【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0040】
(実施例及び比較例で用いるエポキシ樹脂(a))
実施例1〜17及び比較例1、3〜10において使用されるエポキシ樹脂(a)を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例及び比較例で用いるアミノ基を含むシラン化合物(b))
実施例1〜17及び比較例1、3〜10において使用されるアミノ基を含むシラン化合物(b)を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例及び比較例で用いるシリコンアルコキシド又はその縮合物(c))
実施例1〜17及び比較例1、3〜10において使用されるシリコンアルコキシド又はその縮合物(c)を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例及び比較例で用いる窒化ジルコニウム粉末(d))
実施例1〜17及び比較例1〜10において使用される窒化ジルコニウム粉末(d)を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
(実施例及び比較例で用いるバインダ(e))
実施例1〜17及び比較例1〜10において使用されるバインダ(e)を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
<実施例1>
先ず、特許文献1の実施例1に記載された窒化ジルコニウム粉末を用意した。即ち、BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒径が50nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末7.4gに、平均一次粒径が150μmの金属マグネシウム粉末7.3gと平均一次粒径が200nmの窒化マグネシウム粉末3.0gを添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの5.0倍モル、窒化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの0.5倍モルであった。この混合物を窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。この焼成物を、1リットルの水に分散し、10%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7〜8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄−アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度;120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、窒化ジルコニウム粉末(d)を用意した。
【0051】
次いで、アミノ基を含むシラン化合物(b)として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM−903)2.0gに、シリコンアルコキシド(c)として平均重合度が4のテトラメトキシシラン(三菱ケミカル社製、MKシリケート51)1.0gと、第1有機溶媒として3−メトキシ−3−メチルブタノール150.0gとを混合し、更にエポキシ樹脂(a)としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER828)10.0gを添加して、室温で10分間撹拌混合して混合液を用意した。この混合液では、(b)/(a)=0.2、(c)/(a)=0.1であった。
【0052】
次に、この混合液に、上記用意した窒化ジルコニウム粉末(d)130gを添加して、室温で10分間撹拌した後、ビーズミル(アシザワ社製、ラボスターミニ)でビースミルの出口温度を40℃に維持して、窒化ジルコニウム粉末の分散液を得た。この分散液では、((a)+(b)+(c))/(d)=0.1であった。この分散液の総固形分は48.6質量%であり、窒化ジルコニウム濃度は44.3質量%であった。一方、バインダ(e)としてのエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、jER828)73.6gと第2有機溶媒としてのPGMEA217gとを混合してバインダ液を調製した。上記分散液に上記バインダ液を添加し、室温にて10分間混合して液組成物を調製した。ここで、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))は質量比で0.6であった。たて100mm、よこ100mm、厚さ1mmのガラス基板上に、得られた液組成物1gをスピンコーターで1500rpm、90秒間スピンコーティングした後、大気雰囲気下、塗膜を120℃で30分間加熱して、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0053】
<実施例2〜17及び比較例3〜10>
実施例2〜17及び比較例3〜10では、実施例1と同一の窒化ジルコニウム粉末を用いた。以下の表6に示すように、エポキシ樹脂(a)、アミノ基を含むシラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)及びバインダ(e)の種類を実施例1と同一にするか、又は変更し、各質量比を実施例1と同一にするか、又は変更した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2〜17及び比較例3〜10の窒化ジルコニウム膜を得た。
