【解決手段】制御装置は、溶接時に計測された溶接パラメータの計測値を、基準値を用いて基準計測値に変換する変換部と、変換された基準計測値を用いて近似線を算出する算出部と、近似線に基づき、次回以降の計測時における溶接パラメータの基準計測値に対する値を推定する推定部と、推定された基準計測値の推定値と基準値とを用いて、計測値に対する閾値を調整する調整部と、調整された閾値と、次回以降の計測時における溶接パラメータの計測値とを用いて、溶接の異常判定を行う判定部と、異常判定の結果を出力する出力部と、を備える。
前記所定条件は、前記溶接パラメータの第1基準計測値と、前記第1基準計測値よりも過去の第2基準計測値との差分が所定値以上であることを含む、請求項2に記載の制御装置。
前記所定条件は、前記所定値以上と判定された後に計測され、変換された基準計測値を用いて、前記第1基準計測値が異常値ではないと判定されることを含む請求項3に記載の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0018】
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るアーク溶接異常判定システムを備えたロボット制御システム1の概略構成の一例を示す図である。
図1は、ロボット制御システム1の機能ブロックの一例を含む図でもある。ロボット制御システム1は、プログラム制御された多関節ロボットによってワークWにアーク溶接(以下、単に「溶接」とも称す。)を行うものである。ロボット制御システム1は、ロボット(例えばマニピュレータ)10と、ロボット制御装置20と、入出力端末30と、溶接電源等を含む溶接機40とを備える。ロボット制御装置20及びロボット10が、開示する「ロボット制御システム」の最小構成であるが、入出力端末30や溶接機40を含んで「ロボット制御システム」を構成してもよい。なお、ロボット制御装置20及び入出力端末30は、互いに一体に構成されてもよいし、
図1に示したように互いに別体で構成されてもよい。
【0019】
ロボット制御システム1は、例えば、ロボット制御装置20と各種装置とを互いに接続する各種ケーブルを備え、ロボット制御装置20は各種装置と通信を行う。また、ロボット制御システム1は、後述の溶接ワイヤ14とワークWとの間に高電圧の溶接電圧Vsを供給するための電源ケーブル等も備える。
【0020】
(ロボット10)
ロボット10は、ロボット制御装置20、入出力端末30および溶接機40による制御によってワークWにアーク溶接を行うものである。ロボット10は、サーボ制御部23により出力される移動命令により制御されるロボットモータ101を含む。このロボットモータ101の駆動により多関節アームの移動等が制御される。また、ロボット10は、多関節アームの先端に連結された溶接トーチ13と、多関節アーム等に固定されたワイヤ送給装置と、作業台11とを有している。
【0021】
多関節アームの一端(先端)が溶接トーチ13に連結されて、溶接トーチ13の先端には、溶加材としての溶接ワイヤ14が露出している。溶接トーチ13は、溶接ワイヤ14の先端とワークWとの間にアークを発生させ、そのアークの熱で溶接ワイヤ14およびワークWを溶融させることにより、ワークWに対してアーク溶接を行うものである。溶接トーチ13は、ケーブルに電気的に接続されたコンタクトチップ(図示せず)を有している。コンタクトチップ(以下、「チップ」とも称す。)は、ケーブルから供給される溶接電圧Vsを溶接ワイヤ14に供給するように構成される。なお、このコンタクトチップの消耗により、後述する溶接パラメータの計測値が、交換直後の計測値と比べて異なるように変動する。
【0022】
(ロボット制御装置20)
ロボット制御装置20は、制御部21からの指示に従ってロボット10および溶接機40を制御する。ロボット制御装置20は、さらに、溶接パラメータの計測値を用いて溶接異常の閾値判定を行う。上述した処理を行うため、ロボット制御装置20は、制御部21と、記憶部22と、サーボ制御部23とを含む。
【0023】
記憶部22は、溶接条件記憶部22A、プログラム記憶部22B、及びサンプリングバッファ22Cを含み、各種プログラムや各種データファイルを記憶可能である。
【0024】
溶接条件記憶部22Aは、例えば、溶接電流Is、溶接電圧Vs、ワイヤ送給速度Vfおよび溶接速度Vwのそれぞれの指令値(設定値)、溶接異常の閾値判定に用いる閾値等が記憶される。
【0025】
