【解決手段】音響信号の中域周波数成分からなる中域信号は、時系列的に整列する多数サンプルの振幅情報により構成されている。周波数圧縮手段320は、全体のサンプル数をn倍に増やすことにより、中域信号の中域周波数成分を構成する振幅情報の周波数を1/nに圧縮して、中域信号の周波数成分を低域信号の低域周波数成分へと変化させた圧縮信号を生成する。振動信号生成手段500は、低域信号の低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルより低い場合、音響信号の低域周波数成分からなる低域信号に、圧縮信号を合成して振動信号を生成し、低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルより高い場合、低域信号をそのまま用いて振動信号を生成する。振動出力手段SWは、生成された振動信号に基づいて、振動を出力する。
前記低域用包絡線信号に対して微分処理を行うことにより、前記低域信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記低域信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出し、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を抑制することにより、前記低域信号に対してエッジ処理を行う低域用エッジ処理手段を有し、
前記振動信号生成手段は、前記低域用エッジ処理手段により前記エッジ処理された低域信号に基づいて前記振動信号を生成すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動出力装置。
前記圧縮用包絡線信号に対して微分処理を行うことにより、前記圧縮信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記圧縮信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出し、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を抑制することにより、前記圧縮信号に対してエッジ処理を行う圧縮用エッジ処理手段を有し、
前記振動信号生成手段は、前記圧縮用エッジ処理手段により前記エッジ処理された圧縮信号に基づいて前記振動信号を生成すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の振動出力装置。
ユーザにより調整された前記音響信号の音量レベルを取得し、当該音響信号の音量レベルの調整範囲に比べて調整範囲を狭くした振動信号用の振動レベル範囲から、前記音量レベルに対応する振動レベルを決定する振動レベル決定手段を有し、
前記振動信号生成手段は、前記振動レベル決定手段により決定された前記振動レベルを、前記振動信号に乗算することにより、前記振動信号の振動レベル調整を行うこと
を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の振動出力装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
音あるいは振動をユーザが体感する場合、ユーザは、聴覚により音を感じ取り、触覚により振動を感じ取る。人間の触覚のダイナミックレンジは、聴覚のダイナミックレンジと異なっている。
図22(b)は、聴覚により音を感じ取ることが可能な条件およびダイナミックレンジと、触覚により振動を感じ取ることが可能な条件およびダイナミックレンジとを示した表1である。
【0007】
図22(b)の表1に示すように、人間が聴覚により音を聴取することが可能な音圧レベルSPL(Sound Pressure Level:可聴レベル)は、0dB〜120dBである。一方で、人間が触覚により振動を体感する場合には、皮膚等に存在する機械受容器の一種であるマイスナー小体によって振動の検出が行われる。マイスナー小体で検出可能な変位量は、10μm〜1mmである。この点で、人間が認識可能な音のレベルと振動のレベルとの基準が大きく異なっている。
【0008】
また、人間が上述した条件を満たす音および振動を認識する場合であっても、それぞれの音および振動における周波数範囲とレベル差(相対レベル差)によって、認識できるかどうかが異なってくる。
【0009】
人間が聴覚によって音を認識できる周波数のダイナミックレンジは、約20Hz〜20,000Hzであり、この周波数範囲を超えると聴覚的に音を認識することができない。また、人間が音の違いを認識することが可能なレベル差のダイナミックレンジは約120dBである。一方で、人間が触覚によって振動を認識することができる周波数のダイナミックレンジは約10Hz〜150Hzであり、振動の違いを認識することが可能なレベル差のダイナミックレンジは、約40dBである。
【0010】
このように、人間が聴覚によって認識可能な周波数およびレベル差のダイナミックレンジと、触覚によって認識可能な周波数およびレベル差のダイナミックレンジとに、大きな違いがある。
【0011】
スピーカから音を出力する目的で音源から出力される音響信号は、聴覚のダイナミックレンジに対応する周波数およびレベル差に設定されている。触覚により振動を認識可能なレベル差のダイナミックレンジは、聴覚により音を認識可能なレベル差のダイナミックレンジよりも狭い。このため、同じ音響信号を用いてフルレンジスピーカから音を出力すると共に、サブウーハから振動を出力すると、ユーザが聴覚で音を認識する感度に比べて、触覚で振動を認識する感度が弱くなってしまうという問題があった。つまり、音響信号を用いて振動を発生させると、ユーザが音響信号を音として体感する場合の体感レベルに比べて、振動として体感する場合の体感レベルの方が小さくなってしまうおそれがあった。
【0012】
また、触覚により振動を認識可能な周波数のダイナミックレンジは、聴覚により音を認識可能な周波数のダイナミックレンジよりも低い。このため、音響信号を用いて振動を発生させても、触覚により振動を体感可能な周波数成分が音響信号の周波数範囲にあまり含まれていない場合には、聴覚によって音を認識することはできても、触覚により振動を認識することが難しくなってしまうという問題があった。
【0013】
今日では、映画やゲーム等の映像に対して、音や振動を強調して出力することにより臨場感のある鑑賞環境を提供するシアターシステムやゲームシステムが提供されている。このようなシアターシステムやゲームシステムでは、映画やゲームの音楽や効果音に基づいて、音と振動とを発生させることが多い。このため、ユーザが音と振動とを一体として効果的に体感できるか否かが、音響信号の周波数やレベル差のダイナミックレンジに依存してしまう。つまり、音響信号の音響特性に左右されてしまうという問題があった。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ユーザに対して振動を効果的に体感させることが可能な振動出力装置および振動出力用プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る振動出力装置は、音響信号の低域周波数成分を抽出して低域信号を生成する低域信号生成手段と、前記音響信号の中域周波数成分を抽出して中域信号を生成する中域信号生成手段と、前記中域信号は、時系列的に整列する多数サンプルの振幅情報により構成され、該振幅情報の隣接するサンプル間に内挿用の振幅情報を追加して全体のサンプル数をn倍に増やすことにより、前記中域信号の前記中域周波数成分を構成する前記振幅情報の周波数を1/nに圧縮して、前記中域信号の周波数成分を前記低域信号の前記低域周波数成分へと変化させた圧縮信号を生成する周波数圧縮手段と、前記低域信号に対して積分処理を行うことにより低域用包絡線信号を算出する低域用包絡線信号算出手段と、前記低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルより低い場合には、前記低域信号に前記圧縮信号を合成して振動信号を生成し、前記低域用包絡線信号の信号レベルが前記所定の閾値レベルより高い場合には、前記低域信号をそのまま用いて振動信号を生成する振動信号生成手段と、該振動信号生成手段によって生成された前記振動信号に基づいて、振動を出力する振動出力手段とを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る振動出力用プログラムは、振動信号に基づいて振動出力手段より振動を出力させる振動出力装置の振動出力用プログラムであって、制御手段に、音響信号の低域周波数成分を抽出させて低域信号を生成させる低域信号生成機能と、前記音響信号の中域周波数成分を抽出させて中域信号を生成させる中域信号生成機能と、前記中域信号は、時系列的に整列する多数サンプルの振幅情報により構成され、該振幅情報の隣接するサンプル間に内挿用の振幅情報を追加して全体のサンプル数をn倍に増やすことにより、前記中域信号の前記中域周波数成分を構成する前記振幅情報の周波数を1/nに圧縮させて、前記中域信号の周波数成分を前記低域信号の前記低域周波数成分へと変化させた圧縮信号を生成させる周波数圧縮機能と、前記低域信号に対して積分処理を行わせることにより低域用包絡線信号を算出させる低域用包絡線信号算出機能と、前記低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルより低い場合には、前記低域信号に前記圧縮信号を合成して前記振動信号を生成させ、前記低域用包絡線信号の信号レベルが前記所定の閾値レベルより高い場合には、前記低域信号をそのまま用いて前記振動信号を生成させる振動信号生成機能と、該振動信号生成機能によって生成された前記振動信号に基づいて、前記振動出力手段より前記振動を出力させる振動出力機能とを実現させる振動出力用プログラムであることを特徴とする。
【0017】
ここで、所定の閾値レベルは、低域信号に圧縮信号を合成することなく低域信号をそのまま用いて振動信号を生成して、振動出力手段から振動を出力させた場合に、ユーザに対して十分な大きさの振動を体感させることが可能な、低域用包絡線信号の最小の信号レベルを意味している。
【0018】
一般的に、聴覚によりユーザが音を体感することが可能な音響信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジに比べて、触覚によりユーザが振動を体感することが可能な振動信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジの方が狭くなる傾向がある。
