【解決手段】自車両と前方障害物との間の相対速度、進行方向距離、及び前方障害物の自車両に対するラップ率を含む周囲情報を取得する情報取得部と、走行中に、相対速度と進行方向距離から計算される衝突余裕時間、及びラップ率を用いて自動制動制御の実行判定を行う判定部と、判定部の実行判定に応じて制動制御を行う自動制動制御部とを備える。そして前方障害物のラップ率の増加時は、ラップ率の非増加時と比較して、自動制動制御部による制動制御の開始タイミングが早くなるようにする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<車両制御装置の構成>
図1は、本発明に係る実施の形態としての車両制御装置1の構成概要を示したブロック図である。なお、
図1では、車両制御装置1の構成のうち主に本発明に係る要部の構成のみを抽出して示している。
【0013】
車両制御装置1は、自車両に設けられた撮像部2、画像処理部3、メモリ4、運転支援制御部5、表示制御部6、エンジン制御部7、トランスミッション制御部8、ブレーキ制御部9、センサ・操作子類10、表示部11、エンジン関連アクチュエータ12、トランスミッション関連アクチュエータ13、ブレーキ関連アクチュエータ14、ステアリング制御部15、ステアリング関連アクチュエータ16、及びバス17を備えて構成されている。
【0014】
画像処理部3は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータで構成され、撮像部2が自車両の進行方向(本例では前方)を撮像して得られた撮像画像データに基づき、車外環境の認識に係る所定の画像処理を実行する。画像処理部3による画像処理は、例えば不揮発性メモリ等とされたメモリ4を用いて行われる。
【0015】
撮像部2には、二つのカメラ部が設けられている。各カメラ部は、それぞれカメラ光学系とCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子とを備えて構成され、前記カメラ光学系により前記撮像素子の撮像面に被写体像が結像されて受光光量に応じた電気信号が画素単位で得られる。
【0016】
各カメラ部は、いわゆるステレオ撮像法による測距が可能となるように設置されている。そして各カメラ部で得られた電気信号はA/D変換や所定の補正処理が施され、画素単位で所定階調による輝度値を表すデジタル画像信号(撮像画像データ)として画像処理部3に供給される。
【0017】
画像処理部3は、ステレオ撮像により得られた各撮像画像データに基づく各種の画像処理を実行し、自車両の前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車両走行路を推定する。さらに、画像処理部3は、認識した立体物データ等に基づいて自車両走行路上の先行車両や、対向車両等の検出を行う。
【0018】
具体的に、画像処理部3は、ステレオ撮像された各撮像画像データに基づく処理として、例えば以下のような処理を行う。先ず、各撮像画像データとしての撮像画像対に対し、対応する位置のずれ量(視差)から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め記憶しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ、一時停止線、交通信号機、踏切、横断歩道、レーン(走行車線や対向車線など)等を抽出する。
【0019】
さらに、画像処理部3は、白線データや側壁データ等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路上に存在する立体物であって、自車両と略同じ方向に所定の速度で移動するものを先行車両として抽出(検出)する。そして、先行車両を検出した場合には、その先行車情報として、車間距離(=自車両との車間距離)、相対速度(=車間距離の変化割合)、先行車速(=相対速度+自車速)、及び先行車加速度(=先行車速の微分値)を算出する。
なお、自車速は、後述する車速センサ10aが検出する自車両の走行速度である。
もちろん画像処理部3は、先行車両だけではなく、前方の障害物や対向車両等の検出も行う。特に自車の走行車線にはみ出している対向車両については、障害物として検出も行う。
【0020】
