特開2020-196086(P2020-196086A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 関西大学の特許一覧

特開2020-196086吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム
<>
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000003
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000004
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000005
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000006
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000007
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000008
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000009
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000010
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000011
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000012
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000013
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000014
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000015
  • 特開2020196086-吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196086(P2020-196086A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20201113BHJP
【FI】
   B25J15/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-103550(P2019-103550)
(22)【出願日】2019年6月3日
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 誠司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昌人
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707BT06
3C707FS01
3C707FT02
3C707FT03
3C707FT11
3C707FU01
3C707KS31
3C707KS33
3C707KV06
3C707KX08
3C707LV06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象物を適切に把持する吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステムを提供する。
【解決手段】本発明の吸着パッド10は、対象物を吸着する吸着パッドであって、弾性変形可能な変形部11aを有するパッド本体11と、前記パッド本体の前記変形部の側面に設けられ、前記変形部の変形に伴って変形する導電性膜12と、を備える。導電性膜は吸着パッドの変形部が対象物に接触することにより変形部の変形に追従して変形するため、導電性膜の抵抗値の変化を検出することにより、吸着パッドに負荷される力を検出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を吸着する吸着パッドであって、
弾性変形可能な変形部を有するパッド本体と、
前記パッド本体の前記変形部の側面に設けられ、前記変形部の変形に伴って変形する導電性膜と、
を備える、吸着パッド。
【請求項2】
前記変形部は、ベローズ状に形成されている、請求項1に記載の吸着パッド。
【請求項3】
前記導電性膜は、導電性樹脂で形成される、請求項1又は2に記載の吸着パッド。
【請求項4】
前記導電性膜は、金、アルミニウム、銅、白金、及びこれらを主成分とする合金のいずれかで形成される、請求項1又は2に記載の吸着パッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の吸着パッドを複数備える、ロボットハンド。
【請求項6】
請求項5に記載のロボットハンドと、
複数の吸着パッドの前記導電性膜の抵抗値を検出する検出器と、
前記検出器で検出された前記抵抗値に基づいて前記ロボットハンドを制御する制御部と、
を備える、ロボットシステム。
【請求項7】
