【課題】光軸の傾きやシフトの発生、非点収差といった影響を抑制しつつ、同じ光軸方向に伝搬する、それぞれ波長の異なる複数の光のうち、特定の波長の光を優先的に抽出する。
【解決手段】レーザー光源21から出射される第1光L1の一部を、第1光L1と光軸を同じくし、第1光L1と異なる波長を有する第2光L2に変換する波長変換部22と、波長変換部22から出射される第1光L1および第2光L2を、色収差によって光軸上の異なる焦点位置に集光する集光部23と、光軸上において集光部23と被照射物12との間に配置されるアパーチャ24とを備え、アパーチャ24は、少なくとも一部の第2光L2を通過させる開口部242と、少なくとも一部の第1光L1を遮光する遮光部241と、を有し、開口部242は、光軸と直交する面K1における第1光L1の径よりも面K1における第2光L2の径のほうが小さくなる位置に配置される。
【背景技術】
【0002】
短波長光により被照射物をアブレーション処理する際、レーザー光源から出射される基本波(励起光ともいう)を波長変換素子により第2高調波などの所望の短波長光に変換して用いている。この際、波長変換素子からは第2高調波のほか、第2高調波へ変換されなかった基本波もあわせて出射されるため、そのままでは被照射物へ短波長光(第2高調波)と長波長光(基本波)が照射されることになる。
【0003】
特許文献1では、集束レンズの色収差を利用して、被照射物に基本波の焦点位置を合致させて溶融加工を行うとともに、第2高調波の焦点位置を被照射物からはずして被照射物に照射することで広範囲に変質加工を行う技術が開示されている。
【0004】
特許文献1のように、基本波と第2高調波の双方を利用する技術がある一方で、処理内容によっては、基本波の照射により被照射物が溶融すると、第2高調波による処理に悪影響を及ぼす場合がある。
【0005】
例えば、第2高調波を用いたアブレーション処理では、被照射物の一部の表面を第2高調波により蒸発・分解する。これにより、被照射物における第2高調波の照射領域と非照射領域との間に鋭いエッジを有する凹凸構造を形成することができる。しかしながら、被照射物の表面に基本波による溶融が生じると、アブレーション処理で形成された凹凸構造のエッジが溶融により丸まり、所望のエッジ形状が得られない。
【0006】
このことから、波長変換素子から出射される基本波と第2高調波を分離する技術が用いられてきた。例えば、それぞれ異なる波長を有する複数の光を分離・抽出するために、プリズムやダイクロイックミラーなどの光学素子を用いる技術が知られている。
【0007】
例えば、特許文献2には、少なくとも一組の波長を空間的に分散する波長分散素子としてプリズムを用いる技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、ダイクロイックミラーを波長選択フィルターとして用いる技術が開示されている。具体的には、波長変換素子から出射された高調波に変換されない基本波の一部はダイクロイックミラーにより光源にフィードバックされ、高調波はダイクロイックミラーを透過して外部へ出射される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明に係る光学ユニットは、種々の装置に適用可能である。例えば、被照射物をレーザー光により加工するレーザー加工装置や、レーザー光により被照射物にパターンを描画するパターン描画装置、被照射物を露光する露光装置に対し、好適に適用可能である。
【0021】
代表的に、当該光学ユニットをレーザー加工装置に適用する場合について説明する。以下、
図1から
図7までを用いて、本願の第1実施形態に係る光学ユニット、レーザー加工装置および光抽出方法を説明する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、本願の光学ユニット11を組み込んだレーザー加工装置10の構成を模式的に示す図である。レーザー加工装置10は、加工対象となる被照射物12の表面にレーザー光を照射して、被照射物12の表面に化学的または/および物理的な変化を生じさせることにより、被照射物12を加工する装置である。被照射物12としては、種々の物質が用いられる。例えば、金属材料や、半導体材料が用いられる。