また画像処理部3は、自車両の前方障害物のラップ率も算出する。前方障害物とは、先行車両とする場合もあるが、自車両が走行する車線にいる対向車両などの物体も含まれる。
ラップ率は、自車両の進行方向に対する横方向において自車両と前方障害物の位置関係を表す指標である。例えば自車両の横方向の中央位置をラップ率100%として、前方障害物の自車に対する相対的な横方向位置を示す値とされる。
また画像処理部3は、自車両の前方障害物との間の進行方向距離も算出する。
進行方向距離とは、自車両の進行方向(縦方向)での前方障害物との離間距離である。
【0021】
このように画像処理部3は撮像部2の撮像画像に基づいて周囲の物体を認識するとともに、その挙動を認識することもできる。
そして画像処理部3は、上記のような各種の周囲環境の情報を例えば撮像画像データのフレームごとに算出し、算出した情報を逐次、メモリ4に記憶(保持)させる。
【0022】
運転支援制御部5は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータで構成され、メモリ4に保持された画像処理部3による画像処理の結果や、センサ・操作子類10で得られる検出情報、操作入力情報等に基づき、運転支援のための各種の制御処理(以下「運転支援制御処理」と表記)を実行する。
【0023】
この運転支援制御部5は、同じくマイクロコンピュータで構成された表示制御部6、エンジン制御部7、トランスミッション制御部8、ブレーキ制御部9の各制御部とバス17を介して接続されており、これら各制御部との間で相互にデータ通信を行うことが可能とされる。運転支援制御部5は、上記の各制御部のうち必要な制御部に対して指示を行って運転支援に係る動作を実行させる。
【0024】
運転支援制御部5が実行する運転支援制御としては、例えばレーンキープ制御、衝突被害軽減のための自動制動制御(AEB)や自動操舵制御(AES)、車間距離制御付クルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)などが想定される。
なおAEBは特に制動制御(ブレーキ制御)により衝突回避を行う制御である。一方、AESは操舵制御と必要な制動制御により衝突回避を行う制御である。
【0025】
運転支援制御部5は、実行する運転支援制御に応じて目標加速度や目標停止位置(目標減速度)を設定した場合は、これらに基づいて、エンジン制御部7に対する要求トルク、ブレーキ制御部9に対するブレーキ液圧、トランスミッション制御部8に対する変速比をそれぞれ求め、出力を行う。
また運転支援制御部5は目標操舵角を設定した場合は、その目標挿舵角の操舵量をステアリング制御部15に指示する。
これら要求トルク、ブレーキ液圧、変速比、操舵量などに基づいてエンジン制御部7、ブレーキ制御部9、トランスミッション制御部8、ステアリング制御部15が動作することで運転支援動作が実現される。
【0026】
センサ・操作子類10は、自車両に設けられた各種のセンサや操作子を包括的に表している。センサ・操作子類10が有するセンサとしては、自車両の速度(自車両速)を検出する速度センサ10a、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ10b、アクセルペダルの踏込み量からアクセル開度を検出するアクセル開度センサ10c、操舵角を検出する舵角センサ10d、ヨーレート(Yaw Rate)を検出するヨーレートセンサ10e、加速度を検出するGセンサ10f、ブレーキペダルの操作/非操作に応じてON/OFFされるブレーキスイッチ10g、周囲状況を検出できるミリ波レーダー10hなどがある。
【0027】
ミリ波レーダー10hによれば、離れた対象物との距離や速度、角度を測定することができることから、例えば先行車両や対向車両の速度、加速度、右左折等の操舵状況などを検出することも可能である。
【0028】
なお、図示は省略したが、センサ・操作子類10は、他のセンサとして、例えばエンジンへの吸入空気量を検出する吸入空気量センサ、吸気通路に介装されてエンジンの各気筒に供給する吸入空気量を調整するスロットル弁の開度を検出するスロットル開度センサ、エンジン温度を示す冷却水温を検出する水温センサ、車外の気温を検出する外気温センサや、自車両走行路の勾配を検出する勾配センサ等も有する。
【0029】
