【解決手段】発電体22は、第1絶縁膜211と、第2絶縁膜221と、第1電極212と、第2電極222とを備える。第1絶縁膜は第1面210を有する。第2絶縁膜は、前記第1面に対向し、かつ前記第1面に接する第2面220を有する。第1電極は、導電性を有し、前記第1絶縁膜の前記第1面の裏面に接する。第2電極は、導電性を有し、前記第2絶縁膜の前記第2面の裏面に接する。前記発電体は、前記タイヤの変形により、前記第1面と前記第2面との真実接触面積が変化するように構成される。前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とは、前記真実接触面積が変化することにより一方が正に帯電し、他方が負に帯電するように構成される。前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが帯電することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が生じ、電力を出力する。
前記タイヤに関する情報は、前記タイヤの回転速度、前記タイヤの摩耗に関する情報及び前記タイヤが装着された車両が走行する道路の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む、
請求項14に記載のタイヤのモニタリングシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている発電体では、対向する一対の電極構造体が、タイヤの振動により互いに接触又は離間することにより静電気を生じる。このため、一対の電極構造体を離間して支持する固定部や、タイヤのゴム内部に発電体を埋め込む構成が必要となるため、構造が複雑化しやすい。
【0005】
本発明は、簡易な構造の発電体を備えるタイヤ組立体並びにこれを利用してタイヤをモニタリングするためのモニタリングシステム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係るタイヤ組立体は、車輪に装着されるタイヤと、前記タイヤの内側に配置される発電体と、前記発電体から出力される電力の供給を受ける電子機器とを備える。前記発電体は、第1絶縁膜と、第2絶縁膜と、第1電極と、第2電極とを備える。第1絶縁膜は第1面を有する。第2絶縁膜は、前記第1面に対向し、かつ前記第1面に接する第2面を有する。第1電極は、導電性を有し、前記第1絶縁膜の前記第1面の裏面に接する。第2電極は、導電性を有し、前記第2絶縁膜の前記第2面の裏面に接する。前記発電体は、前記タイヤの変形により、前記第1面と前記第2面との真実接触面積が変化するように構成される。前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とは、前記真実接触面積が変化することにより一方が正に帯電し、他方が負に帯電するように構成される。前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが帯電することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が生じ、前記発電体が電力を出力する。
【0007】
本発明の第1観点によれば、タイヤ組立体の電力出力のための構成を簡易にすることができる。
【0008】
本発明の第2観点に係るタイヤ組立体は、第1観点に係るタイヤ組立体であって、前記タイヤの周方向に沿った前記第2面の長さは、前記タイヤの接地長以下である。
【0009】
本発明の第2観点によれば、発電体が出力する起電力を効率的に高めることができる。
【0010】
ここで、タイヤの「接地長」は、標準リムに装着され、所定の空気圧が充填されたタイヤを、静止した状態で平面に対し垂直に置き、所定の質量に対応する負荷を加えたときにトレッド部が平面に接触する領域の、タイヤの周方向に沿った長さの最大値とする。トレッド部が平面に接触する領域の接地形状は、上述のようにタイヤを平面に置く際に、タイヤの周面に塗布された塗料等が平面に転写する形状とすることができる。つまり、接地長は、接地形状の外接長方形の第1辺の長さとすることができる。ただし、外接長方形の第1辺は、上述の平面においてタイヤの軸方向に垂直に延びるものとする。
【0011】
「標準リム」はタイヤが依拠する規格においてタイヤの分類ごとに定められるリムである。タイヤがJATMA(日本自動車タイヤ協会)規格に依拠していれば、JATMAのYEAR BOOKにおける標準リムが上述の「標準リム」である。また、タイヤがETRTO規格に依拠していれば、ETRTOのSTANDARDS MANUALに定められるリムを上述の標準リムとする。
【0012】
「所定の空気圧」は、200kPaとする。なお、この空気圧はタイヤに充填される空気圧であり、タイヤを使用することによる上昇分を含まないものとする。「所定の質量」とは、タイヤがJATMAに依拠していれば、JATMAに規定される空気圧−負荷能力対応表において、空気圧が200kPaのときの負荷能力に対応する質量(kg)とする。タイヤがETRTO規格(スタンダード)に依拠していれば、「所定の質量」は、ETRTO(スタンダード)における空気圧−負荷能力対応表において、空気圧が200kPaのときの負荷に対応する質量(kg)であるものとする。タイヤがETRTO規格(Reinforced)に依拠していれば、「所定の質量」は、ETRTO(Reinforced)における空気圧−負荷能力対応表において、空気圧が200kPaのときの負荷に対応する質量(kg)であるものとする。
【0013】
発電体の第2面のタイヤの周方向に沿った長さは、第2面の一方の端部から他方の端部までのタイヤの周方向に沿った距離のうち、最大となる長さとする。
【0014】
本発明の第3観点に係るタイヤ組立体は、第1観点又は第2観点に係るタイヤ組立体であって、前記タイヤの周方向に沿った前記第2面の長さは、前記接地長の30%〜90%である。
【0015】
本発明の第4観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第3観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記発電体は、前記タイヤのトレッド部の内側面に配置される。前記タイヤの軸方向に沿った前記第2面の長さは、前記タイヤの接地幅の10%〜90%である。
【0016】
タイヤの「接地幅」は、上述の接地長と同様の条件下でトレッド部が平面に接触する領域の、タイヤの軸方向に沿った長さの最大値とする。つまり、接地幅は、接地形状の外接長方形の第2辺の長さとすることができる。ただし、第2辺は上述の第1辺に直交する辺である。
【0017】
発電体の第2面のタイヤの軸方向に沿った長さは、第2面の一方の端部から他方の端部までのタイヤの軸方向に沿った距離のうち、最大となる長さとする。
【0018】
本発明の第5観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第4観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記電子機器には、外部の装置とデータ通信可能な通信装置が含まれる。