プログラム記憶部22Bは、多関節アームの動作を制御する制御プログラムや、閾値判定に用いる判定プログラム等を記憶している。制御プログラムや判定プログラムは、例えば、ROM(read only memory)に格納されている。また、プログラム記憶部22Bは、ロボット10の溶接作業の手順が教示された1または複数の作業プログラムを記憶する。1または複数の作業プログラムは、例えば、ハードディスクに格納されている。
【0026】
サンプリングバッファ22Cは、判定プログラムが実行されることにより生成される各種データを記憶する。これらの各種データは、例えば、RAM(Random Access Memory)に格納される。
【0027】
各種データは、例えば、溶接時における溶接電流Isの計測値、溶接機40から得られる溶接電圧Vsの計測値、ワイヤ送給速度Vfの計測値、溶接速度Vwの計測値などの溶接パラメータの計測値である。
【0028】
サーボ制御部23は、ロボット10の各ロボットモータ101を制御するものである。サーボ制御部23は、作業プログラムに記載の移動命令と、ロボット10のエンコーダからの位置情報とに基づいて、ロボット10の各ロボットモータ101を制御する。移動命令には、例えば、移動開始命令、移動停止命令、作業経路(教示点)、およびトーチ姿勢などが含まれ得る。また、サーボ制御部23は、ロボット10のエンコーダからの位置情報に基づいて溶接速度Vwを導出(計測)する。サーボ制御部23は、溶接速度Vwを制御部21に出力する。
【0029】
制御部21は、入出力端末30から入力された作業指令に基づいて、作業プログラムやアーク溶接の異常を判定する判定プログラムを読み出し、その内容を解析する解析部211を有している。解析部211は、解析結果に基づいて、これらのプログラムに記載の指示に対応する命令通知を生成する。
【0030】
制御部21は、解析部211で生成された命令通知の内容に応じて、移動命令や溶接命令を出力する実行部212を有している。実行部212は、例えば、溶接機40から入力されたモニタ情報(例えば、アーク発生通知)に応じて、判定プログラムに基づく監視を開始する通知(監視開始通知)を生成する。また、実行部212は、例えば、溶接距離に応じて、判定プログラムに基づく監視を終了する通知(監視終了通知)を生成する。溶接距離は、例えば、溶接速度Vw×アーク時間Atにより導出される。実行部212は、サーボ制御部23から入力された溶接速度Vwと、アーク発生通知を受け取ってからの時間(アーク時間)とを用いて溶接距離を導出する。
【0031】
制御部21は、実行部212で生成された溶接命令に基づいて、溶接機40に電圧指令値及び電流指令値を出力する溶接制御部213を有している。溶接制御部213は、例えば、溶接命令とともに電圧指令値や電流指令値を溶接機40の溶接電源401に通知する。
【0032】
制御部21は、実行部212からの監視開始通知に従って、アーク溶接の異常を判定する判定プログラムを実行する処理部214を有している。処理部214は、
図2を用いて後述するが、サンプリングバッファ22Cに記憶された溶接パラメータの計測値を用いて基準計測値に変換し、この基準計測値を用いて近似線を算出し、この近似線を用いて次回以降の溶接パラメータの基準計測値を推定する。この推定された溶接パラメータの推定値を用いて異常判定に用いる閾値が適宜調整され、この調整された閾値が用いられることで、消耗品等による溶接パラメータの変動を考慮した閾値判定が行われる。
【0033】
また、溶接制御部213からの様々な指令値に対する計測値の違いを吸収するため、計測値が基準値を用いて基準計測値に変換される。つまり、溶接区間が異なることで溶接条件が異なるが、この溶接条件の違いを吸収し、同じ尺度の閾値で比較が行われる。例えば、各溶接条件で計測された溶接パラメータの計測値が正規化される。なお、処理部214は、異常判定に用いる条件等を、溶接条件記憶部22Aから取得してもよい。
【0034】
制御部21は、溶接機40と通信をすることにより、溶接機40と同期をとり、例えば、アーク溶接の開始や終了、溶接電圧Vsの設定、または、ワイヤ送給速度Vfの設定を指示する。また、制御部21は、溶接機40にワイヤ送給装置の制御を指示し、溶接機40からワイヤ送給装置に対して溶接ワイヤ14を、例えば、アーク溶接の開始や終了、または、溶接電圧Vs等の設定を指示する。
【0035】
(入出力端末30)
