【課題】術前計画で設定された角度に正確に人工股関節カップを設置可能であり、安価で低侵襲かつ信頼性の高い人工股関節置換手術支援システムにて好適に用いられる人工股関節カップ設置支援ガイドの提供。
【解決手段】本発明のガイド41は、ガイド本体42、1本のピン案内部43及び連結部44を備える。ガイド本体42は、寛骨臼内面6に接触しうる側に位置する凸状弯曲面である第1面42a及びその反対側に位置する第2面42bを有する。第1面42a側には患者個別の寛骨臼窩5に相補的に係合可能な凸部45が形成されている。ピン案内部43は、寛骨臼縁3の特定部位P1に非接触かつ近接状態で配置される。ピン案内部43は、第2面42bが向く方向に延びる長尺状部材にガイドピン挿通孔46が形成された構造を有する。連結部44はガイド本体42とピン案内部43とを繋いでいる。
前記ガイド本体における前記第2面の略中央部には、貫通穴部が形成されていない一方、指で押圧されるための凹所が形成されていることを特徴とした請求項1に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。
前記ガイド本体における前記第2面の表面形状は、前記凸部を有する前記第1面の表面形状を反映した凹状弯曲面となっていることを特徴とした請求項1または2に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。
前記板状部材は、前記第2比較部である複数本の基準ラインが形成された透明板であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置用器具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下のような欠点がある。例えば、特許文献3では、位置決めのために寛骨臼縁における離間した4箇所にてガイドを支持固定させている。また、特許文献1〜3では、複数のガイドピンを寛骨臼縁における複数箇所に設置している。このため、ガイドにおける骨との接触部分が大型になりやすく、いずれにしても寛骨臼縁を大きく露出させて術野を広く確保する必要があり、手術創がどうしても大きくなる。ゆえに、このようなガイド等のツールは低侵襲の手術に用いるのに不向きであった。さらにこの場合には膜組織(関節包)を大きく除去しなければならず、これが結果的に脱臼リスクの増加につながるという問題もあった。また、特許文献1〜3では、ガイドの安定性にも不安があったため、術前計画で設定された角度に正確にカップを設置できるとは限らず、依然として信頼性が低かった。
【0008】
なお、ガイドの安定性を高めるために、例えば特許文献3ではガイドの一部を寛骨臼内面に配置し、ガイドに設けた貫通穴部を利用して寛骨臼内面中央部にガイドピンを設置する方法も提案されている。しかし、寛骨臼内面のすぐ近くには血管や神経が存在しているため、この部分へのピン立ては極力避けるべきと考えられ、侵襲性も高くなるので好ましくない。
【0009】
さらに、このようなシステムにて使用する好適なガイドが新規に提案され、仮に低侵襲で安定的にガイドピンが設置できたとしても、そのガイドピンを基準として正確にかつ簡単に正しい角度でカップを設置するための専用のツールが必要になる。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、術前計画で設定された角度に正確に人工股関節カップを設置可能であるにもかかわらず、安価で低侵襲かつ信頼性の高い人工股関節置換手術支援システムを提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、上記システムに用いるのに好適な人工股関節カップ設置支援ガイド及びその製造方法、人工股関節カップ設置用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段を下記[1]〜[13]に列挙する。
[1]人工股関節置換手術において寛骨臼内に対する人工股関節カップの設置を支援するためのガイドであって、寛骨臼内面に接触しうる側に位置する凸状弯曲面である第1面及びその反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側に患者個別の寛骨臼窩に相補的に係合可能な凸部が形成されたガイド本体と、寛骨臼縁の外側近傍における特定部位に非接触かつ近接状態で配置され、前記第2面が向く方向に延びる長尺状部材にガイドピン挿通孔が形成された構造を有する1本のピン案内部と、前記ガイド本体と前記ピン案内部とを繋ぐ連結部とを備えることを特徴とした人工股関節カップ設置支援ガイド。従って、手段1に記載の発明によると、ガイド本体の凸部を患者個別の寛骨臼窩に係合させることで、ガイドを確実に支持固定することができる。このため、ガイド固定時の安定性が増し、ひいてはガイドピンの立設精度が向上する。また、ピン案内部が1本のみであるためガイドピンを立設するための特定部位を極めて狭くすることができ、また、その特定部位に対してピン案内部が非接触であるため、寛骨臼縁の膜組織を除去する必要がなくなり、低侵襲なものとなる。
【0012】
[2]前記ガイド本体における前記第2面の略中央部には、貫通穴部が形成されていない一方、指で押圧されるための凹所が形成されていることを特徴とした手段1に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。従って、手段2に記載の発明によると、術者が凹所を指で押圧することでガイド本体の凸部を患者個別の寛骨臼窩に容易にかつ確実に係合させることができる。このため、ガイドをより確実に支持固定することができる。また、ガイドピン固定のために第2面の略中央部に例えば筒状の貫通穴部が形成されているものとは異なり、貫通穴部の存在が凹所の形成にとって邪魔になることもない。しかも、貫通穴部を介して寛骨臼内面にガイドピンを立てることも行わないため、侵襲性が低くなる。
【0013】
[3]前記ガイド本体における前記第2面の表面形状は、前記凸部を有する前記第1面の表面形状を反映した凹状弯曲面となっていることを特徴とした手段1または2に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。従って、手段3に記載の発明によると、ガイド本体における第2面の表面形状は、実質的に寛骨臼の内面形状に沿ったものであることから、ガイド固定時に施術者が寛骨臼の内面形状を指先の触覚をもって把握することができる。
