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特開2020-196639金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとの分離および精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196639(P2020-196639A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとの分離および精製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/172 20170101AFI20201113BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20201113BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20201113BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20201113BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20201113BHJP
【FI】
   C01B32/172
   H01L29/28 250E
   H01L29/28 100A
   B82Y40/00
   C01B32/159
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-102383(P2019-102383)
(22)【出願日】2019年5月31日
(71)【出願人】
【識別番号】515040117
【氏名又は名称】株式会社Nextコロイド分散凝集技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】来住野 由希子
(72)【発明者】
【氏名】来住野 敦
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AC16B
4G146AC20B
4G146AD22
4G146AD28
4G146CB10
4G146CB35
4G146DA08
(57)【要約】
【課題】簡単な操作によって半導体型CNTと金属型CNTとを分離精製する方法を提供すること。
【解決手段】分散媒中にカーボンナノチューブ結晶が無配向状態に分散しているカーボンナノチューブの水性分散液に、デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドおよびトリトンXよりなる群から選択される第1の分子を添加して半導体型カーボンナノチューブを選択的に吸着させるか、または、コール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームおよびリパーゼよりなる群から選択される第2の分子を添加して、金属型カーボンナノチューブを選択的に吸着させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ混合物からの半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブとの分離精製方法であって、
単層カーボンナノチューブと、デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドおよびトリトンXよりなる群から選択される第1の分子またはコール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームおよびリパーゼよりなる群から選択される第2の分子と、水と、を含む水性分散液を、1〜20重量/容量%の第1の分子または第2の分子と水とを含む分散媒を充填した第1の容器内で、前記分散媒の水面上に載置し、静置して、浮上層、分散媒層および沈降層に分離する工程;
前記浮上層を抜き取り、第2の容器に移し、前記沈降層を抜き取り第3の容器に移す工程;および、
前記水性分散液が第1の分子を含むとき、前記浮上層を収容する第2の容器内で第1の分子を除去して、半導体型カーボンナノチューブを得る工程;または、
前記水性分散液が第2の分子を含むとき、前記沈降層を収容する第3の容器内で第2の分子を除去して、金属型カーボンナノチューブを得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記分散液中、単層カーボンナノチューブの含有量は0.01〜0.10重量%であり、第1の分子または第2の分子の含有量は、単層カーボンナノチューブの含有量の3〜8倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離工程において、第1の分子または第2の分子の濃度を12〜20重量/容量%として静置し、浮上層、分散媒層および沈降層に分離後、分散媒を7〜13重量/容量%の新たな分散媒と置換し、浮上層と沈降層を分離し、再度、分散媒を1