特開2020-192833(P2020-192833A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-192833(P2020-192833A)
(43)【公開日】2020年12月3日
(54)【発明の名称】駆動力配分制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20201106BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20201106BHJP
【FI】
   B60K23/08 C
   B60K17/348 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-97920(P2019-97920)
(22)【出願日】2019年5月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 泰理
(72)【発明者】
【氏名】延谷 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】治田 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】八木 康
【テーマコード(参考)】
3D036
3D043
【Fターム(参考)】
3D036GA16
3D036GB03
3D036GD08
3D036GG25
3D036GG35
3D036GG40
3D036GG53
3D036GH01
3D036GJ02
3D036GJ17
3D043AA08
3D043AB02
3D043AB17
3D043EA02
3D043EA18
3D043EB12
3D043EB13
3D043EE02
3D043EE06
3D043EE07
3D043EE09
3D043EF12
3D043EF19
(57)【要約】
【課題】四輪駆動車の主駆動輪にスリップが発生したときに、四輪駆動車にショックが生じるのを抑制しながら、そのスリップを速やかに解消可能な駆動力配分制御装置を提供する。
【解決手段】カップリング機構制御手段が、車速が第1所定車速以下であるときにおいて、アクセル開度の上昇速度が所定値以上になったときに、駆動軸と補助駆動輪とを締結しかつ締結力を第1締結力に設定するとともに(ステップS5)、その設定後において、該設定から所定時間が経過する前に、又は、車速が、上記第1所定車速よりも大きい第2所定車速以上になる前に、少なくとも一方の主駆動輪のスリップが検出されたときには、上記締結力を上記第1締結力から第2締結力に変更する(ステップS9)。この変更された少なくとも直後における第2締結力は、上記第1締結力よりも大きい値である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えが自動で行われる四輪駆動車に搭載される駆動力配分制御装置であって、
上記二輪駆動状態及び上記四輪駆動状態のいずれにおいても、駆動源の駆動力が伝達される左右一対の主駆動輪と、
上記四輪駆動状態のみにおいて上記駆動力が伝達される左右一対の補助駆動輪と、
上記駆動力を上記補助駆動輪に伝達するための駆動軸と、
上記駆動軸と上記補助駆動輪との締結及び非締結により、上記二輪駆動状態と上記四輪駆動状態との切換えを行うとともに、上記駆動軸と上記補助駆動輪との締結時における締結力の変更により、上記主駆動輪及び上記補助駆動輪への駆動力の配分を変更するカップリング機構と、
上記カップリング機構の作動を制御するカップリング機構制御手段と、
上記四輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、
上記四輪駆動車のアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
上記主駆動輪のスリップを検出するスリップ検出手段と、
を備え、
上記カップリング機構制御手段は、
上記駆動軸と上記補助駆動輪とが非締結でありかつ上記車速検出手段により検出された車速が第1所定車速以下であるときにおいて、上記アクセル開度検出手段により検出されたアクセル開度の上昇速度が所定値以上になったときには、上記駆動軸と上記補助駆動輪とを締結しかつ上記締結力を第1締結力に設定するとともに、
上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、該設定から所定時間が経過する前に、又は、上記車速検出手段により検出された車速が、上記第1所定車速よりも大きい第2所定車速以上になる前に、上記スリップ検出手段による少なくとも一方の上記主駆動輪のスリップが検出されたときには、上記締結力を上記第1締結力から第2締結力に変更する
ように構成されており、
