覆い、かつ、樹脂壁の間に入り込んで絶縁層を覆う磁性体とを備える。
【0007】
上記コイル部品では、絶縁層が平面コイルパターンの表面を覆うことでコイルパターン間の絶縁性の向上が図られるとともに、絶縁層を覆うようにして磁性体が樹脂壁の間に入り込むことで、磁性体の体積を効果的に増やしてコイル特性の向上が図れている。
【0008】
本発明の他の側面に係るコイル部品では、絶縁層が絶縁基板の厚さ方向に関する厚さが最も薄い最薄部を有し、最薄部が樹脂壁の上端の幅より薄い。
【0009】
本発明の他の側面に係るコイル部品では、絶縁層の上面が凹状に湾曲している、または、絶縁層の上面が凸状に湾曲している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイルパターン間の絶縁性向上およびコイル特性の向上が図られたコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るコイル部品の概略斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコイル部品のIII−III線断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すコイル部品のIV−IV線断面図である。
【
図7】
図7は、異なる態様のコイル部品を示した図である。
【
図8】
図8は、異なる態様のコイル部品を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
図1〜4を参照しつつ、実施形態に係るコイル部品の構造について説明する。説明の便宜上、図示のようにXYZ座標を設定する。すなわち、コイル部品の厚さ方向をZ方向、外部端子電極の対面方向をX方向、Z方向とX方向とに直交する方向をY方向と設定する。
【0014】
コイル部品10は、平面コイル素子であり、直方体形状を呈する本体部12と、本体部12の表面に設けられた一対の外部端子電極14A、14Bとによって構成されている。一対の外部端子電極14A、14Bは、X方向において対向する一対の端面12a、12bの全面を覆うように設けられている。コイル部品10は、一例として、長辺2.5mm、短辺2.0mm、高さ0.8〜1.0mmの寸法で設計される。
【0015】
本体部12は、絶縁基板20と、絶縁基板20に設けられたコイルCと、磁性体26とを含んで構成されている。
【0016】
絶縁基板20は、非磁性の絶縁材料で構成された板状部材であり、その厚さ方向から見て略楕円環状の形状を有している。絶縁基板20の中央部分には、楕円形の貫通孔20cが設けられている。絶縁基板20としては、ガラスクロスにエポキシ系樹脂が含浸された基板で、板厚10μm〜60μmのものを用いることができる。なお、エポキシ系樹脂のほか、BTレジン、ポリイミド、アラミド等を用いることもできる。絶縁基板20の材料としては、セラミックやガラスを用いることもできる。絶縁基板20の材料としては、大量生産されているプリント基板材料が好ましく、特にBTプリント基板、FR4プリント基板、あるいはFR5プリント基板に用いられる樹脂材料が最も好ましい。
【0017】
コイルCは、絶縁基板20の一方面20a(
図2における上面)に設けられた平面空芯コイル用の第1導体パターン23Aが絶縁被覆された第1コイル部22Aと、絶縁基板20の他方面20b(
図2における下面)に設けられた平面空芯コイル用の第2導体パターン23Bが絶縁被覆された第2コイル部22Bと、第1導体パターン23Aと第2導体パターン23Bとを接続するスルーホール導体25とを有する。すなわち、コイルCは、第1導体パターン23Aおよび第2導体パターン23Bの2つの導体パターン23(平面コイルパターン)を含む。
【0018】
第1導体パターン23Aは、平面空芯コイルとなる平面渦巻状パターンであり、Cuなどの導体材料でめっき形成されている。第1導体パターン23Aは、絶縁基板20の貫通孔20c周りに巻回するように形成されている。第1導体パターン23Aは、より詳しくは、上方向(Z方向)から見て外側に向かって右回りに3ターン分だけ巻回されている。第1導体パターン23Aの高さ(絶縁基板20の厚さ方向における長さ)は全長に亘って同一である。
【0019】
第1導体パターン23Aの外側の端部22aは、本体部12の端面12aにおいて露出し、端面12aを覆う外部端子電極14Aと接続されている。第1導体パターン23Aの内側の端部23bは、スルーホール導体25に接続されている。
【0020】
第2導体パターン23Bも、第1導体パターン23A同様、平面空芯コイルとなる平面渦巻状パターンであり、Cuなどの導体材料でめっき形成されている。第2導体パターン23Bも、絶縁基板20の貫通孔20c周りに巻回するように形成されている。第2導体パターン23Bは、より詳しくは、上方向(Z方向)から見て外側に向かって左回りに3ターン分だけ巻回されている。すなわち、第2導体パターン23Bは、上方向から見て、第1導体パターン23Aとは反対の方向に巻回されている。第2導体パターン23Bの高さは全長に亘って同一であり、第1導体パターン23Aの高さと同一に設計し得る。
