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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-202786(P2020-202786A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20201127BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20201127BHJP
【FI】
   C12N1/12 A
   C12P1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-112364(P2019-112364)
(22)【出願日】2019年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】藍川 晋平
(72)【発明者】
【氏名】小杉 昭彦
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AH19
4B064CA01
4B064CA08
4B064CD24
4B064DA16
4B065AA83X
4B065AA84X
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB08
4B065BB12
4B065BB14
4B065BB20
4B065BB26
4B065BC03
4B065BC48
4B065CA55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物から得られる樹液を活用した、微細藻類を効率的に増殖させることのできる培養方法の提供。
【解決手段】植物から得られる樹液、例えば、オイルパーム樹液又はバナナ樹液が用いられ、樹液は好ましくは希釈したものを用いる、微細藻類の培養方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物から得られる樹液を用いて微細藻類を培養することを特徴とする、微細藻類の培養方法。
【請求項2】
前記樹液がオイルパーム樹液又はバナナ樹液であることを特徴とする、請求項1記載の微細藻類の培養方法。
【請求項3】
オイルパーム樹液又はバナナ樹液の希釈液を用いることを特徴とする、請求項2記載の微細藻類の培養方法。
【請求項4】
請求項1記載の樹液が、2倍以上、10倍以下の範囲で希釈されていることを特徴とする、請求項1記載の微細藻類の培養方法。
【請求項5】
植物から得られる樹液を用いて培養した微細藻類が生産した生産物を利用することを特徴とする、有用物質の製造方法。
【請求項6】
植物から得られる樹液を用いて微生物を培養した後の残存培養液を再び利用して、微細藻類又は微生物をさらに培養することを特徴とする、培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類とは、起源が異なる光合成生物の総称であり、原核生物(シアノバクテリア)と多系統の真核生物(緑藻、ユーグレナ藻、紅藻、珪藻など)を含んでいる。シアノバクテリアはラン藻とも呼ばれるが、核を持たない原核生物(バクテリア)である。その後、真核生物(核を持つ生物)のシアノバクテリアが細胞内に取り込まれ、複数の光合成生物が誕生した。
【0003】
藻類は、光合成を行うこと、主に水生生物であることなど、共通の性質を有している。藻類には単細胞性のものが多く(以下、単細胞性藻類を微細藻類と称する)、大きさが数マイクロメートルから数百マイクロの微細な藻類である。それらの中には増殖速度が速く培養が容易な藻類としては、シアノバクテリアと緑藻に属するものが多い。
【0004】
微細藻類は、光合成により二酸化炭素を炭素分として利用できるため、有機性炭素を含まない窒素分、リン分、無機塩成分を含んだ溶液中で培養が一般的に行われている。また、微細藻類は有機性炭素を加えることで増殖が促進される従属栄養性を備えている種が含まれており、グルコース、グリセロール、酢酸などを培養液に添加することで増殖が促進されることが知られている(非特許文献1)。
また、家庭排水が窒素分やリン分を含むため、家庭排水中で微細藻類を培養する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−107782号
【特許文献2】特開2014−60967号
【特許文献3】特許第4065960号
【特許文献4】特開2009−254311号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Perez-Garcia et al. “Heterotrophic cultures of microalgae: Metabolism and potential products” Water Research, August 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微細藻類を培養するにあたり、植物から得られる樹液を活用することを目的とする。
