【解決手段】空気入りタイヤのシミュレーション装置1は、加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するFEMモデリング部41と、タイヤFEMモデルのビードリング間隔を変更するように変形させるビードリング間隔変更部43と、ビードリング間隔が変更されたタイヤFEMモデルについてリム組みした状態を再現するリム組み解析部44と、リム組みしたタイヤFEMモデルの接地状態を再現した接地解析を実行する接地解析部45とを備える。
前記PCI解析部は、前記PCI解析において、前記タイヤFEMモデルのビード部を拘束した状態で前記タイヤFEMモデルに対して内圧を付与する、請求項2に記載の空気入りタイヤのシミュレーション装置。
前記ビードリング間隔変更部は、PCI解析が行われない場合、前記タイヤFEMモデルの前記ビードリング間隔を縮小する、請求項1に記載の空気入りタイヤのシミュレーション装置。
前記PCI解析において、前記タイヤFEMモデルのビード部を拘束した状態で前記タイヤFEMモデルに対して内圧を付与する、請求項7に記載の空気入りタイヤのシミュレーション方法。
コンピュータにロードされることにより、前記コンピュータに、請求項6から請求項10のうちのいずれか1項に記載の空気入りタイヤのシミュレーション方法を実行させる、プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際の製品としてのタイヤは、加硫成形工程後の変形により、リム組みされたタイヤ(空気入りタイヤ組付体)の応力は開放されておらず、タイヤ内に残留応力が発生している。例えば特許文献1のような従来手法を使用してタイヤの外面形状を高精度に再現した接地解析を行う場合、上記残留応力を計算するために、様々に複雑な設定を行う必要があり、また熱解析を含む複雑な計算を行う必要がある。従って、解析工数および計算コストが増大する。
【0005】
本発明は、空気入りタイヤのシミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、タイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するFEMモデリング部と、前記タイヤFEMモデルのビードリング間隔を変更するように変形させるビードリング間隔変更部と、前記ビードリング間隔が変更された前記タイヤFEMモデルについてリム組みした状態を再現するリム組み解析部と、リム組みした前記タイヤFEMモデルの接地状態を再現した接地解析を実行する接地解析部とを備える、空気入りタイヤのシミュレーション装置を提供する。
【0007】
この構成によれば、加硫成形金型の内面形状に応じて得られたタイヤFEMモデルからビードリング間隔を変更するように変形させることで、リム組みの際に残留応力が付与された状態を簡易に再現できる。従って、解析上で熱解析などのための様々な設定および複雑な計算を行う必要がない。よって、タイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【0008】
前記シミュレーション装置は、前記タイヤFEMモデルに内圧を付与して膨張変形させるPCI解析を実行するPCI解析部をさらに備え、前記ビードリング間隔変更部は、前記PCI解析の設定圧力が高いほど、前記ビードリング間隔を拡張してもよい。
【0009】
この構成によれば、より高精度にタイヤの外面形状を再現できる。これは、PCI解析の設定圧力を高くするほど、即ち、より大きな内圧をタイヤに付与するほど、加硫後のタイヤが膨張して総幅が広くなる現象を再現できるためである。
【0010】
前記PCI解析部は、前記PCI解析において、前記タイヤFEMモデルのビード部を拘束した状態で前記タイヤFEMモデルに対して内圧を付与してもよい。
【0011】
この構成によれば、リムに接触するビード部ではタイヤの変形が抑制されるため、ビード部(特にラバーチェーハー)の変形を実際のタイヤの変形に合わせることができる。
【0012】
前記PCI解析部は、前記PCI解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定はベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定することを含むPCI解析条件設定部と、前記PCI解析条件設定部にて設定された解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの形状を計算するPCI解析演算部とを含み、前記接地解析部は、前記接地解析の解析条件を設定する部分であって、この解析条件の設定は前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析条件設定部にて設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件設定部と、前記接地解析条件設定部にて設定された解析条件および前記タイヤFEMモデル形状に基づいて前記タイヤの接地性能を計算する接地解析演算部とを含んでもよい。
