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特開2020-202825酵素固定化体及びそれを備えた測定装置ならびにアスパラギン及びL−アスパラギン酸の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-202825(P2020-202825A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】酵素固定化体及びそれを備えた測定装置ならびにアスパラギン及びL−アスパラギン酸の測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/00 20060101AFI20201127BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20201127BHJP
【FI】
   C12N11/00
   C12Q1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-99760(P2020-99760)
(22)【出願日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2019-109874(P2019-109874)
(32)【優先日】2019年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥河内 貴大
(72)【発明者】
【氏名】林 隆造
(72)【発明者】
【氏名】老川 典夫
【テーマコード(参考)】
4B033
4B063
【Fターム(参考)】
4B033NA23
4B033NA26
4B033NB22
4B033NB24
4B033NB32
4B033NC03
4B033ND16
4B033NE05
4B063QA01
4B063QQ15
4B063QQ22
4B063QQ30
4B063QR02
4B063QR10
4B063QR82
4B063QS36
4B063QX05
(57)【要約】
【課題】安定に繰り返し使用可能であり、更に簡便且つ効率良くアスパラギンを定量することができる酵素固定化体を備えた測定装置を提供する。
【解決手段】アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、該アスパラギナーゼ固定化体の下流側に配置されたL−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたアスパラギンの測定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体。
【請求項2】
前記L−アスパラギン酸オキシダーゼが、サーモコッカス・リトラリスに属する微生物由来のものである、請求項1に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたL−アスパラギン酸の測定装置。
【請求項4】
アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、該アスパラギナーゼ固定化体の下流側に配置された請求項1又は2に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたアスパラギンの測定装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備え、更に該電気化学的活性物質を検知する機構の下流側に、アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、請求項1又は2に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とをこの順で備えたL−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定装置。
【請求項6】
L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてL−アスパラギン酸を検知する工程を含む、L−アスパラギン酸の測定方法。
【請求項7】
アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてアスパラギンを検知する工程を含む、アスパラギンの測定方法。
【請求項8】
L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてL−アスパラギン酸を検知する工程、
アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いて検体中のアスパラギンを検知する工程
を含む、L−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定方法。
【請求項9】
各酵素固定化体に送液される緩衝液のpHが8.0以上である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項10】
各酵素固定化体に送液される緩衝液がリン酸塩緩衝液である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項11】
アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体。
【請求項12】
