(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-191793(P2020-191793A)
(43)【公開日】2020年12月3日
(54)【発明の名称】実験用非ヒト動物及びその使用
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20201106BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20201106BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20201106BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20201106BHJP
【FI】
A01K67/027
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-98116(P2019-98116)
(22)【出願日】2019年5月24日
(71)【出願人】
【識別番号】501176303
【氏名又は名称】日環科学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩邦
(72)【発明者】
【氏名】大野 博司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 完
(72)【発明者】
【氏名】服部 正平
(72)【発明者】
【氏名】須田 亙
(72)【発明者】
【氏名】児玉 浩明
【テーマコード(参考)】
2G045
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045CB21
4B065AA01X
4B065AA15X
4B065AC20
4B065BD50
4B065CA43
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】異種動物の腸内微生物叢の特徴を備えた腸内微生物叢を有しながら、少なくとも代謝機能が健全に保たれており、当該異種動物の腸内微生物叢の影響を評価可能なモデル動物として用いることができる実験用非ヒト動物を提供すること。
【解決手段】本発明に係る実験用非ヒト動物は、無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなることを特徴とする実験用非ヒト動物。
【請求項2】
前記細菌群が、乳酸菌を含むことを特徴とする請求項1に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項3】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)及びエンテロコッカス属(Enterococcus)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする請求項2に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項4】
さらに乳酸資化菌を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項5】
前記乳酸資化菌が、メガスファエラ属(Megasphaera)及びセレノモナス属(Selenomonas)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする請求項4に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項6】
前記細菌群が、クロストリジウム属クラスターXI(Clostridium cluster XI)、バクテロイデス属(Bacteroides)、プレボテラ属(Prevotella)、アロバキュラム属(Allobaculum)、ディアリスター属(Dialister)、トゥリシバクター属(Turicibacter)、コプロコッカス属(Coprococcus)、ミツオケラ属(Mitsuokella)及びメタノブレビバクター属(Methanobrevibacter)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項7】
前記非ヒト動物が、マウス、ラット及びモルモットのいずれかから選択されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項8】
前記異種動物が、産業動物または愛玩動物から選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項9】
前記産業動物または愛玩動物が、豚、鶏、牛及び犬のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の実験用非ヒト動物。
【請求項10】
前記異種動物の腸内環境の挙動及び生理的影響を評価するモデル動物としての請求項1から9のいずれか一項に記載の実験用非ヒト動物の使用。
【請求項11】
