(54)【発明の名称】評価方法、頭皮毛髪化粧料の選定方法、評価支援ツール、有効成分の候補物質のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料の製造方法、及び、被評価者を選別するスクリーニング方法
【課題】頭皮及び/又は毛髪に関する新規な評価方法、頭皮毛髪化粧料の選定方法、評価支援ツール、有効成分の候補物質のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料の製造方法、及び、被評価者を選別するスクリーニング方法の提供。
【解決手段】被評価者の毛髪のエイジングの進行程度を、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいて評価するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報を、毛髪のエイジングの進行程度に基づいて評価する。
前記毛髪のエイジングは、うねりを有する毛髪が多いほど進行していると評価されるものであるか、毛髪のうねりの程度が強いほど進行していると評価されるものであるか、うねりを有する毛髪が生じている頭部の部位が下方であるほど進行していると評価されるものであるか、の少なくともいずれかである、請求項1に記載の評価方法。
前記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報には、前記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が含まれる、請求項1または2に記載の評価方法。
請求項1から5のいずれか1項に記載の評価方法により得られる評価結果に応じて前記被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行う、頭皮毛髪化粧料の選定方法。
被評価者の毛髪のエイジングの進行程度の、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいた評価を支援するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報の、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度に基づいた評価を支援するための評価支援ツールであって、
頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準が表示される、
評価支援ツール。
少なくとも1回、有効成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、前記頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の前記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を比較する工程と、を含む有効成分の候補物質のスクリーニングによって選定される有効成分を配合する、
頭皮毛髪化粧料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、毛髪や頭皮の状態をさまざまな観点からの評価を可能とするべく、毛髪や頭皮に関する新たな評価方法が望まれている。
本発明は、上記事情に鑑み、頭皮及び/又は毛髪に関する新規な評価方法、頭皮毛髪化粧料の選定方法、評価支援ツール、有効成分の候補物質のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料の製造方法、及び、被評価者を選別するスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等が、頭皮細菌叢と毛髪の状態との関係について鋭意検討を行った結果、一般的には頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合は低いにも関わらず、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在が、被評価者の毛髪のエイジングの程度と関係していることを見出し、頭皮及び/又は毛髪に関する評価方法として当該関係を用いることに着目して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の評価方法では、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度を、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいて評価するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報を、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度に基づいて評価する。
【0007】
なお、上記評価方法における毛髪のエイジングは、うねりを有する毛髪が多いほど進行していると評価されるものであるか、毛髪のうねりの程度が強いほど進行していると評価されるものであるか、うねりを有する毛髪が生じている頭部の部位が下方であるほど進行していると評価されるものであるか、の少なくともいずれかであってよい。
【0008】
なお、上記評価方法では、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報には、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が含まれていてもよく、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報が、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合のみから構成されていてもよい。
【0009】
なかでも、上記評価方法においては、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準を用いて評価を行うことが好ましい。
【0010】
更に、上記評価方法においては、被評価者の年齢に応じた頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準を用いて評価を行うことが好ましい。当該評価方法によれば、より正確な評価を行うことが可能になる。
