(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196423(P2020-196423A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】車両のパワートレイン支持構造
(51)【国際特許分類】
B60K 5/12 20060101AFI20201113BHJP
【FI】
B60K5/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-141908(P2019-141908)
(22)【出願日】2019年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2019-100932(P2019-100932)
(32)【優先日】2019年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】桑原 亙
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】内場 友貴
(72)【発明者】
【氏名】山岡 祐也
(72)【発明者】
【氏名】沖 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】樫本 正章
(72)【発明者】
【氏名】天野 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 慶明
(72)【発明者】
【氏名】上村 和己
【テーマコード(参考)】
3D235
【Fターム(参考)】
3D235AA02
3D235BB06
3D235BB07
3D235CC12
3D235DD02
3D235DD12
3D235EE33
3D235EE43
3D235FF06
3D235HH22
3D235HH23
(57)【要約】
【課題】パワートレインを左右一方側にオフセットして配設した場合に、前方衝突時での乗員保護を行う。
【解決手段】車両前部の収納ルーム2内に、左右一対のフロントサイドフレーム4に支持されるパワートレインユニットPTが左右一方側にオフセットして配設される。ユニットPTのうち左右他方側の端部が、左右方向に延びるマウントブラケット30を介して左右他方側のフレーム4に連結される。ユニットPTとブラケット30とが、前側連結部(32a、32b)と後側連結部(32c、32d)とで連結される。例えば斜め前方からの衝突荷重FがユニットPTに作用したとき、前側連結部32aが破断しない強度でかつ後側連結部32c、32dが破断する強度となるように強度設定が行われていて、平面視においてユニットPTが、ブラケット30の車体側への連結部位α1付近を中心としてヨー運動しつつ後退される、
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に構成された収納ルーム内に、左右一対のフロントサイドフレームに支持されるパワートレインユニットが左右一方側にオフセットして配設され、
前記パワートレインユニットのうち左右他方側の端部が、左右方向に延びるマウントブラケットを介して左右他方側のフロントサイドフレームに連結されており、
前記パワートレインユニットと前記マウントブラケットとが、前側連結部と後側連結部とで連結され、
前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したとき、前記前側連結部が破断しない強度でかつ前記後側連結部が破断する強度となるように強度設定が行われていて、平面視において前記パワートレインユニットが前記マウントブラケットと前記左右他方側のフロントサイドフレームとの連結部位をほぼ中心としてヨー運動しつつ後退される、
ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記前方からの衝突荷重が、車両前方からでかつ左右一方側からとなる斜め前方からの衝突荷重とされている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記収納ルームと車室とがダッシュパネルによって仕切られており、
前記ダッシュパネルの下端部のうち左右方向略中間部に、フロアパネルに形成されたトンネル部の前方開口部が形成されており、
前記前側連結部が、上側に位置する上前側連結部と下側に位置する下前側連結部とを有し、
前記斜め前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したとき、前記上前側連結部が破断しない強度で、前記下前側連結部が破断する強度となるように強度設定されていて、該パワートレインユニットが前記トンネル部の前記前方開口部に向けて後退される、
ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記パワートレインユニットが、モータと該モータの上面に連結されたインバータとを有している、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記マウントブラケットが、左右方向において、前記パワートレインユニットに近づくほど低くなるように傾斜した状態で配設されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記斜め前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したときに破断しない強度を有する前記前側連結部が、前記マウントブラケットに形成された補強用リブでもって補強されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記パワートレインユニットのうち前記左右一方側の端部の前面部に、前方衝突時に前方からの荷重を受け止めるための荷重受け部が形成されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項8】
請求項7において、
前記荷重受け部が、前記パワートレインユニットの前面部から前方へ向けて突出するように形成されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、
前記荷重受け部が、上下方向に間隔をあけて形成された複数の突起部を有している、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、
前記パワートレインユニットの前面部に、前記荷重受け部に連なる補強リブが形成されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のいずれか1項において、
前記パワートレインユニットが、前記左右一方側の端部に位置されて駆動輪を駆動するためのモータを有し、
前記荷重受け部が、前記モータの外郭を構成するケーシングに一体成形されている、
ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項12】
請求項11において、
前記ケーシングは、上方から見た平面視において、前記荷重受け部の前端がもっとも前方に位置されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【請求項13】
請求項
前記パワートレインユニットは、上方から見た平面視において、前記荷重受け部の前端がもっとも前方に位置されている、ことを特徴とする車両のパワートレイン支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワートレイン支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両においては、車室前壁を構成するダッシュパネルの前方空間が、エンジンやモータ等を含むパワートレインを収納する収納ルーム(いわゆるエンジンルーム)とされるのが一般的である。そして、収納ルームには、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームが配設されて、この左右一対のフロントサイドフレームによってパワートレインを支持することも一般的である。
【0003】
パワートレインは剛体であり、よって前方衝突時にはパワートレインが車室内の乗員(運転席乗員、助手席乗員)に向けて後退するのを抑制することが要求される。特許文献1には、パワートレインをフロントサイドフレームに支持するマウントブラケットを、前方衝突の荷重を受けた際に破断されるようにして、前方衝突時にパワートレインを下方へと落とし込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−261529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、収納ルームに収納されるパワートレインを、左右一方側(車幅方向一方側)にオフセットして配設することが考えられている。この場合、パワートレインのほぼまっすぐ後方に運転席あるいは助手席が位置することになる。したがって、前方衝突時、特にパワートレインが位置する左右一方側にオフセットされた側から入力される例えば斜め前方からの衝突時(例えばオブリーク衝突、SOL衝突)に、後退されるパワートレインから乗員をいかに保護するかということが重要となる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、パワートレインを左右一方側にオフセットして配設した場合に、乗員の保護を効果的に行えるようにした車両のパワートレイン支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
