【実施例1】
【0042】
本発明は、例えば
図7のDCDCコンバータに適用されるものであり、
図1に、
図7の制御装置100が行う、本実施例1による改良型定電圧フィードバック制御の制御ブロックを示す。
【0043】
図1では、
図7のDCDCコンバータの非絶縁型DC24Vの出力回路(K24)に対する制御のみを示すが、
図7の絶縁型DC24Vの出力回路(J24)および非絶縁型DC20Vの出力回路(K20)に対しても同様の制御が行われる。
【0044】
図1において
図8と同一部分は同一符号をもって示している。減算器11では、
図7のADコンバータ101に取り込まれる非絶縁型DC24Vの出力回路の出力電圧VK24(Vout)と、設定した出力電圧目標値(=24V)との偏差がとられ、その偏差(E(s))に対して、比例項12の比例ゲインKpおよび積分項13の積分ゲインKi/sが各々乗算される。
【0045】
前記2つの乗算出力は加算器14で加算され、その加算出力に所定の係数Aを乗ずることで演算回路15が誤差デューティ値(誤差フィードバック演算結果)ΔDutyを演算する。
【0046】
これら減算器11、比例項12、積分項13、加算器14および演算回路15によって本発明の第1のデューティ値演算部が構成される。
【0047】
本実施例1ではさらに、
図7のバッテリ1の入力電圧値VBinをADコンバータ101から入力し、演算回路25において出力電圧目標値R(s)(=VK24=24V)との比(=R(s)/VBin)から、基本となるスイッチング素子(FET)のPWMスイッチングDuty(ベースDuty)(基本デューティ値)を演算する。
【0048】
前記演算回路15から出力される誤差デューティ値ΔDutyと演算回路25から出力されるベースDutyは加算器28において加算され、加算後のデューティ値Duty1が出力される。
【0049】
前記演算回路25および加算器28によって本発明の第2のデューティ値演算部が構成される。
【0050】
26は、加算器28から出力される加算後のデューティ値Duty1に対して制限(リミット処理)を施すリミッタ17に、クッション性能を持たせるクッション処理部である。このクッション処理部26は、DCDCコンバータが起動したことを検出した信号が入力され、起動後の設定時間は比例上昇し、前記設定時間経過後に固定値となるリミット係数を出力するものであり、そのクッション処理の動作を、リミット係数の特性を示す
図2とともに述べる。
【0051】
図2において、DCDCコンバータがt=0で起動し、起動後の時間tとともにリミット係数を比例上昇させる。そしてt=T1でリミット係数が所定値Aに到達したら、その後のリミット係数は所定値Aに固定する。所定値Aは、0.5〜1の任意の値に設定する。
【0052】
上記のクッション処理部26で定めたリミット係数と前述の加算後のDuty1をリミッタ17に入力して、リミッタ17で制限をかけることで、リミット処理後のデューティ値Duty2が演算される。そしてリミット処理後のデューティ値Duty2に基づいて、
図7のスイッチング素子TR22のゲート信号のデューティ比が決定される。
【0053】
例えば、クッション処理部26が出力するリミット係数=0.5(=50%)でDuty1=60%の場合、リミッタ17の処理によってDuty2=50%に制限される。
【0054】
次に、
図7の各スイッチング素子のゲート信号(オンオフ指令信号)の生成方法(ゲート回路104a〜104dのゲート信号生成方法)を説明する。
図7の絶縁型DC24Vの出力回路(J24)は、スイッチング素子TR8〜TR11からなる単相フリブリッジ回路を備えている。スイッチング素子TR8〜TR11には、次の表1に示すスイッチングパターンがある。
【0055】
【表1】
【0056】
表1のパターン1、2のときに、
図7の出力回路J24のトランスTF2への電圧印加がある。よって、
図1のリミット処理後のデューティ値Duty2に対して、(T1+T2)/(T1+T2+T3+T4)=Duty2を満足するように、スイッチング素子TR8〜TR11のゲート信号を定める。
【0057】
また、
図7の非絶縁型DC24V又はDC20Vの出力回路(K24又はK20)は、スイッチング素子TR22又はTR27のオン期間のDuty=Duty2となるように、スイッチング素子TR22又はTR27のゲート信号を定める。
【0058】
上記のように構成された制御装置において、バッテリ入力電圧:VBin、出力電圧目標値:VK24、とすると、基本となるFET(スイッチング素子)のPWMスイッチングDuty(ベースDuty)は以下の式で決定される。
