【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するがこれらによって本発明は限定されない。重量部および重量%は固形分換算の値である。
【0051】
<評価方法>
(1)細孔容積と平均細孔直径の測定
窒素吸着法により、塗工紙の細孔容積、平均細孔直径を求めた。測定には、島津製作所製トライスター3000を用いた。
(サンプルの調製)
縦40cm×横15cmの紙サンプルを厚さ方向に均等になるよう2層に分割し、顔料塗工層と原紙層を含む積層体を得た。両面塗工紙の場合は当該積層体が2つ、片面塗工紙の場合は当該積層体が1つと主として原紙層からなる層が1つ得られる。顔料塗工層と原紙層を含む積層体をサンプルシートとして測定に使用した。両面塗工紙の場合はいずれか一方をサンプルシートとして測定に使用した。サンプルシートの坪量t(g/m
2)を測定した。1枚のサンプルシート中の任意の4点を選択し、短冊状に断裁した後、測定サンプルが絶乾重量1〜2g程度となるように測定セルに入れた。この時の絶乾重量をw(g)とした。真空状態、処理温度120℃で一晩前処理を行った。
【0052】
(測定)
前記装置を用いて前記測定サンプルの顔料塗工層側から細孔容積および平均細孔直径を測定した。具体的には、脱着等温線よりBJH法を用いて前記測定サンプルの細孔容積および平均細孔直径を求め、4サンプルの平均値を取り、測定サンプルの細孔容積V’および平均細孔直径m’とした。細孔容積V’については単位塗工量当たりの値に換算して本発明の顔料塗工層の細孔容積Vとした。得られた平均細孔直径m’については、そのまま本発明の顔料塗工層の平均細孔直径mとした。測定サンプルの顔料塗工層重量は、顔料塗工層重量(g)=測定サンプルの絶乾重量w(g)×塗工量c(g/m
2)÷サンプルシートの坪量t(g/m
2)から算出した。塗工量c(g/m
2)は後述する測定方法により求めた。
【0053】
水銀圧入法によっても、窒素吸着法と同様にして塗工紙の細孔容積、平均細孔直径を求めた。測定には、島津製作所製Auto Pore9500を用いた。サンプルは窒素吸着法と同様に調製した。ただし、測定サンプルの量を0.13g程度(絶乾重量)とした。
【0054】
(塗工量)
特許第5827187号に記載の方法に準じて、塗工量を測定した。具体的には以下の手順により測定した。
1)測定サンプル(紙)を5cm×5cmの大きさに切断し、温度23℃、相対湿度50%で調湿後重量xを測定した。
2)スチレンポリマー板上に顔料塗工層が接するように当該サンプルを置き、時計皿で挟みクリップで固定した。
3)120〜150℃の乾燥機に入れ、スチレンポリマーを溶融させ顔料塗工層と密着さ
せ、放冷した後、温度23℃、相対湿度50%で約半日調湿して重量yを測定した。
4)前工程で得た測定サンプルを銅エチレンジアミン溶液に約3〜4時間浸漬した後、刷毛を用いて原紙層と顔料塗工層を慎重に剥離した。顔料塗工層に付着したパルプ繊維がなくなるまで、この工程を繰り返した。
5)顔料塗工層を水洗いし乾燥させ、温度23℃、相対湿度50%で約半日調湿後、重量zを測定した。
6)以下の式によって、塗工量を算出した。
塗工量c(g/m
2)=(x−A)×400
A=y−z
【0055】
(2)白紙光沢度
JIS−P8142に基づいて測定した。
(3)印刷インキ受理性
JAPPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.46:紙及び板紙−印刷インキ受理性試験方法−K&Nインキ法に基づいて測定した。白色度の測定はUV光を含む条件(UV−In)で測定を行った。
(4)静的摩擦係数および動的摩擦係数
ISO 15359に準じて測定した。ただし、3回の繰返し測定において、静的摩擦係数は1回目の測定値を採用し、動的摩擦係数は3回目の測定値を採用した。
【0056】
(5)インキ乾燥性
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が墨2.00となる様に印刷したあと、墨ベタ印刷部を印刷直後から10分ごとに指先で触り、インキ乾燥の速さの程度を官能評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0057】
(6)網点ムラ
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ハーフトーン(50%)印刷部の着肉ムラを目視で評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0058】
(7)印刷光沢度(光沢度差)
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ベタ印刷部の光沢度を、JIS P−8142に基づいて測定した。
印刷光沢度から白紙光沢度を差し引いた値を光沢度差とし、光沢度差が20以上であれば印刷部と白紙部の光沢の差異が十分に得られており、実用上問題はない。
光沢度差(%)=印刷光沢度(%)−白紙光沢度(%)
【0059】
(原紙)
原紙として、化学パルプ100重量%、填料として軽質炭酸カルシウムを13重量%含有した、密度0.73g/cm
3、坪量98g/m
2の上質紙を準備した。
【0060】