【0011】
また、本発明の頭皮毛髪化粧料の選定方法では、上記評価方法により得られる評価結果に応じて被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行うものである。このように、被評価者のエンテロコッカス属の細菌に関する情報を用いることで、当該被評価者に適した頭皮毛髪化粧料を選定することが可能となる。
【0012】
なお、上記頭皮毛髪化粧料の選定方法では、上記評価結果に基づいて抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を選定することが好ましい。被評価者のエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいて把握される毛髪のエイジングの進行程度に応じて、当該被評価者に適した頭皮毛髪化粧料を選定することが可能となる。
【0013】
また、本発明の評価支援ツールは、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度の、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいた評価を支援するか、又は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報の、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度に基づいた評価を支援するための評価支援ツールであって、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準が表示されるものである。
【0014】
この評価支援ツールでは、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準が表示されることで、把握された被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報と比較することが可能となるため、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度の評価が支援される。また、この評価支援ツールでは、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準が表示されるため、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度に基づいて、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を評価する場合に、被評価者の当該存在割合が比較基準よりも大きいか否かの評価を支援することが可能になる。
【0015】
また、本発明の有効成分の候補物質のスクリーニング方法は、少なくとも1回、有効成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、上記頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の上記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を比較する工程と、を備えるものである。このスクリーニング方法を用いることにより、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることが可能な有効成分の候補成分の選定が容易となる。
【0016】
また、本発明の頭皮毛髪化粧料の製造方法は、少なくとも1回、有効成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、上記頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の上記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を比較する工程と、を含む有効成分の候補物質のスクリーニングによって有効成分の選定を行う。そして、当該選定された有効成分を配合した頭皮毛髪化粧料を製造する。この頭皮毛髪化粧料の製造方法によれば、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることが可能な頭皮毛髪化粧料を得ることが可能となる。
【0017】
また、本発明の被評価者を選別するスクリーニング方法は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を確認する工程と、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準と、上記被評価者の上記存在割合と、を比較する工程と、を備えるものである。このスクリーニング方法を用いることにより、エンテロコッカス属の細菌の存在割合が比較基準よりも大きい者と小さい者とを選別することが容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る評価方法によれば、頭皮及び/又は頭皮に関する新規な評価方法が提供される。
本発明に係る頭皮毛髪化粧料の選定方法によれば、被評価者に適した頭皮毛髪化粧料を選定することが可能となる。
本発明に係る評価支援ツールによれば、上記新規な評価方法が支援される。
本発明に係る有効成分の候補物質のスクリーニング方法によれば、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることが可能な有効成分の候補成分の選定が容易となる。
本発明に係る頭皮毛髪化粧料の製造方法によれば、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることが可能な頭皮毛髪化粧料を得ることが可能となる。
本発明に係る被評価者を選別するスクリーニング方法によれば、エンテロコッカス属の細菌の存在割合が比較基準よりも大きい者と小さい者とを選別することが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態に係る評価方法、頭皮毛髪化粧料の選定方法、評価支援ツール、有効成分の候補物質のスクリーニング方法、頭皮毛髪化粧料の製造方法、及び、被評価者を選別するスクリーニング方法を例に挙げつつ説明するが、これらは特に発明を限定するものではない。なお、本発明において、用語「及び/又は」は両方又はいずれか一方を指す。
