【実施例】
【0043】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図7は、本発明の一実施例を示す赤外線吸収分光装置用の成分同定装置の説明図で、非負線形回帰と正準相関解析を並列に処理する場合を示している。
赤外線吸収分光装置用の成分同定装置は、測定対象となる試料10、赤外線分光光度計20、測定データ前処理部32、成分同定演算装置40で構成されている。また、赤外線分光光度計20で測定されたスペクトル測定データ30と、校正や成分同定に必要な標準物質組成のスペクトルライブラリ34を有している。ここで、スペクトル測定データ30やスペクトルライブラリ34は、赤外線分光光度計20のスペクトル測定領域に応じて、周波数、波長、波数、又はエネルギによって定義される。
【0044】
試料10は、成分同定の対象となる被測定試料で、典型的には液体溶媒に溶ける固体や粉体、液体溶媒と混和する液体、および気体がある。成分同定の対象となる組成物質として、特に有機分子は、ほとんど赤外線領域に吸収を持つため赤外線吸収分光装置で高感度に検出できる。そこで、被測定試料の成分同定は、化学原料の品質確認、汚染物質の同定や環境モニター、薄膜分析、食品や清浄度が要求される製品への異物混入検査として重要である。
【0045】
赤外線分光光度計20は、赤外線光源22、試料収容部24、分光器26、検出器28で構成される。赤外線分光光度計20には、回折格子を用いた分散型赤外分光光度計やフーリエ変換型赤外分光(FT−IR:Fourier transform infrared spectrometer)がある。FTIR分光計は、中赤外および近赤外領域の測定に主に使用される。
赤外線光源22は、遠赤外線、中赤外線及び近赤外線の3領域に応じて使い分けられる。遠赤外線、特に50μm(200cm
−1)を超える波長では、水銀放電ランプが用いられる。中赤外領域は、2〜25μm(5000〜400cm
−1)の波長領域で、最も一般的な光源は約1200Kに加熱された炭化ケイ素(SiC)を用いたグローバ光源である。グローバ光源は黒体輻射に近いスペクトル分布を有している。近赤外領域は、1〜2.5μm(10000〜4000cm
−1)の短波長領域で、例えばタングステンハロゲンランプが用いられる。
【0046】
試料収容部24は、被測定試料20を収容するもので、被測定試料20は液体溶媒に溶けるか混和されるが、これに限定されるものではない。試料収容部24に、赤外線光源22から放射される赤外線を透過する測定窓部25を設けると良い。また、参照試料収容部を試料収容部24と並列に設けて、赤外線光源22から放射される赤外線をビームスピリッタで2分割して、赤外線光源22から放射される赤外線のドリフトの影響を控除するとよい。
【0047】
分光器26は、分散型赤外分光光度計に用いられるもので、例えば回折格子を用いる。分散型赤外分光光度計では、試料10を透過した後の光を回折格子により分散させ、各波長を順次検出器28で検出する。一般的には参照試料収容部を設けたダブルビーム方式になっており、リアルタイムでバックグラウンド補正する。これに対して、フーリエ変換型赤外分光では、分光器に代えて干渉計を使用し、検出器により干渉パターン(インターフェログラム)を観測する。インターフェログラムについて、コンピュータ上でフーリエ変換を行い、各波長成分を計算する。
【0048】
検出器28は、主として半導体型のテルル化カドミウム水銀(HgCdTe)検出器または焦電型の硫酸トリグリシン(Triglycine sulfate)検出器が用いられる。テルル化カドミウム水銀検出器は暗い赤外光(5000〜650cm
−1)を高感度に検出するのに適しており、液体窒素温度で動作する。一方、硫酸トリグリシン検出器は室温で動作し、明るい赤外光を大きなダイナミックレンジで測定(7800〜350cm
−1)するのに適している。このため、透過率や反射率の高い試料を測定するには硫酸トリグリシン検出器が向いており、逆に外部反射法や多重反射型減衰全反射法(attenuated total reflection, ATR)の測定にはテルル化カドミウム水銀検出器が適していることが多い。
また近赤外光にはInGaAsやPbSeなどの検出器が対応しており、12500〜3800cm
−1を検出する。
【0049】
スペクトル測定データ30は、赤外線分光光度計20によって測定された試料10に対するスペクトル測定データである。
スペクトルライブラリ34は、組成元素や化合物の組成が既知の標準物質に対する赤外線分光光度計20によって測定される領域の標準スペクトルデータが記憶されたものである。