[実施例1]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー1(ファイマテック社製、商品名:FMT97、沈降法による粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.64μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を4重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液1を得た。
前記原紙上に、顔料塗工液1をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が15.0g/m
2となるように両面塗工し、その後乾燥して印刷用塗工紙を得た。
【0061】
[実施例2]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー1(ファイマテック社製、商品名:FMT97、沈降法による粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.64μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液2を得た。
顔料塗工液1に代えて顔料塗工液2を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
【0062】
[実施例3]
顔料として苛性化軽質炭酸カルシウムスラリー1(D50=1.02μm)55重量部(固形分)および2級クレー(IMERYS社製、商品名:KCS、D50=4.9μm)45重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックス1(A&L社製、商品名:PB1537、平均粒子径110nm、ガラス転移温度10℃)を4重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液3を得た。
顔料塗工液1に代えて顔料塗工液3を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
【0063】
[比較例1]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー1(ファイマテック社製、商品名:FMT97、沈降法による粒子径が2μm以下の粒子の割合:97%、D50=0.64μm)100重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン共重合ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を8重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液4を得た。
顔料塗工液1に代えて顔料塗工液4を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて印刷用塗工紙を得た。
【0064】
[比較例2]
顔料として苛性化軽質炭酸カルシウムスラリー1(D50=1.02μm)95重量部(固形分)、微粒クレー(IMERYS社製、商品名:アストラグレーズ、D50=0.23μm)5重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重
合ラテックス1(商品名:PB1537、平均粒子径110nm、ガラス転移温度10℃)を5.8重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を5.3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液5を得た。
次いで、顔料として苛性化軽質炭酸カルシウムスラリー1(D50=1.02μm)20重量部(固形分)、苛性化軽質炭酸カルシウムスラリー2(、D50=1.38μm)80重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス1(商品名:PB1537、平均粒子径110nm、ガラス転移温度10℃)を2.5重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を21重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液6を得た。
前記原紙上に、顔料塗工液6をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が4.5g/m
2となるように両面塗工し、その後乾燥して下層塗工紙を得た。当該下層塗工紙上に、顔料塗工液5をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が10.5g/m
2となるように両面塗工し、その後乾燥して印刷用塗工紙を得た。
【0065】
[参考例1]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー1(ファイマテック社製、商品名:FMT97、D50=0.64μm)70重量部、一級クレー(IMERYS社製、商品名:プレミア、D50=3.22μm)30重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液7を得た。
【0066】
