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特開2020-202814立体的細胞組織の培養方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-202814(P2020-202814A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】立体的細胞組織の培養方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20201127BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20201127BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20201127BHJP
【FI】
   C12N5/07
   C07K14/78
   C07K14/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-113681(P2019-113681)
(22)【出願日】2019年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】平岡 靖之
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB05
4B065BB11
4B065BB12
4B065BB18
4B065BB19
4B065BB23
4B065BD38
4B065BD39
4B065BD40
4B065BD42
4B065CA44
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA34
4H045FA72
(57)【要約】
【課題】立体的細胞組織を培養する方法であって、従来の培養方法において見られた培養期間中の細胞組織の減少・失活現象を改善する方法を提供する。
【解決手段】立体的細胞組織をFibroblast growth factorを含む培地中で培養する工程を含む、前記立体的細胞組織の培養方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体的細胞組織をFibroblast growth factorを含む培地中で培養する工程を含む、前記立体的細胞組織の培養方法。
【請求項2】
前記立体的細胞組織が、
細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、
得られた前記混合物中の前記細胞を培養して前記立体的細胞組織を得る工程と、含む方法により製造されたものである、請求項1に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項3】
前記細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記高分子電解質は、グリコサミノグリカン、デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項4】
前記混合物中の前記細胞外マトリックス成分の濃度が、0.01mg/mL以上1.0mg/mL未満であり、
前記混合物中の前記高分子電解質の濃度が、0.01mg/mL以上1.0mg/mL未満である、請求項2又は3に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項5】
前記細胞を培養して前記立体的細胞組織を得る工程が、前記細胞を、Fibroblast growth factorを含まない培地で培養することにより行われる、請求項2〜4のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項6】
前記Fibroblast growth factorを含む培地を72時間に1回以上交換する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項7】
前記Fibroblast growth factorがFGF2である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項8】
前記Fibroblast growth factorを含む培地中の前記Fibroblast growth factorの濃度が、100pg/mL以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項9】
前記立体的細胞組織中の生細胞の数が、1.5×10個以上である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項10】
前記立体的細胞組織中の前記生細胞の密度が、4.0×10個/cm以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項11】
前記立体的細胞組織の厚みが60μm以上である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法により製造される、立体的細胞組織。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の立体的細胞組織の培養方法に用いられ、Fibroblast growth factorを含む、立体的細胞組織の培養用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的細胞組織の培養方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療はもとより、生体に近い環境が求められる薬剤のアッセイ系において、平板上で成育させた細胞よりも立体的に組織化させた三次元細胞組織を使用することの優位性が示されており、生体外で細胞の三次元組織を構築するための様々な技術が開発されている。例えば、細胞が付着できない表面基板上で細胞塊を形成させる方法や液滴中で細胞塊を形成させる方法、透過性膜上に細胞を集積させる方法等が開発されている。このような細胞の組織化を維持するためには、生体自身が産生するコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)が細胞間の結合や足場形成に必要である。そのため、人為的に細胞組織を構築する際、ECMを外部から添加することが検討されてきた。特許文献1には、酵素処理等により単離した細胞を、代表的なECMであって細胞保護作用を有する水溶性高分子であるコラーゲン等と接触させた後、三次元集合体として培養する方法が開示されている。この方法によれば、培養中に細胞周辺で水溶性高分子のゲルが形成される。特許文献2には、温度応答性の樹脂であるpoly(N−isopropylacrylamide)(PIPAAm)を表面に固定化した培養皿を用いて細胞シートを作製し、作製した細胞シートを積層することで三次元組織を構築する方法が開示されている。
【0003】
ところで、発明者らは、これまでに、細胞と、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合し、培養することにより、立体的細胞組織を作製する方法の研究を行ってきた(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2824081号公報
【特許文献2】国際公開第2002/008387号
【特許文献3】特許第6427836号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dallas M et al., “Improving Cell Culture Outcomes through Stabilized bFGF”, Genetic Engineering & Biotechnology News, Vol. 38, No. 19, 2018.