【0059】
ベースDuty=VK24/VBin
例えばバッテリ入力電圧=108V、出力電圧目標値=24Vの場合、DutyはDuty=24V/108V=22.2%となる。さらに、出力電圧目標値とAD変換した出力電圧値との差分をPI制御演算することによって誤差デューティ値=ΔDutyが演算され、加算器28において、ΔDutyがベースDutyに対して加算・減算されて、クッション・リミット処理前のDuty1が出力される。
【0060】
以下に、200μsec毎にこの電圧フィードバック制御を繰り返しているとき(制御周期=200μsecのとき)の、従来方式および本発明の方式の各々の場合での動作を説明する。
【0061】
[従来方式のDCDCコンバータ定電圧フィードバック制御の場合(
図8)]
図7のバッテリ入力電圧値VBinが急変した場合(例として、108Vから60Vに変動したとする)を考える。制御は、200μsec毎しかPWMスイッチングDutyを変化させる事ができないため、バッテリ入力電圧値VBinの急変から所定時間(最長200μsec)は、Duty=24V/108V=22.2%で固定されているために、出力電圧Voutは、VBin×Duty=60V×22.2%=13.32Vに向かって急変してしまう。
【0062】
この変動を防止するために、誤差フィードバック制御があるが、この制御は
図8に示すような積分項13(Ki/s)を含むPI制御であるため、出力電圧フィードバック値が変化してから徐々に誤差デューティ値ΔDutyを加算していく。そのため、出力電圧Voutが出力電圧目標値に回復するまでの遅れ時間が大きい。
【0063】
この電圧変化を低減させる事ができるのは、出力側の電圧平滑コンデンサ(非絶縁型DC24Vの出力回路K24ではC143)の電荷エネルギーの放電のみのため、電圧平滑コンデンサの静電容量を大きくしない限り、すぐに出力電圧Voutは低下してしまう。
【0064】
逆にバッテリ入力電圧VBinが急激に高くなった場合は、同様の動作によって、出力電圧Voutは著しく上昇する事になる。
【0065】
[本発明の定電圧フィードバック制御の場合(
図1)]
前記と同様にバッテリ入力電圧値が変動した場合、制御周期インターバル間(最長200μsec)は、前述のとおり制御によるDutyの修正はできないが、次に制御周期でのバッテリ入力電圧値変動を検出した後は、バッテリ入力電圧値を基にしたDuty値(
図1のベースDuty)が以下のように再計算される。
【0066】
(108V→60Vへ急変時) 再計算Duty=Duty=VK24/VBin=24V/60V=(22.2%→)40%となる。
【0067】
そのため、誤差を基にしたフィードバック演算結果ΔDutyのみでDutyを演算する従来方式よりも、著しく応答性が改善される。
【0068】
図3に、バッテリ入力電圧がΔ20V変動した条件においての、従来方法および本発明による出力電圧応答の実験結果を示す。
図3は
図7の非絶縁型DC20Vの出力回路(K20)における電圧波形を示し、従来方法では、バッテリ入力電圧変動時の出力電圧変動がΔ7Vあった。それに対して本発明では、バッテリ入力電圧変動時の出力電圧変動がΔ3Vと抑制されている。
【0069】
以上のように、本実施例1によれば、次のような効果が得られる。
(1)急激な入力電圧変動が発生しても、制御によって出力電圧変動が抑えられる。
(2)追加使用するバッテリ入力電圧検出値は、既存の制御(DCDCコンバータの出力電圧制御以外の制御)で使用するケースが多い。そのケースでは追加するハードウェアは不要である(従来方式に対する変更は、ソフトウェアのみでよい)。つまり、本発明によるDCDCコンバータやバッテリフォークリフト等の搭載機器のサイズやコストのアップは伴わない。
(3)高速処理ができない安価なマイクロコンピュータでの複数電源出力制御が実現可能となる。
【0070】
尚、本実施例1は、
図7のような3出力回路構成に限らず、
図7以外の複数の出力回路構成にも適用でき、また1出力構成のDCDCコンバータにも適用できる。
【実施例2】
【0071】
実施例1では、DCDCコンバータの制御装置を、バッテリ入力電圧の急変動時に出力電圧を安定化させる構成としたが、本実施例2では、さらに、負荷電流の急変動時にも出力電圧を安定化させるように構成した。
【0072】
本実施例2は、例えば
図7のDCDCコンバータに適用されるものであり、
図4に、
図7の制御装置100が行う、本実施例2による改良型定電圧フィードバック制御の制御ブロックを示す。