【0023】
光学ユニット11は、波長変換部22と、第1集光部23と、アパーチャ24とを有する。レーザー加工装置10は、光源部21と、光学ユニット11と、第2集光部25と、被照射物12を保持する保持部(図示省略)と、制御部9を有する。光源部21、波長変換部22、第1集光部23、アパーチャ24および第2集光部25は、この順番で、同じ光軸OAを基準に配置される。制御部9は、光源部21および波長変換部22と電気的に接続し、制御部9の動作指令により光源部21および波長変換部22が動作する。
【0024】
光源部21は、励起光(レーザー光)を放出するレーザー発振器を有する。制御部9の動作指令により、レーザー発振部が駆動する。レーザー発振部から放出された励起光は、光源部21から光軸OAに沿って出射し、波長変換部22に入射する。レーザー発振器としては、例えばNd:YAGレーザーなどの固体レーザーが用いられる。Nd:YAGレーザーを用いる場合、励起光の波長は例えば1064nmである。
【0025】
波長変換部22は、光源部21から出射された励起光の一部を、励起光とは異なる波長を有する光である第2光に変換する波長変換素子を有する。波長変換素子は、制御部9の動作指令により駆動し、入射した光の波長変換を行う。第2光は、励起光と同じ光軸である光軸OAに沿って伝搬する。波長変換部22からは、第2光および励起光が出射される。第1実施形態において、波長変換部22から出射される第2光は、励起光の第2高調波である。励起光の波長が1064nmのとき、第2光の波長は532nmであり、励起光と第2光は異なる波長を有する。また、波長変換部22から光軸OAに沿って出射される励起光は、波長変換部22によって第2光に変換されずに透過してきた光であり、波長変換部22に入射する前の励起光と同じ波長を有する。波長変換素子としては、例えば特開2012−145890号公報に開示される強誘電体結晶を利用した波長変換部が用いられる。
【0026】
なお、波長変換部22から出射される第2光としては、励起光の第2高調波に限られず、波長変換部22において複数の波長変換がなされて得られる第3高調波や、それ以上の高調波であってもよい。励起光の波長が1064nmのとき、第3高調波の波長は355nmである。したがって、第2光が第3高調波や、それ以上の高調波である場合にも、第2光は励起光と異なる波長を有する。
【0027】
また、波長変換部22は入射光を平行光線に変換するコリメート部を有する。波長変換部22から出射される励起光および第2光は、コリメート部により光軸OAに沿って伝搬する平行光線に変換され、波長変換部22から出射する。なお、本願の発明の実施においてはこれに限られず、波長変換部22がコリメート部を有さず、波長変換部22から放射状に励起光および第2光が出射されてもよい。
【0028】
第1集光部23は、波長変換部22から出射される励起光および第2光を、色収差によって光軸OA上の異なる焦点位置に集光する。ここで、
図2を参照して、第1集光部23による集光を説明する。
【0029】
図2は、本発明の第1実施形態に係る光学ユニット11における励起光と第2光の伝搬の様子を模式的に示す図である。第1集光部23は、凸レンズ231と凹レンズ232を組み合わせたレンズ組を有する。凸レンズ231は、光軸OA上にレンズの光軸中心が位置するように配置される。凹レンズ232は、光軸OA方向において凸レンズ231よりもアパーチャ24側に、凸レンズ231と密に接するように配置される。また、凹レンズ232は、光軸OA上にレンズの光軸中心が位置するように配置される。凸レンズ231および凹レンズ232を1つの集光レンズとみなしたときの光軸OA上の中心が、
図2における光軸中心P0である。
【0030】
凸レンズ231および凹レンズ232を組み合わせたレンズ組は、凸レンズとして作用するように設計される。すなわち、式(1)で示すように、凸レンズ231のパワーφ1(ここで、φ1>0)と凹レンズ232のパワーφ2(ここで、φ2<0)の和で表されるレンズ組のパワーφが、0より大きくなるように設計される。
