【解決手段】電子機器(10)の制御装置(2)は、複数のピクセル(12)のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数のサーミスタ素子(11)のそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、指紋センサ(1)においてピクセル(12)をアクティブにすべきエリアを設定するアクティブエリア設定部(23)を備える。
指紋の凹凸を電荷の変化として検知するための電極を複数有しているとともに、温度センサを複数有している指紋センサと、少なくとも1つの制御装置とを備えた電子機器であって、
複数の前記温度センサのそれぞれは、互いに隣接する電極の間に配置されているとともに、
前記制御装置は、複数の前記電極のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数の前記温度センサのそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、前記指紋センサにおいて前記電極をアクティブにすべきエリアを設定するアクティブエリア設定処理を実行することを特徴とする電子機器。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの小型の情報装置は、近年の高機能化に伴い、インターネット等に接続して、個人情報を送信したり、装置に個人情報を格納したりすることができるようになったため、これらの情報を保護する仕組みへの要望が強くなってきている。従来は、このような装置のセキュリティを確保するための仕組みとして、パスワードなどによる個人認証が用いられてきた。
【0003】
しかしながら、パスワードなどは盗用される危険性が高く、より信頼性の高い個人認証の実現が望まれている。そのため、個人認証のための個人生体技術として、指紋による認証技術が開発されてきた。
【0004】
例えば、静電容量方式の指紋センサによる個人認証技術がある。この方式の指紋センサは、保護膜の下に多数の電極を並べ、指表面と電極の距離に応じた電荷を溜める。すなわち、指をこの指紋センサ面上に置くと、指紋の凹凸に応じて、各電極に電荷が溜まる。この電荷量は、指紋の凹部に対向する電極では少なく、指紋の凸部に対向する電極では多くなる。そして、この電荷量を駆動回路によりセンスし、センスした電圧をアナログディジタル変換して指紋イメージ像として出力している。
【0005】
特許文献1には、使用者が意識することのない必要最小限の認証作業によって、不正使用の防止を図った携帯電話が開示されている。この携帯電話では、使用者が携帯電話を手に取ると、制御部は温度取得部に対して温度検出を開始する指示を発行する。温度取得部は、一定の時間間隔で温度の計測を行い、取得した温度情報を順次温度比較部へと転送する。温度比較部では、温度取得部が取得する温度情報が所定の条件内であるかを判断し、その判断結果に応じて、生体情報取得部に対して使用者の指紋情報を取得する指示を発行する。生体情報取得部は使用者の指紋情報を取得し、取得した指紋情報を生体情報認証部へ転送する。生体情報認証部では、取得した指紋情報と生体情報格納部に格納した所有者の指紋情報との比較を行い、正当使用者であるか否かを判断する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
【0014】
〔実施形態1〕
まず、
図2に基づき、本発明の実施形態1に係る電子機器10の外観構成について説明する。
図2は、電子機器10の外観構成を示す正面図である。同図に示すように、電子機器10は、筐体5の中央部にディスプレイ4を備えており、ディスプレイ4の下側に指紋センサ1を備えている。
【0015】
電子機器10は、例えばスマートフォンにより実現される。なお、電子機器10はスマートフォンに限らず、例えば、タブレット端末等、指紋センサ1を有する各種電子機器に適用することができる。
【0016】
次に、
図1は、本発明の実施形態1に係る電子機器10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、電子機器10は、指紋センサ1、制御装置2、記憶装置3、およびディスプレイ(表示装置)4を含む。
【0017】
指紋センサ1は、指紋の凹凸を電荷の変化として検知するためのピクセル(電極)12を複数有しているとともに、サーミスタ素子(温度センサ)11を複数有している。後述するように複数のサーミスタ素子11のそれぞれは、互いに隣接するピクセル12の間に配置されている。
【0018】
サーミスタ素子11は、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体である。この現象を利用し、温度を測定するセンサとして利用される。センサとしてはふつう−50℃から150℃程度までの測定に用いられる。