前記制御部は、前記複数の吸着パッドのそれぞれの抵抗変化が予め設定された閾値を超えるように、前記ロボットハンドを制御する、請求項6に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着パッド、ロボットハンドおよびロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、真空式のベローズ型吸着パッドを備えたロボットハンドが開示されている。特許文献1に記載のロボットハンドは、ハンド本体と、ハンド本体に設けられ、弾性力によって軸心方向へ伸縮可能であって、真空圧を利用して被搬送物を吸着する複数のベローズ型吸着パッドと、吸着状態における各ベローズ型吸着パッドの軸長を測定する軸長センサと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−156610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ロボットハンドにおいて、対象物を適切に把持することが求められている。
【0005】
本発明は、対象物を適切に把持することができる吸着パッド、ロボットハンド及びロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の吸着パッドは、対象物を吸着する吸着パッドであって、弾性変形可能な変形部を有するパッド本体と、前記パッド本体の前記変形部の側面に設けられ、前記変形部の変形に伴って変形する導電性膜と、を備える。
【0007】
本発明の一態様のロボットハンドは、前記態様の吸着パッドを複数備える。
【0008】
本発明の一態様のロボットシステムは、前記態様のロボットハンドと、複数の吸着パッドの抵抗値を検出する検出器と、前記検出器で検出された前記抵抗値に基づいて前記ロボットハンドを制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象物を適切に把持することができる吸着パッド、ロボットハンド及びロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る実施の形態のロボットハンドの一例の斜視図である。
図2】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの一例の斜視図である。
図3】検出器の一例の回路図である。
図4】吸着パッドに負荷される力と吸着パッドの抵抗変化との関係の一例を示す図である。
図5A】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの製造工程の一例を示す図である。
図5B】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの製造工程の一例を示す図である。
図5C】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの製造工程の一例を示す図である。
図5D】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの製造工程の一例を示す図である。
図5E】本発明に係る実施の形態の吸着パッドの製造工程の一例を示す図である。
図6】ディップコーティングに使用するPEDOT溶液の成分の一例を示す表である。
図7】ディップコーティングにおける引き上げ速度とPEDOT薄膜の膜厚との関係の一例を示す図である。
図8】本発明に係る実施の形態のロボットシステムの概略構成を示す図である。
図9】本発明に係る実施の形態のロボットシステムの制御の一例を示す図である。
図10】実施例1におけるロボットシステムの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明に至った経緯)
近年、物流・搬送用ロボット等で対象物を把持するためのロボットハンドとして、吸着パッドをアレイ化したロボットハンドが知られている。このようなロボットハンドによれば、ロボットの手首部分に取り付けられた力覚センサ(6軸センサ)で指先部分(吸着パッド一つ一つの位置)を制御することにより、対象物を把持している。
【0012】
このようなロボットハンドにおいては、形状及び姿勢が未知の対象物を把持する場合、手首部分の力覚センサによってロボットハンドの指先部分を正確に制御することが困難であり、対象物に対して適切に吸着パッドを位置制御することができない。そこで、カメラやレーザなどの視覚センサを併用して、対象物の3次元ビジョンを取得することで位置及び姿勢の情報を取得し、対象物を把持することが提案されている。
【0013】
しかしながら、上記のようなロボットハンドでは、ロボットハンドが対象物に近づくにつれて視覚センサの視界を遮ってしまうという問題がある。また、視覚センサでは、対象物の深さ方向の情報を正確に取得することができないため、指先部分を対象物の把持に適した位置及び傾きに制御することが困難である。
【0014】
そこで、本発明においては、形状及び姿勢が未知の対象物を適切に把持することのできる吸着パッド、ロボットハンド及びロボットシステムを提供する。
【0015】
本発明の一態様の吸着パッドは、対象物を吸着する吸着パッドであって、弾性変形可能な変形部を有するパッド本体と、前記パッド本体の前記変形部の側面に設けられ、前記変形部の変形に伴って変形する導電性膜と、を備える。このような構成により、対象物を適切に把持することができる。
【0016】
前記吸着パッドにおいて、前記変形部は、ベローズ状に形成されていてもよい。このような構成により、対象物をより適切に把持することができる。
【0017】
前記吸着パッドにおいて、前記導電性膜は、PEDOTで形成されていてもよい。このような構成により、対象物をより適切に把持することができる。
【0018】
前記吸着パッドにおいて、前記導電性膜は、金、アルミニウム、銅、白金、及びこれらを主成分とする合金のいずれかで形成されていてもよい。このような構成により、対象物をより適切に把持することができる。
【0019】
本発明の一態様のロボットハンドは、前記態様の吸着パッドを複数備える。このような構成により、対象物を適切に把持することができる。