【非特許文献2】Nishiguchi A et al., “Cell‐Cell Crosslinking by Bio‐Molecular Recognition of Heparin‐Based Layer‐by‐Layer Nanofilms”, Macromol Biosci., vol.15, 312-317, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、特許文献3に記載の方法により、立体的細胞組織を作製し、継続して培養すると、次第に立体的細胞組織の厚みが薄くなることを見出した。このような立体的細胞組織は、組織としての機能が低下していると考えられ、生体内の組織の機能を模倣としているとは言えない場合がある。また、薬剤のアッセイ系にも適していない場合がある。
【0007】
そこで、本発明の解決すべき課題は、立体的細胞組織を培養する方法であって、従来の培養方法において見られた培養期間中の細胞組織の体積の減少を改善する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]立体的細胞組織をFibroblast growth factorを含む培地中で培養する工程を含む、前記立体的細胞組織の培養方法。
[2]前記立体的細胞組織が、細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、得られた前記混合物中の前記細胞を培養して前記立体的細胞組織を得る工程と、含む方法により製造されたものである、[1]に記載の立体的細胞組織の培養方法。
[3]前記細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記高分子電解質は、グリコサミノグリカン、デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、[2]に記載の立体的細胞組織の培養方法。
[4]前記混合物中の前記細胞外マトリックス成分の濃度が、0.01mg/mL以上1.0mg/mL未満であり、前記混合物中の前記高分子電解質の濃度が、0.01mg/mL以上1.0mg/mL未満である、[2]又は[3]に記載の立体的細胞組織の培養方法。
[5]前記細胞を培養して前記立体的細胞組織を得る工程が、前記細胞を、Fibroblast growth factorを含まない培地で培養することにより行われる、[2]〜[4]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[6]前記Fibroblast growth factorを含む培地を72時間に1回以上交換する、[1]〜[5]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[7]前記Fibroblast growth factorがFGF2である、[1]〜[6]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[8]前記Fibroblast growth factorを含む培地中の前記Fibroblast growth factorの濃度が、100pg/mL以上である、[1]〜[7]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[9]前記立体的細胞組織中の生細胞の数が、1.5×10個以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[10]前記立体的細胞組織中の前記生細胞の密度が、4.0×10個/cm以上である、請求項[1]〜[9]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[11]前記立体的細胞組織の厚みが60μm以上である、[1]〜[10]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法。
[12][1]〜[9]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法により製造される、シート状の立体的細胞組織。
[13][1]〜[11]のいずれかに記載の立体的細胞組織の培養方法に用いられ、Fibroblast growth factorを含む、立体的細胞組織の培養用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術と比較して、培養期間中の立体的細胞組織の体積の減少を有意に抑制し改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実験例1におけるサンプルA、B、Cの生細胞数を測定した結果を示す図である。
図2A】免疫組織染色したサンプルAを、顕微鏡観察し撮影した写真である。
図2B】免疫組織染色したサンプルBを、顕微鏡観察し撮影した写真である。
図2C】免疫組織染色したサンプルCを、顕微鏡観察し撮影した写真である。
図3】実験例2におけるサンプルA、B、C、Dの生細胞数を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の適用の対象となる立体的細胞組織の形態に特に制限は無く、例えば、コラーゲンなどの天然生体高分子や合成高分子によって構成されたスキャフォール内で細胞を培養して形成した立体的細胞組織や、細胞凝集体(スフェロイド)、シート状の細胞構造体、などに適用し得る。特に、2以上の細胞層からなる積層構造等を有する立体的細胞組織(例えば、シート状の細胞構造体)の場合には、細胞組織の減少によって組織が痩せ細り、当初構成していた層構成が崩れるおそれがあるが、本発明を適用することによりそのリスクを抑えることが可能であることから、より効果的に採用し得るものである。
【0012】
また、本明細書において用いる場合、「立体的細胞組織」とは、少なくとも一種類の細胞を含む立体的な集合体を意味する。本発明によって構築される立体的細胞組織には、皮膚、毛髪、骨、軟骨、歯、角膜、血管、リンパ管、心臓、肝臓、膵臓、神経、食道などの生体組織、ならびに固形癌モデル(例えば、胃癌、食道癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、肝癌など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
シート状の細胞構造体としては、例えば、細胞を単層培養した後に培養容器から剥離し、他の単層培養細胞に積層していくことで形成したものや、下記に記載する立体的細胞組織の製造方法によって形成したものに適用することができる。
【0014】
[培養方法]
1実施形態において、本発明は、立体的細胞組織をFibroblast growth factorを含む培地中で培養する工程を含む、前記立体的細胞組織の培養方法を提供する。