また、操作子としては、エンジンの始動/停止を指示するためのイグニッションスイッチや、前述した運転支援制御関連の操作を行うための操作子、自動変速機における自動変速モード/手動変速モードの選択や手動変速モード時におけるシフトアップ/ダウンの指示を行うためのセレクトレバーや、後述する表示部11に設けられたMFD(Multi Function Display)における表示情報の切り換えを行うための表示切換スイッチなどがある。
【0030】
表示部11は、運転者の前方に設置されているメータパネル内に設けられたスピードメータやタコメータ等の各種メータやMFD、及びその他運転者に情報提示を行うための表示デバイスを包括的に表している。MFDには、自車両の総走行距離や外気温、瞬間燃費等といった各種の情報を同時又は切り換えて表示可能とされる。
【0031】
表示制御部6は、センサ・操作子類10における所定のセンサからの検出信号や操作子による操作入力情報等に基づき、表示部11による表示動作を制御する。例えば、運転支援制御部5からの指示に基づき、運転支援の一環として表示部11(例えばMFDの所定領域)に所定の注意喚起メッセージを表示させることが可能とされている。
【0032】
エンジン制御部7は、センサ・操作子類10における所定のセンサからの検出信号や操作子による操作入力情報等に基づき、エンジン関連アクチュエータ12として設けられた各種アクチュエータを制御する。
エンジン関連アクチュエータ12としては、例えばスロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータや燃料噴射を行うインジェクタ等のエンジン駆動に係る各種のアクチュエータが設けられる。
【0033】
例えば、エンジン制御部7は、前述したイグニッションスイッチの操作に応じてエンジンの始動/停止制御を行う。また、エンジン制御部7は、エンジン回転数センサ10bやアクセル開度センサ10c等の所定のセンサからの検出信号に基づき、燃料噴射タイミング、燃料噴射パルス幅、スロットル開度等の制御も行う。
またエンジン制御部7は、運転支援制御部5が目標加速度に基づき計算・出力した要求トルクと、自動変速機の変速比とに基づき、目標とするスロットル開度を例えばマップ等から求め、求めたスロットル開度に基づきスロットルアクチュエータの制御(エンジンの出力制御)を行う。
【0034】
トランスミッション制御部8は、センサ・操作子類10における所定のセンサからの検出信号や操作子による操作入力情報等に基づき、トランスミッション関連アクチュエータ13として設けられた各種のアクチュエータを制御する。
トランスミッション関連アクチュエータ13としては、例えば自動変速機の変速制御を行うためのアクチュエータが設けられる。
【0035】
例えば、トランスミッション制御部8は、前述したセレクトレバーによって自動変速モードが選択されている際には、所定の変速パターンに従い変速信号を上記のアクチュエータに出力して変速制御を行う。また、トランスミッション制御部8は、手動変速モードの設定時には、セレクトレバーによるシフトアップ/ダウン指示に従った変速信号を上記のアクチュエータに出力して変速制御を行う。
自動変速機がCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)とされる場合、上記の自動変速モード設定時の変速制御としては、変速比を連続的に変化させる制御が行われる。
【0036】
ブレーキ制御部9は、センサ・操作子類10における所定のセンサからの検出信号や操作子による操作入力情報等に基づき、ブレーキ関連アクチュエータ14として設けられた各種のアクチュエータを制御する。
ブレーキ関連アクチュエータ14としては、例えば、ブレーキブースターからマスターシリンダへの出力液圧やブレーキ液配管内の液圧をコントロールするための液圧制御アクチュエータ等、ブレーキ関連の各種のアクチュエータが設けられる。
例えば、ブレーキ制御部9は、運転支援制御部5から出力された液圧の指示情報に基づき、上記の液圧制御アクチュエータを制御して自車両を制動させる。
【0037】
ステアリング制御部15は、例えば運転支援制御部5から与えられた目標の操舵量に応じて必要なステアトルクを求め、ステアリング関連アクチュエータ16を制御することで、必要な自動操舵を実現する。
【0038】