測定データ前処理部32は、測定スペクトルデータ30の強度を規格化する。規格化とは、測定スペクトルデータの回帰演算や相関解析において、演算データが発散したり、データの桁数不足からアンダーフローするのを防止するために行う。併せて、測定データ前処理部32は、測定スペクトルデータ30を、標準スペクトルデータ34とデータ形式が合うように、変換している。
【0050】
成分同定演算装置40は、非負線形回帰演算部42、統括正準相関解析部44、しきい値設定部46、予測物質候補抽出部48を有している。成分同定演算装置40は、赤外線分光光度計20で収集した測定スペクトルデータから、被測定対象物10の組成元素や化合物を推定する機能を有するもので、例えば、コンピューティング装置が用いられると共に、そのコンピュータプログラム製品であるソフトウェアによって、成分同定演算装置40の機能が実現される。このコンピューティング装置やコンピュータプログラム製品の詳細は、後で説明する。
【0051】
非負線形回帰演算部42は、測定スペクトルデータ30を標準スペクトルデータ34による線形和によって回帰し、対応する回帰係数の演算を行うと共に、この回帰係数が一定の値以上の回帰係数を抽出する。具体的な演算内容は、非負線形回帰演算としての非負最小二乗(NNLS)の項で説明した通りである。
第1候補リスト432は、正準相関解析部442で抽出された標準スペクトルデータを被測定対象物10の組成元素や化合物の候補物質として掲載したものである。
【0052】
統括正準相関解析部44は、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、部分正準相関解析部446を有している。正準相関解析部442は、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34について、正準相関解析から類似度を計算して、当該類似度の絶対値が大きな値の標準スペクトルデータを抽出する。具体的な演算内容は、正準相関解析(CCA)の項で説明した通りである。
対数正準相関解析部444は、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34について、スペクトル強度の対数について正準相関解析を用いて類似度を計算して、当該類似度の絶対値に基づき標準スペクトルデータを抽出する。具体的な演算内容は、対数正準相関解析(L−CCA)の項で説明した通りである。
【0053】
部分正準相関解析部446は、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34について、部分的に切り出したスペクトルデータについて正準相関解析を用いて類似度を計算して、当該類似度の絶対値に基づき標準スペクトルデータを抽出する。具体的な演算内容は、部分正準相関解析(P−CCA)の項で説明した通りである。当該類似度の絶対値に基づきとは、例えば類似度の絶対値が大きな値の標準スペクトルデータを大きい順に抽出してもよく、また相関性の低いノイズデータを排除するためのしきい値を超えるものに限定してもよい。
部分的に切り出したスペクトルデータの領域は、スペクトルデータの上限値と下限値によって定められるとよい。ここで、スペクトルデータの領域は、周波数、波長、波数、又はエネルギによって定義されるので、この定義に応じて上限値と下限値を定めるとよい。
【0054】
しきい値設定部46は、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、又は部分正準相関解析部446において、第2候補リスト448に掲載する基準となる候補物質に対する第2のしきい値を設定する。抽出される当該類似度の絶対値が大きな値の標準スペクトルデータは、第2のしきい値よりも大きな類似度を有するとよい。第2のしきい値よりも小さな類似度を有する標準スペクトルデータに対応する候補物質は、試料10の組成物質である蓋然性は低くなる。なお、しきい値設定部46に設定される第2のしきい値は、正準相関解析から計算される類似度の値でもよく、また第2候補リスト448に掲載される候補物質の上限数でもよい。この上限数は、例えば3個以内とするが、例えば5個以内の適宜の数量でもよい。
【0055】
第2候補リスト448では、しきい値設定部46で設定された第2のしきい値に従って、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、又は部分正準相関解析部446において類似度の計算された標準物質について、類似度の高い順に試料10の組成物質である蓋然性が高い標準物質として掲載される。この場合、第2候補リスト448では、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、及び部分正準相関解析部446の3類型について区分けして候補物質を掲載してもよく、また正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、及び部分正準相関解析部446のうち任意の2類型を抽出して、区分けして候補物質を掲載してもよい。また、任意の1類型を抽出して、候補物質を掲載してもよい。