【0015】
実施例において後述するように、立体的細胞組織を、Fibroblast growth factor(以下、FGFと呼ぶ場合がある)を含まない培地で培養すると、培養期間の経過とともに立体的細胞組織の体積が減少し、立体的細胞組織に含まれる生細胞数が減少することがある。厚みに対して、厚み方向とは垂直な方向の長さが長い組織の場合には、立体的細胞組織の体積の減少は、厚みの減少として観察されてもよい。本明細書において、立体的細胞組織の厚みとは組織の自重方向の長さである。自重方向とは重力のかかる方向である。
【0016】
理論に拘泥するものではないが、立体的細胞組織においては、培地に含まれる栄養素等が組織の内部にまで十分に浸透せず、その結果、組織の内部の細胞が壊死している、又は、組織の内部において細胞の増殖が抑制されていると考えられる。組織の内部の細胞が壊死している、又は、組織の内部において細胞の増殖が抑制されている結果、立体的細胞組織の厚みが減少する可能性がある。立体的細胞組織の厚みが減少すると、細胞の活性が低下し、立体的細胞組織としての機能が低下、消失すると考えられる。
【0017】
実施例において後述するように、立体的細胞組織を、FGFを含む培地で培養すると、立体的細胞組織の厚みが減少することが抑制され、立体的細胞組織に含まれる生細胞数が減少することが抑制される。
【0018】
立体的細胞組織は、細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、得られた前記混合物中の前記細胞を培養して前記立体的細胞組織を得る工程と、含む方法により製造されたものであってもよい。
【0019】
また、立体的細胞組織は、
(A)細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合して混合物を得る工程と、
(B)得られた混合物から細胞を集め、基材上に細胞集合体を形成する工程と、
(C)細胞を培養して立体的細胞組織を得る工程と、
を含む方法によって製造されたものであってもよい。
【0020】
上述した、工程(A)、工程(B)、工程(C)においては、細胞をFGFに接触させなくてもよいし、FGFに接触させてもよい。細胞をFGFに接触させない場合であっても、立体的細胞組織を得ることができる。
【0021】
前記立体的細胞組織の製造方法の工程(A)において、細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合し、この細胞混合物から細胞集合体を形成することにより、内部に大きな空隙が少ない立体的細胞組織を得ることができる。また、得られた立体的細胞組織は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。
【0022】
また、前記立体的細胞組織の製造方法の工程(A)の後に、(A’−1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、および(A’−2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程、を含み、かつ工程(B)に代えて、(B’)得られた懸濁液から細胞を沈殿し、基材上に細胞の沈殿体を形成する工程を含んでもよい。上述の工程(A)〜(C)を実施することで所望の組織体を得ることができるが、工程(A)の後に(A’−1)および(A’−2)を実施し、工程(B)に代えて工程(B’)を実施することで、より均質な組織体を得ることができる。
【0023】
前記立体的細胞組織の製造方法における細胞とカチオン性物質、高分子電解質、および細胞外マトリックス成分との混合は、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどの適当な容器中で行われてもよく、工程(B)において用いられる基材上で行われてもよい。工程(A’−2)における懸濁もまた、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどの適当な容器中で行われてもよく、工程(B’)において用いられる基材上で行われてもよい。
【0024】
本明細書において用いる場合、「細胞集合体」とは細胞の集団を意味する。細胞集合体には、遠心分離やろ過などによって得られる細胞の沈殿体も含まれる。ある実施形態では、細胞集合体はスラリー状の粘稠体である。「スラリー状の粘稠体」とは、ゲル様の細胞集合体を指す(例えば、非特許文献2を参照)。
【0025】
前記立体的細胞組織の製造方法におけるカチオン性物質としては、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の正電荷を有する物質を用いることができる。カチオン性物質には、トリス−塩酸緩衝液、トリス−マレイン酸緩衝液、ビス−トリス−緩衝液、およびHEPESなどのカチオン性緩衝液、ならびにエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、およびポリアルギニンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、本発明で用いられるカチオン性物質はカチオン性緩衝液である。より好ましい実施形態では、本発明で用いられるカチオン性物質はトリス−塩酸緩衝液である。
【0026】
前記立体的細胞組織の製造方法におけるカチオン性物質の濃度は、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は10〜100mMであることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は、20〜90mM、30〜80mM、40〜70mM、45〜60mMであることが好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性物質の濃度は50mMであることがより好ましい。
【0027】
前記立体的細胞組織の製造方法におけるカチオン性物質としてカチオン性緩衝液が用いられる場合、カチオン性緩衝液のpHは、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは6.0〜8.0であることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、または8.0である。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.2〜7.6であることがより好ましい。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.4であることがさらに好ましい。
【0028】