上記締結力が上記第1締結力から上記第2締結力に変更された少なくとも直後における該第2締結力は、上記第1締結力よりも大きい値であることを特徴とする駆動力配分制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動力配分制御装置において、
上記カップリング機構制御手段は、上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、上記スリップ検出手段により両方の上記主駆動輪のスリップが検出されずに、該設定から上記所定時間が経過したとき、又は、上記スリップ検出手段により両方の上記主駆動輪のスリップが検出されずに、上記車速検出手段により検出された車速が上記第2所定車速以上になったときには、上記締結力を上記第1締結力から0に低下させるように構成されていることを特徴とする駆動力配分制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の駆動力配分制御装置において、
上記カップリング機構制御手段は、上記第2締結力を、上記スリップ検出手段により検出された上記スリップのスリップ量に応じた値にするように構成されていることを特徴とする駆動力配分制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車に搭載される駆動力配分制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えが行われる四輪駆動車が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような四輪駆動車の中には、二輪駆動状態において駆動源の駆動力が伝達される主駆動輪にスリップが発生したときに、四輪駆動状態に自動で切り換えられるものがある。このような四輪駆動車には、駆動源の駆動力を補助駆動輪に伝達するための駆動軸と、該駆動軸と該補助駆動輪とを締結したり非締結にしたりするクラッチとが設けられている。そして、主駆動輪にスリップが発生したときに、クラッチにより駆動軸と補助駆動輪とを即座に締結するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−179734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、主駆動輪にスリップが発生したときに、クラッチにより駆動軸と補助駆動輪とを即座に締結すると、補助駆動輪に伝達される駆動力が急激にかつ大幅に上昇するために、四輪駆動車にショックが生じ、四輪駆動車の乗員に不快感を与えてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、四輪駆動車の主駆動輪にスリップが発生したときに、四輪駆動車にショックが生じるのを抑制しながら、そのスリップを速やかに解消可能な駆動力配分制御装置を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明では、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えが自動で行われる四輪駆動車に搭載される駆動力配分制御装置を対象として、上記二輪駆動状態及び上記四輪駆動状態のいずれにおいても、駆動源の駆動力が伝達される左右一対の主駆動輪と、上記四輪駆動状態のみにおいて上記駆動力が伝達される左右一対の補助駆動輪と、上記駆動力を上記補助駆動輪に伝達するための駆動軸と、上記駆動軸と上記補助駆動輪との締結及び非締結により、上記二輪駆動状態と上記四輪駆動状態との切換えを行うとともに、上記駆動軸と上記補助駆動輪との締結時における締結力の変更により、上記主駆動輪及び上記補助駆動輪への駆動力の配分を変更するカップリング機構と、上記カップリング機構の作動を制御するカップリング機構制御手段と、上記四輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、上記四輪駆動車のアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、上記主駆動輪のスリップを検出するスリップ検出手段と、を備え、上記カップリング機構制御手段は、上記駆動軸と上記補助駆動輪とが非締結でありかつ上記車速検出手段により検出された車速が第1所定車速以下であるときにおいて、上記アクセル開度検出手段により検出されたアクセル開度の上昇速度が所定値以上になったときには、上記駆動軸と上記補助駆動輪とを締結しかつ上記締結力を第1締結力に設定するとともに、上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、該設定から所定時間が経過する前に、又は、上記車速検出手段により検出された車速が、上記第1所定車速よりも大きい第2所定車速以上になる前に、上記スリップ検出手段による少なくとも一方の上記主駆動輪のスリップが検出されたときには、上記締結力を上記第1締結力から第2締結力に変更するように構成されており、上記締結力が上記第1締結力から上記第2締結力に変更された少なくとも直後における該第2締結力は、上記第1締結力よりも大きい値である、という構成とした。