図2には運転支援制御部5が特に本実施の形態の処理を行うために例えばソフトウエアにより設けられる機能構成を示している。運転支援制御部5は情報取得部5a、AEB制御部(自動制動制御部)5b、AES制御部(自動操舵制御部)5c、判定部5dを有する。
【0039】
情報取得部5aは、自車両周辺の障害物情報等を取得する。具体的には、画像処理部3が認識した周囲環境の情報、ミリ波レーダー10hにより検出した情報などにより、周囲の環境、障害物(先行車両や対抗車両も含む)、道路状況などを取得或いは解釈する。
特には、自車両と前方障害物(例えば先行車両や対抗車両)との間の相対速度、進行方向距離、及び前方障害物の自車両に対するラップ率も取得又は計算する。
【0040】
判定部5dは走行中に、相対速度と進行方向距離から計算されるTTC(Time to Collision:衝突余裕時間)、及びラップ率を用いてAES制御(自動制動制御)の実行判定を行う。なおTTC(衝突余裕時間)は進行方向距離を相対速度で割った値である。
また判定部5dは走行中に、衝突余裕時間及びラップ率を用いて、AES制御(自動操舵制御)の実行判定(AEB制御からAES制御への切り替え判定も含む)を行う。
【0041】
AEB制御部5bは、障害物情報に基づいて走行中に障害物との衝突を防ぐために自動制動制御を行う機能を示している。
AES制御部5cは、障害物情報に基づいて走行中に障害物との衝突を防ぐために自動で操舵及び必要に応じた自動制動制御を行う機能を示している。
【0042】
<処理例>
以上の構成の車両制御装置1において実現される実施の形態の処理について説明する。
実施の形態の処理は、特に対向車線における追い越しにより、対向車両が自車の走行車線側にはみ出てくるような状況を想定し、そのような場合に適切なAEB制御やAES制御を実現する。
【0043】
図3は走行車線41を走行している自車両30と、対向車線42上を反対方向に進む対向車両31、32を示している。なお、自車両30が走行する方向は、走行車線40,41の2つの車線が存在するものとしている。
今、例えばバイクである対向車両32が、乗用車である対向車両31を追い越そうとしているとする。以下説明上、対向車両32を「対向追い越し車両32」と表記する。
【0044】
対向追い越し車両32は、対向車両31を追い越すために、まず対向車線42から走行車線41側にはみ出してくる。そして対向追い越し車両32は、はみ出しながら加速を続けて対向車両31を追い越し、その後、元の車線である対向車線42に戻っていく。
なお説明上、対向追い越し車両32が走行車線41側にはみ出していく期間を期間TS1とする。また元の車線に戻っていく期間を期間TS2とする。
このような追い越しを行う状況では、対向追い越し車両32が自車両30に対して前方の障害物として認識される。
【0045】
ここで、対向追い越し車両32が、自車両30の走行車線41にはみ出てくる期間TS1では、対向追い越し車両32の自車両30に対するラップ率が徐々に大きくなっていく。しかもこのとき、対向追い越し車両32は追い越しのために加速をしていることが想定されるため、自車両30と対向追い越し車両32の相対速度は増加していく。
このような状況は、自車両30にとって衝突の危険性が高まる状況といえる。しかし対向追い越し車両32の運転者は、追い越し後に元の車線に戻るような運転を行っており、また自車両30との衝突を避ける運転を行う(対向追い越し車両32の横方向位置が自車両30の真正面にまで来るようなことはあまりない)ため、ラップ率は、徐々に増えるとはいえ、比較的小さい状態となることが多い。ラップ率が小さい場合、衝突危険性が判定されずに、AEB制御の開始が遅れる場合がある。
【0046】
また、対向追い越し車両32が、対向車両31を追い抜いて対向車線42に戻っていく期間TS2では、対向追い越し車両32の自車両30に対するラップ率が徐々に小さくなっていく。このような場合は、衝突の危険性が小さくなっていく状況であるが、すると、自車両30のブレーキ制御が逆に乗員の快適性を損ねる。また後続車の追突の危険性が生じないともいえない。
【0047】
そこで本実施の形態では、このような対向車線側の追い越しが生じている状況でも適切な運転支援制御ができるようにする。
【0048】
図4に運転支援制御部5の処理例を示す。
この処理は
図2の情報取得部5a、AEB制御部5b、AES制御部5c、判定部5dの機能により実行される運転支援制御部5の処理例となる。
運転支援制御部5は