本明細書において、「高分子電解質」とは、高分子鎖中に解離可能な官能基を有する高分子を意味する。本実施形態で用いられる高分子電解質としては、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の高分子電解質を用いることができる。高分子電解質には、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダンや、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、およびポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの高分子電解質は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。本実施形態で用いられる高分子電解質はグリコサミノグリカンであることが好ましい。また、本実施形態で用いられる高分子電解質はヘパリンまたはデキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、またはデルマタン硫酸であることがより好ましい。本実施形態で用いられる高分子電解質はヘパリンであることがさらに好ましい。細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の高分子電解質の誘導体を用いてもよい。
【0029】
前記立体的細胞組織の製造方法における高分子電解質の濃度は、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられる高分子電解質の濃度は0mg/mL超1.0mg/mL未満であることが好ましい。本実施形態で用いられる高分子電解質の濃度は0.01mg/mL以上1.0mg/mL以下がより好ましく、0.025mg/mL以上0.1mg/mL以下がさらに好ましい。例えば、0.01、0.025、0.05、0.075、または0.1mg/mLである。本実施形態で用いられる高分子電解質の濃度は0.05mg/mL以上0.1mg/mL以下であることがさらに好ましい。本実施形態で用いられる高分子電解質の濃度は0.05mg/mLであることがさらに好ましい。本実施形態において、高分子電解質を適切な溶媒に溶解して用いてもよい。溶媒の例としては、水および緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。上述のカチオン性物質としてカチオン性緩衝液が用いられる場合、高分子電解質をカチオン性緩衝液に溶解して用いてもよい。
【0030】
前記立体的細胞組織の製造方法における細胞外マトリックス成分としては、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、細胞外マトリックス(ECM)を構成する任意の成分を用いることができる。細胞外マトリックス成分には、コラーゲンや、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、およびプロテオグリカン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの細胞外マトリックス成分は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分はコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンであり、中でもコラーゲンであることが好ましい。細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス成分の改変体およびバリアントを用いてもよい。
【0031】
細胞外マトリックス成分の濃度は、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分の濃度は0mg/mL超1.0mg/mL未満であることが好ましい。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分の濃度は0.01mg/mL以上1.0mg/mL以下がより好ましく、0.025mg/mL以上0.1mg/mL以下であることがさらに好ましく、例えば、0.01、0.025、0.05、0.075、または0.1mg/mLである。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分の濃度は0.05mg/mL以上0.1mg/mL以下であることがさらに好ましい。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分の濃度は0.05mg/mLであることがさらに好ましい。本実施形態において、細胞外マトリックス成分を適切な溶媒に溶解して用いてもよい。溶媒の例としては、水、緩衝液、酢酸などが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態では、細胞外マトリックス成分は緩衝液または酢酸に溶解されることが好ましい。
【0032】
前記立体的細胞組織の製造方法における高分子電解質と細胞外マトリックス成分との配合比は1:2〜2:1であることが好ましい。本実施形態で用いられる高分子電解質と細胞外マトリックス成分との配合比は1:1.5〜1.5:1であることがより好ましい。本実施形態で用いられる高分子電解質と細胞外マトリックス成分との配合比は1:1であることがさらに好ましい。
【0033】
前記立体的細胞組織の製造方法に用いられる細胞は特に限定されないが、例えば、ヒトや、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞である。細胞の由来部位も特に限定されず、骨や、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液等などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよい。さらに、本実施形態に係る方法に用いられる細胞は、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。あるいは、初代培養細胞や、継代培養細胞、および細胞株細胞などの培養細胞であってもよい。一種類の細胞を用いてもよいし、複数種類の細胞を用いてもよい。本実施形態に係る方法に用いられる細胞には、例えば、神経細胞や、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、肝癌細胞等の癌細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。
本実施形態の立体的細胞組織は、生体内の組織の機能を模倣する組織であるため、前記立体的細胞組織の製造方法に用いられる細胞は、不死化された細胞以外の細胞であることが好ましい。
【0034】
