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特開2020-196648高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の脱色方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196648(P2020-196648A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の脱色方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/65 20060101AFI20201113BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20201113BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20201113BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20201113BHJP
【FI】
   C04B41/65
   C04B28/08
   C04B22/10
   C04B22/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-104267(P2019-104267)
(22)【出願日】2019年6月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 礼子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悟士
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕美
(72)【発明者】
【氏名】伊中 成篤
【テーマコード(参考)】
4G028
4G112
【Fターム(参考)】
4G028DA02
4G112MA00
4G112MB06
4G112PA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体を、速やかに脱色する脱色方法を提供する。
【解決手段】高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の表面を、酸化剤で処理する脱色方法。水硬性組成物が、高炉スラグ微粉末をセメント中の5質量%以上含有することが望ましい。さらに、水硬性組成物が、石炭石微粉末と刺激材を含み、刺激材が、消石灰、生石灰、石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、ポルトランドセメントの群から選ばれる2種以上であることが望ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の表面を、酸化剤で処理することを特徴とする脱色方法。
【請求項2】
前記水硬性組成物が、高炉スラグ微粉末を、セメント中の5質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の脱色方法。
【請求項3】
前記水硬性組成物が、石灰石微粉末と、刺激材を含み、
前記刺激材が、消石灰、生石灰、石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、ポルトランドセメントの群から選ばれる2種以上であり、
前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記刺激材を3質量部以上40質量部以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の脱色方法。
【請求項4】
前記水硬性組成物が、顔料を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の脱色方法。
【請求項5】
前記硬化体が、タイル、擬石、ブロック、瓦のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脱色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の脱色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体は、脱型や研磨後等、空気に曝されてからしばらくは、表面が青みがかっていることが知られている。これは、高炉スラグ微粉末に含まれる硫化物が、水和によってHSやS2−となって還元性雰囲気となり、硬化体中のFeが、酸化数の低い状態で水和物に固溶するためである(非特許文献1、p48)。硬化体が青みがかっていても、その物性に問題はない。また、この青みは、空気中の酸素により経時で酸化されて、1〜2ヶ月程度で消失する。青みが消失した後の、この硬化体の真の色調は、通常のポルトランドセメントと比較して白く、高炉スラグ微粉末の含有率が高くなるほど白くなる。
【0003】
ここで、白色コンクリート、または、顔料を添加して着色したカラーコンクリートには、白色ポルトランドセメントが用いられている。しかし、現在、白色ポルトランドセメントは、国内製造されておらず、海外からの輸入に頼っているため高コストであり、また、その輸送により大量の二酸化炭素が発生してしまう。
そのため、国内で製造可能な高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体を、白色ポルトランドセメントの代替として利用することが考えられる。しかし、上記したように、この硬化体は、空気に曝されてからしばらくは青みがかっているため、色調を確認して顔料添加量等を調整して、所定の色調となるように修正するのに時間がかかってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「鉄鋼スラグの高炉セメントへの利用(2017年版)」、鐵鋼スラグ協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体を、速やかに脱色する脱色方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の表面を、酸化剤で処理することを特徴とする脱色方法。