さらに詳しくは、微細藻類を培養する際に必要な窒素分、リン分、無機塩成分を含んでいるが、これまで利用価値の低かったオイルパーム幹又は葉柄から得られる糖濃度の低い樹液の新たな活用方法を提供することを目的とする。
【0008】
オイルパーム樹液には糖が含まれていることが知られているが(特許文献3)、糖濃度の低い樹液があること(特許文献4)も知られており、さらに水で希釈された樹液等、糖濃度が一定量以下のオイルパーム樹液には利用価値がなかった。
また、バナナ収穫後に伐採されるバナナの樹幹の中にも糖が含まれていることが知られているが、樹幹に含まれる糖の濃度はそれほど高くなく、バナナ樹幹の利用価値はほとんど無かった。
【0009】
本発明者らが、糖濃度が一定量以下のオイルパーム樹液、又はバナナ樹幹から得られる低糖度の樹液の活用について鋭意研究を行っていたところ、希釈したオイルパーム樹液又は、希釈したバナナ樹幹から得られた樹液が微細藻類の増殖に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、植物から得られる樹液を用いて微細藻類を培養することを特徴とする微細藻類の培養方法を提供する。
【0011】
詳しくは、本発明は、オイルパーム樹液又はバナナ樹液を用いて、微細藻類を培養することを特徴とする微細藻類の培養方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、植物から得られる樹液を用いて微細藻類を培養することが可能になる。植物から得られる樹液がオイルパーム樹液又はバナナ樹液である場合、これまで活用されていなかった低糖濃度の樹液を有効に活用することが可能となり、さらに、これまで窒素分、リン分、無機塩成分を含んだ培養液中で行われていた微細藻類の培養方法に比べ、微細藻類の細胞密度を高めて培養することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】オイルパーム樹液を含む培養液中でEuglena gracilisを培養したときの生育を示す図である。
図2】オイルパーム樹液を含む培養液中でChlorella sorokinianaを培養したときの生育を示す図である。
図3】室温で放置したオイルパーム樹液を含む培養液中でEuglena gracilisを培養したときの生育を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、植物から得られる樹液を用いて、微細藻類を培養することを特徴とする、微細藻類の培養方法である。
植物から得られる樹液が、オイルパーム樹液である例を中心に、以下に本発明を説明する。
【0015】
オイルパーム樹液は、パーム油生産のために栽培されるオイルパーム(oil palm、学名:Elaeis guineensis、和名:アブラヤシ)の幹又は葉柄から採取されるものである。
【0016】
オイルパーム幹又は葉柄から樹液を採取又は抽出する手法として、物理的な手段、例えば、圧搾、粉砕、乾燥又は遠心分離を伴う抽出、水蒸気を伴う加熱又は加水を伴う抽出、有機溶媒を用いた抽出を使用することができる。また、化学的な処理を施して、樹液を採取し易くしてもよい。
伐採オイルパーム幹を粉砕後、物理的に圧搾して樹液を得るのが好ましいが、採取可能であれば何れの方法を採用しても構わない。
【0017】
採取したオイルパーム樹液の糖濃度が10%以上である場合には、樹液をアルコール等の生産に用いることができるが、糖濃度が10%以下の樹液(以下、「低糖濃度樹液」という)だと、低糖濃度樹液を濃縮することが必要であった。本発明では、これまで使い道のなかった低糖濃度樹液を微細藻類の培養に用いるものである。
なお、低糖濃度樹液には、上記抽出工程を含め、何らかの目的で希釈が施され、糖濃度が低下してしまった樹液、又は物理的に圧搾のみの抽出であっても糖濃度が10%以下の樹液も含まれる。
【0018】
また、糖濃度が10数%以上の樹液であっても、樹液をアルコール等の生産に使用されない場合もある。その場合は、上記前述の方法により抽出した樹液を原液として(一番搾り的な原液を基準として)、採取した樹液を水、有機溶媒、海水、温泉水、地下水、排水、し尿、微生物培養後液等の極性を有する溶媒、酸やアルカリを含む極性溶媒で2倍〜10倍、好ましくは3倍〜5倍に希釈したものを培養液(以下「植物樹液を含む培養液」という)として使用すればよい。
なお、採取した樹液中に含まれる樹木の繊維は希釈の前後のいずれかで除去することが望ましい。
【0019】
植物樹液を含む培養液は、糖分濃度を指標として定義できる。糖分濃度は、0%以上10%以下、好ましくは0%以上5%以下、さらに好ましくは0.5〜10%、最も好ましくは1%〜5%である。