【0013】
この構成によれば、PCI解析と接地解析とで物性値を変更する部材は、ベルト部材のみである。従って、解析条件の再定義の手間が簡略化される。物性値の中でも特に弾性率は、一般に温度が高いほど低い値をとる。従って、PCI解析では各部材の弾性率を常温時の値よりも低く設定し、接地解析では各部材の弾性率を常温時の値に設定することが好ましい。しかし、全部材の物性値を工程ごとに再定義するのは手間がかかる。そこで、変形に対する寄与度の大きなベルト部材に着目し、ベルト部材の弾性率のみをPCI工程と接地解析とで変更することで、解析条件の再設定の手間を簡略化できる。特に、ベルト部材は、金属材料を含んでおり、トレッド面やサイドウォール面などを構成するゴム部材よりも弾性率の温度依存性が低い。そのため、ベルト部材とゴム部材との温度を考慮した弾性率の差異は、PCI解析においては大きく、接地解析においては小さくなることが現実に即しているといえる。上記構成では、数多く配置されたゴム部材の弾性率を工程ごとに変更するのではなく、ベルト部材の弾性率のみをPCI工程において常温時の弾性率よりも高く設定することで、上記の弾性率の差異の関係が保たれる。従って、PCI工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【0014】
前記ビードリング間隔変更部は、PCI解析が行われない場合、前記タイヤFEMモデルの前記ビードリング間隔を縮小してもよい。
【0015】
この構成によれば、PCI工程が行われずに製造されるタイヤについて、加硫成形工程後にタイヤが冷却されることによる収縮を再現することができる。一般に、PCI工程を経ていない内圧を付与されないタイヤは、加硫成形工程後の冷却によって収縮する。従って、当該タイヤの収縮をビードリング間隔の縮小によって簡易に再現できる。
【0016】
本発明の第2の態様は、加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得し、前記タイヤFEMモデルのビードリング間隔を変更するように変形させ、前記ビードリング間隔が変更された前記タイヤFEMモデルについてリム組みした状態を再現し、リム組みした前記タイヤFEMモデルの接地状態を再現した接地解析を実行することを含む、空気入りタイヤのシミュレーション方法を提供する。
【0017】
前記シミュレーション方法は、前記タイヤFEMモデルに内圧を付与して膨張変形させるPCI解析を実行することをさらに含み、前記PCI解析の設定圧力が高いほど、前記ビードリング間隔を拡張してもよい。
【0018】
前記シミュレーション方法では、前記PCI解析において、前記タイヤFEMモデルのビード部を拘束した状態で前記タイヤFEMモデルに対して内圧を付与してもよい。
【0019】
前記PCI解析は、前記PCI解析の解析条件の設定において、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率よりも所定以上高く設定し、設定された前記解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの形状を計算することを含み、前記接地解析は、前記接地解析の解析条件の設定において、前記ベルト部材を除く各部材について前記PCI解析にて設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定し、設定された解析条件および前記タイヤFEMモデル形状に基づいて前記タイヤの接地性能を計算することを含んでもよい。
【0020】
前記シミュレーション方法では、PCI解析が行われない場合、前記タイヤFEMモデルの前記ビードリング間隔を縮小してもよい。
【0021】
本発明の第3の態様は、コンピュータにロードされることにより、前記コンピュータに前記シミュレーション方法を実行させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、空気入りタイヤのシミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、タイヤFEMモデルのビードリング間隔を変更するように変形させているため、タイヤ内の残留応力を再現でき、タイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0025】