【0056】
予測物質候補抽出部48は、第1候補リスト432と第2候補リスト448に掲載された候補物質の中から、当該予測物質候補の選出頻度から、被測定試料10の組成として真の含有物質を推定する。この場合、第2候補リスト448が、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、及び部分正準相関解析部446の3類型について類似度を計算し、第2のしきい値を上回る候補物質をこの3類型について各々掲載している場合は、当該予測物質候補の選出頻度は最大4回となる。
なお、測定スペクトルデータ30と特定の標準スペクトルデータ34についての回帰係数や計算された類似度が非常に高く、当該特定標準物質が試料10の組成物質である蓋然性が非常に高い場合もあり得る。そこで、成分同定演算装置40では、予測物質候補抽出部48に掲載する予測物質候補として、第1候補リスト432又は第2候補リスト448に掲載された予測物質候補をそのまま予測物質候補としてもよい。このように構成すると、第1候補リスト432又は第2候補リスト448の一方のみを作成すれば足りるので、成分同定演算装置40の演算負荷が少なくて済む。
【0057】
このように構成された赤外線吸収分光装置用の成分同定装置の動作を説明する。
図8は、
図7に示す装置の成分同定アルゴリズムの説明図である。ここでは、赤外線分光光度計20で測定したデータをリアルタイムで成分同定装置により同定する場合を示しているが、測定作業と同定演算作業はオフラインとして、バッチ処理してもよいことは言うまでもない。
【0058】
まず、赤外線分光光度計20の試料収容部24に、被測定対象試料10をセットする(S800)。次に、赤外線分光光度計20の光源部22から赤外線を試料収容部24に照射し、透過光又は反射光が分光器26(又は干渉計)をへて検出器28にはいり、被測定対象試料10の赤外線スペクトルが、測定スペクトルデータ30として、測定される(S805)。
成分同定装置は、測定された赤外線スペクトルデータを、測定スペクトルデータ30として、読込む(S810)。また、スペクトルライブラリにアクセスして、組成既知の標準物質について、標準スペクトルデータ34を読込む(S815)。
【0059】
成分同定装置は、測定スペクトルデータ30について、測定データ前処理部32で前処理を行い、成分同定演算装置40で統計処理しやすい態様に変換する(S820)。好ましくは、測定データ前処理部32で、測定スペクトルデータ30を、標準スペクトルデータ34とデータ形式が合うように、変換するとよい。
成分同定演算装置40では、非負線形回帰演算部42において、測定スペクトルデータ30を標準スペクトルデータ34について非負線形回帰演算をし、第1の予測物質候補リストとしての第1候補リスト432を作成する(S825)。また、成分同定演算装置40では、正準相関解析部442において、測定スペクトルデータ30と標準スペクトルデータ34についての正準相関解析をし、第2の予測物質候補リストとしての第2候補リスト448を作成する(S830)。正準相関解析部442による正準相関解析に代えて、対数相関解析部444による対数正準相関解析や部分正準相関解析部446による部分正準相関解析を用いてもよく、また対数正準相関解析及又は部分正準相関解析の少なくともいずれか一つを重畳して行って、類似度を計算してもよい。
【0060】
成分同定演算装置40では、第1候補リスト432と第2候補リスト448に掲げられた予測物質候補から、被測定試料の組成として真の含有物質を推定する(S835)。推定の方法のひとつとして、候補リストに出てくる頻度が多いものを真の含有物質とする方法が好ましい。推定態様としては、非負線形回帰演算、正準相関解析、対数正準相関解析、及び部分正準相関解の全てを演算する場合は、予測物質候補の選出頻度から、被測定試料10の組成として真の含有物質を推定するとよい。
正準相関解析、対数正準相関解析、及び部分正準相関解のうち一部を演算する場合は、非負線形回帰演算も含めた予測物質候補の選出頻度から、被測定試料10の組成として真の含有物質を推定してもよい。また、第1候補リスト432に掲載された予測物質候補のうち最大の回帰係数を有する候補物質と、第2候補リスト448に掲げられた予測物質候補のうち最大の類似度を有する候補物質を総合的に考慮して、被測定試料の組成として真の含有物質448を推定してもよい。