【0019】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルよりも低い場合に、低域信号に圧縮信号を合成して振動信号を生成し、振動の出力を行う振動出力手段へ振動信号を出力する。
【0020】
低域用包絡線信号は、低域信号の信号レベル変化を示している。低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルよりも低い場合には、音響信号の信号レベルに対して、低域信号の信号レベルが低い傾向があり、低域信号の信号レベル変化だけでは、ユーザに対して効果的に振動を体感させることが難しい場合がある。
【0021】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、周波数圧縮処理により、音響信号の中域周波数成分からなる信号の信号レベルを、低域信号の低域周波数成分へと変化させた圧縮信号を生成する。圧縮信号を低域信号に合成することにより、音響信号における中域周波数成分の信号レベル変化を、ユーザが振動として体感することが可能な低域周波数成分の信号レベル変化として補強することができる。従って、ユーザが十分に認識することが可能な強さの振動を発生させることができ、ユーザにおける振動の体感感度を高めることが可能になる。
【0022】
さらに、低域用包絡線信号の信号レベルが所定の閾値レベルよりも低い場合であって、音響信号の信号レベルに対して、低域信号の信号レベルが低いときには、ユーザが音響信号を音として体感する場合の聴覚感度に比べて、ユーザが振動信号を振動として体感する触覚感度が劣ってしまい、音による体感レベルと振動による体感レベルとのバランスを損うおそれがある。
【0023】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、低域信号に圧縮信号を合成して、低域周波数成分の信号レベルを補強することにより、ユーザが音として体感する聴覚感度と、振動として体感する触覚感度とのバランスを適切に調整することが可能となる。従って、音と振動との一体感を高めることが可能になり、違和感のない音と振動との出力を行うことが可能になる。
【0024】
上述した振動出力装置は、前記圧縮信号に対して積分処理を行うことにより圧縮用包絡線信号を算出する圧縮用包絡線信号算出手段と、前記圧縮用包絡線信号の信号レベルから前記低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値に応じて、重み量を決定する重み量決定手段とを有し、前記振動信号生成手段は、前記低域用包絡線信号の信号レベルが前記所定の閾値レベルより低い場合に、前記重み量決定手段により決定された重み量を前記圧縮信号に乗算し、乗算された該信号を前記低域信号に合成することにより前記振動信号を生成するものであってもよい。
【0025】
上述した振動出力用プログラムは、前記制御手段に、前記圧縮信号に対して積分処理を行わせることにより圧縮用包絡線信号を算出させる圧縮用包絡線信号算出機能と、前記圧縮用包絡線信号の信号レベルから前記低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値に応じて、重み量を決定させる重み量決定機能とを実現させるものであって、前記振動信号生成機能において、前記低域用包絡線信号の信号レベルが前記所定の閾値レベルより低い場合には、前記重み量決定機能により決定された重み量を前記圧縮信号に乗算し、乗算された該信号を前記低域信号に合成させることにより前記振動信号を生成させるものであってもよい。
【0026】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、圧縮信号の信号レベル変化を示す圧縮用包絡線信号の信号レベルから低域信号の信号レベル変化を示す低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値に基づいて重み量を決定する。圧縮用包絡線信号の信号レベルから低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値が大きくなるほど、圧縮信号の信号レベルに比べて、低域信号の信号レベルが弱くなり、振動として体感可能な低域周波数成分が、振動として体感しにくい中域周波数成分よりも少ないと判断され得る。一方で、減算した値が小さくなるほど、圧縮信号の信号レベルに対して、低域信号の信号レベルが大きくなり、振動として体感可能な低域周波数成分が比較的多く音響信号に含まれていると判断することができる。
【0027】
このため、圧縮用包絡線信号の信号レベルから低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値に応じて、重み量を決定することにより、圧縮用包絡線信号の信号レベルから低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値が大きくなるに従って、低域信号に対する圧縮信号の信号レベルを高く設定することができる。これにより、中域周波数成分の信号レベルを低域周波数成分へ周波数圧縮させて、より多く低域周波数帯域へシフトさせることができる。従って、より広い周波数範囲の信号レベル変化を、ユーザが振動として体感できるように調整することが可能になる。
【0028】
また、圧縮用包絡線信号の信号レベルから低域用包絡線信号の信号レベルを減算した値が小さくなるに従って、低域信号に対する圧縮信号の信号レベルを低く設定することができる。これにより、周波数圧縮された中域周波数成分の信号レベルが、低域周波数成分へ多くシフトしてしまうことを抑制することができる。従って、低域周波数成分の信号レベルが過剰に増強されてしまうことを防止することができる。
【0029】
上述した振動出力装置は、前記低域用包絡線信号に対して微分処理を行うことにより、前記低域信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記低域信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出し、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を抑制することにより、前記低域信号に対してエッジ処理を行う低域用エッジ処理手段を有し、前記振動信号生成手段は、前記低域用エッジ処理手段により前記エッジ処理された低域信号に基づいて前記振動信号を生成するものであってもよい。
【0030】
上述した振動出力用プログラムは、前記制御手段に、前記低域用包絡線信号に対して微分処理を行わせることにより、前記低域信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記低域信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出させ、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記低域信号の振幅値を抑制させることにより、前記低域信号に対してエッジ処理を行わせる低域用エッジ処理機能を実現させるものであって、前記振動信号生成機能において、前記低域用エッジ処理機能により前記エッジ処理された低域信号に基づいて前記振動信号を生成させるものであってもよい。
【0031】
聴覚によりユーザが体感する音の認識感度(レベル変化感度)に比べて、触覚によりユーザが体感する振動の認識感度(レベル変化感度)は鈍くなる傾向がある。本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、立ち上がりタイミングにおいて低域信号の振幅値を増大させ、立ち下がりタイミングにおいて低域信号の振幅値を抑制させて、低域信号にエッジ処理を行う。このエッジ処理により、触覚によりユーザが体感する振動の認識感度を高めることが可能になり、聴覚によりユーザが体感する音の認識感度との感度差を補正して、音と振動との一体感をより一層高めることが可能になる。また、振動信号にメリハリを加えることができ、抑揚の付加された振動を振動出力手段から出力することが可能になる。
【0032】
また、上述した振動出力装置は、前記圧縮用包絡線信号に対して微分処理を行うことにより、前記圧縮信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記圧縮信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出し、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を抑制することにより、前記圧縮信号に対してエッジ処理を行う圧縮用エッジ処理手段を有し、前記振動信号生成手段は、前記圧縮用エッジ処理手段により前記エッジ処理された圧縮信号に基づいて前記振動信号を生成するものであってもよい。
【0033】
また、上述した振動出力用プログラムは、前記制御手段に、前記圧縮用包絡線信号に対して微分処理を行わせることにより、前記圧縮信号の振幅が急激に増加する立ち上がりタイミングと前記圧縮信号の振幅が急激に収束する立ち下がりタイミングとの少なくとも一方を検出させ、前記立ち上がりタイミングを検出した場合には、当該立ち上がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を増大させ、前記立ち下がりタイミングを検出した場合には、当該立ち下がりタイミングにおける前記圧縮信号の振幅値を抑制させることにより、前記圧縮信号に対してエッジ処理を行わせる圧縮用エッジ処理機能を実現させるものであって、前記振動信号生成機能において、前記圧縮用エッジ処理機能により前記エッジ処理された圧縮信号に基づいて前記振動信号を生成させるものであってもよい。
【0034】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、立ち上がりタイミングにおいて圧縮信号の振幅値を増大させ、立ち下がりタイミングにおいて圧縮信号の振幅値を抑制させて、圧縮信号にエッジ処理を行う。このエッジ処理により、触覚によりユーザが体感する振動の認識感度を高めることが可能になり、聴覚によりユーザが体感する音の認識感度との感度差を補正して、音と振動との一体感をより一層高めることが可能になる。また、振動信号にメリハリを加えることができ、抑揚の付加された振動を振動出力手段から出力することが可能になる。
【0035】
上述した振動出力装置は、ユーザにより調整された前記音響信号の音量レベルを取得し、当該音響信号の音量レベルの調整範囲に比べて調整範囲を狭くした振動信号用の振動レベル範囲から、前記音量レベルに対応する振動レベルを決定する振動レベル決定手段を有し、前記振動信号生成手段は、前記振動レベル決定手段により決定された前記振動レベルを、前記振動信号に乗算することにより、前記振動信号の振動レベル調整を行うものであってもよい。