(第1実施形態)
本実施形態のシミュレーション装置は、自動車等に用いられる空気入りタイヤ(以降、単にタイヤともいう。)の接地解析を高精度かつ簡易に行うものである。特に、本実施形態のシミュレーション装置は、PCI工程を経たタイヤの形状を再現し、そのように再現されたタイヤに所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させ、所定境界条件の下、接地形状及び接地面に生じる力(接地圧など)を算出する。
【0026】
図1は、タイヤ組付体100の模式的なタイヤ子午線断面図である。なお、
図1は断面図であるが、図示が煩雑となるため、断面を示すハッチングを省略している。
【0027】
タイヤ組付体100は、タイヤ110と、リム120とを備える。
【0028】
タイヤ110は、一対のビードコア111aおよびラバーチェーハー111b間にカーカス112を掛け渡し、カーカス112の中間部の外周側に巻き付けたベルト部材113によって補強し、そのタイヤ径方向(図中A方向)の外側にゴム材料からなるトレッド部114を有する構成となっている。トレッド部114のタイヤ幅方向(図中B方向)の両外側にはサイドウォール部115が連続している。サイドウォール部115のタイヤ径方向の内側には、ビード部116が連続している。ビード部116において、タイヤ110はリム120と接続される。
【0029】
リム120は、
図1に示す断面において、タイヤ110の2つのビード部116をそれぞれ配置する2つのフランジ部121と、タイヤ幅方向において2つのフランジ部121の間でタイヤ径方向内側に向かって凹形状を有する凹部122を有している。リム120は、アルミ合金製、マグネシウム合金製、または鋼鉄製などの金属製であり得る。
【0030】
本実施形態では、後述するように、タイヤ110の外面形状を高精度に再現するべく、PCI工程が考慮される。一般に、タイヤ110の接地解析を行う際には、加硫成形金型(図示せず)の内面形状からタイヤ110の外面形状を再現する。しかし、加硫後に行われるPCI工程を経ることにより、タイヤ110の外面形状は、わずかに膨張し、加硫成形金型の内面形状とは異なる形状となる。以下、PCI工程を考慮した上でタイヤ110の接地解析を実行する本実施形態のシミュレーション装置について説明する。
【0031】
図2を参照して、本実施形態のシミュレーション装置1は、コンピュータであり、入力部10と、表示部20と、記憶部30と、制御部(プロセッサ)40とを備える。
【0032】
入力部10は、シミュレーション装置1に対する入力データを生成する若しくは受け取る部位であり、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパネル等により構成される。ユーザは、入力部10を介して解析に関する種々の条件やデータを入力することができる。
【0033】
表示部20は、制御部40の処理結果等を表示する部位であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等により構成される。
【0034】
記憶部30は、制御部40で稼働するプログラムや解析のためのモデル生成に必要なデータ等が記録されている。
【0035】
制御部40は、タイヤのFEM(Finite Element Method)モデルを作成するFEMモデリング部41と、PCI解析を実行するPCI解析部42と、ビードリング間隔d(
図1参照)を変更するビードリング間隔変更部43と、リム組み状態を再現するリム組み解析部44と、接地解析を実行する接地解析部45とを備える。これらは、ハードウェア資源であるプロセッサと、記憶部30などに記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。
【0036】
FEMモデリング部41は、加硫成形金型(図示せず)の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤ110を複数の要素に分割したタイヤFEMモデルM1(
図3参照)を取得する。
【0037】
PCI解析部42は、タイヤ110の加硫成形直後に行うPCI工程を再現したPCI解析を実行する。PCI解析部42は、PCI解析条件設定部42aと、PCI解析演算部42bとを含んでいる。
【0038】
PCI解析条件設定部42aは、PCI解析の解析条件を設定する部分である。PCI解析条件設定部42aによって、例えば、各部材の物性値や各種境界条件が設定される。特に、ベルト部材113(