〜18重量/容量%の新たな分散媒と置換して、浮上層と沈降層を分離し、その後、浮上層を第2の容器に移し、沈降層を第3の容器に移す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の分子および第2の分子の双方を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ混合物から、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブとを分離し、精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素原子の6員環が平面的に連続して形成されたグラフェンを円管状に丸めた構造をしており、一層の円管からなるものを単層カーボンナノチューブ(Single−Walled Carbon Nanotube, SWCNT)と称し、多層の円管からなるものを多層カーボンナノチューブ(Multi−Walled Carbon Nanotube, MWCNT)と称している。
【0003】
カーボンナノチューブ(以下「CNT」と表記することがある。)は、その幾何学的構造の相違によって電気の良導体であったり、半導体であったりする。良好な導電性を提供する幾何学構造のCNTは、金属型CNTと呼ばれる。半導体を構成する幾何学構造のCNTは半導体型CNTと呼ばれる。金属型CNT及び半導体型CNTは多くの技術分野で各種デバイスや機能的材料等への応用が研究されている。
【0004】
例えば、半導体型CNTはナノメートルサイズのトランジスタへの応用や、薄膜化してフレキシブルなトランジスタへの応用ができ、比表面積が大きいことから、超高感度のセンサーとしての応用にも期待できる。
【0005】
CNTは、レーザー蒸発法、アーク放電法、及び化学気相成長法(CVD法)などの種々の方法で合成されている。しかし、現状ではいずれの合成方法を用いても、金属型、半導体型及び非晶質等の複数種類の構造異性体を含むCNT混合物しか得られていない。実使用においては、金属型又は半導体型のいずれか一方の性質を利用することが多いため、特定の構造異性体のみを提供する技術に対する需要は大きい。
【0006】
CNT混合物には、金属型と半導体型とがおおよそ3:7で存在するとされている。CNTの優れた電気的特性を応用するには、金属型と半導体型を分離し、別個に精製する必要がある。
【0007】
従来、これらを分離する方法として生体分子を利用したアガロースゲルによる電気泳動からのカラム精製や超高速遠心分離法(100万rpm)などがあるが、いずれも、高価な装置を必要とし、工程が煩雑であり、量産化には適していない。
【0008】
特許文献1には、分離材としてアガロースや寒天の粉末にCNT混合物を作用させて、半導体型CNTを選択的に吸着し、前記分離材に未吸着の金属型CNTを溶出させ、その後、前記分離材に吸着する半導体型CNTを溶出することによって、金属型CNTと半導体型CNTを分離する方法が記載されている。
【0009】
特許文献2には、無配向CNT分散液をらせん状配管に通過させ、半導体型CNTが分散液の上方に浮上し、金属型CNTは分散液の下方に沈降する傾向を利用して、金属型CNTと半導体型CNTを分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−36041号公報
【特許文献2】特開2017−48085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の方法は、いずれも、金属型CNTの精製を考慮していない。
【0012】
本発明の目的は、簡単な操作によって半導体型CNTと金属型CNTとを分離し、それぞれの精製物を簡便かつ安価に得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、半導体型CNTと金属型CNTとを含有するCNT混合物の水分散液に、半導体型CNTを選択的に吸着する界面活性剤、または、金属型CNTを選択的に吸着する界面活性剤を添加して、半導体CNTと金属型CNTとを効率的に分離する方法を提供する。
【0014】
本発明の分離精製方法は、第1段階として、半導体型CNTまたは金属型CNTを、それぞれ、優先的に選択的に吸着する界面活性剤を用いて、半導体型CNTと金属型CNTとを分離するこうてい、および、第2段階として、いずれかの型のCNTとそれを優先的に吸着する界面活性剤とを含む混合物から、対象の型のCNTを精製する工程からなる。
【0015】
本発明において用いる半導体型CNTを選択的に吸着する界面活性剤は、デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドおよびトリトンXよりなる群から選択される分子であり、デオキシコール酸ナトリウムがより好ましい。本発明において用いる金属型CNTを選択的に吸着する界面活性剤は、コール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームおよびリパーゼよりなる群から選択される分子であり、コール酸ナトリウムがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単な操作によって、半導体型CNTと金属型CNTとを分離し、それぞれを、高収率で精製する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】24時間静置後の水分散媒中でのCNTの分布状態を示す模式図。
