【解決手段】チップが固定されたカートリッジと、カートリッジが挿入されるポケットの形成された本体と、カートリッジを固定する固定具とを具備するフライスカッターであり、本体は、ポケットの半径方向内側に隣接する固定具挿入穴、及びポケットと固定具挿入穴との間の仕切壁を有しており、固定具挿入穴に挿入された固定具が半径方向外向きの力を仕切壁に及ぼし、ポケットは、仕切壁を介してカートリッジに作用する半径方向外向きの力に対抗する反力を生み出すように形成されており、カートリッジが半径方向外向きの力に基づいてポケットに固定される。
前記ポケット及び前記カートリッジの横断面形状は、前記半径方向外向きの力が前記カートリッジに作用したとき、前記ポケットと前記カートリッジとの間に3点接触状態が生じるような形状である、請求項1に記載のフライスカッター。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施形態について
図1〜
図6を参照して説明する。
本発明の第1の実施形態によるフライスカッター100は、複数の切れ刃31を有する正面フライスとして形成されており、円盤状の第1プレート11及び第2プレート12からなる本体10と、切れ刃31の形成されたチップ32が固定された複数のカートリッジ33と、カートリッジ33を本体10に固定するための複数の固定具40と、本体10に締結されたシャンク部50とを具備する。複数のカートリッジ33は、本体10に設けられた複数のポケット15にそれぞれ挿入されて把持されている。フライスカッター100は、その回転軸線Raを中心にして
図2の矢印Bの方向に回転する。なお、本明細書における「半径方向」は、フライスカッター100の回転軸線Raに関する半径方向を意味する。
【0012】
本実施形態では、フライスカッター100は、12個の互いに同一のカートリッジ33を具備する。なお、
図1及び
図4では、図を明瞭にするために、3つのカートリッジ33だけが作図されている。12個のカートリッジ33は同一のものであるので、以下の説明では、1つのカートリッジ33だけが説明される。これは、第1プレート11のポケット15や固定具40等についても同様である。
【0013】
第1プレート11と第2プレート12は互いに等しい外径を有するものであって、第2プレート12側から挿入される第1ボルト13によって同軸に互いに結合されている。第2プレート12には、第2ボルト14によってシャンク部50が結合される。シャンク部50は、工作機械の主軸(図示せず)に装着可能であるように形成された公知のテーパ部51及び主軸側フランジ部52、並びに本体基準面10rに取り付けられる本体側フランジ部53を有している。また、シャンク部50の内部では、回転軸線Raに沿って、図示しないクーラント供給路が貫通している。
【0014】
カートリッジ33は、チップ32の固定される先端部33aと、本体10のポケット15に挿入される円柱状の中間部33bと、後述するカートリッジ位置調整機構60が係合する基端部33cとを有する。チップ32は、本実施形態では三角形状のものであって、正面フライス加工を実施できるように、カートリッジの先端部33aより回転軸線方向にわずかに突出した状態でチップ固定ボルト34によってカートリッジ33に固定されている。本実施形態では、チップ32の先端側の辺の半径方向外側の部分が切れ刃31として働く。
【0015】
第1プレート11は、カートリッジ33を把持するためのポケット15と、ポケット15の半径方向内側に隣接して設けられた平面視で矩形の固定具挿入穴16とを有する。その結果、ポケット15と固定具挿入穴16との間には仕切壁17が形成される。ポケット15及び固定具挿入穴16は第1プレート11を回転軸線方向に貫通している。ポケット15は回転軸線方向で変化しない一様な断面形状を有するのに対して、固定具挿入穴16は、第2プレート12に近づくにつれて半径方向の幅が狭くなるように形成されている。ポケット15の形状は、
図3では円形に示されるが、詳しくは後述するように、カートリッジ33の円柱状の中間部33bとの間で3点接触状態が得られるように非円形に形成されている。なお、
図3は、第1プレート11からカートリッジ33及び固定具40を取り除いて端面11a側から見た部分拡大図であり、回転軸線Ra周りの90度の領域の部分拡大図である。
【0016】
第1プレート11の端面11aには、各チップ32に向けてクーラントを放射するクーラント放射口18が設けられている。クーラントはシャンク部50から第2ボルト14の中心軸線に沿って流れ、水平方向に方向変換されて第1プレート11を流れクーラント放射口18に至る。