車両前部に構成された収納ルーム内に、左右一対のフロントサイドフレームに支持されるパワートレインユニットが左右一方側にオフセットして配設され、
前記パワートレインユニットのうち左右他方側の端部が、左右方向に延びるマウントブラケットを介して左右他方側のフロントサイドフレームに連結されており、
前記パワートレインユニットと前記マウントブラケットとが、前側連結部と後側連結部とで連結され、
前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したとき、前記前側連結部が破断しない強度でかつ前記後側連結部が破断する強度となるように強度設定が行われていて、平面視において前記パワートレインユニットが前記マウントブラケットと前記左右他方側のフロントサイドフレームとの連結部位をほぼ中心としてヨー運動しつつ後退される、
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば、前方衝突時には、パワートレインが、車幅方向中央側に向けてヨー運動しつつ後退されることから、運転席あるいは助手席の乗員の保護を行うことができる。また、後側連結部が破断されることから、パワートレインの少なくとも後部を積極的に下方へ誘導して、より効果的に乗員の保護を行うことができる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記前方からの衝突荷重が、車両前方からでかつ左右一方側からとなる斜め前方からの衝突荷重とされている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、前方衝突がオブリーク衝突であるときの乗員の保護を行うことができる。
【0010】
前記収納ルームと車室とがダッシュパネルによって仕切られており、
前記ダッシュパネルの下端部のうち左右方向略中間部に、フロアパネルに形成されたトンネル部の前方開口部が形成されており、
前記前側連結部が、上側に位置する上前側連結部と下側に位置する下前側連結部とを有し、
前記斜め前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したとき、前記上前側連結部が破断しない強度で、前記下前側連結部が破断する強度となるように強度設定されていて、該パワートレインユニットが前記トンネル部の前記前方開口部に向けて後退される、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、前方衝突時には、運転席と助手席との間に形成されるトンネル部内へ向けてパワートレインを誘導して、乗員の保護を行うことができる。また、前方衝突時にパワートレインをより積極的に下方へ誘導する上でも好ましいものとなる。
【0011】
前記パワートレインユニットが、モータと該モータの上面に連結されたインバータとを有している、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、高い位置にあるインバータを、運転席と助手席との間に形成されるトンネル部内へ向けてパワートレインを誘導して、乗員の保護を行うことができる。
【0012】
前記マウントブラケットが、左右方向において、前記パワートレインユニットに近づくほど低くなるように傾斜した状態で配設されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、前方衝突時において、マウントブラケットが左右方向に突っ張る作用を軽減しつつ、パワートレインを下方へ向かうように誘導する作用を高めて、より効果的に乗員の保護を行うことができる。
【0013】
前記斜め前方からの衝突荷重が前記パワートレインユニットに作用したときに破断しない強度を有する前記前側連結部が、前記マウントブラケットに形成された補強用リブでもって補強されている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、マウントブラケットの補強ブラケットを利用するという簡単な手法によって、前方衝突時に前側連結部が破断しない強度となるように設定することができる。
【0014】
前記パワートレインユニットのうち前記左右一方側の端部の前面部に、前方衝突時に前方からの荷重を受け止めるための荷重受け部が形成されている、ようにしてある(請求項7対応)。この場合、前方からの荷重を、マウントブラケットから遠い位置にある荷重受け部で受け止めるようにして、前方衝突時においてパワートレインユニットがヨー運動しつつ後退されるのをより確実に確保する上で好ましいものとなる。また、荷重受け部でもってパワートレインユニットを補強する上でも好ましいものとなる。