【0014】
[4]前記連結部は、前記ガイド本体の前記第2面側に連結されるとともに、前記ガイド本体における前記第1面と、前記連結部において前記第1面側に位置する底面との境界部分には、前記底面を寛骨臼内面に非接触状態で配置されるための段差が設けられていることを特徴とした手段1乃至3のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。従って、手段4に記載の発明によると、このような境界部分に段差を設けたことで、ガイド固定時に連結部の底面が寛骨臼内面から寛骨臼縁にわたる領域に接触しなくなる。よって、連結部が接触する構造のガイドを用いた場合には連結部底面直下の領域に対応する膜組織を除去する必要があったのに対し、本発明では当該領域の膜組織を除去する必要がなくなることで侵襲性がより低くなる。
【0015】
[5]前記ガイドは、合成樹脂材料を用いて作製された三次元積層造形品であることを特徴とした手段1乃至4のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置支援ガイド。従って、手段5に記載の発明によると、基本的に三次元積層造形品を製造するための市販の装置(いわゆる3Dプリンタ等)とそれを駆動するための専用ソフトウェアがあれば、外部の製造業者に委託しなくても、手術を行う施設においてガイドを比較的短時間で製造することが可能になる。また、従来に比較してガイドを安価に製造することが可能となる。さらに、合成樹脂製であることから軽量で取り扱いやすいものとすることができる。
【0016】
[6]手段1乃至5のいずれか1項に記載のガイドを製造する方法であって、術前に撮像した患者個別の股関節の三次元データを準備する患者三次元データ準備工程と、前記三次元データに基づいて、人工股関節を設置する際の基準物となるガイドピンを立設する位置及び角度を決定するガイドピン立設位置角度決定工程と、前記ガイドピン立設位置角度決定工程にて決定された情報に基づいて、前記ガイド本体、前記ピン案内部及び前記連結部を備える前記ガイドを仮想空間内にて定義するガイド設計工程と、前記仮想空間内にて定義された前記ガイドを実際に作製するための三次元造形用データを作成する三次元造形用データ作成工程と、前記三次元造形用データに基づいて、三次元造形法により前記ガイドを造形するガイド造形工程とを含むことを特徴とした人工股関節カップ設置支援ガイドの製造方法。従って、手段6に記載の発明によると、患者個別の股関節の三次元データに基づきガイドピンの立設位置及び角度が適切に決定された最適構造のガイドが仮想空間内にて定義される。次いで、定義されたガイドの作製のための三次元造形用データが作成され、このデータに基づいて三次元造形法により所望構造のガイドが造形される。ゆえに、個々の患者にとって最適な角度でガイドピンを立設することができる優れたガイドを安価かつ低コストで製造することができる。
【0017】
[7]前記患者三次元データ準備工程は、患者個別の股関節の三次元データから大腿骨部分のデータを分離除去して、寛骨臼部分のデータを抽出するステップと、抽出された前記寛骨臼部分のデータにおいて寛骨臼内面の穴を埋めるステップとを含むことを特徴とした手段6に記載の人工股関節カップ設置支援ガイドの製造方法。股関節において大腿骨と寛骨臼とは互いに接触した状態であることから、ガイド設計工程を行うためには、寛骨臼の内面形状を正確に把握しておく必要がある。ところが、股関節の三次元データから大腿骨部分のデータを単純に分離除去しただけだと、抽出された寛骨臼部分のデータにおいて寛骨臼内面の部分に穴が生じてしまうことがあり、この場合にはガイドを正確に設計することが困難になる。そこで、手段7に記載の発明のように、抽出された寛骨臼部分のデータにおいて寛骨臼内面の穴を埋めることにより、寛骨臼の内面形状が実際の形状により近くなり、結果的にガイドを正確に設計しやすくなる。ゆえに、ガイドピンの立設角度の精度が向上しうる。
【0018】
[8]患者の寛骨臼縁の外側近傍にあらかじめ立設されたガイドピンを基準として寛骨臼内に人工股関節カップを設置する際に用いるカップ設置用器具であって、先端に前記人工股関節カップを保持可能なシャフトと、前記シャフトの基端側に設けられたハンドル部とを有するインパクタと、前記インパクタに取り付けられ、前記シャフトの中心軸方向に延びる長尺状の第1比較部を有する第1参照部材と、前記ガイドピンが挿通される筒部を有する把持部と、前記ガイドピンと同軸となる前記筒部の軸線方向に延びる長尺状の第2比較部とを有し、前記インパクタとは別体で形成された第2参照部材とを備え、前記第1比較部及び前記第2比較部同士を近接配置した状態で、前記第2比較部に対する前記第1比較部の平行度を参照することにより、前記人工股関節カップの打ち込み角度が決定されることを特徴とする人工股関節カップ設置用器具。従って、手段8に記載の発明によると、第2比較部に対する第1比較部の平行度を参照すること、つまり第2比較部と第1比較部とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、人工股関節カップの打ち込み角度を簡単にかつ正確に決定し、術前計画で設定された角度に正確にカップを設置することが可能となる。また、第1参照部材を有するインパクタと、第2参照部材とは敢えて別体で構成されているので、カップ打ち込み時の衝撃が第2参照部材を介してガイドピンに伝わりにくく、ガイドピンが変形等するおそれがない。
【0019】
[9]前記第1参照部材における前記第1比較部は、前記シャフトの基端部から突出した状態で設けられた棒材であり、前記第2参照部材は、前記把持部に設けられた板状部材を含み、前記第2参照部材における前記第2比較部は、前記板状部材に形成された少なくとも1本の基準ラインであることを特徴とする手段8に記載の人工股関節カップ設置用器具。従って、手段9に記載の発明によると、第2参照部材が板状部材を含んで構成されていることから、第1比較部である棒材をその板状部材に沿わせるように配置することで、打ち込み角度を大まかに決定することができる。この状態で板状部材に形成された基準ラインに対する棒材の平行度を参照すること、つまり当該基準ラインと棒材とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、人工股関節カップの打ち込み角度をより正確に決定することができる。