植物樹液の中には、糖分を全く含まないものや、植物樹液を含む培養液の糖分濃度が上記の範囲以下(例えば、糖分濃度が1%以下(糖分がない場合を含む))になるものがある。
微細藻類は、大気中の二酸化炭素を利用できるので、植物樹液の糖分濃度が低い場合や糖分が無い場合でも増殖が可能である。
植物樹液を含む培養液の糖分濃度が0%以上10%以下、又は0%以上5%以下である場合には、植物樹液を含む培養液は、有機酸を含んでいることが望ましい。植物樹液を含む培養液中の有機酸濃度は、200mM以下、好ましくは0.1〜200mM、さらに好ましくは2.7〜200mMである。
なお、ここで、糖濃度はグルコース、シュークロース、フルクトースの少なくとも一つの糖を含む合計の濃度であり、有機酸とは、マレイン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸の少なくとも一つの有機酸を含む合計の濃度である。
【0020】
また、低糖濃度樹液は放置したものであってもよく、放置した低糖濃度樹液を、さらに希釈したものを培養液として使用してもよい。
さらには、オイルパーム樹液(低糖度樹液をも含む)を発酵等微生物で発酵させた後の溶液であっても、糖分又は有機酸の濃度が前述の範囲にあれば、微細藻類の細胞密度を高めることができる。
【0021】
以上、植物から得られる樹液について、オイルパーム樹液を例にして説明したが、これに限定されるものではなく、植物由来の樹液であってもよい。
【0022】
たとえば、バナナ樹幹から得られた樹液を用いることも可能である。基本、植物体から得られる樹液であり、糖分、窒素成分、ミネラル成分を含んでいる樹液であれば、いずれの植物体からの樹液でもよい。
以上述べた植物体は、具体的には、アブラヤシ属、ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシ、オウギヤシのようなヤシ科植物や、アサイー、サラクー、チョンタドゥーロ、ババス、ロウヤシなどを挙げることができる。
【0023】
本発明の培地が使用できる微細藻類の種類に特に制限はなく、当業者に公知の任意の微細藻類の培養に使用することが出来る。このような微細藻類の代表的な例として、淡水域か汽水域、海、塩湖ないしは土壌に生育する緑藻植物、紅色植物、クリプト植物、不等毛植物、ハプト植物、渦鞭毛植物、灰色植物、ユーグレナ植物、ラン藻(別称:シアノバクテリア)のいずれに属するものでも使用することができる。これらの微細藻を、分類上の網や属にて例示すれば、緑藻としてはAnkistrodesmus属、Botryococcus属、Chlamydomonas属、Chlorella属、Chlorococcum属、Dunaliella属、Eudorina属、Haematococus属、Monoraphidium属、Scenedesmus属、Trentepohlia属などが、紅色植物としてはCyanidium属、Galdieria属、Hildenbrandia属、Porphyridium属が、クリプト植物としてはChroomonas属、Cryptomonas属、Rhodomonas属が、不等毛植物としては珪藻網、黄金色藻網、ラフィド藻網、黄緑藻網、真正眼点藻網、ピングイオ藻綱が挙げられ、特に珪藻網の中ではChaetoceros属、Cyclotella属、Cylindrotheca属、Phaeodactylum属、Skeletonema属、Tetraselmis属、Thalassiosira属、真正眼点藻網の中ではNannochloropsis属が例として挙げられる。また、ハプト植物としてはCryptomonas属、Dicrateria属、Isochrysis属、Pavlova属が、渦鞭毛植物としてはCeratium属、Peridinium属が、灰色植物としてはCyanophora属、Glaucocystis属が、ユーグレナ植物としてはEuglena属が、ラン藻としてはAnabaena属、Arthrospira属、Microcoleus属、Nostoc属、Oscillatoria属、Planktothrix属、Schizothrix属、Scytonema属、Synochococcus属、Synechocystis属、Tolypothrix属に含まれるもの等を挙げることが出来る。より具体的には、実施例で記載されているような、Chlorella属、Botryococcus属、Dunaliella属、Porphyridium属、Nostoc属又はTolypothrix属に属する微細藻を挙げることができる。更に、本発明の対象として、特定の一種類の微細藻類の培養に限定せずに、多種類の微細藻からなる集団である植物プランクトンを挙げることも出来る。
【0024】