φ1+φ2=φ>0 … 式(1)
【0031】
この設計により、レンズ組は凸レンズとして作用し、上流側から入射した入射光を、下流側の光軸OA上に集光させることができる。
【0032】
ここで、第1集光部23のように複数のレンズを組み合わせる場合、通常、色消し条件(光軸上の色収差を無くすための条件)を満たすように設計される。すなわち、光軸方向上流側のレンズ(凸レンズ231)のアッベ数ν1と、光軸方向下流側のレンズ(凹レンズ232)のアッベ数ν2とが、下記の式(2)を充足するように、アッベ数ν1とアッベ数ν2を選んで、レンズを設計する。
φ1/ν1+φ2/ν2=0 … 式(2)
【0033】
しかし、本願発明では、あえて第1集光部23により光軸上の色収差を生じさせて、光軸上の異なる位置に励起光と第2光とを集光させる。そして、第1集光部23の光軸方向後段に配置されるアパーチャ24を励起光と比べ第2光がより多く通過するように配置することで、励起光および第2光から第2光を有意に抽出する。
【0034】
第1集光部23により光軸上の色収差を生じさせるためには、式(2)を満たさないアッベ数の組み合わせで、凸レンズ231と凹レンズ232とを設計すればよい。特に、凸レンズ231のアッベ数ν1よりも凹レンズ232のアッベ数ν2が大きくなるようにレンズを設計すると、色収差がより大きく生じるため、好適である。すなわち、式(3)および式(4)を満たす条件で、凸レンズ231と凹レンズ232を設計することが好適である。
ν1<ν2 … 式(3)
φ1/ν1+φ2/ν2>0 … 式(4)
【0035】
具体的には、例えば凸レンズ231の硝材として、アッベ数が55以下、より好ましくは50以下のフリントガラスを用いる。また、例えば凹レンズ232の硝材として、アッベ数が50以上、より好ましくは55以上のクラウンガラスを用いる。なお、式(3)および式(4)を満たす条件であればこれに限られず、凸レンズ231および凹レンズ232がともにフリントガラスであっても、クラウンガラスであってもよい。本願発明の第1実施形態においては、凸レンズ231としてアッベ数約36のフリントガラスを、凹レンズ232としてアッベ数約63のクラウンガラスを用いる。
【0036】
このように構成することで、第1集光部23では色収差が生じる。すなわち、波長の異なる光が、光軸上においてそれぞれ異なる焦点位置に集光される。
図2に示すように、励起光L1は第1集光部23により焦点位置P1に集光され、第2光L2は第1集光部23により焦点位置P2に集光される。励起光L1よりも第2光L2のほうが波長が短いため、第1集光部23において屈折が強く生じる結果、焦点位置P1よりも焦点位置P2のほうが光軸OA上において第1集光部23に近い位置となる。
【0037】
また、第1実施形態では凸レンズ231のアッベ数ν1よりも凹レンズ232のアッベ数ν2のほうが大きいため、焦点位置P1と焦点位置P2の距離を大きくすることができる。これにより、後述するアパーチャ24による光抽出をより好適に行うことができる。
【0038】
また、第1実施形態において、第1集光部23では色収差を有意に発生させるが、主な5種類の単色収差(ザイデルの5収差ともいう)は発生させないように設計する。
【0039】
なお、本願発明の実施においてはこれに限られず、焦点位置P1と焦点位置P2とが光軸OA上で異なる位置にあれば、式(3)や式(4)を満たす必要はない。
【0040】
また、第1実施形態では、光軸OAにおける励起光および第2光の伝搬方向上流側に凸レンズ231が、下流側に凹レンズ232が位置する。しかしながら、本願発明の実施においてはこれに限られず、レンズ組として上流側に凹レンズを配置し、下流側に凸レンズを配置する構成としてもよい。この場合にも、レンズ組が式(1)を満たすように設計されていれば、レンズ組は凸レンズとして作用し、式(3)および式(4)を満たすように設計されていれば、色収差がより大きく生じるため、焦点位置P1と焦点位置P2の距離をより離すことができ、好適である。