図3参照)の弾性率は、常温の弾性率よりも所定以上高く設定され、その他の部材の弾性率は常温の弾性率に設定される。好ましくは、PCI解析条件設定部42aは、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定する。より好ましくは、PCI解析条件設定部42aは、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも10倍以上高く設定する。これらの弾性率の設定は、トレッド部114等のゴム部材の種類に応じて決定されてもよい。
【0039】
PCI解析演算部42bは、PCI解析条件設定部42aにて設定された解析条件に基づいてタイヤFEMモデルM1(
図3参照)のPCI工程後の形状を計算する。PCI解析演算部42bは、PCI工程を再現すべく、ビード部116(
図1参照)を拘束した状態で内圧を付与してタイヤFEMモデルM1を変形させる。これにより、
図3のタイヤFEMモデルM1の外面形状は、
図4に示すタイヤFEMモデルM2の外面形状のように僅かに膨張する。特に、ベルト部材113の弾性率が高く設定されているため、トレッド部114においては膨張量が小さく、サイドウォール部115(特にショルダー部)において膨張量が大きい。そして、計算されたPCI工程後のタイヤFEMモデルM2の外面形状を、自然状態の形状として以下のように接地解析が行われる。
【0040】
ビードリング間隔変更部43は、タイヤFEMモデルM2のビードリング間隔d(
図1参照)を変更するように変形させる。ビードリング間隔d(
図1参照)は、一対のビードリング(ビードコア111a)間のタイヤ幅方向の距離である。本実施形態では、ビードリング間隔変更部43は、PCI解析の設定圧力が高いほどビードリング間隔dを拡張する。ビードリング間隔dの拡張後の状態をタイヤFEMモデルM3として
図4に示している。例えば、ここでのビードリング間隔dの拡張量は、約10mmであってもよい。さらに言えば、ビードリング間隔dの拡張量は、最大で、タイヤ幅の約1.2倍または約20mmとしてもよい。これ以上拡張すると、組みつけるリム120(
図1参照)の高さよりビード部116の端部が上(タイヤ径方向外側)になるので、リム組みが困難になるおそれがある。
【0041】
リム組み解析部44は、ビードリング間隔dが拡張されたタイヤFEMモデルM3についてリム組みした状態を再現する。この再現では、実際にリム120(
図1参照)をモデル化してもよいし、リム120自体をモデル化せずにリム120を仮想的に剛体としてリム120のサイズに合わせて境界条件を設定することによりタイヤFEMモデルM3を変形させてもよい。これにより、タイヤFEMモデルM3内に応力が発生し、加硫成形工程後の残留応力を再現できる。
【0042】
接地解析部45は、PCI工程後のタイヤ110の接地状態を再現した接地解析を実行する。接地解析部45は、接地解析条件設定部45aと、接地解析演算部45bとを含んでいる。
【0043】
接地解析条件設定部45aは、接地解析の条件を設定する部分である。接地解析条件設定部45aによって、例えば、各部材の物性値や各種境界条件が設定される。特に、
図3,4を併せて参照して、タイヤFEMモデルM1のベルト部材113(
図4では図示省略)を除く各部材についてPCI解析条件設定部42aにて設定された物性値と同じ物性値が設定されるとともに、ベルト部材113の弾性率は常温の弾性率に設定される。そして、リム組みされたタイヤFEMモデルM3に所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させるように境界条件を設定する。なお、
図4では、図示を明瞭にするため、主にタイヤFEMモデルM1〜M3の外面形状を示し、内部構成部材の図示を省略している。
【0044】
接地解析演算部45bは、接地解析条件設定部45aにて設定された解析条件およびリム組みされたタイヤFEMモデルM3の形状に基づいて、タイヤ110の接地性能を計算する。タイヤ110の接地性能の計算では、接地形状や接地圧などが算出される。
【0045】
接地形状や接地圧分布を正確に予測することにより、タイヤ110の転がり抵抗特性、摩耗特性、耐久特性、操縦安定性、振動乗り心地特性、ウェット特性、および騒音特性等を正確に予測することができる。
【0046】
本実施形態のシミュレーション装置1で実行するシミュレーション方法ないしプログラムについて、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
本実施形態のシミュレーション方法を開始すると(ステップS5−1)、FEMモデリング部41によって、タイヤFEMモデルM1(
