【課題】電極活物質と電解液とを含む電極活物質スラリーを用いて電極を作製しても、電池内部抵抗を低減でき、充放電特性に優れるリチウムイオン電池を安定して製造することができるリチウムイオン電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】正極、セパレータ及び負極がこの順に積層されたリチウムイオン電池の製造方法であって、正極活物質と電解液とを含み、該電解液の電解質濃度が3〜4mol/Lである正極活物質スラリーを正極集電体に塗工して上記正極を得る工程と、負極活物質と電解液とを含み、該電解液の電解質濃度が0.1〜2mol/Lである負極活物質スラリーを負極集電体に塗工して上記負極を得る工程と、上記正極と上記負極とを、上記セパレータを介して対向して配置する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
前記正極集電体及び前記負極集電体が、樹脂組成物を成形した樹脂集電体であって、前記樹脂組成物が樹脂と導電性フィラーとを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、正極活物質と電解液とを含み、該電解液の電解質濃度が2.5〜4mol/Lである正極活物質スラリーを正極集電体に塗工して上記正極を得る工程を有する。
【0011】
[正極活物質]
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO
2、LiNiO
2、LiAlMnO
4、LiMnO
2及びLiMn
2O
4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO
4、LiNi
1−xCo
xO
2、LiMn
1−yCo
yO
2、LiNi
1/3Co
1/3Al
1/3O
2及びLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiM
aM’
bM’’
cO
2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4及びLiNiPO
4)、遷移金属酸化物(例えばMnO
2及びV
2O
5)、遷移金属硫化物(例えばMoS
2及びTiS
2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ−p−フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0012】
正極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜35μmであることがより好ましく、2〜30μmであることがさらに好ましい。
本明細書において、体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0013】
正極活物質は、導電助剤及び被覆用樹脂で被覆された被覆正極活物質であることが好ましい。
正極活物質の周囲が被覆用樹脂で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0014】
導電助剤としては、金属系導電助剤[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、炭素系導電助剤[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物として用いられてもよい。
なかでも、電気的安定性の観点から、より好ましくはアルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、炭素系導電助剤及びこれらの混合物であり、さらに好ましくは銀、金、アルミニウム、ステンレス及び炭素系導電助剤であり、特に好ましくは炭素系導電助剤である。
またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料[好ましくは、上記した導電助剤のうち金属のもの]をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0015】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0016】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01〜10μm程度であることが好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0017】
被覆用樹脂と導電助剤の比率は特に限定されるものではないが、電池の内部抵抗等の観点から、重量比率で被覆用樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤が1:0.01〜1:50であることが好ましく、1:0.2〜1:3.0であることがより好ましい。
【0018】
被覆用樹脂としては、特開2017−054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0019】
[電解液]
電解液としては、電解質及び溶媒を含む。
【0020】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAsF
6、LiClO
4及びLiN(FSO
2)
2等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2及びLiC(CF
3SO
2)
3等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSO
2)
2である。
【0021】
溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0022】
ラクトン化合物としては、5員環(γ−ブチロラクトン及びγ−バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ−バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0023】
環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート及びジ−n−プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0024】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン及び1,4−ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2−ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0025】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2−エトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン、2−トリフルオロエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン及び2−メトキシエトキシ−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状カーボネート、鎖状カーボネート及びリン酸エステルであり、更に好ましいのはラクトン化合物、環状カーボネート及び鎖状カーボネートであり、特に好ましいのは環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0027】