入出力端末30は、作業者がロボット10の動作を教示する装置である。入出力端末30は、例えば、コンピュータ等であり、一般的なコンピュータに含まれる制御部、表示部、入力部、通信部および記憶部を有している。
【0036】
入出力端末30の表示部は、映像信号が入力されると、映像を表示する。例えば、アーク溶接の異常判定結果を示すグラフなどが表示される。入出力端末30の入力部は、作業者からの教示を受け付け、作業者の操作に応じて入力信号を生成し、制御部に出力する。入出力端末30の通信部は、ケーブルを介してロボット制御装置20と通信を行い、制御部からの作業指令を、ロボット制御装置20に送信する。また、この通信部は、ロボット制御装置20からの監視情報を受信して、制御部に出力する。入出力端末30の記憶部は、各種のモードで種々の表示や作業指示を可能にする教示プログラムを記憶する。教示プログラムは、例えば、ROMに格納されている。
【0037】
入出力端末30の制御部は、映像信号を生成し、表示部に出力すると共に、必要に応じて作業指令を生成し、通信部に出力する。制御部は、読み出した教示プログラムに従って映像信号を生成したり、必要に応じて作業指令を生成したりする。例えば、制御部は、通信部から監視情報を取得したときには、取得した監視情報を表示するための映像信号を生成する。
【0038】
(溶接機40)
溶接機40は、ロボット制御装置20による制御に基づいて、溶接電流Is、溶接電圧Vsおよびワイヤ送給速度Vf等を制御することにより、溶接ワイヤ14の先端とワークWとの間にアークを発生させる。溶接機40は、溶接電源401や、溶接監視部402等を有している。
【0039】
溶接機40は、ロボット制御装置20からの溶接命令に基づいて、ワイヤ送給装置の動作を制御する。ロボット制御装置20からの溶接命令には、例えば、電圧指令、電流指令、ワイヤ送給の開始命令、ワイヤ送給の停止命令、およびワイヤ送給速度Vfの設定値などが含まれ得る。
【0040】
溶接電源401は、例えば、デジタルインバータ回路を有しており、外部から入力される商用電源(例えば3相200V)をインバータ制御回路によって高速応答で精密な溶接電流波形制御を行う。すなわち、溶接電源401は、溶接トーチ13とワークWとの間に高電圧の溶接電圧Vsを供給する。溶接電源401は、ロボット制御装置20からの電圧指令値及び電流指令値に従って、溶接電流Is及び溶接電圧Vsを制御する。ロボット制御装置20からの溶接命令には、例えば、アーク溶接の開始命令、アーク溶接の終了命令、電流指令に含まれる溶接電流Isの設定値(指令値)、又は電圧指令に含まれる溶接電圧Vsの設定値(指令値)などが含まれ得る。
【0041】
溶接監視部402は、溶接トーチ13とワークWとの間に流れる溶接電流Isや、溶接トーチ13とワークWとの間の溶接電圧Vsを計測する。溶接監視部402は、溶接電流Isおよび溶接電圧Vsのそれぞれの計測値を、ロボット制御装置20のサンプリングバッファ22Cに出力する。また、溶接監視部402は、ワイヤ送給装置のモータから出力されたパルス(または、上記のパルスの代わる何らかの信号)に基づいて、ワイヤ送給速度Vfを計測し、ワイヤ送給速度Vfの計測値をロボット制御装置20のサンプリングバッファ22Cに出力する。
【0042】
(アーク溶接の異常判定処理)
図2は、実施形態に係る処理部214の機能の一例を示すブロック図である。
図2に示す例では、処理部214は、第1変換部300、算出部302、推定部304、調整部306、第1判定部308、出力部310、及び第2判定部312を含む。
【0043】
第1変換部300は、溶接パラメータの計測値を、基準値を用いて基準計測値に変換する。これは、溶接パラメータの指令値(設定値)が違う場合であっても、同じ尺度で閾値判定ができるようにするためである。例えば、溶接パラメータの一例として、溶接電流を用いる場合、電流指令値が150A、200Aの2つの異なる溶接区間があり、それぞれの計測値が140A、210Aであったとする。このとき、第1変換部300は次の式(1)を用いて基準計測値を求める。
基準値/電流指令値×計測値=基準計測値 ・・・式(1)
【0044】
第1変換部300は、基準値を100Aにして上記例を用いると、1つ目の基準計測値として、93A(=100/150×140)、2つ目の基準計測値として、105A(=100/200×210)を算出する。例えば、第1変換部300は、基準値を用いて、各計測値を正規化し、正規化後の計測値を基準計測値として用いてもよい。変換された基準計測値は、算出部302に出力される。