【0007】
上記の構成により、駆動軸と補助駆動輪とが非締結であり(二輪駆動状態であり)かつ車速が第1所定車速以下(0に近い値)であるときにおいて、アクセル開度の上昇速度が所定値以上になったとき、つまり、四輪駆動車の乗員の急激なアクセル操作により主駆動輪にスリップが発生し易い状況にあるときには、予め締結力が第1締結力とされ、その状態で主駆動輪にスリップが発生したときには、締結力が第1締結力から第2締結力に変更される。この結果、締結力が第1締結力を経て段階的に上昇されるので、補助駆動輪に伝達される駆動力が急激にかつ大幅に上昇することがなくなり、車両にショックが生じるのが抑制される。また、主駆動輪にスリップが発生したときには、締結力を、第1締結力から、そのスリップを解消可能な第2締結力に変更するので、0から第2締結力に変更する場合よりも締結力を素早く変更することができ、スリップを速やかに解消することができる。
【0008】
上記駆動力配分制御装置において、上記カップリング機構制御手段は、上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、上記スリップ検出手段により両方の上記主駆動輪のスリップが検出されずに、該設定から上記所定時間が経過したとき、又は、上記スリップ検出手段により両方の上記主駆動輪のスリップが検出されずに、上記車速検出手段により検出された車速が上記第2所定車速以上になったときには、上記締結力を上記第1締結力から0に低下させるように構成されている、ことが好ましい。
【0009】
このことにより、両方の主駆動輪のスリップが検出されずに、第1締結力の設定から所定時間が経過したとき、又は、車速が第2所定車速以上になったときには、スリップが生じない状況になったと判断することができるので、締結力を0に低下させても問題はなく、締結力を0にする(二輪駆動状態にする)ことによって駆動源の駆動力の損失を低減させて、燃費を向上させることができる。
【0010】
上記駆動力配分制御装置において、上記カップリング機構制御手段は、上記第2締結力を、上記スリップ検出手段により検出された上記スリップのスリップ量に応じた値にするように構成されている、ことが好ましい。
【0011】
このことで、第2締結力を、無駄に大きな値にすることなく、主駆動輪に発生したスリップを解消可能な適切な値にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の駆動力配分制御装置によると、四輪駆動車の主駆動輪にスリップが発生したときに、四輪駆動車にショックが生じるのを抑制しながら、そのスリップを速やかに解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る駆動力配分制御装置が搭載された四輪駆動車の全体の概略構成を示す図である。
図2】駆動力配分制御装置の制御系の構成を示すブロック図である。
図3】電磁カップリング機構によるプロペラシャフトと後輪との締結力を第1締結力に設定した後に少なくとも一方の前輪のスリップが検出された場合における、該締結力、アクセル開度、アクセル開度の上昇速度、車速、及び前輪のスリップ量の変化を示すタイムチャートである。
図4】上記締結力を第1締結力に設定した後において両方の前輪のスリップが検出さない場合における、該締結力、アクセル開度、アクセル開度の上昇速度、車速、及び前輪のスリップ量の変化を示すタイムチャートである。
図5】コントロールユニットによる電磁カップリング機構の制御の処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る駆動力配分制御装置が搭載された四輪駆動車1の全体の概略構成を示す。この四輪駆動車1(以下、車両1という)は、該車両1の乗員による操作によらずに、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えが自動で行われるように構成されている。
【0016】
車両1は、FF車をベースにしたものであって、車両1の前部に設けられたエンジンルーム内に、駆動源としてのエンジン2が配設されている。
【0017】
車両1が二輪駆動状態にあるときには、エンジン2の駆動力(駆動トルク)が左右の前輪11に伝達される。一方、車両1が四輪駆動状態にあるときには、エンジン2の駆動力が左右の前輪11及び左右の後輪12に伝達される。このことから、前輪11は、二輪駆動状態及び四輪駆動状態のいずれにおいても、エンジン2の駆動力が伝達される主駆動輪とされ、後輪12は、四輪駆動状態のみにおいてエンジン2の駆動力が伝達される補助駆動輪とされる。尚、本実施形態では、前輪11は、操舵輪でもある。
【0018】