【0017】
固定具40は、本実施形態では、楔として働くように、半径方向内側に傾斜面40bを有する柱状の6面体として形成されている。固定具40の半径方向外側は鉛直面40aとして形成されているが、縦方向の中央部に凹部40cが形成されている。前記傾斜面40bに平行に固定具40を貫通してクランプボルト41が延びている。第2プレート12には、クランプボルト41の先端のねじ部がねじ込まれるねじ穴19が形成されている。
図5からは、クランプボルト41を締め込むことによって、固定具40が下方に移動して、第1プレート11の仕切壁17に対して半径方向外向きの力が作用し、したがって、その力が仕切壁17を介してポケット15に挿入されたカートリッジ33に作用して、カートリッジ33がポケット15に固定されることが理解されよう。
【0018】
仕切壁17は、固定具40から半径方向外向きの力を受けたとき、半径方向外側に変形して移動するように比較的薄く形成されている。仕切壁17は、本実施形態では、
図3に示されるように略アーチ状に形成されているが、様々な形状が可能である。仕切壁17の移動は、本実施形態では、仕切壁17の弾性変形に基づくものであるが、それが弾性変形だけでなく仕切壁17を半径方向にスライドさせる変形に基づくものであってもよい。
【0019】
図6は、(a)がカートリッジ33のアンクランプ状態を、また(b)がクランプ状態を説明するための本体10の模式的部分縦断面図である。各図の上方には、ポケット15の輪郭とそこに挿入されたカートリッジ33の横断面が示される。ポケット15は第1プレート11を回転軸線方向に貫通する非円形穴として形成されている。ポケット15の非円形穴の平面視による形状は、円形に正三角形の要素を含ませた形状と表現することができ(以下、本明細書では「湾曲正三角形」という)、図に示されるように、120度間隔で配置された3つの小曲率半径部(以下、本明細書では「湾曲頂点」という)15aとそれらの間の3つの大曲率半径部(以下、本明細書では「湾曲辺」という)15bとからなる。湾曲辺15bの曲率半径は、カートリッジ33の円柱の半径よりも大である。ポケット15の湾曲正三角形は、カートリッジ33が、アンクランプ状態で湾曲辺15bにほぼ内接し、クランプ状態で完全に内接するように形作られている。したがって、カートリッジ33は、横断面図で見たとき、ポケット15の内壁に3点接触する。なお、
図6では、湾曲正三角形である非円形穴の特徴を強調するために、3つの湾曲辺15bの曲率半径を実際よりも大きく描いている。
【0020】
(a)のアンクランプ状態では、前述したように、カートリッジ33はポケット15の内壁にほぼ内接する。
図6の(a)では、カートリッジ33とポケット15内壁との間に隙間が示されるが、この隙間は実際には50ミクロンメートル以下なので目視は困難である。クランプ状態では、(b)に示されるように、図の下方に移動した固定具40によって半径方向外向きの力Fが、仕切壁17を形成する湾曲辺15b上の接触点からカートリッジ33に作用する。その結果、半径方向外向きの力に対抗する2つの反力R
1、R
2が他の二つの湾曲辺15b上のそれぞれの接触点からカートリッジ33に作用し、したがってカートリッジ33は安定な3点接触状態でポケット15に固定される。以下、半径方向外向きの力とそれに対抗する2つの反力を本明細書ではそれぞれクランプ力ともいう。
図6の(b)に示されるように、3つのクランプ力F、R
1、R
2のベクトルは、同じ大きさを有し、120度異なる方向で延びて一点で交わる。
【0021】
カートリッジ位置調整機構60は、回転軸線方向における切れ刃31の位置を調整するために、カートリッジ33の基端部33cに対向して第2プレート12に備えられている。カートリッジ位置調整機構60は、2つのねじ部品より構成されていて、一方のねじ部品を回転させることによって他方のねじ部品が回転することなく
図5の上下に移動するように構成されている。前記他方のネジ部品の先端には、カートリッジ33の基端部33cに設けられた溝に嵌合する略直方体の係合部が設けられている。他方のねじ部品は、カートリッジ33の向きが定まるように、その係合部の直方体の長手方向が半径方向に直交する方向に配置されて変化しない。
【0022】
カートリッジ33の高さ方向の位置の調整は、本体10にシャンク部50を固定する前に、カートリッジ33がアンクランプ状態のときに実施される。
【0023】