【0019】
本発明の第6観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第5観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記電子機器には、前記タイヤの状態に関するデータを検出する検出装置が含まれる。
【0020】
本発明の第7観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第6観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記電子機器には、前記電子機器を制御するマイクロコントローラが含まれる。
【0021】
本発明の第8観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第7観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記発電体が封入される防湿性のフィルム袋をさらに備える。
【0022】
本発明の第9観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第7観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記発電体が封入される柔軟性封止材をさらに備える。
【0023】
本発明の第10観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第9観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記発電体により出力される電力を蓄える蓄電池をさらに備える。前記電子機器は、前記蓄電池に蓄えられた電力の供給を受ける。
【0024】
本発明の第11観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第10観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが相対的に近接するように前記発電体を加圧するように配置されるおもりをさらに備える。
【0025】
本発明の第12観点に係るタイヤ組立体は、第1観点から第10観点のいずれかに係るタイヤ組立体であって、前記電子機器は、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが相対的に近接するように前記発電体を加圧するように配置される。
【0026】
本発明の第13観点に係るタイヤ組立体は、第10観点に係るタイヤ組立体であって、前記蓄電池は、前記第1絶縁膜と前記第2絶縁膜とが相対的に近接するように前記発電体を加圧するように配置される。
【0027】
本発明の第14観点に係るタイヤのモニタリングシステムは、第5観点に係るタイヤ組立体と、前記通信装置とデータ通信可能な外部制御装置とを備える。前記通信装置は、前記発電体により出力される電圧及び電流、並びに電圧及び電流の少なくとも一方に基づく物理量のうち少なくとも1つの出力データを前記外部制御装置に送信する。前記外部制御装置は、前記通信装置から受信した出力データに基づいて、前記タイヤに関する情報をモニタリングする。
【0028】
本発明の第15観点に係るタイヤのモニタリングシステムは、第14観点に係るタイヤのモニタリングシステムであって、前記タイヤに関する情報は、前記タイヤの回転速度、前記タイヤの摩耗に関する情報及び前記タイヤが装着された車両が走行する道路の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む。
【0029】
本発明の第16観点に係るタイヤのモニタリングシステムは、第14観点又は第15観点に係るタイヤのモニタリングシステムであって、前記外部制御装置は、前記タイヤ組立体が含まれる車両に搭載される。
【0030】
本発明の第17観点に係るタイヤのモニタリング方法は、以下のことを含む。
・第1観点から第13観点のいずれかに係るタイヤ組立体が装着された車両を準備すること。
・前記車両の走行中に前記発電体により出力される電圧及び電流、並びに電圧及び電流の少なくとも一方に基づく物理量のうち少なくとも1つの出力データを収集すること。
・前記収集された出力データに基づいて、前記タイヤに関する情報をモニタリングすること。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、簡易な構造の発電体を備えるタイヤ組立体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るタイヤ組立体並びにこれを利用したタイヤのモニタリングシステム及びモニタリング方法について説明する。
【0034】
<1.タイヤのモニタリングシステムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤのモニタリングシステム100(以下、単にシステム100と呼ぶことがある)の全体構成を示す図である。システム100は、車両1に搭載されている制御装置30及び車両1の車輪に装着されるタイヤ組立体20とを含む、タイヤをモニタリングするためのシステムである。システム100は、例えばTPMS(Tire Pressure Monitoring System; タイヤ空気圧モニタリングシステム)として機能する。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。車輪FL,FR,RL,RRには、それぞれタイヤ組立体20a〜20dが装着されている。タイヤ組立体20a〜20dは、取り付けられる車輪が異なるが、同じ構造及び機能を有している。従って、これらを区別せずに、タイヤ組立体20a〜20dをタイヤ組立体20と呼ぶことがある。
【0035】
図2は、システム100の電気的構成を示すブロック図である。制御装置30は、タイヤ組立体20に含まれるタイヤ26(
図3及び
図4参照)に関する情報をモニタリングするための各種処理を制御するユニットであり、CPU31、I/Oインターフェース34、RAM35、ROM36、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置38を備えている。I/Oインターフェース34は、表示器40やタイヤ組立体20等の外部装置との有線又は無線による通信を行うための通信装置である。ROM36には、システム100の動作を制御するためのプログラム37が格納されている。CPU31は、ROM36からプログラム37を読み出して実行することにより、仮想的に演算部32及び制御部33として動作する。各部の動作の詳細は、後述する。記憶装置38は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム37の格納場所は、ROM36ではなく、記憶装置38であってもよい。また、RAM35及び記憶装置38は、CPU31の演算に適宜使用される。また、制御装置30は、ネットワークを介してクラウドコンピューティングサービスに接続されていてもよい。
【0036】
