【実施例1】
【0021】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(a)は、主に下部電極12、上部電極16および振動抑制層28を図示している。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10および空隙30上に、下部電極12が設けられている。基板10は例えばシリコン(Si)基板であり、下部電極12は例えばルテニウム(Ru)膜である。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30(空気層)が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。
【0023】
下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14は例えばC軸方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする。圧電膜14は下部圧電膜14aと下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bとを備えている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は例えばルテニウム膜である。積層膜18は、下部電極12、圧電膜14および上部電極16を含む。
【0024】
共振領域50は、圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16が平面視において重なる領域で規定される。共振領域50の平面形状は略楕円形である。共振領域50の外周51に囲まれた領域を領域58とする。実施例1では、共振領域50と領域58とは一致する。領域58の中心60を含む中央領域52の下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に振動抑制層28が設けられている。振動抑制層28は共振領域50の外周51を含む周縁領域54には設けられていない。すなわち、振動抑制層28は、平面視において共振領域50の外周51から離れて設けられている。
【0025】
共振領域50は、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。振動抑制層28が設けられた中央領域52は、弾性波の振動が抑制される。例えば、中央領域52の共振周波数は、周縁領域54の共振周波数から大きく異なる。
【0026】
基板10としては、シリコン基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、Ru以外にもクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる
【0027】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO
3)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0028】
振動抑制層28は、圧電膜14のヤング率より小さいヤング率を有する。振動抑制層28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅、チタン、白金、タンタルまたはクロム等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0029】
共振周波数が約2.5GHzの圧電薄膜共振器おける各層の材料および厚さについて例示する。下部電極12、圧電膜14および上部電極16は例えば厚さが180nmのルテニウム膜、厚さが1μmの窒化アルミニウム膜および厚さが160nmのルテニウム膜である。振動抑制層28は例えば圧電膜14の厚さ方向の中央に設けられた厚さが100nmの酸化シリコン膜である。共振領域50の面積は5000μm
2から30000μm
2である。
【0030】
HPUE(High Power User Equipment)の対応、およびCA(Carrier Aggregation)の対応により、圧電薄膜共振器には高耐電力化が求められている。下部電極12と上部電極16との間に大電力の高周波信号が印加されると、共振領域50内の中心60付近の積層膜18の温度が上昇する。特に、空隙30が設けられていると共振領域50内の積層膜18の熱は外周51を経由して放熱されるため、共振領域50の中心60付近の積層膜18の温度が最も高くなる。これにより、共振領域50の中心60付近の積層膜18が損傷しやすくなる。例えば下部電極12および上部電極16との界面の剥離、または下部電極12および上部電極16の損傷が生じ易くなる。
【0031】
実施例1では、共振領域50の中心60を含む中央領域52に振動抑制層28を設けることで、中央領域52における発熱を抑制できる。よって、下部電極12と上部電極16との間に大電力の高周波信号が印加されても積層膜18の損傷が抑制され、圧電薄膜共振器の高耐電力化が可能となる。
【0032】
共振領域50の中心60付近では、横モードの弾性波の定在波が干渉し強め合う。特に共振領域50の外周51が曲線の場合、中心60付近の定在波が強くなる。これにより、積層膜18が損傷しやすくなり耐電力が低下する。そこで、中心60を含む中央領域52に振動抑制層28を設けることで、積層膜18の損傷が抑制され、圧電薄膜共振器の高耐電力化が可能となる。また、定在波を弱めることでスプリアスを抑制できる。共振領域50の平面形状が略楕円形の場合、楕円形の焦点62付近に定在波が集中する。よって、中心60および/または焦点62を含む中央領域52に振動抑制層28を設けることが好ましい。