【0021】
(1)評価方法
(1−1)第1実施形態の評価方法
第1実施形態の評価方法は、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度を、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報に基づいて評価する方法である。
【0022】
(毛髪のエイジングおよびエイジング毛)
毛髪のエイジングは、うねりを有する毛髪が多いほど進行していると評価されるものであるか、毛髪のうねりの程度が強いほど進行していると評価されるものであるか、うねりを有する毛髪が生じている頭部の部位が下方であるほど進行していると評価されるものであるか、の少なくともいずれかとすることができるものである。
なお、毛髪のエイジングの評価において、毛髪のエイジングの進行の評価をより詳細なものとする観点から、うねりを有する毛髪が所定本数より多いこと、毛髪のうねりの程度が所定程度より強いこと、うねりを有する毛髪が生じている頭部の部位が所定部位より下方であること、のいずれも満たす場合に毛髪のエイジングが進行していると評価することが好ましく、頭部のうちの所定部位よりも下方の部位において所定程度よりも強いうねりを有する毛髪の本数が所定本数よりも多い場合に毛髪のエイジングが進行していると評価することがより好ましい。
【0023】
上述のうねりを有する毛髪(捻転毛)は、加齢に伴い観察され易くなることから、「エイジング毛」とも称される。このエイジング毛は、複数の毛髪の一部において生じ、周辺の他の毛髪とは形状が異なる異形の毛髪であり、そのうねりにより毛束中においても視認されやすい形状の毛髪である。
なお、加齢が進行するほどに、うねりを有する毛髪(エイジング毛)が増加する傾向がみられる。
【0024】
図1(A)は、S字状にうねったエイジング毛の一例を表すものであり、当該エイジング毛の比較対象となる非エイジング毛は、
図1(B)に示す形状のものである。
図1(C)は、
図1(A)のエイジング毛よりもうねりが際立つエイジング毛の一例であり、毛髪に太い部分と細い部分とが混在する。当該混在は、軟毛よりも硬毛において確認され易い。また、経験上、毛髪の根元や抜け毛の後に毛穴から生えてきた毛髪においてエイジング毛形状が確認されているから、エイジング毛特有のうねり形状は、根元で確認されやすいと考えられる。
【0025】
なお、エイジング毛は、1本1本の毛髪に個別に発現しうるものであり、その意味において一定本数の毛髪群が同様な形態にウェーブした、いわゆる癖毛やパーマ毛とは区別される。また、癖毛やパーマ毛等の非直線状の毛髪群中におけるエイジング毛は、その毛髪群の中でもうねり形状が際立つものである。
なお、加齢が進行するほどに、エイジング毛における毛髪のうねりの程度はより強くなる傾向がみられる。
【0026】
毛髪のエイジングは、頭部をトップ、ミドル及びネープの3つのセクションに分けた場合において、
図2(A)〜(D)の順で示すように、トップ、ミドル及びネープの順に進行する傾向があること、すなわち、うねりを有する毛髪が生じている頭部の部位が下方である程毛髪のエイジングが進行している傾向があることが確認されている。このため、例えば、トップの毛髪群及びミドルの毛髪群に留まらず、ネープの毛髪群においてまで多くのエイジング毛が確認される場合には、毛髪のエイジングがより進行していることになる。
【0027】
なお、トップとミドルとネープの3つのセクションの区分は、
図3に示すように、カット用語におけるスリーセクションの概念と同様のものである。具体的には、トップとは、オーバーとも呼ばれる部分であり、頭頂からテンプルポイントを通過する水平線の間の領域である。テンプルポイントとは、前髪の生え際の1番飛び出している部分のことである。ミドルとは、テンプルポイントを通過する水平線と、ぼんの窪みを通過する水平線との間の領域である。ぼんの窪みとは、後頭部のもっともくぼんだ部分のことである。ネープとは、ぼんの窪みを通過する水平線と、みつえりを通過する水平線との間の領域である。みつえりとは、えり足の両端の1番下がった部分のことである。
【0028】
(エンテロコッカス属の細菌に関する情報)
上記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報には、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が含まれていてもよく、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報が、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合のみから構成されていてもよい。頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいほど、被評価者の毛髪のエイジングが進行していると評価することができる。例えば、同年代の複数の被評価者を対象として頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を調べることで、当該存在割合が大きい被評価者ほど、被評価者の毛髪のエイジングが進行していると評価することができる。
【0029】
なお、毛髪が非常に短い場合等のようにうねりを有する毛髪の視認が困難な場合であっても、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きい被評価者ほど、将来的に毛髪が伸びた場合に、被験者の毛髪におけるエイジング毛が多くなることを予測評価することも可能である。
【0030】
また、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度の評価は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を、所定の比較基準と比較することで行ってもよい。ここで、被評価者の頭皮細菌叢の細菌の採取部位は、エイジング毛がトップから順に生じる傾向があるために、トップに対応する頭皮であることが好ましい。