エンジン2の駆動力は、トランスミッション3及びフロントデファレンシャル機構4を介して、車幅方向に延びる左右一対のフロントドライブシャフト5に伝達されて、該フロントドライブシャフト5から左右の前輪11に伝達される。トランスミッション3及びフロントデファレンシャル機構4は、互いにユニット化されている。
【0019】
また、エンジン2の駆動力は、フロントデファレンシャル機構4から、トランスファーに相当するPTO6(パワーテイクオフ(Power Take Off))にも伝達されて、該PTO6から、上記駆動力を左右の後輪12に伝達するためのプロペラシャフト7(駆動軸)に伝達される。
【0020】
プロペラシャフト7は、車両1の前後方向において前輪11と後輪12との間に位置して、前後方向に延びている。プロペラシャフト7の前端部は、PTO6に連結され、プロペラシャフト7の後端部は、後述の電磁カップリング機構8に連結されている。
【0021】
プロペラシャフト7と左右の後輪12との間(詳細には、プロペラシャフト7とリヤデファレンシャル機構9との間)には、電磁カップリング機構8が設けられている。この電磁カップリング機構8は、詳細な構成は省略するが、電磁力によって作動するアクチュエータと、該アクチュエータの作動によって互いに押圧される複数の摩擦板とを有しており、該複数の摩擦板が互いに押圧されることで、プロペラシャフト7と後輪12(リヤデファレンシャル機構9)との締結を行う。尚、アクチュエータは、電磁力によって作動するものには限られない。
【0022】
電磁カップリング機構8は、電磁力の発生及び停止によって、アクチュエータによる摩擦板の押圧及び押圧解除により、プロペラシャフト7と後輪12(リヤデファレンシャル機構9)との締結及び非締結を行う。つまり、電磁カップリング機構8は、プロペラシャフト7と後輪12との締結及び非締結によって、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えを行う。車両1が四輪駆動状態にあるときには、プロペラシャフト7に伝達された上記駆動力は、電磁カップリング機構8、リヤデファレンシャル機構9、及び左右一対のリヤドライブシャフト10を介して後輪12に伝達されることになる。
【0023】
また、電磁カップリング機構8は、発生させる電磁力(摩擦板の押圧力)の大きさによって、プロペラシャフト7と後輪12との締結時における締結力を変更することができるように構成されていて、この締結力の変更により、前輪11及び後輪12への駆動力の配分を変更する。
【0024】
図2に示すように、車両1には、電磁カップリング機構8の作動を制御するコントロールユニット21(カップリング機構制御手段)が設けられている。本実施形態では、コントロールユニット21は、エンジン2の作動も制御するが、エンジン2の作動の制御は、別のコントロールユニットにより行うようにしてもよい。
【0025】
コントロールユニット21は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラ(プロセッサ)である。コントロールユニット21は、CPU21a、メモリ21b、入出力バス21c等を備えている。CPU21aは、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリ21bは、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(エンジン及び電磁カップリング機構の作動を制御するための制御プログラム)やデータ等が格納されている。RAMは、CPU21aが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バス21cは、コントロールユニット21に対して電気信号の入出力をするものである。
【0026】
コントロールユニット21には、車両1の車速を検出する車速センサ31(車速検出手段)からの信号と、2つの前輪11及び2つの後輪12それぞれの車輪速を検出する4つの車輪速センサ32(図2では、1つのみ記載)からの信号と、車両1の乗員によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度を検出するアクセル開度センサ33(アクセル開度検出手段)からの信号と、上記乗員によるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏込量センサ34からの信号と、が入力される。また、コントロールユニット21には、その他に、エンジン2の制御に必要な各種センサからの信号が入力される。
【0027】
コントロールユニット21は、メモリの上記ROMに記憶されているコンピュータプログラムに従って、入力された信号をCPU21aで処理して、エンジン2及び電磁カップリング機構8の作動を制御する。
【0028】
以下、コントロールユニット21による電磁カップリング機構の作動制御について詳細に説明する。
【0029】