本実施形態のフライスカッター100によると、固定具40とカートリッジ33は直接的には接触しないので、カートリッジ33をポケット15に固定するときに、固定具40のクランプボルト41をきつく締め付けた場合でも、カートリッジ33の位置や姿勢を変化させる力がカートリッジ33に作用することがない。したがって、例えば所望の高さに調整されたカートリッジ33の切れ刃31の位置が、カートリッジ33をポケット15に固定することにより変化して、再調整が必要になるといった事態が回避される。また、カートリッジ33とポケット15の内壁面との間の3点接触状態から生じる3つのクランプ力F、R
1、R
2によって、カートリッジ33の姿勢の安定性がより高められる。
【0024】
また、ポケット15は穴として形成され、したがってポケット15の半径方向外側には壁が存在するので、フライスカッター100の高速回転中にカートリッジ33が何らかの理由によってアンロック状態になったとしても、カートリッジ33が遠心力によって外側に飛び出るという危険な事態は回避される。更に、アンロック状態になったとしても、遠心力により固定具40が仕切壁17に押し付けられるため、カートリッジ33をクランプする力が失われずカートリッジ33が回転軸線方向に飛び出るという事態も回避される。
【0025】
また、固定具40はカートリッジ33よりも半径方向内側に配置されるので、カートリッジ33を本体10の外周面に隣接して配置することができ、その結果、多数のカートリッジ33を本体10に配置することが可能になる。
【0026】
次に本発明の第2の実施形態によるフライスカッターについて、
図7を参照して以下に説明する。
図7は、第1の実施形態の場合の
図6に類似する図であって、
図7の(a)がカートリッジ33のアンクランプ状態を、及び(b)がクランプ状態を示している。第1の実施形態と異なる点は、仕切壁17を変形させることによってアンクランプ状態が得られ、及び仕切壁17の変形を解除することによってクランプ状態が得られることである。
【0027】
そのため、第2の実施形態における固定具140は、その傾斜面140bの方向が第1の実施形態の場合と正反対に作られている。また、ポケット15の非円形穴の平面視による形状は、第1の実施形態の場合と同様の、円形に正三角形の要素を含ませた湾曲正三角形であるが、第1の実施形態のものから60度回転した状態にあり、したがって仕切壁17の中心に一つの湾曲頂点15aが配置される。また、アンクランプ状態のポケット15の内接円の直径がカートリッジ33の円柱の直径よりも小であることも第1の実施形態と異なる点である。
【0028】
第2の実施形態において、カートリッジ33をポケット15に挿入するためには、ポケット15の湾曲正三角形の内接円の直径を拡大させる必要がある。そのためには、
図7の(a)に示されるように、固定具140を、図示しないねじ機構によって
図7の上方へ引き上げ、それにより仕切壁17に半径方向外向きの力を作用させればよい。前記半径方向外向きの力による仕切壁17の変形によって、ポケット15の湾曲正三角形の2つの湾曲辺15bが外側へ弾性変形して、ポケット15の湾曲正三角形の内接円の直径が拡大する。
【0029】
第2の実施形態において、ポケット15に挿入されたカートリッジ33をクランプするためには、固定具140を
図7の下方へ図示しないねじ機構によって移動させることにより仕切壁17に作用する半径方向外向きの力を解除すればよい。そうすると、変形していたポケット15の非円形穴が縮小し、カートリッジ33と3つの湾曲辺15bが接触する(
図7の(b))。その結果、カートリッジ33にはクランプ力R
1〜R
3が作用する。
【0030】
次に本発明の第3の実施形態によるフライスカッターについて、
図8を参照して以下に説明する。
図8は、第1の実施形態の
図6に類似する図であって、(a)カートリッジ133のアンクランプ状態を、及び(b)がクランプ状態をそれぞれ示している。第3の実施形態においては、カートリッジ133は、その中間部の横断面形状が湾曲正三角形になるよう形成されている。一方、ポケット115は、湾曲正三角形のカートリッジ133に外接する円形穴として形成されている。
【0031】
第3の実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様に、固定具40を図示しないねじ機構によって下方へ移動させることにより仕切壁117を介して半径方向外向きの力をカートリッジ133に作用させると、その力を含めた3つのクランプ力F、R
1、R
2が120度間隔で発生し、したがってカートリッジ133はポケット115に固定される。
【0032】
次に本発明の第4の実施形態によるフライスカッターについて、
図9を参照して以下に説明する。