植物樹液を含む培養液には各種化合物を加えてもよく、また窒素分、リン分、炭素分、無機塩成分、ビタミン類等、を含むモラセスやコーンスティープリカー、海水、地下水、温泉水、炭酸水、し尿、微生物培養後の溶液、さらには一般的な微細藻類の培養液を加えてもよく、それらが糖、有機酸、メタン、有機溶媒などを含んでいてもよい。
【0025】
更に、各栄養素として本発明の培地に添加する化合物の代表例を以下に示す。培地に添加する窒素源としては、水への溶解度が高い尿素であるCa(NO3)2・4H2O、Ca(NO3)2・nH2O、KNO3、Mg(NO3)2・6H2O、Mg(NO3)2・nH2O、NaNH4HPO4・4H2O、NaNO3、NH4Cl、NH4NO3、(NH4)2SO4、NH4HCO3、(NH4)2CO3等の無機塩類や硝酸を加えるか、これらの代替として添加可能な水に難溶な窒素化合物としての尿酸(7,9-dihydro-1H-purine-2,6,8(3H)-trione)やMgNH4PO4・6H2Oがあげられる。
【0026】
培地に添加するリン源としては、水への溶解度が高いCa(H2PO4)2・H2O、KH2PO4、K2HPO4、K2HPO4・3H2O、K3PO4、NaH2PO4、Na2HPO4、Na3PO4、Na4P2O4、Na4P2O7・10H2O、NH4H2PO4、(NH4)2HPO4、H4O7P2、ポリリン酸等のリン酸化合物や、窒素を含んだリン酸塩、リン酸、ポリリン酸といった酸の形態、過リン酸石灰(Ca(H2PO4)2・H2Oと2CaSO4)又は重過リン酸石灰(Ca(H2PO4)2・H2O)の混合物、ないしは、これらの代替としての水に難溶なリン化合物である、AlPO4、Ba3(PO4)2、Ca(PO3)2、CaHPO4・2H2O、Ca2P2O7、Ca3(PO4)2、3Ca3(PO4)2・Ca(OH)2、Ca4(PO4)2O、Ca8H2(PO4)6.5H2O、Ca10(PO4)6・(OH)2、Co3(PO4)2、Cu3(PO4)2、FePO4・2H2O、MgHPO4・3H2O、MgKPO4、MgKPO4・6H2O、Mg2P2O7、Mg3(PO4)2、Mg3(PO4)2・8H2O、Mn3(PO4)2、Zn2P2O7、モノアルキルリン酸、熱処理や焼成処理した動物の骨、AlPO4、CaHPO4、FePO4の何れかを含んだ土壌があげられる。
【0027】
培地に添加するカリウム源としては、微細藻類の培養に従来に用いられている上記の硝酸カリウムやリン酸カリウム類や、水への溶解度が高いKCl、K2CO3、KHCO3、KHSO4に加えて、植物由来の草木灰を加えるか、ないしは、それらの代替としての水に難溶な白雲母、黒雲母、角閃石、カリ長石などの鉱物や、それらの粉砕粒子、あるいは合成雲母があげられる。
【0028】
培地に添加する硫黄源としては、水への溶解度が高いK2SO4、MgSO4、MgSO4・7H2O、MgSO4・nH2O、Na2SO4等の含硫黄無機塩や硫酸があり、これらに加えるか、又は代替として添加する、水に難溶な硫黄化合物としてのBaSO4、CaSO4、CaSO4・0.5H2O、CaSO4・2H2Oがあげられる。
【0029】
培地に添加するマグネシウム源としては、水への溶解度が高いMgCl2、MgCl2・6H2O、MgSO4、MgSO4・7H2O、MgSO4・nH2Oがあり、更に中和を必要とするMgOがあり、さらに、これらに加えるか、代替として添加する水に難溶なマグネシウム化合物としてのMgCO3、MgCO3・3H2O、MgCO3・5H2O、Mg(OH)2、あるいは鉱物のドロマイトがあげられる。
【0030】
培地に添加するカルシウム源としては、溶解度の高低にかかわらず、その濃度が高いと、リン酸などと複合体を形成して水に難溶な沈殿を形成するものとして、CaCl2、CaCl2・2H2O、Ca(NO3)2、また別に中和が必要だがCaO、Ca(OH)2がある。さらに、これらに加えるか、ないしは代替として添加する水に難溶なカルシウム化合物としての、上記した水に難溶な塩と重複するが、CaCO3、Ca(PO3)2、CaHPO4・2H2O、Ca2P2O7、Ca3(PO4)2、3Ca3(PO4)2・Ca(OH)2、Ca4(PO4)2O、Ca8H2(PO4)6・5H2O、Ca10(PO4)6・(OH)2、CaSO4、CaSO4・0.5H2O、CaSO4・2H2Oがあげられる。
【0031】
培地に添加する鉄源としては、FeCl2・4H2O、FeCl3、Fe(III)-EDTA、Fe(NO3)2、Fe(NO3)3、FeSO4、Fe2(SO4)3などがあげられる。
【0032】
また、他のナトリウム、ホウ素、亜鉛、銅、マンガン、コバルト及びモリブデン等の微量元素のうち、培養目的の微細藻の種類等に応じて必要な元素は、適量添加してもよい。
【0033】
また、ビタミン類として、ビタミンB12(コバラミン)、ビオチン、ビタミンB1(チアミン)を適量添加してもよい。
【0034】