表示器40は、各種の情報を表示してユーザに伝えることができる限り、態様は限定されない。例えば、液晶モニター、液晶表示素子、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。表示器40の取り付け位置は、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが望ましい。制御装置30がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを表示器40として使用することも可能であるし、マルチインフォメーションディスプレイを表示器40として使用することも可能である。
【0037】
図3は、タイヤ組立体20の構成を示す断面図である。タイヤ組立体20は、車両1の車輪に装着されるタイヤ26と、タイヤ26の内側に配置される発電体22及びセンサモジュール28とを備える。発電体22は、後述するように、タイヤ26の変形を利用して電力を出力するように構成される。センサモジュール28には、発電体22から出力される電力の供給を受ける電子機器が含まれている。電子機器は、本実施形態では検出装置、マイクロコントローラ(以下、マイコンと呼ぶ)23及び通信装置25(アンテナを含む)である(
図2及び
図5参照)。検出装置は、タイヤ26の状態に関するデータを検出する装置であり、本実施形態ではタイヤ26内部の空気圧を検出する空気圧センサ21である。通信装置25は、センサモジュール28の外部の装置とデータ通信をすることができる。マイコン23は、空気圧センサ21及び通信装置25の動作を制御する。空気圧センサ21、マイコン23及び通信装置25は、発電体22から出力される電力の供給を受けて駆動される。
【0038】
空気圧センサ21によって検出されたタイヤ26の空気圧のデータは、マイコン23内の記憶部に記憶され、所定の間隔ごとに通信装置25によって制御装置30に送信される。制御装置30によって受信されたデータは、後述するように演算部32により処理され、その結果に基づいてタイヤ26が減圧しているか否かが判定される。制御部33は、判定に応じてシステム100の各部の動作を制御する。
【0039】
センサモジュール28は、蓄電池24をさらに備える(
図5参照)。発電体22により出力される電力は、マイコン23を介して蓄電池24に蓄えられる。空気圧センサ21、マイコン23及び通信装置25は、蓄電池24に蓄えられた電力の供給を受ける。なお、蓄電池24には、電流を直流交流変換する整流器が付属している。
【0040】
発電体22の出力する電圧及び電流、並びに電圧及び電流の少なくとも一方に基づく物理量のうち少なくとも1つのデータは、後述するようにタイヤ26に関する情報をモニタリングするためのデータとして利用することができる。すなわち、発電体22は電力供給源のみならずセンサとしても機能する。この場合、マイコン23内に構成された検知回路(図示しない)が発電体22の出力する電圧又は電流を検知する。検知されたデータはマイコン23内の記憶装置に記憶され、所定の間隔ごとに通信装置25によって制御装置30に送信される。なお、通信装置25から制御装置30に送信される出力データは、検知されたデータそのものでなくてもよく、これに変えて又は加えて、電圧及び電流の少なくとも一方に基づく物理量のデータ(例えば、電力のデータ)を含んでいてもよい。制御装置30によって受信された出力データは、演算部32により所定のアルゴリズムで解析され、タイヤ26の回転速度(車輪速)、タイヤ26の摩耗状態、及び車両1が走行する道路の状態に関する情報が取得される。取得されたこれらの情報は、制御部33によるシステム100の制御に用いられる。
【0041】
<2.タイヤ組立体の構成>
以下、
図3を参照しつつタイヤ組立体20の詳細な構成について説明する。
図3は、ホイール27に装着されたタイヤ組立体20の部分断面図である。
図3では、紙面の奥から手前に向かう方向、又は紙面の手前から奥に向かう方向がタイヤ組立体20の周方向である。タイヤ組立体20は、軸Wを中心として周方向に延びるタイヤ26を備えている。タイヤ26又はタイヤ組立体20は、ホイール27に固定されると、ホイール27と共に軸Wを中心として回転する。ホイール27は、金属材料から構成され、エンジンの回転をタイヤ組立体20に伝達する。ホイール27の周縁部にはホイールリム(リム)270が形成される。
【0042】
タイヤ26は、ホイール27に着脱可能に固定される。タイヤ26は、ゴムや熱可塑性エラストマー等の弾性材料から構成され、トレッド部260、ショルダ部261、サイドウォール部262、及びビード部263を有する。トレッド部260は、軸Wを基準とするタイヤ26の側周面を画定する部分であり、路面と接触して摩擦を生じることで車両1を前進させる。ショルダ部261は、トレッド部260及びサイドウォール部262に隣接する。サイドウォール部262は、ショルダ部261に隣接しており、路面からの衝撃を吸収すべく屈曲して撓みを生じる。ビード部263は、内部にビードワイヤを内蔵しており、ホイールリム270に固定されている。
【0043】
上述したように、タイヤ組立体20は、タイヤ26の内側に配置されるセンサモジュール28を備える。センサモジュール28は、リード線L1,L2を介して発電体22と電気的に接続されている。本実施形態のセンサモジュール28は、
図3に示すように発電体22の上に重なるような態様で発電体22の上面に固定される。言い換えると、センサモジュール28は、センサモジュール28が軸Wを基準として径方向内側に、発電体22が軸Wを基準として径方向外側に配置されるような態様で発電体22に固定される。ただし、説明の便宜上、図における発電体22及びセンサモジュール28の縮尺は必ずしも正確ではない。
【0044】
なお、タイヤ26の変形が発電体22に伝わる限り、発電体22及びセンサモジュール28の配置される箇所はトレッド部260の内側面に限定されない。発電体22及びセンサモジュール28の配置される場所として、例えばショルダ部261の内側面及びサイドウォール部262の内側面を選択することもできる。また、センサモジュール28は発電体22に固定されていなくてもよく、これらの相対的な位置関係は適宜選択することができる。例えば、
図4に示すように、センサモジュール28と発電体22とをそれぞれトレッド部260の内側面に平面的に配置することもできる。ただし、センサモジュール28が発電体22の上面に固定されない場合には、おもりMをタイヤ26内にさらに配置し、タイヤ組立体20の回転時に発電体22に加圧することが望ましい。おもりMについては後述する。
【0045】
図5に発電体22及びセンサモジュール28の詳細な構成を示す。センサモジュール28は、プリント基板Pを介して互いに電気的に接続される空気圧センサ21と、マイコン23と、蓄電池24と、通信装置25とを備える。マイコン23にはリード線L1,L2が接続される。プリント基板P、空気圧センサ21、マイコン23、蓄電池24、及び通信装置25は、エポキシ樹脂Eで一体的に封止されている。リード線L1,L2は、エポキシ樹脂Eを貫通してエポキシ樹脂Eの外側へと延び、後述する発電体22の第1電極212及び第2電極222にそれぞれ接続される。
【0046】