請求項11に記載のアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体と、該混合固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたアスパラギンの測定装置。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備え、更に該電気化学的活性物質を検知する機構の下流側に、請求項11に記載のアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とをこの順で備えたL−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定装置。
【請求項14】
アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてアスパラギンを検知する工程を含む、アスパラギンの測定方法。
【請求項15】
L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてL−アスパラギン酸を検知する工程、
アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いて検体中のアスパラギンを検知する工程
を含む、L−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−アスパラギン酸からの物質転換を実現する酵素固定化体及び該固定化体を備えた測定装置に関する。さらに、該固定化体を用いるアスパラギン及びL−アスパラギン酸の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラギンはアミノ酸輸液の成分として用いられる他、食品用途では調味料、フレーバー原料としても利用されている。近年では、動物細胞培養による抗体医薬等のタンパク質生産の際に、培地に添加することで生産性が向上するとの報告がなされている。
【0003】
しかしながら、アスパラギンを簡便に定量するのは容易ではない。一般的には高速液体クロマトグラフ法、特にアミノ酸分析計が利用される。この方法では、試料のろ過、脱色、除菌などの前処理が必須であり、かつ分析に1時間以上を要すること、更に装置自体が高価で、メンテナンスが煩雑であるなどの問題点があり、日常的に簡便に利用できるものではない。
【0004】
溶液の酸化酵素を用いた一般的な酵素法により、アスパラギン酸の定量は可能であると考えられる。非特許文献1で報告されているように、アスパラギン酸オキシダーゼによる反応で得られた過酸化水素を、フェノールと4−アミノアンチピリンの存在下でペルオキシダーゼと反応させ、生成した酸化的縮合物の吸光度から試料中のアスパラギン酸濃度を定量することは可能である。
【0005】
そして、アスパラギン酸オキシダーゼの反応の前に、非特許文献2に記載されているようなアスパラギナーゼの反応を追加すればアスパラギンの定量も可能となると考えられる。
【0006】
しかしながら、溶液酵素法は試料のろ過、脱色、除菌等の前処理が必要であり、操作が煩雑である。また、酵素や試薬類は一度の反応で使い捨てであり、分析コストが上がってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tsubasa Washio, et al., Extremophiles, 22, 59-71(2018)
【非特許文献2】Hanne V. Hendriksen, et al., J. Agric. Food Chem., 57, 4168-4176(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安定に繰り返し使用可能であり、更に簡便且つ効率良くアスパラギン及びL−アスパラギン酸を定量することができる酵素固定化体及び該固定化体を備えた測定装置を提供することを目的とする。また、簡便且つ効率良くアスパラギン及びL−アスパラギン酸を定量可能な測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体を開示する。また、アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体を開示する。
【0010】
特にL−アスパラギン酸オキシダーゼ(以下、AspOXと称することもある)が、サーモコッカス・リトラリスに属する微生物由来のものであることが好ましい。
【0011】
また、上記のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたL−アスパラギン酸の測定装置を開示する。
【0012】
さらに、アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、該アスパラギナーゼ固定化体の下流側に配置された上記のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備えたアスパラギンの測定装置を開示する。
【0013】
他の構成として、上記のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、該L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流側に配置された電気化学的活性物質を検知する機構とを備え、更に該電気化学的活性物質を検知する機構の下流側に、アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、上記のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とをこの順で備えたL−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定装置を開示する。
【0014】