図4の処理を自車両30の走行中に繰り返し実行する。
【0049】
ステップS101で運転支援制御部5は周囲環境の情報を取得する。特にこのとき、自車両30の走行車線41の前方の障害物の位置、相対速度を取得する。前方の障害物の位置とは、自車両30から見て障害物の進行方向距離として把握される縦方向位置と、ラップ方向である横方向位置の両方である。
【0050】
ステップS102で運転支援制御部5は、TTCが所定の閾値th1を超えているか否かを判定する。
TTCは、前方の障害物の縦位置(進行方向距離)と相対速度から求められる、衝突が発生するまでの余裕時間である。
【0051】
閾値thは、AEB制御、AES制御の作動判定を行うための閾値である。
なお閾値thは、AEB制御、AES制御について共通でもよいし、それぞれについて個別に設けられてもよい。
AES制御は、作動の条件として操舵及び制動により安全に回避できるか否かということも含まれるため、例えば走行車線41の幅とラップ率の関係であったり、走行車線40の状況であったり、周囲の車両や障害物の状況なども確認される。
【0052】
ここでいうTTCの確認はAES制御については、他の条件が満たされている場合にTTCの点で作動を行うべき状況となっているかを確認するためのものである。
またAEB制御に関しては、主にTTCを基準として作動を行うべき状況となっているかを確認すればよいが、他の条件を確認するようにしてもよい。
ステップS102では、閾値thは、AEB制御、AES制御について共通として、TTCについては作動条件を満たしているか否かを判定するものとしてもよいし、例えばAEB制御については閾値th1、AES制御については閾値th2と比較して判定してもよい。
【0053】
図4の処理例では、以上の各種状況を簡略化して示し、ステップS102では、TTCの点でAEB制御とAES制御の少なくとも一方が作動する状況になったか否かを判定するものとしているが、実際にはAEB制御、AES制御の作動のアルゴリズムによっては各種の例が考えられる。
【0054】
TTCが閾値thよりも大きい場合(衝突余裕時間が十分に長い場合)は、運転支援制御部5はステップS112に進み、障害物のラップ率と横方向位置のデータを蓄積して処理をリターンとする。つまり、この時点では、まだAEB制御、AES制御としてのブレーキ制御や操舵制御を行う状態には入らない。
【0055】
なお、このステップS112でラップ率を蓄積することで、前方の障害物のラップ率の変化を確認できるようにしている。ラップ率が増加するように変化するのは、前方障害物が自車両30の走行車線41に入ってきている状況、即ち
図3の期間TS1のように対向追い越し車両32が発生した状況などである。ラップ率が減少するように変化するのは、前方障害物が自車両30の走行車線41から抜けている状況、即ち
図3の期間TS2のように対向追い越し車両32が元の対向車線42に戻っている状況などと判定できる。
【0056】
ある時点のステップS102でTTC>閾値thを満たしていないと判定されると、運転支援制御部5はステップS103に進み、AEB制御、AES制御の作動状態に入ると確定する。
そしてステップS104で運転支援制御部5は前方障害物の状況を判定する。ここでは前方障害物と自車両30の相対速度と自車両30の速度(自車速度)を比較し、またターゲットとなっている前方障害物の加速度(ターゲット加速度)を確認する。
相対速度>自車速度であって、かつターゲット加速度>0であれば、運転支援制御部5はステップS108に進み、この条件が満たされなければステップS105に進む。
相対速度>自車速度であって、かつターゲット加速度>0である場合とは、ターゲットとなっている前方障害物が対向車両であって、しかも加速している状況と推定できる。
【0057】
ステップS105に進むのは、相対速度>自車速度でない場合、又はターゲット加速度>0でない場合である。これらの場合は、ターゲットとしている前方障害物が先行車両と判定する。
そしてこの場合、運転支援制御部5はステップS106で先行車両に対応したAEB制御またはAES制御としてのパラメータを算出する。例えばAEB制御に関してはブレーキ介入タイミングを判定するとともに必要に応じてパラメータとして目標停止位置に応じた減速度等を算出する。AES制御に関しては操舵介入タイミングの判定とともに必要に応じてパラメータとして操舵量、操舵方向、減速度などが想定される。