【0036】
上述した振動出力用プログラムは、前記制御手段に、ユーザにより調整された前記音響信号の音量レベルを取得させ、当該音響信号の音量レベルの調整範囲に比べて調整範囲を狭くした振動信号用の振動レベル範囲から、前記音量レベルに対応する振動レベルを決定させる振動レベル決定機能を実現させるものであって、前記振動信号生成機能において、前記振動レベル決定機能により決定された前記振動レベルを、前記振動信号に乗算させることにより、前記振動信号の振動レベル調整を行わせるものであってもよい。
【0037】
聴覚によりユーザが音を体感することが可能な音響信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジに比べて、触覚によりユーザが振動を体感することが可能な振動信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジは、狭くなる傾向がある。
【0038】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、ユーザにより調整された音響信号の音量レベルにおける調整範囲に比べて調整範囲を狭くした振動信号用の振動レベル範囲から、対応する振動レベルを決定する。決定された振動レベルを振動信号に乗算することにより、振動と音との信号レベル差のダイナミックレンジの違いを考慮したレベル調整を行うことが可能となる。このように、音の信号レベルと振動の振動レベルとのレベル調整を行うことによって、音と振動との一体感を高めることが可能となり、違和感のない音と振動との出力を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、周波数圧縮処理により、音響信号の中域周波数成分からなる信号の信号レベルを、低域信号の低域周波数成分へと変化させた圧縮信号を生成する。圧縮信号を低域信号に合成することにより、音響信号における中域周波数成分の信号レベル変化を、ユーザが振動として体感することが可能な低域周波数成分の信号レベル変化として補強することができる。従って、ユーザが十分に認識することが可能な強さの振動を発生させることができ、ユーザにおける振動の体感感度を高めることが可能になる。
【0040】
さらに、本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、音響信号の信号レベルに対して低域信号の信号レベルが低いときに、低域信号に圧縮信号を合成して、低域周波数成分の信号レベルを補強することにより、ユーザが音として体感する聴覚感度と、振動として体感する触覚感度とのバランスを適切に調整することが可能となる。従って、音と振動との一体感を高めることが可能になり、違和感のない音と振動との出力を行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る振動出力装置の一例を示し、詳細に説明を行う。
図1は、振動出力装置の一例を示したブロック図である。
【0043】
[振動出力装置]
振動出力装置1は、
図1に示すように、ダウンサンプリング部100と、低域処理部200と、中域処理部300と、音量調節部(振動レベル決定手段)400と、重み合成部(振動信号生成手段)500と、アップサンプリング部600とを有している。
図1に示す、ダウンサンプリング部100と、低域処理部200と、中域処理部300と、音量調節部400と、重み合成部500と、アップサンプリング部600とは、図示を省略した振動出力装置1のCPUがソフトウェアによって所定の処理を実行するための機能ブロックを示したものである。
【0044】
具体的に、振動出力装置1は、CPU(Central Processing Unit:中央処理部、制御手段)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、記憶手段とを備えている(図示省略)。ROMには、振動出力装置1においてCPUが実行する処理内容を示したプログラムが記録されている。RAMはCPUが処理を実行する場合に用いられるワークエリアとして利用される。記憶手段は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などが該当し、処理に必要なデータ等を記録する。なお、CPUが処理を実行する場合に用いられるプログラムは、ROMでなく、記憶手段に記録されていてもよい。CPUがROMに記録されているプログラムに基づいて処理を実行することによって、上述した機能部としてそれぞれの処理を実行する。
【0045】
また、振動出力装置1には、
図1に示すように、音源再生部10と、ボリューム設定部20と、第1増幅部31と、第2増幅部32と、フルレンジスピーカSP1,SP2と、サブウーハ(振動出力手段)SWとが接続されている。
【0046】
[音源再生部]
音源再生部10とは、振動出力装置1に対して音響信号を出力する装置である。音源再生部10として、例えば、CDやDVD等に記録された映像や音の音響信号(入力信号)を振動出力装置1に対して出力するCDプレーヤや、DVDプレーヤ等を用いることができる。
【0047】
音源再生部10より出力される音響信号は、ダウンサンプリング部100と音量調節部400とへそれぞれ出力される。なお、音源再生部10より出力される音響信号は、右チャンネル用の音響信号と、左チャンネル用の音響信号との2種類の信号である。それぞれのチャンネル用の音響信号は、フルレンジスピーカSP1,SP2とサブウーハSWとのそれぞれに入力されて、それぞれのスピーカから音や振動が別々に出力される。
【0048】
[ボリューム設定部]
ボリューム設定部20は、音源再生部10により出力された音響信号の音量レベルを調節する装置である。例えば、一般的な音量の設定つまみ機構などが該当する。ボリューム設定部20で音量を設定することによって、フルレンジスピーカSP1,SP2より出力される音の音量を調節することが可能になる。
【0049】
[フルレンジスピーカSP1,SP2およびサブウーハSW]
フルレンジスピーカSP1,SP2およびサブウーハSWは、シートに設置される。フルレンジスピーカSP1,SP2は、高域および中域の音を出力するスピーカであり、例えば、シートのヘッドレスト付近に左右対称になるようにして設置される。サブウーハSWは、低域の音および振動を出力するスピーカであり、例えば、シートの座面部の内部に設置される。実施の形態に係る振動出力装置1では、サブウーハSWによって、低域の音と振動との両方を出力する場合について説明するが、少なくとも振動を出力することが可能であれば十分であり、必ずしも振動に加えて低域音を出力させる構成には限定されない。ただし、後述するように、音源再生部10より出力される音響信号(入力信号)に基づく信号(振動信号)によって振動を出力するため、サブウーハSWの基本的な構成は、リニア共振アクチュエータ等の構造に基づくものであることが好ましい。
【0050】
[第1増幅部および第2増幅部]
第1増幅部31は、音量調節部400によって音量レベルの調整が行われた音響信号の増幅を行い、増幅された音響信号をフルレンジスピーカSP1およびフルレンジスピーカSP2に出力する。また、第2増幅部32は、後述するアップサンプリング部600によりアップサンプリング処理された信号(振動信号)の増幅を行い、増幅された信号をサブウーハSWへ出力する。
【0051】
[ダウンサンプリング部およびアップサンプリング部]
ダウンサンプリング部100は、音源再生部10が出力した2つのチャンネル用の音響信号を取得して、ダウンサンプリング処理を行う。音響信号(入力信号)のダウンサンプリング処理を行うことによって、低域処理部200と、中域処理部300と、重み合成部500との処理負担を軽減することができる。ダウンサンプリング部100のダウンサンプリング処理において、2つのチャンネル用の音響信号は、1つのチャンネルの音響信号へとダウンサンプリング処理されることになる。
【0052】
ダウンサンプリング部100は、音響信号に対して低域通過フィルタをかけてから、サンプリング周波数の間引き処理を行う。実施の形態に係るダウンサンプリング部100では、サンプリング周波数を48kHz、ダウンサンプル数(間引き数)を16に設定する。ダウンサンプリング後の音響信号のサンプリング周波数は、3kHzとなる。実施の形態に係るダウンサンプリング部100では、低域通過フィルタとして、256タップのFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用い、音響信号の低中域の信号成分を通過させるために、カットオフ周波数を600Hzに設定する。
図2(a)は、実施の形態に係るダウンサンプリング部100で使用する低域通過フィルタのフィルタ特性を示した図である。
【0053】
また、アップサンプリング部600は、低域処理部200、中域処理部300および重み合成部500によって音響処理が行われた音響信号(振動信号)に対してアップサンプリング処理を行う。アップサンプリング部600では、ダウンサンプリング部100で実行されたダウンサンプリング処理に対応する設定条件によってアップサンプリング処理を行う。具体的には、アップサンプリング処理により間引きされた分の零を挿入した後に、ダウンサンプリング部100と同程度の低域通過フィルタを用いて折り返し成分の除去を行い、音源と同様のサンプリング周波数にアップサンプリング処理を行う。
【0054】
[低域処理部・中域処理部]
低域処理部200は、低域抽出部(低域信号生成手段)210と、第1包絡線検波部(低域用包絡線信号算出手段)230と、第1エッジ強調部(低域用エッジ処理手段)240と、第1レベル補正部250とを有している。また、中域処理部300は、中域抽出部(中域信号生成手段)310と、周波数圧縮部(周波数圧縮手段)320と、第2包絡線検波部(圧縮用包絡線信号算出手段)330と、第2エッジ強調部(圧縮用エッジ処理手段)340と、第2レベル補正部350とを有している。第1包絡線検波部230と第2包絡線検波部330とは、入力される信号が異なるだけで同じ処理を行う。また、第1エッジ強調部240と第2エッジ強調部340とは、入力される信号が異なるだけで同じ処理を行い、第1レベル補正部250と第2レベル補正部350とも、入力される信号が異なるだけで同じ処理を行う。このため、実施の形態における説明では、第1包絡線検波部230、第1エッジ強調部240、第1レベル補正部250のみの説明を行い、第2包絡線検波部330、第2エッジ強調部340および第2レベル補正部350の詳細な説明は省略する。