前記立体的細胞組織の製造方法により得られる立体的細胞組織は、一種類の細胞を含んでいてもよく、複数種類の細胞を含んでいてもよい。本実施形態では、立体的細胞組織に含まれる細胞は、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、癌細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、および平滑筋細胞からなる群から選択される。また、本実施形態に係る方法により得られる立体的細胞組織は、脈管構造を有していてもよい。「脈管構造」とは、生体組織における血管網やリンパ管網のような、ネットワーク状の構造を指す。
【0035】
前記立体的細胞組織の製造方法では、工程(A’−1)における液体部分を除去する手段として、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離やろ過によって、液体部分を除去してもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物の入ったマイクロチューブを室温、400×gで1分間の遠心分離に供して液体部分と細胞集合体とを分離することによって、液体部分を除去する。あるいは、自然沈降によって細胞を集めた後、液体部分を除去してもよい。
【0036】
前記立体的細胞組織の製造方法における工程(A’−2)において用いられる溶液は、細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、使用される細胞に適した細胞培養培地または緩衝液が用いられる。
【0037】
前記立体的細胞組織の製造方法の工程(B)または(B’)において用いられる基材には、細胞の培養に用いるための培養容器が挙げられる。培養容器は、細胞や微生物の培養に通常用いられている素材、形状を有する容器であってよい。培養容器の素材としては、ガラスや、ステンレス、プラスチックなどが挙げられるが、これらに限定されない。培養容器としては、ディッシュや、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。基材は、例えば、液体中の細胞を通過させず、液体を通すことが可能な材料である。基材は、透過膜であることが好ましい。かかる透過膜を有する容器としては、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサートなどのセルカルチャーインサートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
前記立体的細胞組織の製造方法では、工程(B)または(B’)における細胞を集める手段として、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離、磁性分離、またはろ過によって、細胞を集めてもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物または懸濁液をセルカルチャーインサートに播種し、10℃、400×gで1分間の遠心分離に供することで、細胞を集める。あるいは、自然沈降によって細胞を集めてもよい。工程(B’)では、例えば遠心分離やろ過によって懸濁液から液体部分を除去することで、基材上に細胞の沈殿体を形成してもよい。あるいは、自然沈降によって基材上に細胞の沈殿体を形成してもよい。工程(B)における細胞集合体または工程(B’)における細胞の沈殿体は層状であってもよい。
【0039】
前記立体的細胞組織の製造方法では、構築された立体的細胞組織の変形(例えば、組織の収縮、組織末端の剥離等)を抑制するための物質が用いられる。このような物質としては、選択的ROCK(Rho−associated coiled−coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤であるY−27632が挙げられるが、これに限定されない。本実施形態では、当該物質の存在下で工程(C)を行う。当該物質の存在下で細胞集合体を培養することにより構築された立体的細胞組織の収縮が抑制される。その結果、構築された組織がセルカルチャーインサート等の基材から剥離することが抑制される。例えば、工程(A)において、このような物質をさらに混合してもよい。あるいは、工程(A’−2)において用いる溶液に、このような物質をさらに添加してもよい。あるいは、工程(C)で細胞を培養する際に、このような物質を培地に添加してもよい。
【0040】
前記立体的細胞組織の製造方法の工程(C)において、細胞の培養は、培養される細胞に適した培養条件下で行うことができる。当業者は、細胞の種類や所望の機能に応じて適切な培地を選択することができる。細胞培養培地としては特に限定されないが、D−MEM、E−MEM、MEMα、RPMI−1640、Mccoy‘5a、Ham’s F−12等や、これらにCS(ウシ血清)、FBS(ウシ胎児血清)、HBS(ウマ胎児血清)等の血清を1〜20容量%程度になるように添加した培地が挙げられる。培養環境の温度や大気組成等の諸条件もまた、当業者が容易に定めうる。
【0041】
本発明の一態様に係る立体的細胞組織の培養方法は、培地中にFibroblast growth factor(FGF)を含有する。培地としては、立体的細胞組織の製造方法の工程(C)で使用したものと同様に当業者が適宜定め得る。FGFは血管新生、創傷治癒、胚発生に関係する成長因子群の総称であり、広範囲の細胞の増殖や分化の過程において重要な役割を果たしていると考えられている。FGFの種類としては特に限定されないが、例えば、FGF1(acid FGF)、FGF2(basic FGF)、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF16,FGF17,FGF18、FGF19,FGF20、FGF21、FGF22、FGF23など、ヒト由来のFGFが上げられる。実施例において後述するように、FGFはFGF2であることが好ましい。培地中に含有されるFGFの濃度については、立体的細胞組織の体積の減少が抑制される機能が発揮される程度に含まれていれば特に制限されない。一般的に、生理条件下におけるFGFの半減期は短く、FGF2においては約8時間程度といわれているため(非特許文献1)、生理条件に近い培養条件で培養を行う場合、好ましくは、100pg/mL以上、より好ましくは0.6ng/mL以上、更に好ましくは5ng/mL以上、もしくは15ng/mL以上含まれることが好ましい。但し、培養温度や培地交換頻度などの諸条件もまた、当業者が容易に定め得る。例えば、FGFを最低限必要な量よりも多めに含有した培地によって立体的細胞組織の培養を行えば、培養期間中に含有されるFGFの一部が消費・分解されたとしても機能を維持することが可能であり、例えば、2日に1度、3日に1度、4日に1度などのように、培地交換の頻度を少なくすることが可能である。培地交換の頻度を少なくすることができれば、薬剤等の効果などを立体的細胞組織によって検証する際に、培地に含有される薬剤等がより長期間維持されるため、立体的細胞組織好適に利用することができる。実施例において後述するように、立体的細胞組織の培養において、FGFを含む培地を、72時間に1回以上交換してもよい。FGFをその機能が十分に発揮できる程度に含有する培地によって立体的細胞組織の培養を行えば、FGFを過剰に添加する必要がなくなり、また、培養期間中の培地内のFGF濃度を一定範囲に保ちやすくなるため、FGF濃度が影響を及ぼす可能性があるアッセイを並行して行う場合などに好適に利用される。