【0058】
ステップS107では運転支援制御部5は、ステップS106での判定やパラメータ設定に応じてAEB制御によるブレーキ制御、又はAES制御によるステアリング制御及びブレーキ制御を実行する。これにより例えば先行車両に応じた制動又は操舵が実行されることになる。
【0059】
ステップS104で相対速度>自車速度、かつターゲット加速度>0でありステップS108に進んだ場合は、運転支援制御部5はターゲットとしている前方障害物が対向追い越し車両32(対向車両31を追い越そうとしている車両)であると判定する。
【0060】
その場合、運転支援制御部5はステップS109で、ターゲットとなっている前方障害物の自車両30に対する実ラップ率の変化量を確認する。これは直前のステップS112で蓄積した情報を用いて判定することができる。なお「実ラップ率」とは、実際のラップ率のことで、後述する補正後のラップ率と区別する意味で用いている。
【0061】
ここで、実ラップ率が増加している(変化量が+)場合は、期間TS1として示した、対向追い越し車両32が自車両30の走行車線41にはみ出してきている期間となる。
この場合、運転支援制御部5はステップS110に進み、ブレーキ介入タイミングが早まるようにする処理を行う。具体的にはAEB制御でのブレーキ介入タイミングが通常の制御時(例えばACCなどの先行車両に対する制御時)よりも早まるようにする。
【0062】
図5には横軸に相対速度、縦軸にブレーキ介入判定用のTTCを示している。
ブレーキ介入判定用のTTCとは、ブレーキ介入タイミングを判定するときに用いるTTCであり、通常は上述のTTCのことである。
AEB制御でのブレーキ介入タイミング、つまり制動をかけ始めるタイミングは、主にTTCにより決めることができる。そしてAEB制御では、TTCが所定値以下となることでブレーキ介入タイミングと判定する。
ここで、ステップS110で運転支援制御部5は、TTC自体を補正する。例えば破線で示すように相対速度に対するTTCが、より小さい値になるようにする。
【0063】
運転支援制御部5はこのようにブレーキ介入判定用のTTCを補正したうえでステップS106に進み、AEB制御のパラメータを算出する。
このステップS106では、ブレーキ介入タイミングであるか否かの判定も行われるが、ブレーキ介入判定用のTTCが補正されている(本来の値より短い時間値とされている)ことで、ブレーキ介入タイミングであると判定されやすくなる。
なお、ステップS110で補正されたTTCの使用は、ブレーキ介入タイミングの判定に用いるTTCのみである。ステップS106では、他にもTTCを用いて、目標停止位置やそれに応じたブレーキ液圧等のパラメータが算出されるが、その際に用いるTTCは補正していない本来のTTCとなる。
【0064】
その後、運転支援制御部5はステップS107でAEB制御(或いはAES制御)を行う。
なお、ステップS110でブレーキ介入判定用のTTCが補正された後も、期間TS1では引き続きステップS110に進むことが想定されるが、その都度、その時点の実際のTTCが補正されてブレーキ介入判定用のTTCが求められ、それによりブレーキ介入タイミングの判定が行われる。但し、既にブレーキ介入が開始されているときは、その補正値で判定する必要はないため、ステップS110に進む場合でも補正演算を省略するようにしてもよい。
【0065】
一方、ステップS109で実ラップ率について変化量>0ではないとされる場合、つまり実ラップ率が減少している場合は、例えば期間TS2として示した、対向追い越し車両32が元の車線(対向車線42)に戻ろうとしている場合となる。
この場合、運転支援制御部5はステップS111に進み、ターゲットとなっている前方障害物の横方向位置の変化量に応じて実ラップ率を補正する。
【0066】
なお、実ラップ率の変化量がゼロの場合も有り得る。この
図6の例では実ラップ率の変化量がゼロの場合は実ラップ率増加が止まって、対向追い越し車両32が元の車線に戻り始める場合とみなして(変化量減少と同等とみなして)ステップS111に進むようにしている。
ただし、実ラップ率の変化量がゼロの場合は、実ラップ率の変化量増加と同等とみなしてステップS110に進むようにすることも考えられる。
【0067】