【0015】
前記荷重受け部が、前記パワートレインユニットの前面部から前方へ向けて突出するように形成されている、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、前方衝突時における前方からの荷重を、前方に向けて突出している荷重受け部で確実に受け止める上で好ましいものとなる。
【0016】
前記荷重受け部が、上下方向に間隔をあけて形成された複数の突起部を有している、ようにしてある(請求項9対応)。この場合、前方衝突時における前方からの荷重は、パワートレインユニットよりも前方にある車体部材が後退してパワートレインユニットに衝突することによって入力されることになる。そして、前方にある車体部材がパワートレインユニットに衝突する位置が上下方向にずれても、上下方向に配置された複数の荷重受け部のいずれかでもって前方からの荷重を受け止めることができる。
【0017】
前記パワートレインユニットの前面部に、前記荷重受け部に連なる補強リブが形成されている、ようにしてある(請求項10対応)。この場合、補強リブによって、パワートレインユニットの補強を行いつつ、荷重受け部の補強をも行うことができる。そして、前方衝突時に、補強された荷重受け部が前方からの荷重をしっかりと受け止めて、パワートレインユニットをヨー運動させる力として有効に利用する上で極めて好ましいものとなる。
【0018】
前記パワートレインユニットが、前記左右一方側の端部に位置されて駆動輪を駆動するためのモータを有し、
前記荷重受け部が、前記モータの外郭を構成するケーシングに一体成形されている、
ようにしてある(請求項11対応)。この場合、モータのケーシングを有効に利用して、荷重受け部を構成することができる。
【0019】
前記ケーシングは、上方から見た平面視において、前記荷重受け部の前端がもっとも前方に位置されている、ようにしてある(請求項12対応)。この場合、前方衝突時における前方からの荷重を、モータケーシングの他の部位に先がけて確実に荷重受け部に対して入力させる上で極めて好ましいものとなる。
【0020】
前記パワートレインユニットは、上方から見た平面視において、前記荷重受け部の前端がもっとも前方に位置されている、ようにしてある(請求項13対応)。この場合、
前方衝突時における前方からの荷重を、パワートレインユニットの他の部位に先がけて確実に荷重受け部に対して入力させる上で極めて好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パワートレインを左右一方側にオフセットして配設した場合に、乗員の保護を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態を示すもので、パワートレインの収納ルーム内への配設状態を示す斜視図。
【
図3】パワートレインの収納ルーム内への配設状態を示す平面図。
【
図4】
図3の状態から、斜め前方からの衝突荷重が作用したときの状態を示す平面図。
【
図5】パワートレインのうち、マウントブラケットへの取付面を示す側面図。
【
図6】
図5の状態から、マウントブラケットをパワートレインを位置決めした状態を示す側面図。
【
図10】マウントブラケットを車幅方向内方側から見た側面図。
【
図11】マウントブラケットを車幅方向外方側から見た側面図。
【
図12】マウントブラケットを後方から見た後面図。
【
図13】マウントブラケットを前方から見た前面図。
【
図14】マウントブラケットとパワートレインとの固定作業を行っている状態を示す図。
【
図15】マウントブラケットの上方から、作業員が上前側の連結部を目視した状態を示す要部拡大図。
【
図16】パワートレインがエンジンおよび発電機をも有する場合の搭載例を示すもので、
図3に対応した平面図。
【
図17】本発明の別の実施形態を示すもので、
図3に対応した平面図。
【
図18】
図17に示すパワートレインのうち、モータとトランスアクスルのみを取り出して示す平面図。
【
図19】
図17に示すパワートレインのうち、モータのみを取り出して示す斜め前方からの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施形態について説明するが、実施形態における車両は、エンジンを有しないでモータのみによって車両の駆動が行われる電気自動車用とされている。
【0024】
まず、全体の概要について、
図1〜