【0073】
図4では、
図7のDCDCコンバータの非絶縁型DC24Vの出力回路(K24)に対する制御のみを示すが、
図7の絶縁型DC24Vの出力回路(J24)および非絶縁型DC20Vの出力回路(K20)に対しても同様の制御が行われる。
【0074】
図4において
図1と同一部分は同一符号をもって示している。
図4(a)は制御ブロックの全体構成を示し、
図4(b)は、本発明のパラメータ値変更部を構成する
図4(a)のデューティ値変更部30およびゲイン変更部40が行う処理のフローチャートを示している。
【0075】
尚、
図4では、比例項12の通常の比例ゲインをKp0とし、積分項13の通常の積分ゲインをKi0としている。
【0076】
図4の制御ブロックでは、AD変換した出力電圧値Vout(この例では
図7の非絶縁型DC24Vの出力電圧VK24)を制御周期毎に
図7の制御装置100のマイクロコンピュータに入力し、設定した出力電圧目標値R(s)(=24V)と出力電圧値の誤差E(s)に基づいて、強制的に半導体スイッチング素子(FET)のスイッチング動作を停止させるか、もしくは逆にPI制御演算結果(誤差デューティ値ΔDuty)を大きくするために、比例ゲインKp、積分ゲインKiを大きなものに入れ替えて演算する等の処理を行う。
【0077】
前記強制的な半導体スイッチング素子のスイッチング動作の停止処理は、リミッタ17の出力側に設けたデューティ値変更部30が行い、比例ゲインKp、積分ゲインKiの入れ替え演算の処理はゲイン変更部40が行うものであり、例えば
図7の制御装置100のマイクロコンピュータにより、
図4(b)のステップS1〜S6のフローチャートに沿って実行される。その他の部分は
図1と同様に動作する。
【0078】
まずステップS1において、クッション処理部26の起動時クッション時間が完了したか否かを判定し、完了した場合にステップS2〜S6の処理を行う。すなわち、クッション処理部26では起動後の設定時間(
図2のt=0〜T1の間)比例上昇するリミット係数を出力しており、この起動時クッション時間が完了してリミット係数が一定となったときのみステップS2〜S6の処理を行うものである。
【0079】
ステップS2では、出力電圧値Voutが出力電圧目標値R(s)の90%(第1の設定電圧)未満となったか否かを判定し、90%未満となった場合、ゲイン変更部40はステップS3において比例ゲイン、積分ゲインを通常の数値Kp0,Ki0から、より大きなゲインKp1,Ki1に入れ替える。これによって、誤差デューティ値ΔDutyおよびリミット処理後のデューティ値Duty2を、より早く大きくし、出力電圧の過渡的な低下を最小限に抑えることができる。
【0080】
ステップS2において、出力電圧Voutが出力電圧目標値R(s)の90%未満になっていないと判定された場合、ゲイン変更部40はステップS4において比例ゲイン、積分ゲインを通常の数値Kp0,Ki0とする。
【0081】
前記ステップS2〜S4における比例ゲインKp、積分ゲインKiの入れ替え(変更)の様子は
図5(b)のとおりである。
【0082】
その後ステップS5では、出力電圧値Voutが出力電圧目標値R(s)の120%(第2の設定電圧)以上となったか否かを判定し、120%以上となった場合、デューティ値変更部30はステップS6においてリミット処理後のデューティ値Duty2を強制的に0%とする。これによって、
図7の非絶縁型DC24V側の回路のスイッチング素子TR22のゲート信号がオフ指令となり、強制的に一次側(バッテリ1側)からのエネルギー供給が停止される。
【0083】
ステップS5において、出力電圧値Voutが出力電圧目標値R(s)の120%以上になっていないと判定された場合は、ステップS6のDuty2=0%の強制操作は解除され、通常のPI制御演算によるDuty2に戻る。
【0084】
前記ステップS5、S6におけるDuty2の値の遷移の様子は
図5(a)のとおりである。
【0085】
前記ステップS1、S5の判定結果がNoの場合と、ステップS3、S6の処理後は、各々ステップS1の処理に戻る。
【0086】
尚、前記ステップS2の判定に用いる第1の設定電圧は、出力電圧目標値R(s)の90%に限らず、出力電圧目標値R(s)の100%未満の値であればよい。またステップS5の判定に用いる第2の設定電圧は、出力電圧目標値R(s)の120%に限らず、出力電圧目標値R(s)の100%を超える値であればよい。
【0087】