【0020】
本発明の一態様のロボットシステムは、前記態様のロボットハンドと、複数の吸着パッドの抵抗値を検出する検出器と、検出器で検出された前記抵抗値に基づいて前記ロボットハンドを制御する制御部と、を備える。このような構成により、対象物を適切に把持することができる。
【0021】
前記ロボットシステムにおいて、前記制御部は、前記複数の吸着パッドのそれぞれの抵抗変化が予め設定された閾値を超えるように、前記ロボットハンドを制御してもよい。このような構成により、対象物をより適切に把持することができる。
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0023】
(実施の形態)
[ロボットハンド]
図1は、本発明に係る実施の形態のロボットハンド1の一例の斜視図を示す。なお、図中のX、Y、Z方向は、それぞれロボットハンド1の幅方向、奥行き方向、高さ方向を示す。図1に示すように、ロボットハンド1は、複数の吸着パッド10と、複数の吸着パッド10を保持するロボットハンド本体20と、を備える。
【0024】
<複数の吸着パッド>
複数の吸着パッド10のそれぞれは、吸着面を真空にして対象物を吸着する真空式の吸着パッドである。複数の吸着パッド10は、ロボットハンド本体20の先端(指先部分)に取り付けられている。ロボットハンド本体20の指先部分において、複数の吸着パッド10は、例えば、等間隔に配置されている。本実施の形態では、複数の吸着パッド10は、XY方向に等間隔で配置されている。
【0025】
<ロボットハンド本体>
ロボットハンド本体20は、伸縮可能な複数の伸縮部21と、複数の伸縮部21を回転可能に保持する複数の関節部22と、複数の伸縮部21及び複数の関節部22を駆動する複数のアクチュエータ(図示なし)と、を備える。ロボットハンド本体20は、複数のアクチュエータを制御することによって、複数の伸縮部21及び関節部22を駆動し、ロボットハンド本体20の指先部分の位置及び姿勢を調整する。なお、ロボットハンド本体20の構成要素はこれらに限定されるものではなく、追加の構成要素を含んでもよいし、これらの構成要素のうちいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0026】
[吸着パッド]
次に、吸着パッド10について詳細に説明する。図2は、本発明に係る実施の形態の吸着パッド10の一例の斜視図である。図2に示すように、吸着パッド10は、パッド本体11と、導電性膜12と、を備える。本実施の形態では、後述する検出器と導線によって接続させる接続端子13が、導電性膜12に設けられている。
【0027】
<パッド本体>
パッド本体11は、真空圧を利用して対象物を吸着可能な形状を有する。例えば、パッド本体11は、開口が設けられた有底の筒状体で形成されている。パッド本体11は、例えば、シリコーンゴムで形成されている。
【0028】
パッド本体11は、弾性変形可能な変形部11aを有する。変形部11aは、パッド本体11において、開口を有する先端部分に設けられている。本実施形態では、変形部11aは、ベローズ状に形成されている。具体的には、変形部11aは、筒状体の側部において凹凸が形成されている部分である。言い換えると、変形部11aは、筒状体の側部において波状に形成された部分である。変形部11aは、対象物に接触することによって弾性変形する。また、変形部11aに負荷される力が大きいほど、変形部11aの変形量が大きくなる。
【0029】
<導電性膜>
導電性膜12は、パッド本体11の変形部11aの側面に設けられ、変形部11aの変形に伴って変形する。導電性膜12は、導電性材料で形成されている。例えば、導電性膜12は、導電性樹脂、又は金属材料で形成されている。導電性樹脂としては、例えば、PEDOT(3,4-ethylenedioxythiophene)が挙げられる。金属材料としては、例えば、金、アルミニウム、銅、白金、及びこれらを主成分とする合金が挙げられる。あるいは、導電性膜12は、金属インク、カーボンナノチューブインクなどで形成されていてもよい。本実施の形態では、導電性膜12は、PEDOTで形成されている。また、導電性膜12は、パッド本体11の側面と、パッド本体11の開口端とに設けられている。
【0030】
吸着パッド10が対象物に接触すると、変形部11aが弾性変形する。このとき、変形部11aの側面に設けられた導電性膜12が、変形部11aの変形に伴って変形する。即ち、導電性膜12は、変形部11aの変形に追従する。導電性膜12が変形すると、導電性膜12の抵抗値が変化する。このため、導電性膜12の抵抗値の変化を検出することによって、吸着パッド10にかかる力を検出することができる。本実施の形態では、検出器によって導電性膜12の抵抗値を検出している。
【0031】
図3は、検出器23の一例の回路図である。図3に示すように、検出器23は、ブリッジ回路によって形成されている。検出器23は、導線によって吸着パッド10の導電性膜12に設けられた接続端子13に接続されている。なお、検出器23は、ブリッジ回路に限定されるものではなく、導電性膜12の抵抗値の変化を検出可能なものであればよい。
【0032】
図4は、吸着パッド10に負荷される力Fと吸着パッド10の抵抗変化との関係の一例を示す。図4において、横軸は吸着パッド10に負荷される力Fであり、縦軸は抵抗変化ΔR/Rである。Rは吸着パッド10に力が負荷されていない状態、即ち通常姿勢の導電性膜12の抵抗値であり、ΔRは吸着パッド10に力が負荷されている状態の導電性膜12の抵抗値と通常姿勢の導電性膜12の抵抗値との差分である。すなわち、抵抗変化ΔR/Rは、導電性膜12の抵抗値がどれだけ変化したかの度合いを示している。