コントロールユニット21は、基本的には、プロペラシャフト7と後輪12とを非締結にする(車両1を二輪駆動状態にする)。一方、コントロールユニット21は、プロペラシャフト7と後輪12とが非締結でありかつ車速センサ31により検出された車速が第1所定車速以下であるときにおいて、アクセル開度センサ33により検出されたアクセル開度の上昇速度が所定値以上になったときには、プロペラシャフト7と後輪12とを締結しかつ上記締結力を第1締結力に設定する(図3及び図4の時刻t1参照)。
【0030】
上記第1所定車速は、0に近い値であって、例えば、トランスミッション3のクリープ力により走行するときの速度の最大値とされる。このように二輪駆動状態で車速が第1所定車速以下であるときに(図3及び図4では車速を0にしている)、車両1の乗員の急激なアクセル操作によりアクセル開度の上昇速度が所定値以上になったときには、前輪11にスリップが発生し易くなる。そこで、実際にスリップが発生する前に、予め締結力を第1締結力に設定しておく。本実施形態では、第1締結力は、一定値である。
【0031】
そして、コントロールユニット21は、上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、該設定から所定時間が経過する前に、又は、車速センサ31により検出された車速が、上記第1所定車速よりも大きい第2所定車速以上になる前に、少なくとも一方の前輪11のスリップが検出されたときには、上記締結力を上記第1締結力から第2締結力に変更する(図3の時刻t2参照)。
【0032】
各前輪11のスリップは、車輪速センサ32による各前輪11の車輪速と車速センサ31による車速とから求まるスリップ量から検出することができる。したがって、車速センサ31及び車輪速センサ32は、前輪11(主駆動輪)のスリップを検出するスリップ検出手段を構成することになる。
【0033】
第1締結力から第2締結力に変更された少なくとも直後における該第2締結力は、第1締結力よりも大きい値である(図3参照)。すなわち、第1締結力でプロペラシャフト7と後輪12とを締結した状態で、前輪のスリップが生じたので、そのスリップを解消するためには、上記締結力を第1締結力から第2締結力へ上昇させる必要がある。
【0034】
本実施形態では、コントロールユニット21は、上記第2締結力を、上記スリップのスリップ量に応じた値(上記スリップを解消可能な値)にする。左右の前輪11の両方にスリップが発生しているときには、第2締結力は、大きい方のスリップ量に応じた値にすることが好ましい。このように第2締結力がスリップ量に応じた値とされることで、第2締結力を、無駄に大きな値にすることなく、前輪11に発生したスリップを解消可能な適切な値にすることができる。第2締結力は、上記変更の略直後に最大となり、その最大値は、スリップ量の最大値に対応した値である。
【0035】
一方、コントロールユニット21は、上記締結力を上記第1締結力に設定した後において、左右両方の前輪11のスリップが検出されずに、該設定から上記所定時間が経過したとき、又は、左右両方の前輪11のスリップが検出されずに、車速センサ31により検出された車速が上記第2所定車速以上になったときには、上記締結力を上記第1締結力から0に低下させる(図4の時刻t3参照)。すなわち、左右両方の前輪11のスリップが検出されずに、第1締結力の設定から上記所定時間が経過したとき、又は、左右両方の前輪11のスリップが検出されずに、車速が第2所定車速以上になったときには、スリップが生じない状況になったと判断することができるので、上記締結力を0にしても(二輪駆動状態にしても)問題はなく、上記締結力を出来る限り早期に低下させてエンジン2の駆動力の損失を低減させる。尚、上記締結力を第1締結力から0に低下させる際には、図4に示すように、徐々に低下させて、乗員に違和感を感じさせないようにする。
【0036】
本実施形態では、第2締結力は、前輪11のスリップのスリップ量に応じた値とされるので、第1締結力から第2締結力への変更直後は、第1締結力よりも大きいが、スリップ量が次第に小さくなるに連れて第2締結力も小さくなる(図3参照)。やがて、第2締結力は第1締結力と同じ値になる。第2締結力が第1締結力と同じ値になるタイミングが、第1締結力の設定から上記所定時間が経過する前、又は、車速センサ31により検出された車速が上記第2所定車速以上になる前である場合には、上記タイミング以降は、第2締結力が第1締結力と同じ値にされる。この状態で、第1締結力の設定から上記所定時間が経過したとき、又は、車速センサ31により検出された車速が上記第2所定車速以上になったときに、上記第1締結力の設定後に前輪11のスリップが検出されなかったときと同様に、第2締結力が第1締結力と同じ値から0に低下される。
【0037】
一方、第2締結力が第1締結力と同じ値になるタイミングが、第1締結力の設定から上記所定時間が経過した後、又は、車速センサ31により検出された車速が上記第2所定車速以上になった後である場合には、図3に示すように、第2締結力がそのままスリップ量に応じて小さくされ、スリップ量が0になれば、第2締結力も0とされる(二輪駆動状態とされる)。