培養条件は、光がある条件が好ましいが、ない条件でも良い。光は、自然光がのぞましいが、人工光源を照射して培養してもよい。二酸化炭素はある条件が好ましいが、樹液内の糖や有機酸を利用し増殖できるため、二酸化炭素がない条件でも良い。二酸化炭素は大気中に含まれているものを利用してもよく、高濃度に調整されたもの、排気ガス、微生物発酵由来のガスに含まれているものを利用しても良い。またそれらのガスには二酸化炭素に加えて、メタン、酸素、窒素、水素などの他のガス成分が含まれていてもよい。温度、pHは、培養する微細藻類に適した条件で行えばよい。
【0035】
本発明は、植物から得られる樹液を含む培養液で微生物を培養したのち、植物から得られた樹液成分の残存成分を含む培養液を回収し、得られた回収液を微細藻類又は微生物の培養液として再利用する方法を開示する。
ここで、最初に培養する微生物は、微細藻類であってもよいが、微細藻類に限定されるものではなく、例えば、アルコール発酵に用いられる酵母菌であってもよい。植物から得られた樹液成分の残存成分を含む培養液を再利用する場合には、回収液に新たな植物から得られた樹液を添加し、糖分又は有機酸の濃度を前述した濃度の範囲に調整すればよい。
以上述べたように、微生物の培養に用いられた培養液を回収して、回収液を用いて微生物又は微細藻類を培養することで、培養対象の細胞密度を高めることが可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はその実施例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)オイルパーム樹液を含む培養液中でのEuglena gracilisの培養
日本の国立環境研から分譲されたEuglena gracilis NIES-49株を使用した。
オイルパーム樹液を滅菌水で2倍,3倍,10倍に希釈した溶液、Euglena gracilisの一般的な培地であるCramer-Myersをベースとする培地(以下、本明細書中では単に「Cramer-Myers」という。組成を表1に記載)を、200 mL 三角フラスコに30mLずつ分取した。オイルパーム樹液はオートクレーブ後、遠心により沈殿物を除いたものを使用した。
培地は、表1に示すCramer-Myers培地を用い、Euglena gracilisの生育に最適なpH4.0にHClを用いて調整したが、オイルパーム樹液を含む培養液はpHを調整することなく、pH5-6付近のままで使用した。またオイルパーム樹液を含む培養液と、Cramer-Myers培地のリン含有量、窒素含有量及び有機酸含有量を表2に記載した。
その後、各培養液に細胞量が15 mg dry-cell weight/LになるようにEuglena gracilis細胞を加えた。加えられた細胞は、Cramer-Myers培地で1週間程度、事前に培養したものを利用した。その後、25℃に温度調節したインキュベーター内で白色LEDの光源を用いて、50 μmol photons m2 s-1の光強度のもと、大気中で静置培養をおこなった。
経時的に培養液を採集、細胞密度を分光光度計で測定した750nmの濁度から換算式(濁度に0.38を乗する)を用いて算出した。
結果を表3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
結果を図1に示す。なお、図中の記号aは3倍希釈、bは10倍希釈、cは2倍希釈、dは樹液原液、xはCramer-Myers培地を示す。
表3及び図1より、樹液原液では細胞増殖効果は見られず、樹液を希釈することで増殖効果が生じることがわかる。本実験では樹液を3倍に希釈すると最大の細胞密度が得られた。Cramer-Myers培地と比べて、窒素分、リン分の少ない樹液原液を3倍に希釈した樹液では、4.5倍程度細胞密度が高く、10倍に希釈した培地であっても、Cramer-Myers培地に比べ細胞密度が高くなっていることがわかる。樹液利用においては希釈された樹液の利用が好ましいことがわかる。
また、糖分濃度が11%以上であると、培養液中に有機酸が含まれていても、最大細胞密度はCramer-Myers培地より低いことがわかる。
糖分濃度が約3%より低くなると、最大細胞密度が低くなるが、有機酸を有する樹液を含む培地では、Cramer-Myers培地より高い最大細胞密度であることがわかる。
【0042】
(実施例2)オイルパーム樹液を含む培養液中でのChlorella sorokinianaの培養
日本の国立環境研から分譲されたChlorella sorokiniana NIES-2169株を使用した。オイルパーム樹液を滅菌水で2倍,3倍,10倍に希釈した溶液、Chlorella sorokinianaの一般的な培地であるC培地(組成を表4に記載)を、200 mL 三角フラスコに30mLずつ分取した。
また、オイルパーム樹液を含む培養液と、C培地のリン含有量と窒素含有量を表Dに記載した。オイルパーム樹液はオートクレーブ後、遠心により沈殿物を除いたものを使用した。C培地はpH7.5であり、オイルパーム樹液を含む培養液はpH5〜pH6付近であった。
