【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、溶接前に、高強度鋼板単独で一対の加熱用電極による熱処理を施すようにした。
【0008】
ここに開示する高強度鋼板の抵抗溶接方法は、複数の重ね合わせた鋼板を溶接する方法であって、且つ当該複数の鋼板のうちの少なくとも1枚は引張強度が1GPaを超える強度を有する高強度鋼板であり、
上記高強度鋼板における上記複数の鋼板のうちの他の鋼板と溶接すべき部位及びそのまわりを、一対の加熱用電極によって挟み加圧しながら通電することによって発熱させて、上記部位及びそのまわりの延性を増大させる上記高強度鋼板単独での熱処理工程と、
上記熱処理を施した上記高強度鋼板を含む上記複数の鋼板を重ね合わせ、この複数の鋼板の溶接すべき部位を、一対の溶接用電極によって挟み加圧しながら通電することによって発熱させて当該鋼板間に溶接ナゲットを形成する溶接工程とを備え、
上記加熱用電極の上記鋼板に接触する先端径Dhは、上記溶接用電極の上記鋼板に接触する先端径Dwよりも大きいことを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、引張強度が1GPaを超える強度有する高強度鋼板は、一対の加熱用電極を用いた加圧通電による熱処理によって、溶接すべき部位(以下、「溶接部位」という。)及びそのまわりの延性が増大する。加熱用電極の先端径Dhは溶接用電極の先端径Dwよりも大きいから、高強度鋼板には、溶接ナゲットが形成される部分から周囲に拡がる延性増大部が形成される。よって、溶接ナゲットまわりにおいて高強度鋼板に局部的に応力が集中することが緩和され、溶接割れの防止に有利になる。
【0010】
加えて、高強度鋼板の溶接部位及びそのまわりには、上記加熱用電極による加圧通電によって軟化した状態で、当該加圧により圧縮応力が付与される。この圧縮応力の付与により、その後の溶接に伴う引張残留応力が低減され、水素脆化に起因する遅れ割れの防止に有利になる。
【0011】
一実施形態では、上記高強度鋼板は、溶接される面にめっき層を有し、マルテンサイト組織を主とする鋼板であり、例えば、ホットスタンプにより成形と焼入れとが行なわれた鋼板である。
【0012】
このような高強度鋼板の抵抗溶接において、上記熱処理工程により、その溶接部位及びそのまわりを焼き戻しマルテンサイト組織に変化させて延性を向上させる。或いは、当該熱処理工程により、溶接部位の周囲に軟化領域を形成して、その延性を向上させる。この溶接部位まわりの延性向上により、得られる溶接品は、外部荷重による応力集中が緩和される。同時に、当該溶接部位まわりの軟化・延性向上により、溶接残留応力が低減するため、遅れ割れも避けられる。
【0013】
ところで、ホットスタンプ工法は、鋼板を金型で熱間成形した状態で冷媒によって急冷して焼入れするものであり、形状凍結性が高く高強度な部品が得られる。この工法では、安定した焼入れ強度を得るために、鋼板は成形前にAc3変態点以上の高温に加熱される。その際に鋼板表面に酸化スケールが発生することを抑制するために、鋼板表面に例えばアルミ合金めっきが施されている。
【0014】
このようなめっき鋼板は、ホットスタンプにおける昇温速度、到達温度、保持時間等の加熱条件によってアルミめっきの層構造が変化する。その結果、通電抵抗が高いFe−Al合金相を生じてスポット溶接性が悪くなるという問題がある。また、Fe−Al合金相の生成程度が部分的に異なることで、通電抵抗のばらつきも生じ易くなる。
【0015】
さらに、このFe−Al合金相は、非常に硬く脆い為 熱間成形時にめっき層にクラックが入ったり、金型との擦過によって剥離したりすることがある。そのため、溶接に適した均質な表面状態を確保することは難しい。鋼板の表面性状が均質でないときは、スポット溶接時の接触抵抗が部分的に異なり(ばらつき)、そのため、発熱量が部分的に異なる結果、良好な溶接ナゲットが得られなくなるという問題が従来あった。
【0016】
特許文献1に記載された溶接方法では、円環状電極による焼き戻しによって溶接部周辺に延性が得られるため、HAZ軟化部の応力集中による割れの抑制及び残留応力の低減については効果が得られる。しかし、高強度鋼板のめっき層がスポット溶接に悪影響を及ぼす問題を解決するものではない。
【0017】
特許文献2に記載された溶接方法では、鋼板間のアルミ層は排出することができても、Fe−Al合金相をなくすことは難しく、また、鋼板を重ね合わせた状態の通電制御では、その合わせ面の表面性状を均質にすることも実際には難しい。
【0018】
これに対して、本発明に係る方法の重要な特徴は、高強度鋼板に対する上記熱処理を、鋼板同士を重ね合わせた状態ではなく、この高強度鋼板単独で且つ上記加熱用電極による加圧通電によって行なう点である。これにより、高強度鋼板の溶接面のめっき層が均質化される。すなわち、高強度鋼板の溶接部位のめっき層は、通電による発熱で軟化ないしは溶融し、加圧されることにより、押し潰されて均質化する。例えば、めっき層のクラックは、軟化溶融しためっき金属で埋められ、加圧されることで消滅していく。これは、めっき層の表面性状の均質化である。
【0019】