【0055】
ダウンサンプリング部100でダウンサンプリング処理された音響信号は、低域処理部200の低域抽出部210と、中域処理部300の中域抽出部310とに対して、それぞれ出力される。
【0056】
[低域抽出部・中域抽出部]
低域抽出部210は、ダウンサンプリング処理された音響信号に対して、低域用の帯域通過フィルタを適用することにより低域周波数成分の抽出を行う。また、中域抽出部310は、ダウンサンプリング処理された音響信号に対して、中域用の帯域通過フィルタを適用することにより中域周波数成分の抽出を行う。
【0057】
図2(b)は、低域抽出部210で用いられる低域用の帯域通過フィルタと、中域抽出部310で用いられる中域用の帯域通過フィルタとのフィルタ特性を示した図である。
図2(b)に示した低域用および中域用の帯域通過フィルタでは、4次のバタワースフィルタを用いている。低域用の帯域通過フィルタでは、低域側のカットオフ周波数を30Hzに設定し、高域側のカットオフ周波数を100Hzに設定している。中域用の帯域通過フィルタでは、低域側のカットオフ周波数を100Hzに設定し、高域側のカットオフ周波数を200Hzに設定している。
【0058】
ここで、低域用の帯域通過フィルタで設定する周波数は、振動の周波数におけるダイナミックレンジを考慮して設定された値である。既に説明したように、人間が触覚によって振動を認識することができる周波数のダイナミックレンジは、約10Hz〜150Hzである。このため、低域用の帯域通過フィルタで設定する周波数範囲は、約10Hz〜150Hzの周波数範囲に収まるようにして決定される。なお、ユーザが低い周波数の振動を認識しにくいことを考慮して、低域用の帯域通過フィルタにおける低域側の周波数を10Hzでなく30Hzに設定している。また、150Hz付近の振動を出力すると、ユーザがくすぐったく感じて認識感度が劣ったり、振動を不快に感じたりするおそれがあるため、低域用の帯域通過フィルタにおける高域側の周波数を150Hzでなく100Hzに設定している。
【0059】
低域抽出部210は、低域用の帯域通過フィルタによって帯域抽出された音響信号(低域抽出信号、低域信号)を、第1包絡線検波部230へ出力する。また、中域抽出部310は、中域用の帯域通過フィルタによって帯域抽出された音響信号(中域抽出信号、中域信号)を、周波数圧縮部320へ出力する。
【0060】
[第1包絡線検波部・第2包絡線検波部]
第1包絡線検波部230は、まず、低域抽出部210によって帯域抽出された音響信号(低域抽出信号)に対して、絶対値の検出を行う。さらに、第1包絡線検波部230は、絶対値の検出が行われた低域抽出信号に対して、低域通過フィルタを適用することによって、低域抽出信号に積分処理を施して、低域抽出信号の包絡線を検出する処理を行う。実施の形態に係る第1包絡線検波部230では、低域通過フィルタとして、2次のバタワースフィルタを用いる。
【0061】
図3は、低域抽出信号と、低域抽出信号の絶対値検出を行った後に、カットオフ周波数が10Hzの低域通過フィルタを用いて積分処理することにより求められた包絡線検波信号(低域用包絡線信号)とを示した図である。
図3では、各信号の振幅値の時間変化を示している。
図3に示すように、包絡線検波信号は、直流成分を含む(プラス成分のみからなる)ベースバンド信号となっている。第1包絡線検波部230によって求められた低域用の包絡線検波信号は、第1レベル補正部250と第1エッジ強調部240とにそれぞれ出力される。
【0062】
上述したように、第2包絡線検波部330においても、第1包絡線検波部230と同様に、入力された信号の絶対値の検出を行った後に包絡線を検出する処理を行う。ただし、第2包絡線検波部330は、中域抽出部310により音響信号の中域周波数成分が抽出された後に、後述する周波数圧縮部320によって周波数圧縮処理が行われた圧縮信号に対して処理を行う。従って、第2包絡線検波部330は、周波数圧縮処理が行われた圧縮信号に対して絶対値の検出を行い、さらに、低域通過フィルタを適用して圧縮信号に積分処理を施すことにより、圧縮信号の包絡線を検出する。第2包絡線検波部330によって求められた圧縮信号用の包絡線検波信号(圧縮用包絡線信号)は、第2レベル補正部350と第2エッジ強調部340とにそれぞれ出力される。
【0063】
[第1エッジ強調部・第2エッジ強調部]
第1エッジ強調部240は、低域抽出部210より入力された低域抽出信号に対して、第1包絡線検波部230より入力された低域用の包絡線検波信号を用いて、エッジ強調(エッジ処理)された低域抽出信号を生成する処理を行う。
【0064】
図4は、第1エッジ強調部240の概略構成を示したブロック図である。第1エッジ強調部240は、デシベル変換部241と、微分処理部242と、立ち上がりエッジ検出部243と、立ち下がりエッジ検出部244と、加算部245と、リニア変換部246と、乗算部247とを有している。
【0065】
デシベル変換部241は、第1包絡線検波部230より入力された包絡線検波信号をデシベル変換する処理を行う。
図5は、デシベル変換部241によってデシベル変換された包絡線検波信号の波形(信号レベル変化)を示した図である。デシベル変換部241は、
図5に示すように、デシベル変換時に、信号レベルの下限を−40dBに制限する。
【0066】
微分処理部242は、デシベル変換部241でデシベル変換された包絡線検波信号に対して高域通過フィルタを適用して微分処理を行う。高域通過フィルタのカットオフ周波数とゲインとを調整することによって、微分処理された信号の立ち上がり応答速度および立ち下がり応答速度と、それぞれのレベルの設定とを行うことができる。実施の形態に係る微分処理部242では、高域通過フィルタとして1次のバタワースフィルタを用いる。
【0067】
立ち上がりエッジ検出部243は、微分処理部242によって微分処理された包絡線検波信号の信号レベルに基づいて、信号レベルが零以上となる信号だけを抽出して立ち上がりエッジ検出を行い、立ち上がりエッジ信号を生成する。同様にして、立ち下がりエッジ検出部244は、微分処理部242によって微分処理された包絡線検波信号の信号レベルに基づいて、信号レベルが零以下となる信号だけを抽出して立ち下がりエッジ検出を行い、立ち下がりエッジ信号を生成する。
【0068】
図6は、立ち上がりエッジ信号と、立ち下がりエッジ信号との波形(信号レベル変化)を示した図である。
図6に示すように、立ち上がりエッジ信号では、微分処理された包絡線検波信号が零以上でない箇所(立ち上がり以外の箇所)で、信号レベルが零になる。また、立ち下がりエッジ信号では、微分処理された包絡線検波信号が零以下でない箇所(立ち下がり以外の箇所)で、信号レベルが零にとなる。
【0069】
加算部245は、立ち上がりエッジ検出部243で生成された立ち上がりエッジ信号と、立ち下がりエッジ検出部244で生成された立ち下がりエッジ信号とを合成(加算)することにより、包絡線検波信号の立ち上がりおよび立ち下がりに応じて信号レベルが上下変動するエッジ検出信号を生成する。リニア変換部246は、加算部245で生成されたエッジ検出信号をリニア変換することによりエッジ強調信号を生成する。そして、乗算部247は、低域抽出部210によって帯域抽出された音響信号(低域抽出信号)に対して、エッジ強調信号を乗算することによって、エッジ強調された低域抽出信号を生成する。
【0070】
図7は、エッジ強調信号と、エッジ強調された低域抽出信号との振幅変化を示した図である。
図6に示したように、立ち上がりエッジ信号も立ち下がりエッジ信号も、立ち上がり時および立ち下がり時以外のときには、0dB付近の値となる。従って、加算部245により立ち上がりエッジ信号と立ち下がりエッジ信号とを合成(加算)して生成されたエッジ検出信号を、リニア変換部246でリニア変換したエッジ強調信号は、振幅1を基準とする信号となる。
【0071】
図7に示すエッジ強調された低域抽出信号は、
図3に示した低域抽出信号に比べて、信号の立ち上がりおよび立ち下がりにおけるエッジ強調がされている。具体的には、低域抽出信号の立ち上がり時の振幅(振幅が瞬間的に大きくなるタイミングの振幅)が強調されており、また、低域抽出信号の立ち下がり時の振幅の低減(抑制)が強調されている。
【0072】
このエッジ強調によって、
図3に示すように比較的一様な振幅特性を有する低域抽出信号に対して抑揚が付加されることになる。従って、低域抽出信号に基づいてサブウーハSWで振動を出力する場合に、ユーザによる振動の体感感度を向上させることが可能になる。特に、ユーザに振動を体感させる場合、振動の開始時に振動を瞬間的に大きく変化させ、振動の終了時に余韻を残すことなく振動を収束させることによって、ユーザが振動に対してメリハリを感じやすくなり、振動に対する認識性を高めることが可能になる。
【0073】
また、音の信号レベル変化に伴うユーザの聴覚的な感覚と、振動の振動レベル変化に伴うユーザの触覚的な感覚とは、聴覚と触覚とのダイナミックレンジの違いから明らかなように、大きく異なっている。このため、音響信号を音として感じる場合の信号レベル変化(振幅変化)に比べて、音響信号に基づく信号により振動を感じる場合の信号レベル変化(振幅変化)を大きくしないと、ユーザが振動を弱く認識してしまうおそれがある。従って、振動を出力させるための信号に対して、エッジ強調を行うことは、ユーザにおける振動の体感性を向上させる観点から、とても有効である。
【0074】
第1エッジ強調部240によって生成された、エッジ強調された低域抽出信号は、第1レベル補正部250へ出力される。
【0075】
また、第2エッジ強調部340は、第1エッジ強調部240と同様に、デシベル変換部と、微分処理部と、立ち上がりエッジ検出部と、立ち下がりエッジ検出部と、加算部と、リニア変換部と、乗算部とを有しており、周波数圧縮部320より入力された圧縮信号に対して、第2包絡線検波部330より入力された圧縮信号用の包絡線検波信号を用いて、エッジ強調された圧縮信号(周波数圧縮部320により周波数圧縮された中域抽出信号)を生成する処理を行う。第2エッジ強調部340によって生成された、エッジ強調された圧縮信号は、第2レベル補正部350へ出力される。
【0076】
[第1レベル補正部・第2レベル補正部]
第1レベル補正部250は、第1エッジ強調部240より入力されるエッジ強調された低域抽出信号に対して、レベル補正を行う。
図8は、第1レベル補正部250の概略構成を示したブロック図である。第1レベル補正部250は、デシベル変換部251と、最大値検出部252と、ホールド時間制御部253と、レベル変換部254と、アタック・リリース時間制御部255と、リニア変換部256と、スムージングフィルタ257と、乗算部258を有している。また、