図9は、第2の実施形態の場合の
図7に類似する図であって、
図9の(a)がカートリッジ133のアンクランプ状態を、及び(b)がクランプ状態をそれぞれ示している。第4の実施形態においては、カートリッジ133の横断面形状は、第3の実施形態の場合と同様に、円形に正三角形の要素を含ませた湾曲正三角形であり、ポケット115は、湾曲正三角形のカートリッジ133に外接する円形穴として形成されている。
【0033】
第4の実施形態におけるアンクランプ状態は、第2の実施形態の場合と同様に、固定具140を図示しないねじ機構によって上方に引き上げ仕切壁117に半径方向外向きの力を作用させることにより得られる。クランプ状態も、第2の実施形態の場合と同様に、固定具140を下方に移動させて仕切壁117に作用していた半径方向外向きの力を解除することにより得られる。
【0034】
次に本発明の第5の実施形態によるフライスカッターについて、
図10を参照して以下に説明する。
図10は、第1の実施形態の
図6に類似する図であって、(a)がカートリッジ33のアンクランプ状態を、及び(b)がクランプ状態をそれぞれ示している。第5の実施形態では、固定具が一対の固定具240a、240bから構成されている。
【0035】
一対の固定具240a、240bは、
図10における水平線に関して対称の輪郭を有しており、固定具挿入穴116の内部に進むほど先細に形成されている。第5の実施形態においては、図示しないねじ機構で固定具240aと固定具240bとを互いに近づける方向に移動させることにより仕切壁17を介して半径方向外向きの力をカートリッジ33に作用させると、その力を含めたクランプ力F、R
1、R
2が120度間隔で発生し、したがってカートリッジ33はポケット15に固定される。
【0036】
次に本発明の第6の実施形態によるフライスカッターについて、
図11を参照して以下に説明する。
図11は、第3の実施形態の
図8に類似する図であって、(a)がカートリッジ133のアンクランプ状態を、及び(b)がクランプ状態をそれぞれ示している。第6の実施形態においては、カートリッジ113は、その中間部の横断面形状が湾曲正三角形になるように形成されている。一方、ポケット115は、湾曲正三角形のカートリッジに外接する円形穴として形成されている。第6の実施形態では、固定具は第5の実施形態の場合と同様のものであって、一対の固定具240a、240bから構成されている。
【0037】
第6の実施形態においては、図示しないねじ機構で固定具240aと固定具240bとを互いに近づける方向に移動させることにより仕切壁117を介して半径方向外向きの力をカートリッジ133に作用させると、その力を含めたクランプ力F、R
1、R
2が120度間隔で発生し、したがってカートリッジ133はポケット115に固定される。
【0038】
第1〜第6の実施形態では、カートリッジの中間部の横断面形状及びポケットの穴の横断面形状のどちらか一方が湾曲正三角形であり他方が円形状に形成されている。ただし、それら横断面形状の一方は湾曲正三角形に限らず、他方の円形状が3点で内接または外接する断面形状であればよい。
図12及び
図13に例示するように、円形状を3箇所切り欠いた逃げ部を有する形状でも湾曲正三角形の代わりに用いることができる。
図12では、カートリッジ233の横断面形状は、中心円形部233aとそれから120度間隔で突出した3つの突出部233bとを有する。
図13では、ポケット215の横断面形状は、円形のカートリッジ33に内接する120度間隔で設けられた3つの小径部215bと、3つの大径部215aとを有する。
【0039】
前述の実施形態では、ポケットは平面視では閉じた空間を形成するものであったが、ポケットの例えば半径方向外側がスリット状に開放した実施形態も可能である。その場合、前記半径方向外向きの力に対抗する2つの反力の発生を可能にする限りにおいてスリットの幅を広げることができる。
【0040】
前述の実施形態では、ポケットあるいはカートリッジの横断面形状は、それらが互いに3点接触する円形と非円形との組み合わせからなるものであったが、3点以上の例えば4点接触するようなものであってもよい。
【0041】
前述の実施形態では、フライスカッター100はカートリッジ位置調整機構60を具備するものであるが、カートリッジ位置調整機構60を具備しないフライスカッターの実施形態も可能である。その場合、カートリッジの切れ刃31の第1プレート11の端面11aからの突出量が例えば治具と作業者の手を使って望ましい位置に設定されたならカートリッジがクランプされるであろう。