よって、高強度鋼板の溶接部位の通電抵抗のばらつきが少なくなるため、良好な溶接ナゲットの生成に有利になる。
【0020】
一実施形態では、上記加熱用電極の先端径Dhは、上記溶接用電極の先端径Dwの2倍以上4倍以下である、若しくは上記溶接用電極によって上記複数の鋼板間に形成する溶接ナゲットの径の2倍以上4倍以下である。
【0021】
これにより、上記高強度鋼板の溶接部位のまわりの延性を確実に向上させることができる。
【0022】
一実施形態では、上記加熱用電極による熱処理は、上記高強度鋼板における当該熱処理部からその周囲の非熱処理部に向かって硬度が漸次変化した状態になるように、上記通電による発熱量を制御する。例えば、上記加熱用電極による通電電流を漸減するダウンスロープ制御を行なうことによって、当該通電を終了させるようにする。
【0023】
これにより、溶接ナゲットまわりにおいて、溶接品に対して外部荷重が加わったときの応力集中が避けられ、溶接品の破断防止に有利になる。
【0024】
一実施形態では、上記溶接工程の後に、上記鋼板に接触する先端径が上記溶接用電極の上記鋼板に接触する先端径Dwよりも大きい一対の判定用電極によって上記複数の鋼板の溶接部を挟み、加圧しながら通電して通電抵抗を測定し、該通電抵抗を基準値と比較することによって溶接品質の良否を判定する品質判定工程を備えている。
【0025】
以下、具体的に説明する。溶接工程では、複数の重ね合わされた鋼板を一対の溶接用電極によって挟み、加圧しながら通電するため、鋼板の表面における溶接用電極が接触した部位に多少の圧痕(凹み)を生ずる。この鋼板の圧痕を生じた部分に判定用電極を当てると、該判定用電極は鋼板の表面における圧痕まわりに接触することになる。
【0026】
溶接工程において散りの発生があったときは、鋼板の溶接部位の溶融物が噴出することによって欠肉を生ずる。従って、溶接用電極の鋼板への沈み込みは散りがない場合に比べて大きくなる。すなわち、溶接用電極による鋼板表面の圧痕が大きくなる。この圧痕が大きくなるほど、判定用電極は鋼板表面の圧痕まわりに対する接触面積に小さくなる。また、散りの発生があったときは溶接ナゲットの大きさも小さくなる。
【0027】
従って、溶接工程において散りの発生があったとき、溶接後の判定用電極による通電においては、上記接触面積が小さいため、また、溶接ナゲットが小さいため、通電抵抗が大きくなる。よって、溶接後の判定用電極による通電時の通電抵抗の大きさを測定することによって、溶接品質の良否(通電抵抗が基準値よりも大きいときに溶接不良)を判定することができる。従って、従来のタガネ試験の様に溶接部に衝撃荷重を入力することなく品質判定が行える為、タガネ試験により発生する溶接部周辺のクラック等の欠陥抑制効果をも得ることが可能となる。
【0028】
一実施形態では、上記溶接工程の後に、上記一対の判定用電極によって上記複数の鋼板の溶接部を挟み、加圧したときの上記一対の判定用電極の電極間距離の変化量を測定し、該変化量を基準値と比較することによって溶接品質の良否を判定する品質判定工程を備えている。
【0029】
上述の如く、溶接工程において散りの発生があったときは欠肉を生ずるため、重ね合わされた複数の鋼板の溶接部分の厚さは、散りがない場合に比べて薄くなる。すなわち、溶接された複数の鋼板の溶接部分を一対の判定用電極で挟んで加圧したときの、両加熱用電極の電極間距離は散りの発生の有無によって異なる。よって、溶接後の判定用電極による通電時の電極間距離の変化量を測定することによって、溶接品質の良否(電極間距離の変化量が基準値よりも大きいときに溶接不良)を判定することができる。
【0030】
一実施形態では、上記品質判定工程において、上記溶接品質の不良が判定されたときに、上記複数の鋼板の溶接部を、上記鋼板に接触する先端径が上記溶接用電極の上記鋼板に接触する先端径Dwよりも大きい一対の手直し用電極によって挟み、加圧しながら通電することによって発熱させて、上記溶接ナゲットを成長させる手直し工程を備えている。
【0031】
品質判定工程において溶接不良が判定されたとき、すなわち、溶接ナゲットが小さいときは、通電抵抗が大きくなる。従って、当該手直し用電極による加圧通電において、複数の鋼板間の通電抵抗が大きい溶接ナゲット部位で発熱が大きくなり、鋼板が溶融して溶接ナゲットが成長することになる。
【0032】
一実施形態では、上記加熱用電極は、上記鋼板に接触する面が平坦面になったフラット形電極である。これにより、高強度鋼板の溶接部位及びそのまわりの加熱が容易になる。
【0033】
一実施形態では、上記判定用電極及び上記手直し用電極各々は、上記鋼板に接触する面が平坦面になったフラット形電極である。これにより、品質判定の信頼性向上、溶接不良手直しに有利になる。
【0034】
上記加熱用電極、上記判定用電極及び上記手直し用電極各々は、フラット形電極に代えて、先端半径が大きなラジアス形電極を用いることもできる。
【0035】
また、上記判定用電極及び上記手直し用電極としては、上記加熱用電極を用いるようにしてもよい。
【0036】
上記溶接用電極としては、上記鋼板に接触する面がドーム状に突き出した周知のドームラジアス形電極を用いることが好適であり、或いはコーンフラット形電極など他の形状の電極を用いることもできる。