図2】均質化CNTの水性分散液の液−液分離の時間経過を示す写真。
図3】実施1において液−液分離により形成された浮上層から得られたCNTのUV-Vis-NRI分光分析スペクトル(a)、実施5において液−液分離により形成された沈降層から得られたCNTのUV-Vis-NRI分光分析スペクトル(b)。
図4】抵抗値の温度依存性を測定する手法の概略図。
図5】実施1において液−液分離により形成された浮上層から得られたCNTの抵抗値の温度依存性を示すグラフ(a)、実施5において液−液分離により形成された沈降層から得られたCNTの抵抗値の温度依存性を示すグラフ(b)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、CNT混合物からの半導体型CNTと金属型CNTとの分離方法であって、
単層カーボンナノチューブと、デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドおよびトリトンXよりなる群から選択される第1の分子またはコール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームおよびリパーゼよりなる群から選択される第2の分子と、水と、を含む水性分散液を、1〜20重量/容量%の第1の分子または第2の分子と水とを含む分散媒を充填した第1の容器内で、前記分散媒の水面上に載置し、静置して、浮上層、分散媒層および沈降層に分離する工程;
前記浮上層を抜き取り、第2の容器に移し、前記沈降層を抜き取り第3の容器に移す工程;および、
前記水性分散液が第1の分子を含むとき、前記浮上層を収容する第2の容器内で第1の分子を除去して、半導体型カーボンナノチューブを得る工程;または、
前記水性分散液が第2の分子を含むとき、前記沈降層を収容する第3の容器内で第2の分子を除去して、金属型カーボンナノチューブを得る工程
を含む、分離方法を提供する。
【0019】
分離精製対象のカーボンナノチューブ(CNT)は、従来公知のCNT合成法により合成して得られたままのCNTであり、実際には金属型CNT、半導体型CNT等が偶然の比率によって混在し、さらに、不純物として非晶質CNTやカーボンブラック等を含むCNT混合物である。
【0020】
CNTは、炭素の6員環の基本ベクトル(aおよびa)で表されるカイラルベクトル(C = na + ma)によってその構造を表すことができ、(n、m)をカイラル指数という。このカイラル指数の(n−m)が3の倍数であるものが金属型CNTであり、3の倍数でないものが半導体型CNTである。
【0021】
好ましい実施形態では、CNTは単層CNTである。CNTは半導体型CNTを主に生成させる製造方法(化学気相堆積法等)によって製造したCNTを用いてもよい。また、通常のCNT合成雰囲気に極微量(ppmオーダー)の水分を添加することを特徴とするスーパーグロース法を用いて製造された単層CNTを用いてもよい。
【0022】
CNTは、直径は通常の分子と同様約1nmであり、長さが数μmの繊維状結晶である。CNTは、繊維状のCNT結晶が相互に絡まり、固定された粒子から成っている。CNTには複数の幾何学構造のCNT結晶が含まれている。そのため、複数の幾何学構造のCNT結晶を含むCNTから半導体型および金属型の特定の幾何学構造のものを収集するためには、相互に絡まっているCNT繊維をほぐし、分散し、個々のCNT繊維が自由に動く状態にする必要がある。
【0023】
まず、分離対象である単層カーボンナノチューブと、第1の分子または第2の分子と、水との混合液を、例えば、高圧ホモジナイザーを用いて、均質化することによって、CNTが懸濁した水性分散液(以下、「CNT水分散液」ともいう)を調製する。
【0024】
上記CNT水分散液中、単層カーボンナノチューブの含有量は0.01〜0.10重量%、好ましくは0.03〜0.06重量%であり、第1の分子または第2の分子の含有量は、単層カーボンナノチューブの含有量の3〜8倍、好ましくは4〜6倍である。
【0025】
上記第1の容器として、限定されないが、例えば、ガラス製やプラスチック製の円筒管を用いることができる。好ましくは、管の上部と下部に、内容物を取り出すための出口を備えていることが好ましい。
【0026】
上記第1の容器の長さとしては、限定されず、分離対象の単層カーボンナノチューブの量に依存して、第1の容器内で、浮上層と沈降層とが、分散媒層によって隔離されていればよく、浮上層または沈降層を抜き出すときに、他方が混入しなければよい。
【0027】