また、溶媒の内、電極の耐久性を好適に付与する観点から、電解液の全溶媒に対する環状カーボネートの体積比率が、50体積%以上であることが好ましく、70体積%以上であることが更に好ましい。
【0028】
正極活物質スラリーにおいて、電解液の電解質濃度は2.5〜4mol/Lである。
正極活物質スラリーにおいて、このような電解液を用いることにより、正極活物質スラリーが固液分離を起こしたり、導電助剤が凝集したりすることを抑制することができるので、耐久性に優れたリチウムイオン電池用正極、電池内部抵抗を低減でき、充放電特性に優れたリチウムイオン電池を安定して得ることができる。
正極活物質スラリーにおいて、電解液の電解質濃度は3.0〜4.0mol/Lであることが好ましく、3.2〜4.0mol/Lであることが更に好ましい。
【0029】
正極活物質スラリーは、被覆正極活物質に含まれる導電助剤以外にも導電助剤を含んでもよい。
導電助剤としては、上述した被覆正極活物質に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
炭素系導電助剤は、正極活物質スラリーの固液分離や導電助剤の凝集を抑制する観点及び正極の電子抵抗を低減する観点から、正極活物質スラリーの全固形分に対して、0.1〜10重量%であることが好ましく、3〜7重量%であることが更に好ましい。
なお、炭素系導電助剤の含有量は、正極活物質スラリーの全固形分に対する含有量であり、被覆正極活物質に含まれる炭素系導電助剤の含有量と、被覆正極活物質以外に含まれる炭素系導電助剤の含有量を合計した含有量である。
【0030】
正極活物質スラリーは、例えば、上述した材料を混合し、混錬することにより得ることができる。
【0031】
[正極集電体]
正極活物質スラリーは、正極集電体上に付与されることにより、正極活物質層を形成することができる。
正極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
正極集電体としては、軽量化、耐食性の観点から、樹脂組成物を成形した樹脂集電体であって、樹脂組成物が樹脂と導電性フィラーとを含み、樹脂中に導電性フィラーが分散されていることが好ましい。
正極集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
正極集電体の厚さは、特に限定されないが、10〜200μmであることが好ましい。
【0032】
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
樹脂集電体を構成する導電性フィラーとしては例えば、被覆正極活物質の任意成分である導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0033】
正極活物質スラリーを正極集電体に塗工する方法としては、例えば、正極活物質スラリーを、正極集電体上にバーコーター等の塗工装置で塗布後、必要により不織布を活物質上に静置して吸液すること等で、溶媒を除去し、必要によりプレス機でプレスする方法等が挙げられる。
【0034】
正極の厚みは、電池性能の観点から、150〜600μmであることが好ましく、200〜450μmであることがより好ましい。
【0035】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、負極活物質と電解液とを含み、該電解液の電解質濃度が0.1〜2mol/Lである負極活物質スラリーを負極集電体に塗工して上記負極を得る工程を有する。
なお、上述した正極を得る工程と、負極を得る工程は、何れの工程を先に行っても、同時に行ってもよい。
【0036】
[負極活物質]
負極としては、負極活物質、導電助剤及び集電体等を含むものが挙げられる。
負極活物質としては、公知のリチウムイオン電池用負極活物質が使用でき、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素−炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素−アルミニウム合金、珪素−リチウム合金、珪素−ニッケル合金、珪素−鉄合金、珪素−チタン合金、珪素−マンガン合金、珪素−銅合金及び珪素−スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム−スズ合金、リチウム−アルミニウム合金及びリチウム−アルミニウム−マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
また、負極活物質は、上述した被覆正極活物質と同様の被覆樹脂により被覆されていてもよい。
また、導電助剤は、上述した被覆正極活物質と同様の導電助剤を好適に用いることができる。
【0037】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、2〜20μmであることがさらに好ましい。
負極活物質の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法ともいう)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。レーザー回折・散乱法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法であり、体積平均粒子径の測定には、日機装株式会社製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0038】
負極活物質スラリーにおいて、電解液の電解質濃度は0.1〜2mol/Lである。
負極活物質スラリーにおいて、電解液の電解質濃度は0.4〜2mol/Lであることが好ましく、0.8〜1.8mol/Lであることが更に好ましい。
なお、電解液としては、上述した正極活物質スラリーで記載した電解質及び溶媒と同様のものを好適に用いることができる。
【0039】
負極活物質スラリーは、例えば、上述した材料を混合し、混錬することにより得ることができる。
【0040】
[負極集電体]
負極活物質スラリーは、負極集電体上に付与されることにより、負極活物質層を形成することができる。
負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。
負極集電体としては、軽量化、耐食性の観点から、樹脂組成物を成形した樹脂集電体であって、樹脂組成物が樹脂と導電性フィラーとを含み、樹脂中に導電性フィラーが分散されていることが好ましい。なお、樹脂集電体としては、上述した正極集電体で記載したものと同様のものが挙げられる。
負極集電体の厚さは、特に限定されないが、10〜200μmであることが好ましい。
【0041】
負極活物質スラリーを負極集電体に塗工する方法としては、例えば、負極活物質スラリーを、負極集電体上にバーコーター等の塗工装置で塗布後、必要により不織布を活物質上に静置して吸液すること等で、溶媒を除去し、必要によりプレス機でプレスする方法等が挙げられる。
【0042】