また、演算負荷を軽減する目的や、測定スペクトルデータ30と特定の標準スペクトルデータ34についての回帰係数や計算された類似度が非常に高く、当該特定標準物質が試料10の組成物質である蓋然性が非常に高い場合には、第1候補リスト432に掲載された予測物質候補のうち最大の回帰係数を有する候補物質、又は第2候補リスト448に掲げられた予測物質候補のうち最大の類似度を有する候補物質を被測定試料の組成として真の含有物質448を推定してもよい。
【0061】
図9は、
図7に示す装置の成分同定演算処理部をコンピュータを用いて構成する場合の例示的なコンピューティング装置900を示すブロック図である。
図7の成分同定演算装置40は、コンピューティング装置900の全部または一部を使用して実施することができる。
非常に基本的な構成901では、コンピューティング装置900は通常、1つまたは複数のプロセッサ910とシステムメモリ920とを含む。メモリバス930は、プロセッサ910とシステムメモリ920との間の通信に使用され得る。
【0062】
所望の構成に応じて、プロセッサ910は、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ(μC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意のタイプのものであり得る。プロセッサ910は、レベル1キャッシュ911およびレベル2キャッシュ912などのもう1つのレベルのキャッシング、プロセッサコア913、およびレジスタ914を含むことができる。例示的なプロセッサコア913は、算術論理演算装置(ALU)、浮動小数点ユニット(FPU)、デジタル信号処理コア(DSPコア)、またはそれらの任意の組み合わせなどを含むことができる。例示的なメモリ制御部915もプロセッサ910と共に使用することができ、またはいくつかの実装形態では、メモリ制御部915はプロセッサ910の内部部分とすることができる。
【0063】
所望の構成に応じて、システムメモリ920は、揮発性メモリ(RAMなど)、不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリなど)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない任意のタイプのものとすることができる。システムメモリ920は、オペレーティングシステム921、1つまたは複数のアプリケーション922、およびプログラムデータ932を含み得る。アプリケーション922は、非負線形回帰演算部42の例に従って非負線形回帰係数を計算するように構成された非負線形回帰解析923、正準相関解析部442の例に従って類似度を計算するように構成された正準相関解析部924、対数正準相関解析部444の例に従って類似度を計算するように構成された対数正準相関解析部925、及び部分正準相関解析部446の例に従って類似度を計算するように構成された部分正準相関解析部926を含み得る。
【0064】
プログラムデータ932は、赤外線分光光度計20から送られた測定スペクトルデータ933、組成既知の標準物質についての標準スペクトルデータを記憶したスペクトルライブラリ934、第1候補リスト935、第2候補リスト936、予測物質候補937を含み得る。第1候補リスト935は、第1候補リスト432の項で説明した試料10の候補物質のリストである。第2候補リスト936は、第2候補リスト448の項で説明した試料10の候補物質のリストである。予測物質候補937は、予測物質候補抽出部48の項で説明した機能によって、作成された試料10の予測物質候補リストである。
【0065】
コンピューティング装置900は、追加の特徴または機能性、および基本構成901と任意の必要な装置およびインターフェースとの間の通信を容易にするための追加のインターフェースを有することができる。例えば、バス/インターフェース制御部940を使用して、ストレージインターフェースバス941を介した基本構成901と1つまたは複数のデータ記憶装置950との間の通信を容易にすることができる。データ記憶装置950は、取り外し可能な記憶装置951、取り外しができない記憶装置952、またはそれらの組み合わせである。取り外し可能な記憶装置および取り外しができない記憶装置の例には、フレキシブルディスクドライブおよびハードディスクドライブ(HOD)などの磁気ディスク装置、コンパクトディスク(CD)ドライブまたはデジタル多用途ディスク(DVD)ドライブなどの光ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)、テープドライブが含まれる。例示的なコンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能および固定の媒体を含み得る。
【0066】