【0020】
[10]前記シャフトの基端部には、前記棒材を支持する張出部を有する支持部材が設けられ、前記支持部材は、前記棒材の中心軸の方向と前記シャフトの中心軸の方向とを一致させた状態を維持したままで、前記棒材を前記シャフトの周方向に沿って変位させることを特徴とする手段9に記載の人工股関節カップ設置用器具。従って、手段10に記載の発明によると、第1比較部である棒材をシャフトの周方向に沿って変位させることにより、棒材を第2比較部である基準ラインに近接して配置することができ、基準ラインに対する棒材の平行度の参照作業が行いやすくなる。
【0021】
[11]前記板状部材は、前記第2比較部である複数本の基準ラインが形成された透明板であることを特徴とする手段8乃至10のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置用器具。従って、手段11に記載の発明によると、基準ラインが複数本あると1本のときに比べて平行度を参照しやすくなる。また、板状部材が透明板であるため、平行度の参照時に棒材が透明板の裏面側に位置したとしても目視可能となり、作業性が向上する。
【0022】
[12]前記複数本の基準ラインは、前記透明板の長手方向に沿って加工された溝部であることを特徴とする手段11に記載の人工股関節カップ設置用器具。従って、手段12に記載の発明によると、透明板における複数本の溝部に対する棒材の平行度を参照すること、つまり当該溝部と棒材とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、人工股関節カップの打ち込み角度をより正確に決定することができる。この場合、棒材の外周面の一部を溝部に係合させることで、両者を互いに平行な位置関係に配置することも可能なため、カップ打ち込み角度をより簡単に決定することができる。
【0023】
[13]人工股関節置換手術を支援するためのシステムであって、人工股関節の一部である人工股関節カップと、患者の寛骨臼縁の外側近傍に立設される1本のガイドピンと、手段1乃至5のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置支援ガイドと、手段8乃至12のいずれか1項に記載の人工股関節カップ設置用器具とを含む人工股関節置換手術支援システム。
【発明の効果】
【0024】
以上詳述したように、請求項13に記載の発明によると、術前計画で設定された角度に正確に人工股関節カップを設置可能であるにもかかわらず、安価で低侵襲かつ信頼性の高い人工股関節置換手術支援システムを提供することができる。
請求項1〜7に記載の発明によると、上記システムに用いるのに好適な人工股関節カップ設置支援ガイド及びその製造方法を提供することができる。
請求項8〜12に記載の発明によると、上記システムに用いるのに好適な人工股関節カップ設置用器具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施形態の人工股関節カップ設置支援ガイド及びその製造方法、人工股関節カップ設置用器具、人工股関節置換手術支援システムを
図1〜
図15に基づき詳細に説明する。
【0027】
[人工股関節置換手術支援システム]
本発明の人工股関節置換手術支援システムは、人工股関節置換手術を支援するためのシステムであって、人工股関節の一部である人工股関節カップ21と、患者の寛骨臼の縁部に立設される1本のガイドピン31と、人工股関節カップ設置支援ガイド41と、人工股関節カップ設置用器具71等を含むものである。以下、同システムを構成する各物品(ツール)について詳細に説明する。なお、
図1は患者の骨盤1を横方向から見たCG画像であり、
図2は骨盤1を
図1よりも若干前方向から見たときのCG画像である。骨盤1における所定箇所には、図示しない大腿骨頭とともに股関節の一部をなす寛骨臼2が存在している。寛骨臼2は略円形状の寛骨臼縁3により包囲された臼状の部分であって、寛骨臼内面6における月状面4以外の部分は患者個別の凹形状を有する寛骨臼窩5となっている。また、
図1、
図2中において、寛骨臼縁3の外側近傍における特定部位P1は、ガイドピン31が立設されるべき位置を示している。この特定部位P1は、骨盤1を構成する骨のうち腸骨に属しており、例えば寛骨臼縁3において最も隆起した部分から10mm〜30mm程度離れた位置に設定される。
【0028】
[人工股関節カップ設置支援ガイド]
図1〜
図5に示されるように、本実施形態の手術支援システムを構成する人工股関節カップ設置支援ガイド41は、人工股関節置換手術において寛骨臼2内に対する人工股関節カップ21の設置を支援するためのガイドである。このガイド41は、基本的に、ガイド本体42、1本のピン案内部43及び連結部44によって構成されている。
【0029】
ガイド本体42は、寛骨臼内面6に接触しうる側に位置する凸状弯曲面である第1面42aと、その反対側に位置する第2面42bとを有している。また、ガイド本体42の第1面42a側には、患者個別の寛骨臼窩5に相補的に係合可能な凸部45が形成されている。ガイド本体42の正面視での大きさ(ここではピン案内部43に沿って第2面42b側から視たときの大きさ)は寛骨臼内面6の中に納まる範囲であれば特に限定されないが、例えば寛骨臼2の正面視での大きさの30%〜80%程度であることがよい。なお、この場合において第1面42aは、月状面4の少なくとも一部及び寛骨臼窩5の少なくとも一部に接触する大きさであることが必要とされる。また、ガイド本体42の厚さは特に限定されず任意に設定されうるが、強度や取扱性等を考慮して例えば3mm〜15mm程度のほぼ均一な厚さに設定されることが好ましい。
【0030】