当該比較基準となる所定の値は、特に限定されないが、例えば、後述する被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を示す比[(E)/(T)]が0の値、又は比[(E)/(T)]が0以上0.001以下の範囲のいずれかの値とすることができる。なお、比較基準となる所定の値を、比[(E)/(T)]に100を乗じて得られるパーセンテージ(%)の値で表す場合は、0%の値、又は0%以上0.1%以下の範囲のいずれかの値とすることができる。被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が上記比較基準よりも大きい場合には、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度が高いと評価することができる。
【0031】
なお、上記比較基準は、被評価者の年齢に応じた値であることが好ましい。本発明者らのモニター試験によれば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合は、20代から30代にかけて増大し、40代で減少傾向となった後、50代および60代で再度増大する傾向があることが確認された。したがって、被評価者の年齢に応じた比較基準を用いて評価することで、被評価者の頭皮及び/又は毛髪の状態のより正確な評価が可能になる。
【0032】
また、例えば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合に関する、10歳毎や5歳毎等の所定の年代毎の情報を予め用意しておき、被評価者について測定された頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を、当該被評価者が属する年代の情報と比較することで、被評価者の同年代中でのエンテロコッカス属の細菌の存在割合の位置づけを把握できるようにしてもよい。ここでの所定の年代毎の情報としては、特に限定されないが、例えば、各年代におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の平均値であってもよいし、中央値であってもよいし、複数に分けられた各ランクにおける平均値や偏差値であってもよい。
【0033】
(1−2)第2実施形態の評価方法
第2実施形態の評価方法は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報を、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度に基づいて評価する方法である。
なお、毛髪のエイジングおよびエイジング毛については、上記第1実施形態と同様である。
【0034】
上記被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報には、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が含まれていてもよく、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌に関する情報が、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合のみから構成されていてもよい。被評価者の毛髪のエイジングが進行しているほど被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいと評価することができる。例えば、同年代の複数の被評価者を対象として、被評価者の毛髪のエイジングの進行程度を調べることで、被評価者の毛髪のエイジングが進行しているほど頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいと評価することができる。
【0035】
被評価者の毛髪のエイジングの進行程度は、例えば、毛髪束を目視したときにエイジング毛が視認されるか否かに基づいて把握してもよい。より正確な評価を可能とするために、毛髪束にテンションを与えた状態でエイジング毛を視認するようにしてもよい。ここで、例えば、毛髪束において、外側に飛び出しているエイジング毛が所定本数以上確認されるときに毛髪のエイジングが進行していると判断し、上記所定本数未満であると毛髪のエイジングの進行程度が低いと判断することができる。上記所定本数としては、以下に述べる毛髪束を基準として、例えば50本以下であり、20本以下としても良く、典型的には10本程度である。
【0036】
ここで、毛髪束としては、例えば、
図4に示すように、頭部2を略正中線3で2分したときの一方の領域の毛髪群から構成される毛髪束1としてもよい。このように毛髪束を規定することで、当該診断方法を実行するときの毛髪束の基準が明確化され、毛髪のエイジング診断方法の基準の画一化を図ることが可能となる。なお、「正中線」とは、モヒカンラインとも呼ばれるセンターラインのことであり、具体的には、額からえり足までの範囲で頭部を左右対称に分けたときに真ん中を通るラインをいう。
【0037】
また、毛髪束としては、上述の毛髪束1に限られず、例えば、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、後頭部2の縦スライスにより得られる毛髪束7としてもよい。この毛髪束7は、後頭部2の正中線3を含む部分であり、その幅Wは、例えば0.5cm以上5cm以下であり、典型的には1cm以上2cm以下である。この場合、エイジング毛の多さの評価において基準となる所定本数は、毛髪束の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0038】
さらに、毛髪束としては、例えば、
図6(A)に示すようにトップを生え際とするトップ毛髪束と、
図6(B)に示すようにミドルを生え際とするミドル毛髪束と、
図6(C)に示すようにネープを生え際とするネープ毛髪束とに分け、これらの毛髪束のセクション毎にエイジング毛の視認を行うようにしてもよい。この場合においても、エイジング毛の多さの評価において基準となる所定本数は、毛髪束の大きさに応じて適宜設定することができる。なお、以下の記載において、上記のトップを生え際とするトップ毛髪束を「トップ毛髪群」と、上記のミドルを生え際とするミドル毛髪束を「ミドル毛髪群」と、上記のネープを生え際とするネープ毛髪束を「ネープ毛髪群」と、それぞれ表すことがある。
