(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-200291(P2020-200291A)
(43)【公開日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】睡眠改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20201120BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20201120BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-110405(P2019-110405)
(22)【出願日】2019年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】株式会社サナス
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA05
(57)【要約】
【課題】安全で副作用がなく、摂取に負担のない素材で効果的に睡眠感を向上させるための睡眠改善剤を提供すること。
【解決手段】1,5−アンヒドロ−D−フルクトースを含有する睡眠改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−アンヒドロ−D−フルクトースを含有することを特徴とする睡眠改善剤。
【請求項2】
起床時の眠気を低減するための請求項1に記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
睡眠時間を延長するための請求項1に記載の睡眠改善剤。
【請求項4】
睡眠の改善が気分の改善を伴う請求項1〜3のいずれかに記載の睡眠改善剤。
【請求項5】
気分の改善が怒り、敵意の低減である請求項4に記載の睡眠改善剤。
【請求項6】
1,5−アンヒドロ−D−フルクトースの睡眠改善剤を製造するためへの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−アンヒドロ−D−フルクトースを有効成分として含有するヒトの睡眠感の改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充分な睡眠の確保は人にとって健康的に生活していく上で重要な要件である。一方で、現代の24時間の社会の活動による夜間勤務での睡眠パターンの変化や精神的なストレスによる不眠など、睡眠になんらかの障害を有している人も多い。
【0003】
睡眠障害への対策として睡眠薬を処方され服用する場合もあるが、睡眠薬の服用は、注意力、集中力、運動機能の低下、眠気、ふらつき、頭痛、倦怠感、脱力感等の副作用を引き起こす危険性もある。より安全な睡眠の獲得方法として天然アロマの利用やサプリメントの利用が考えられ。サプリメントの成分としてはリボース(特許文献1)、グリシン(特許文献2)などがある。リボースは糖の1種で5炭糖の単糖であり、核酸やアデノシントリリン酸の構成成分であり生体内で重要な役割を示す。
心理状態と睡眠とは強く関係することが知られており、ストレスを抱えている人が睡眠障害を抱えている場合も多く、また、充分な睡眠をとることでストレスが軽減することもある。
【0004】
1,5−アンヒドロ−D−フルクトース(1,5−AF)はでん粉などのα−1,4−グルカンにα−1,4−グルカンリアーゼを作用させることで製造することができる糖であり、1,5−AFを高含有する水あめ製品が食品用素材として日本で販売されている。この糖は抗酸化性や静菌作用があることから、食品の日持向上の目的で使用されている(非特許文献1)。また、1,5−AFには抗炎症作用や脂肪の蓄積抑制効果などの健康機能が報告されており、脂肪の蓄積抑制のメカニズムとして脂肪細胞において1,5−AFの添加によりAMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)の活性化(非特許文献2)が見出されているが、1,5−AFを経口摂取した場合のAMPKの活性化に関する報告はない。
【0005】
AMPKの活性化は睡眠と関連することが報告されており、AMPKの活性化剤である5−アミノイミダゾール−4−カルボキシアミドリボサイドをマウスに投与することでノンレム睡眠中のデルタ波が高まると報告されている(非特許文献3)。一方で1,5−AFを経口摂取することによる睡眠への影響に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−218119
【特許文献2】WO2005/067738
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本応用糖質科学会誌、1巻(2011)1号70−75
【非特許文献2】National Product Communications,l7(2012)1501−1506
【非特許文献3】Neurophacology,57(2009)369−374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安全で副作用がなく、摂取に負担のない素材で効果的に睡眠感を向上させるための睡眠改善剤を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は1,5−AFのヒトへの投与試験の際、被験者らの質問紙の内容を解析することで、1,5−AF摂取によりヒトの睡眠を改善できることを見出し、本発明を完成したものである。
本発明によれば、本発明の目的および利点は、1,5−AFを睡眠感の向上の如き睡眠改善剤としてヒトに経口摂取させることにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、1,5−AFからなる睡眠改善剤の摂取により、ヒトの睡眠感の向上をはかることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用する1,5−AFはでん粉などのα−1,4−グルカンをα−1,4−グルカンリアーゼで分解することにより生産できることが知られているが、本発明で使用する1,5−AFはこの製造方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0012】