【0054】
【表6】
【0055】
<比較例1>
窒化ジルコニウム粉末として、特許文献1の比較例1に記載された微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体からなる窒化ジルコニウム粉末を用意した。即ち、平均一次粒径が19nmの二酸化ジルコニウム粉末7.2gと、平均一次粒径が20nmの微粒子酸化マグネシウム3.3gを混合粉砕して混合粉体Aを得た。この混合粉体0.5gに平均一次粒径が150μmの金属マグネシウム粉末2.1gを加えて混合し混合粉体Bを得た。このとき金属マグネシウムと酸化マグネシウムの添加量はそれぞれ二酸化ジルコニウムの1.4倍モル、1.4倍モルであった。この混合粉体Bを窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成した。以下、実施例1と同様にして、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体からなる窒化ジルコニウム粉末を得た後、実施例1と同様にして、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0056】
<比較例2>
比較例2では、実施例1と同じ窒化ジルコニウム粉末を用いたが、エポキシ樹脂(a)、アミノ基含有シラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)、バインダ(e)等と混合することなく、窒化ジルコニウム膜を得た。
【0057】
<比較試験と評価>
実施例1〜17、比較例1〜10で得られた窒化ジルコニウム膜をそれぞれ試料として、以下に詳述する方法で、(1) X線回折プロファイル、(2) 膜厚0.1μmのOD値(以下、単にOD値ということもある。)、(3) 膜の外観、(4) 高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率及び (5) UV光を照射した後の膜の表面抵抗率をそれぞれ測定又は算出した。それぞれの測定結果又は算出結果を以下の表7に示す。
【0058】
(1) X線回折プロファイル: 実施例1と比較例1の試料について、X線回折装置(リガク社製、型番MiniflexII)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ−2θ法でX線回折プロファイルからX線回折分析を行った。そのX線回折プロファイルから、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=30.2°)及び低次酸化ジルコニウム又は低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)の有無を調べた。
図1にX線回折プロファイルを示す。
図1において、「ZrN」は窒化ジルコニウムを、「Zr
2N
2O」は低次酸窒化ジルコニウムをそれぞれ意味する。
【0059】
(2) OD値:光学濃度計(361TVisual;X−Rite社製)を用いて、遮光性OD値を測定した。また走査型レーザー顕微鏡(LEXT OLS4500:オリンパス社製)にて、膜厚を測定することで、1μm当りのOD値を算出した。
【0060】
(3) 膜の外観:黙視により窒化ジルコニウム膜の表面を観察し、膜表面に凝集粒がなく平滑である膜を「良好」とし、膜表面に凝集粒が存在する膜を「不良」と判定した。
【0061】
(4) 高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率:試料を温度60℃、湿度90%に設定した恒温恒湿器に100時間入れ、高温耐湿試験を行った。試験前と試験後の各膜の表面抵抗率を三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスタ(型番:MCP−HT800)を用いて、電圧1000Vで測定した。
【0062】
(5) UV光を照射した後の膜の表面抵抗率:岩崎電機社製のSUV−W161を用いて、150mW/cm
2のUV光を試料に照射した後、上記(3)と同様にして、UV光を試料に照射した後の膜の表面抵抗率を算出した。
【0063】
【表7】
【0064】
図1及び表7から明らかなように、比較例1の試料は、高温耐湿試験前後の膜の表面抵抗率(以下、第1表面抵抗率という。)及び540J/cm
2のUV光を照射した後の膜の表面抵抗率(以下、第2表面抵抗率という。)がそれぞれ5×10
13Ω/cm
2以上であり、耐候性に優れていた。しかし、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)のみならず、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)を有した。この結果、OD値は2.0となり、窒化ジルコニウム膜が十分な遮光性を有しなかった。なお膜の外観は良好であった。これに対して実施例1の試料は、第1及び第2表面抵抗率がそれぞれ5×10
13Ω/cm