【0038】
尚、第2締結力は、第1締結力と同様に、一定値としてもよい。この場合、第1締結力の設定から上記所定時間が経過したとき、又は、車速センサ31により検出された車速が上記第2所定車速以上になったときに、第2締結力を該一定値から徐々に0にまで低下させればよい。
【0039】
ここで、コントロールユニット21による電磁カップリング機構8の制御の処理動作について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0040】
最初のステップS1で、各種センサからの信号を読み込み、次のステップS2で、前提条件が成立するか否かを判定する。この前提条件は、プロペラシャフト7と後輪12とが非締結である(車両1が二輪駆動状態である)という条件である。この条件に加えて、例えば、車両1が走行する走行路が、その路面の摩擦係数が、予め設定された基準値以下である低μ路であるという条件や、ブレーキペダル踏込量センサ34によるブレーキペダルの踏み込み量が、予め設定された設定量以下であるという条件等を、上記前提条件としてもよい。
【0041】
ステップS2の判定がNOであるときには、リターンする一方、ステップS2の判定がYESであるときには、ステップS3に進む。
【0042】
ステップS3では、車速センサ31により検出された車速が第1所定車速以下であるか否かを判定する。このステップS3の判定がNOであるときには、リターンする一方、ステップS3の判定がYESであるときには、ステップS4に進む。
【0043】
ステップS4では、アクセル開度センサ33により検出されたアクセル開度の上昇速度が所定値以上であるか否かを判定する。このステップS4の判定がNOであるときには、リターンする一方、ステップS4の判定がYESであるときには、ステップS5に進んで、電磁カップリング機構8によるプロペラシャフト7と後輪12との締結力を、第1締結力に設定する。
【0044】
次のステップS6では、少なくとも一方の前輪11にスリップが発生したか否かを判定し、このステップS6の判定がNOであるときには、ステップS7に進む一方、ステップS6の判定がYESであるときには、ステップS9に進む。
【0045】
ステップS7では、第1締結力の設定から所定時間が経過したか、又は、車速センサ31により検出された車速が第2所定車速以上になったか否かを判定する。
【0046】
ステップS7の判定がNOであるときには、ステップS6に戻る一方、ステップS7の判定がYESであるときには、ステップS8に進んで、締結力を第1締結力から0に低下させ、しかる後にリターンする。
【0047】
ステップS6の判定がYESであるときに進むステップS9では、締結力を第2締結力に変更し、しかる後にリターンする。この第2締結力は、上記のように、第1締結力から第2締結力への変更直後では、第1締結力よりも大きく、前輪11のスリップ量が小さくなるに連れて小さくなる。尚、図5のフローチャートでは省略するが、第2締結力の低下の仕方は、第2締結力が第1締結力と同じ値になるタイミングによって異なる。
【0048】
したがって、本実施形態では、車両1の乗員の急激なアクセル操作により前輪11にスリップが発生し易い状況にあるときには、予め締結力が第1締結力とされ、締結力が第1締結力とされた状態で前輪11にスリップが発生したときには、締結力が第1締結力から第2締結力に変更される。この結果、締結力が第1締結力を経て段階的に上昇されるので、後輪12に伝達される駆動力が急激にかつ大幅に上昇することがなくなり、車両1にショックが生じるのが抑制される。また、前輪11にスリップが発生したときには、締結力を、第1締結力から、そのスリップを解消可能な第2締結力に変更するので、0から第2締結力に変更する場合よりも締結力を素早く変更することができ、スリップを速やかに解消することができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0050】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切換えが自動で行われる四輪駆動車に搭載される駆動力配分制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 四輪駆動車
2 エンジン(駆動源)
7 プロペラシャフト(駆動軸)
8 電磁カップリング機構(カップリング機構)
11 前輪(主駆動輪)
12 後輪(補助駆動輪)
21 コントロールユニット(カップリング機構制御手段)
31 車速センサ(車速検出手段)(スリップ検出手段)
32 車輪速センサ(スリップ検出手段)
33 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5