【0045】
算出部302は、第1変換部300により変換された基準計測値を用いて近似線(近似曲線又は近似直線)を算出する。例えば、算出部302は、溶接パラメータの一例である溶接電流を用いて、或る溶接区間において計測された溶接電流の基準計測値の平均値を用いて、この平均値の近似線を算出する。具体的には、算出部302は、一例として、その溶接区間における溶接電流の基準計測値の平均値を縦軸に、溶接回数を横軸にするグラフに対し、変換された溶接電流の基準計測値をプロットし、これらのプロット値から溶接電流の近似線を算出する。近似線の算出方法は、公知の方法のいずれかを用いればよい。
【0046】
推定部304は、算出部302により算出された近似線に基づき、次回以降の計測時における溶接パラメータの基準計測値に対する値を推定する。例えば、推定部304は、n回目までの計測で算出された溶接パラメータの近似線を用いて、n+1回目以降の計測時における溶接パラメータの基準計測値の推定値を求める。すなわち、推定部304は、n+1回目だけの推定値を求めてもよいし、n+1回目以降の所定個の推定値を求めてもよいし、n+2回目以降の任意の回数の推定値を求めてもよい。
【0047】
調整部306は、推定部304により推定された溶接パラメータの基準計測値に対する推定値と、基準値とを用いて、アーク溶接の異常判定に用いる閾値を調整する。調整部306は、元の尺度で閾値判定を行うための第2変換部307を有する。例えば、調整部306は、推定部304により推定された推定値と、前回の基準計測値との差分値を求め、この差分値を基準閾値調整量とする。第2変換部307は、この基準閾値調整量に対して、次の式(2)を用いて元の尺度に対する閾値調整量に変換する。
電流指令値/基準値×基準閾値調整量=閾値調整量 ・・・式(2)
【0048】
電流指令値は、次回に設定される電流指令値であり、例えば、電流指令値が300Aであり、基準閾値調整量が10Aであると、閾値調整量は、30A(=300/100×10)である。調整部306は、この閾値調整量用いてアーク溶接の異常判定に用いる閾値を調整する。具体的には、調整部306は、一例として、n+1回目の溶接電流の推定値と、n回目の計測値との差分値(基準閾値調整量)から閾値調整量を求め、この閾値調整量を、溶接電流の上限閾値及び下限閾値に反映する。一般的に溶接回数を重ねるごとに、コンタクトチップの消耗等によりアーク長が長くなることで溶接電流は減少するため、調整部306は、この閾値調整量を上限閾値又は下限閾値から減算して、それぞれの閾値を調整する。
【0049】
第1判定部308は、調整部306により調整された閾値と、次回以降の計測時の溶接パラメータの計測値とを用いて、アーク溶接の異常判定を行う。例えば、閾値として、上限閾値と下限閾値とがあれば、第1判定部308は、計測された溶接パラメータの計測値がこの上限閾値と下限閾値との間に含まれるか否かを判定する。第1判定部308は、判定結果が肯定であれば(計測値が上限閾値と下限閾値との間に含まれれば)、溶接異常なしと判定し、判定結果が否定であれば(計測値が上限閾値と下限閾値との間を逸脱すれば)、溶接異常ありと判定する。
【0050】
出力部310は、第1判定部308による異常判定の結果を、例えば入出力端末30に出力する。また、出力部310は、異常判定の結果を示す結果情報を、予め設定された送信先に送信するようにしてもよい。
【0051】
これにより、溶接区間が異なることによる溶接条件の違いを吸収すべく、溶接パラメータの計測値を、基準値を用いて基準計測値に変換し、変換後の基準計測値を用いて溶接異常の閾値判定を行うことにより、溶接区間や溶接条件を問わず、溶接異常の閾値判定を適切に行うことが可能になる。すなわち、基準計測値を用いることで、同じ尺度で閾値判定を行うことができるため、溶接区間や溶接条件の違いを吸収することができる。
【0052】
さらに、上記態様によれば、溶接回数の増加に伴って変動する溶接パラメータに対して近似線を求め、この近似線を用いて次回以降に用いられる溶接パラメータを推定し、この推定された溶接パラメータの値に基づき、推定の度に調整される閾値を用いることで、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0053】