負極の厚みは、電池性能の観点から、150〜600μmであることが好ましく、200〜450μmであることがより好ましい。
【0043】
[セパレータ]
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、正極と負極とを、セパレータを介して対向して配置する工程を有する。
【0044】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0045】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池の製造方法では、正極と負極とを、セパレータを介して対向して配置し、セル容器に収納し、セル容器を密封することでリチウムイオン電池を得ることができる。なお、セルを容器に収納する際には、必要に応じて、電解液を注入してもよい。
また、集電体の一方の面に正極を形成し、もう一方の面に負極を形成してバイポーラ(双極)型電極を作製し、バイポーラ(双極)型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも得られる。
【0046】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、電池内部抵抗を低減でき、優れた充放電特性を好適に付与する観点から、電解質濃度が1.5〜3.5mol/Lの電解液を有するリチウムイオン電池の製造方法であることが好ましい。
なお、上記電解質濃度は、リチウムイオン電池を作製し、該リチウムイオン電池内の電解液の電解質濃度が均一化した後、遠心分離等で電解液を抽出し、得られた電解液をLi−NMRでLi塩濃度を定量することにより測定することができる。
【0047】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法において、正極集電体及び負極集電体が、樹脂組成物を成形した樹脂集電体であって、樹脂組成物が樹脂と導電性フィラーとを含むことが好ましい。
このような構成にすることにより、リチウムイオン電池を軽量化でき、耐食性を好適に付与することができる。
【実施例】
【0048】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0049】
以下の実施例で使用した材料は下記の通りである。
【0050】
[製造例1:電解液の作製]
<電解液(E−1)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を4.0mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−1)を準備した。
【0051】
<電解液(E−2)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を3.0mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−2)を準備した。
【0052】
<電解液(E−3)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を2.0mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−3)を準備した。
【0053】
<電解液(E−4)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を1.5mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−4)を準備した。
【0054】
<電解液(E−5)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を1.0mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−5)を準備した。
【0055】
<電解液(E−6)の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO
2)
2を0.3mol/Lの割合で溶解させて電解液(E−6)を準備した。
【0056】
[製造例2:正極活物質スラリーの作製]
<被覆用樹脂を構成する高分子化合物の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル10.0部、アクリル酸90.0部及びDMF50部を配合した単量体組成物と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.3部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.8部をDMF30部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度30%の共重合体溶液を得た。得られた共重合体溶液はテフロン(登録商標)製のバットに移して150℃、0.01MPaで3時間の減圧乾燥を行いDMFを留去して共重合体を得た。この共重合体をハンマーで粗粉砕した後、乳鉢にて追加粉砕して、粉末状の高分子化合物を得た。
【0057】
<被覆正極活物質の作製>
電極活物質粉末(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、得られた高分子化合物をDMFに3.0重量%の濃度で溶解して得られた高分子化合物溶液10.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.2部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を得た。
【0058】
<正極活物質スラリー1の作製>
上記被覆正極活物質99部と電解液(E−1)46部と炭素繊維[昭和電工(株)製VGCF:平均繊維長10μm、平均繊維径150nm]1部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、正極活物質スラリー1を作製した。
【0059】
<正極活物質スラリー2の作製>
電解液(E−2)を用いたこと以外は、正極活物質スラリー1と同様の方法により、正極活物質スラリー2を作製した。
【0060】
<正極活物質スラリー3の作製>
電解液(E−3)を用いたこと以外は、正極活物質スラリー1と同様の方法により、正極活物質スラリー3を作製した。
【0061】
<正極活物質スラリーの貯蔵安定性>
正極活物質スラリー1〜3を作製直後にМicrоtrac社製マイクロトラックMT3000により粒度分布測定した。正極活物質スラリー1〜3作製直後の粒度分布では、粒子径20〜100μm領域に存在する粒子の割合はいずれも0%以上、0.5%未満であった。
その後、正極活物質スラリー1〜3を温度25℃、露点−45℃環境下で12時間静置後にも粒度分布測定を実施した。静置後の粒度分布のうち、粒子径20〜100μm領域に存在する粒子の割合を貯蔵安定性の指標とした。粒子径20〜100μmの粗大粒子は、正極活物質及び/又は導電助剤の凝集によるものと推定され、この割合が多いことは貯蔵安定性が悪いことを意味する。
◎:0%以上、0.5%未満
〇:0.5%以上、1%未満
×:1%以上
【0062】
[製造例3:負極活物質スラリーの作製]
<被覆負極活物質の作製>