【0021】
第2導体パターン23Bの外側の端部23cは、本体部12の端面12bにおいて露出し、端面12bを覆う外部端子電極14Bと接続されている。第2導体パターン23Bの内側の端部23dは、第1導体パターン23Aの内側の端部23bと、絶縁基板20の厚さ方向において位置合わせされており、スルーホール導体25に接続されている。
【0022】
スルーホール導体25は、絶縁基板20の貫通孔20cの縁領域に貫設されており、第1導体パターン23Aの端部23bと第2導体パターン23Bの端部23dとを接続する。スルーホール導体25は、絶縁基板20に設けられた孔と、その孔に充填された導電材料(たとえばCu等の金属材料)とで構成され得る。スルーホール導体25は、絶縁基板20の厚さ方向に延びる略円柱状または略角柱状の外形を有する。
【0023】
また、
図3および
図4に示すように、第1コイル部22Aおよび第2コイル部22Bはそれぞれ樹脂壁24を有する。樹脂壁24のうち、第1コイル部22Aの樹脂壁24Aは第1導体パターン23Aの線間、内周および外周に位置しており、第2コイル部22Bの樹脂壁24Bは第2導体パターン23Bの線間、内周および外周に位置している。本実施形態では、導体パターン23A、23Bの内周および外周に位置する樹脂壁24A、24Bは、導体パターン23A、23Bの線間に位置する樹脂壁24A、24Bよりも厚くなるように設計されている。
【0024】
樹脂壁24は、絶縁性の樹脂材料で構成されている。樹脂壁24は、導体パターン23を形成する前に絶縁基板20上に設けることができ、この場合には樹脂壁24において画成された壁間において導体パターン23がめっき成長される。すなわち、絶縁基板20上に設けられた樹脂壁24によって、導体パターン23の形成領域が画成される。樹脂壁24は、導体パターン23を形成した後に絶縁基板20上に設けることができ、この場合には導体パターン23に樹脂壁24が充填や塗布等により設けられる。
【0025】
樹脂壁24の高さ(すなわち、絶縁基板20を基準にした高さ)は、導体パターン23の高さより高くなるように設計されている。そのため、樹脂壁24の高さと導体パターン23との高さが同じである場合に比べて、樹脂壁24を介して隣り合う導体パターン23間の沿面距離の延長が図られている。それにより、隣り合う導体パターン23間において短絡が生じる事態の抑制が図られている。
【0026】
磁性体26は、絶縁基板20およびコイルCを一体的に覆っている。より詳しくは、磁性体26は、絶縁基板20およびコイルCを上下方向から覆うとともに、絶縁基板20およびコイルCの外周を覆っている。また、磁性体26は、絶縁基板20の貫通孔20cの内部およびコイルCの内側領域を充たしている。
【0027】
磁性体26は、金属磁性粉含有樹脂で構成されている。金属磁性粉含有樹脂は、金属磁性粉体がバインダ樹脂により結着された結着粉体である。磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の金属磁性粉は、たとえば鉄ニッケル合金(パーマロイ合金)、カルボニル鉄、アモルファス、非晶質または結晶質のFeSiCr系合金、センダスト等で構成されている。バインダ樹脂は、たとえば熱硬化性のエポキシ樹脂である。本実施形態では、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントでは80〜92vol%であり、質量パーセントでは95〜99wt%である。磁気特性の観点から、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントで85〜92vol%、質量パーセントで97〜99wt%であってもよい。磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉は、1種類の平均粒径を有する粉体であってもよく、複数種類の平均粒径を有する混合粉体であってもよい。本実施形態では、磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉は、3種類の平均粒径を有する混合粉体である。磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉が混合粉体の場合、平均粒径が異なる磁性粉の種類は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
磁性体26は、
図5に示すように、樹脂壁24の間に入り込んだ埋入部27を有する。樹脂壁24の高さが導体パターン23の高さより高いため、樹脂壁24と導体パターン23との間には段差(窪み)が生じており、その段差に埋入部27が入り込んでいる。埋入部27の厚さD1は、樹脂壁24の先端部から導体パターン23に向かって延びる長さとして規定することができる。埋入部27の厚さD1は、たとえば1μm〜50μm(一例として20μm)である。