【0033】
図4に示すように、吸着パッド10に負荷される力Fが大きくなるほど、吸着パッド10の抵抗変化ΔR/Rが大きくなる。即ち、吸着パッド10に負荷される力Fと吸着パッド10の抵抗変化ΔR/Rは比例関係にある。したがって、吸着パッド10の抵抗変化を検出することによって、吸着パッド10に負荷されている力を検出することが可能である。
【0034】
次に、吸着パッド10の製造方法について説明する。図5A〜5Eは、本発明に係る実施の形態の吸着パッド10の製造工程の一例を示す。
【0035】
図5Aに示すように、変形部11aを有するパッド本体11を準備する。パッド本体11としては、例えば、Schmaltz社のFSG−9−SI−M5を用いる。
【0036】
図5Bに示すように、導電性膜12を形成する領域14aを除いて、マスキングテープ14でパッド本体11をマスキングする。このように、マスキングテープ14を、導電性膜12を形成する領域14a以外の領域を覆う。マスキングテープ14としては、例えば、ポリイミドフィルムを用いる。本実施の形態では、導電性膜12を形成する領域14aはパッド本体11の側面の部分と開口端を含む。
【0037】
図5Cに示すように、領域14aの表面を親水化するためにOプラズマ処理をする。これにより、領域14aの表面にOプラズマ処理された層15を形成する。
【0038】
図5Dに示すように、パッド本体11の表面にPEDOT薄膜を形成する。PEDOT薄膜は、例えば、ディップコーディング法により形成される。具体的には、パッド本体11をPEDOT溶液に浸漬し、一定速度で引き上げることでパッド本体11の表面にPEDOT薄膜16を形成する。具体的には、PEDOT薄膜16は、マスキングテープ14の表面及びOプラズマ処理された層15の表面に形成される。
【0039】
図5Eに示すように、マスキングテープ14をパッド本体11から取り外すことによって、導電性膜12を形成する。そして、導電性膜12に検出器23と接続される接続端子13を設ける。これにより、図2に示す吸着パッド10が完成する。
【0040】
図6は、ディップコーティングに使用するPEDOT溶液の成分の一例を示す表である。図6の表に示すように、導電性向上のためにエチレングリコールを、膜の密着力向上のためにドデシルベンゼンスルホン酸を配合した。
【0041】
なお、PEDOT水分散液の主成分は水であるため、疎水面へコーティングすることが難しい。本実施形態で使用する吸着パッド10の材質はシリコーンゴムであるため、その表面を親水化することを目的に図5Cに示すOプラズマ処理による表面処理を行っている。これにより、PEDOTの接触角が76.4°から23.5°になり、濡れ性を向上させることができ、PEDOTをディップコーティングし易くなっている。
【0042】
ディップコーティング法では、パッド本体11の引き上げ速度が成膜されるPEDOT薄膜の膜厚に影響する。そこで、引き上げ速度を0.01〜1.0mm/sまで変更してディップコーティングを行い、引き上げ速度と成膜されるPEDOT薄膜の膜厚との関係を調べた。膜厚の測定には針触式段差計を用いた。図7は、ディップコーティングにおける引き上げ速度とPEDOT薄膜の膜厚との関係の一例を示す。図7に示すように、引き上げ速度を早くするほど膜厚が増加する関係が確認された。また、PEDOT薄膜の導電率σを測定した結果,σ=62.5S/mであった。本実施の形態では、引き上げ速度0.25mm/s(PEDOTの膜厚:0.25μm)でディップコーティングを実施している。
【0043】
[ロボットシステム]
次に、ロボットシステム30について説明する。図8は、本発明に係る実施の形態のロボットシステムの概略構成を示す図である。図8に示すように、ロボットシステム50は、ロボットハンド1と、検出器23と、制御部24と、を備える。
【0044】
<ロボットハンド>
ロボットハンド1は、複数の吸着パッド10を有する。ロボットハンド1は、制御部24によって制御される。
【0045】
<検出器>
検出器23は、複数の吸着パッド10の導電性膜12の抵抗値を検出する。検出器23は、図3に示すように、ブリッジ回路によって形成されている。検出器23は、複数の吸着パッド10の導電性膜12の抵抗値を検出することによって、導電性膜12の抵抗変化を取得することができる。検出器23は、検出した導電性膜12の抵抗値の情報を制御部24に送信する。
【0046】
<制御部>
制御部24は、検出器23で検出された抵抗値に基づいてロボットハンド1を制御する。具体的には、制御部24は、複数の吸着パッド10のそれぞれの抵抗変化が予め設定された閾値を超えるように、ロボットハンド1を制御する。
【0047】
制御部24は、例えば、プログラムを記憶したメモリと、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサに対応する処理回路(図示せず)を備える。例えば、制御部24においては、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行する。
【0048】
図9は、本発明に係る実施の形態のロボットシステム30の制御の一例を示す図である。図9では、抵抗変化ΔR/Rに基づくロボットシステム30の動作の一例を示している。なお、図9では、説明を容易にするため、2つの吸着パッド10A,10Bを有するロボットハンド1の制御について説明する。また、図9では、θ1傾けて配置した直方体の対象物40をロボットハンド1によって把持する制御について説明する。
【0049】