【0041】
アパーチャ24は、光軸OA上において第1集光部23と被照射物12との間に配置される。アパーチャ24は、遮光部241と開口部242を有する。遮光部241は、少なくとも励起光L1に対し遮光性を有する部材により構成される。すなわち、励起光L1の透過率が理想的には0である部材により構成される。第1実施形態における遮光部241の部材は、表面が黒色処理されたアルミニウムである。
【0042】
なお、本願発明の実施においてはこれに限られず、遮光部241が励起光L1に対し有限の透過率を有する部材であってもよい。励起光L1の一部が遮光部241により遮光できればよく、例えば励起光L1に対する透過率が10%の部材により構成されてもよい。
【0043】
開口部242は、アパーチャ24のうち、光軸OAに沿って伝搬する励起光L1および第2光L2の光束の中心に相当する位置に設けられる開口である。すなわち、開口部242の中心は、光軸OAの中心と一致する。開口部242を通過する励起光L1および第2光L2は、遮光部241により遮光されることなく、そのまま通過する。
【0044】
図3は、
図2において、アパーチャ24の開口部242の中心を通り光軸OAと直交する面K1を矢印A1方向から見たときのアパーチャ24を模式的に示した平面図である。アパーチャ24は、矢印A1方向から見ると、円形の遮光部241の中心に、円形の開口部242を有する構成となっている。
【0045】
図3に示すように、アパーチャ24は、遮光部241を冷却する冷却部26を有する。冷却部26は、冷却液を貯留する冷却液貯留部261と、冷却液貯留部261から冷却液を輸送する配管262とを有する。配管262は、一端を冷却液貯留部261の出液口と接続し、遮光部241の内部を通って、他端を冷却液貯留部261の入液口と接続する。
【0046】
冷却液貯留部261は、図示省略する冷却手段により冷却液を冷却し、図示省略するポンプにより冷却液を出液口から配管262へ送る。冷却液は遮光部241の内部に設けられた配管262を通るあいだ、遮光部241の熱を冷却液に伝導させることで遮光部241を冷却する。冷却液としては、例えば水が用いられ、遮光部241は例えば摂氏20度〜25度程度に冷却される。
【0047】
後述するように、光抽出作用において遮光部241には励起光L1の一部が照射される。励起光L1のエネルギーにより、遮光部241は加熱され、その温度が室温(摂氏25度)よりも高くなる。遮光部241の温度が上がると、遮光部241自体の劣化や、熱伝導により光学ユニット11の他の部分への悪影響のおそれがある。冷却部26により遮光部241を冷却することで、これらの影響を抑制することができる。
【0048】
なお、第1実施形態では冷却部26として冷却液による液冷の構成を用いるが、本願発明の実施においてはこれに限られず、冷却部26として空冷の構成を用いてもよい。例えば、アルミニウム製のヒートシンクを遮光部241に接着させてもよい。
【0049】
次に、アパーチャ24を配置する位置について、
図4、
図5および
図6を用いて説明する。
図4は、アパーチャ24における励起光L1と第2光L2の光径の関係を模式的に示す図である。
図4において、アパーチャ24は、
図3と同様に
図2の矢印A1から見たときの平面図として示されている。
図5および
図6は、
図2において、アパーチャ24の配置位置と励起光L1の焦点位置P1との関係を示す図である。
【0050】
ここで、
図2においてレンズの光軸中心P0を通り光軸OAと直交する面を面K0としている。
図5は、焦点位置P1が面K1よりも被照射物12側のときの励起光L1の光路を模式的に示す図であり、
図6は、焦点位置P1が面K1よりも第1集光部23側のときの励起光L1の光路を模式的に示す図である。
【0051】
図4を参照する。面K1において、励起光L1の光束は円S1の形状に投影され、その半径はd1である。面K1において、第2光L2の光束は円S2の形状に投影され、その半径はd2である。また、d3は、面K1における開口部242の半径であり、C1は開口部242の中心である。第1実施形態において、アパーチャ24の開口部242は、励起光L1の径d1よりも第2光L2の径d2のほうが小さくなる位置に配置される。すなわち、式(5)を満たす位置に、開口部242が配置される。