図6は横軸にターゲットとなっている前方障害物の横方向位置の変化量を示し、縦軸にラップ率補正係数を示す。即ち横方向位置変化量に応じてラップ率補正係数を選択し、現在のラップ率(実ラップ率)を補正して補正ラップ率を得る。例えばターゲットとなっている前方障害物の横方向位置の変化量が大きい程、ラップ率がより小さくなるように補正するようにラップ率補正係数が選択される。
【0068】
このステップS111のラップ率の補正は、AEB制御を終了させやすくする補正である。ラップ率が小さい場合、衝突可能性が低くなるためAEB制御によるブレーキ介入が不要と判定されやすくなることによる。従ってラップ率を小さくするように補正すると、AEB終了判定がされやすくなる。
【0069】
さらにステップS111のラップ率の補正は、AES制御に入らせやすくする補正ともなる。ラップ率が高いと、同じ車線内で操舵による回避を行おうとしても、よける先がないという状況になるため、AESによる操舵の発動可能と判定されにくい。これに対してラップ率が小さい状況では、車線内の操舵回避が可能と判定されやすくなるため、AES操舵介入条件が満たされやすい。従ってラップ率を小さくするように補正すると、AES操舵介入に入りやすくなる。
【0070】
運転支援制御部5はこのようにラップ率を補正したうえでステップS106に進み、AEB制御又はAES制御のパラメータを算出する。
AEB制御中は、ステップS106ではAEB制御の終了判定も行われるが、その場合に補正ラップ率を参照する。補正ラップ率により、ターゲットが前方の障害物ではないと判定されやすくなるため、AEB制御の終了判定がされやすくなる。
またAES制御に関しては、補正ラップ率により、制御開始の判定がされやすくなる。つまり補正ラップ率が実ラップ率よりも小さくされていると、操舵により衝突回避がしやすい状況と判定されやすくなり、これによりAES制御による操舵介入の開始判定がされやすくなる。例えばAEB制御中に操舵介入開始判定がなされることで、AES制御に切り替えられる。
【0071】
なお、この場合にステップS111で補正した補正ラップ率の使用は、AEB終了判定とAES制御による操舵介入の開始判定についてのみ用いる。
実際の操舵介入のためのパラメータ、例えば目標挿舵角の算出等のためには実ラップ率を用いる。
【0072】
その後、運転支援制御部5はステップS107では、ステップS106でのパラメータ算出に用いてAEB制御によるブレーキ介入或いはAES制御による操舵介入等を行う。
また運転支援制御部5はAEB終了と判定した場合はステップS107のAEB制御の実行を終了する。
また運転支援制御部5はAES操舵介入開始と判定した場合はステップS107でAES制御による操舵制御等を実行する。
また運転支援制御部5は、AEB制御終了判定とAES制御による操舵介入開始の判定をした場合、AEB制御から切り替えたAES制御による操舵介入等をステップS107で実行する。
【0073】
<実施の形態の効果>
以上のように実施の形態の車両制御装置1は、自車両30と前方障害物との間の相対速度、進行方向距離、及び前方障害物の自車両に対するラップ率を含む周囲情報を取得する情報取得部5aと、走行中に、相対速度と進行方向距離から計算される衝突余裕時間、及びラップ率を用いて自動制動制御の実行判定を行う判定部5dと、判定部5dの実行判定に応じて制動制御を行うAEB制御部5b(自動制動制御部)を備える。そしてラップ率の増加時は、ラップ率の非増加時と比較して、AEB制御部5bによるブレーキ介入タイミング(制動制御の開始タイミング)が早くなるようにする処理(ステップS110)を行う。
【0074】
例えば対向車線42から接近する二輪車等の対向追い越し車両32が追い越しのために自車両30の走行車線41へはみ出して走行してきた場合、対向追い越し車両32は加速しているため、自車両30と対向追い越し車両32の相対速度は高くなっている。このような場合、ラップ率は比較的小さいこともあるため、AEBによるブレーキ介入が遅れるおそれがある。実施の形態では、この場合、ラップ率は小さくとも増加していることに着目し、
図4の処理ではそのような事象を検知したらステップS110で制動制御の開始タイミングを早めるようにしている。これにより対向追い越し車両32のはみ出しによる衝突回避の可能性を高めることができる。
【0075】