上記の各測定装置は、固定化体の上流側に、緩衝液の流れを形成する機構と、該緩衝液流に試料を注入する機構とを更に備えていることが好ましい。
【0015】
また、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてL−アスパラギン酸を検知する工程を含む、L−アスパラギン酸の測定方法を開示する。
【0016】
さらに、アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてアスパラギンを検知する工程を含む、アスパラギンの測定方法を開示する。
【0017】
他の構成として、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いてL−アスパラギン酸を検知する工程、
アスパラギナーゼが固定化されたアスパラギナーゼ固定化体と、L−アスパラギン酸オキシダーゼが固定化されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、電気化学的活性物質を検知する機構とを用いて検体中のアスパラギンを検知する工程
を含む、L−アスパラギン酸及びアスパラギンの測定方法を開示する。
【0018】
特に各酵素固定化体に送液される緩衝液のpHが8.0以上であること、各酵素固定化体に送液される緩衝液がリン酸塩緩衝液であることが好ましい。
【0019】
上記の各測定装置及び各測定方法において、別々のアスパラギナーゼ固定化体とL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体とを使用する代わりに、アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体を使用することもできる。
【発明の効果】
【0020】
L−アスパラギン酸オキシダーゼの固定化体を使用することにより、簡便且つ効率良くアスパラギン及びL−アスパラギン酸を定量することが可能となり、更に安定に繰り返し使用可能であるので分析コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】フロー型測定装置の概略図である。
図2】フロー型測定装置の概略図である。
図3】pHと変換率の関係を示すグラフである。
図4】pHと相関係数の関係を示すグラフである。
図5】カラム反応温度と変換率の関係を示すグラフである。
図6】アスパラギン検量線を示すグラフである。
図7】アスパラギン検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
L−アスパラギン酸オキシダーゼ(L-aspartate oxidase)(EC 1.4.3.16)は、下記の反応を触媒する(式1)。
L−アスパラギン酸 + O + HO →
オキサロ酢酸 + 過酸化水素 + NH (式1)
【0024】
アスパラギナーゼ(asparaginase)(EC 3.5.1.1)は、下記の反応を触媒する(式2)。
L−アスパラギン + HO → L−アスパラギン酸 + NH (式2)
【0025】
アスパラギンにアスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとを作用させることにより、アスパラギナーゼによる加水分解反応に伴い生成されたL−アスパラギン酸は、L−アスパラギン酸オキシダーゼにより酸化され過酸化水素が生成することになる。
【0026】
本発明においてアスパラギンは、好ましくはL−アスパラギンである。
【0027】
本発明におけるL−アスパラギン酸オキシダーゼ及びアスパラギナーゼとしては何れの生物由来のものであってもよい。本明細書において、ある生物(微生物、動物、植物)由来の酵素とは、当該生物が産生する酵素自体であってもよく、更に該酵素のアミノ酸配列において、1又はそれ以上のアミノ酸を置換、付加、欠失、挿入させることで得られる改変体を広く包含する。
【0028】
L−アスパラギン酸オキシダーゼ及びアスパラギナーゼの固定化方法としては、物理吸着法、イオン結合法、包括法、共有結合法などタンパク質の固定化方法として公知の方法を利用できるが、中でも共有結合法が長期安定性に優れ望ましい。タンパク質を共有結合させる方法としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド基を有する化合物を用いるか、多官能基性アシル化剤を利用する方法、スルフヒドリル基を架橋させる方法など各種の方法を利用できる。
【0029】
酵素固定化体の形状としては、膜に固定化することもできるし、不溶性担体に固定化し担体をカラムリアクタに充填して用いることもできる。さらに、固定化の際に他種の酵素あるいはゼラチンや血清アルブミンなどのタンパク質、ポリアリルアミンやポリリジンなどの合成高分子を共存させ、酵素固定化体の特性、すなわち膜強度、基質透過特性などを変更することもできる。
【0030】
酵素を不溶性担体に固定化する場合の担体としては、無機質の担体としてケイソウ土、活性炭、アルミナ、酸化チタン、シリカゲル、有機質の担体として架橋処理デンプン粒子、セルロール系高分子、キチン、キトサン誘導体などの公知の担体を利用できる。上記の中でも無機質の担体が、耐圧性に優れ安定した検量線を確保する上で特に好ましい。
【0031】
L−アスパラギン酸オキシダーゼ及びアスパラギナーゼはそれぞれ別々の固定化体とすることもできるし、混合した状態で同一の膜又は担体上に固定化された混合固定化体とすることもできる。混合固定化体とする場合の膜又は担体としては、先に例示した膜又は担体を用いることができる。
【0032】