図9に示すように、制御部24は、第1吸着パッド10Aと第2吸着パッド10Bとのうち少なくともいずれか一方で対象物40を吸着するまでロボットハンド1の先端を下降させる(図9のP1状態)。対象物40を吸着しているか否かは、検出器23で検出される抵抗変化に基づいて判定する。具体的には、吸着パッド10は、対象物40に接触し、力が負荷されると、変形部11aが変形する。このとき、変形部11aの変形に伴って導電性膜12が変形し、導電性膜12の抵抗値が変化する。対象物40を吸着している状態では、変形部11aの変形が大きく、導電性膜12の抵抗変化も大きくなる。したがって、制御部24は、検出器23で検出される抵抗変化に基づいて、吸着パッド10が対象物40を吸着しているか否かを判定することができる。
【0050】
制御部24は、第1吸着パッド10Aと第2吸着パッド10Bとのうち少なくともいずれか一方で、抵抗変化が検出されるまでロボットハンド1の先端を下降させる。
【0051】
図9に示す例では、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bに対して対象物40が傾いて配置されている。このため、ロボットハンド1の先端を下降させると、第1吸着パッド10Aは対象物40に接触して吸着するが、第2吸着パッド10Bは対象物40に接触していない状態となる(図9のP2状態)。この状態においては、第1吸着パッド10Aにおいて抵抗変化が検出されるが、第2吸着パッド10Bにおいて抵抗変化が検出されない。このため、制御部24は、抵抗変化に基づいて、第1吸着パッド10Aが吸着姿勢になっていると判定し、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触していないと判定することができる。吸着姿勢とは、吸着パッド10が対象物40に接触して変形し、対象物40を吸着している吸着パッド10の姿勢である。
【0052】
例えば、制御部24は、第1吸着パッド10Aの抵抗変化が検出されてから所定の時間が経過した後、第2吸着パッド10Bの抵抗変化が検出されない場合に、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触していないと判定する。あるいは、制御部24は、第1吸着パッド10Aの抵抗変化が所定の閾値を超えたときに、第2吸着パッド10Bの抵抗変化が検出されない場合に、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触していないと判定する。
【0053】
制御部24は、第2吸着パッド10Bの抵抗変化が接触していないと判定した場合、ロボットハンド1の先端を回転させ、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触する方向に移動させる。これにより、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触し、吸着する。制御部24は、第2吸着パッド10Bが吸着姿勢となるまでロボットハンド1の先端を回転させる。
【0054】
制御部24は、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化が、それぞれ、閾値T1とT2を超えるように、ロボットハンド1を制御する。そして、制御部24は、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化が、それぞれ、閾値T1とT2を超えると、ロボットハンド1を上昇させる(図9のP3状態)。
【0055】
これにより、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bが対象物40を確実に吸着し、対象物40を適切に把持して搬送することができる(図9のP4状態)。
【0056】
[効果]
本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
【0057】
吸着パッド10は、弾性変形可能な変形部11aを有するパッド本体11と、パッド本体11の変形部11aの側面に設けられ、変形部11aの変形に伴って変形する導電性膜12と、を備える。このような構成により、パッド本体11の変形部11aの変形に伴って導電性膜12が変形するため、導電性膜12の抵抗値が変化する。したがって、導電性膜12の抵抗変化に基づいて、吸着パッド10に負荷される力を算出することができる。このように、吸着パッド10によれば、力覚センサの機能を有する。このため、吸着パッド10が対象物40を吸着しているか否かをより確実に判定することができるため、形状及び姿勢が未知の対象物40を適切に把持することができる。
【0058】
パッド本体11の変形部11aは、ベローズ状に形成されている。このような構成により、変形部11aの変形に対する導電性膜12の抵抗変化をより容易に検出することができる。このため、対象物40をより適切に把持することができる。
【0059】
導電性膜12は、導電性樹脂で形成される。このような構成により、変形部11aの変形に追従しやくなり、変形部11aの変形に対する導電性膜12の抵抗変化をより容易に検出することができる。このため、対象物40をより適切に把持することができる。
【0060】
ロボットハンド1は、複数の吸着パッド10を備える。このような構成により、複数の吸着パッド10を力覚センサとして使用し、対象物40を適切に把持することができる。
【0061】
ロボットシステム30は、ロボットハンド1と、複数の吸着パッド10の導電性膜12の抵抗値を検出する検出器23と、検出器23で検出された抵抗値に基づいてロボットハンド1を制御する制御部24と、を備える。このような構成により、複数の吸着パッド10の抵抗変化をセンシングし、抵抗変化の情報から対象物40の吸着状態を把握することができる。これにより、ロボットハンド1の駆動制御にフィードバックを行い、複数の吸着パッド10を対象物40に対してより確実に吸着させることができる。これにより、対象物40を適切に把持することができる。