【0019】
ピクセル12は、指紋の凹凸に応じて電荷を溜めるための電極である。この電荷量は、指紋の凹部に対向するピクセル12では少なく、指紋の凸部に対向するピクセル12では多くなる。そして、この電荷量を後述する指紋認証回路14によりセンスし、センスした電圧をアナログディジタル変換して指紋イメージ像として出力する。制御装置2は、電子機器10の各部を統括的に制御する。
図1に示すように制御装置2は、温度比較部21、認証管理部22およびアクティブエリア設定部23を備える。
【0020】
温度比較部21は、サーミスタ素子11が検出した温度を2回測定し、これらの温度の変化量を特定する。また、記憶装置3の温度閾値格納部31には、温度の変化量に関する閾値(所定の変化量)が格納されており、特定された温度の変化量が前記閾値を超えたか否かを判定する(温度変化判定処理)。温度比較部21は、所定の変化量を超えて温度が変化したと判定された場合、そのサーミスタ素子11の位置をアクティブエリア設定部23に通知する。
【0021】
アクティブエリア設定部23は、複数のピクセル12のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数のサーミスタ素子11のそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、指紋センサ1においてピクセル12をアクティブにすべきエリアを設定する(アクティブエリア設定処理)。具体的には、アクティブエリア設定部23は、前記温度変化判定処理において前記所定の変化量を超えて温度が変化したと判定されるサーミスタ素子11の周囲に存在するピクセル12を前記アクティブな状態とし、それ以外のピクセル12を前記非アクティブ状態とすることで、前記アクティブエリア設定処理を実行する。
【0022】
本実施形態では、現状の温度からの変化量に基づいて電極をアクティブな状態とするため、一定時間、温度を測定し、温度と条件値(閾値温度の範囲を示す上限値または下限値)と比較して認証する場合と比較して、認証までの時間を短縮することができる。
【0023】
例えば、
図6は、従来技術と提案技術(本発明の実施形態)とで、電極がアクティブにされるまでの時間を比較したグラフである。特許文献1に記載の従来技術は、温度取得部の温度が条件値(閾値温度)に到達する必要がある。例え変化量が大きくても、閾値温度に到達しなければ電極がアクティブにされない。対して、本提案技術の「変化量の検出」であれば閾値温度を設定することなく、変化量(グラフの傾き)の検出のみでアクティブ可能になる。
【0024】
例えば、温度取得部の初期値を仮に15℃としたとき、温度取得を7回行った場合、上記グラフに示すように、従来技術の場合は、条件値(閾値範囲)に到達し、アクティブになるまで取得回数が7回必要であるが、提案技術の場合は、指紋センサ1に指が触れたと考えられる温度変化が大きい箇所、すなわち温度取得回数が2回目でアクティブになる。
【0025】
また、本実施形態によれば、認証時に一部の電極を非アクティブ状態とすることで、認証時にすべての電極をアクティブ状態とする場合と比較して消費電力を削減することができる。
【0026】
認証管理部22は、前記アクティブエリア設定処理が完了するとそのエリア内に存在する複数のピクセル12のそれぞれの電荷量を指紋認証回路14によりセンスし、センスした電圧をアナログディジタル変換して指紋イメージ像として出力する。
【0027】
また、認証管理部22は、取得した指紋イメージ像と指紋情報格納部32に格納した所有者の指紋情報との比較を行い、指紋の特徴が一致した場合、電子機器10の正当使用者であると判断する。
【0028】
次に、
図3の(a)は、電子機器10が備える指紋センサ1の外観構成を示す正面図である。同図に示すように、指紋センサ1では、複数のピクセル12がマトリクス状に配置されており、サーミスタ素子11のそれぞれは、互いに隣接するピクセル12の間に配置されている。これにより、サーミスタ素子11の温度検知結果に基づき、指紋センサ1に対する指の大凡の接触範囲を特定することが可能になる。
【0029】
例えば、
図3の(b)は、指紋センサ1の領域Aに指がタッチされたときの様子を概念的に示す図である。同図に示すように、領域A内に存在するサーミスタ素子11は、大きな温度の変化量を検出する。同図では、4つのサーミスタ素子11が大きな温度の変化量を検出した様子が示されている。
【0030】
次に、
図3の(c)は、指紋センサ1においてピクセル12をアクティブにすべきエリアが設定されたときの様子を示す図である。同図には、4つのサーミスタ素子11の周囲に存在する12個のピクセル12がアクティブ状態となり、これらのピクセル12を含む領域が、アクティブエリアとして設定されたことが概念的に示されている。