前記異種動物に被検物質の投与実験を行う前段階として前記被験物質のスクリーニングを行うモデル動物としての請求項1から9のいずれか一項に記載の実験用非ヒト動物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群を腸内細菌として有する実験用非ヒト動物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物の腸管内には多種多様な腸内細菌が生息している。一般的に、健全なヒトの成人の腸管内には、1000種類以上、総数40兆個以上にもおよぶ腸内細菌が生息していると言われており、これはおよそ37兆個と言われるヒトの細胞数を上回っている。このような膨大な数の腸内細菌が、互いに相互作用を及ぼし合いながら一定のバランスが保たれた複雑な生態系を宿主の腸管内で形成しており、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれる。また、腸管は、食餌や外界からの病原微生物等の異物に常にさらされる場所であり、消化吸収器官であると同時に、多くの免疫細胞が集中する免疫器官でもある。腸内細菌叢を構成する細菌群の多くは難培養性で解析困難であったが、近年、次世代シーケンサーの登場等により、複合微生物やその代謝物等の評価を行うオミクス解析技術が発展し、腸内細菌叢についての解明が進みつつある。その中で、腸内細菌叢は、宿主の代謝・生理機能や免疫機能とも大きく関連していることが明らかになってきた。
【0003】
宿主が健康な場合、腸内細菌叢のバランスはおおよそ一定で、恒常性が保たれている。しかし、遺伝的あるいは過度の外的環境要因によりその恒常性が破綻し、腸内細菌叢のバランスが乱れると、炎症性腸疾患や大腸がんといった腸の疾患のみならず、自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性の疾患にもつながりうる(例えば、非特許文献1参照)。このように、腸内細菌叢は、宿主と相互作用し、宿主の健康に大きく関与していることから、近年、薬剤やプロバイオティクス等によって腸内細菌叢を制御して宿主の腸内環境を整えるための技術に関心が寄せられている。これらの薬剤やプロバイオティクス等の安全性や効能等の評価を行う場合、対象とする動物を用いて投与実験を行うことが最も好ましい。しかし、対象とする動物が、産業動物や愛玩動物のような動物実験に用いるのに困難性を有する動物である場合は、その代替として、マウス等の実験用動物を用いて評価を行っているのが現状である。
【0004】
また、プロバイオティクスは、乳酸菌のような常温領域で活動する中温菌が用いられることが主であるため、中温菌が動物の生体に与える影響については盛んに研究が行われているが、50℃以上の高い温度領域で活動する好熱菌が動物の生体について与える影響についてはあまり研究されていなかった。一方、本発明者らは、甲殻類や魚類等の海産物資源を75℃前後の高温下で発酵させて得られる高温発酵物中に含まれる好熱性複合微生物群が、動植物に与える影響について長年研究を行ってきた。その一連の研究の中で、その好熱性複合微生物群から、新種の好熱菌バチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)N-11
T株(受託番号:NITE BP-863)の単離に成功しており、この好熱菌バチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)N-11
T株をマウスや豚に経口投与することにより、当該マウスや豚の腸内細菌叢のポピュレーションが変化し、粘膜免疫の賦活化や内臓脂肪の蓄積軽減といった代謝機能や免疫機能に好影響をもたらすことを明らかにしている(特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5578375号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】福田真嗣、「メタボロゲノミクスによる腸内エコシステムの理解と制御」、生化学、公益社団法人日本生化学会、2016年、第88巻、第1号、p.61−70
【非特許文献2】宮本浩邦、森健一、「脱抗生物質を目指した母豚管理の新技術〜腸内フローラの改善による生産性の向上について〜」、養豚の友、日本畜産振興会、2016年、9月号、p.18−21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、プロバイオティクスや薬剤等の評価を行う場合に、対象とする動物の代替として、マウス等の実験用動物が用いられることがある。しかし、従来の実験用動物は、その実験用動物本来の腸内細菌叢を有するもの、または無菌のものが用いられ、対象とする動物の腸内細菌叢に関する観点が無かった。上記のように、腸内細菌叢は、宿主の代謝機能、生理機能、病態等に大きく関連しているため、対象とする動物の腸内細菌叢の特徴を有しない従来の実験用動物では、対象とする動物の腸内細菌叢に依存した影響を評価できずに、実験用動物で得られた結果が、対象とする動物では確認できない可能性があった。
【0008】
一方、上記のように、本発明者らは好熱菌バチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)N-11