システムメモリ920、取外し可能記憶装置951、および固定記憶装置952はすべてコンピュータ記憶媒体の例である。コンピュータ記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、CDROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置を含むがこれらに限定されない。所望の情報を格納するために使用され得、かつコンピューティング装置900によってアクセスされ得る任意のそのようなコンピュータ記憶媒体は、デバイス900の一部であり得る。
【0067】
また、コンピューティング装置900はバス/インターフェース制御部940を介して様々なインターフェース装置(例えば、出力インターフェース、周辺インターフェース、および通信インターフェース)から基本構成901への通信を容易にするためのインターフェースバス942を含むことができる。
出力デバイス960では、画像処理ユニット961および音声処理ユニット962が、1つまたは複数のAVポート963を介して表示装置992またはスピーカなどの様々な外部装置と通信するように構成され得る。
【0068】
例示的な周辺インターフェース970は、入力装置(例えば、キーボード、マウス、ペン、音声入力装置、タッチ入力装置など)のような外部装置と通信するように構成され得るシリアルインターフェース制御部971またはパラレルインターフェース制御部972を含む。周辺インターフェース970は、I/Oポート973を介して赤外線分光光度計20と通信するように構成され得る。
例示的な通信装置980は、ネットワーク制御部981を含み、ネットワーク制御部981は、1つまたは複数の通信ポート982を介したネットワーク通信リンクを介して、1つまたは複数の他のコンピューティング装置990との通信を容易にするように構成されてもよい。
【0069】
ネットワーク通信リンクは、通信媒体の一例であり得る。 通信媒体は、通常、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または搬送波もしくは他の搬送機構などの変調データ信号内の他のデータによって具現化することができ、任意の情報配信媒体を含むことができる。「変調データ信号」は、信号内に情報を符号化するような方法で設定または変更されたその特性のうちの1つまたは複数を有する信号であり得る。限定ではなく例として、通信媒体は、有線ネットワークまたは直接配線接続などの有線媒体、ならびに音響、無線周波数(RF)、マイクロ波、赤外線(IR)および他の無線媒体などの無線媒体を含み得る。本明細書で使用されるコンピュータ可読媒体という用語は、記憶媒体と通信媒体の両方を含み得る。
【0070】
コンピューティング装置900は、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDA)、パーソナルメディアプレーヤデバイス、ワイヤレスウェブウォッチデバイス、パーソナルコンピュータなどのスモールフォームファクタポータブル(またはモバイル)電子デバイス、上記の機能のいずれかを含むヘッドセットデバイス、特定用途向けデバイス、またはハイブリッドデバイスの一部として実装され得る。コンピューティング装置900はまた、ラップトップコンピュータ構成および非ラップトップコンピュータ構成の両方を含むパーソナルコンピュータとして実装され得る。
【0071】
図10は
図9に示す機能ブロックを有するコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図で、例示的なコンピュータプログラム製品1000を示している。プログラム担持媒体1002は、コンピュータ読取可能媒体1006、記録可能媒体1008、通信媒体1009、またはそれらの組み合わせとして実装することができるもので、処理ユニットのすべてまたは一部の処理を実行するように構成することができるプログラム命令格納部1004を有する。
【0072】
プログラム命令格納部1004に格納されたプログラム命令は、例えば、被測定試料10の測定スペクトルデータ30を読込む機能(1010)、組成既知の標準物質について、スペクトル分析装置で測定するスペクトルデータに対応する態様の、標準スペクトルデータ34を読込む機能(1020)、測定スペクトルデータ30の強度を規格化する前処理部(1025)を有する。更に、測定スペクトルデータ30を標準スペクトルデータ34について線形和によって回帰し、対応する回帰係数の演算を行う非負線形回帰演算部(1030)を有する。非負線形回帰演算部(1030)では、この回帰係数が非負であって、絶対値が一定値以上の回帰係数をもつ標準スペクトルを抽出する。
【0073】