図3を参照しつつ説明する。図中、1はダッシュパネルである。このダッシュパネル1の前方がパワートレイン収納用の収納ルーム2とされ、その後方が車室3とされている。収納ルーム2には、左右一対のフロントサイドフレーム4が配設されている。左右一対のフロントサイドフレーム4は、強度部材とされて、その後端部がトルクボックス等を介して、左右一対のサイドシルやフロアフレームに連なっている。
【0025】
車室3の床面を構成するフロアパネル6(
図2、
図3参照)には、左右方向中間部において上方へ膨出されたトンネル部7が形成されている。そして、ダッシュパネル1の下端部のうち左右方向中間部には、トンネル部7の前方開口部7a(
図1参照)が開口されたものとなっている。
【0026】
図中、PTは、パワートレインである。パワートレインPTは、実施形態では、モータ11とトランスアクスル12とインバータ13とを互いに一体化したユニット体とされている。パワートレインPTは、全体的に、左右方向(車幅方向)一方側(実施形態では右方側)にオフセットした状態で、収納ルーム2内に配設されている。そして、トランスアクスルがモータ11よりも左右方向中央側に位置され、インバータ13はモータ11の上面に取付けられている。
【0027】
モータ11で発生された駆動力は、トランスアクスル12を介して、左右一対のドライブシャフト14に伝達される。ドライブシャフト14の先端部には、図示を略す駆動輪としての前輪が取付けられる。インバータ13によって、モータ11への給電電力が調整され、また減速時には発電機として機能されるモータ11からの発電電力を図示を略すバッテリへ給電する(充電)。
【0028】
パワートレインPTの後方において、左右一対のフロントサイドフレーム4同士が、左右方向に延びる強度部材としてのサスペンション支持メンバ5で連結されている。
【0029】
パワートレインPTの車体への支持は次のように行われている。まず、モータ11の右方側端部が、マウント部材21を利用して、右側のフロントサイドフレーム4に取付けられている。また、トランスアクスル12の左方側端部が、左右方向に延びるマウントブラケット30およびマウント部材22を介して、左側のフロントサイドフレーム4に取付けられている。さらに、トランスアクスル12が、支持ブラケット23、マウント部材24を介して、サスペンション支持メンバ5の左右方向略中央部に取付けられている。このように、パワートレインPTは、左右2カ所と中央1カ所との合計3カ所で車体に支持されている。
【0030】
次に、マウントブラケット30の詳細について、
図7〜
図13を参照しつつ説明する。まず、マウントブラケット30は、全体的に、アルミニウム合金等の金属によって形成されているが、材質は特に問わないものである。
【0031】
マウントブラケット30は、頂壁部31と、頂壁部31のうち左右方向中央側の端部からほぼまっすぐ下方へ延びる縦壁部32と、フランジ部33と、補強リブ34とを有する。
【0032】
頂壁部31は、大きな面積を有する板状とされて、上面が略平坦面とされている。走行中の振動による振動発生防止のために、頂壁部31には、複数箇所において振動(共振)低減用の開口部31aが形成されている。頂壁部31の左側端部には、マウント部材22に対する連結用の取付孔31bが形成されている。頂壁部31には、さらに、後述するパワートレインPTへの連結作業を容易にするための覗き孔31cが形成されている。
【0033】
縦壁部32は、パワートレインPTへの取付面(連結面)となるものである。このため、縦壁部32には、特に
図10、
図11に示すように、パワートレインPTに対する連結用となる合計4カ所の取付孔32a〜32dが形成されている。
【0034】
取付孔32aと32bとが前側に位置されていて、取付孔32aが上側に位置する上前連結部を構成し、取付孔32bが下側に位置する下前連結部を構成する。取付孔32cと32dとが後側に位置されていて、取付孔32cが上側に位置する上後連結部を構成し、取付孔32dが下側に位置する下後連結部を構成する。
【0035】
縦壁部32には、さらに、パワートレインPTへの連結時における位置決め用として、位置決め孔32e、32fが形成されている。なお、縦壁部32は、途中で前後2つの脚部となるように形成されて、この脚部の先端部に取付孔32c、32dが形成されている。換言すれば、取付孔32c、32d付近の強度(剛性)が相対的に小さくなるように設定されて、後述する前方衝突時において比較的容易に破断されるように設定されている。
【0036】
フランジ部33は、頂壁部31と縦壁部32の各前側端から下方へ短く延びている。フランジ部33の形成によって、マウントブラケット30の剛性が高められている。補強リブ34は、頂壁部31の裏面や縦壁部32の裏面(内面)に渡って、多数形成されている。そして、マウントブラケット30は、特に上前側連結部としての取付孔32a部位付近の強度(剛性)が高くなるように形成されている。このため、取付孔32a部位付近においては、例えば肉厚を厚くしたり補強リブ34による補強が十分行われるように設定されて、部分的な強度向上が行われている。これにより、取付孔32a付近の強度が、他の取付孔32b〜32d付近の強度よりも十分に高められている。