【0033】
[実施例1の変形例1]
図2(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA−A断面図である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、共振領域50の外周51を含み外周51に沿った外周領域56の下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜26が設けられている。挿入膜26は中央領域52を囲むように設けられ、中央領域52から平面方向に離れて設けられている。挿入膜26の材料は振動抑制層28に例示した材料と同じであり、挿入膜26のヤング率は圧電膜14のヤング率より小さい。
【0034】
挿入膜26を設けることで、平面方向に伝搬する弾性波が共振領域50の外に漏洩することを抑制し、損失を抑制できる。挿入膜26は、中央領域52を囲む少なくとも一部の領域に設けられていればよい。
【0035】
下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜26を設けることで、振動抑制層28と挿入膜26とを同時に形成できる。これにより、製造工程を省略できる。この場合、振動抑制層28の主成分と挿入膜26の主成分とは同じとなり、振動抑制層28の厚さと挿入膜26の厚さとは略同じとなる。振動抑制層28と挿入膜26の材料は異なっていてもよい。
【0036】
[実施例1の変形例2]
図3(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図3(b)は、
図3(a)のA−A断面図である。
図3(a)および
図3(b)に示すように、実施例1の変形例2では、中央領域52に上部電極16は設けられておらず、凹部53が形成されている。これにより、中央領域52では弾性波の振動が抑制される。
【0037】
共振領域50は周縁領域54を含み中央領域52を含まない。よって、共振領域50の外周51に囲まれた領域58と共振領域50とは一致しない。領域58の平面形状は略楕円形であり、中央領域52は略楕円形の中心60および焦点62を含む。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0038】
[実施例1の変形例3]
図4(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図4(a)に示すように、実施例1の変形例3では中央領域52に上部電極16および上部圧電膜14bが設けられていない。これにより、中央領域52に凹部53が設けられている。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0039】
実施例1の変形例2および3のように、領域58の中心60および/または焦点62を含む中央領域52には下部電極12、圧電膜14および上部電極16のうち少なくとも1つが設けられていなくてもよい。これにより、中央領域52は共振領域50ではなくなり、弾性波が共振しない。よって、圧電薄膜共振器の高耐電力化が可能となる。また、中央領域52は共振領域50に含まれなくなるため圧電薄膜共振器の静電容量が小さくなり、電気機械結合係数を大きくできる。実施例1の変形例1のように、挿入膜26が設けられている場合に、中央領域52に下部電極12、圧電膜14および上部電極16のうち少なくとも1つが設けられていなくてもよい。
【0040】
[実施例1の変形例4]
図4(b)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図4(b)に示すように、実施例1の変形例4では振動抑制層28が圧電膜14と上部電極16との間に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0041】
[実施例1の変形例5]
図4(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図4(c)に示すように、実施例1の変形例5では振動抑制層28が下部電極12と圧電膜14との間に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0042】
実施例1の変形例4および5のように、振動抑制層28は、圧電膜14に挿入されていればよい。実施例1の変形例1から3においても振動抑制層28は圧電膜14に挿入されていればよい。弾性波の振動を抑制する観点からは実施例1のように、振動抑制層28は下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に設けられていることが好ましい。
【0043】
[実施例1の変形例6]
図5は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図5に示すように、実施例1の変形例6では、領域58の平面形状は略楕円形である。領域58が略楕円形の場合、略楕円形の中心60付近は外周51から遠く発熱しやすい。また、焦点62には横モードの定在波が集中しやすい。よって、中心60と2個の焦点62のそれぞれに3個の振動抑制層28を設ける。これにより、耐電力性を向上できる。複数の振動抑制層28を設けることで、領域58内の振動抑制層28の割合を小さくでき、小型化が可能となる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0044】
[実施例1の変形例7]