d2<d1 … 式(5)
【0052】
また、第1実施形態において、開口部242の径d3は、励起光L1の径d1よりも小さい。すなわち、開口部242の径d3は、式(6)を満たすように設けられる。
d3<d1 … 式(6)
【0053】
ここで、第1実施形態におけるアパーチャ24による第2光L2の抽出作用について説明する。
【0054】
式(5)を満たすため、第2光L2の光束のほうが、励起光L1の光束よりも集光している位置に面K1が位置する。この位置において、少なくとも一部の第2光L2の光束(
図4では全ての光束)が開口部242を通過する。また、励起光L1の一部の光束も開口部242を通過する。
【0055】
また、式(6)を満たすため、励起光L1の光束のうち、径d3よりも大きい部分は、遮光部241により遮光される。
【0056】
図4に示す円S1および円S2の光束において、円S1に含まれる励起光L1の光強度の総和をW1、円S2に含まれる第2光L2の光強度の総和をW2とする。また、光強度の分布が円の中心と円の周縁部とでほぼ等しいと仮定する。アパーチャ24通過前の励起光L1の光強度(より詳しくは、光束に含まれる光強度の総和。以下、単に「光強度」という)に対する第2光L2の光強度の割合は、W2/W1となる。
【0057】
ここで、アパーチャ24通過前の第2光L2の光強度とアパーチャ24通過後の第2光L2の光強度の比は、d3がd2よりも小さい場合は(d3/d2)の2乗になり、d3がd2以上の場合は1となる。
【0058】
これに対し、アパーチャ24通過前の励起光L1の光強度とアパーチャ24通過後の励起光L1の光強度の比は、少なくとも一部が遮光部241に遮光されることで、(d3/d1)の2乗となる。
【0059】
以上より、アパーチャ24通過後の励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合は、d3がd2よりも小さい場合は、{W2(d3/d2)^2}/{W1(d3/d1)^2}となり、整理すると(W2/W1)・(d1/d2)^2と表せられる。そして、式(5)よりd1のほうがd2よりも大きいため、励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合はアパーチャ24の通過後のほうが大きくなる。このため、アパーチャ24により、光軸を同じくして伝搬する励起光L1および第2光L2から、第2光L2を有意に抽出することができる。
【0060】
また、アパーチャ24通過後の励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合は、d3がd2以上の場合は、W2/{W1(d3/d1)^2}となり、整理すると(W2/W1)・(d1/d3)^2と表せられる。そして、式(6)よりd1のほうがd3よりも大きいため、励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合はアパーチャ24の通過後のほうが大きくなる。このため、アパーチャ24により、光軸を同じくして伝搬する励起光L1および第2光L2から、第2光L2を有意に抽出することができる。
【0061】
また、第1実施形態において、開口部242の径d3は、第2光L2の径d2よりも大きい。このため、第2光L2の光束はすべて開口部242を通過し、遮光部241に遮られることがない。すなわち、アパーチャ24を通過する際の第2光L2の損失は、理想的には0であり、100%透過する。このため、光軸を同じくして伝搬する励起光L1および第2光L2から、より好適に第2光L2を抽出することができる。
【0062】
また、第1実施形態において、遮光部241の径は、励起光L1の径d1よりも大きい。このため、励起光L1の光束のうち、光軸OAから見て周縁部側に位置する光束は、遮光部241によりすべて遮光される。このため、励起光L1が遮光部241の外径よりも外側から被照射物12側へ伝搬することを防止でき、より好適に第2光L2を抽出することができる。