図3参照)が取得される(ステップS5−2)。このタイヤFEMモデルM1は、前述のように加硫成形金型(図示せず)の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤ110を複数の要素に分割したものである。加硫成形金型の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤの形状データは、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0048】
次いで、PCI解析条件設定部42aによって、PCI解析における各部材の物性値や各種境界条件などの解析条件が設定される(ステップS5−3)。特に、ベルト部材113の弾性率は、常温の弾性率よりも所定以上高く設定され、その他の部材の弾性率は常温の弾性率に設定される。本実施形態では、ベルト部材113の弾性率を常温の弾性率よりも10倍高く設定している。そして、タイヤFEMモデルM1に対して、ビード部116(
図1参照)を拘束した状態で、所定の内圧を付与する。ここでの解析条件は、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0049】
次いで、PCI解析演算部42bによって、PCI解析条件設定部42aにて設定された解析条件に基づいてタイヤFEMモデルM1のPCI工程後の形状を計算する(ステップS5−4)。PCI解析条件設定部42aにて設定された内圧と変形により発生する反力との釣り合いが取れる状態までタイヤFEMモデルM1が変形した結果、PCI工程を経て変形した後のタイヤFEMモデルM2(
図4参照)が得られる。
【0050】
次いで、ビードリング間隔変更部43によって、タイヤFEMモデルM2のビードリング間隔がPCI解析の設定圧力に応じて拡張され、タイヤFEMモデルM3(
図4参照)が得られる(ステップS5−5)。なお、ビードリング間隔の拡張(ステップS5−5)は、PCI解析(ステップS5−3,ステップS5−4)の前またはPCI解析(ステップS5−3,ステップS5−4)と同時に行われてもよい。
【0051】
次いで、リム組み解析部44によって、タイヤFEMモデルM3(
図4参照)を
図1のようにリム組みした状態が再現される(ステップS5−6)。ここでは、リム組みされた後のタイヤFEMモデルM3の形状を、新たなモデルとして定義する。これにより、製品としてのタイヤ組付体100が解析上で実質的に再現され、以降の接地解析を行うことができる。なお、前述のようにリム120自体をモデル化する必要はなく、境界条件の設定によってリム組みを模擬してもよい。
【0052】
次いで、接地解析条件設定部45aによって、接地解析の解析条件が設定される(ステップS5−7)。特に、タイヤFEMモデルM3のベルト部材113を除く各部材についてPCI解析条件設定部42aにて設定された物性値と同じ物性値が設定されるとともに、ベルト部材113の弾性率は常温の弾性率に設定される。そして、リム組みされたタイヤFEMモデルM3に所定内圧および所定荷重をかけて路面に接地させるように解析条件が設定される。ここでの解析条件は、入力部10を介して入力されてもよいし、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0053】
次いで、接地解析演算部45bによって、接地解析条件設定部45aにて設定された解析条件およびリム組みされたタイヤFEMモデルM3の形状に基づいて、タイヤ110の接地性能が計算される(ステップS5−8)。タイヤ110の接地性能の計算では、接地形状や接地圧などが算出される。そして、これらの解析結果を表示部20に出力して(ステップS5−9)、解析を終了する(ステップS5−10)。
【0054】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0055】
加硫成形金型の内面形状に応じて得られたタイヤFEMモデルからビードリング間隔を変更することで、リム組みの際に残留応力が付与された状態を簡易に再現できる。従って、解析上で熱解析などのための様々な設定および複雑な計算を行う必要がない。よって、タイヤ110の外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。また、当該ビードリング間隔の拡張によって、タイヤ110の外面形状の再現精度(センター部の接地長に対するショルダー部の接地長の比を基準に算出)が4%程度向上した。
【0056】
ビードリング間隔変更部43は、PCI解析の設定圧力が高いほど、ビードリング間隔を拡張するため、より高精度にタイヤの外面形状を再現できる。これは、PCI解析の設定圧力を高くするほど、即ち、より大きな内圧をタイヤに付与するほど、加硫後のタイヤが膨張して総幅が広くなる現象を再現できるためである。
【0057】