L−アスパラギン酸オキシダーゼは、超好熱菌、中等度好熱菌あるいは常温菌など広範な微生物から取得することができる。一般的に超好熱菌から精製された酵素を固定すると、固定化体の耐熱特性もよい。ただし、同時に利用する酵素の至適温度によりL−アスパラギン酸オキシダーゼの最も適したものは変わってくる。
【0033】
本発明におけるL−アスパラギン酸オキシダーゼは、サーモコッカス属、特にサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)に属する微生物由来のものであることが好ましい。サーモコッカス・リトラリスに属する微生物由来のL−アスパラギン酸オキシダーゼは、基質特異性が高く、その上、耐熱性にも優れている(非特許文献1参照)。
【0034】
酵素の固定化量については、分析に用いる担体の粒度、試料の接触時間などにより変化するが、固定化カラムを利用したリアクタ形式の場合、L−アスパラギン酸オキシダーゼ及びアスパラギナーゼについては、1つのカラム内に1〜20mg、より好ましくは5〜15mgを固定化することが望ましい。いずれの酵素についても、あまり活性が低いと反応の進行が遅くて所定の分析感度が得られないことが多く、逆に多すぎるとコストが上昇するため望ましいことではない。
【0035】
L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の至適pHは、7.5以上、より好ましくは8.0以上、特に8.0〜8.5である。このようなpHの範囲の緩衝液を測定時に使用することが活性及び測定精度の面で好適である。このpH域において、リン酸塩緩衝液を使用することが活性及び測定精度の面で特に好適である。緩衝液には、電気化学的検出の安定性を確保する意味で、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を適宜添加してもよい。また、該緩衝液には、必要により、FAD、制菌剤、界面活性剤などが含まれていてもよい。FADが含まれることで感度を向上させることができる。該緩衝液中のFADの濃度は、好ましくは5〜1000μM、より好ましくは10〜1000μMである。あまり低濃度では効果が認められないが、補酵素は緩衝液に利用する無機塩類に比べて高価であり、不必要に高濃度添加すると分析コストの上昇原因となる。制菌剤としてはアジ化ナトリウム、次亜塩素酸ソーダ、抗生物質などが挙げられる。界面活性剤は測定系の汚染を防ぐ意味で添加され、公知の中性もしくは両性界面活性剤の使用が望ましい。
【0036】
また、実際に分析を行う場合、室温の変動に測定結果が影響を受けることを避け、かつ酵素反応により生成した過酸化水素などの電気化学的活性物質の検出を行う電極の感度を高める上でも、多用される温度は30〜50℃である。
【0037】
過酸化水素は、公知の方法により直接、間接的に測定することができる。過酸化水素の高感度計測には、アンペロメトリー等の電気化学的な手法を用いるのがよい。
【0038】
固定化された酵素に試料を一定時間接触させて反応を進行させるには、試料液を一定時間撹拌しながら反応を起こさせるバッチ方式でも可能であるが、より高精度の測定を実施するためにフロー方式の測定を用いることが望ましい。もちろん、固定化する担体の表面積は一定であるので固定化できる酵素量には限界があるし、固定化する酵素量を増やすとコストも高くなる。そのため、できるだけ低い酵素量で効率的に酵素反応を行うことが望ましい。そのための方法としては、酵素固定化体と試料の接触時間を増加させることが挙げられる。接触時間を増加させるには担体の粒度を小さくして接触面積を増やすか、流量を低下させる、あるいは酵素固定化体と試料が接触した状態で一定時間送液を停止させるとよい。
【0039】
試料中にアスパラギンとL−アスパラギン酸が混合していると、アスパラギナーゼ固定化体及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体の下流にある電気化学的活性物質を検知する機構は両方を検知するため、試料注入機構の下流に、L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と、その下流側に電気化学的活性物質を検知する機構(第1の機構)を配置し、更に該電気化学的活性物質を検知する機構の下流側に、アスパラギナーゼ固定化体と、L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体と(又はアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体と)、電気化学的活性物質を検知する機構(第2の機構)とを順次配置して測定することにより最初から試料中に存在するL−アスパラギン酸の影響を除去することが可能である。つまり、少なくともひとつの既知濃度のL−アスパラギン酸及びアスパラギンを順次注入し、緩衝液の流れの上流に配置されたL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体による電気化学的活性物質を検知する機構の検出値とL−アスパラギン酸濃度から第1の検量線を作成し、下流に配置したアスパラギナーゼ固定化体、L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体を順次配置した固定化体(又はアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体)による電気化学的活性物質を検知する機構の検出値とL−アスパラギン酸及びアスパラギンの濃度から第2及び第3の検量線を作成する。そして、未知試料注入時の第1の機構の検出値を第1の検量線に当てはめてL−アスパラギン酸濃度を算出し、該濃度を第2の検量線に代入し、第2の機構の検出値に対するL−アスパラギン酸の寄与を補正し、第3の検量線を用いてアスパラギン濃度を算出すればよい。