また、プログラム命令格納部1004に格納されたプログラム命令は、例えば、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34について、正準相関解析から類似度を計算して、当該類似度の絶対値が大きな値の標準スペクトルデータを抽出する正準相関解析部(1035)を有する。正準相関解析に代えて、対数正準相関解析や部分正準相関解析でもよく、また正準相関解析、対数正準相関解析、又は部分正準相関解析の少なくともいずれか一つを重畳して行ってもよい。そして、非負線形回帰演算部と正準相関解析部で抽出した予測物質候補リストから、被測定試料の組成として選定する機能(1040)を有する。
【0074】
図11は、本発明の他の実施例を示す赤外線吸収分光装置用の成分同定装置の説明図で、非負線形回帰と正準相関解析を直列に処理する場合を示している。なお、
図11において、前出の
図7の構成要素と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
図11では、
図7の第1候補リスト432に代えて予備的候補リスト43、
図7の第2候補リスト448と予測物質候補抽出部48に代えて予測物質候補リスト47が設けられている。この実施例では、非負線形回帰演算部42で選定された予測物質候補に対して、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、又は部分正準相関解析部446の少なくともいずれか一つで選定される予測物質候補に絞り込むように構成されたものである。
なお、
図7で示したしきい値設定部46は、
図11では非負線形回帰と正準相関解析を直列に処理する構成としているので、
図11の成分同定装置では設けていない。
【0075】
予備的候補リスト43は、非負線形回帰演算部42で抽出された、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34についての非負回帰係数を有する標準スペクトルデータに対応する標準物質が掲載されたものである。この予備的候補リスト43に掲載される候補物質の数は、例えば3個以内とするが、例えば5個以内の適宜の数量でもよい。また掲載基準となる第1のしきい値を定めて、この第1のしきい値以上の回帰係数を有する標準スペクトルデータを、第1候補リスト432に掲載してもよい。
予測物質候補リスト47は、予備的候補リスト43に掲載された予測物質候補に対して、正準相関解析部442、対数正準相関解析部444、又は部分正準相関解析部446の少なくともいずれか一つで選定される予測物質候補に絞り込んで、掲載したものである。
【0076】
図12は、
図11に示す装置の成分同定アルゴリズムの説明図である。なお、
図12において、前出の
図8の成分同定アルゴリズムの機能ブロックと同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
成分同定演算装置40では、非負線形回帰演算部42において、赤外線スペクトルデータ30を標準スペクトルデータ34について非負線形回帰演算をし、予備的候補リスト43を作成する(S840)。
【0077】
次に、正準相関解析部442において、赤外線スペクトルデータ30と標準スペクトルデータ34についての正準相関解析をし、当該類似度の絶対値に基づき標準スペクトルデータを抽出する(S845)。正準相関解析部442による正準相関解析に代えて、対数相関解析部444による対数正準相関解析や部分正準相関解析部446による部分正準相関解析を用いてもよく、また対数正準相関解析及又は部分正準相関解析の少なくともいずれか一つを重畳して行って、類似度を計算してもよい。
予測物質候補リスト工程では、絞り込んだ結果をもとに予測物質候補を絞りこみ、予測物質候補リスト47を作成して、被測定試料の組成として推定される真の含有物質とする(S850)。これによって、成分同定演算装置40では、予測物質候補リスト47で予測物質候補をスクリーニングし、予備的候補リスト43から被測定試料10の組成として真の含有物質を推定する。推定の方法のひとつとして、計算された類似度が高いものを優先して真の含有物質と推定する方法がある。
【0078】
図13は、
図11に示す装置の成分同定演算処理部を、コンピュータを用いて構成する場合の機能ブロック図である。なお、
図13において、前出の
図9の構成要素と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
図13においては、プログラムデータ932は、予備的候補リスト938、予測物質候補リスト939を有している。予備的候補リスト938は、予測物質候補リスト47に相当するものである。予測物質候補リスト939は、正準相関解析部442による正準相関解析、対数相関解析部444による対数正準相関解析や部分正準相関解析部446による部分正準相関解析によって、計算された類似度から、標準スペクトルデータ34のある標準物質から、被測定試料10の組成として真の含有物質となりうる標準物質を候補物質としてスクリーニングされたものである。