1,5−AFのヒトへの投与方法は経口投与であり、経口投与回数や投与の時間などは特に限定されない。投与量は、1,5−AFとして、1日あたり50mg以上がよく、より好ましくは500mg以上、さらに好ましくは2g以上である。投与量が1日あたりに20gを超えると、摂取することの負担が大きくなるので20g以下が好ましい。より睡眠感を向上させるには毎日連続で摂取させるが好ましく、連続で1週間、好ましくは4週間、より好ましくは8週間にわたり摂取させるのが良い。
【0013】
本発明の睡眠改善剤は、1,5−AF単独でもあるいは他の賦形剤と混合した状態にあることができる。本発明の睡眠改善剤または、1,5−AFの投与の形態は、例えば粉末状、錠剤状、顆粒状、液体、カプセル状、ペスート状、などいずれの形態でも良く、賦形剤や溶媒はなんら限定されるものではない。賦形剤の例としはぶどう糖、マルトデキストリン、水あめ、でん粉、乳糖などが挙げられる。また、溶媒としては水、果汁、アルコール、牛乳などが例示できる。
【0014】
本発明の睡眠改善剤は、ヒトの起床時の眠気の低減あるいは睡眠時間の延長のために特に有効に作用する。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
それまでのヒト試験で1,5−AFには血中尿酸値を正常化する機能がある可能性が見出された。特に血中尿酸値が6.5−8.0付近の境界域のヒトに対して有効であることが解った。そこで尿酸値が高い方の境界域に近いボランティアの男性5名を選抜しヒト試験を実施した。被検食品は食品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む。この食品を被検物質として20gを1日1回経口摂取させた。摂取方法と摂取時間は自由とし、摂取期間は28日間とした。採血は投与前、投与4週間後に実施した。その結果、表1に示すように投与前後で比較すると被験者5人中4人が0.3−1.1mg/dlの間で尿酸値が下がっており、1,5−AFの摂取で血中尿酸値が正常化することが確認できた。また、水あめ単独には尿酸値の正常化効果はないことも解った。
さらに試験終了後の問診検査で被験者の数名が睡眠感の向上を感じていることが解り、1,5−AFに睡眠感の向上の機能が見出された。
【0016】
【表1】
【0017】
[実施例2]
1,5−AFの経口摂取による睡眠感の向上を調べるヒト試験を実施した。試験はランダム化プラセボ対照並行群間比較試験で行った。試験食品は食品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む製品である。プラセボ食品はマルトースを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む試験品を用いた。被験者は22〜71歳の健康な男女28名(男性13名、女性15名)とし、試験食品群13名(男性7名、女性6名:平均年齢52.2歳)、プラセボ群15名(男性8名、女性7名):平均年齢48.5歳)とした。
被験者には試験食品あるいはプラセボ食品を20g、1日1回経口摂取させた。摂取方法と摂取時間は自由とし、摂取期間は28日間とした。摂取前、摂取後に起床時眠気感調査票(MA版)を用いて睡眠感を評価した。この評価は第1因子:起床時眠気(sleepiness on rising),第2因子:入眠と睡眠維持(initiation and maintenance of sleep),第3因子:夢み(frequent dreaming),第4因子:疲労回復(refreshing),第5因子:睡眠時間(sleep length)の5因子形16項目から構成されている。これを用いて評価した結果、表2に示すように起床時眠気に関しては試験食品で事前が20.28±5.61に対して、事後24.34±6.07となり有意に起床時の眠気の低減が認められた。また、睡眠時間に関しては試験食品で事前が20.59±6.43に対して事後が25.06±6.00で有意に睡眠時間の延長が認められた。その他の項目およびプラセボ群には有意な変化は認められなかった。
【0018】
【表2】
【0019】
[実施例3]
1,5−AFの経口摂取による気分の変化を調べるヒト試験を実施した。試験はランダム化プラセボ対照並行群間比較試験で行った。試験食品は食品20g中に1,5−AFを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む製品である。プラセボ食品はマルトースを5.7g、水あめを8.6g、水を5.7g含む試験品を用いた。被験者は22〜71歳の健康な男女28名(男性13名、女性15名)とし、試験食品群13名(男性7名、女性6名:平均年齢52.2歳)、プラセボ群15名(男性8名、女性7名):平均年齢48.5歳)とした。
被験者には試験食品あるいはプラセボ食品を20g、1日1回経口摂取させた。摂取方法と摂取時間は自由とし、摂取期間は28日間とした。摂取前、摂取後にPOMS2日本語成人用の質問紙を用いて気分や不安、うつの状態を評価した。この質問紙は気分の状態を7つの項目(怒り−敵意(AH)、混乱−当惑(CB)、抑うつ−落込み(DD)、疲労−無気力(FI)、緊張−不安(TA)、活気−活力(VA)、友好(F))でそれぞれ点数化し、標準化得点(Tスコア)を算出し、その点数よりTMD(総合的気分状態)を算出した。Tスコアは、平均値が50点、標準偏差が10となるよう設計されている。
この質問紙をもとに評価した結果、表3に示すようにAH(怒り・敵意)に関しては試験食品で事前が46.8±8.2に対して、事後42.4±4.0となり怒り・敵意の感情の低減が認められた。TA(緊張、不安)については事前49.0±10.2に対して事後が45.6±7.4へ軽減していた。さらにCB、DD、FIの評価項目でスコアの低下が認められ、TMD得点については試験品群が、44.8±7.7から42.1±5.1へ低下し、試験品の摂取で気分状態の改善が認められた。
【0020】
【表3】