【0063】
なお、
図4に示す円S1および円S2の光束において、実際には、光強度は円の中心に近いほど高く、円の周縁部に近いほど低いことが一般的である。このため、仮に円S1が遮光部241の径よりも大きくなり、励起光L1の光束の一部が遮光部の外径よりも外側から被照射物12側へ伝搬することがあっても、その光束に含まれる光強度はわずかであるから、この場合にも、光軸を同じくして伝搬する励起光L1および第2光L2から、第2光L2を有意に抽出することができる。
【0064】
すなわち、式(5)および式(6)を満たしていれば、光軸を同じくして伝搬する励起光L1および第2光L2から、第2光L2を抽出する目的を達成することができる。
【0065】
図5および
図6を参照し、アパーチャ24の配置位置についてより詳しく説明する。
図5において、f1は励起光L1の第1集光部23における焦点距離(すなわちレンズの光軸中心P0から焦点位置P1までの距離)であり、d0はレンズの光軸中心P0からアパーチャ24の中心(すなわち面K1と光軸OAの交点)までの距離であり、θ1は焦点位置P1における励起光L1の光束の輪郭が光軸OAに対してなす劣角の角度である。
【0066】
図5は、焦点位置P1が面K1よりも被照射物12側のときの励起光L1の光路を模式的に示す図である。すなわち、f1>d0のときの図である。ここで、径d1に関し、式(7)が成立する。
d1=(f1−d0)sinθ1 … 式(7)
【0067】
また、
図5と同様に、焦点位置P2が面K1よりも被照射物12側のとき(すなわちf2>d0のとき)、第2光L2の径d2に関しては、式(8)が成立する。
d2=(f2−d0)sinθ2 … 式(8)
【0068】
ここで、f2は第2光L2の第1集光部23における焦点距離(すなわちレンズの光軸中心P0から焦点位置P2までの距離)であり、θ2は焦点位置P2における第2光L2の光束の輪郭が光軸OAに対してなす劣角の角度である。
【0069】
図6は、焦点位置P1が面K1よりも第1集光部23側のときの励起光L1の光路を模式的に示す図である。すなわち、f1<d0のときの図である。ここで、径d1に関し、式(9)が成立する。
d1=(d0−f1)sinθ1 … 式(9)
【0070】
同様に、焦点位置P2が面K1よりも第1集光部23側のとき(すなわちf2<d0のとき)、第2光L2の径d2に関しては、式(10)が成立する。
d2=(d0−f2)sinθ2 … 式(10)
【0071】
そして、面K1に焦点位置P1が位置するとき、すなわちf1=d0であるときには、面K1における径d1は理想的には0となる。また、面K2に焦点位置P2が位置するとき、すなわちf2=d0であるときには、面K2における径d2は理想的には0となる。
【0072】
以上より、以下の式(11)および式(12)が求められる。
d1=|f1−d0|sinθ1 … 式(11)
d2=|f2−d0|sinθ2 … 式(12)
【0073】
式(11)および式(12)において、焦点距離f1、焦点距離f2、角度θ1および角度θ2は、アパーチャ24よりも上流側の光学系により決まる。すなわち、第1集光部23等の光学系により決まる。したがって、第1集光部23等を適宜設計すれば、式(11)や式(12)においてアパーチャ24の配置位置としての距離d0以外の値が決まる。よって、第1集光部23等の設計にあわせて、アパーチャ24の配置位置としての距離d0を、式(5)を満たすように設計すればよい。
【0074】
図1を参照する。第2集光部25は、光軸OA上においてアパーチャ24と被照射物12との間に配置される。第2集光部25は、アパーチャ24を通過した励起光L1および第2光L2を被照射物12側で集光する。第2集光部25は、第1実施形態では1つの凸レンズにより構成される。
【0075】
なお、第2集光部25の構成としては、1つの凸レンズに限られず、励起光L1および第2光L2を被照射物12側で集光する構成であれば、複数のレンズの組み合わせであるレンズ組であってもよい。