ピン案内部43は、寛骨臼縁3における特定部位P1に非接触かつ近接状態で配置されるようになっている。ここで「特定部位P1に非接触かつ近接状態」とは、例えばガイド41の設置状態において特定部位P1との間に1mm〜20mm程度の隙間51が生じうる状態を言うものとする。このピン案内部43は、ガイドピン31の立設時にそのガイドピン31を案内して角度(方向)を決定するための部材であって、第2面42bのある側に位置している。ピン案内部43は、第2面42bが向く方向に延びる長尺状部材に、断面円形状のガイドピン挿通孔46が貫通して形成された構造を有している。長尺状部材としては特に限定されないが、ここでは中心に貫通孔を有する筒状体を用いている。また、長尺状部材の長さも特に限定されないが、ガイドピン31の立設精度を上げるために例えば50mm以上に設定される。なお、
図2〜
図5において矢印A1は、ガイド41によってガイドピン31が案内される方向(ガイドピン挿通孔46が延びる方向)を示している。
【0031】
連結部44は、設置時に寛骨臼縁3の内側に位置することになるガイド本体42と、設置時に寛骨臼縁3の外側に位置することになるピン案内部43とを繋ぐための部分である。連結部44の一端は、ガイド本体42の第2面42b側の外縁部に一体的に連結されている。連結部44の他端は、ピン案内部43の基端部に一体的に連結されている。なお、連結部44の形状は特に限定されず、ガイド本体42とピン案内部43とを繋ぐという基本的な機能が担保されていれば任意の形状とすることが可能である。本実施形態では、略へ字状に曲がった形状、言い換えると、月状面4から寛骨臼縁3に到るまでの領域の表面形状に沿った形状を採用している。また、ガイド本体42における第1面42aと、連結部44において第1面42a側に位置する底面44aとの境界部分には、底面44aを寛骨臼内面6及び寛骨臼縁3に非接触状態で配置するための段差48が設けられている。ここで段差48の高さはガイド本体42よりも小さい寸法であれば任意に設定可能であり、例えば1mm〜10mm程度、好ましくは2mm〜8mm程度に設定される。当該段差48がこの範囲内であると、底面44aと寛骨臼内面6及び寛骨臼縁3との間に適度な大きさの隙間51を確保することができる。
【0032】
本実施形態のガイド41においては、ガイド本体42における第2面42bの略中央部には、寛骨臼内面6の中央部にピンを設置する際に使用するボス部等のような貫通穴部が全く形成されていない。その一方で、第2面42bには指F1で押圧されるための凹所47が形成されている。また、ガイド本体42における第2面42bの表面形状は、凸部45を有する第1面42aの表面形状を反映した凹状弯曲面となっている。
【0033】
このガイド41は、生体にとって特に害のない材料であれば、金属、合成樹脂、セラミックスなどの任意の材料を用いて作製されることができるが、本実施形態ではコスト性、製造容易性、取扱容易性などの観点から合成樹脂材料を用いてガイド41を作製している。合成樹脂材料としては各種のものが選択されうるが、例えばアクリル系樹脂やABS樹脂などが好適例として挙げられる。なお、ガイド41を構成する各部分は、同一材料を用いて一体形成されていることが好ましい。合成樹脂材料を用いた場合にガイド41を製造する手法としては従来公知の各種の手法を採ることが可能であるが、ここでは三次元造形法(とりわけ3Dプリンタを用いた三次元造形積層法)を採用している。
【0034】
次に、本実施形態のガイド41の製造方法について説明する。このガイド41は、患者三次元データ準備工程、ガイドピン立設位置角度決定工程、ガイド設計工程、三次元造形用データ作成工程及びガイド造形工程を経て製造される。
【0035】
患者三次元データ準備工程では、術前に撮像した患者個別の股関節の三次元データを準備する。具体的にいうと、例えばX線画像、CT画像、MRI画像、超音波画像やその他の画像システムなどを用いて取得されたものが上記三次元データとして使用可能である。これらの画像システムを用いた場合、一般的には例えば複数枚の二次元画像を所得し、それらに基づいて構築された三次元画像が上記三次元データとして使用される。患者個別の股関節の三次元データは、人工股関節置換手術の直前に撮像されたものであってもよいほか、当該手術の実施日の数日から数週間前に撮像されたものであってもよい。
【0036】
ここで、患者の股関節において大腿骨と寛骨臼2とは互いに接触した状態であることから、後にガイド設計工程を行うためには、寛骨臼2の内面形状を正確に把握しておく必要がある。ところが、股関節の三次元データから大腿骨部分のデータを単純に分離除去しただけだと、抽出された寛骨臼2の部分のデータにおいて寛骨臼内面6の部分に穴(欠損)が生じてしまうことがあり、この場合にはガイド41を正確に設計することが困難になる。そのため、まず患者個別の股関節の三次元データから大腿骨部分のデータを分離除去して寛骨臼2のデータのみを抽出する処理を行う(抽出ステップ)。次いで、抽出された寛骨臼2のデータにおいて寛骨臼内面6に穴がある場合にはその穴を埋める処理を行う(穴埋めステップ)。つまり、これらの処理を行うことで、寛骨臼2の内面形状が実際の形状により近くなるようにしている。なお、上記の処理は施術者自身がコンピュータ上で行ってもよいが、専用のプログラムに基づきコンピュータに自動的に行わせるようにしてもよい。
【0037】
また、抽出された寛骨臼2の部分のデータにおいて寛骨臼内面6の部分に、寛骨臼窩5とは別に小さな窪み(寛骨臼窩5に比較してかなり小さい窪み)が複数生じてしまうこともあり、ガイド41の設計精度を高めるためには何らかの処理を行うことが必要になる場合がある。従って、上記抽出ステップを行った後、抽出された寛骨臼2のデータにおいて寛骨臼内面6における窪みの部分に穴をあける処理を行ったうえで(穴あけステップ)、上記穴埋めステップを行うようにしてもよい。この処理についても施術者自身がコンピュータ上で行ってもよいが、専用のプログラムによりコンピュータに自動的に行わせるようにしてもよい。
【0038】