2.前記水硬性組成物が、高炉スラグ微粉末を、セメント中の5質量%以上含むことを特徴とする1.に記載の脱色方法。
3.前記水硬性組成物が、石灰石微粉末と、刺激材を含み、
前記刺激材が、消石灰、生石灰、石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、ポルトランドセメントの群から選ばれる2種以上であり、
前記高炉スラグ微粉末100質量部に対して、前記刺激材を3質量部以上40質量部以下含有することを特徴とする1.または2.に記載の脱色方法。
4.前記水硬性組成物が、顔料を含むことを特徴とする、1.〜3.のいずれかに記載の脱色方法。
5.前記硬化体が、タイル、擬石、ブロック、瓦のいずれかであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の脱色方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の脱色方法により、硬化体の青みを速やかに脱色することができる。本発明の脱色方法により、硬化体の真の色調を速やかに確認することができるため、顔料添加量等を調整して求める色調の硬化体を迅速に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の脱色方法は、高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体の表面を、酸化剤で処理することを特徴とする。
高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体は、空気に曝されてからしばらくは青みがかっている。そして、この硬化体の表面を、酸化剤で処理することにより、青みを脱色し、硬化体の真の色調とすることができる。
本発明の脱色方法において、酸化剤は、還元性雰囲気下のFeを酸化できるものであれば特に制限することなく使用することできる。例えば、過酸化水素水、オゾン水、次亜塩素酸塩水溶液、塩素酸塩水溶液、過塩素酸塩水溶液等が挙げられる。これらの中で、過酸化水素水、オゾン水が、処理後の廃液処理が容易であるため好ましく、過酸化水素水が、コストの点からより好ましい。
【0009】
本発明で使用する水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末を含有する。高炉スラグ微粉末は、コンクリートの材料として利用されているものを特に制限することなく使用することができ、比表面積、塩基度等は、特に制限されないが、JIS R5211「高炉セメント」で使用される高炉スラグ、または、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ」に適合するものを、好適に使用することができる。
【0010】
本発明で使用する水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末を含有するものであれば特に限定されず、例えば、高炉セメントや、高炉スラグ微粉末を含む環境配慮型セメント等が挙げられる。なお、環境配慮型セメントとは、1種又は2種以上のJIS R5210、R5211、R5212、R5213、R5214に規定されるセメント(ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、エコセメント)の混合物のうち20〜100%を、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ、石灰石微粉末、消石灰、膨張材、シリカ質混合材、または、カルシウム塩やナトリウム塩に置き換えたものと同等の組成を持つ水硬性組成物である。
【0011】
セメント中の高炉スラグ微粉末の含有率が高いほど、青みが強く発色する傾向があるため、セメント中の高炉スラグ微粉末の含有率は高いことが好ましく、具体的には、この含有率が5質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0012】
また、本発明で使用する水硬性組成物の一実施態様として、高炉スラグ微粉末と、石灰石微粉末と、刺激材を含み、この刺激材が、消石灰、生石灰、石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、ポルトランドセメントの群から選ばれる2種以上であり、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、刺激材を3質量部以上40質量部以下含有する水硬性組成物が挙げられる。高炉スラグ微粉末を多く含む水硬性組成物は、材齢初期の強度が低く、凝結時間が遅いという問題があるが、上記した一実施態様である水硬性組成物は、通常のポルトランドセメントと同等の初期強度、凝結時間を備えている。
【0013】
石灰石微粉末は、高炉スラグ微粉末との併用により、流動性の向上に寄与する。また、凝結を促進させ、材齢初期の強度増進の効果がある。さらに、石灰石微粉末は、収縮の抑制に寄与する。
一実施態様である水硬性組成物において、石灰石微粉末は、道路舗装用、脱硫用、充填材等に用いられるいずれの石灰石微粉末でも使用できる。石灰石の純度も一般に入手可能なものであればとくに限定されない。石灰石微粉末は、比表面積が2000cm/g以上12000cm/g以下のものが好ましく、5000cm/g以上12000cm/g以下のものがより好ましい。比表面積の大きい石灰石微粉末が好ましい理由は、水粉体比の小さい場合のダイラタンシー抑制のためである。
【0014】