ここで、例えば、エイジング毛が多いほど、エイジング毛のうねりが強いほど、エイジング毛が生じている部位がトップよりもネープに近いほど、毛髪のエイジングが進行していると判断されるように、視認等により把握された各情報に対して重み付け処理してもよい。例えば、ネープにおいて確認された1本のエイジング毛はトップで確認された1本のエイジング毛よりも、毛髪のエイジングの進行程度の評価に与える影響が大きくなるように重み付け処理してもよいし、所定基準よりもうねりが強いエイジング毛については所定基準よりもうねりの弱いエイジング毛よりも毛髪のエイジングの進行程度の評価に与える影響が大きくなるように重み付け処理してもよい。
【0039】
なお、エイジング毛の毛髪のうねりの強さの判断では、例えば、周辺の非エイジング毛との違いの甚だしさに基づいて判断することが好ましく、なかでも、うねりが生じている部分の曲率が大きさや、うねりによって螺旋状になった毛髪の回転数の多さや、うねりが生じている部分にテンションを与えて直線状にした場合の長さの変化の程度等に基づいて判断することが好ましい。
【0040】
また、多くの被評価者を対象として、毛髪のエイジングの進行程度の参照比較基準と、当該参照比較基準に対応する頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準と、を互いに対応させた情報を予め取得しておいてもよい。これにより、被評価者について把握された毛髪のエイジングの進行程度を予め把握されている参照比較基準と比較することで、その被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が比較基準よりも大きいか又は小さいかを、その被評価者についてエンテロコッカス属の細菌の存在割合の測定を行わなくても、評価することが可能になる。
【0041】
なお、毛髪のエイジングの進行程度の参照比較基準は、10歳毎や5歳毎等の所定の年代毎の情報として予め設けておき、当該年代毎の参照比較基準に対応する頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準と、を互いに対応させた状態で予め把握しておいてもよい。これにより、被験者の年代に対応した情報を用いて評価をより正確に行うことが可能となる。
なお、以上の毛髪のエイジングの進行程度の参照比較基準としては、毛髪のエイジングの進行程度別の画像データであってもよいし、毛髪のエイジングの進行程度を所定の数式により表した値であってもよい。
【0042】
また、毛髪のエイジングの進行程度の評価において、例えば、毛髪のエイジングの進行程度に応じたランク分けを行っても良い。上記ランク分けにおいて、ランクの数やランク分けの条件は、毛髪のエイジングの進行程度に合わせて、適宜設定できる。
例えば、上記ランク分けを、次の[1]、[2]の順で行ってもよい。
[1]被験者の毛髪を、
図6(A)〜(C)にそれぞれ示すように、トップ毛髪群と、ミドル毛髪群と、ネープ毛髪群とに分け、これらの毛髪群のセクション毎にエイジング毛の視認を行う。
[2]被験者の毛髪が、
図2(A)で示す程度の毛髪状態(トップ毛髪群、ミドル毛髪群、及びネープ毛髪群にエイジング毛が観察されない)をランク「0」とし、
図2(B)で示す程度の毛髪状態(トップ毛髪群にエイジング毛が観察され、ミドル毛髪群及びネープ毛髪群にはエイジング毛が観察されない)をランク「1」とし、
図2(C)で示す程度の毛髪状態(トップ毛髪群及びミドル毛髪群にエイジング毛が観察され、ネープ毛髪群にはエイジング毛が観察されない)をランク「2」とし、
図2(D)で示す程度の毛髪状態(トップ毛髪群、ミドル毛髪群、及びネープ毛髪群にエイジング毛が観察される)をランク「3」として、「0」〜「3」の4段階にランク分けする。
【0043】
上記第1実施形態及び第2実施形態の各評価方法によって、頭皮及び/又は毛髪に関する評価方法を提供することができる。なお、当該評価方法は、美容目的で用いることができる。
【0044】
(1−3)用語について
上記第1実施形態及び第2実施形態の各評価方法の説明において用いた用語に関し、以下の通り詳述する。
【0045】
頭皮細菌叢とは、頭皮に存在する一群の細菌の集合を意味する。頭皮細菌叢は、例えば、評価対象部位とする頭皮の一部の領域から粘着テープ等の適宜の手段により採取した検体を用いて、次世代DNAシークエンサーを用いた16S rRNAシークエンス法によって解析することができる。
【0046】
上記評価対象部位とする頭皮の一部の領域としては、例えば、頭皮におけるトップ、ミドル、ネープの各部を用いることができるが、目視で観察しやすい部位であるトップを評価対象部位とすることが好ましく、日常生活での日光に含まれる紫外線暴露の影響を小さく抑える観点から、分け目やつむじ周囲を除くトップを評価対象部位とすることが好ましい。なお、評価の客観性を高める観点から、比較の際には同じ評価対象部位同士を比較することが好ましい。
【0047】
頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌とは、頭皮細菌叢に存在するエンテロコッカス(Enterococcus)属の細菌を意味する。頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌は、例えば、上記16S rRNAシークエンス法による頭皮細菌叢の解析結果をパイプライン解析ツールにより細菌の属(genus)レベルで分析することで、解析できる。
【0048】
頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合とは、頭皮細菌叢の解析によって取得された解析結果から得られる頭皮細菌叢の全細菌(T)に対するエンテロコッカス属の細菌(E)の比[(E)/(T)]を意味する。より具体的には、上記16S rRNAシークエンス法による頭皮細菌叢の解析結果を、パイプライン解析ツールを用いて細菌の属(genus)レベルで分析した結果を解析して求められる比[(E)/(T)]をいう。
なお、頭皮細菌叢の全細菌(T)に対するエンテロコッカス属の細菌の存在割合は、上記の比[(E)/(T)]に100を乗じて得られるパーセンテージ(%)の値として表しても良い。
【0049】
(2)頭皮毛髪化粧料の選定方法
頭皮毛髪化粧料の選定方法は、上述した第1実施形態の評価方法又は第2実施形態の評価方法により得られる評価結果に応じて被評価者に対して推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行う方法である。