【0031】
具体的には、制御装置2のアクティブエリア設定部23は、複数のピクセル12のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数のサーミスタ素子11のそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、指紋センサ1においてピクセル12をアクティブにすべきエリアを設定する。このため、一部のピクセル12を非アクティブ状態とすることで、すべてのピクセル12をアクティブ状態とする場合と比較して消費電力を削減することができる。
【0032】
次に、
図4は、指紋センサ1の構造を示す断面図である。同図に示すように、指紋センサ1は、指紋センサ1の表面に配される保護層15と、指紋認証回路14が搭載された基板13とをさらに備える。また、指紋センサ1は、複数のピクセル12のうち、隣接する2つのピクセル12の間には、保護層15を指紋認証回路14に対して支持するGND壁(隔壁)16が少なくとも2枚形成されており、複数のサーミスタ素子11のそれぞれは、前記少なくとも2枚のGND壁16の間に配置されている。これにより、サーミスタ素子11の温度検知結果に基づき、指紋センサ1に対する指の大凡の接触範囲を特定することが可能になる。
【0033】
次に、
図5は、本発明の実施形態1に係る電子機器10の動作の流れを示すフローチャートである。同図に示すように、ステップS(以下、「ステップ」は省略する)101では、サーミスタ素子11が温度を検出(2回)して、S102に進む。
【0034】
S102では、温度比較部21は、サーミスタ素子11で検出された温度の変化量を計算(特定)して、S103に進む。S103では、アクティブエリア設定部23が、温度の変化量が所定の閾値を超えたサーミスタ素子11があるかどうかを判定する。その結果、温度の変化量が所定の閾値を超えたサーミスタ素子11があった場合(YES)、S104に進む。一方、温度の変化量が所定の閾値を超えたサーミスタ素子11がなかった場合、S102に戻る。
【0035】
S104では、アクティブエリア設定部23が、温度の変化量が所定の閾値を超えたサーミスタ素子11周辺のピクセル12をアクティブ状態として、S105に進む。S105では、認証管理部22が指紋取得を開始してS106に進む。
【0036】
S106では、認証管理部22が、取得した指紋イメージ像と指紋情報格納部32に格納した所有者の指紋情報との比較を行い、指紋の特徴が一致するか否かを判定する。その結果、指紋の特徴が一致した場合(YES)、S107に進み、認証管理部22は、電子機器10の正当使用者であると判断し、認証を完了する。
【0037】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0038】
図7は、本発明の実施形態2に係る電子機器10の動作の流れを示すフローチャートである。電子機器10の制御装置2は、サーミスタ素子11によって測定される温度が所定の温度を超えた場合に指紋センサ1の温度異常を検知する異常検知処理と、指紋センサ1の温度異常が検知された場合に、前記温度異常を警告するための警告情報8をディスプレイ4に表示させる表示処理と、を実行しても良い。これにより、指紋センサ1に温度異常が生じた場合に、使用者に指紋センサ1(または電子機器10)の温度異常を認識させることができる。
【0039】
図7に示すように、S201では、サーミスタ素子11が温度を検出し、S202に進む。S202では、温度比較部21が、サーミスタ素子11が一定の温度以上の温度を検出したかどうかを判断する。その結果、サーミスタ素子11が一定の温度以上の温度を検出した場合(YES)、S203に進む。一方、サーミスタ素子11が一定の温度以上の温度を検出しなかった場合(NO)、S202に戻る。
【0040】
S203では、制御装置2が、温度比較部21の判断結果に基づき、指紋センサ1の内部の温度異常を検知し、S204に進む。S204では、制御装置2が、ディスプレイ4に警告情報を表示させ、処理終了となる。
【0041】
図8は、電子機器10のディスプレイ4に警告情報8を表示した例を示している。この例では、警告情報8として、「※注意※端末温度が異常上昇、端末に触れないでください」との文字列がディスプレイ4に表示されている。なお、本実施形態では、ディスプレイ4に警告情報8を表示して、ユーザに警告する例を示したが、ユーザに対する警告方法は、これに限定されない。例えば、電子機器10が、音声出力装置を備え、音声出力装置から警告音を発生させても良い。