タイヤ組立体20は、防湿性のフィルム袋Fをさらに備え、このフィルム袋Fに発電体22が封入される。発電体22は、第1絶縁膜211と、第2絶縁膜221と、第1電極212と、第2電極222とを有する。第1電極212及び第2電極222にはリード線L1,L2がそれぞれ接続される。リード線L1,L2は、それぞれフィルム袋Fの外部へと延び、マイコン23と電気的に接続される。なお、発電体22はフィルム袋Fに減圧下で封入されてもよい。
【0047】
発電体22は、以下の原理を利用して発電を行う。異なる2種類の物質(絶縁膜)同士が接触すると、絶縁膜同士が接触する接触面の間で電荷が移動する。すなわち、帯電列においてより正極性側の絶縁膜から、より負極性側の絶縁膜へと電子が移動する。次に、絶縁膜が離間すると、一方の絶縁膜から他方の絶縁膜へと移動した電子の多くが移動先の絶縁膜に残留した状態となり、一方の絶縁膜は正に、他方の絶縁膜は負に帯電する。こうして2つの絶縁膜の間に起電力が生じる。なお、電荷の移動による絶縁膜の帯電は、一部が接触した状態の絶縁膜に、絶縁膜同士がさらに近接するように圧力を加え、次に圧力を取り除いても、同様に発生させることができる。つまり、絶縁膜が最初から一部接触していても、絶縁膜同士が接触する接触面の平均面間の距離(平均面間隔)を変化させることにより、起電力が生じる。絶縁膜の接触面に凹凸を付加すると、絶縁膜に圧力を加えていない状態では接触面の平均面間隔は比較的大きい。次に、絶縁膜同士が相対的に近接するように圧力を加えると、絶縁膜の接触面の形状が変化して、平均面間隔は減少する。その結果、圧力を取り除くと、接触面の凹凸が復元し、平均面間隔が増加するため、絶縁膜に帯電した電荷によりそれぞれの絶縁膜に接する電極には高電圧の電荷が誘導される。このようにして、一方の電極が正に、他方の電極が負に帯電する。なお、2種類の絶縁膜を構成する材質が帯電列において相対的に離れているほど、帯電量が増加する。ここで、接触面の平均面間隔が変化することは、接触面の真実接触面積が変化することと等価であるものとする。つまり、平均面間隔の減少は、真実接触面積の増加と等価であり、平均面間隔の増加は、真実接触面積の減少と等価であるものとする。
【0048】
なお、真実接触面積は、絶縁膜が面方向に相対的に移動することによっても変化することがある。従って、発電体22に加わる力のうち、絶縁膜同士が近接離間するような力のみならず、絶縁膜が面方向に相対的に移動するような力も、発電体22の発電に寄与する。
【0049】
第1絶縁膜211は、第1面210を有し、第2絶縁膜221は、第2面220を有する。第2面220は、第1面210に対向し、かつ第1面210に接する。第1面210と第2面220との真実接触面積は、タイヤ26の変形に応じて変化するように構成される。第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とは、帯電列において互いに離れた材料で構成されている。このため、タイヤ26の変形を受けて第1面210と第2面220との真実接触面積が変化すると、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221のうち一方が正に帯電し、他方が負に帯電する。例えば、真実接触面積が変化すると第1絶縁膜211が正に帯電する場合、第2絶縁膜221は負に帯電する。反対に、真実接触面積が変化すると第1絶縁膜211が負に帯電する場合、第2絶縁膜221は正に帯電する。この構成により、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とを離間して支持するための構造体や、発電体22をタイヤ26のゴム内部に組み込む構成が不要となる。その結果、発電体22は簡易な構造で発電を行うことができる。
【0050】
第1面210及び第2面220は、それぞれ凹凸形状を有する。このため、第1面210と第2面220とは、一部において接触しているが、第1面210と第2面220とが接触していない部分も存在する。タイヤ26の変形が発電体22に伝わると、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とは後述するように動作し、誘導電荷を生じる。第1面210及び第2面220のうち少なくとも一方は、十点平均粗さが100μm以上2mm以下であることが望ましい。なお、十点平均粗さの測定方法はJIS B 0601:2001に従う。
【0051】
ここで、上述の原理によれば、2つの絶縁膜が接触する接触面の面積が大きければ大きい程、絶縁膜を移動する電荷の総量が多くなり、結果として発電体の出力する電圧が大きくなると考えられる。つまり、発電体22においては、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが重なり合う領域の面積、すなわち第2面220の面積が大きい程真実接触面積も大きくなり、発電体22の出力電圧が大きくなると考えられる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、単に第2面220の面積を大きくしても、これによってより大きな出力電圧が得られるとは限らない。
【0052】
より具体的には、本発明者らは、第2面220の長さH1とタイヤ26の接地長I1との大小関係と、発電体22の出力電圧とに相関があることに着目した。ただし、長さH1とは、タイヤ26の周方向に沿って計測される第2面220の一方の端部から他方の端部までの距離のうち、最大のものとする。本発明者らによれば、長さH1が接地長I1以下である方が、長さH1が接地長I1を超える方よりも出力電圧が大きくなる(
図13A〜D参照)。また、長さH1が接地長I1を超える程度が大きい程、出力電圧が小さくなる(
図14参照)。
【0053】
後述するように、発電体22の出力する電圧は、第1面210と第2面220との真実接触面積の時間変化に応じて変化する。より具体的には、真実接触面積の時間変化が大きい程、出力電圧の絶対値もそれに比例して大きく、タイヤ組立体20の回転中、発電体22が路面に最も近づくときに出力電圧の波形が顕著なピークを示すことが分かっている。しかしながら、長さH1が接地長I1を超える(H1>I1)ように発電体22が構成されると、トレッド部260の接地開始部分と、接地離脱部分との双方からの衝撃が、同時に発電体22に伝わるようになる。このため、発電体22(第2面220)の接地開始部分に対応する部位と、接地離脱部分に対応する部位とで生じた局所的な起電力が互いに打ち消し合い、発電体22全体としての出力電圧が小さくなると考えられる。なお、トレッド部260の接地開始部分は、トレッド部260において路面に接触し始める部分を称するものとする。また、トレッド部260の接地離脱部分は、トレッド部260において、それまで接触していた路面から離れ始める部分を称するものとする。
【0054】
このことから、タイヤ組立体20の起電力を高めるためには、少なくとも第2面220を、接地開始部分と接地離脱部分との双方にまたがらないようにする必要がある。従って、タイヤ組立体20において、発電体22の第2面220のタイヤ26の周方向に沿った長さH1は、タイヤ26の接地長I1以下となるように構成される。さらに、長さH1は接地長I1の30%〜90%であることがより好ましい。