2以上であり、耐湿性及び耐光性に優れていたことに加えて、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸化ジルコニウム又は低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しなかったため、OD値は3.2であり、窒化ジルコニウム膜が十分な遮光性を有していた。また膜の外観は良好であった。
【0065】
比較例2では、用いた試料が実施例1と同一ではあるが、エポキシ樹脂(a)、アミノ基含有シラン化合物(b)、シリコンアルコキシド又はその縮合物(c)、バインダ(e)等と混合することなく製造した窒化ジルコニウム膜であって、バインダ成分がないため、粉末の密着性が得られないことから、膜の外観は不良であり、OD値は2.3と低くかった。また高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が6.0×10
13Ω/cm
2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が1.0×10
13Ω/cm
2であり、また第2表面抵抗率が8.0×10
12Ω/cm
2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0066】
比較例3では、(b)/(a)が0.05と低く、エポキシ樹脂に比べてアミノ基含有シラン化合物が少な過ぎたため、窒化ジルコニウム膜中に未反応のエポキシ樹脂が多く存在し、膜の外観が不良であって、OD値が2.0と低く、高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が5.0×10
13Ω/cm
2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が7.0×10
12Ω/cm
2であり、また第2表面抵抗率が3.0×10
13Ω/cm
2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0067】
比較例4では、(b)/(a)が3.3と高く、エポキシ樹脂に比べてアミノ基含有シラン化合物が多過ぎたため、表面処理された窒化ジルコニウム粉末中に未反応のアミノ基含有シランが多く存在し、高温耐湿試験前後の第1表面抵抗率がともに1×10
14Ω/cm
2であって、耐湿性は良好であったが、フリーのアミノシランが多く、エポキシ樹脂の比率が低かったため、OD値が2.4と高いものの、第2表面抵抗率が3.0×10
13Ω/cm
2となり、耐光性に劣っていた。膜の外観は良好であった。
【0068】
比較例5では、(c)/(a)が0.005と低く、エポキシ樹脂に比べてシリコンアルコキシドが少な過ぎたため、膜の外観が不良であって、OD値が2.0と低く、高温耐湿試験前の第1表面抵抗率が5.0×10
13Ω/cm
2と高かったが、高温耐湿試験後の第1表面抵抗率が8.0×10
12Ω/cm
2であり、また第2表面抵抗率が3.0×10
13Ω/cm
2であり、いずれの表面抵抗率も低く、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0069】
比較例6では、(c)/(a)が1.8と高く、エポキシ樹脂に比べてシリコンアルコキシドが多過ぎたため、高温耐湿試験前後の第1表面抵抗率がともに2×10
14Ω/cm
2であって、耐湿性は良好であったが、シリコンアルコキシドの比率が高いことによる金属酸化物の比率が高くなったため、OD値が2.3と低く、第2表面抵抗率が4.0×10
13Ω/cm
2となり、耐光性に劣っていた。膜の外観は良好であった。
【0070】
比較例7では、((a)+(b)+(c))/(d)が0.005と低く、窒化ジルコニウム粉末に対して他の成分が少な過ぎ、窒化ジルコニウム膜の改質効果がなく、膜の外観は不良であって、OD値が2.0と低く、第1及び第2表面抵抗率が5×10
13Ω/cm
2以上にならず、耐湿性及び耐光性に劣っていた。
【0071】
比較例8は、((a)+(b)+(c))/(d)が0.3と高く、窒化ジルコニウム粉末に対して他の成分が多過ぎたため、第1及び第2表面抵抗率が5×10
13Ω/cm
2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.0と低かった。膜の外観は良好であった。
【0072】
比較例9は、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))が0.45と低く、膜中の窒化ジルコニウム成分が低いため、第1及び第2表面抵抗率が5×10
13Ω/cm
2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.3と低かった。膜の外観は良好であった。
【0073】
比較例10は、(d)/((a)+(b)+(c)+(d)+(e))が0.85と高く、膜中の窒化ジルコニウム成分が高過ぎたため、ジルコニウム成分の密着性が悪かった。これにより、第1及び第2表面抵抗率が5×10
13Ω/cm
2以上となり、耐湿性及び耐光性に優れていたが、OD値が2.0と低く、また膜の外観が不良であった。
【0074】
これに対して、実施例1〜15の試料は、本発明の第1の観点の要件を満たしているため、膜厚1.0μmのOD値が2.4以上であって可視光の遮光性能が高く、紫外線を透過するためパターニングに有利であることに加え、第1及び第2表面抵抗率は5×10
13Ω/cm
2以上であり、耐光性及び耐湿性の双方に優れ、耐候性を有し、また膜の外観も良好であることが判った。