CNT水分散液を容器に入れて静置した場合、半導体型CNTはCNT水分散液の上方に浮上する傾向がある。特に、半導体型CNTは結晶性が高いほどCNT水分散液の上方に浮上する傾向が強い。半導体型CNT以外の炭素由来物質(例えば、金属型CNT、非晶質CNT)は水性分散媒の下方に沈降する傾向がある。その結果、CNT水分散液を容器に入れて静置した場合、幾何学構造が異なるCNT結晶が層状に分布する。
【0028】
図1は、24時間静置後の水分散媒中でのCNTの分布状態を示す模式図である。容器1はCNT水分散液2を収容している。半導体型CNTはCNT水分散液の上方に浮上して浮上層21を形成している。半導体型CNTの内で、高結晶性半導体CNTは浮上層の上部211に位置し、低結晶性半導体CNTは浮上層の下部212に位置する。金属型CNTを含む、半導体型CNT以外の炭素由来物質は、CNT水分散液の下方に沈降して、分散媒層22を隔てて沈降層23を形成している。
【0029】
浮上層または沈降層を他の容器に移した後、各層に含まれるカーボンナノチューブの純度を紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光分析、抵抗値測定などの各種測定手法により、半導体型カーボンナノチューブまたは金属型カーボンナノチューブの純度を測定する。
【0030】
前記分離工程は、第1の容器に充填した分散媒の第1の分子または第2の分子の濃度を段階的に変化させて、2〜5回程度行うことができる。
分離工程の繰り返し回数が3回の場合を例にすると、1回目の分離工程において、第1の分子または第2の分子の濃度を12〜20重量/容量%として静置し、浮上層、分散媒層および沈降層に分離後、2回目の分離工程において、分散媒を7〜13重量/容量%の新たな分散媒と置換し、浮上層と沈降層を分離し、3回目の分離工程において、分散媒を1〜18重量/容量%の新たな分散媒と置換して、浮上層と沈降層を分離し、その後、浮上層を第2の容器に移し、沈降層を第3の容器に移す。
【0031】
CNT水分散液には、第1の分子および第2の分子のうち、分離対象とする型のCNTに適合するいずれか1種を添加するが、第1の分子と第2の分子を同時に用いることもできる。すなわち、本発明の分離方法において、第1の分子と第2の分子の双方を含むCNT水分散液または分散媒を用いることができる。
【0032】
純度測定の結果から、CNT水分散液の分離工程は、所望の結晶性を有する半導体型CNTが得られるまで行う。CNT水分散液の分離工程の回数が増えるに従って、浮上層の量が増加し、沈降層の量は減少する。CNT水分散液の分離工程の回数が多くなると、沈降層は出現せず、浮上層のみが出現するようになる。
【実施例】
【0033】
実施例1
(単層カーボンナノチューブの水性分散液の調製)
単層カーボンナノチューブ(「Tuball」(商品名)、OCSiAL社製)を準備した。このCNTは半導体型CNT及び金属型CNTを含有し、両者の含有割合は、重量比で約5/3である。
水100mLに対して、0.05gの単層カーボンナノチューブと、0.25gのデオキシコール酸ナトリウム(関東化学社製)とを添加した混合物を調製した。この混合物を高圧ホモゲナイザー(型番ナノベーターNanoVater、吉田機械興業社製)に投入し、均質化したCNTの水性分散液(CNT水分散液)を調製した。
【0034】
(均質化CNT水分散液からの半導体型CNTの液−液分離)
250mLのメスシリンダー(直径4cm)に、15重量/容量%のデオキシコール酸ナトリウム(関東化学社製)を水に溶かして調製した分散媒を180ml充填した。
分散媒を撹拌しないように、先に調製したCNT水分散液を分散媒の水面上に載置し、アルミホイルで開口に蓋をして、室温で24時間静置した。右から左に向かって、時系列で並べた、液−液分離の過程を図2に示す。一番右側のメスシリンダーは、水性分散液を載置した直後の写真であり、分散媒は透明であり、沈降層はまだ存在しない。一番左が、水性分散液の載置から24時間後の写真であり、浮上層と沈降層とが分離されていた。
このときに形成された浮上層をデカンテーションにより取り出し、10重量/容量%のデオキシコール酸ナトリウムの水性分散媒の水面上に載置し、24時間静置後、浮上層を得た。
同様にして、このときに形成された浮上層を、5重量/容量%のデオキシコール酸ナトリウムの水性分散媒の水面上に載置し、24時間静置後、浮上層を得た。
この実施例では、浮上層を取り出してから新たな水性分散媒に投入したが、浮上層、分散媒層および沈降層の3層の状態で、浮上層と沈降層とが混和しないように分散媒層のみを交換する手法を用いることができる。
【0035】
3回の液−液分離後に得られた最終的な浮上層の一部をスパチュラでひとかき分取出し、スライドガラスの上に載せ、自然乾燥させた。乾固したCNT結晶につき、室温にてUV-Vis-NRI分光分析測定を行った。
【0036】
UV-Vis-NRI分光分析測定を図3aに示す。浮上層から取り出した混合物のスペクトルは1000nmに主ピークを有する。このことから、浮上層には半導体型CNTが含まれていることが分かった。
【0037】