次に200μsec毎に電圧フィードバック制御を繰り返しているとき(制御周期=200μsecのとき)の、従来方式および本発明の方式の各々の場合での動作を説明する。
【0088】
[従来方式のDCDCコンバータ定電圧フィードバック制御の場合(
図8)]
突然
図7のDCDCコンバータの負荷電流が大きくなった場合、スイッチング素子(FET)のPWMDutyは所定時間(最長200μsec)では一定のため、過渡的なエネルギーは、出力側に接続している電解コンデンサC143の電荷の放電によって電圧を維持しようと動作する。そして放電された電荷は、一次側(バッテリ1)からスイッチング素子(TR22)のスイッチングによってエネルギーを補給する必要がある。
【0089】
大きな負荷電流(エネルギー)が流れ出した場合(例として0%から100負荷に変動したとする)は、制御は、200μsec毎しかPWMスイッチングDutyを変化させる事ができないため、負荷電流が急変(上昇)した場合は、最長200μsec期間Dutyが固定されているため、出力電圧は急激に低下してしまう。
【0090】
この変動を抑制するために、誤差フィードバック制御があるが、この制御は
図8に示すような積分項13(Ki/s)を含むPI制御であるため、出力電圧フィードバック値が変化してから徐々に誤差デューティ値ΔDutyを加算していく。そのため、出力電圧が元の定電圧値に回復するまでの遅れ時間が大きい。
【0091】
この電圧変化を低減させる事ができるのは、出力側の電圧平滑コンデンサ(非絶縁型DC24Vの出力回路K24ではC143)の電荷エネルギーの放電のみのため、出力側の電圧平滑コンデンサの静電容量を大きくしない限り、すぐに出力電圧は低下してしまう。
【0092】
逆に負荷電流が急激に減少した場合は、同様の動作によって、出力電圧は著しく上昇する事になる。
【0093】
[本発明の定電圧フィードバック制御の場合(
図1)]
前記と同様に負荷電流が急に大きくなった場合、制御周期インターバル間(最長200μsec)は、前述のとおり制御によるΔDutyの修正はできないが、出力電圧値Voutが目標値の90%未満の値になったときには、ステップS3のように比例ゲイン・積分ゲインを通常の数値Kp0,Ki0から、より大きなゲインKp1,Ki1に入れ替えることで、
図4の誤差デューティ値ΔDutyおよびリミット処理後のデューティ値Duty2をより早く大きくし、出力電圧の過渡的な低下を最小限に抑える。
【0094】
逆に負荷電流が急激に減少した場合では
図4のΔDutyおよびDuty2を低下させることができないため、スイッチング素子(FET)のスイッチングDutyに応じたエネルギーが一次側のバッテリ1から供給継続され、二次側出力側に接続されている電解コンデンサ(
図7のC143)の電荷として充電されVoutが上昇する。
【0095】
制御周期毎に出力電圧値Voutをサンプリングしていて、負荷電流の減少により、出力電圧値Voutが出力電圧目標値の120%以上の値になったときには、ステップS6のように、リミット処理後のDuty2を0%として強制的に一次側からのエネルギー供給を停止させる。
【0096】
また、出力電圧値Voutが、出力電圧目標値からある一定の範囲内に収まれば、Duty2=0%の強制操作を解除して、通常のPI制御演算によるDuty2に戻る。
【0097】
図6に、負荷電流が14A低下した条件においての、従来方法および本発明による出力電圧応答の実験結果を示す。
図6は
図7の絶縁型DC24Vの出力回路(J24)における電圧波形を表す。
図6下段は
図6上段の時間軸の拡大波形である。
【0098】
図6下段の場合、従来方法では負荷電流急変動時の出力電圧変動がΔ9.3Vであるのに対し、本発明では負荷電流急変動時の出力電圧変動がΔ5Vに抑制されている。
【0099】
以上のように、本実施例2によれば、次のような効果が得られる。
(1)急激な負荷電流変動が発生しても、制御によって出力電圧変動が抑えられる。
(2)追加使用するバッテリ電圧検出値は、既存の制御(DCDCコンバータの出力電圧制御以外の制御)で使用するケースが多い。そのケースでは追加するハードウェアは不要である(従来方式に対する変更は、ソフトウェアのみでよい)。つまり、本発明によるDCDCコンバータやバッテリフォークリフト等の搭載機器のサイズやコストのアップは伴わない。
(3)高速処理ができない安価なマイクロコンピュータでの複数電源出力制御が実現可能となる。
【0100】
尚、本実施例2は、
図7のような3出力回路構成に限らず、
図7以外の複数の出力回路構成にも適用でき、また1出力構成のDCDCコンバータにも適用できる。