図21(a)に示す表2は、第1レベル補正部250の各機能部で行う処理のパラメータを示している。
【0077】
デジベル変換部251は、第1包絡線検波部230より入力された低域用の包絡線検波信号をデシベル変換する。最大値検出部252は、デシベル変換部251によってデシベル変換処理された包絡線検波信号に対して、1フレーム(デシベル変換部251では、例えば、128sample、
図21(a)の表2参照)の包絡線検波信号を1sampleずつシフトさせることにより最大値を検出する。
【0078】
ホールド時間制御部253は、最大値検出部252によって検出された最大値を、所定時間だけホールド(最大値を維持)する処理を行う。最大値検出部252では、例えば0.5secの時間だけホールドする処理を行う(
図21(a)の表2参照)。ホールド時間制御部253により最大値ホールドが行われた信号(低域用の最大値ホールド信号、低域最大値信号)は、レベル変換部254と、アタック・リリース時間制御部255と、重み合成部500とに対して、それぞれ出力される。
【0079】
レベル変換部254は、入出力変換テーブルを備えている。レベル変換部254は、入出力変換テーブルに基づいて、ホールド時間制御部253より入力された信号(低域用の最大値ホールド信号、低域最大値信号)の信号レベル変換を行い、アタック・リリース時間制御部255へ出力する。
図9は、レベル変換部254の入出力変換テーブルを示した図である。横軸に入力される信号の信号レベル(入力レベル:単位dB)が示されており、縦軸に変換された後の信号(出力される信号)の信号レベル(出力レベル:単位dB)が示されている。
【0080】
レベル変換部254は、入力された信号の信号レベル(入力レベル)が−70dB〜0dBの場合に、入出力変換テーブルに基づき、アタック・リリース時間制御部255へ出力する信号の信号レベル(出力レベル)を、入力される信号の信号レベルに反比例するようにして、50dB〜−20dBへ変換する処理を行う。従って、入力される信号の信号レベルが−70dBから0dBまで増加するのに伴って、変換される信号の信号レベルが、50dBから−20dBへ減少された値に変換される。
【0081】
また、レベル変換部254は、入力された信号の信号レベル(入力レベル)が、−80dB〜−70dBの場合には、入力された信号の信号レベル変化に正比例させて、アタック・リリース時間制御部255へ出力する信号の信号レベル(出力レベル)を0dB〜50dBへ変換する処理を行う。従って、入力される信号の信号レベルが−80dBから−70dBまで増加するのに伴って、変換される信号の信号レベルも、0dBから50dBへ増加された値に変換される。
【0082】
なお、レベル変換部254は、入力された信号の信号レベルが−80dB以下の場合には、アタック・リリース時間制御部255へ出力する信号の信号レベルを0dBへ変更(0dBに維持)して、アタック・リリース時間制御部255へ出力する。
【0083】
アタック・リリース時間制御部255では、レベル変換部254より取得した信号に対して、所定のアタック時間および所定のリリース時間に応じた応答制御(アタック・リリース時間制御)を行う。ここで、アタック時間制御とは、信号レベルの立ち上がり(上昇)に係る時間を調整する処理を意味し、リリース時間制御とは、信号レベルが最小レベルまで落ちる時間を調整する処理を意味する。アタック・リリース時間制御部255では、例えば、アタック時間として0.5secを設定し、リリース時間として10secを設定して(
図21(a)の表2参照)、アタック時間制御およびリリース時間制御を行う。
【0084】
アタック・リリース時間制御部255におけるアタック時間制御およびリリース時間制御には、1次のバタワース低域通過フィルタを用いる。アタック時間およびリリース時間における時間調整は、バタワース低域通過フィルタのフィルタ係数の設定によって行われる。実施の形態に係るアタック・リリース時間制御部255において、アタック時間を0.5secに調整する場合には、カットオフ周波数を2Hzに設定する。また、リリース時間を10secに調整する場合には、カットオフ周波数を0.1Hzに設定する。
【0085】
なお、アタック・リリース時間制御部255には、既に説明したようにホールド時間制御部253によって最大値ホールドされた信号が入力される。アタック・リリース時間制御部255では、最大値ホールドされた信号(低域用の最大値ホールド信号、低域最大値信号)の信号レベルが、予め設定される制御最小値であるかどうかを判定(制御判定)する。アタック・リリース時間制御部255では、制御最小値の一例として、−40dBが設定されている(
図21(a)の表2参照)。
【0086】
低域用の最大値ホールド信号の信号レベルが−40dB(制御最小値)以下の場合、アタック・リリース時間制御部255は、アタック時間制御およびリリース時間制御を停止させる。低域用の最大値ホールド信号(低域最大値信号)の信号レベルが制御最小値以下の場合に、アタック・リリース時間制御を停止することによって、振幅変化の大きい低域抽出信号に対する第1レベル補正部250の補正範囲を制御することができ、結果的に第1レベル補正部250による補正が過制御となってしまうことを抑制することが可能になる。アタック・リリース時間制御部255においてアタック・リリース時間制御された信号、あるいは最大値ホールド信号が制御最小値以下であると判定されてアタック・リリース時間制御されなかった信号は、リニア変換部256へ出力される。
【0087】
リニア変換部256は、アタック・リリース時間制御部255によってアタック・リリース時間制御された信号をリニアな信号に変換し、変換した信号をスムージングフィルタ部257へ出力する。スムージングフィルタ部257は、リニア変換部256より受信した信号に対してスムージングフィルタを適用する。スムージングフィルタ部257は、スムージングフィルタを用いて、最大値検出部252による最大値の検出間隔で更新された信号(制御信号)を、1sample毎の更新に変換して平滑化を行う。スムージングフィルタ部257は、平滑化した信号を乗算部258へ出力する。
【0088】
乗算部258は、第1エッジ強調部240より入力される、エッジ強調された低域抽出信号に対して、スムージングフィルタ部257より入力された平滑化処理後の信号を乗算することにより、低域抽出信号に対するレベル補正の処理を行う。低域抽出信号に対してレベル補正処理が行われた信号は低域用レベル補正信号として、乗算部258から重み合成部500と出力される。
【0089】
図10は、第1包絡線検波部230より入力された低域用の包絡線検波信号と、ホールド時間制御部253により最大値ホールドが行われた低域用の最大値ホールド信号(低域最大値信号)と、乗算部258により低域抽出信号に対するレベル補正処理が行われた低域用レベル補正信号との時間変化を示した図である。
図10の横軸は時間を示し、縦軸は信号レベルをデシベル表記(dB)で示している。
図10に示すように、最大値ホールド信号は、包絡線検波信号の最大値を所定時間だけホールドした信号として示されている。低域用レベル補正信号は、低域用の最大値ホールド信号に対してレベル変換処理、アタック時間制御、リリース時間制御が行われ、さらにスムージング処理された信号である。
【0090】
図11(a)(b)は、第1レベル補正部250で求められた低域用レベル補正信号に基づいて、第1エッジ強調部240でエッジ強調された低域抽出信号に対してレベル補正を行った場合(
図11(b))と行わなかった場合(
図11(a))とにおける信号の振幅変化を示した図である。
図11(a)(b)に示すように、レベル補正を行わなかったエッジ強調後の低域抽出信号に対して、レベル補正を行ったエッジ強調後の低域抽出信号は、信号の立ち上がりエッジや立ち下がりエッジが強調されている。また、レベル補正を行わなかった場合に比べて、レベル補正を行ったエッジ強調後の低域抽出信号は、信号レベルが10dB程度大きくなっている。
図11(a)(b)では、レベル補正を行った方の「振幅」の値が、レベル補正を行わなかった方の「振幅」の値よりも、大きくなって示されている。
【0091】
このように、低域用レベル補正信号を用いることによって、サブウーハSWで振動出力処理を行う信号の信号レベルを大きくすることができる。このため、音源再生部10より入力される音響信号が、聴覚によりユーザに音楽を認識させるものであって、
図22(b)の表1に示したように、触覚によって認識可能な振動の周波数範囲やレベル差等のダイナミックレンジが、聴覚によって認識可能な振動の周波数範囲やレベル差等のダイナミックレンジよりも劣る場合であっても、ダイナミックレンジの差異を、エッジ強調処理やレベル補正処理によって補完することができ、ユーザが体感する振動の認識性・体感性を高めることが可能になる。
【0092】
また、第2レベル補正部350においても、第1レベル補正部250と同様に、デシベル変換部、最大値検出部、ホールド時間制御部、レベル変換部、アタック・リリース時間制御部、リニア変換部、スムージングフィルタ部、乗算部の構成を有している。第2レベル補正部350は、第2エッジ強調部340より入力される、エッジ強調された圧縮信号に対して、レベル補正を行う。
【0093】
第1レベル補正部250において生成された低域用レベル補正信号と、低域用の最大値ホールド信号(低域最大値信号)とは、重み合成部500へ出力される。また、第2レベル補正部350において生成された圧縮用レベル補正信号と、圧縮信号用の最大値ホールド信号(圧縮最大値信号)とは、重み合成部500へ出力される。
【0094】
[周波数圧縮部]
次に、周波数圧縮部320について説明する。周波数圧縮部320は、低域処理部200には設けられておらず、中域処理部300にのみ設けられている。周波数圧縮部320は、
図1に示すように、中域抽出部310により中域の帯域抽出が行われた音響信号に対して、周波数圧縮処理を行う。周波数圧縮部320は、周波数圧縮処理された信号(圧縮信号)を、第2包絡線検波部330と第2エッジ強調部340とのそれぞれに対して出力する。
【0095】
図12は、周波数圧縮部320の概略構成を示したブロック図である。周波数圧縮部320は、サンプル抽出部321と、圧縮処理用のアップサンプリング部322と、圧縮処理用の重み付け部323と、オーバーラップ加算部324と、圧縮処理用の帯域制限部325とを有している。また、
図21(b)に示す表3は、周波数圧縮部320の各機能部で行う処理のパラメータを示している。
【0096】
さらに、
図13は、周波数圧縮部320の各機能部によってそれぞれ処理された信号の状態を模式的に示した図である。