次のガイドピン立設位置角度決定工程では、先に準備した三次元データに基づいて、人工股関節カップ21を設置する際の基準物となるガイドピン31を立設する位置及び角度(方向)を決定する。即ちこの工程では、寛骨臼縁3の外側近傍における特定部位P1を、ガイドピン31を立設する位置として決定する。ガイドピン立設位置の決定は、施術者自身が行ってもよいが、コンピュータに行わせるようにしてもよい。あるいは、コンピュータが複数のガイドピン立設位置の候補を提示し、これら候補のなかから施術者が最適と思うものを選択するようにしてもよい。また、ガイドピン31を立設する角度(方向)は、術前計画で決定した、患者ごとの最適な状態で人工股関節カップ21を設置した際のカップ中心軸の角度(方向)と同一にする必要がある。つまり、ガイドピン立設角度は、術前計画により算出した患者ごとの最適な値(一般的には外方傾斜角40°程度、前方開角15°程度)に設定される。この場合、ガイドピン立設角度は、患者個別の股関節の三次元データに基づいてあらかじめ施術者自身が最適値を算出して施術者の意思により決定してもよいが、この算出決定作業の一部または全部をコンピュータに担わせてもよい。
【0039】
次のガイド設計工程では、ガイドピン立設位置角度決定工程にて決定された情報に基づいて、ガイド本体42、ピン案内部43及び連結部44を備えるガイド41をコンピュータの仮想空間内にて定義する。具体的には以下のようにする。
【0040】
図6(a)〜(g)は、ガイド41を製造する手順を説明するための概略図である。
図6(a)は、上述したガイドピン立設位置角度決定工程を経て、特定部位P1がガイドピン立設位置として決定された状態を示している。ここでまず、寛骨臼内面6においてガイド本体42を形成すべき領域D1、より詳細にいうと寛骨臼内面6に対して接触するガイド本体42の第1面42aを形成すべき領域D1をコンピュータの仮想空間内にて設定する(
図6(b)参照)。次に、先に設定した領域D1にガイド本体42の第1面42aを定義する(
図6(c)参照)。このとき定義される第1面42aは、寛骨臼内面6において接している部分の凹凸形状を反映したものとなる。次に、第1面42aに対して所定の厚みを付ける肉厚化処理を行い、仮想空間内にガイド本体42を定義する(
図6(d)参照)。この処理を経ると、第1面42a側の凹凸を踏襲した第2面42bが得られることになる。次に、ガイドピン立設位置である特定部位P1上にガイドピン31(ガイドピン31を挿通するための中空部分と把握してもよい。)を定義したうえで、さらにピン案内部43を定義する(
図6(e)参照)。このとき、ガイドピン31は、上記の最適なカップ中心軸を特定部位P1上に平行移動した基準軸C1に重ね合わされる。そしてピン案内部43は、ガイドピン31を包囲した状態(言い換えると、ガイドピン挿通孔46内にガイドピン31を挿通させた状態)となるように定義される。次に、ガイド本体42とピン案内部43との間に連結部44を定義する(
図6(f)参照)。そして最後にガイド本体42、ピン案内部43及び連結部44を一体化し、コンピュータの仮想空間内にてガイド41を完成させる(
図6(g)参照)。なお、これら一連の手順のうち領域D1の決定以外のものについては、所定のプログラムに基づいてコンピュータが自動的に行うことが好ましい。勿論、領域D1を決定する手順についても、コンピュータが複数の候補を提示し、これら候補のなかから施術者が最適と思うものを選択するようにしてもよい。また、上記一連の手順では、ガイド本体42、ピン案内部43及び連結部44の順番で定義を行ったが、これに限定されず順番を任意に変更してもよい。
【0041】
そして、三次元造形用データ作成工程において仮想空間内にて定義されたガイド41を実際に作製するための三次元造形用データを作成した後、ガイド造形工程においてその三次元造形用データに基づいて三次元造形法によりガイドを造形する。本実施形態では、3Dプリンタを駆動させるためのデータ(例えばSTLデータ等)を作成し、そのデータを3Dプリンタに出力して合成樹脂材料によりガイド41を実際に造形する。なお、3Dプリンタを用いた三次元造形積層法以外の三次元造形法、例えばNC加工機を用いて素材を三次元的に切削加工する造形法や、レーザ加工機を用いて素材を三次元的にレーザ加工する造形法などを採用することも可能である。この場合には、NC加工機やレーザ加工機を駆動させるためのデータを作成し、そのデータを加工機に出力して合成樹脂製の素材の不必要な部分を除去することによりガイド41を造形すればよい。なお、ガイド41を造形する作業は、人工股関節置換手術の直前に手術を行う医療機関内(例えば手術室内または院内の別の場所)にて行われてもよいほか、当該手術の実施日の数日から数週間前に当該医療機関とは別の場所にて行われてもよい。
【0042】
[ガイドピン]
図7等に示されるように、本実施形態の手術支援システムを構成するガイドピン31は、患者の寛骨臼縁3の外側近傍に立設される金属製の部材であって、ここでは複数本使用されるのではなく1本のみ使用される。このガイドピン31は、曲がったり折れたりしない適度な剛性及び硬度を有している必要があり、本実施形態では例えば直径3mm程度のステンレス材を使用している。なお、ガイドピン31は断面円形状であって、その先端は尖った形状となっている。ガイドピン31の長さは特に限定されないが、人工股関節カップ設置用器具71を用いてカップ21を正確に設置するうえでは、ピン案内部43の長さよりも長いことが好ましく、ピン案内部43の長さの2倍以上であることがより好ましい。本実施形態では150mm〜400mm程度の長さのガイドピン31を使用している。
【0043】
[人工股関節カップ等]
図7等に示されるように、本実施形態の手術支援システムを構成する人工股関節カップ21は、人工股関節の一部をなす略半球状の部材であって、寛骨臼内面6(より具体的には、寛骨臼内面6においてリーミングにより加工形成された半球状凹面7)に設置される。このカップ21は、凸状の表面21aと凹状の裏面21bとを有している。裏面21bの中央部には、図示しないインパクタ固定部が設けられている。このインパクタ固定部には、後述するインパクタ81の先端部82aが着脱可能となっている。なお、人工股関節を構成するコンポーネントには、上記のカップ21のほかに、ライナー、ステム、ヘッドが含まれるが、これらについての詳細な説明はここでは省略する。
【0044】
[人工股関節カップ設置用器具]
次に、人工股関節カップ設置用器具71の構成等について説明する。