【0055】
同様に、発電体22がトレッド部260の内側面に配置される実施形態においては、第2面220のタイヤ26の軸方向に沿った長さH2がタイヤ26の接地幅I2以下となることが好ましい。ただし、長さH2は、タイヤ26の軸方向に沿って計測される第2面220の一方の端部から他方の端部までの距離のうち、最大のものとする。長さH2は、接地幅I2の10%〜90%であることがより好ましい。
【0056】
ここで、
図12A及び12Bは、タイヤ26の内側面に配置された発電体22の第1絶縁膜211、第2絶縁膜221及び第2面220を示す平面図であり、図の上下方向をタイヤ26の周方向とし、図の左右方向をタイヤ26の軸方向とする。
図12Aに示す例では、第1絶縁膜211、第2絶縁膜221が共に長さH1及び長さH2の辺を有する長方形に構成され、互いの位置及び向きが一致して積層されている。このとき、第2面220のタイヤ26の周方向に沿った長さはH1であり、タイヤ26の軸方向に沿った長さはH2である。また、
図12Bに示す例では、第1絶縁膜211の向きが第2絶縁膜221に対してずれており、第2面220の形状が長方形状ではない。このような場合であっても、長さH1及びH2は同様に定義される。
【0057】
第1絶縁膜211の第1面210の裏面には、平板状の第1電極212が接している。第1電極212は、導電膜212aと絶縁性の基材212bとを備え、基材212bの表面が導電膜212aで被覆されている。導電膜212aは、例えばAg(銀)、Cu(銅)等、導電性を有する材料で構成される。基材212bは、ゴム又はエラストマー等の可撓性を有する材料で構成される。従って、第1電極212は、全体として可撓性を有し、発電体22全体が受ける変形にある程度追随して変形することができる。第2絶縁膜221の第2面220の裏面には、平板状の第2電極222が接している。第2電極222は、導電膜222aと絶縁性の基材222bとを備え、基材222bの表面が導電膜222aで被覆されている。導電膜222aは、例えばAg(銀)、Cu(銅)等、導電性を有する材料で構成される。基材222bは、ゴム又はエラストマー等の可撓性を有する材料で構成される。従って、第2電極222は、全体として可撓性を有し、発電体22全体が受ける変形にある程度追随して変形することができる。なお、第1電極212と第2電極222のうちいずれか一方は基材を備えない構成とすることもできるし、導電性のエラストマーで構成することもできる。第1電極212と第2電極222とは、リード線L1,L2を介してマイコン23にそれぞれ電気的に接続される。これにより、発電体22からマイコン23へと誘電電荷が誘導され、マイコン23内の電気回路に電流が流れる。
【0058】
第1絶縁膜211及び第2絶縁膜221のうち、正に帯電する方はダイヤモンドライクカーボン(DLC)であることが望ましく、負に帯電する方はフッ化炭素有機物を主成分とする絶縁膜であることが望ましい。DLCは、硬度が高く、なおかつ摩擦係数が低いため、絶縁膜同士が摩擦接触することによる双方の絶縁膜の摩耗が少ない。すなわち、第1面210及び第2面220の凹凸が摩耗し難いので、発電体22の発電性能を長期間保つことができる。また、フッ化炭素有機物を主成分とする絶縁膜は潤滑性が高いので、第1面210及び第2面220の摩耗を抑制することができる。その他、第1絶縁膜211及び第2絶縁膜221を構成する材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリイソブチレン、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルブチラール、ポリクロロプレン、天然ゴム、ポリアクリロニトリル、ポリジフェノールカーボネート、塩化ポリエーテル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン及び六フッ化プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0059】
第1絶縁膜211及び第2絶縁膜221のうち少なくとも一方は、厚さが20μm以下に構成されることが望ましい。また、第1絶縁膜211及び第2絶縁膜221の双方の厚さが20μm以下に構成されることがさらに望ましい。
【0060】
フィルム袋Fを構成する材料は、水蒸気を遮断する性質を有するものであれば特に限定はされない。例えば、プラスチックフィルム製の基材表面に、アルミニウムや銅を蒸着させてなるフィルム材を用いることができる。タイヤ組立体20の内部では、温度変化により相対湿度が変化して水蒸気が発生し、発生した水蒸気が発電体22の動作に影響を及ぼすことがある。フィルム袋Fはタイヤ組立体20内に発生した水蒸気を発電体22から遮断し、発電体22への影響を限定的なものとすることができる。
【0061】
タイヤ組立体20は、フィルム袋Fに代えて、発電体22が封止される柔軟性封止材Uを備えていてもよい(
図5参照)。柔軟性封止材Uとしては、低硬度、低弾性率で吸水率が小さいものが好ましい。発電体22は、柔軟性封止材Uで封止されてもよいし、柔軟性封止材Uで作成された封入用のカバーの中に封入されてもよい。
【0062】
より具体的には、柔軟性封止材Uのショア硬度(JIS K 6253)の範囲は、5〜50が好ましく、20〜40がより好ましい。また、柔軟性封止材Uの吸水率(JIS K 6911)の範囲は、0.5%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましい。柔軟性封止材Uの限定されない例としては、サンユレック株式会社の防水絶縁用耐熱性ウレタン樹脂(UA-3001)あるいはウレタン樹脂(UE-503)等が挙げられる。
【0063】
本実施形態では、
図3に示すようにセンサモジュール28が発電体22の上面に固定されることにより、センサモジュール28がおもりとして機能する。すなわち、空気圧センサ21、マイコン23、蓄電池24及び通信装置25は、その重量により、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するように発電体22を加圧する。タイヤ組立体20が回転すると、センサモジュール28に遠心力が作用し、センサモジュール28によって発電体22がタイヤ26に押し付けられ、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するような圧力が加えられ、発電が行われる。しかしながら、
図4に示すように、センサモジュール28を、発電体22による発電を補助するおもりとして機能しない位置に配置することもできる。その場合、
図4に示すように、センサモジュール28とは別途、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するように発電体22を加圧するおもりMを配置することが望ましい。おもりMは、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するような圧力を作用させることができれば、どのような物体でもよく、タイヤ組立体20への固定方法も適宜選択することができる。