図13の(1)は、中域抽出部310によって中域抽出が行われた中域抽出信号の状態を示し、
図13の(2)は、サンプル抽出部321によるサンプル抽出処理が行われた後の信号の状態を示している。
図13の(3)はアップサンプリング部322によるアップサンプリング処理が行われた後の信号の状態を示し、
図13の(4)は、重み付け部323による重み付け処理が行われた後の信号の状態を示し、
図13の(5)は、オーバーラップ加算部324によるオーバーラップ処理が行われた後の信号の状態を示している。
【0097】
サンプル抽出部321は、中域抽出部310で抽出処理された中域抽出信号に対して、所定の周期毎にサンプル抽出を行う。実施の形態に係るサンプル抽出部321では、一例として、
図21(b)の表3に示す112sampleを所定数として設定する。従って、サンプル抽出部321では、入力される中域抽出信号を、112sampleずつ抽出する処理を行う。
【0098】
図13の(2)には、(1)に示される時間的に継続(連続)する中域抽出信号を、112sampleだけ抽出し、抽出開始から128sampleだけ経過した後に、次の112sampleの抽出処理を継続的に行っている様子が模式的に示されている。サンプル抽出部321は、サンプル抽出された信号をアップサンプリング部322へ出力する。
【0099】
アップサンプリング部322は、サンプル抽出部321によってサンプル抽出された信号に対してアップサンプリング処理を行う。アップサンプリング部322において、サンプル抽出された信号に対して行われるアップサンプリング処理は、あるサンプリング周波数でサンプリングされた信号を、別のサンプリング周波数でサンプリングされた信号へと変換する一般的なサンプリングレート変換とは異なる処理を意味している。
【0100】
一般的なサンプリングレート変換では、信号の時間的な長さ(時間的なデータ量)を変更することなく、単位時間当たりのデータ量を変更する。一般的なアップサンプリング処理では、単位時間当たりのデータ量が増加する。
【0101】
これに対して、アップサンプリング部322において実現されるアップサンプリング処理は、単位時間当たりのデータ量を変更するのではなく、単位時間当たりのデータ量を維持したまま、データ量を増加させることにより、信号のデータ量を時間的に増加させることを意味している。
【0102】
図13の(2)では、中域抽出信号が112sample分だけ抽出された信号の時間的長さが横軸に示されている。
図13の(3)では、アップサンプリング部322でアップサンプリングされた信号が示されているが、(3)で示される信号の時間的な長さが、(2)で示される信号の時間的長さに比べて2倍の長さになっている。
図13の(2)(3)に示すように、アップサンプリング部322では、アップサンプリング処理される前の信号に比べて、アップサンプリング処理した信号の時間的長さを2倍にする処理を行い、単位時間当たりのデータ量を増加させる処理は行わない。
【0103】
図14(a)(b)は、サンプル抽出部321およびアップサンプリング部322の具体的なアップサンプリング処理を説明した図である。サンプル抽出部321は、まず、中域抽出部310で抽出処理された中域抽出信号から、112sample分の波形を抽出する。
図14(a)は、サンプル抽出部321によって抽出された112sampleの信号の波形を示した図である。
図14(a)では、150Hzの正弦波からなる中域抽出信号において、112sampleを抽出した場合を一例として示している。中域抽出信号は、時系列的に整列する多数サンプルの振幅情報により構成されている。
【0104】
次に、アップサンプリング部322は、抽出された112sampleのそれぞれの抽出点の間に振幅零の情報(内挿用の振幅情報)を追加・挿入して、合計224sampleの信号へとアップサンプリングする。
図14(b)は、アップサンプリングされて224sampleへ変形された信号の波形を示している。
図14(a)と
図14(b)とを比較すると、振幅が±0.5である点は共通しているが、
図14(a)の1波形分のサンプル数に比べて、
図14(b)の1波形分のサンプル数は2倍になっている。
図14(b)では、振幅情報の隣接するサンプル間に振幅零の振幅情報を追加して全体のサンプル数を2倍(n=2)に増やした状態となっている。
【0105】
このように、1波形のサンプル数が倍の長さになると、1波形分の波長が長くなるため、アップサンプリング前の信号の周波数に比べてアップサンプリング後の信号の周波数が低くなる(低い周波数範囲へシフトする)ことになり、結果的に周波数が圧縮されることになる。一般に、中域抽出信号のサンプル数がn倍になると、中域抽出信号を構成する振幅情報の周波数が1/nに圧縮され、中域抽出信号の周波数成分が、低域の周波数成分へと変化される。アップサンプリング部322によってアップサンプリング処理された信号(圧縮信号)は、重み付け部323へ出力される。
【0106】
重み付け部323は、アップサンプリング処理された信号の始めの所定サンプル数の振幅と、終わりの所定サンプル数の振幅との振幅変化の調整を行う。
図15は、重み付け部323による振幅変化調整の調整量を、重み特性として示した図であって、ハニング窓(ハニング関数)を示している。
図15に示す重み特性では、横軸にサンプル数を示し、縦軸に振幅の重み付け割合を示す0から1.0の値を示している。重み付け部323は、アップサンプリングされた信号のうち、始めの96sampleと、終わりの96sampleとに対して重み付けを行う。
図15に示すハニング窓による重み特性のうち、ハニング窓の前半部分となる重みAの96sample分の重み変化量が、アップサンプリング処理された信号の始めの96sampleに適用される。また、ハニング窓の後半部分となる重みBの96sample分の重み変化量が、アップサンプリング処理された信号の終わりの96sampleに適用される。
【0107】
重み付け部323は、
図15の重みAに該当する96sample数分の重み変化量を、アップサンプリング処理された信号の始めの96sampleに乗算することにより、
図13の(4)の重みA部分に示すように、アップサンプリング処理された信号の始めの振幅の立ち上がりを緩やかにする。また、重み付け部323は、
図15の重みBに該当する96sample数分の重み変化量を、アップサンプリング処理された信号の終わりの96sampleに乗算することにより、
図13の(4)の重みB部分に示すように、アップサンプリング処理された信号の終わりの振幅の立ち下がりを緩やかにする。重み付け部323は、重み付けされた信号を、オーバーラップ加算部324へ出力する。
【0108】
オーバーラップ加算部324は、先に重み付けされた信号の重みB部分と、次に重み付けされた信号の重みA部分とを重ね合わせるようにして(オーバーラップさせた状態で)、信号の連結(加算)を行う。先に重み付けされた信号の重みB部分と、次に重み付けされた信号の重みA部分とを重ね合わせることによって、連結された前後の信号における重ね合わせ部分の振幅変化を円滑にすることができる。オーバーラップ加算部324は、オーバーラップ処理された信号を、帯域制限部325へ出力する。
【0109】
帯域制限部325は、オーバーラップ処理された信号の帯域制限処理を行う。帯域制限部325では、低域側のカットオフ周波数を30Hzとし、高域側のカットオフ周波数を120Hzとして設定した、4次のバタワースフィルタを用いて、帯域制限処理を行う。サンプル抽出部321によるサンプル抽出処理およびアップサンプリング部322によるアップサンプリング処理によって、低域抽出信号に対して振幅零の情報(内挿用の振幅情報)が挿入されるため、
図14(b)に示すように、信号の非連続性が発生し、高調波等の不要成分が発生するおそれがある。帯域制限部325は、帯域制限処理を行うことによって、信号の非連続性による影響を低減させる。なお、サンプル抽出処理において抽出サンプル数を大きくすると、相対的に信号の非連続性の影響が小さくなるが、処理の遅延増大が発生する可能性がある。帯域制限部325によって帯域制限された信号(圧縮信号)は、第2包絡線検波部330と第2エッジ強調部340とのそれぞれに出力される。
【0110】
図22(a)は、周波数圧縮部320によって圧縮される周波数の圧縮パラメータを示した表4である。圧縮率の逆数がアップサンプリング数であり、周波数が100Hz〜200Hzの場合には、周波数圧縮部320による周波数圧縮処理によって、圧縮後の周波数が50Hz〜100Hzに圧縮され、圧縮率が1/2となる。このように、周波数圧縮部320による周波数圧縮処理により、中域抽出信号の中域周波数成分が低域周波数成分へと圧縮されることになる。このため、ユーザが聴覚により音として認識しやすい周波数帯域の信号成分を、触覚により振動として認識しやすい周波数帯域の信号成分へと変換することできる。従って、ユーザは、音響信号の信号レベル変化を、振動の振動レベル変化として体感することが可能になる。
【0111】
図16(a)は周波数圧縮処理前の周波数特性を示し、
図16(b)は周波数圧縮処理後の周波数特性を示している。
図16(a)(b)に示すように、入力された信号の50Hz〜500Hz程度の周波数成分が、250Hz以下の周波数成分へと周波数圧縮された状態となる。周波数圧縮された信号(圧縮信号)は、信号レベルの変化状態(周波数特性の信号レベル変化)を維持したまま、周波数だけが圧縮されているため、聴覚により音として体感される信号レベル変化を、触覚により振動としてそのまま体感することできる。
【0112】
なお、周波数圧縮部320による周波数圧縮処理の圧縮率は、1/2には限定されない、アップサンプリング数を変更することによって、圧縮率を変更することが可能である。例えば、
図22(a)の表4に示すように、圧縮率を1/3に設定した場合には、100Hz〜300Hzの周波数を、33Hz〜100Hzへと圧縮することができる。また、圧縮率を1/4にした場合には、100Hz〜400Hzの周波数を、25Hz〜100Hzへと圧縮することができる。
【0113】
[音量調節部]
音量調節部400は、ボリューム設定部20によって設定された音量レベルに応じて、
音源再生部10から振動出力装置1へ入力された音響信号の信号レベルを、音としての信号レベルと、振動としての信号レベルとに分けて調整・変更する。音量調節部400は、音の信号レベルへと調節・変更された音響信号を、第1増幅部31へ出力し、振動の信号レベルへと調節・変更された信号(音量調節信号)を、重み合成部500へ出力する。
【0114】