T株をマウスや豚に投与することで、当該マウスや豚の腸内細菌叢を改善して代謝機能に好影響を与えることを見出した。しかし、異種動物の腸内細菌叢を移植された動物に対してバチルス・ヒサシイを投与した場合の知見は無かった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、異種動物の腸内微生物叢の特徴を備えた腸内微生物叢を有しながら、少なくとも代謝機能が健全に保たれており、当該異種動物の腸内微生物叢の影響を評価可能なモデル動物として用いることができる実験用非ヒト動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る実験用非ヒト動物は、無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記細菌群が、乳酸菌を含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記乳酸菌が、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)及びエンテロコッカス属(Enterococcus)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、さらに乳酸資化菌を含むことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記乳酸資化菌が、メガスファエラ属(Megasphaera)及びセレノモナス属(Selenomonas)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記細菌群が、クロストリジウム属クラスターXI(Clostridium cluster XI)、バクテロイデス属(Bacteroides)、プレボテラ属(Prevotella)、アロバキュラム属(Allobaculum)、ディアリスター属(Dialister)、トゥリシバクター属(Turicibacter)、コプロコッカス属(Coprococcus)、ミツオケラ属(Mitsuokella)及びメタノブレビバクター属(Methanobrevibacter)のうち1種類以上の細菌を含むことを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記非ヒト動物が、マウス、ラット及びモルモットのいずれかから選択されることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記異種動物が、産業動物または愛玩動物から選択されることを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記産業動物または愛玩動物が、豚、鶏、牛及び犬のいずれかであることを特徴とする。
【0019】
無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなる本発明に係る実験用非ヒト動物が、前記異種動物の腸内環境の挙動及び生理的影響を評価するモデル動物として使用されることを特徴とする。
【0020】
無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなる本発明に係る実験用非ヒト動物が、前記異種動物に被検物質の投与実験を行う前段階として前記被験物質のスクリーニングを行うモデル動物として使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る実験用非ヒト動物は、無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群とバチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とが投与されてなることを特徴としており、バチルス・ヒサシイの投与の効果により、本発明に係る実験用非ヒト動物は、少なくとも代謝機能が健全に保たれた状態で、異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群を、腸内で腸内細菌叢として維持することができる。無菌非ヒト動物に投与される異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群として、異種動物の腸内細菌叢それ自体、異種動物の腸内細菌叢の一部の特徴的な優占菌群、またはそれら優占菌群を構成する各細菌の標準菌株により構成された細菌群を用いることができる。また、投与される細菌群には異種動物の生理的変化と呼応する特徴的な菌群を含めても良い。それによって本発明に係る実験用非ヒト動物の腸内細菌叢は、当該異種動物の腸内細菌叢の特徴が模倣されたものとなる。従って、本発明に係る実験用非ヒト動物は、異種動物の腸内環境の挙動や生理的影響を評価するためのモデル動物として用いることができる。動物の腸内細菌叢の構成は、動物種、地域、食餌、生育段階等によって異なるため、それらの異なる腸内細菌叢の特徴を模倣した本発明に係る実験用非ヒト動物を用いることで、腸内細菌叢の特性を考慮したオーダーメード型の薬剤、栄養剤、サプリメント、生菌材等の開発や運用が可能となる。