一実施態様である水硬性組成物における石灰石微粉末の配合量は、特に制限されないが、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、石灰石微粉末を3質量部以上50質量部以下であることが好ましい。石灰石微粉末のこの配合量が3質量部に満たないと、流動性が損なわれる場合があり、水粉体比が小さい場合には多量に含有する高炉スラグによりダイラタンシーが生じる場合がある。また、材齢初期の強度増進の効果が得られない場合がある。さらに、収縮の抑制が出来ない可能性が生じる。石灰石微粉末のこの配合量が50質量部を超えると、長期材齢において十分な強度発現が得られない場合がある。
【0015】
刺激材は、高炉スラグ微粉末の持つ潜在水硬性を顕在化させて、高炉スラグ微粉末の水硬性を発揮させる物質である。
一実施態様である水硬性組成物は、刺激材として、消石灰、生石灰、石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート系膨張材、ポルトランドセメントの群から選ばれる2種以上を使用する。これらの刺激材は、カルシウムイオンを溶出する速度が異なる。そのため、上記群から選ばれる2種以上の刺激材を使用すると、まず、カルシウムイオンの溶出する速度が速い刺激材が高炉スラグ微粉末の反応刺激材として作用する。次いで、カルシウムイオンの溶出する速度が遅い刺激材から溶出した過剰なカルシウムイオンが、高炉スラグ微粉末への再度の反応刺激材として作用し、高炉スラグ微粉末の水和反応を活性化させることにより、硬化体中に十分な水酸化カルシウムおよびCa/Si比の高いカルシウムシリケート水和物を生成することができる。その結果、凝結の促進、強度の増進が図られるとともに、中性化を抑制することができる。
【0016】
一実施態様である水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末100質量部に対して、上記刺激材を3質量部以上40質量部以下含有する。刺激材のこの配合量が、3質量部に満たないと、刺激材が少ないため強度が十分に発現しない場合がある。また、硬化体の中性化が大きくなる場合がある。さらに、刺激材が少ないとブリーディングが多くなる傾向となる。刺激材のこの配合量が40質量部を超えると、硬化体中に膨張材などの刺激材に含有する未反応のセッコウが残存して遅れ膨張を生じる場合がある。
【0017】
一実施態様である硬化体は、硬化体中の水酸化カルシウムが無水物換算で4.9質量%以上12質量%以下であることが好ましい。水酸化カルシウムの含有量が上記した範囲内であることにより中性化を抑制できる。硬化体中の水酸化カルシウムが無水物換算で4.9質量%に満たないと中性化を抑制できない場合がある。逆に、硬化体中の水酸化カルシウムが無水物換算で12質量%を超えると、十分な強度発現が得られない場合がある。
【0018】
本発明の水硬性組成物は、顔料を含有することができる。本発明の水硬性組成物、特に、セメント中に高炉スラグ微粉末を5質量%以上含む水硬性組成物は、その真の色調が白色系であるため、顔料を配合することにより、様々な色調に着色することができ、白色ポルトランドセメントの代替として使用することができる。
使用する顔料は特に限定されず、カラーコンクリートの製造に用いられている顔料を好適に用いることができる。顔料は、複数種を併用することもできる。また、顔料の配合量も特に制限されず、求める色の濃さに応じて調整することができるが、通常、粉体体積の0.01%以上5%以下程度である。
【0019】
本発明の水硬性組成物は、骨材(細骨材、粗骨材)、混和材(フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末、膨張材)、混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、高性能減水剤、発泡剤、防水剤、硬化促進剤、凝結遅延剤等)、繊維等を含むことができる。
本発明の水硬性組成物は、公知の方法により、成形することができる。
【0020】
本発明の脱色方法で脱色する硬化体の用途は特に制限されないが、タイル、擬石(人造大理石等)、ブロック、瓦等が好適である。これらは、様々な色調に着色されて利用されているが、本発明の脱色方法により、迅速に青みを消して真の色調を確認することができるため、配合調整による色調の調整を迅速に行うことができる。
【実施例】
【0021】
下記表1に示す配合の水硬性組成物を、傾胴式ミキサーで練り混ぜたのち、型枠に打ち込んだ。打設15時間後に60℃で2時間蒸気養生を行ってから、気中養生し、19時間後に脱型し、石材研磨機(磯部内燃機工業株式会社製 イソベ式研磨機 IC−787)を用いて粒度#400による研磨を行った。
【0022】
【表1】
水 :神奈川県横浜市水道水
高炉スラグ :株式会社デイ・シイ製 セラメントA(セッコウ入り)
膨張材 :太平洋マテリアル株式会社製 エクスパン(構造用)
消石灰 :奥多摩工業株式会社製 消石灰(特号)
石灰石微粉末 :宮城石灰工業株式会社製 炭カルMT325
細骨材 :稲田産花崗岩細砂
粗骨材 :稲田産花崗岩砕石
高性能AE減水剤:BASFジャパン株式会社製 マスターグレニウムSP8SV(XD2)
AE剤 :BASFジャパン株式会社製 マスターエア775
【0023】
研磨後に、簡易型分光色差計(日本電色工業株式会社製、NF333)により、水硬性組成物の硬化部分(非骨材部分)のL色空間(JIS Z8781−4)を測定した。
さらに、市販のオキシドール(3%過酸化水素水溶液)を塗布し、30分放置後、水道水で洗浄、乾燥させた後、先に測定したのと同一箇所のL色空間を測定した。
酸化処理前後の色空間値を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
酸化処理の前後で、a値が−0.72(緑)から0.07(赤)、bが−0.64(青)から0.45(黄)となり、青みが消失した。すなわち、酸化処理により、高炉スラグ微粉末を含有する水硬性組成物からなる硬化体を、速やかに脱色し、真の色調を確認することができた。