図17は、ボリューム設定部20で設定された音量レベル(入力レベル)に対して、出力される音量調節信号の信号レベルを、音の信号の出力レベルとして出力する場合と、振動の出力レベルとして出力する場合とを表した、音量調整テーブルを示している。
図17に示すように、ボリューム設定部20により設定された音量レベル(入力レベル)に正比例するようにして、音の信号の出力レベルが増減されて出力される。
【0115】
一方で、ボリューム設定部20により設定された音量レベル(入力レベル)が−50dB以下の場合、振動の出力レベルは、設定された音量レベルに正比例して、−50dB以下の範囲で値が増減する。しかしながら、ボリューム設定部20により設定された音量レベル(入力レベル)が−50dBから−40dBまでの場合、振動の出力レベルは、設定された音量レベルの増減に応じて、−50dBから−10dBまでの範囲で値が増減する。そして、ボリューム設定部20により設定された音量レベルが−40dBから−0dBまでの場合、振動の出力レベルは、設定された音量レベルの増減に応じて、−10dBから0dBまでの範囲で値が増減する。
【0116】
図17に示すように、ボリューム設定部20により設定された音量レベルが−40dBから0dBまでの範囲で増減する場合には、振動の出力レベルの調整範囲を、−10dBから0dBまでの範囲に制限し、振動の出力レベル(振動レベル)の調節範囲を狭くする。このように、音の信号レベルの調節・変更範囲に比べて、振動の出力レベル(振動レベル)の調節・変更範囲を狭くすることによって、
図22(b)の表1に示したように、聴覚の信号レベル差のダイナミックレンジに比べて、触覚の信号レベル差のダイナミックレンジが狭くなる音響・振動特性を考慮して、振動の出力レベル(振動レベル)を調節することが可能となる。
【0117】
なお、振動の出力レベル(振動レベル)を−10dBから0dBまでとした理由は、聴覚により体感される音の音量レベルが−40dBから0dBまで変化する場合に、その信号レベル変化を振動としてより好適に体感できる振動の出力レベル(振動レベル)が、−10dBから0dBだからである。また、音の音量レベルが小さい場合、例えば−40dB以下の場合には、振動の出力レベル(振動レベル)を−10dBよりも急激に低下させることによって、振動をあまり体感しないような制御を行っている。
【0118】
[重み合成部]
重み合成部500は、第1レベル補正部250において生成された低域用レベル補正信号と、低域用の最大値ホールド信号(低域最大値信号)と、第2レベル補正部350において生成された圧縮用レベル補正信号と、圧縮信号用の最大値ホールド信号(圧縮最大値信号)と、音量調節部400によって調節・変更された音量調節信号とに基づいて、サブウーハSWへ出力する振動信号を生成する。
【0119】
図18は、重み合成部500の概略構成を示したブロック図である。重み合成部500は、
図18に示すように、重み量生成部510と、第1乗算部520と、加算部530と、第2乗算部540とを有している。重み量生成部510は、低域処理部200から取得した低域最大値信号と、中域処理部300から取得した圧縮最大値信号とを用いて、下記の式1,式2,式3および式4に基づいて重み量Wを決定する。
【0120】
Wを重み量、Lmを低域最大値信号の値(dB)、Mmを圧縮最大値信号の値(dB)、Wcを重み係数、αを判定スレッショルド、β1を重み量の上限、β2を重み量の下限として、
Lm≦αの場合には、下記の式1により重み量Wを算出し、
W=10
(((Mm−Lm)・Wc)/20) ・・・式1
β2<W<β1の場合には、式1により算出されたWを重み量に決定する。
【0121】
W≧β1の場合には、下記の式2に示すように、重み量Wをβ1に決定し、
W=β1 ・・・式2
W≦β2の場合には、下記の式3に示すように、重み量Wをβ2に決定する。
W=β2 ・・・式3
Lm>αの場合には、下記の式4に示すように、重み量Wを零(0)に決定する。
W=0 ・・・式4
【0122】
図19は、上述した重み量Wの決定処理を示したフローチャートである。重み量生成部510は、低域最大値信号の値Lmが判定スレッショルドα以下であるか否かの判定を行う(S.1)。低域最大値信号の値Lmが判定スレッショルドα以下でない場合(S.1においてNoの場合:Lm>αの場合)、重み量生成部510は、重み量Wを零(0)に設定して(S.2)、重み量Wの決定処理を終了する。
【0123】
低域最大値信号の値Lmが判定スレッショルドα以下である場合(S.1においてYesの場合)、重み量生成部510は、重み量Wを式1に基づいて算出する(S.3)。そして、重み量生成部510は、重み量Wが重み量の上限β1以上であるか否かの判定を行う(S.4)。重み量Wが重み量の上限β1以上である場合(S.4においてYesの場合)、重み量生成部510は、重み量Wをβ1に設定し直して(S.5)、重み量Wの決定処理を終了する。
【0124】
重み量Wが重み量の上限β1以上でない場合(S.4においてNoの場合)、重み量生成部510は、重み量Wが重み量の下限β2以下であるか否かの判定を行う(S.6)。重み量Wが重み量の下限β2以下である場合(S.6においてYesの場合)、重み量生成部510は、重み量Wをβ2に設定し直して(S.7)、重み量Wの決定処理を終了する。重み量Wが重み量の下限β2以下でない場合(S.6においてNoの場合)、重み量生成部510は、重み量Wを式1により算出した値に決定し、重み量Wの決定処理を終了する。
【0125】
さらに、重み量生成部510は、連続的に生成された重み量Wの値の変化(重み量信号)を滑らかにするため、重み量Wに基づく重み量変化(重み量信号)に対してスムージング処理を行う。重み量生成部510は、生成した重み量W(重み量信号)を第1乗算部520へ出力する。
【0126】
第1乗算部520は、重み量生成部510より取得した重み量W(重み量信号)を、圧縮用レベル補正信号に対して乗算する処理を行う。第1乗算部520は、乗算処理された信号を加算部530へ出力する。加算部530は、第1乗算部520より取得した乗算処理された信号と、低域用レベル補正信号とを合成(加算)する処理を行う。加算部530は、加算処理された信号を、第2乗算部540へ出力する。第2乗算部540は、加算部530より取得した信号(加算部530で加算処理された信号)に対して、音量調節部400より取得した音量調節信号を乗算して振動レベル調整を行うことにより、振動信号を生成する。第2乗算部540は、生成された振動信号を、アップサンプリング部600へ出力する。
【0127】
実施の形態に係る重み合成部500では、一例として、重み係数Wcを0.7に設定し、判定スレッショルドαを−24dBに設定し、重み量の上限β1を16dBに設定し、重み量の下限β2を0dBに設定して、振動信号を生成する。
【0128】
図20(a)は、圧縮最大値信号と低域最大値信号との時間変化を示した図であり、
図20(b)は、重み量生成部510により算出された重み量Wの時間変化(重み量信号)を示した図である。圧縮最大値信号と低域最大値信号とは、それぞれ最大値を所定時間ホールドした信号であるため、
図20(a)に示すように一定時間だけ値がホールドされる状態で示されている。また、式1は、デジベル信号をリニア信号に変換する式にも該当するため、
図20(a)の縦軸が信号レベル(dB)で示されるのに対して、
図20(b)の縦軸は振幅で示されている。
【0129】
さらに、重み量Wは、式1に示すように、圧縮最大値信号の値Mmから低域最大値信号の値Lmを減算した値を用いて算出される。このため、低域最大値信号の値Lmと圧縮最大値信号の値Mmとの差分が大きい場合には、
図20(b)に示すように、重み量信号の重み量Wの値が大きくなる。LmとMmとの差分が大きい場合には、音響信号に低域周波数成分があまり含まれていないと判断できるため、重み量Wを大きくすることによって、低域へ周波数圧縮された中域周波数成分の合成量が、振動信号において多くなる。
【0130】
一方で、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれていると判断できる場合には、重み量Wを大きくする必要がない。音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれているか否かの判断基準として、判定スレッショルドαの値が用いられる。実施の形態に係る重み量生成部510では、判定スレッショルドαを−24dBに設定することによって、低域最大値信号の値Lmが−24dBよりも大きい値の場合に、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれていると判断する。
【0131】
低域最大値信号の値Lmは、低域用の包絡線検波信号に対して最大値ホールドが行われた信号の値であり、低域抽出部210において振動のダイナミックレンジを考慮して設定された低域の周波数範囲の信号レベルの値を示している。従って、低域最大値信号の値Lmが判定スレッショルドαよりも大きく、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれていると判断される場合には、重み量Wを零(0)に決定する(式4参照)。重み量Wを零(0)に決定することにより、圧縮用レベル補正信号に零(0)の値が乗算されて、加算部530へ入力される圧縮用レベル補正信号が実質的になくなるため、振動信号が低域用レベル補正信号のみによって生成される。
【0132】
このように、圧縮用レベル補正信号を用いることなく低域用レベル補正信号に基づいて振動信号が生成される場合であっても、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれているため、サブウーハSWでユーザが体感可能な大きさの振動を出力させることが可能になる。また、低域用レベル補正信号は、第1レベル補正部250のレベル変換部254においてレベル変換処理が行われた信号であるため、圧縮用レベル補正信号を用いることなく低域用レベル補正信号に基づいて振動信号が生成される場合であっても、十分な振動レベルを確保することが可能となる。
【0133】
また、低域最大値信号の値Lmが判定スレッショルドα以下であり、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれていない場合には、重み量Wを式1〜式3に基づいて決定する。決定された重み量Wを乗算した圧縮用レベル補正信号と、低域用レベル補正信号とを加算部530で合成(加算)することにより、低域周波数成分の信号レベルだけでなく中域周波数成分の信号レベルを加えた十分な大きさの振動信号を生成することができる。このため、ユーザが体感可能な大きさの振動を、サブウーハSWから出力することが可能になる。
【0134】