【0029】
このとき、
図6に示すように、磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉28が、樹脂壁24と導体パターン23との間の窪みに入り込んでいる。磁性粉28は、最大の平均粒径を有する磁性粉(大径粉)28Aの粒径が15〜30μm、最小の平均粒径を有する磁性粉(小径粉)28Cの粒径が0.3〜1.5μm、大径粉と小径粉との間の平均粒径を有する磁性粉(中間粉)28Bが3〜10μmとすることができる。混合粉体100重量部に対して、大径粉は60〜80重量部の範囲、中径粉は10〜20重量部の範囲、小径粉は10〜20重量部の範囲で含まれてもよい。磁性粉28の平均粒径は、粒度分布における積算値50%での粒径(d50、いわゆるメジアン径)で規定され、以下のようにして求められる。磁性体26の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮影する。撮影したSEM写真をソフトウェアにより画像処理をおこない、磁性粉28の境界を判別し、磁性粉28の面積を算出する。算出した磁性粉28の面積を円相当径に換算して粒子径を算出する。たとえば100個以上の磁性粉28の粒径を算出し、これらの磁性粉28の粒度分布を求める。求めた粒度分布における積算値50%での粒径を平均粒径d50とする。なお、磁性粉28の粒子形状は、特に制限されない。
【0030】
磁性体26の埋入部27と導体パターン23との間には、絶縁層40が介在している。絶縁層40は、隣り合う樹脂壁24の間において、導体パターン23の上面23aの全面に亘って設けられている。絶縁層40は、たとえばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の樹脂で構成される。本実施形態では、絶縁層40は電着法を用いて形成された電着層である。絶縁層40は、均一な厚さD2を有し、たとえば1μm〜30μm(一例として8μm)の厚さを有する。本実施形態では、絶縁層40の厚さD2は、樹脂壁24の上端の幅Wより薄くなるように設計されている。絶縁層40の厚さD2は、磁性体26の埋入部27の厚さD1より薄くなるように設計することができる。
【0031】
上述したコイル部品10においては、絶縁層40が導体パターン23の上面23aを覆っており、それにより導体パターン23と磁性体26との間の絶縁性が高められており、導体パターン23間の絶縁性が高められている。また、コイル部品10では、磁性体26が絶縁層40を覆うようにして樹脂壁24間に入り込んでいるため、導体パターン23の上方における磁性体26の体積が増大しており、インダクタンス値等のコイル特性の向上が実現されている。
【0032】
また、コイル部品10では、絶縁層40の厚さD2が樹脂壁24の上端の幅Wより薄くなっている。絶縁層40の厚さD2を薄くすることで、磁性体26の体積をより増大することができ、コイル特性のさらなる向上を図ることができる。一方、樹脂壁24の上端の幅Wを厚くすることで、導体パターン23間の沿面距離を確保することができ、導体パターン23間の短絡が抑制される。
【0033】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、様々な態様をとり得る。
【0034】
たとえば、絶縁層40は、
図7、8に示したような厚さが不均一な形態であってもよい。
図7に示した絶縁層40は、導体パターン23を挟む樹脂壁24の中間位置に最も薄い最薄部41を有し、上面40aが凹状に湾曲している。
図7に示した絶縁層40は、導体パターン23を挟む両側の樹脂壁24に接する部分の厚さが厚くなっているため、樹脂壁24の剛性を高めることができる。その上、
図7に示した絶縁層40は、上面40aが平坦である場合に比べて、磁性体26との接触面積の拡大が図られているため、磁性体26との間の接着力の向上も図られている。
図8に示した絶縁層40は、導体パターン23を挟む樹脂壁24に近接する位置に最も薄い最薄部41を有し、上面40aが凸状に湾曲している。
図8に示した絶縁層40は、上面40aが平坦である場合に比べて、磁性体26との接触面積の拡大が図られているため、磁性体26との間の接着力の向上が図られている。不均一厚さを有する絶縁層は、たとえば絶縁層を形成する際の絶縁材料の濡れ性(導体パターンおよび樹脂壁に対する濡れ性)を調整することで、形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
10…コイル部品、12…本体部、14A、14B…外部端子電極、20…絶縁基板、22A…第1コイル部、22B…第2コイル部、23…導体パターン、23A…第1導体パターン、23B…第2導体パターン、24、24A、24B…樹脂壁、26…磁性体、27…埋入部、28…磁性粉、40…絶縁層、41…最薄部、C…コイル。