負極活物質として難黒鉛化性炭素[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F)]100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、高分子化合物(P−1)をDMFに5.0重量%の濃度で溶解して得られた高分子化合物溶液6.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤としてアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]5.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質を得た。
【0063】
<負極活物質スラリー1の作製>
上記被覆負極活物質98部と電解液(E−5)46部と炭素繊維[昭和電工(株)製VGCF:平均繊維長10μm、平均繊維径150nm]2部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、負極活物質スラリー1を作製した。
【0064】
<負極活物質スラリー2の作製>
電解液(E−4)を用いたこと以外は、負極活物質スラリー1と同様の方法により、負極活物質スラリー2を作製した。
【0065】
<負極活物質スラリー3の作製>
電解液(E−1)を用いたこと以外は、負極活物質スラリー1と同様の方法により、負極活物質スラリー3を作製した。
【0066】
<負極活物質スラリー4の作製>
電解液(E−3)を用いたこと以外は、負極活物質スラリー1と同様の方法により、負極活物質スラリー4を作製した。
【0067】
<負極活物質スラリー5の作製>
電解液(E−6)を用いたこと以外は、負極活物質スラリー1と同様の方法により、負極活物質スラリー5を作製した。
【0068】
[製造例4:樹脂集電体1の作製]
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名:「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、厚みが200μmの樹脂集電体用導電性フィルムを得た。次いで、得られた樹脂集電体用導電性フィルムを60mm×60mmとなるように切断し、樹脂集電体1を得た。
【0069】
(実施例1)
正極活物質スラリー1を温度25℃、露点−45℃環境下に1時間静置した後に、樹脂集電体1の片面に塗布し、0.9MPaの圧力で約10秒プレスし、厚みが250μmの用正極(50mm×40mm)を作製した。
その一方で、負極活物質スラリー1を温度25℃、露点−45℃環境下に1時間静置した後に、樹脂集電体1の片面に塗布し、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、厚さが350μmの負極(52mm×42mm)を作製した。
得られた正極及び負極を、セパレータ(セルガード製#3501)を介して配置し、樹脂集電体の外周部をシール材が介した状態で真空シールした。得られた構造物を銅箔タブが付いたアルミラミネートフィルムで両面を覆い、再度、外周部を真空シールすることでリチウムイオン電池を作製した。
【0070】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
正極活物質スラリー1及び/又は負極活物質スラリー1を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0071】
<リチウムイオン電池の電解質濃度>
得られたリチウムイオン電池について、25℃環境下で12時間静置した後、遠心分離機を用いて電解液を抽出した。得られた電解液をLi−NMRでLi塩を定量することにより、リチウムイオン電池の電解質濃度を測定した。
【0072】
<リチウムイオン電池評価>
(電池内部抵抗の測定)
25℃に温調した恒温槽内で、充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]を用いてリチウムイオン電池の充放電を実施した。
0.1Cの電流で電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電した。
0.1C放電時における放電0秒後の電圧及び電流、並びに、0.1Cにおける放電10秒後の電圧及び電流を測定し、以下の式により電池内部抵抗(Ω・cm
2)を算出した。電池内部抵抗の数値が小さいほど電池性能が良好であることを示す。
[内部抵抗(Ω)]×[電極面積(cm
2)]={[(0.1Cにおける放電0秒後の電圧)−(0.1Cにおける放電10秒後の電圧)]/[(0.1Cにおける放電0秒後の電流)−(0.1Cにおける放電10秒後の電流)]}×[電極面積(cm
2)]
【0073】
(放電レート特性)
上記電気内部抵抗の測定と同様にして、リチウムイオン電池の充放電を実施した。
1サイクル目は、0.1Cの電流で電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電した。
2サイクル目は、0.1Cの電流で電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、1Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電し、10分間の休止後にさらに0.1Cの電流値で電池電圧2.5Vまで放電した。2サイクル目に得られた1C放電容量と0.1C放電容量の比率[(2サイクル目1C放電容量)/(2サイクル目0.1C放電容量)×100]から放電レート特性(%)を評価した。放電レート特性の数値が大きいほど電池性能が良好であることを示す。
なお、2サイクル目の放電は、1C放電後に0.1C放電を実施しているので、0.1C放電容量は、すでに放電している1C放電容量に追加で放電した0.1C放電容量を足した値を用いた。
【0074】
(100サイクル容量維持率)
上記電気内部抵抗の測定と同様にして、リチウムイオン電池の充放電を実施した。
1サイクル目は、0.1Cの電流で電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、0.1Cの電流で電池電圧を2.5Vまで放電し、初回充放電容量を測定した。
その後、初回充放電と同様の条件で100サイクル充放電を実施し、初回放電容量に対する100サイクル目放電容量の割合[(100サイクル目放電容量)/(初回放電容量)×100]から100サイクル容量維持率(%)を評価した。100サイクル容量維持率の数値が大きいほど電池性能が良好であることを示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1より、正極活物質スラリー1及び2は、貯蔵安定性に優れることが確認された。
このような貯蔵安定性に優れる正極活物質スラリーを用い、所定の範囲に電解質濃度が制御された負極活物質スラリーを用いた実施例1〜3では、電池内部抵抗を低減でき、放電レート特性及び100サイクル容量維持率に優れたリチウムイオン電池を得ることができることが確認された。
一方で、電解質濃度が高い負極活物質スラリー3を用いた比較例1では、電池内部抵抗が高く、放電レート特性においても劣っていた。また、電解質濃度が低い正極活物質スラリー3は、貯蔵安定性に劣っており、このような正極活物質スラリーを用いた比較例2では、放電レート特性及び100サイクル容量維持率において劣っていた。