【0062】
なお、本実施の形態では、複数の吸着パッド10を有するロボットハンド1の例として、2つの吸着パッド10A,10Bを有するロボットハンド1を説明したが、これに限定されない。ロボットハンド1は、2つ以上の吸着パッド10を有していればよい。
【0063】
本実施の形態では、導電性膜12は、パッド本体11の側面及び開口端に設けられる例について説明したが、これに限定されない。導電性膜12は、変形部11aの変形に伴って変形し、抵抗値が変化する位置に設けられていればよい。具体的には、導電性膜12は、少なくとも変形部11aの側面に設けられていればよい。
【0064】
本実施の形態では、導電性膜12は、PEDOTで形成される例について説明したが、これに限定されない。導電性膜12は、金属材料、例えば、金、アルミニウム、銅、白金、及びこれらを主成分とする合金のいずれかで形成されていてもよい。このような構成においても、抵抗値の変化に基づいて、吸着パッド10に負荷される力を算出し、吸着パッド10が対象物40を吸着しているか否かを判定することができる。
【0065】
本実施の形態では、制御部24は、検出器23で検出される抵抗変化に基づいてロボットハンド1を制御する例について説明したが、これに限定されない。制御部24は、検出器23で検出された抵抗値に基づいてロボットハンド1を制御してもよい。あるいは、制御部24は、抵抗変化を別の情報(例えば、電圧)に変換し、変換した情報に基づいてロボットハンド1を制御してもよい。
【0066】
以下、実施例について説明する。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
実施例1において、図8に示すロボットシステム30を再現し、図9に示す制御によって実際に対象物40を把持した。図10は、実施例1におけるロボットシステムの動作を示す図である。図10は、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化の実測値と、実施例1のロボットシステム30のA〜F工程の動作を示す。なお、対象物40の重さは105g、対象物40の傾きθ1は15°である。
【0068】
図10に示すように、A工程において、制御部24は、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bを対象物40に近づけるためにロボットハンド1の先端を下降させる。
【0069】
B工程において、第1吸着パッド10Aが対象物40に接触する。第1吸着パッド10Aが対象物40に接触した状態で、ロボットハンド1の先端が更に下降すると、第1吸着パッド10Aの変形部11aが変形する。これにより、第1吸着パッド10Aの導電性膜12が変形し、検出器23によって第1吸着パッド10Aの抵抗変化が検出される。一方、第2吸着パッド10Bは、対象物40に接触していない。このため、第2吸着パッド10Bの抵抗変化は検出されない。
【0070】
C工程において、第1吸着パッド10Aで抵抗変化が検出されてから、所定期間が経過しても第2吸着パッド10Bの抵抗変化が検出されない場合、制御部24は、ロボットハンド1の先端を回転させる。これにより、第2吸着パッド10Bを対象物40に向かって移動させる。
【0071】
D工程において、第2吸着パッド10Bが対象物40に接触する。第2吸着パッド10Bが対象物40に接触した状態で、ロボットハンド1の先端が更に回転すると、第2吸着パッド10Bの変形部11aが変形する。これにより、第2吸着パッド10Bの導電性膜12が変形し、検出器23によって第2吸着パッド10Bの抵抗変化が検出される。
【0072】
E工程において、制御部24は、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化が、それぞれ、閾値T1及びT2を超えるように、ロボットハンド1を制御する。例えば、制御部24は、ロボットハンド1の先端を上下左右方向に動かしたり、回転させることによって、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bに負荷される力を調整する。
【0073】
F工程において、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化が、それぞれ、閾値T1及びT2を超えている状態になると、制御部24は、ロボットハンド1の先端を上昇させる。
【0074】
このように、実施例1において、第1吸着パッド10A及び第2吸着パッド10Bの抵抗変化を検出し、抵抗変化に基づいてロボットハンド1をフィードバック制御することによって、形状及び姿勢が未知の対象物40を適切に把持できることが確認できた。
【0075】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の吸着パッド、ロボットハンド及びロボットシステムは、物流・搬送用ロボット等で対象物を把持するためのシステムなどに有用である。
【符号の説明】
【0077】
1 ロボットハンド
10,10A,10B 吸着パッド
11 パッド本体
11a 変形部
12 導電性膜
13 接続端子
14 マスキングテープ
15 層
16 PEDOT薄膜
20 ロボットハンド本体
21 伸縮部
22 関節部
23 検出器
24 制御部
30 ロボットシステム
40 対象物
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10