図7等に示されるように、本実施形態の手術支援システムを構成する人工股関節カップ設置用器具71は、患者の寛骨臼縁3の外側近傍にあらかじめ立設されたガイドピン31を基準として寛骨臼2内に人工股関節カップ21を設置する際に用いる器具である。この人工股関節カップ設置用器具71は、基本的にインパクタ81、第1参照部材86及び第2参照部材91により構成されている。このほか、人工股関節カップ設置用器具71には、カップ21を打ち込むときにインパクタ81の頭部84を打撃するためのハンマーや、カップ打ち込み前にリーミング処理を行うためのリーマー等が含まれるが、これらコンポーネントについての詳細な説明はここでは省略する。
【0045】
図7等に示されるように、このインパクタ81は、先端部82aに人工股関節カップ21を保持可能なシャフト82と、シャフト82の基端側に設けられたハンドル部83とを有している。このシャフト82はステンレス等の金属材料製であって、先端部82aと基端部82cとの間の領域が弯曲部82bとなっている。ハンドル部83もステンレス等の金属材料製であって、ハンマーにより打撃される平坦な形状の頭部84を有している。なお、弯曲部82bは必須の構成ではなく、直線状のシャフトであってもよい。
【0046】
第1参照部材86は、人工股関節カップ21の打ち込み方向を決定する際に第2参照部材91とともに用いられる部材であって、インパクタ81側に取り付けられている。シャフト82の基端部82cには、張出部88を有する略C字状の支持部材89が設けられている。支持部材89の張出部88には第1比較部である棒材87が支持されている。その結果、棒材87は、シャフト82の中心軸A3の方向に沿って延びた状態かつ基端部82cから突出した状態で設けられている。支持部材89は、棒材87の中心軸とシャフト82の中心軸C3とを一致させた状態を維持したままで、棒材87をシャフト82の周方向に沿って変位させることが可能となっている。支持部材89には固定具90が設けられており、この固定具90を締め付けることにより、支持部材89が打ち込み方向決定時に最適な回転位置で固定可能となっている。なお本実施形態では、打ち込み作業の際に邪魔になりにくい位置であるシャフト82の基端部82cに第1参照部材86を取り付けたが、基端部82c以外の位置にこれを設けてもよい。シャフト82、支持部材89、棒材87及び固定具90は種々の材料によって形成されることが可能であるが、強度等の観点からいずれもステンレス等の金属材料を用いて形成されることが好ましい。
【0047】
第2参照部材91は、人工股関節カップ21の打ち込み方向を決定する際に第1参照部材86とともに用いられる部材であって、インパクタ81とは別体で形成されている。第2参照部材91は、ガイドピン31が挿通される筒部93を有する把持部92を有している。筒部93は把持部92の先端側からいくぶん突出した状態で設けられている。この筒部93の長さは、打ち込み方向決定時の精度を高めるため、少なくともガイドピン31の半分以上の長さに設定されている。また、第2参照部材91は、ガイドピン31と同軸となる筒部93の軸線方向に延びる長尺状の第2比較部を有している。具体的には、第2参照部材91における第2比較部は、把持部92の固定溝に差し込んで設けられるとともに、少なくとも1本の基準ライン95が形成された板状部材94である。本実施形態では、板状部材94は細長い長方形状をしたアクリル等からなる透明板であって、それにおける複数本の基準ライン95は、透明板の長手方向に沿って加工された3本の溝部となっている。溝部の数は必要に応じて増減してもよい。なお、筒部93及び把持部92はステンレスやアルミニウム等の金属材料によって形成されていてもよいが、合成樹脂材料によって形成されていてもよい。前者の場合には強度に優れたものとなる。後者の場合には軽量で取り扱いやすいものとなるほか、ガイドピン31に対する重量的な負荷が小さくなり、ガイドピン31の変形を未然に防ぐことができる。
【0048】
[本システムによる人工股関節置換手術]
次に、
図8〜
図15に基づいて、本実施形態の人工股関節置換手術支援システムによる人工股関節置換手術の手順について説明する。
【0049】
まず、本システムを構成する上記各ツール(人工股関節カップ21、ガイドピン31、人工股関節カップ設置支援ガイド41、人工股関節カップ設置用器具71等)をあらかじめ準備しておく(ツール準備工程)。特にガイド41については、術前計画に基づいて患者個別の最適なカップ21の設置位置及び角度をまず算出し、さらにこれに基づいて最適なものを作製しておく。
【0050】
以上のようなツール準備工程の後、人工股関節置換手術を実施する前に必要に応じてシミュレーションを行ってもよい(術前シミュレーション工程)。例えば、上記のガイド設計工程においてガイド41を設計したコンピュータの仮想空間内に、ガイドピン31、カップ21、人工股関節カップ設置用器具71を構成するインパクタ81、第1参照部材86及び第2参照部材91等の三次元データも取り込んで表示する。そして、これらツールを仮想空間内にて自由に移動、回転等させることで、手術における諸工程(ガイド設置工程、ガイドピン設置工程、リーミング工程、カップ打込み工程)のシミュレーションを行う。あるいは、3Dプリンタにてガイド41を造形する際に併せて患者固有の疑似骨盤モデルも作製しておき、実体のガイド41及び疑似骨盤モデルを用いてあらかじめ模擬手術を行うようにしてもよい。
【0051】
次に、下記の手順でカップ設置工程を行う。
図5は、ガイド41を寛骨臼2に設置する前の状態を示しており、この状態から作業をスタートする。なお、この工程の前には、あらかじめ患者の患部を切開して大腿骨部分を露出させ、所定の準備作業を行っておく。即ち、大腿骨頭を寛骨臼2から分離させて寛骨臼内面6を露出させるとともに、後にガイドピン31の立設位置を確保するために寛骨臼縁3の一部を露出させる。
【0052】
そして、