また、非ヒト動物に、マウス、ラットまたはモルモットのような容易に入手及び管理可能な動物を用い、異種動物に、豚、牛、鶏等の産業動物や、犬等の愛玩動物のような高価で管理が煩雑な動物や動物愛護の観点から動物実験が困難な動物を用いることにより、安価かつ簡便に当該異種動物の腸内細菌叢の影響を加味した生体実験を行うことができる。従って、産業動物や愛玩動物に対して、目的とする薬剤、栄養剤、サプリメント、生菌材等の投与試験を最初から実施するのではなく、その前段階として当該実験用非ヒト動物を用いてスクリーニングを実施して、比較的簡便かつ安価に生体への影響を評価することができる。それによって、産業動物や愛玩動物に対して投与する成功確率の高い薬剤、栄養剤、サプリメント、生菌材等の選抜が可能となり、コスト、試験の難易度、評価の難しさという点を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】動物種固有の腸内細菌叢の特徴を有するマウスの利用に関する概念図。
【
図2】動物種によって腸内細菌叢のポピュレーションが異なることを示す図。
【
図3】異なる動物種ごとに各動物種固有の腸内細菌叢の特徴を有するマウスの作出事例を示す図。
【
図4】動物種及び生育段階によって異なる腸内細菌叢の特徴を有するマウスの特性評価とその用途の例を示す図。
【
図5】豚の腸内細菌叢が移植されたマウスの体脂肪量についての実験結果を示す図。
【
図6】豚の腸内細菌叢が移植されたマウスの腸内細菌叢のポピュレーションについての実験結果を示す図。
【
図7】豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌であるラクトバチルス・アミロボラス及びストレプトコッカス・アラクトリティカスの標準菌株が移植されたノトバイオートマウスの体脂肪量についての実験結果を示す図。
【
図8】豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌であるラクトバチルス・アミロボラス及びストレプトコッカス・アラクトリティカスの標準菌株が移植されたノトバイオートマウスの腸内細菌叢のポピュレーションについての実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について、以下、図面を参照しつつ説明する。以下は、あくまで本発明の実施形態を例示的に示すものであるため、本発明の範囲は下記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0024】
本実施形態に係る実験用非ヒト動物は、無菌非ヒト動物に、該非ヒト動物と種の異なる異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群と、バチルス・ヒサシイ(Bacillus hisashii)とを投与することによって作出することができる。バチルス・ヒサシイの投与によって、無菌非ヒト動物に投与された異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群が、当該非ヒト動物の腸内で腸内細菌叢として維持される。そのため、
図1に示すように、本実施形態に係る実験用非ヒト動物は、該非ヒト動物と種の異なる異種動物の腸内細菌叢の特徴を模倣することができるので、当該異種動物の腸内環境の挙動や生理的影響を評価するための実験用のモデル動物として用いることができる。
【0025】
本実施形態に係る非ヒト動物として、マウス、ラット及びモルモットのいずれかが好適に用いられる。これら以外の非ヒト動物を用いてもよいが、マウス、ラット及びモルモットは実験用動物として広く用いられており、無菌状態のものも安価で容易に入手あるいは作出することができ、飼育や管理も容易である。無菌非ヒト動物は、例えば、妊娠末期の該非ヒト動物の母獣の帝王切開あるいは子宮切断によって無菌状態で胎児を取り出し、無菌のアイソレータ内で無菌の飼料や飲水等によって飼育する、といったような一般的な無菌操作によって作出可能である。
【0026】
本実施形態に係る異種動物は、本実施形態で用いる非ヒト動物とは種の異なる動物であり、産業動物や愛玩動物のような高価で管理が煩雑であったり動物愛護の観点等から動物実験に直接用いることが困難な動物が好適である。具体的には、豚、鶏、牛、犬等が挙げられ、これらのうちの1つの動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群が無菌非ヒト動物に投与される。
【0027】
無菌非ヒト動物に投与される異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群としては、異種動物の腸内細菌叢それ自体、異種動物の腸内細菌叢に特徴的な優占菌群、及び、それら優占菌群の各細菌の標準菌株によって構成した細菌群のうちのいずれかを用いることが好適である。また、無菌非ヒト動物に投与される細菌群は、異種動物の生理的変化と呼応する特徴的な菌群を含んでいても良い。これによって、本実施形態に係る実験用非ヒト動物が有する腸内細菌叢は、当該異種動物の腸内細菌叢の特徴が模倣されたものとなる。
【0028】
図2に示すように、動物の腸内細菌叢の構成は、動物種によって異なる。そのため、目的の動物種に応じて、本実施形態に係る実験用非ヒト動物で模倣する腸内細菌叢も変化させる。