【0037】
次に、パワートレインPTとマウントブラケット30との連結について説明する。まず、
図5に示すように、パワートレインPTのうちマウントブラケット30への取付面(左右方向中央側となる面)には、ねじ孔からなる取付孔12a〜12dが形成されると共に、2つの位置決めピン12e、12fが取付けられている。
【0038】
トランスアクスル12に取付けられた位置決めピン12eと12fとに対して、マウントブラケット30に形成された位置決め孔32e、32fが嵌合されて、トランスアクスル12とマウントブラケット30との位置決めが行われる。
【0039】
上記位置決めが行われた状態で、マウントブラケット30に形成された各取付孔32a〜32dに挿通された連結具としての連結用ボルト40(
図6参照で、
図6では連結用ボルト40の頭部が示される)が、トランスアクスル12に形成されたねじ孔としての取付孔12a〜12dに螺合される(締結される)。なお、
図6においては、連結用ボルト40を、取付孔32a〜32dの区別なく同一符号を付してある。また、
図2では、取付孔32a〜32dの位置を示すために、締結用ボルト40を除外した状態を示してある。
【0040】
上述したトランスアクスル12とブラケット30との連結を行う際に、作業員は、マウントブラケット30に形成された各取付孔32a〜32dの位置を目視で確認しつつ、連結用ボルトによる連結作業を行うことになる。この場合、特に、上前側連結部となる取付孔32aが、マウントブラケット30の頂壁部31やそれぞれ縦壁部としてのフランジ部33や補強リブ34によって遮蔽されていることから、上方や前後方向からは視認しずらい(できない)ものとなる。取付孔12aの位置確認は、下方から行うことは可能であるが、このような下方からの確認は、作業員がかがんだ状態で顔を斜め上向きにして行う必要があり、作業性が極めて悪いものとなる。これに対して、他の取付孔32b〜32dは、前部と30の上方から、作業員Pが若干首をかしげるだけて目視することが可能である。
【0041】
上方から目視できない取付孔32aに対応させて、マウントブラケット30の頂壁部31には覗き孔31cを形成してある。この覗き孔31cは、取付孔32aを前後方向から遮蔽している縦壁部(フランジ部33、補強リブ34)に対して前後方向においてオーバラップしている。
【0042】
図14に示すように、作業員Pは、マウントブラケット30の上方から、覗き孔31cを通して取付孔32aを目視することが可能である。作業員Pが覗き孔32cを通して取付孔32aを目視した状態が、
図15に示され、この
図15において、目視される取付孔32aをハッチングを付して示してある。覗き孔31cを利用して、取付孔32aに対して連結用ボルト40を挿入して締結する作業を容易に行うができる。連結後に、整備等でパワートレインPTとマウントブラケット30との連結を解除するには、覗き孔31cを通して取付孔32aの位置にある連結用ボルト40を視認しつつ連結解除作業を行うことができる。
【0043】
連結用ボルト40によって連結されたパワートレインPTと前部と30との組立体は、その後、左右一対のフロントサイドフレーム4に対して連結されることになる。なお、連結用ボルト40によるパワートレインPTと前部と30との締結は、上記組立体をフロントサイドフレーム4へ搭載する前の状態では仮締めとし、該組立体をフロントサイドフレーム4に搭載した後に本締めするのが好ましい。
【0044】
ここで、平面視となる
図3において、前方衝突時に大きく関連する連結部位を符号α1、α2で示してある。連結部位α1は、マウントブラケット30と左側のマウント部材22との連結部位を示す。α2は、マウントブラケット30とトランスアクスル12との連結部位のうち、上前側連結部位(取付孔12a、32aに対応)を示す。
【0045】
いま、前方衝突時、特にパワートレインPTがオフセットされた方向からも荷重が入力される右前斜め方向からの衝突時を想定する(例えばオブリーク衝突、SOL衝突)。この右斜め前からの衝突荷重が
図4において符号Fで示される。
【0046】
衝突荷重FがパワートレインPTに入力されると、トランスアクスル12とマウントブラケット30との連結部位のうち、強度が相対的に弱い上下の各後側連結部(取付孔12c、12dと32c、32d対応)と、下前側の連結部位(取付孔12b、32b対応)とは、早期に破断されて、上前側の連結部位(取付孔12a、32a対応)のみでもって、トランスアクスル12とマウントブラケット30とが連結された状態とされる。特に、上側の連結部位が早期に破断されることにより、パワートレインPTは、平面視において、連結部位α1付近を中心としてヨー運動を行いつつ後退される。