例えば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいと評価された被評価者に対しては、毛髪のエイジングの進行を抑制させることが可能な成分が配合された頭皮毛髪化粧料を選定してその使用を推奨することや、毛髪のエイジングを進行させてしまう可能性のある成分を含む頭皮毛髪化粧料の使用を差し控えるように推奨することができる。
ここで、「頭皮毛髪化粧料」とは、頭皮及び/又は毛髪に用いられる化粧料を意味する。
【0050】
なお、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きさの程度に応じて薦める頭皮毛髪化粧料や使用を差し控える頭皮毛髪化粧料を、予め区別して一覧表として用意しておき、当該一覧表を用いて推奨する頭皮毛髪化粧料の選定を行うようにしてもよい。
また、毛髪のエイジングが進行していると評価された被評価者に対しては、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きい傾向にあることから、上記と同様にして頭皮毛髪化粧料の選定等を行うようにしてもよい。
【0051】
また、上述した第1実施形態の評価方法又は第2実施形態の評価方法により得られる評価結果に基づいて抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料を選定することが好ましい。
より具体的には、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいと評価された被評価者に対しては、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料の使用を薦め、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が小さいと評価された被評価者に対しては、抗菌剤が配合された頭皮毛髪化粧料に限らない頭皮毛髪化粧料の使用を薦めることができる。
【0052】
上記抗菌剤とは、細菌の増殖を抑制・阻害及び/又は細菌を殺菌する成分を意味する。
そのような抗菌剤としては、例えば、安息香酸又はその塩、ウンデシレン酸、サリチル酸、ソルビン酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、パラオキシ安息香酸エステル(例えば、パラオキシ安息香酸メチル又はその塩、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル等)、メチルクロロイソチアゾリノン、メチルイソチアゾリノン、2?メチル?4?イソチアゾリン?3?オン、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール又はその塩、パラクロロフェノール、チオビスクロロフェノール、クレゾール、p−クロロ−m−クレゾール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロルフェネシン、クロルキシレノール、ジクロルキシレノール、ジクロロベンジルアルコール、チモール、クロルチモール、トリクロロカルバニリド、トリクロロヒドロキシフェニルエーテル、クロフルカルバン、フェネチルアルコール、フェノキシエタノール、ヘキサクロロフェン、第4級アンモニウム塩(例えば、ステアルトリモニウムクロリド、セトリモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、ラウリルトリモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリドなど)、アルキル(C12−14)ジアミノエチルグリシン塩酸塩、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム、感光素101号、感光素201号、感光素401号、ヨウ化パラジメチルアミノスチリルヘプチルメチルチアゾリウム、ヒノキチオール、(銀/銅)ゼオライト、グルタラール、クロラミンT、クロルヘキシジン、イセチオン酸ジブロモプロパミジン、ジンクピリチオン、ピロクトンオラミン、ピリチオンナトリウム、5−ブロモ−5−ニトロ−1,4−ジオキサン、ポリアミノプロピルビグアニドなどが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
頭皮毛髪化粧料における抗菌剤の配合量は、適宜設定すればよく、エンテロコッカス属の細菌の存在割合の低下に有利であることから、0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましい。また、抗菌剤の配合量は、皮膚刺激を抑える観点から、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、上記評価結果に応じて、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が大きいと評価された被評価者ほど、抗菌剤の頭皮毛髪化粧料における配合量が多くなるように配合量を定めてもよい。
【0054】
なお、上述した頭皮毛髪化粧料としては、例えば、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント(例えば、洗い流さないトリートメント、洗い流すトリートメント、整髪兼用トリートメント、多剤式トリートメントの一構成剤、パーマの前処理のためのトリートメント、パーマの後処理のためのトリートメント、カラーリングの前処理のためのトリートメント、カラーリングの後処理のためのトリートメント、ブリーチの前処理のためのトリートメント、ブリーチの後処理のためのトリートメント)、整髪剤、育毛剤等が挙げられる。
このような頭皮毛髪化粧料の剤型は、例えば、液状、クリーム状、ゲル状、フォーム状(泡状)、霧状が挙げられる。
【0055】
上記頭皮毛髪化粧料には、頭皮毛髪化粧料の原料として公知のものとして、例えば、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、高級アルコール、多価アルコール、低級アルコール、糖類、エステル油、油脂、脂肪酸、炭化水素、ロウ、シリコーン、高分子化合物、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、無機化合物、香料、金属イオン封鎖剤、紫外線吸収剤などを配合することができる。