【0042】
立体的細胞組織中の細胞の数は、立体的細胞組織を製造する際に播種された細胞数によって決められてもよい。また、立体的細胞組織中の細胞の数は、生細胞の数であってもよい。立体的細胞組織中の生細胞の数は、1.5×10個以上であってもよい。
【0043】
実施例において後述するように、底面積が0.33cmであるセルカルチャーインサートにおいて、立体的細胞組織を、FGF2を含むFBS含有DMEMで培養した場合、立体的細胞組織の生細胞の数を1.5×10個以上とすることができる。すなわち、ウェル内の立体的細胞組織は4.0×10個/cm以上であるということもできる。
【0044】
前記立体的細胞組織の製造方法の工程(A)〜(B)または(A)〜(B’)を繰り返すことで、細胞集合体または細胞の沈殿体を積層することが可能である。これにより、複数の層を有する立体的細胞組織を構築することができる。この場合、複数種類の細胞を用いて、異なる種類の細胞によって構成される立体的細胞組織を構築してもよい。前記立体的細胞組織の製造方法によれば、構築される立体的細胞組織の厚さは約5〜約300、約400、あるいは約500μmである。好ましくは、60μm以上、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは250μm以上である。本発明の上記方法の工程(A)〜(B)または(A)〜(B’)を繰り返すことにより、例えば、厚さが150〜500μmと厚みがあるにもかかわらず、内部に空隙の少ない立体的細胞組織が得られる。本実施形態では、構築される立体的細胞組織における細胞層の数は1〜約100層であることが好ましく、約10〜約100層であることがより好ましい。細胞層とは、立体的細胞組織の厚み方向の断面の切片画像において、細胞核を認識できる倍率、つまり、染色した切片の厚みの全体が視野に入る倍率で観察した際に、細胞の自重、高さ方向に対して細胞核が重ならない時に別の層と定義する。なお、その際、自重と垂直(横)方向の視野は、少なくとも200μm以上は確保する。なお、本実施形態においては、100〜200倍の倍率で立体的細胞組織の厚み方向の断面の切片画像を観察する。
【0045】
前記立体的細胞組織の製造方法の工程(A)〜(B)または(A)〜(B’)を繰り返すことで得られた立体的細胞組織は、従来の細胞の積層方法により得られた立体的細胞組織と比較して、単位厚み当たりの細胞層の数が少ない。前記立体的細胞組織の製造方法において、構築される立体的細胞組織は、生体外で得られる。また、前記立体的細胞組織の製造方法に係る立体的細胞組織は、細胞と、細胞外マトリックス成分とを含有し、厚み10μm当たりの細胞層の数が、2.8層以下であり、好ましくは2.5層以下であり、より好ましくは2.2層以下である。前記立体的細胞組織の製造方法において、得られた立体的細胞組織において、厚みが最大となる位置(最大地点)を含む領域における厚み方向100μm、幅方向50μmの面積あたりの細胞数が5個以上70個以下であることが好ましく、10個以上60個以下であることがより好ましく、15個以上50個以下であることがさらに好ましい。
本実施形態においては、組織の厚み方向の断面からなる切片を用いて、細胞数を以下のように測定することができる。当該切片において、所定の大きさ以上の空隙がない領域のうち、立体的細胞組織の厚みが最大になる位置(最大地点)を決定する。厚みの最大値付近を含む幅50μmの短冊状(組織の天面から底面までを含む)の領域を測定領域として、当該測定領域中に含まれる細胞核の数を計数する。当該測定領域には空隙を含まないようにする。なお、空隙の所定の大きさとは、最大径50μm以上をいう。空隙の最大径とは空隙が矩形の場合は長辺、球形の場合は直径、楕円形の場合は長径、不定形の場合は略楕円に近似した場合の長径をいう。なお、HE染色した切片上で空隙は染色されない。但し、厚みの最大値を含む領域の天面が凸形状の場合、組織が基材から剥離している場合もある。このような場合はその最大値近傍でかつ天面が比較的平坦な領域を測定領域とする。この場合、厚みの最大値付近を含む幅方向100μm〜650μmの領域を測定領域とする。
計数した当該測定領域に少なくとも一部分が含まれている細胞核は、測定領域に含まれ
る細胞核として計数する。計数した細胞数から、厚み方向100μm、幅方向50μmの
面積あたりの前記細胞数を算出する。
【0046】
[立体的細胞組織]
1実施形態において、本発明は、上述した立体的細胞組織の培養方法により製造される、立体的細胞組織を提供する。立体的細胞組織の形状は特に限定されず、シート状であってもよく、塊状であってもよく、球状であってもよい。
【0047】
本実施形態のシート状の立体的細胞組織と、例えば、他の方法によって製造された三次元化した組織とは、組織の構造、組織を構成する細胞の活性等に相違が存在する可能性がある。しかしながら、そのような相違が存在するか否かは定かではなく、また、そのような相違を特定して、組織を構成する細胞の活性等により本実施形態のシート状の立体的細胞組織を特定するためには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、実質的に不可能である。したがって、本実施形態のシート状の立体的細胞組織は、上述した製造方法により製造されたことにより特定することが実際的であるといえる。
【0048】
[キット]
1実施形態において、本発明は、上述した立体的細胞組織の培養方法に用いられ、Fibroblast growth factorを含む、立体的細胞組織の培養用キットを提供する。
【0049】
例えば、本実施形態のキットに付属した、Fibroblast growth factorと、細胞とを接触させることにより、立体的細胞組織を容易に製造することができる。
【0050】
FGFは、水溶液中で分解されやすいため、本実施形態のキットに付属したFGFは、粉末であることが好ましい。
【0051】
FGFとしては、培養方法において上述したものであってもよく、好ましくは、FGF2である。
【0052】
本実施形態のキットは、培地を更に含んでもよい。培地としては、例えば、培養方法において上述したものを用いることができる。
【0053】