このように、判定スレッショルドαは、音響信号に十分な信号レベルの低域周波数成分が含まれているか否かの判断基準として用いられる。従って、判定スレッショルドαは、中域周波数成分の信号レベルを加えることなく、低域周波数成分の信号レベルだけで十分な大きさの振動信号を生成することが可能な最小の信号レベルを示すことになる。
【0135】
具体的に判定スレッショルドαを決定する方法として、例えば、予め複数の判定スレッショルドαの値を実験的に設定し、シートに着座したユーザがサブウーハSWより十分な大きさの振動を体感できるか否かを測定することによって、振動出力装置1の設置環境に最適な判定スレッショルドαを決定することができる。
【0136】
設定した判定スレッショルドαの値が、最適な値(信号レベル)よりも大きい値であった場合(例えば、判定スレッショルドαを−12dBに設定した場合)には、音響信号に対して十分なレベルの低域周波数成分が含まれているにもかかわらず中域周波数成分を合成することになり得るため、生成される振動信号の信号レベル(振動レベル)が過大な大きさになってしまうおそれがある。
【0137】
一方で、設定した判定スレッショルドαの値が、最適な値(信号レベル)よりも小さい値であった場合(例えば、判定スレッショルドαを−48dBに設定した場合)には、音響信号に対して十分なレベルの低域周波数成分が含まれていないにもかかわらず中域周波数成分が合成されないおそれがあり、さらに、第1レベル補正部250のレベル変換部254でレベル変換による十分なレベル補正が行われない可能性がある。このため、生成される振動信号の信号レベル(振動レベル)が小さくなってしまい、ユーザが振動を認識できないおそれがある。
【0138】
従って、ユーザが確実かつ十分に振動を体感することが可能な判定スレッショルドαの値を、振動出力装置1の使用環境に応じて最適に設定することが重要となる。
【0139】
重み合成部500は、生成された振動信号を、アップサンプリング部600へ出力する。アップサンプリング部600は、既に説明したように、重み合成部500より取得した振動信号のアップサンプリング処理を行い、アップサンプリングされた振動信号を、第2増幅部32へ出力する。第2増幅部32は、既に説明したように、アップサンプリング部600より取得した信号の増幅処理を行い、増幅処理された振動信号をサブウーハSWへ出力し、サブウーハSWから振動を出力(発生)させる。
【0140】
以上説明したように、聴覚によりユーザが音を体感することが可能な音響信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジに比べて、触覚によりユーザが振動を体感することが可能な振動信号の周波数のダイナミックレンジや、信号レベル差のダイナミックレンジが狭くなる傾向がある。
【0141】
このため、振動出力装置1の音量調節部400では、第1増幅部31を経てフルレンジスピーカSP1,SP2へ出力される音響信号の信号レベルの変動幅(−40dB〜0dB)に比べて、第2増幅部32およびサブウーハSWへ出力される振動信号の振動レベルの変動幅(−10dB〜0dB)を狭くすることによって、振動と音との信号レベル差のダイナミックレンジの違いを考慮してレベル調節を行っている。このため、音を体感するときにユーザが感じる信号レベル差に対応するダイナミックレンジで、ユーザが振動を体感することが可能になり、音と振動との一体感を高めることができ、違和感のない音と振動との出力を行うことが可能になる。
【0142】
また、振動出力装置1の周波数圧縮部320では、振動出力装置1に入力された音響信号の信号成分のうち、ユーザが音として体感することが可能である一方で、振動として体感することが難しくなる100Hz以上の周波数成分を、周波数圧縮処理することにより、ユーザが振動として体感しやすい100Hz以下の信号へと変化(周波数のシフト)させる。このように周波数を100Hz以下の低域の周波数帯域へと変化(シフト)させることによって、聴覚により音として体感可能な周波数のダイナミックレンジと、触覚により振動として体感可能な周波数のダイナミックレンジの違いを考慮して、聴覚により音を体感可能な周波数帯域の信号レベル変化を、触覚により振動を体感させることが可能な周波数帯域の振動レベル変化に変更して、ユーザに体感させることができる。従って、ユーザは、聴覚により体感され得る音の臨場感と同じように、触覚により体感され得る振動を、効果的な臨場感をもって体感することが可能になる。
【0143】
さらに、振動出力装置1の重み合成部500は、周波数圧縮処理が行われた圧縮用レベル補正信号を低域用レベル補正信号に合成する場合、圧縮用レベル補正信号に乗算される重み量を決定し、音響信号の周波数成分における低域周波数成分の信号レベル等に応じて、低域用レベル補正信号に対して加算する圧縮用レベル補正信号の信号レベルの大きさを調整する。
【0144】
具体的には、式1〜式4に基づいて重み量Wが算出・決定される。例えば、式1に示すように、圧縮最大値信号の値Mmと低域最大値信号の値Lmとの差が大きい場合(Mm−Lmが大きい場合)には、中域周波数成分の信号レベルに比べて、低域周波数成分の信号レベルが弱く、振動として体感可能な低域周波数成分の信号レベルが、振動として体感しにくい中域周波数成分の信号レベルよりも低いと判断され得る。このように、中域周波数成分の信号レベルに比べて、低域周波数成分の信号レベルが弱い場合には、ユーザが音響信号に基づいて聴覚により音を体感する場合の体感感度に比べて、ユーザが触覚により振動を体感する場合の体感感度が弱くなってしまうおそれがある。このため、中域周波数成分の信号レベルを低域周波数成分へと周波数圧縮させて周波数をシフトさせることにより、より広い周波数範囲の信号レベル変化を、ユーザが振動として体感できるように調整することが可能になる。
【0145】
一方で、圧縮最大値信号の値Mmと低域最大値信号の値Lmとの差が小さい場合(Mm−Lmが小さい場合)には、音響信号において低域周波数成分が十分に含まれていると判断することができる。この場合には、重み量Wを低い値に設定することにより、中域周波数成分の信号レベルが周波数圧縮により過剰に低域周波数成分に含まれてしまうことを防止することができる。従って、音の体感感度・臨場感に比べて振動の体感感度・臨場感が大きくなりすぎることを抑制することができ、音と振動との一体感を実現することが可能になる。
【0146】
さらに、低域最大値信号の値Lmが所定のスレッショルドαよりも大きい場合(Lm>α)には、重み量Wを0(零)に設定することによって、周波数圧縮された中域周波数成分が低域周波数成分に加算されないようにすることができ、低域周波数成分の信号レベルが過剰に増強されてしまうことを防止することができる。
【0147】
また、低域最大値信号の値Lmが所定のスレッショルドα以下である場合(Lm≦α)であっても、重み量の上限β1と下限β2とを予め設定し、重み量Wが上限β1と下限β2との間に収まるように調整を行うことによって、低域周波数成分に加えられる、周波数圧縮された圧縮信号の信号成分を適正にすることが可能となる。このため、音と信号との一体感を損ねることなく、適切な振動レベル調整を行うことが可能になる。
【0148】
さらに、振動出力装置1のエッジ強調部240,340によって、振動出力時における振動レベルの立ち上がりを強調する立ち上がり強調処理および、振動低減時における振動の立ち下がりを速やかに行う立ち下がり強調処理を行うことによって、振動信号にメリハリを加えることができ、抑揚の付加された振動をサブウーハSWから出力することが可能になる。
【0149】
また、聴覚によりユーザが体感する音の認識感度(レベル変化の認識感度)に比べて、触覚によりユーザが体感する振動の認識感度(レベル変化の認識感度)は鈍くなる傾向がある。このため、エッジ強調部240,340によって振動レベルの立ち上がり強調処理および立ち下がり強調処理を行うことにより、触覚によりユーザが体感する振動の認識感度を高めることが可能になり、聴覚によりユーザが体感する音の認識感度との感度差を補正し、音と振動との一体感をより一層高めることが可能になる。
【0150】
また、第1レベル補正部250および第2レベル補正部350のアタック・リリース時間制御部は、エッジ強調部240,340によって振動レベルの立ち上がり・立ち下がり強調処理が行われた信号に対して、アタック時間制御およびリリース時間制御を行うが、最大値ホールド信号の信号レベルが−40dB(制御最小値)以下の場合には、アタック時間制御およびリリース時間制御を停止させる。最大値ホールド信号の信号レベルが制御最小値以下の場合に、アタック・リリース時間制御を停止することによって、振幅変化の大きい音響信号(低域抽出信号、圧縮信号)に対し、第1レベル補正部250および第2レベル補正部350で補正する範囲を制御することができ、結果的に第1レベル補正部250および第2レベル補正部350による補正が過制御となってしまうことを抑制することが可能になる。
【0151】
以上、本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムについて、実施の形態に係る振動出力装置1を一例として示し、詳細に説明を行った。しかしながら、本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムは、実施の形態において説明した振動出力装置1の構成等には限定されず、異なる構成によるものでもよい。
【0152】
例えば、実施の形態において具体的に示した各種設定値、例えば、表2〜表4で示した値等は、一例であって、これらの設定値に限定されるものではない。さらに、式1〜式4に示した各種設定内容についても、実施の形態において示した具体的な設定値は一例であって、これらの設定値に限定されるものではない。
【0153】
また、実施の形態に係る振動出力装置1では、エッジ強調部240とエッジ強調部340との両方によって振動レベルの立ち上がり強調処理および立ち下がり強調処理を行う場合について説明したが、本発明に係る振動出力装置および振動出力用プログラムでは、必ずしもエッジ強調部240とエッジ強調部340との両方による処理は必須ではない。必要に応じていずれか一方あるいは両方のエッジ強調部を省略することも可能である。
【0154】
さらに、エッジ強調部240,340において行う立ち上がり強調処理と立ち下がり強調処理とは、必ずしも両方の処理を行う必要はない。立ち上がり強調処理と立ち下がり強調処理とのどちらか一方の処理を行う場合であってもよい。立ち上がり強調処理と立ち下がり強調処理との少なくとも一方の処理を行うことにより、振動信号にメリハリを加えることが可能となり、抑揚の付加された振動をサブウーハSWから出力することが可能になる。