【0076】
被照射物12は、第2集光部25の出射側の焦点位置に被照射面が位置するように、保持部により保持される。
【0077】
図7は、
図1に示す光学ユニット11およびこれを搭載するレーザー加工装置10により実行される光抽出方法の各工程を示すフローチャートである。
図1、
図2および
図7を参照しながら、本願発明に係る光抽出方法について説明する。
【0078】
レーザー加工装置10において、図示省略する保持部に被照射物12を保持させたあと、光抽出方法が実行される。まず、光源部21から励起光L1が出射される(第1光出射工程S11)。光源部21からの励起光L1の出射は、本実施形態では制御部9が光源部21に動作指令を送ることで実行されるが、本発明の実施に関してはこれに限られず、オペレータが光源部21を直接操作することで実行されてもよい。光源部21から出射した励起光L1は、波長変換部22に入射する。
【0079】
次に、波長変換部22が、入射した励起光L1を、励起光L1と光軸を同じくし、励起光と異なる波長を有する第2光L2に変換する(波長変換工程S12)。波長変換部22からは、変換後の第2光L2および変換されずに波長変換部22を透過した励起光L1が出射される。波長変換部22から出射した励起光L1および第2光L2は、第1集光部23に入射する。
【0080】
次に、第1集光部23が、入射した励起光L1および第2光L2を、色収差によって光軸上の異なる焦点位置(励起光L1は焦点位置P1、第2光L2は焦点位置P2)に集光する(集光工程S13)。
【0081】
次に、アパーチャ24において、遮光部241が、第1集光部23から出射された励起光L1の一部を遮光し、開口部242が、第1集光部23から出射された第2光L2を被照射物12側へ通過させる(光抽出工程S14)。ここで、アパーチャ24は、
図4および前述の説明のとおり、式(5)および式(6)を満たす位置に配置される。これにより、開口部242の通過前の励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合よりも、開口部242の通過後の励起光L1の光強度に対する第2光L2の光強度の割合のほうが大きくなる。アパーチャ24を通過した励起光L1および第2光L2は、第2集光部25に入射する。
【0082】
最後に、第2集光部25が、入射した励起光L1および第2光L2を、被照射物12の被照射面へ集光することで、被照射物12に励起光L1および第2光L2を照射する(照射工程S15)。以上の工程により、光抽出方法が実行される。
【0083】
<第1実施例>
本願発明の第1実施形態に関する第1実施例を説明する。第1実施例では、凸レンズ231として硝材にSCHOTT社製N−F2(アッベ数36.43、厚み4mm)を使用し、凹レンズ232として硝材にSCHOTT社製N−PSK53A(アッベ数63.48、厚み2.8mm)を使用した。第2光L2の焦点距離を100mmに設計したところ、励起光L1の焦点距離は106mmとなり、光軸上において6mmの色収差が生じた。
【0084】
アパーチャ24を第2光L2の焦点位置に配置したところ、アパーチャ24の面K1において励起光L1の半径d1は約200um(マイクロメートル)となり、第2光L2の半径d2は約6umであった。第1実施例では、アパーチャ24の開口部242の半径d3として8umを採用した。
【0085】
第2光L2は、d2<d3であるため、すべての光が開口部242を通過する。これに対し、第1光L1のうち開口部242を通過することができる光の面積の割合は、(d3/d1)^2=(8/200)^2=1/625であり、すなわち625分の1になる。このため、例えば50%の波長変換効率(W1=W2)の場合、2桁以上もの高い消光比での光抽出が可能である。さらに、第2光L2の抽出において、開口部242は単なる開口であり、ミラーやプリズムなどを用いていないことから、光軸の傾きシフトの発生、非点収差といった影響や、波面の乱れを抑制しつつ、光抽出を行うことができる。