【0042】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る電子機器(10)は、指紋の凹凸を電荷の変化として検知するための電極(ピクセル12)を複数有しているとともに、温度センサ(サーミスタ素子11)を複数有している指紋センサ(1)と、少なくとも1つの制御装置(2)とを備えた電子機器であって、複数の前記温度センサのそれぞれは、互いに隣接する電極の間に配置されているとともに、前記制御装置は、複数の前記電極のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数の前記温度センサのそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、前記指紋センサにおいて前記電極をアクティブにすべきエリアを設定するアクティブエリア設定処理を実行する構成である。
【0043】
前記構成によれば、複数の温度センサのそれぞれは、互いに隣接する電極の間に配置されている。これにより、温度センサの温度検知結果に基づき、指紋センサに対する指の大凡の接触範囲を特定することが可能になる。
【0044】
前記構成によれば、複数の前記電極のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数の前記温度センサのそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、前記指紋センサにおいて前記電極をアクティブにすべきエリアを設定する。このため、一部の電極を非アクティブ状態とすることで、すべての電極をアクティブ状態とする場合と比較して消費電力を削減することができる。
【0045】
本発明の態様2に係る電子機器は、前記態様1において、前記指紋センサ(1)は、当該指紋センサの表面に配される保護層(15)と、指紋認証回路(14)が搭載された基板(13)とをさらに備え、複数の前記電極(ピクセル12)のうち、隣接する2つの電極の間には、前記保護層を前記指紋認証回路に対して支持する隔壁(GND壁16)が少なくとも2枚形成されており、複数の前記温度センサのそれぞれは、前記少なくとも2枚の隔壁の間に配置されていても良い。前記構成によれば、温度センサの温度検知結果に基づき、指紋センサに対する指の大凡の接触範囲を特定することが可能になる。
【0046】
本発明の態様3に係る電子機器は、前記態様1において、前記制御装置(2)は、複数の前記温度センサ(サーミスタ素子11)のそれぞれによって測定される温度の変化が、所定の変化量を超えたか否かを判定する温度変化判定処理を実行するとともに、前記温度変化判定処理において前記所定の変化量を超えて温度が変化したと判定される前記温度センサの周囲に存在する電極を前記アクティブな状態とし、それ以外の電極を前記非アクティブな状態とすることで、前記アクティブエリア設定処理を実行しても良い。
【0047】
前記構成によれば、現状の温度からの変化量に基づいて電極をアクティブな状態とするため、一定時間、温度を測定し、温度と条件値(閾値温度の範囲を示す上限値または下限値)と比較して認証する場合と比較して、認証までの時間を短縮することができる。
【0048】
また、前記構成によれば、認証時に一部の電極を非アクティブ状態とすることで、認証時にすべての電極をアクティブ状態とする場合と比較して消費電力を削減することができる。
【0049】
本発明の態様4に係る電子機器は、前記態様3において、前記電子機器(10)は、少なくとも1つの表示装置(ディスプレイ4)を備えており、前記制御装置(2)は、前記温度センサ(サーミスタ素子11)によって測定される温度が所定の温度を超えた場合に前記指紋センサ(1)の温度異常を検知する異常検知処理と、前記指紋センサの温度異常が検知された場合に、前記温度異常を警告するための警告情報(8)を前記表示装置(ディスプレイ4)に表示させる表示処理と、を実行しても良い。前記構成によれば、指紋センサに温度異常が生じた場合に、使用者に指紋センサの温度異常を認識させることができる。
【0050】
本発明の態様5に係る電子機器の制御装置(2)は、指紋の凹凸を電荷の変化として検知するための電極(ピクセル12)を複数有しているとともに、温度センサ(サーミスタ素子11)を複数有している指紋センサ(1)を備えた電子機器(10)の制御装置(2)であって、複数の前記温度センサのそれぞれは、互いに隣接する電極の間に配置されているとともに、複数の前記電極のそれぞれにおける電荷の検知をアクティブな状態とするか、または非アクティブな状態とするかを、複数の前記温度センサのそれぞれに係る温度検知結果に基づき判断することにより、前記指紋センサにおいて前記電極をアクティブにすべきエリアを設定するアクティブエリア設定部(23)を備えた構成である。前記構成によれば、請求項1と同様の効果が得られる。
【0051】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。