【0064】
本実施形態に係るタイヤ26は、チューブを備えないチューブレスタイヤである。しかし、タイヤ組立体20がタイヤ26とチューブとを備えるチューブタイヤである場合は、タイヤ26とチューブとの間に発電体22を配置することにより、チューブをおもりMと同じく発電体22による発電を補助する要素として機能させることができる。すなわち、チューブ内の空気圧が発電体22をタイヤ26に押し付けるように作用し、チューブによって第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するように発電体22に加圧することができる。
【0065】
<3.発電体の動作>
以下、発電体22の動作について説明する。タイヤ組立体20が静止している状態では、第1絶縁膜211の第1面210と第2絶縁膜221の第2面220とは、
図5に示すように、凹凸形状の一部において接触している。この時、タイヤ26は静止しているため、真実接触面積は殆ど変化せず、第1電極212及び第2電極222間に電位差が生じたとしても、その絶対値は比較的小さい。
【0066】
タイヤ組立体20が路面上を回転すると、トレッド部260のうち路面と接する部分が路面から衝撃を受ける。この衝撃がタイヤ26全体に伝達されると、衝撃を吸収するため特にサイドウォール部262に撓みが生じ、タイヤ26全体が変形する。その後、サイドウォール部262は変形から戻ろうとするが、トレッド部260の別の部分を介して再び路面からの衝撃を受ける。このようにして、タイヤ26は全体として伸縮変形を繰り返す。タイヤ26の伸縮変形は、トレッド部260の内側面に固定された発電体22に伝わる。発電体22は、伝達されるタイヤ26の伸縮変形に対応して変形する。その結果、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが互いに近接離間したり、第1絶縁膜211と第2絶縁膜221との相対的な位置が面方向にずれたりして、真実接触面積が変化する。
【0067】
タイヤ組立体20が回転すると、センサモジュール28に遠心力が作用し、発電体22は、第1電極212側からトレッド部260の内側面に押し付けられる。こうして発電体22に第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するような圧力が作用する。その結果、第1面210及び第2面220の有する凹凸形状が、タイヤ組立体20の静止状態と比較して平たい形状に変形し、真実接触面積が増加する(
図6参照)。チューブレスタイヤでは、発電体22をおもりにより加圧すると、発電体22を加圧していない場合と比較して、上述したタイヤ26の変形による真実接触面積の変化が大きくなる。その結果、誘導される電荷量を、発電体22を加圧しない場合と比較して大きくすることができる。なお、後述するように、発電体22の出力電圧Vはおもりの質量mの2乗に比例する。
【0068】
車両1の走行中に発電体22により出力される電力は、空気圧センサ21、マイコン23、及び通信装置25に供給され、これらの駆動電力となる。本実施形態では、発電体22により出力される電力は、蓄電池24に蓄えられる。よって、蓄電池24に蓄積された電力により空気圧センサ21、マイコン23、及び通信装置25を車両1の停止時にも駆動することができる。
【0069】
<4.モニタリングシステムの動作>
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係るタイヤのモニタリングシステム100の動作について説明する。本実施形態に係るタイヤのモニタリングには、空気圧センサ21によるモニタリングと、発電体22の出力電圧のデータを利用するモニタリングとがある。空気圧センサ21によるモニタリングの対象は、タイヤ26内部の空気圧である。一方、発電体22によるモニタリングの対象は、例えばタイヤ26(又はタイヤ組立体20)の回転速度、タイヤ26の摩耗、及び車両1が走行する道路の状態とすることができる。システム100は、例えば制御装置30の電源がONになると以下のモニタリング処理を開始し、車両1が停止して一定時間が経過するとモニタリング処理を停止するものとすることができる。
【0070】
<4−1.空気圧モニタリング>
空気圧モニタリングでは、空気圧センサ21が各タイヤ組立体20a〜20dのタイヤ26内部の空気圧をそれぞれ検出する。各タイヤ組立体20a〜20dについて検出された空気圧のデータは、それぞれのタイヤ組立体20が有するマイコン23の記憶部に一旦蓄積され、所定の時間間隔で通信装置25を介して制御装置30に送信される。データの送信間隔は、例えば1回/40秒とすることができる。
【0071】
制御装置30は、通信装置25から定期的に送信される各タイヤ組立体20a〜20d空気圧のデータを受信する。ROM36又は記憶装置38には各タイヤ組立体20a〜20dが有する空気圧センサ21を識別するIDが予め記憶されている。一方、空気圧のデータには、各タイヤ組立体20a〜20dが含む空気圧センサ21を識別するIDが含まれており、制御装置30はID照合を行うことで受信した4つのデータとタイヤ組立体20a〜20dとを関連付けることができる。データが受信されると、演算部32がこれらのデータから各タイヤ組立体20a〜20dの空気圧を取得し、予めROM36又は記憶装置38に記憶されている減圧閾値と比較する。減圧閾値とは、検出された空気圧がこれを下回った際にそのタイヤが減圧していると判定する空気圧の値とすることができる。或いは、減圧閾値は、記憶装置38等に保存されている各タイヤの空気圧の初期値から、予め定められた減圧率だけ減圧した空気圧とすることもできる。演算部32は、検出された空気圧のデータが減圧閾値以上であれば正常、減圧閾値未満であれば減圧(異常)と判定する。
【0072】
演算部32による判定が「正常」である場合、制御部33は次に通信装置25から受信されるデータについて、演算部32に同様の処理を繰り返させる。一方、演算部32による判定が「異常」である場合、制御部33は表示器40等を介して減圧警報を出力し、ユーザに注意を促す。
【0073】
<4−2.発電体によるモニタリング>
発電体22によるモニタリングでは、発電体22をタイヤ26に関する情報を検出するセンサとして利用する。本実施形態では、発電体22がタイヤ組立体20の回転中に出力する電圧のデータを利用して、タイヤ26の回転速度、タイヤ26の摩耗、及び車両1が走行する道路の状態に関する情報を取得する。
【0074】
発電体22の出力する電圧Vは、第1面210と第2面220との真実接触面積A1の時間変化に応じて変化する。より具体的には、A1の時間変化(dA1/dt)が大きい程、Vの絶対値もそれに比例して大きくなる。特に(dA1/dt)が大きくなるのは、発電体22がトレッド部260を介して路面上を回転するとき(概ね発電体22が最下の位置で路面に最も近づくとき)である。このとき、発電体22はセンサモジュール28から圧力を受けると同時に、トレッド部260を介して路面から抵抗力を受け、大きく変形する。従って、タイヤ組立体20がほぼ一定の回転速度で回転すると、電圧Vの時系列データは、一定の周期で正と負のピークが現れるパルス波形を示す。
【0075】