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー1(ファイマテック社製、商品名:FMT97、D50=0.64μm)100重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス1(商品名:PB1537、平均粒子径110nm、ガラス転移温度10℃)を7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液8を得た。
前記原紙上に、顔料塗工液8をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が8.5g/m
2となるように両面塗工し、その後乾燥して下層塗工紙を得た。当該下層塗工紙上に、顔料塗工液7をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が20.0g/m
2となるように両面塗工し、その後乾燥して印刷用塗工紙を得た。
【0067】
[参考例2]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー2(ファイマテック社製、商品名:FMT90、沈降法による粒子径が2μm以下の粒子の割合:90%、D50=0.94μm)70重量部、一級クレー(IMERYS社製、商品名:プレミア、D50=3.22μm)30重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液9を得た。
塗工液として顔料塗工液7に代えて顔料塗工液9を使用した以外は、参考例1と同様の方法にて印刷塗工紙を得た。
【0068】
[実施例4]
顔料として重質炭酸カルシウムスラリー3(ファイマテック社製、商品名:FMT75、沈降法による粒子径が2μm以下の粒子の割合:75%、D50平均粒子径1.65μm)70重量部、一級クレー(IMERYS社製、商品名:プレミア、D50=3.22μm)30重量部(固形分)を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合
ラテックス2(A&L社製、商品名:PB9501、平均粒子径80nm、ガラス転移温度−12℃)を7重量部、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、商品名:SK200)を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液10を得た。
塗工液として顔料塗工液7に代えて顔料塗工液10を使用した以外は、参考例1と同様の方法にて印刷塗工紙を得た。
【0069】
実施例1〜4、比較例1〜2、参考例1〜2の処方および評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなように、原紙およびその上に顔料塗工層を備える印刷用塗工紙において、窒素吸着法によって測定された顔料塗工層の細孔容積Vまたは平均細孔直径mが大き
いほどインキ乾燥性も高くなる。また、印刷用塗工紙の顔料塗工層の塗工量をcとしたときの、V/cまたはm/cが大きいほどインキ乾燥性も高くなる。
【0072】
さらに、本発明の印刷用塗工紙は、白紙光沢度と印刷光沢の差異が大きいマット調印刷用塗工紙であり、実施例1〜4においては、本願範囲の細孔容積、平均細孔直径をもつことで、良好なインキ乾燥性、印刷インキ受理性をもつマット調印刷用塗工紙が得られることが明らかである。また、実施例1、3のマット調印刷用塗工紙は、静的摩擦係数より高い動的摩擦係数を付与することで、用紙の滑りが抑制され、紙揃いに優れる。
一方、比較例1、2は細孔容積、平均細孔直径が低く、それに伴い印刷インキ受理性、インキ乾燥性が劣っている。また、参考例1、2に示したように、白紙光沢度が35%より高い領域であれば、塗工顔料の粒子径を小さくすることで、細孔容積、平均細孔直径を本願の範囲に調整し、優れた印刷インキ受理性、インキ乾燥性を得ることは容易であるが、本発明においては、光沢を抑えたマット調の印刷用塗工紙でありながら、優れたインキ受理性と、インキ乾燥性を達成した。
【0073】
[窒素吸着法と水銀圧入法の比較]
参考例1、2および実施例4で得た印刷用塗工紙について、以下の方法によりインキ速乾性を定量的に評価した。
【0074】
<インキ速乾性の定量的評価>
RI印刷試験機(石川島産業機械株式会社製、RI−3型)を用い、平版用標準タックインキ0.8ccをゴムロールに展開し、印刷速度130rpmでインキ量が均一となるよう3回重ねて前記印刷用塗工紙に印刷した。印刷後2分から20分経過するまで2分ごとに、塗工紙に印刷されたインキを紙に転移させ、紙に転移したインキのY値(明度)をポータブル分光濃度計(エックスライト社製、X−Rite520)により測定した。Y値は、乾燥せずに紙に転移したインキの度合いを示す。インキ速乾性の目安をY=80とし、これを達成する時間を乾燥性の定量的指標とした。
【0075】
表2、
図1および
図2に結果を示す。窒素吸着法で測定された細孔容積と平均細孔直径が大きくなるほどインキ速乾性が向上する。この傾向は、前述の式(3)の関係に則っている。一方、水銀圧入法ではこの相関が見られなかった。以上から、窒素吸着法を用いることで、インキ速乾性をより正確に測定できることが明らかである。
【0076】
【表2】