【0047】
パワートレインPTの上記ヨー運動は、パワートレインPTが左右方向中央部側へと変位しつつ後退されることになる。つまり、パワートレインPTは、トンネル部7の前方開口部7aに向かう方向へと変位されて、ほぼまっすぐ後退することが防止あるいは抑制される。また、パワートレインPTは、下方へ変位しつつ後退されることになる。
【0048】
マウントブラケット30が左右方向中央部に向かうにつれて低くなるように傾斜されていることから、前方衝突時にパワートレインPTを下方へ向けて変位させる上で好ましいものとなる。
【0049】
前方衝突時に、パワートレインPTは、トンネル部7のうち、ダッシュパネル1に開口された前方開口部7aに向かう方向ともなり、高い位置にあるインバータ13も、パワートレインPTが大きく後退したとしても、前方開口部7a内に入り込むことになる(車室3内へは突出されない)。なお、パワートレインPTのまっすぐ前方から衝突荷重が入力された場合も、パワートレインPTはトンネル部7の前方開口部7a側に向けて変位されるものである。
【0050】
ここで、本実施形態における車両においては、エンジンを有しない電気自動車用と、発電専用のエンジンを別途有するレンジエクステンダ式の電気自動車用とで共通化を図るようにしてある。このために、レンジエクステンダ式の電気自動車用とする場合は、マウントブラケット30を利用しないものとなっている。
【0051】
図16に、レンジエクステンダ式の電気自動車とした場合のパワートレインPT2の搭載例が示される。
図16では、マウントブラケット30に代えて、エンジン50とエンジン50により発電される発電機51とが位置される。パワートレインPT2は、モータ11とトランスアクスル12とエンジン51と発電機52とを直列に連結したものとなっている。
【0052】
図17〜
図19は、本発明の別の実施形態を示すものである。本実施形態では、前方衝突時における前方からの荷重を、パワートレインユニットPTのうち、マウントブラケット22から極力離れた位置に入力されるようにして、パワートレインユニットPTがヨー運動しつつ後退する動きをより確実に得るようにしたものである。
【0053】
図17〜
図19において、モータ11の外郭を構成する強度部材としてのケーシングが、符号51で示される。また、トランスアクスル12の外郭を構成する強度部材としてのケーシングが、符号61で示される。両ケーシング51と61との境界が、
図18にお0いて符号βで示される。
【0054】
ケーシング51は、モータ11の駆動軸が左右方向(車幅方向)に延びることから、その前面部51aは、側面視において、前方へ向けて略円弧状に形成されている。つまり,前面部51aは、上下方向略中間部がもっとも前方に位置されて、上下方向略中間部から上方および下方に向かうにつれて徐々に後方に位置する形状とされている。
【0055】
モータ11のケーシング51には、前方からの荷重を受け止めるための荷重受け部52が形成されている。荷重受け部52は、実施形態では、
図19に示すように、ケーシング51の前面部51aから前方に向けて突出する突起状として形成されている。この荷重受け部52は、上下方向に間隔をあけて2個形成されている。
【0056】
荷重受け部52が形成される位置は、ケーシング51のうち左右一方側の端部、つまりマウントブラケット22から極力遠い位置とされている。これにより、荷重受け部52に対して前方からの荷重が入力された際に、マウントブラケット22を中心としてパワートレインユニットPTに作用する後方へのモーメント(ヨー運動を生じさせるモーメント)が極力大きくなるようにされている。
【0057】
突起状の荷重受け部52は、略柱状とされて、前方からの衝突荷重に対して強固に対抗できるように十分な強度(剛性)を有している。実施形態では、荷重受け部52は、ケーシング512と一体成形されている。例えば、ケーシング51をアルミニウム合金で鋳造する場合に、この鋳造時に荷重受け部52も形成される。
【0058】
ケーシング51の前面部には、複数の突起状の荷重受け部52同士を連結する上下方向に延びる補強リブ53が形成されている。また、ケーシング51の前面部には、さらに、横補強リブ54と縦補強リブ55とが形成されている。各補強リブ53〜55は、ケーシング51と一体成形されている。
【0059】
横補強リブ54は、横方向(左右方向)に長く延びて、上下方向に間隔をあけて複数本(実施形態では3本)形成されている。この横補強リブ54のうち、上下の2本の補強リブ54は、荷重受け部52に連なっている。