図2からも分かるように、産業動物や愛玩動物の腸内細菌叢には、通常、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)といった乳酸菌が1種類以上、優占菌群として含まれていることが多い。従って、無菌非ヒト動物に投与される細菌群として、乳酸菌を有効に用いることができる。
【0029】
異種動物が豚の場合、腸内細菌叢で特徴的な乳酸菌としては、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・キタサトニス(Lactobacillus kitasatonis)、ラクトバチルス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバチルス・ポンティス(Lactobacillus pontis)、ストレプトコッカス・アラクトリティカス(Streptococcus alactolyticus)及びストレプトコッカス・ヒオインテスティナリス(Streptococcus hyointestinalis)が挙げられ、これらの少なくとも1つを活用することが出来る。
【0030】
異種動物が鶏の場合、腸内細菌叢に特徴的な乳酸菌としては、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・バギナリス(Lactobacillus vaginalis)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・サリバリアス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ガリナラム(Lactobacillus gallinarum)、ラクトバチルス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)及びエンテロコッカス・カセリフラバス(Enterococcus casseliflavus)が挙げられ、これらの少なくとも1つを活用することが出来る。
【0031】
異種動物が牛の場合、腸内細菌叢に特徴的な乳酸菌としては、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobaciterium pseudolongum)が挙げられ、これを活用することが出来る。
【0032】
異種動物が犬の場合、腸内細菌叢に特徴的な乳酸菌としては、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)及びストレプトコッカス・ルテティエンシス(Streptococcus lutetiensis)が挙げられ、これらの少なくとも1つを活用することが出来る。
【0033】
以上のように動物種によって異なる特徴的な乳酸菌を、無菌非ヒト動物に投与される細菌群に含むようにして良い。また、乳酸菌は炭水化物を消化して乳酸を産生する細菌であり、乳酸菌が腸内に生息している場合、乳酸菌によって産生された乳酸を消化して、酪酸、プロピオン酸、酢酸といった短鎖脂肪酸を産生する乳酸資化菌も生息していることが多い。乳酸資化菌によって産生される短鎖脂肪酸は、宿主の動物のエネルギー源として利用されたり、腸内を弱酸性に保って有害な細菌の増殖を抑制して腸内環境を健全に保ったりというような宿主に有益な効果をもたらすことが知られている。従って、無菌非ヒト動物に投与される細菌群に、異種動物の動物種によって特徴的な乳酸菌と併せて乳酸資化菌を含むようにして良い。ここで用いられる乳酸資化菌としては、メガスファエラ属(Megasphaera)及びセレノモナス属(Selenomonas)のうち1種類以上の乳酸資化菌を含むことが好ましい。さらに好ましくは、メガスファエラ・エルスデニー(Megasphaera elsedinii)及びセレノモナス・ボビス(Selenomonas bovis)のうち1種類以上の乳酸資化菌を含むようにして良い。
【0034】
また、異種動物の生理的変化と呼応する特徴的な菌群として、コハク酸からプロピオン酸を産生するディアリスター・サクシナティフィラス(Dialister succinatiphilus)、バクテロイデス・コプロコラ(Bacteroides coprocola)、クロストリジウム属クラスターXI(Clostridium cluster XI)にカテゴライズされるクロストリジウム・マヨンベイ(Clostridium mayombei)、クロストリジウム・バテリ(Clostridium baterri)、クロストリジウム・リツセブレンス(Clostridium lituseburense)、エスエムビー(SMB)、クロストリジウム・ベイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)、犬に特徴的なアロバキュラム・ステロコリカニス(Allobaculum stercoricanis)、環境微生物としてありふれているトゥリシバクター・サングイニス(Turicibacter sanguinis)、インシュリン抵抗性を誘導するプレボテラ・コプリ(Prevotella copri)、並びにその近縁種であるプレボテラ・ロエシェイイ(Prevotella loescheii)、プレボテラ・オウロラム(Prevotella oulorum)、脂質代謝に関与するコプロコッカス・カタス(Coprococcus catus)、ミツオケラ・ジャラルディニイ(Mitsuokella jalaludinii)、メタンガスの産生と脂質代謝に関与するメタノブレビバクター・スミスィ(Methanobrevibacter smithii)等が挙げられる。