UV-Vis-NRI分光分析測定により、浮上層における半導体型CNTの純度が90%を超えていなければ、再度液−液分離を行うか、または、CNT水性分散液の調製工程にリサイクルする。
また、沈降層は、別途、CNT水性分散液の調製工程にリサイクルする。
【0038】
(半導体型CNTの精製)
3度の液−液分離工程を経て得られた浮上層には半導体型CNTとデオキシコール酸ナトリウムとが混在しているため、デオキシコール酸ナトリウムを除去して、半導体型CNTを精製する。
【0039】
UV-Vis-NRI分光分析測定および抵抗値測定により、半導体型CNTの純度が90%以上になったことを確認して、浮上層を取り出して、吸引ビンに取り付けたガラスフィルター上に移した。洗浄や回収の作業性を考慮して、ガラスフィルター上にろ紙を搭載してもよい。
【0040】
まず、半導体型CNTを含有する浮上層にエチルアルコールを添加して、凝集させたあと、吸引ろ過した。残渣をエタノール/水の混合溶媒にて3回洗浄した。各洗浄後のろ液を真空乾燥して、ガラス面にデオキシコール酸ナトリウムの結晶が析出しないことを確認する。析出が目視できなくなった時点で、半導体型CNTが精製されたとみなした。
【0041】
最終的に、エタノールを添加して完全に溶媒置換する。溶媒置換後、1時間静置し、ガラスフィルターにて、CNTをろ取し、その後、風乾して、半導体型CNTを得た。
【0042】
抵抗値の温度依存性を測定する手法の概略図を図4に示す。深さ1mmの浅い溝が長手方向に沿って形成された溝付きガラスプレート(26mm×76mm)に、測定対象(ガラスフィルター上で洗浄されたCNT水分散液)を滴下し、乾燥させる。前記溝付きガラスプレートの上に溝のないフラットなガラスプレートを重ねる。そして、2枚重ねのガラスプレートを電熱器上に搭載し、20℃から80℃までの温度範囲で、加熱する。2枚のガラスプレートの端部から露出するCNT水分散液の乾燥体の両端に抵抗測定器の端子を接触させて、抵抗値を測定する。
【0043】
得られた高純度の半導体型CNTの各温度における抵抗値を表1にまとめ、抵抗値の温度依存性を示すグラフを図5aに示す。温度が上昇するに従って抵抗値が低下することが示され、本発明の分離精製方法により、高純度の半導体型CNTが得られたことが確認された。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例2〜4
実施例1において、デオキシコール酸ナトリウムの代わりに、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドまたはトリトンXを用いる以外は、実施例1と同様にして、半導体型CNTの分離を行った。
【0046】
デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドまたはトリトンXよりなる群から選択される第1の分子を用いて液−液分離を行ったところ、いずれも、高い純度で半導体型CNTを得ることができた。
【0047】
実施例5
(単層カーボンナノチューブの水性分散液の調製)
単層カーボンナノチューブ(「Tuball」(商品名)、OCSiAL社製)を準備した。このCNTは半導体型CNT及び金属型CNTを含有し、両者の含有割合は、重量比で約5/3である。
水100mLに対して、0.05gの単層カーボンナノチューブと、0.25gのデオキシコール酸ナトリウム(関東化学社製)とを添加した混合物を調製した。この混合物を高圧ホモゲナイザー(型番ナノベーターNanoVater、吉田機械興業社製)に投入し、均質化したCNTの水性分散液(CNT水分散液)を調製した。
【0048】
(均質化CNTからの金属型CNTの液−液分離)
250mLのメスシリンダー(直径4cm)に、15重量/容量%のコール酸ナトリウム(関東化学社製)を水に溶かして調製した水性分散媒を180ml充填した。
分散媒を撹拌しないように、先に調製したCNT水性分散液を分散媒の水面上に載置し、アルミホイルで開口に蓋をして、室温で24時間静置した。水性分散液の載置から24時間後、浮上層と沈降層とが分離されていた。
このときに形成された沈降層を取り出し、10重量/容量%のコール酸ナトリウムの水性分散媒の水面上に載置し、24時間静置後、沈降層を得た。
同様にして、このときに形成された沈降層を、5重量/容量%のコール酸ナトリウムの水性分散媒の水面上に載置し、24時間静置後、沈降層を得た。
この実施例では、沈降層を取り出してから新たな分散媒に投入したが、浮上層、分散媒層および沈降層の3層の状態で、浮上層と沈降層とが混和しないように分散媒層のみを交換する手法を用いることができる。
【0049】
3回の液−液分離後に得られた最終的な沈降層の一部をスパチュラでひとかき分ずつ取出し、スライドガラスの上に載せ、自然乾燥させた。乾固したCNT結晶につき、室温にてUV-Vis-NRI分光分析測定を行った。
【0050】
実施例1と同様に、UV-Vis-NRI分光分析測定を図3bに示す。沈降層から取り出した混合物のスペクトル(700nmに主ピークを有する。このことから、沈降層には、金属型CNTが含まれていることが分かった。
【0051】