図7A〜Dは、このことを裏付ける実験データである。実験では、タイヤ26が摩耗していない通常状態のタイヤ組立体20と、タイヤ26が摩耗状態のタイヤ組立体20との2種類を用意した(ただし、タイヤのスリップサインが現れたものを摩耗状態であると判断した)。それぞれのタイヤ組立体20を
図8に示すような一輪車に組み込み、内圧が140[kPa]の場合と210[kPa]の場合とについて、回転ベルトによって一定の速度で回転させて発電体22の出力電圧Vを計測した。なお、タイヤ26はチューブタイヤであり、第1絶縁膜211はPUで構成し、第2絶縁膜221はFEPで構成した。第1電極212の基材212bはシリコーンゴム製とし、導電膜212aは銅箔テープとした。一方、第2電極222は、基材222bを備えず、銅箔テープである導電膜222aから構成されるものとした。
図7A〜Dに示すように、出力電圧Vの波形は、タイヤ26の内圧や摩耗の有無に関わらず周期的なパルス波形となった。パルスの周期Tは、タイヤ組立体20が一回転するのに要する時間である。従って、Vのパルス波形をサンプリングし、周期Tを計測すれば、以下の式(1)に基づいてタイヤ組立体20の回転速度ω(rad/s)を算出することができる。
ω=2π/T (1)
【0076】
ところで、タイヤ組立体20の回転に伴って発電体22が受ける力は、
図9に示すようにモデル化することができる。路面とタイヤ組立体20との摩擦係数をμ、点Aにおいてタイヤ組立体20の接線と路面とがなす接地角度をθ、センサモジュール28の質量をmとする。なお、点Aは、発電体22及びセンサモジュール28がトレッド部260を介して路面上を回転し始める点である。このとき、センサモジュール28には遠心力p、重力mg、摩擦力が作用する。これより、センサモジュール28に作用する水平方向及び鉛直方向の力は、それぞれμpcosθ+psinθ,pcosθ+mgとなる。ここで、θ≪1のときcosθ≒1,sinθ≒θであることを用いると、半径方向にセンサモジュール28に作用する力Foは、以下の式に基づいて算出される。
Fo=p+mg+(μ+θ)θp
【0077】
Foのうち、センサモジュール28が発電体22に加える圧力の変動分ΔFo
は、
ΔFo=(μ+θ)θp=(μ+θ)θmrω
2
と表すことができる。ただし、rはタイヤ組立体20の半径であり、p=mrω
2である。
【0078】
ここで、ΔFoと出力電圧Vとの間にはV∝ΔFo
2の関係があることが分かっている。従って、ΔFoと出力電圧Vとの間には以下のような関係式(2)が成り立つ。
V∝(μ+θ)
2θ
2m
2r
2ω
4 (2)
【0079】
同様に、発電体22及びセンサモジュール28がトレッド部260を介して路面上を回転し終わる点をBとすると、点BでのΔFoは、
ΔFo=−(μ−θ)θp=−(μ−θ)θmrω
2
と表すことができる。従って、ΔFoと出力電圧Vとの関係式は、
V∝−(μ−θ)
2θ
2m
2r
2ω
4
となる。
【0080】
式(2)によれば、Vは摩擦係数μ、接地角度θ、センサモジュール28の質量m、タイヤ組立体20の半径r、タイヤ組立体20の回転速度ωといったパラメータに応じて変化する。例えば、出力電圧Vは、センサモジュール28(おもり)の質量mの2乗に比例する。本発明者は、実験によりこのことを確認した。
図10Aに示すように、上面に質量mのおもりMが固定された状態の発電体22を用意し、振動装置によりタイヤ26の振動を模式的に再現したときの発電体22の出力電圧Vを計測した。振動は10[Hz]、2[G]である。
図10Bは、質量mに対するVの正のピーク値をプロットしたグラフである。この結果により、Vがm
2に比例することが裏付けられた。従って、タイヤ組立体20は発電体22を加圧するおもりを備えることが望ましく、おもりの質量mが大きければ大きい程発電体22の出力電圧Vを増加させることができる。
【0081】
ところで、発明者らの検討によると、タイヤ26が通常状態である場合と摩耗状態である場合とでは、回転速度、内圧、輪荷重の条件が同一であってもVのパルス波形が変化することが分かった。
図11は、同一の回転速度及び荷重の条件下で通常状態のタイヤ組立体20と摩耗状態のタイヤ組立体20とをそれぞれ一回転させたときのパルス波形を比較したグラフである(タイヤ組立体20の回転方法は
図8に示す装置を用いた)。タイヤ26が摩耗状態であるタイヤ組立体20では、タイヤ26が通常状態であるタイヤ組立体20と比較して、電圧Vのピークの絶対値が大きくなり、パルス幅が長くなっていることが
分かる。この現象は、タイヤ26の摩耗の検出に利用し得る。例えば、使用開始時のタイヤ組立体20の発電体22から出力される電圧Vの波形を記憶しておき、車両1の走行中に取得されたVの波形と定期的に比較することにより、タイヤ26の摩耗を検出し得る。
【0082】
また、式(2)によれば、出力電圧Vは車両1が走行する路面の摩擦係数μ及び接地角度θに依存することから、車両1が走行する路面の状態を反映する。従って、発電体22から出力されるデータから車両1が走行する路面の状態に関する情報を取得し、これをモニタリングすることができる。例えば、車両1の実車実験により、様々な路面(アスファルト、砂利道、濡れた路面)を走行した場合のVのデータをROM36又は記憶装置38に予め記憶しておき、車両1の走行中に取得されたVのデータと照合することで路面の状態をモニタリングすることができる。
【0083】
以上より、発電体22が出力するVのデータは、タイヤ組立体20の回転速度ω、タイヤ26が摩耗しているか否か及び車両1の走行する路面を含む道路の状態を反映する。回転速度ωは、Vのパルス波形の周期から算出することができる。また、空気圧、回転速度、道路の状態等の様々な条件下において発電体22が出力するVのデータを予めROM36又は記憶装置38に記憶しておき、車両1の走行中に取得されたVのデータと比較することで、タイヤ26に関する情報がモニタリング可能となる。以下、タイヤ組立体20を含んだモニタリングシステム100の具体的な動作を説明する。
【0084】
車両1が走行すると、タイヤ組立体20が路面上を回転し、上述のように発電体22に電圧が生じる。車両1の走行中に発電体22により出力される電圧Vは、マイコン23内の検出回路により検出される。出力電圧Vのデータは、所定の周期でサンプリングされ、マイコン23に一旦蓄積される。マイコン23に蓄積されたVのデータは、所定の時間間隔で通信装置25を介して制御装置30へと順次送信される。制御装置30は、I/Oインターフェース34を介してVのデータを受信し、RAM35又は記憶装置38に一時保存する。演算部32は、保存されたVのデータを参照し、パルス波形の周期sを算出する。また、演算部32は、式(1)に基づいて回転速度ωを算出する。なお、回転速度ωは複数回算出される値の平均値とすることもできる。また、複数のパルス波形の周期sの平均値を用いて回転速度ωを算出することもできる。制御部33は、必要に応じて算出された回転速度ωを車両1のECU等へ送信することができる。
【0085】