図6は、実施例1の変形例7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図6に示すように、実施例1の変形例7では、領域58の平面形状は略円形である。領域58が略円形の場合、略円形の中心60付近は外周51から遠く発熱しやすい。また、中心60には横モードの定在波が集中しやすい。よって、中心60付近に振動抑制層28を設けることで、耐電力性を向上できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0045】
[実施例1の変形例8]
図7は、実施例1の変形例8に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図7に示すように、実施例1の変形例8では、領域58の平面形状は略多角形である。領域58の平面形状が略多角形の場合、略多角形の中心60(重心)付近は外周51から遠く発熱しやすい。また、中心60には横モードの定在波が集中しやすい。よって、中心60付近に振動抑制層28を設けることで、耐電力性を向上できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
実施例1の変形例7および8のように、領域58の平面形状は任意に設定できる。振動抑制層28は領域58の重心に設けることが好ましい。実施例1の変形例1から6においても領域58の平面形状を任意にできる。振動抑制層28は領域58の平面形状の重心に設けることが好ましい。
【0047】
[実施例1の変形例9]
図8(a)は、実施例1の変形例9における圧電薄膜共振器の断面図である。
図8(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0048】
[実施例1の変形例10]
図8(b)は、実施例1の変形例10における圧電薄膜共振器の断面図である。
図8(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31bと音響インピーダンスの高い膜31aとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0049】
実施例1およびその変形例1から8において、実施例1の変形例9と同様に空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例10と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0050】
実施例1およびその変形例1から9のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例10のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域50を含む音響反射層は、空隙30または音響反射膜31を含めばよい。
【0051】
実施例1およびその変形例によれば、振動抑制層28は、共振領域50(第1領域)の外周51で囲われた領域で規定される領域58(第2領域)内の中央領域52の圧電膜14に挿入され、領域58内の周縁領域54に設けられておらず、圧電膜14内の振動を抑制する。これにより、高耐電力化が可能となる。
【0052】
実施例1およびその変形例1、4から10のように、共振領域50と領域58とは一致してもよい。実施例1の変形例2および3のように、中央領域52に上部電極16は設けられていなくてもよい。これにより、静電容量を削減できる。
【0053】
振動抑制層28は、領域58の平面形状の重心を含む。これにより、高耐電力化がより可能となる。
【0054】
実施例1およびその変形例1から6、9、10のように、振動抑制層28の平面形状は略楕円形であり、振動抑制層28は、略楕円形の中心60および/または焦点62を含む。これにより、高耐電力化がより可能となる。
【0055】
振動抑制層28が設けられた領域は共振に寄与しない。よって、振動抑制層28の面積が大きくなると圧電薄膜共振器が大型化してしまう。そこで、実施例1およびその変形例1から5、7から10のように、振動抑制層28は領域58内に1個のみ設けられていることが好ましい。これにより、小型化が可能となる。
【0056】
領域58の平面形状が略楕円形の場合、実施例1およびその変形例1から5、9および10のように、領域58内には中心60および焦点62を含む1つの振動抑制層28のみが設けられ、領域58内に他の振動抑制層28は設けられていなくてもよい。実施例1の変形例6のように、領域58内には中心60および焦点62を含む2または3つの振動抑制層28が設けられ、領域58内に他の振動抑制層28は設けられていなくてもよい。また、振動抑制層28は中心60を含み焦点62を含まなくてもよいし、焦点62の少なくとも1つを含み中心60を含まなくてもよい。これにより、小型化が可能となる。
【0057】
振動抑制層28の平面形状の面積は領域58の面積の1/2以下が好ましく、1/4以下がより好ましく、1/10以下がさらに好ましい。これにより圧電薄膜共振器を小型化できる。振動抑制層28の平面形状の面積は領域58の面積の1/100以上が好ましい。これにより、高耐電力化がより可能となる。
【0058】
振動抑制層28のヤング率は圧電膜14のヤング率より小さい。これにより、振動がより抑制され、高耐電力がより可能となる。
【0059】
実施例1およびその変形例1から9のように、平面視において、領域58と重なり、領域58より大きい空隙30が基板10と下部電極12との間に設けられている。この場合、共振領域50の中心60付近の積層膜18が高温となる。よって、振動抑制層28を設けることで、高耐電力化がより可能となる。