図8に示されるように、施術者は指F1でガイド本体42を把持して第1面42a側を寛骨臼内面6側に向けるとともに、第2面42b側の凹所47を押圧して、ガイド本体42の第1面42aを寛骨臼2内に嵌め込むようにして設置する。このとき、第1面42aの凸部45が寛骨臼内面6の寛骨臼窩5に係合することでガイド41が安定的に設置される。よって、凹所47から指F1を離してもガイド41が容易に位置ずれやガタつき等を起こすことはない。なお、ピン案内部43の基端面及び連結部44の裏面と寛骨臼内面6及び寛骨臼縁3とは接触せず、それらの間には所定の隙間51が生じる。従って、それらに対応する部分(寛骨臼縁3においてピン案内部43及び連結部44の直下に位置する領域)の膜組織を露出させておく必要があるものの、当該部分の膜組織を除去することや、当該部分を含んで必要以上に広い領域にわたり膜組織を露出させておくことまでは要求されない。
【0053】
次に、寛骨臼2に設置されたガイド41を用いてガイドピン31を立設する。具体的には、
図9に示されるように、所定方向を向くように位置決めされているピン案内部43のガイドピン挿通孔46にガイドピン31を挿通させる。すると、ガイドピン31の先端部が特定部位P1まで案内され、この状態でガイドピン31を腸骨に打ち込んで固定する。ガイドピン31を立設した後には、ガイド41を取り除く(
図10参照)。
【0054】
図11は、寛骨臼2に設置されるべきカップ21とリーミング前の寛骨臼2とを示している。即ち、術前計画で決定した所定の位置及び角度で略半球状のカップ21を設置するために、図示しないリーマーを用いて寛骨臼内面6における対応箇所を同様の形状に加工する。図中、C2は理想的な位置及び角度でカップ21を設置した場合のカップ21の中心軸を示している。なお、すでに立設されているガイドピン31は、カップ21の中心軸C2と同じ方向を向いている。
【0055】
寛骨臼2のリーミング後、ガイドピン31に第2参照部材91をセットする。具体的には、
図12に示されるように、把持部92から前方に延びている筒部93の突出端側からガイドピン31を挿通させる。ガイドピン31は筒部93に遊嵌されているので、第2参照部材91はガイドピン31を中心として適宜回動することができる。
【0056】
次に、先端部82aにカップ21を保持させたインパクタ81を把持して、カップ21を半球状凹面7に近接させるようにして配置する。また、インパクタ81が有する第1参照部材86を、第2参照部材91に近接させるようにして配置する(
図13、
図14参照)。その際、棒材87の中心軸の方向とシャフト82の中心軸C3の方向とを一致させた状態を維持したままで、棒材87をシャフト82の周方向に沿って変位させる。それに併せて、ガイドピン31を中心として第2参照部材91を回動させる。このような位置調整作業により、第1比較部である棒材87と、第2比較部である3本の基準ライン95が設けられた板状部材94とを互いに近接させる。この場合、板状部材94の表面または裏面に対して棒材87を沿わせるようにして配置する(即ち面接触させる)ことにより、インパクタ81を大まかに位置決めすることができる。
【0057】
そしてこの状態で第2比較部に対する第1比較部の平行度を参照し、カップ21の打ち込み方向を決定する。具体的には、板状部材94に対する棒材87の面接触状態を維持したままでインパクタ81を動かし、棒材87と基準ライン95とが平行になるようにする。ちなみに
図13においては、まだ板状部材94に対して棒材87が面接触しておらず、また、棒材87と基準ライン95とが平行になっていない。つまり、カップ21がまだ最適な方向を向いていないと把握できるため、施術者は打ち込み方向を最終決定すべきではない。これに対して
図14においては、板状部材94に対して棒材87が面接触し、かつ、棒材87と基準ライン95とが平行になっている。従って、カップ21が最適な方向を向いていると把握できるため、施術者は打ち込み方向を最終決定することができる。そして、引き続き図示しないハンマーを用いてインパクタ81の頭部84を打撃することにより、カップ21を半球状凹面7内に打ち込んで完全に固定させる。なお、インパクタ81を打撃するときの振動はカップ21には伝わるが、インパクタ81及び第1参照部材86と第2参照部材91とは別体で構成されているため、振動が第2参照部材91には伝わりにくい。
【0058】
カップ21の打ち込みが完了してカップ21が確実に固定されたことを確認したら、カップ21をインパクタ81から分離するとともに、ガイドピン31から第2参照部材91を取り外す。そして、さらにガイドピン31を抜去することでカップ21の設置が完了する(
図15参照)。その後、常法に従って手術を進め、大腿骨に埋め込んだステムのヘッドをライナーを介してカップ21に嵌め込むことにより人工股関節を完成させた後、最後に傷口を縫合する。
【0059】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0060】
(1)上述した構造を有する本実施形態のガイド41によると、ガイド本体42の凸部45を患者個別の寛骨臼窩5に係合させることで、ガイド41を確実に支持固定することができる。このため、ガイド41の固定時の安定性が増し、ひいてはガイドピン31の立設精度が向上する。また、ピン案内部43が1本のみであるためガイドピン31を立設するための特定部位P1を極めて狭くすることができ、また、その特定部位P1に対してピン案内部43が非接触であるため、従来技術とは異なり寛骨臼縁3の膜組織を除去する必要がなくなり、低侵襲なものとなる。さらに、この構造であるとガイド本体42自体も比較的小さくて済むようになり、比較的狭い術野でもガイド41を正確に設置することが可能となるので、低侵襲化に貢献する。以上述べたように、このガイド41を用いた場合には、他のツールとの協働により、骨盤1の位置や傾斜に関係なく術前計画で設定された角度に正確に人工股関節カップ21を設置することができる。また、安価で低侵襲かつ信頼性の高い人工股関節置換手術を行うことが可能となる。
【0061】
(2)本実施形態のガイド41では、ガイド本体42における第2面42bの略中央部に貫通穴部が形成されていない一方、指F1で押圧されるための凹所47が形成されている。従って、施術者が凹所47を指F1で押圧することでガイド本体42の凸部45を患者個別の寛骨臼窩5に容易にかつ確実に係合させることができる。このため、ガイド41をより確実に支持固定することができ、ひいてはガイドピン31の立設精度が向上する。また、ガイドピン31の固定のために第2面42bの略中央部に例えば筒状の貫通穴部が形成されているものとは異なり、貫通穴部の存在が凹所47の形成にとって邪魔になることもない。しかも、貫通穴部を介して寛骨臼内面6にガイドピンを立てることも行わないため、その深部にある血管や神経を傷付ける心配もなく、確実に侵襲性が低くなる。