【0040】
本発明ではより高精度の測定を行えるフロー方式の装置を開示する。図1に示される、本発明の1つの好ましい実施形態は、緩衝液ボトル(1)とポンプ(2)と、試料を注入するオートサンプラ(3)よりなる。オートサンプラ(3)の下流にアスパラギナーゼ(5)、L−アスパラギン酸オキシダーゼ(6)の順に配置する。その下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極を配置する。この場合は過酸化水素電極(7)である。過酸化水素電極(7)の電流値の変化を電流電圧変換器(8)で電圧変化とし、ボードコンピュータ(9)でデジタル化してパーソナルコンピュータ(11)にデータを送り解析する。分析に使用された廃液は廃液ボトル(10)に排出される。
【0041】
この装置に流す緩衝液は特に限定されないが、酵素固定化体の活性が高くなるようなpH(例えばpH 7.5以上、より好ましくは8.0以上、特に8.0〜8.5)になるように選択する。緩衝液としては、リン酸塩緩衝液を使用することが特に好適である。
【0042】
恒温槽(4)の温度は25〜40℃、より好ましくは30〜39℃の一定温度で利用する。流量は0.1〜2.0mL/分の範囲、より好ましくは0.5〜1.5mL/分で送液する。
【0043】
また、図2に示される装置でも本発明を実施することができる。図2に示される実施態様は、図1に示される実施態様において別々の固定化カラムリアクタとして配置されていたアスパラギナーゼ(5)、L−アスパラギン酸オキシダーゼ(6)を、アスパラギナーゼとL−アスパラギン酸オキシダーゼとが混合した状態で固定化されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化カラムリアクタ(56)に変更したものである。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて、本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(I)L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化カラムの製造方法
アミノシラン化処理したシリカゲル担体約75mgを1mLの5%グルタルアルデヒドに浸漬し、15分間減圧下に置き、45分間静置した。その後、グルタルアルデヒドをピペットで除去した後、MilliQ水で二回洗浄し、最後にpH 7.0、100mMのリン酸緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておいた。このホルミル化したシリカゲル担体にサーモコッカス・リトラリス由来L−アスパラギン酸オキシダーゼを1mgP/75mg担体となるように添加し、担体に酵素が十分に馴染むように15分間減圧下に置いた。常圧に戻した後、4℃で1晩静置し固定化した。この酵素固定化担体約75mgを内径3.5mm、長さ15mmのカラムに充填した。
【0046】
(II)アスパラギナーゼ固定化カラムの作製
アスパラギナーゼ固定化カラムは、上記のL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化カラムの製造方法と同様の方法で作製した。
【0047】
(III)過酸化水素電極の製造方法
過酸化水素電極はガラス板上に貴金属を蒸着法により成膜したものを用いた。厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板上に白金、白金、銀の3本の貴金属を蒸着した。銀は参照電極として、白金の1本は作用電極、もう1本は電子供給に用いる対極として利用した。貴金属薄膜を成膜したものの上に、セルロースアセテートを1μmの厚さでスピンコートした。なお、セルロースアセテートは過酸化水素のように低分子量の化合物を透過し、アスコルビン酸のような分子量が比較的大きく、過酸化水素と同電位で酸化される化合物が白金作用電極表面に到達するのを妨げる。
【0048】
このように作製したガラス板上に貴金属薄膜を形成したものをフローセルに組み込み、塩化銀化された銀電極に対して+0.65Vの電圧を白金電極に印加した。
【0049】
(IV)測定装置
図1はフロー型の測定装置に前述のアスパラギナーゼ固定化カラム及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化体を装着したものである。緩衝液槽(1)より緩衝液をポンプ(2)により送液し、オートサンプラ(3)より試料4μlを注入した。送液された試料は、恒温槽(4)中に設置されたアスパラギナーゼ固定化カラム(5)とL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化カラム(6)とを通過し、アスパラギンから過酸化水素が生成する。生成した過酸化水素は、下流の過酸化水素電極(7)を通過し、電流値の変化を生じさせる。
【0050】
電流値の変化は、電流電圧変換器(8)で電圧変化とし、ボードコンピュータ(9)でデジタル化してパーソナルコンピュータ(11)にデータを送り解析する。分析に使用された廃液は廃液ボトル(10)に排出される。緩衝液の流速は1.0ml/分、恒温槽の温度は37℃とした。なお、以下の(V)〜(VII)では、アスパラギナーゼ固定化体を装着していない測定装置を使用した。
【0051】
(V)変換率の算出方法