【0060】
縦補強リブ55は、上下方向に延びて、横方向に間隔をあけて複数本形成されている。各縦補強リブ55は、複数本の横補強リブ同士を連結するように形成されている。
【0061】
補強リブ53〜55によって、ケーシング51の前面部が十分に補強されて、前方衝突時における前方からの荷重によっては、ケーシング51が破断しないようにされている。また、特に、荷重受け部52に連なる補強リブ53や横補強リブ54によって、荷重受け部52も補強されて、前方衝突時における前方からの荷重を受けても、荷重受け部52がつぶれ変形等しないで、前方からの荷重をしっかりと受け止められることになる。
【0062】
ケーシング51の前面部には、その上部において、別部材からなる一対の接続パイプ55、56が接続されている。この接続パイプ56,57は、ケーシング51内を流れる冷却水の給排用とされている。
【0063】
図17,
図18に示すように、上方から見た平面視において、荷重受け部52の前端位置が、ケーシング51の他の部位や、ケーシング61よりも前方に位置されている。
【0064】
以上のような構成において、前方衝突時において、パワートレインユニットPTの前方に位置されていた前側の車体部材(例えばバンパレインフォースメント等)が後退した際に、この前側の車体部材が早期に(当初に)荷重受け部52に衝突して、パワートレインユニットPTが、マウントブラケット22付近を中心としてヨー運動しつつ後退する動きがより確実に行われることになる。なお、突起状の荷重受け部52の数は、3以上であってもよい。
【0065】
図20は、荷重受け部52部分の変形例を示すものであり、
図19に対応している。本実施形態では、荷重受け部72(52に対応)が、上下方向に長く連続するように形成されている。この荷重受け部72の前端は、
図19に示す2つの荷重受け部52の前端同士なめらかに連結した形状とされている。荷重受け部72は、ケーシング51と一体成形されている。なお、荷重受け部72は、ケーシング51とは別体に形成されて、ケーシング51の前面部51aに対して後付けすることもできる。また、荷重受け部72は、中実構造あるいは中空構造のいずれであってもよい。
【0066】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。具体的には、パワートレインPTの左右のオフセット方向は、実施形態の場合とは左右逆の関係としてもよい。
パワートレインPTとマウントブラケットと30との位置決めは、マウントブラケット30側に位置決めピンを形成する一方、パワートレインPT側に位置決め孔を形成することにより行うこともできる。パワートレインPTとマウントブラケット30とを連結するための連結用ボルト40の本数は、複数本であればその数は特に問わないものである。
【0067】
覗き孔31cは、取付孔32a用に限らず、取付孔32a〜32cのうちブラケット30の上方から目視しずらい取付孔に対応させて覗き孔31cを形成することができ、このような覗き孔31cを複数形成することもできる。パワートレインPTとしては、エンジンを有するものであってもよく、この場合エンジンのみによって駆動輪を駆動するものであってもよく、またエンジンとモータとの両方で駆動輪を駆動するものであってもよい。パワートレインPTを構成する個々のユニットの連結態様は適宜変更できる。本発明は、エンジンを有しない電気自動車と、発電専用のエンジンを有するレンジエクステンダ式の電気自動車とを、車体を共通化しつつ製造分けする自動車の製造法をも提供することを暗黙的に含むものでもある。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、パワートレインを左右方向にオフセットして配設した場合の衝突安全対策として好ましいものである。
【符号の説明】
【0069】
PT:パワートレイン
P:作業員
1:ダッシュパネル
2:収納ルーム
3:車室
4:フロントサイドフレーム
5:サスペンション支持メンバ
6:フロアパネル
7:トンネル部
7a:前方開口部
11:モータ
12:トランスアクスル
13:インバータ
14:ドライブシャフト
21:マウント部材
22:マウント部材
24:マウント部材
30:マウントブラケット
31:頂壁部
31c:覗き孔
32:縦壁部
32a:取付孔(上前連結部)
32b:取付孔(下前連結部)
32c:取付孔(上後連結部)
32d:取付孔(下後連結部)
33:フランジ部(縦壁部)
34:補強リブ(縦壁部)
40:連結用ボルト
51:ケーシング(モータ用)
51a:前面部
52:荷重受け部
53:連結リブ
54:横補強リブ
55:縦補強リブ
61:ケーシング(トランスアクスル用)
72:荷重受け部