UV-Vis-NRI分光分析測定により、沈降層における金属型CNTの純度が90%を超えていなければ、再度液−液分離を行うか、または、CNT水性分散液の調製工程にリサイクルする。
また、浮上層は、別途、CNT水性分散液の調製工程にリサイクルする。
【0052】
(金属型CNTの精製)
3度の液−液分離工程を経て得られた沈降層には金属型CNTとコール酸ナトリウムと混在しているため、コール酸ナトリウムを除去して、金属型CNTを精製する。
【0053】
UV-Vis-NRI分光分析測定および抵抗値測定により、金属型CNTの純度が90%以上になったことを確認して、沈降層を取り出して、吸引ビンに取り付けたガラスフィルター上に移した。洗浄や回収の作業性を考慮して、ガラスフィルター上にろ紙を搭載してもよい。
【0054】
実施例1と同様にして、エタノール/水の混合溶媒にて3回洗浄し、ろ液からコール酸ナトリウムの結晶が析出しないことを確認し、析出が目視できなくなった時点で、半導体型CNTが精製されたとみなした。
【0055】
最終的に、エタノールを添加して完全に溶媒置換する。溶媒置換後、1時間静置し、ガラスフィルターにて、CNTをろ取し、その後、風乾して、金属型CNTを得た。
【0056】
得られた高純度の金属型CNTの各温度における抵抗値を表2にまとめ、抵抗値の温度依存性を示すグラフを図5bに示す。温度が上昇するに従って抵抗値が上昇することが示され、本発明の分離精製方法により、高純度の金属型CNTが得られたことが確認された。
【0057】
実施例1と同様にして、得られた高純度の金属型CNTの各温度における抵抗値を表2にまとめ、抵抗値の温度依存性を示すグラフを図5bに示す。温度が上昇するに従って抵抗値が上昇することが示され、本発明の分離精製方法により、高純度の金属型CNTが得られたことが確認された。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例6〜8
実施例5において、コール酸ナトリウムの代わりに、キチナーゼ、リゾチームまたはリパーゼを用いる以外は、実施例5と同様にして、金属型CNTの分離を行った。
【0060】
コール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームまたはリパーゼよりなる群から選択される第2の分子を用いて液−液分離を行ったところ、いずれも、高い純度で金属型CNTを得ることができた。
【符号の説明】
【0061】
1…第1の容器(液−液分離カラム)、
2…CNT水分散液、
21…浮上層、
211…浮上層の上部、
212…浮上層の下部。
22…分散媒層
23…沈降層、
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2020年7月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ混合物からの半導体型カーボンナノチューブと金属型カーボンナノチューブとの分離精製方法であって、
単層カーボンナノチューブと、デオキシコール酸ナトリウム、n−オクチル−β−D−グルコピラノシドおよびn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドよりなる群から選択される第1の分子またはコール酸ナトリウム、キチナーゼ、リゾチームおよびリパーゼよりなる群から選択される第2の分子と、水と、を含む水性分散液を、1〜20重量/容量%の第1の分子または第2の分子と水とを含む分散媒を充填した第1の容器内で、前記分散媒の水面上に載置し、静置して、浮上層、分散媒層および沈降層に分離する工程;
前記浮上層を抜き取り、第2の容器に移し、前記沈降層を抜き取り第3の容器に移す工程;および、
前記水性分散液が第1の分子を含むとき、前記浮上層を収容する第2の容器内で第1の分子を除去して、半導体型カーボンナノチューブを得る工程;または、
前記水性分散液が第2の分子を含むとき、前記沈降層を収容する第3の容器内で第2の分子を除去して、金属型カーボンナノチューブを得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記分散液中、単層カーボンナノチューブの含有量は0.01〜0.10重量%であり、第1の分子または第2の分子の含有量は、単層カーボンナノチューブの含有量の3〜8倍である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記分離工程において、第1の分子または第2の分子の濃度を12〜20重量/容量%として静置し、浮上層、分散媒層および沈降層に分離後、分散媒を7〜13重量/容量%の新たな分散媒と置換し、浮上層と沈降層を分離し、再度、分散媒を1〜18重量/容量%の新たな分散媒と置換して、浮上層と沈降層を分離し、その後、浮上層を第2の容器に移し、沈降層を第3の容器に移す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の分子および第2の分子の双方を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。