0、1、2、5mMにそれぞれ調整したL−アスパラギン酸標準物を測定装置に注入し、各濃度の標準物における検出電流値を記録した。横(X)軸に標準物の濃度、縦(Y)軸に検出電流値となるように検出電流値の値をグラフにプロットした後、最小二乗法により、濃度と検出電流値の関係を表す検量線を作成した。このとき、検量線はY=aX+bの一次直線であり、傾きであるaは単位濃度(1mM)当りの電流値を表す。過酸化水素(HPO)も同様の方法で濃度と検出電流値の関係を表す検量線を作成し、傾きを算出した。
【0052】
L−アスパラギン酸/HPO変換率はL−アスパラギン酸検量線の傾きとHPO検量線の傾きの比率で、L−アスパラギン酸からHPOへの変換効率を表す値である。この値はカラム中のL−アスパラギン酸オキシダーゼの活性を示す指標になる。
【0053】
(VI)使用緩衝液
pH 7.0〜9.5の間で使用する緩衝液の検討を行った(SPB:リン酸緩衝液、Tris:Tris−HCl緩衝液、NaHCO:炭酸水素ナトリウム緩衝液、FAD:フラビンアデニンジヌクレオチド)。結果を図3図4に示す。pHが上がるにつれ、活性が上昇することが確認された。Trisではより高活性であるなど、イオン種による違いも見られた。検量線の相関係数を緩衝液ごとに計算すると、リン酸緩衝液では検量線の直線性に優れていることが確認された。そのため、正確な分析には、リン酸緩衝液は特に好適であると考えられる。
【0054】
(VII)反応温度
AspOXカラムの反応温度を37℃以上で確認した。結果を図5に示す。好熱菌由来の酵素ということもあり、70℃でも活性を維持し、より高活性となった。
【0055】
(VIII)アスパラギナーゼ固定化体の検討
アスパラギナーゼ固定化体をL−アスパラギン酸オキシダーゼの上流に装着し、リン酸緩衝液pH 8.0、37℃の条件でアスパラギン検量線の作成を行った。結果を図6に示す。直線性が良く、アスパラギン測定が可能であることが確認できた。
【0056】
[実施例2]
(I)アスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化カラムの製造方法
アミノシラン化処理したシリカゲル担体約160mgを2mLの5%グルタルアルデヒドに浸漬し、15分間減圧下に置き、45分間静置した。その後、グルタルアルデヒドをピペットで除去した後、MilliQ水で二回洗浄し、最後にpH 7.0、100mMのリン酸緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておいた。このホルミル化したシリカゲル担体にアスパラギナーゼを3.4mgP/150mg担体、サーモコッカス・リトラリス由来L−アスパラギン酸オキシダーゼを5mgP/150mg担体となるように添加し、担体に酵素が十分に馴染むように15分間減圧下に置いた。常圧に戻した後、4℃で1晩静置し固定化した。この酵素固定化担体約75mgを内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填した。
【0057】
(II)測定装置
実施例1の測定装置(図1)において、アスパラギナーゼ固定化カラム(5)とL−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化カラム(6)に代えて、前述のアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化カラム(56)を装着させる以外は、実施例1と同じフロー型測定装置を用いた(図2を参照)。緩衝液槽(1)より緩衝液をポンプ(2)により送液し、オートサンプラ(3)より試料4μlを注入した。送液された試料は、恒温槽(4)中に設置されたアスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化カラム(56)を通過し、アスパラギンから過酸化水素が生成する。生成した過酸化水素は、下流の過酸化水素電極(7)を通過し、電流値の変化を生じさせる。
【0058】
電流値の変化は、電流電圧変換器(8)で電圧変化とし、ボードコンピュータ(9)でデジタル化してパーソナルコンピュータ(11)にデータを送り解析する。分析に使用された廃液は廃液ボトル(10)に排出される。緩衝液の流速は1.0ml/分、恒温槽の温度は37℃とした。
【0059】
(III)アスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体の検討
アスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化体を測定装置に装着し、リン酸緩衝液pH 8.0、37℃の条件でアスパラギン検量線の作成を行った。結果を図7に示す。単独固定の場合と同様に、直線性の良い検量線が得られ、アスパラギン測定が可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
アスパラギンはアミノ酸輸液の成分として用いられる他、食品用途では調味料、フレーバー原料としても利用されている。近年では、動物細胞培養による抗体医薬等のタンパク質生産の際に、培地に添加することで生産性が向上するとの報告がなされている。本発明によれば簡便で迅速なアスパラギン定量が可能になり、医薬品中、培養液中、食品中などの試料中アスパラギンの定量分析に応用できるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 緩衝液ボトル
2 送液ポンプ
3 オートサンプラ
4 恒温槽
5 アスパラギナーゼ固定化カラムリアクタ
6 L−アスパラギン酸オキシダーゼ固定化カラムリアクタ
56 アスパラギナーゼ及びL−アスパラギン酸オキシダーゼ混合固定化カラムリアクタ
7 過酸化水素電極
8 電流電圧変換器
9 ボードコンピュータ
10 廃液ボトル
11 パーソナルコンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7