これらの菌群は、異種動物の腸内細菌叢に当該異種動物の動物種に応じて固有に含まれ、当該異種動物の固有の腸内細菌叢を起点にして、当該異種動物に特徴的な成長、脂肪蓄積、免疫系の賦活化、温暖化ガスの発生抑制等の上記のような生理的変化に寄与することが示唆されている。従って、腸内細菌叢を模倣しようとする異種動物に応じて、無菌非ヒト動物に投与される細菌群にこれらのうち1種類以上の細菌を含むようにして良い。それによって、作出される本実施形態に係る実験用非ヒト動物における異種動物の腸内細菌叢の模倣度を向上させることができる。また、これらの菌群が、本実施形態に係る実験用非ヒト動物の腸内細菌叢に定着し難い場合には、当該実験用非ヒト動物がスクリーニング等の実験に用いられるまで、当該実験用非ヒト動物にこれらの菌群を連続的に投与することによって、腸内細菌叢にこれらの菌群を含む実験用非ヒト動物を作出するようにしてもよい。
【0035】
本実施形態に係る無菌非ヒト動物に投与される細菌群として、腸内細菌叢を模倣しようとする目的の異種動物の動物種に応じて、以上に示したような各動物種の腸内細菌叢に特徴的な優占菌群や当該動物種の生理的変化と呼応するような特徴的な菌群を適宜含ませるようにすることで、
図3に示すように、各動物種の腸内細菌叢に特徴的な優占菌群を腸内細菌叢として有する本実施形態に係る実験用非ヒト動物をそれぞれ作出することができる。また、
図4に示すように、動物種が同じでも、生育段階によって腸内細菌叢の構成が異なる可能性がある。そのため、生育段階別の腸内細菌叢に特徴的な優占菌群を含む細菌群を本実施形態に係る無菌非ヒト動物に投与することで、生育段階別の腸内細菌叢に特徴的な優占菌群を腸内細菌叢として有する本実施形態に係る実験用非ヒト動物をそれぞれ作出することができる。従って、動物種別及び生育段階別の腸内細菌叢の特徴を模倣した本実施形態に係る実験用非ヒト動物によって、より効果の高いオーダーメード型の薬剤、栄養剤、サプリメント、生菌材等の開発や運用を安価かつ簡便に行うことが可能となる。
【0036】
本実施形態に係る異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群は、異種動物の糞便から採取可能である。それに限らず、異種動物の腸管から採取してもよい。また、糞便そのものを用いてもよいし、糞便から一部の細菌群を取り出して用いてもよい。また、腸内細菌叢を構成する各細菌と同等の標準菌株を用いてもよい。これら細菌群は、無菌非ヒト動物に経口的に投与されてよい。
【0037】
バチルス・ヒサシイは、2010年1月15日付(受託日)でバチルス・ヒサシイN-11
T株(Bacillus hisashii N-11
T)が国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託番号NITE BP-863として国際寄託されており、当該当局から入手可能である。バチルス・ヒサシイは、例えば飲水に添加する等によって無菌非ヒト動物に経口的に投与されてよく、以後も実験用非ヒト動物が実験等に使用されるまで継続的に投与されることが好ましい。
【0038】
無菌非ヒト動物に異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群が投与されることで、当該非ヒト動物は、腸内に当該細菌群を有する。本実施形態ではさらにバチルス・ヒサシイが投与され、バチルス・ヒサシイは、当該細菌群のうちの少なくとも1種の細菌のポピュレーションを変化させ、それによって当該非ヒト動物の代謝機能が健全に保たれた状態で、当該非ヒト動物の腸内に当該細菌群を腸内微生物叢として維持させる。
図2に示すように、本実施形態で非ヒト動物として用いられるマウスが自然状態で生育した場合に本来有する腸内細菌叢は、異種動物として用いられる豚、鶏、牛等のものと異なる。このような本来では当該非ヒト動物の腸内細菌叢に定着しないまたはしにくい細菌を含む細菌群が無菌の当該非ヒト動物に投与された場合には、当該細菌群は、腸内で一定のバランスを保てずに腸内微生物叢として維持が困難であったり、当該非ヒト動物の代謝・生理機能等に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0039】