その後、各培養液に細胞量が15 mg dry-cell weight/LになるようにChlorella sorokiniana細胞を加えた。加えられた細胞は、C培地で1週間程度、事前に培養したものを利用した。
また、表5にC培地とオイルパーム樹液の原液の糖分、窒素分、リン分、有機酸成分の各濃度を示す。
【0043】
25℃に温度調節したインキュベーター内で白色LEDの光源を用いて、50 μmol photons m2 s-1の光強度のもと、大気中で100 rpmの速度で攪拌し、培養した。経時的に培養液を採集、細胞密度を分光光度計で測定した750nmの濁度から換算式(濁度に0.34を乗する)を用いて算出した。
結果を表6に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
また、結果を図2に示す。図中の記号aは3倍希釈、bは10倍希釈、cは2倍希釈、dは樹液原液、xはC培地を示す。
表6及び図2より、樹液原液では細胞増殖効果は見られず、樹液を希釈することで増殖効果が生じることがわかる。本実験では樹液を3倍に希釈すると最大の細胞密度が得られた。
培地Cと比べて、3倍に希釈した樹液は5倍程度細胞密度が高かった。樹液利用においては希釈された樹液の利用が好ましいことがわかる。また、糖分濃度が11%以上であると(樹液原液)有機酸を含んでいても、最大細胞密度はCramer-Myers培地より低いことがわかる。糖分濃度が約3%より低くなると、最大細胞密度が低くなるが、有機酸を有する樹液を含む培地では、Cramer-Myers培地より高い最大細胞密度であることがわかる。
【0048】
(実施例3)室温で放置したオイルパーム樹液を含む培養液中でのEuglena Gracilisの培養
室温にて樹液を開放状態で2日間放置し、その樹液を培養に用いた。
オイルパーム樹液を滅菌水で3倍に希釈した溶液、Euglena gracilisの一般的な培地であるCramer-Myers培地(組成を表Aに記載)を、200 mL 三角フラスコに30mLずつ分取した。オイルパーム樹液はオートクレーブ後、遠心により沈殿物を除いたものを使用した。
Cramer-Myers培地はEuglena gracilisの生育に最適なpH4.0にHClを用いて調整したが、オイルパーム樹液を含む培養液はpHを調整することなく、pH5付近のままで使用した。その後、各培養液に細胞量が15 mg dry-cell weight/LになるようにEuglena gracilis細胞を加えた。加えられた細胞は、Cramer-Myers培地で1週間程度、事前に培養したものを利用した。その後、25℃に温度調節したインキュベーター内で白色LEDの光源を用いて、50 μmol photons m2s-1の光強度のもと、大気中で静置培養をおこなった。
経時的に培養液を採集、細胞密度を分光光度計で測定した750nmの濁度から換算式(濁度に0.38を乗する)を用いて算出した。
【0049】
結果を図3に示す。図中の記号aは室温放置後の3倍希釈溶液、xはCramer-Myers培地を示す。
室温放置後の状態の悪い樹液でも同様に増殖促進効果が見られた。これまでパーム幹の樹液利用は新鮮な樹液が好ましいとされていたが(糖度減少や腐敗するため)、採取後、数日間経過しているような樹液でも希釈することで藻類培養に利用できることが明らかとなった。
【0050】
(実施例4)バナナ樹液を含む培養液中でのEuglena gracilisの培養
日本の国立環境研から分譲されたEuglena gracilis NIES-49株を使用した。
バナナ樹液を滅菌水で10倍、3倍に希釈した溶液、樹液原液、Euglena gracilisの一般的な培地であるCramer-Myers培地(組成を前記表1に記載)を、15 mL 試験管に5mLずつ分取した。バナナ樹液はフィルター滅菌したものを使用した。
培地は、表1に示すCramer-Myers培地を用い、Euglena gracilisの生育に最適なpH4.0にHClを用いて調整したが、バナナ樹液を含む培養液はpHを調整することなく、pH6付近のままで使用した。
その後、各培養液に細胞量が15 mg dry-cell weight/LになるようにEuglena gracilis細胞を加えた。加えられた細胞は、Cramer-Myers培地で1週間程度、事前に培養したものを利用した。その後、25℃に温度調節したインキュベーター内で白色LEDの光源を用いて、50 μmol photons m2s-1の光強度のもと大気中で静置培養をおこなった。
12日間培養後、細胞密度を分光光度計で測定した750nmの濁度から換算式(濁度に0.38を乗する)を用いて算出した。
結果を表7に示す。
【0051】
【表7】
図1
図2
図3