【0062】
(3)本実施形態のガイド41では、ガイド本体42における第2面42bの表面形状が、凸部45を有する第1面42aの表面形状を反映した凹状弯曲面となっている。ここで第2面42aの表面形状は、実質的に寛骨臼2の内面形状に沿ったものであることから、ガイド41の固定時に施術者が寛骨臼2の内面形状を指先の触覚をもって容易に把握することができる。具体的にいうと、例えばガイド41の固定時に、凸部45が寛骨臼窩5に係合したか否かを容易に把握すること等が可能となる。
【0063】
(4)本実施形態のガイド41では、ガイド本体42における第1面42aと連結部44の底面44aとの境界部分に、段差48を設けている。それゆえ、ガイド41の固定時に連結部44の底面44aが寛骨臼内面6から寛骨臼縁3にわたる領域に接触しなくなる。よって、連結部44が接触する構造のガイドを用いた場合には連結部底面直下の領域に対応する膜組織を除去する必要があったのに対し、本実施形態のガイド41では当該領域の膜組織を除去する必要がなくなることで侵襲性がより低くなる。
【0064】
(5)本実施形態のガイド41は、合成樹脂材料を材料として3Dプリンタを用いて作製された三次元積層造形品である。このため、市販の3Dプリンタとそれを駆動するための専用ソフトウェアがあれば、外部の製造業者に委託しなくても、手術を行う施設においてガイド41を比較的短時間で製造することが可能になる。また、従来に比較してガイド41を安価に製造することが可能となる。さらに、合成樹脂製であることから軽量で取り扱いやすいものとすることができる。
【0065】
(6)本実施形態のガイド41は、上述した諸工程(即ち患者三次元データ準備工程、ガイドピン立設位置角度決定工程、ガイド設計工程、三次元造形用データ作成工程、ガイド造形工程)を経て製造される。この場合、患者個別の股関節の三次元データに基づきガイドピン31の立設位置及び角度が適切に決定された最適構造のガイド41が仮想空間内にて定義される。次いで、定義されたガイド41の作製のための三次元造形用データが作成され、このデータに基づいて三次元造形法により所望構造のガイド41が造形される。ゆえに、個々の患者にとって最適な角度でガイドピン31を立設することができる優れたガイド41を安価かつ低コストで製造することができる。
【0066】
(7)また、本実施形態のガイド41の製造方法では、抽出された寛骨臼2の部分のデータにおいて寛骨臼内面6の穴を埋めるようにしている。よって、寛骨臼2の内面形状が実際の形状により近くなり、結果的にガイド41を正確に設計しやすくなる。ゆえに、ガイドピン31の立設角度の精度向上を図ることができる。
【0067】
(8)本実施形態のカップ設置用器具71は、上述した構造のインパクタ81、第1参照部材86及び第2参照部材91を備えたものとなっている。このため、第2比較部に対する第1比較部の平行度を参照すること、つまり第2比較部と第1比較部とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、カップ21の打ち込み角度を簡単にかつ正確に決定し、術前計画で設定された角度に正確にカップ21を設置することが可能となる。また、第1参照部材86を有するインパクタ81と、第2参照部材91とは敢えて別体で構成されているので、カップ21の打ち込み時の衝撃が第2参照部材91を介してガイドピン31に伝わりにくく、ガイドピン31が変形等するおそれがないという利点がある。以上述べたように、このカップ設置用器具71を用いた場合には、他のツールとの協働により、骨盤1の位置や傾斜に関係なく術前計画で設定された角度に正確に人工股関節カップ21を設置することができる。また、安価で低侵襲かつ信頼性の高い人工股関節置換手術を行うことが可能となる。
【0068】
(9)本実施形態のカップ設置用器具71の場合、第2参照部材91が板状部材94を含んで構成されていることから、第1比較部である棒材87をその板状部材94に沿わせるように配置することで、打ち込み角度を大まかに決定することができる。この状態で板状部材94に形成された基準ライン95に対する棒材87の平行度を参照すること、つまり当該基準ライン95と棒材87とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、人工股関節カップ21の打ち込み角度をより正確に決定することができる。
【0069】
(10)本実施形態のカップ設置用器具71の場合、第1比較部である棒材87をシャフト82の周方向に沿って変位させることにより、棒材87を第2比較部である基準ライン95に近接して配置することができる。よって、基準ライン95に対する棒材87の平行度の参照作業が行いやすくなる。
【0070】
(11)本実施形態のカップ設置用器具71の場合、板状部材94は、第2比較部である複数本の基準ライン95が形成された透明板である。それゆえ、基準ライン95が1本のときに比べて平行度を参照しやすくなる。また、板状部材94が透明板であるため、平行度の参照時に棒材87が透明板の裏面側に位置したとしても目視可能となり、作業性が向上する。
【0071】
(12)本実施形態のカップ設置用器具71の場合、複数本の基準ライン95は透明板の長手方向に沿って加工された溝部である。よって、透明板における複数本の溝部に対する棒材87の平行度を参照すること、つまり当該溝部と棒材87とが平行であるか交差しているかを目視して判断することにより、人工股関節カップ21の打ち込み角度をより正確に決定することができる。この場合、棒材87の外周面の一部を溝部に係合させることで、両者を互いに平行な位置関係に配置することも可能なため、カップ21の打ち込み角度をより簡単に決定することができる。
【0072】
なお、本発明の実施形態は一例であって、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更してもよい。