例えば、豚の場合、豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌として、善玉菌であるラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)及び日和見菌であるストレプトコッカス・アラクトリティカス(Streptococcus alactolyticus)の2つの乳酸菌が挙げられる。これら2つの細菌を含む細菌群を投与された本実施形態に係る実験用非ヒト動物の腸内細菌叢は、バチルス・ヒサシイの投与によって、善玉菌であるラクトバチルス・アミロボラスのポピュレーションが増加し、日和見菌であるストレプトコッカス・アラクトリティカスのポピュレーションが減少した状態で腸内に定着し、これらのポピュレーションの変化によって当該実験用非ヒト動物の代謝機能が健全に保たれる。また、ラクトバチルス・アミロボラス及びストレプトコッカス・アラクトリティカスは、畜産分野で一般的に使用される抗生物質であるテトラサイクリンに対して耐性を有するが、バチルス・ヒサシイは、これらのような抗生物質耐性菌についてもそのポピュレーションを制御しうる。このように、バチルス・ヒサシイは、本実施形態に係る非ヒト動物が本来腸内細菌叢として有しない異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群が当該非ヒト動物に投与された場合でも、当該細菌群に含まれる少なくとも1種の細菌のポピュレーションを制御することで、当該非ヒト動物の代謝機能を健全に保ちながら、当該細菌群を腸内細菌叢として維持させることができる。
【0040】
本実施形態に係る実験用非ヒト動物の腸内細菌叢は、必ずしも該当する動物種の腸内細菌叢のポピュレーションと一致しないことも想定されるが、該当する動物種由来の腸内細菌叢の存在下で飼育した実験用非ヒト動物の成長、生化学的・生理学的な詳細な解析が可能である。本実施形態に係る実験用非ヒト動物は、高額、かつ飼育管理技術において簡便ではない動物種を用いて、栄養剤、微生物製剤、新規抗生物質等の効能を評価する際の、その前段階のスクリーニング技術として有効に用いられる。
【0041】
次に、試験例を示して、本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
豚の腸内細菌叢を移植したマウスにおける飼育試験を行った。豚の腸内細菌叢としては豚糞を用いた。マウスはアイソレータ内で継代しているBALB/c系統を用いて無菌操作における飼育を行った。無菌マウスに10
6 cfu以上/mlに滅菌PBS溶液において希釈調整した豚糞溶液をゾンデにて経口投与した後に無菌の通常食で飼育したマウス(対照区1)、無菌マウスに当該希釈調整豚糞溶液をゾンデにて経口投与した後に高脂肪食で飼育したマウス(対照区2)、及び無菌マウスに当該希釈調整豚糞溶液をゾンデにて経口投与した後にバチルス・ヒサシイBP-863株を終濃度として10
2 cfu以上/mlの濃度に調整して継続的に飲水給与しながら高脂肪食で飼育したマウス(試験区1)を作製した。なお、当該バチルス・ヒサシイBP-863株は、2−3日に一回の頻度で飲水ボトルの水を交換する際に投入した。また、対照区1、対照区2及び試験区1のマウスは、それぞれアイソレータ内の別々の飼育ケージで飼育を行った。これら各マウスの全身の体脂肪量を調べた結果を
図5に示す。
図5より、バチルス・ヒサシイBP-863株が投与されていない対照区1及び対照区2では、通常食より高脂肪の高脂肪食によって飼育された対照区2は、対照区1よりも体脂肪量が増加した。しかし、バチルス・ヒサシイBP-863株が継続給与されて対照区2と同様の高脂肪食によって飼育された試験区1は、有意差を持って対照区2よりも体脂肪量が少なく、通常食で飼育された対照区1と同等の体脂肪量となった。また、これら各マウスの腸内細菌叢における、豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌であるラクトバチルス・アミロボラス及びストレプトコッカス・アラクトリティカスの菌数を調べた結果を
図6に示す。
図6より、試験区1の腸内細菌叢では、対照区1及び対照区2と比較して、ラクトバチルス・アミロボラスの菌数が有意差を持って増加し、ストレプトコッカス・アラクトリティカスの菌数が有意差を持って減少している。このことから、バチルス・ヒサシイBP-863株によって、少なくともこれら2菌種のポピュレーションが制御されることが分かる。また、ラクトバチルス・アミロボラスは善玉菌で、ストレプトコッカス・アラクトリティカスは日和見菌であると考えられ、これらのポピュレーションの変化により、
図5に示されるように、試験区1では代謝機能が向上して脂肪の蓄積軽減効果が引き起こされたものと考えられる。
【0043】
(実施例2)
次に、豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌であるラクトバチルス・アミロボラス及びストレプトコッカス・アラクトリティカスの標準菌株の2菌株を移植したノトバイオートマウスにおける飼育試験を行った。当該2菌株の標準菌株として、理化学研究所バイオリソース研究センター(理研BRC)から入手したラクトバチルス・アミロボラスJCM1126
T株及びストレプトコッカス・アラクトリティカスJCM31116
T株を用いた。マウスはアイソレータ内で継代しているBALB/c系統を用いて、実施例1と同様の飼育環境条件下において、アイソレータ内で無菌操作や飼育を行った。移植用標準菌2菌株は、それぞれ滅菌PBS溶液によって少なくとも10