本実施形態のキットは、血清を更に含んでもよい。上述の基礎培地には、血清を添加することが好ましい。培地に添加する血清としては、例えば、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清等が挙げられる。
【0054】
本実施形態のキットは、培養容器を更に含んでもよい。培養容器としては、培養方法において上述したものを用いることができる。培養容器としては、ディッシュや、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。培養容器は、は透過膜を有するものであってもよい。
【0055】
本実施形態のキットは、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分又は高分子電解質を更に含んでもよい。カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、高分子電解質としては、培養方法において上述したものが挙げられる。
【0056】
本実施形態のキットは、立体的細胞組織の培養方法を行うことを指示する説明書を含んでもよい。説明書に従って、高品質の立体的細胞組織を再現性良く培養することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範
囲を限定するものではない。以下の実施例において、特に説明がない限り、コラーゲンとしてコラーゲンIを用いた。
【0058】
[実験例1]FGFを含有する培養培地による立体的細胞組織の培養1
<立体的細胞組織の構築および培養>
(サンプルA)
2.0×10細胞の正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)および1.0×10細胞のRFP導入ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、150μLの0.2mg/mL ヘパリン/50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.4)と、150μLの0.2mg/mL コラーゲン/5mM 酢酸溶液(pH3.7)溶液との等量混合液に懸濁した。得られた混合物を室温、1000×gで1分間、遠心し、粘稠体を得た。得られた粘稠体を10%FBS含有DMEMに懸濁した。得られた懸濁液の全量を24well セルカルチャーインサート(底面積0.33cm)内に播種し、室温、400×g(重力加速度)で1分間、遠心した。これにより、セルカルチャーインサート上に細胞集合体を形成した。次いで、10%FBS含有DMEMをセルカルチャーインサートの内側および外側の合計液量が2mL超となる様に添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて培養した(この培養を開始した時点を培養開始時点とする)。培養開始時点から24時間培養後、5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から、48時間後、120時間後、144時間後、168時間後に、同様にして5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0059】
<立体的細胞組織の免疫組織染色>
培養開始時点から192時間後の時点での立体的細胞組織をホルマリン固定し、パラフィン包埋切片を作製した。パラフィン包埋切片の作製は公知の方法に従った。作製した切片について、抗CD31抗体による組織免疫染色を行った。組織免疫染色は公知の方法に従った。
【0060】
<立体的細胞組織の分散液の作成>
培養開始時点から192時間後の時点での立体的細胞組織について、当該セルカルチャーインサート内の培地を除いた後、PBSを適量添加し、その後、液体成分を十分に除去した。この洗浄操作を繰り返し3回実施した。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を200μL添加し、COインキュベータ(37℃,5%CO)で15分間インキュベートした。その後、溶液全量を回収用1.5mLチューブに移した。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を200μL添加し、COインキュベータ(37℃,5%CO)で5分間インキュベートし、その後同様にして溶液全量を回収用1.5mLチューブに移した。更に、トランズウェルセルカルチャーインサートにPBSを200μL添加し、攪拌した後、その溶液全量を回収した。回収溶液全量に対し、DMEM400μLを加え、合計1mLの分散液を得た。
【0061】
<分散液中の生細胞数測定>
得られた立体的細胞組織の分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、RFPの蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)を使用して行った。
【0062】
(サンプルB)
サンプルAと同様にして作成した立体的細胞組織について、サンプルAと同様に10%FBS含有DMEMで24時間培養した後、15ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、48時間後、120時間後、144時間後、168時間後に、同様にして15ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養した立体的細胞組織について、サンプルAと同様にして、免疫組織染色および生細胞数測定を実施した。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
(サンプルC)
サンプルAと同様にして作成した立体的細胞組織について、サンプルAと同様に10%FBS含有DMEMで24時間培養した後、FGFを加えない10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、48時間後、120時間後、144時間後、168時間後に、同様にしてFGFを加えない10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養した立体的細胞組織について、サンプルAと同様にして、免疫組織染色および生細胞数測定を実施した。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0063】
サンプルA、B、Cの生細胞数測定の結果を表1及び図1に示す。尚、図中の「初日」は、各サンプルと同タイミングで作成した立体的細胞組織体について培養開始時点から24時間後の時点で分散液を作成し、生細胞数測定を行った際の値である。図1に示した通り、FGFを含む培地で培養したサンプルA、BはサンプルCと比較して、生細胞数の経時減少が有意に抑制できていることが分かった。