【0056】
(3)評価支援ツール
評価支援ツールは、上記第1実施形態の評価方法における評価を支援するか又は上記第2実施形態の評価方法における評価を支援するための評価支援ツールであって、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準が表示されるものである。
【0057】
上記評価支援ツールとしては、特に限定されるものではなく、例えば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準となる情報が掲載された頭皮及び/又は毛髪の状態を説明するためのシート、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合に応じて推奨される頭皮毛髪化粧料の種類が掲載されたパンフレット、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準となる情報を画面表示可能な情報端末や当該情報端末において用いられる各種データ及びプログラム、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合に応じて推奨される頭皮毛髪化粧料の種類を画面表示可能な情報端末や当該情報端末において用いられる各種データ及びプログラム等が挙げられる。
【0058】
さらに、上記評価支援ツールとしては、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合と、毛髪のエイジングの進行程度と、が対応するようにして掲載された頭皮及び/又は毛髪の状態を説明するためのシート、更に対応する頭皮毛髪化粧料の種類が掲載されたパンフレット、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合と、毛髪のエイジングの進行程度と、を対応させた情報が表示出力可能に格納されている情報端末や当該情報端末において用いられる各種データ及びプログラム、更に対応する頭皮毛髪化粧料の種類の情報が表示出力可能に格納されている情報端末や当該情報端末において用いられる各種データ及びプログラム等が挙げられる。
【0059】
なお、上記評価支援ツールとしての情報端末は、特に限定されないが、例えば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合と、毛髪のエイジングの進行程度との対応一覧表等を表示するディスプレイ、各種情報演算処理を行うCPU、RAM、被評価者の評価の際に用いる各種データやプログラム等が格納されるROM等の記録手段、ユーザからの情報入力を受けるタッチパネル又はキーボード等の入力手段等を有し、インターネット等のネットワークを介した通信が可能となるように構成されたものを挙げることができる。ここで、被評価者の評価の際に用いる各種データは、評価支援ツールの記録手段に予め格納されていてもよいし、ネットワークを介した通信を行うことで外部のサーバ等から入手して格納するように評価支援ツールが構成されていてもよい。この情報端末としては、例えば、記憶手段に上記年代毎の情報が格納されている場合には、入力手段を介して受け付けた被評価者の年代情報に基づいて、対応する上記年代の情報をCPUが記録手段から読み出してディスプレイに表示出力させるものであってもよい。
【0060】
(4)有効成分の候補物質のスクリーニング方法
有効成分の候補物質のスクリーニング方法は、少なくとも1回、有効成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を比較する工程と、を備えるものである。なお、ここでの頭皮及び/又は毛髪を処理する回数としては、1回に限られず、例えば、30回、90回等の所定回数とすることができる。
ここで、有効成分の候補物質は、頭皮毛髪化粧料に配合可能な公知の成分であってもよい。なお、頭皮及び/又は毛髪に処理する方法は、通常行いうる適宜の方法で行えば良い。
【0061】
有効成分の候補物質を用いた頭皮及び/又は毛髪の処理を行うことで、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることができるものがあれば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させるという効果を得るのに有利な有効成分として候補物質を選定することができる。
なお、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の低下程度が大きいものほど、上記効果を十分に得られるものとして選定してもよい。
【0062】
(5)頭皮毛髪化粧料の製造方法
頭皮毛髪化粧料の製造方法は、以下の有効成分の候補物質のスクリーニングによって選定される有効成分を配合させることで頭皮毛髪化粧料を製造する方法である。有効成分の候補物質のスクリーニングでは、少なくとも1回、有効成分の候補物質を用いて被評価者の頭皮及び/又は毛髪を処理する工程と、頭皮及び/又は毛髪を処理する工程の前後の被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を比較する工程と、を含む。なお、ここでの頭皮及び/又は毛髪を処理する回数としては、1回に限られず、例えば、30回、90回等の所定回数とすることができる。
ここで、有効成分の候補物質は、頭皮毛髪化粧料に配合可能な公知の成分であってもよい。なお、頭皮及び/又は毛髪に処理する方法は、通常行いうる適宜の方法で行えば良い。
また、上記の頭皮毛髪化粧料を製造する方法としては、頭皮毛髪化粧料の用途、剤型等に応じて、通常用いられ得る公知の頭皮毛髪化粧料の製造方法を採用すればよい。
【0063】
有効成分の候補物質を用いた頭皮及び/又は毛髪の処理を行うことで、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させることができるものがあれば、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を低下させるという効果を得るのに有利な有効成分として選定することができる。