6 cfu/mlに調整された上で、200 μlをそれぞれ無菌マウスに当該2菌株を投与した後に無菌の通常食で飼育したマウス(対照区3)、無菌マウスに当該2菌株を投与した後に無菌の高脂肪食で飼育したマウス(対照区4)、及び無菌マウスに当該2菌株を投与した後にバチルス・ヒサシイBP-863株を終濃度として10
6 cfu以上/mlに調整して継続的に飲水給与しながら無菌の高脂肪食で飼育したマウス(試験区2)を作製した。なお、対照区3、対照区4及び試験区2のマウスは、それぞれアイソレータ内の別々の飼育ケージで飼育を行った。これら各マウスの全身の体脂肪量を調べた結果を
図7に示す。
図7より、バチルス・ヒサシイBP-863株が継続給与されて対照区4と同様の高脂肪食によって飼育された試験区2は、有意差を持って対照区4よりも体脂肪量が少なく、通常食で飼育された対照区3と同等の体脂肪量となり、豚の腸内細菌叢に特徴的な優占菌の標準菌株を用いた場合においても、実施例1と同様に、脂肪蓄積が軽減した。また、
図8に、当該2菌株が移植されたノトバイオートマウスにおいて、対照区、10 ppmのテトラサイクリン投与区、及び終濃度として10
6 cfu以上/mlに調整して継続的に飲水給与したBP-863給与区の腸内細菌叢における当該2菌株のポピュレーションについての結果を示す。なお、
図8における対照区、テトラサイクリン投与区及びBP-863給与区のマウスは、それぞれアイソレータ内の別々の飼育ケージで飼育を行った。
図8より、テトラサイクリン投与区では、当該2菌株のポピュレーションはどちらも減少しておらず、抗生物質であるテトラサイクリンに耐性があることが分かるが、BP-863給与区では、対照区と比べてラクトバチルス・アミロボラスのポピュレーションが増加し、ストレプトコッカス・アラクトリティカスのポピュレーションが減少している。従って、バチルス・ヒサシイBP-863株によって、当該2菌株のポピュレーションが制御されて、代謝機能が向上して脂肪蓄積が軽減していると考えられる。
【0044】
以上より、豚糞を移植したマウス及び豚糞中の優占菌を移植したマウスのどちらにおいても、バチルス・ヒサシイBP-863株の給与によって、脂肪蓄積が軽減されたモデルマウスが得られる。この効能の1つとしては、バチルス・ヒサシイBP-863株のゲノム上に、acetolactate synthase I/II/III large subunit (EC:2.2.1.6) (70% identity)、monooxygenase (EC:1.14.14.1) (66% identity)、monooxygenase yxeK (72% identity) 、D-lactate dehydrogenase (EC:1.1.2.4) (69% identity)、L-lactate dehydrogenase (EC:1.1.1.27) (73% identity)、Pyruvate dehydrogenase (EC:1.2.4.1) (72% identity)がある。acetolactate synthaseは、筋肉成長に関与するバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝鎖アミノ酸の前駆体であるアセト乳酸の生合成に関与する酵素である。monooxygenaseは、酸素添加酵素であり、lactate 2-monooxygenaseは、L−乳酸を酢酸に資化する酵素である。また、lactate dehydrogenaseは乳酸からピルビン酸を、ピルビン酸から乳酸を産生する反応を促進する酵素である。さらに、pyruvate dehydrogenaseは、ピルビン酸から酢酸を資化する酵素である。酢酸は、脂肪蓄積の軽減や免疫系の賦活化などに広く関与することが明らかとなっている(非特許文献1)。これらの酵素反応のバランスは、腸内におけるニコチンアミドジヌクレオチドのNAD(酸化型)とNADH(還元型)の濃度バランスが影響する。バチルス・ヒサシイBP-863株は、これらの酵素反応と同様の働きをすることによって、特徴的な乳酸資化による酢酸の産生と、それによる脂肪蓄積の軽減効果と筋肉成長、並びに免疫系の賦活化をもたらすものと推察される。従って、脂肪蓄積が軽減されたモデルマウスによって、各種薬剤、栄養剤、サプリメント、酵素剤、生菌材等の試験が可能となる。また、このことから、豚糞中の優占菌種の移植によって、脂肪蓄積タイプ、脂肪非蓄積タイプの作成が可能であることが示された。なお、豚糞中の優占菌種の標準菌株は抗生物質耐性能が高いことから、抗生物質耐性の豚糞中の優占菌種の標準菌株の挙動を変化させる新規飼料添加物や新規薬剤のスクリーニングとして用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る実験用非ヒト動物は、代謝機能が健全に保たれた状態で、異種動物の腸内細菌叢に含まれる細菌群を腸内に有するので、当該異種動物の腸内環境の挙動や生理的影響を評価するためのモデル動物として用いることができる。特に、異種動物として産業動物や愛玩動物等の動物実験に用いることが困難な動物を、無菌非ヒト動物としてマウス等の安価で管理の容易な動物を用いて作製された本発明に係る実験用非ヒト動物は、産業動物や愛玩動物に対する新規の飼料や薬剤等の効能を評価する際に、産業動物や愛玩動物に実際に投与実験を行う前段階のスクリーニングに好適に用いることができる。