PCI解析部42は、PCI解析において、タイヤFEMモデルのビード部を拘束した状態でタイヤFEMモデルに対して内圧を付与している。これにより、リム120に接触するビード部116ではタイヤ110の変形が抑制されるため、ビード部116の特にラバーチェーハー111bの変形を実際のタイヤの変形に合わせることができる。
【0058】
PCI解析と接地解析とで物性値を変更する部材は、ベルト部材113のみである。従って、解析条件の再定義の手間が簡略化される。物性値の中でも特に弾性率は、一般に温度が高いほど低い値をとる。従って、PCI解析では各部材の弾性率を常温時の値よりも低く設定し、接地解析では各部材の弾性率を常温時の値に設定することが好ましい。しかし、全部材の物性値を工程ごとに再定義するのは手間がかかる。そこで、変形に対する寄与度の大きなベルト部材113に着目し、ベルト部材113の弾性率のみをPCI工程と接地解析とで変更することで、解析条件の再設定の手間を簡略化できる。特に、ベルト部材113は、金属材料を含んでおり、トレッド面114aやサイドウォール面115aなどを構成するゴム部材よりも弾性率の温度依存性が低い。そのため、ベルト部材113とゴム部材との温度を考慮した弾性率の差異は、PCI解析においては大きく、接地解析においては小さくなることが現実に即しているといえる。上記構成では、数多く配置されたゴム部材の弾性率を工程ごとに変更するのではなく、ベルト部材113の弾性率のみをPCI工程において常温時の弾性率よりも高く設定することで、上記の弾性率の差異の関係が保たれる。従って、PCI工程後のタイヤ110の外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できる。
【0059】
(第2実施形態)
図6に示す第2実施形態のシミュレーション装置1は、PCI解析部42(
図2参照)を備えていない。これに関する構成以外は、
図2の第1実施形態のシミュレーション装置1の構成と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した構成と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0060】
本実施形態では、PCI工程が行われずに製造されるタイヤ組付体100について、タイヤ110の外面形状を高精度に再現して接地解析を実行する。一般に加硫成形工程後にPCI工程が行われない場合、タイヤ110の外面形状は、加硫成形工程後の温度低下によってわずかに収縮し、加硫成形金型の内面形状とは異なる形状となる。以下、この収縮を考慮した上でタイヤ110の接地解析を実行する本実施形態のシミュレーション装置1について説明する。
【0061】
本実施形態では、シミュレーション装置1がPCI解析部42(
図2参照)を備えておらず、PCI解析が行われない。そして、ビードリング間隔変更部43は、このようにPCI解析を行わない場合においてはビードリング間隔d(
図1参照)を縮小する。例えば、この縮小量は、約10mmであってもよい。また、この収縮量は、最大で、ビードリング間隔dがゼロとなるようにビード部116(
図1参照)をタイヤ幅方向中心位置まで移動させるものとしてもよい。
【0062】
本実施形態のシミュレーション装置1で実行するシミュレーション方法ないしプログラムについて、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0063】
本実施形態では、第1実施形態のシミュレーション方法(
図5参照)におけるPCI解析に関する部分(ステップS5−3,ステップS5−4)が含まれていない。従って、解析を開始して(ステップS7−1)、タイヤFEMモデルを取得すると(ステップS7−2)、ビードリング間隔を変更する解析を実行する(ステップS7−3)。特に、本実施形態では、ビードリング間隔変更部43によってビードリング間隔が縮小される。そして、リム組みを再現した解析を行い(ステップS7−4)、接地解析条件を設定し(ステップS7−5)、接地解析を実行し(ステップS7−6)、解析結果を出力し(ステップS7−7)、解析を終了する(ステップS7−8)。
【0064】
本実施形態によれば、PCI工程が行われずに製造されるタイヤ110について、ビードリング間隔変更部43がビードリング間隔を縮小することによって、加硫成形工程後にタイヤ110が冷却されることによる収縮を再現することができる。一般に、PCI工程を経ていない内圧を付与されないタイヤ110は、加硫成形工程後の冷却によって収縮する。従って、当該タイヤの収縮をビードリング間隔の縮小によって簡易に再現できる。
【0065】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。