また、上述の処理と並行して又は前後して、演算部32が予めROM36又は記憶装置38に記憶されているVのデータと、現在RAM35又は記憶装置38に一時保存されたVのデータを比較し、タイヤ26が摩耗しているか否かを判定する。タイヤ26が通常状態であると判定されれば、制御部33は次に受信したVのデータについて、演算部32に同様の処理を繰り返させる。一方、タイヤ26が摩耗状態であると判断されれば、制御部33が表示器40等を介してユーザにその旨を報知し、注意を促す。
【0086】
さらに、上述の処理と並行して又は前後して、演算部32が予めROM36又は記憶装置38に記憶されているVのデータと、現在RAM35又は記憶装置38に一時保存されたVのデータを比較し、車両1が走行する路面がどのような状態であるかを判断する。判断された路面の状態は、ブレーキの制御等に利用され得る。また、制御装置30がクラウドコンピューティングサービスに接続される場合、V、回転速度ω、タイヤ26の摩耗状態及び路面の状態のデータがI/Oインターフェース34を介してクラウドサーバーに送信され、他のシステム100のユーザと共有され得る。
【0087】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0088】
<5−1>
上記実施形態では、発電体22の出力電圧Vの時系列データに基づいてタイヤ組立体20のモニタリングを行ったが、発電体22が接続される電気回路に流れる電流や電力等の他の物理量の時系列データに基づいてタイヤ組立体20のモニタリングを行ってもよい。
【0089】
<5−2>
上記実施形態では、第1面210及び第2面220が共に凹凸形状を有していた。しかし、第1面210及び第2面220のうちいずれか一方のみが凹凸形状を有するように発電体22を構成してもよい。
【0090】
<5−3>
第1電極212は、導電性の繊維が織物状に織り込まれて構成されてもよい。繊維は、例えば可撓性を有するCu線、ステンレス鋼線とすることができる。さらに、この繊維の外周面に第1絶縁膜211が被覆されていてもよい。同様に、第2電極222は、導電性の繊維が織物状に織り込まれて構成されてもよい。繊維は、例えば可撓性を有するCu線、ステンレス鋼線とすることができる。さらに、この繊維の外周面に第2絶縁膜221が被覆されてもよい。
【0091】
<5−4>
上記実施形態では、第1電極212及び第2電極222が共に可撓性材料から構成される基材212b及び基材222bをそれぞれ備えていた。しかし、第1電極212及び第2電極222のうちいずれか一方のみが可撓性の基材を備えることとしてもよい。
【0092】
<5−5>
発電体22は、第1絶縁膜211、第2絶縁膜221、第1電極212及び第2電極222を複数備えていてもよい。例えば、上から順に第1電極212、第1絶縁膜211、第2絶縁膜221、第2電極222、第2絶縁膜221、第1絶縁膜211及び第1電極212が積層するような構成とすることができる。
【0093】
<5−6>
上記実施形態では、制御装置30は車載装置であったが、プログラム37がインストールされたスマートフォン、タブレット、ノートPC等のポータブルなデバイスとすることもできる。このとき、上述のデバイスのディスプレイを表示器40として使用することもできる。あるいは、タイヤ組立体20内のマイコン23は、車載装置を介さずに、直接クラウドサーバー等の、プログラム37がインストールされた外部装置と通信してもよい。
【0094】
<5−7>
空気圧センサ21は、タイヤ26内部の空気圧を検出できるものであれば、検出方式は限定されない。例えば、歪みゲージ式、ダイアフラム式、又は半導体式のセンサ等を用いることができる。また、センサ21はタイヤ26の内圧を検出する空気圧センサに限定されず、例えばタイヤ26の内部の温度を検出する温度センサであってもよいし、タイヤ26の振動を検出する振動検出センサ(加速度センサ)であってもよい。
【0095】
<5−8>
車両1の走行する道路の状態に関する情報は、路面の状態に関する情報に限定されず、地盤の状態に関する情報であってもよい。
【0096】
<5−9>
上記実施形態では、タイヤ組立体20はセンサモジュール28の一部として蓄電池24を備えていた。しかしながら、タイヤ組立体20は、蓄電池24をセンサモジュール28とは別に備えてもよい。この場合、蓄電池24を発電体22の上面に配置し、蓄電池24を第1絶縁膜211と第2絶縁膜221とが相対的に近接するように発電体22を加圧するおもりとして機能させてもよい。
【実施例】
【0097】
<実験条件>
比較例1〜3の発電体及び実施例の発電体を、それぞれタイヤのトレッド部の内側面に配置したタイヤ組立体を用意し、所定の回転速度で回転させて、発電体の出力電圧をそれぞれ計測した。タイヤの種類は比較例1〜3及び実施例に全て共通であり、タイヤのサイズは215/40R17(直径は約604mm)、内圧は200kPaであった。また、上述の計測方法で計測したタイヤの接地長は、80mmであった。タイヤ組立体を回転させる実験装置としては、
図8に示す装置と同様の装置を用いた。ただし、輪荷重は3kNとした。
【0098】
比較例1〜3の発電体及び実施例の発電体は、構成は共通であるが、長さH1を以下のように変えた。つまり、比較例1〜3に係る発電体は、第2面のタイヤの周方向に沿った長さH1がタイヤの接地長を超えて長かった。一方、実施例に係る発電体は、第2面のタイヤの周方向に沿った長さH1がタイヤの接地長の62.5%であった。なお、第2面のタイヤの軸方向に沿った長さH2は全ての発電体で共通とし、タイヤの接地幅以下に構成した。
比較例1:110mm
比較例2:150mm
比較例3:180mm
実施例:50mm
【0099】
発電体は、いずれも第1絶縁膜及び第2絶縁膜が共通の寸法を有する平面視矩形状に構成され、互いに面方向の位置が一致するように積層された。つまり、
図12Aに示すように、第2面の全体が第1面の全体に対向し、かつ第1面に接するように第1絶縁膜及び第2絶縁膜が積層された。発電体は、いずれも第1絶縁膜及び第2絶縁膜の長さH1を有する辺がタイヤの周方向に沿うように配置された。第1絶縁膜はPUで構成され、第2絶縁膜はFEPで構成された。また、第1電極及び第2電極共に、基材はシリコーンゴムで構成され、導電膜は導電布で構成された。
【0100】
<実験結果>
タイヤ組立体の回転時間(秒)に対する発電体の出力電圧(V)のグラフは、それぞれ
図13A〜Dに示すようになった。ただし、説明の便宜上、
図13A〜13C、及び
図13Dとでは縦軸と横軸のスケールが異なっている。比較例1では、出力電圧のピークが+2V付近に出現した。比較例2では、出力電圧のピークが+2V付近に出現した。比較例3では、出力電圧のピークが概ね0〜+2Vの間に出現した。これに対し、実施例では出力電圧のピークが−15V付近に出現した。この結果より、長さH1(mm)に対する出力電圧(V)との関係を示すグラフは
図14に示すようになった。つまり、発電体は、長さH1がタイヤの接地長以下であるときに、長さH1がタイヤの接地長を超えたときよりも、大きな電圧を出力することができた。つまり、タイヤ組立体における発電体の出力電圧の大きさは、第2面の面積に必ずしも比例しないことが分かった。従って、実施例に係るような構成のタイヤ組立体では、発電体がより小型に構成できると共に起電力が大きく、発電効率が高いということが判明した。