なお、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の低下程度が大きいものほど、上記効果を十分に得られるものとして選定してもよい。ここでのエンテロコッカス属の細菌の存在割合の低下程度の検討においても、有効成分の候補物質のスクリーニング方法が行われる被評価者の年代に関する存在割合に基づいたものとすることが好ましい。
【0064】
(6)被評価者を選別するスクリーニング方法
被評価者を選別するスクリーニング方法は、被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合を確認する工程と、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準と被評価者の存在割合とを比較する工程と、を備えるものである。
【0065】
確認された被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が比較基準よりも大きい場合には、当該比較基準となる者よりも、毛髪のエイジングが進行した被評価者であるとして選別することができ、確認された被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合が比較基準よりも小さい場合には、当該比較基準となる者よりも、毛髪のエイジングの進行程度が低い被評価者であるとして選別することができる。これにより、選別された被評価者に応じた頭皮毛髪化粧料の提案等のカウンセリングが可能になる。
【0066】
なお、上記被評価者の選別においては、確認された被評価者の頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合の比較基準からの乖離度合いの大きさに応じた選別を行うようにしてもよい。
また、頭皮細菌叢におけるエンテロコッカス属の細菌の存在割合について比較基準と被評価者の測定値とを比較する工程においても、被評価者の年代に関する存在割合の比較基準を用いて比較を行うことが好ましい。
【実施例】
【0067】
ヘルシンキ宣言に則り、倫理委員会の承認を得た同意書に同意した20歳から79歳までの254名の被験者(モンゴロイドに分類される日本人女性)を対象に、トップのうちの分け目とつむじの周囲以外の頭皮から粘着テープを用いて頭皮細菌叢を採取した。
【0068】
採取した各頭皮細菌叢の試料を、次の[1]〜[4]に示す手順に従い、16S rRNAシークエンス法にて解析した。
[1]粘着テープから採取した頭皮細菌叢の核酸を常法により抽出した。
[2]抽出後の核酸を用いて、PCR法を用いて16S rRNA遺伝子の増幅を行った。
[3]増幅した上記16S rRNA遺伝子を用いて、次世代シークエンサー(Illumina社製のMilseq(商品名))により、16S rRNA遺伝子のDNA解析を行った。
[4]得られた解析結果から、解析ツールのQIIMEを用いて、採取した頭皮細菌叢における各種細菌の属(genus)レベルの存在割合を求めた。
【0069】
上記被験者それぞれについて、毛髪の評価を日常的に行う評価者による毛髪のエイジングの進行程度の評価(官能評価)を行った。具体的には、被験者の毛髪を
図6(A)〜(C)にそれぞれ示すように、トップ毛髪群と、ミドル毛髪群と、ネープ毛髪群とに分け、これらの毛髪群のセクション毎にエイジング毛の視認を行った。そして、被験者の毛髪が、
図2(A)で示す程度の毛髪状態(被験者のトップ毛髪群、ミドル毛髪群、及びネープ毛髪群にエイジング毛が観察されない)の場合を「0」とし、
図2(B)で示す程度の毛髪状態(被験者のトップ毛髪群にエイジング毛が観察され、ミドル毛髪群及びネープ毛髪群にはエイジング毛が観察されない)の場合を「1」とし、
図2(C)で示す程度の毛髪状態(被験者のトップ毛髪群及びミドル毛髪群にエイジング毛が観察され、ネープ毛髪群にはエイジング毛が観察されない)の場合を「2」とし、
図2(D)で示す程度の毛髪状態(被験者のトップ毛髪群、ミドル毛髪群、及びネープ毛髪群にエイジング毛が観察される)の場合を「3」として、各被験者の毛髪のエイジングの進行程度を「0」〜「3」のいずれかに評価した。
【0070】
以上の各被験者の頭皮細菌叢情報と毛髪のエイジングの進行程度とを用いて、R(統計解析ソフトウェア)を用いて、年齢の影響を排除した偏相関による重回帰分析を行った。その結果、求められた重相関係数rは0.45(p値は0.0002)であり、エンテロコッカス属の存在割合と毛髪のエイジングの進行程度には、正の相関があることが確認された。毛髪のエイジングの進行程度に対するエンテロコッカス属の存在割合の散布図を
図7に示す。
【0071】
一般に、頭皮細菌叢における細菌の存在割合としては、アクネ菌等のプロピオニウムバクテリウム属とコリネバクテリウム属とブドウ球菌属で全体の90%近く占めるのが通常であり、エンテロコッカス属の存在割合はそもそも通常0.5%未満であり(なお、エンテロコッカス属の存在割合が0%の場合もある)、多くて数%程度の存在割合しかないものである。このように存在割合が低いにも関わらず、上述のように、毛髪のエイジングの進行程度とは相関が見られることが明らかとなった。
【0072】
なお、頭皮細菌叢において、エンテロコッカス属と同程度に、通常の存在割合が低いものとしては、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)や、エンハイドロバクター属(Enhydrobacter属)等がある。ストレプトコッカス属及びエンハイドロバクター属について、各被験者の頭皮細菌叢情報と毛髪のエイジングの進行程度とを用いて、R(統計解析ソフトウェア)を用いて、年齢の影響を排除した偏相関による重回帰分析を行った。その結果、ストレプトコッカス属の存在割合と毛髪のエイジングの進行程度についての重相関係数rは−0.024(p<0.001)であり、エンハイドロバクター属の存在割合と毛髪のエイジングの進行程度についての重相関係数rは0.010(p<0.001)であった。そのため、ストレプトコッカス属の存在割合と毛髪のエイジングの進行程度と、エンハイドロバクター属の存在割合と毛髪のエイジングの進行程度とは、いずれも重相関係数rが0.1未満であり、相関がみられないことが分かる。
図7と同様にして得られた散布図を、ストレプトコッカス属について
図8に、エンハイドロバクター属について
図9にそれぞれ示す。