【0064】
【表1】
【0065】
サンプルA、B、Cのそれぞれの免疫組織染色の顕微鏡観察図を図2A〜Cに記載する。また、組織染色過程の影響で極端な組織の収縮や形状の崩れが見られる両端部を除いた任意の3点の拡大図も併せて図2A〜Cに記載する。更に、図2A〜Cの各拡大図において点線で表示した領域の長さを表2に示す。図2A〜Cおよび表2の結果から、サンプルCに比べて、サンプルA、Bの組織の厚みは優位に厚く、その結果組織内部の管腔(組織内部で縁が黒く染色されている部分)が全体的により大きく形成できていることが分かった。また、FBS含有DMEMを、FGF2を含むFBS含有DMEMに交換することにより、組織の厚みを維持できることが明らかになった。
【0066】
【表2】
【0067】
[実験例2]FGFを含有する培養培地による立体的細胞組織の培養2
<立体的細胞組織の構築および培養>
(サンプルA)
2.0×10細胞の正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)および1.0×10細胞のRFP導入ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、150μLの0.2mg/mL ヘパリン/50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.4)と、150μLの0.2mg/mL コラーゲン/5mM 酢酸溶液(pH3.7)溶液との等量混合液に懸濁した。得られた混合物を室温、1000×gで1分間、遠心し、粘稠体を得た。得られた粘稠体を10%FBS含有DMEMに懸濁した。得られた懸濁液の全量を24well セルカルチャーインサート内に播種し、室温、400×g(重力加速度)で1分間、遠心した。これにより、セルカルチャーインサート上に細胞層を形成した。次いで、10%FBS含有DMEMをセルカルチャーインサートの内側および外側の合計液量が2mL超となる様に添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて培養した(この培養を開始した時点を培養開始時点とする)。培養開始時点から24時間培養後、5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後、168時間後に、同様にして5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0068】
<立体的細胞組織の分散液の作成、および生細胞数の測定>
培養開始時点から192時間後の時点での立体的細胞組織について、実施例1と同様にして、合計1mLの分散液を得て、当該分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、RFPの蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)を使用して行った。
【0069】
(サンプルB)
サンプルAと同様にして作成した立体的細胞組織について、サンプルAと同様に10%FBS含有DMEMで24時間培養した後、5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、72時間後、120時間後、168時間後に、同様にして5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養した立体的細胞組織について、サンプルAと同様にして、生細胞数測定を実施した。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0070】
(サンプルC)
サンプルAと同様にして作成した立体的細胞組織について、サンプルAと同様に10%FBS含有DMEMで24時間培養した後、5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、96時間後、168時間後に、同様にして5ng/mLのFGF2を含む10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養した立体的細胞組織について、サンプルAと同様にして、生細胞数測定を実施した。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0071】
(サンプルD)
サンプルAと同様にして作成した立体的細胞組織について、サンプルAと同様に10%FBS含有DMEMで24時間培養した後、FGFを加えない10%FBS含有DMEMに培地交換した。以降、培養開始時点から換算して、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後、168時間後に、同様にしてFGFを加えない10%FBS含有DMEMによる培地交換を行った。培養した立体的細胞組織について、サンプルAと同様にして、生細胞数測定を実施した。培養終了後、立体的細胞組織の底面積が変化するような外観上の変化(ウェルカルチャーインサートからの剥がれ等)は観察されなかった。
【0072】
サンプルA、B、C、Dの生細胞数測定の結果を表3及び図3に示す。尚、表3中及び図3中の「初日」は、各サンプルと同タイミングで作成した立体的細胞組織体について培養開始時点から24時間後の時点で分散液を作成し、生細胞数測定を行った際の値である。表3及び図3に示した通り、FGF2を加えた培地で培養したサンプルA、B、CはサンプルDと比較して、生細胞数の経時減少が有意に抑制できていることが分かった。更に、72時間に一度の培地交換を行ったサンプルCは、サンプルA、Bと比較しても遜色なく、サンプルDに対して有意に細胞数の減少を抑制できていたことから、培地交換後、48時間経過後に培地内に残留しているFGF量であっても、立体的細胞組織の体積の減少を抑制する効果が発揮されていることが分かった。生理条件下におけるFGF2の半減期が約8時間程度であることを考慮すると、培養開始時点のFGF濃度が5ng/mLだったとすれば48時間後には約100pg/mL程度となっていることから、少なくとも100pg/mL超のFGF2を含む培地であれば、立体的細胞組織の体積の減少を抑制する効果が発揮されることが示された。
【0073】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の方法を用いることで、従来技術と比較してより厚い立体的細胞組織を製造することができる。また、本発明の方法を用いることで、従来技術と比較してより安定的に立体的細胞組織を製造することができる。これにより、これまで安定的に構築することが困難であった厚さの立体的細胞組織を安定的に製造することが可能になる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3