また実施の形態では、ラップ率の増加時は、ブレーキ介入タイミング(制動制御の開始タイミング)を判定するTTC(衝突余裕時間)を、実際のTTCからブレーキ介入開始判定がされやすくなる値に補正するものとしている。
ブレーキ介入判定は主にTTCに基づいて行われるため、ブレーキ介入判定を行うためのTTCについて補正することで、ブレーキ介入タイミングを早めることができる。つまりTTCを短く補正すれば、AEB制御において、通常より早めにブレーキ介入が行われる状態とすることができる。このようにすることで、通常のAEB制御アルゴリズムのまま、ラップ増大時においてブレーキ介入タイミングを早めることができる。
なお、このようなTTCの補正は、ブレーキ介入タイミングの判定に用いるTTCのみを対象とし、その後のAEB制御パラメータ、AES制御パラメータ算出で用いるTTCは、補正していない値を用いることで、適切なパラメータを算出できる。
【0076】
実施の形態では、ラップ率の増加時は、ブレーキ介入タイミングを判定するTTCが、相対速度との関係が
図6の実線の線形関係から破線のような二次曲線で示される関係の状態となるように補正を行うものとした。
具体的には、ラップ率増大時は、相対速度が比較的低い場合でも、TTCの値が大きく短縮される(衝突までの時間余裕がない方向に補正する)ものとする。このTTCの補正によりブレーキ介入が早めに行われるようにすることができる。
特に相対速度が高い場合は、そもそもTTCが短くなるため、大きな補正を行わなくとも早めにブレーキ介入開始と判定されるが、相対速度が比較的低くTTCが長い場合は、ブレーキ介入タイミング判定が遅れる(通常の衝突回避では十分なタイミングでも、上述の対向追い越し車両32に対する処理としては遅れと考えられる)ことがある。これに対して
図5のように補正することで、相対速度にかかわらず対向追い越し車両32に対する処理としても適切になる。
【0077】
実施の形態の車両制御装置1は、ラップ率の減少時は、ラップ率の非減少時と比較して、AEB制御部5bによる制動制御の終了タイミングが早くなるようにする処理(ステップS111)を行う。
例えば対向車線42から接近する二輪車等の対向追い越し車両32が追い越しのために自車両30の走行車線41へはみ出した後、対向車線42に戻っていく場合、衝突の危険性は減少する。この場合に、いつまでも制動制御を続けることは、乗員にとって不要なブレーキ動作が続き快適性を損ねるとともに、必要以上の制動により後続車の追突の危険性も増すことになる。そこで追い越しが終了して対向追い越し車両32との衝突が回避される状況であれば、早めにAEB制御を終了する。これにより快適性を向上させ、また追突に対する安全性を高めることができる。
【0078】
実施の形態の車両制御装置1は、判定部5dは、走行中に、相対速度と進行方向距離から計算される衝突余裕時間、及びラップ率を用いて、AEB制御とAES制御の実行判定を行う。そして判定部5dの自動制動制御の実行判定に応じて制動制御を行うAEB制御部5bと、判定部5dの自動操舵制御の実行判定に応じて操舵制御を行うAES制御部5cを備える。この場合に、ラップ率の減少時は、ラップ率の非減少時と比較して、AEB制御からAES制御へ移行しやすくなる処理(ステップS111)を行う。
例えば対向車線42から接近する二輪車等の対向追い越し車両32が追い越しのために自車両30の走行車線41へはみ出した後、対向車線42に戻っていく場合、衝突の危険性は減少するとともに、操舵により衝突を回避できる可能性も高まる。そこでAES移行を早期に行う。これにより衝突を操舵によって回避することもできる。またAEB制御からAES制御に早めに切り替えることになることは、ブレーキによる回避から、主に操舵による回避に早めに切り替わることになり、なるべく急ブレーキを避けることにもつながる。
また、ラップ率から、対向追い越し車両32が追い越し後に元の車線(対向車線42)に戻ることを推定し、それに合わせた制御を行うことになるため、対向追い越し車両32の元車線に戻る動作に応じた操舵回避と減速ができる。
なおラップ率を補正することとしているが,操舵量及び操舵方向についても補正をかけるようにしてもよい。
【0079】
実施の形態の構成や処理例は一例である。
図1、
図2の構成例や
図4の処理例にかかわらず変形例が各種考えられる。
図4の処理例では、AEB制御、AES制御の両方を想定して記載したが、AEB制御のみ、或いはAES制御のみの処理例として考えることもできる。