【0079】
図14は、
図13に示す機能ブロックを有するコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図である。なお、
図14において、前出の
図10の機能ブロックと同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
プログラム命令格納部1004に格納されたプログラム命令は、例えば、測定スペクトルデータ30及び標準スペクトルデータ34について、正準相関解析部442による正準相関解析から類似度を計算して、当該類似度の絶対値が大きな値の標準スペクトルデータを抽出する正準相関解析(1045)を有する。正準相関解析に代えて、対数正準相関解析や部分正準相関解析でもよく、また正準相関解析、対数正準相関解析、又は部分正準相関解析の少なくともいずれか一つを重畳して行ってもよい。これによって、非負線形回帰演算部42で抽出した予備的候補リスト938から、正準相関解析部442でスクリーニングして、予測物質候補リスト939に掲載された候補物質を被測定試料10の組成として選定する。
【0080】
このように構成された赤外線吸収分光装置用の成分同定装置及びその方法の測定例として、
図15に示す測定例がある。
赤外線吸収分光装置用の成分同定装置及びその方法に対する本発明の適用分野として、被測定試料の有機化合物の成分同定がある。有機化合物のうちNylon系は、スペクトル形状が似ているため、その成分同定が困難である。しかし、本発明のうち、赤外線吸収分光装置用の成分同定装置及びその方法では、非負線形回帰演算と正準相関解析の関係について、直列型又は並列型に依らず、良い成分同定結果を得ている。
【0081】
評価した試料は、Nylon系試料であり、その成分と成分比を
図15の第二列と三列にまとめた。これらの試料のスペクトルが、式(1)などで言うところのy(ドット)となる。市販のライブラリ、本出願人にて測定したATRまたは透過スペクトルをまとめた256スペクトルをx(ドット)とする。そして前述のアルゴリズムの下で成分を予測した。
【0082】
その結果、正しく成分を予測できたものを「正」、予測できなかったものを「誤」と表記して、
図15の第四列目に並列処理型(P, Parallel processing prediction)、第五列目に直列処理型(T, Tandem processing prediction)の成績をまとめる。ここにまとめたように、並列処理型では85.7%、直列処理型では85.7%が正解した。
即ち、二種類の試料(Nylon6/Nylon12=0.5/0.5、ポリカーボネート(polycarbonate)/Nylon6=0.2/0.8)について予想が外れたが、それ以外のNylon系試料では正解している。それ以外の材料を含め、同様の試験測定を繰り返し、結果をまとめたものが
図15である。この表に示す通り、正答率は直列型・並列型とも86.7%であった。またNylon系を含む試料に限った正解率でも75%であった。
【0083】
他方で、市販のソフトウェアは、そもそも成分を自動で選ぶ機能がそろっていないため、単純な比較はできないが、
図15よりも緩い正誤判断基準を適用した場合、例えば「含まれる候補として挙げられた上位三成分の中に、正しい二成分が含まれている割合」は25%にとどまり、本発明のアルゴリズムの正答率が極めて高いことが明らかになった。
【0084】
比較例のソフトウェアの正解率が25%程度であることを考えると、きわめて良い性能が達成されたといえる。更に、本発明のアルゴリズムでは、成分数など本来分析者が知りえない情報や、サンプルの来歴から予想される混合物などを仮定していない点で、従来法の本質的改善を実現したと言える。
【0085】
以上、詳細に本発明を説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者に自明な範囲で適宜に実施できるものである。
例えば、本実施例においては、赤外線吸収分光装置で測定する被測定試料のスペクトルデータの場合を示したが、本発明は適用対象がこれに限定されるものではなく、被測定試料のスペクトルデータが測定できるものであれば、分光分析装置、電子線エネルギ損失分光装置(EELS)、エネルギ分散X線分光装置(EDX)を搭載した走査透過電子顕微鏡(STEM)でもよい。また、分光分析装置としては、赤外分光光度計、ラマン分光光度計、紫外可視分光光度計、紫外可視近赤外分光光度計、原子吸光分光光度計、又は分光蛍光光度計赤外線吸収分光装置などがある。