例えば、コンタクトチップが消耗することにより、溶接電流の計測値は変動する(アーク長が長くなることで溶接電流値が下がる)が、ある程度消耗品が消耗した時点での計測値を用いて異常判定が行われる際に、従来は同じ閾値を用いて異常判定が行われていた。したがって、溶接回数が増えるにつれ、消耗品の消耗等により溶接電流の計測値が減少するが、閾値は事前に設定された閾値が使用され続けるため、正常な計測値であっても事前に設定された下限閾値を下回ることがあり、異常と判定されてしまうことがあった。しかし、上述された異常判定が適用されることで、溶接電流の変動傾向を用いて推定される溶接電流値に基づいて閾値を調整することができ、かつ、溶接をする度に適切に調整される閾値を用いて溶接異常判定を行うことができるので、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0054】
また、算出部302は、第2判定部312の判定結果に基づき、溶接パラメータの基準計測値が所定条件を満たす場合に、近似線をリセットしてもよい。ここで、第2判定部312は、溶接パラメータの基準計測値が所定条件を満たすか否かを判定する。この所定条件の判定は、以下、「リセット判定」とも称する。
【0055】
第2判定部312は、予め設定されたリセット条件と、溶接パラメータの基準計測値とを用いてリセット判定を行う。リセット条件は、溶接パラメータの基準計測値と所定値との閾値とに基づく条件や、溶接パラメータの基準計測値から導出される値又は式と、所定の値又は式とが同一又は類似するなどの条件が設定されてもよい。第2判定部312は、判定結果を算出部302に通知する。また、リセット条件として、作業者からのリセット指示が入力されること、溶接回数が所定値を超えることなどを含んでもよい。
【0056】
これにより、コンタクトチップなどの消耗品の交換を自動で判定することで、作業者の手間を減らしつつ、かつ、交換前の消耗品に基づく近似線がリセットされることで、交換後の消耗品に基づく適切な閾値を用いることが可能になり、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0057】
また、所定条件は、溶接パラメータの第1基準計測値と、第1基準計測値よりも過去に計測された溶接パラメータの第2基準計測値との差分が所定値以上であることを含んでもよい。例えば、第2判定部312は、m+1回目の溶接時における溶接電流の平均溶接電流値の基準計測値(第1基準計測値)と、m回目の溶接時における溶接電流の平均溶接電流値の基準計測値(第2基準計測値)との差分を算出する。次に、第2判定部312は、この差分値の絶対値が所定値以上であるか否かを判定する。第2判定部312は、差分値の絶対値が所定値以上であれば、リセットすると判定し、差分値の絶対値が所定値未満であれば、リセットしないと判定する。第2判定部312は、判定結果を算出部302に出力する。
【0058】
これにより、消耗品の交換時に、消耗品の消耗がなくなることによって溶接パラメータの計測値が大きく変化することに着目し、この変化を検出することで、消耗品の交換を推定することが可能になる。その結果、コンタクトチップなどの消耗品の交換を自動で判定することで、作業者の手間を減らしつつ、かつ、交換前の消耗品に基づく近似線がリセットされることで、交換後の消耗品に基づく適切な閾値を用いることが可能になり、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0059】
また、所定条件は、所定値以上と判定された第1基準計測値以降に計測され、変換された溶接パラメータの基準計測値を用いて、第1基準計測値が異常値ではないと判定されることを含んでもよい。例えば、第2判定部312は、m+1回目の溶接時の溶接電流の基準計測値と、m回目の溶接時の溶接電流の基準計測値との差分値が所定値以上であると判定しても、m+2、m+3、m+4、・・・などの所定回数の溶接時における溶接電流の基準計測値を用いて、m+1回目の溶接電流の基準計測値が異常値であったか否かを判定する。これにより、溶接パラメータの基準計測値の変動が大きい場合であっても、すぐに消耗品の交換が行われたと推定するのではなく、異常による変動を判定することで、より適切に消耗品の交換を推定することが可能になる。
【0060】
判定方法は複数あるが、例えば、第2判定部312は、m+1回目の溶接電流の基準計測値と、m+2、m+3、m+4、・・・などの所定回数の溶接時における溶接電流の基準計測値の平均値とが、所定範囲内にあれば、m+1回目の溶接電流の基準計測値は異常値ではなく、消耗品が交換されたと判定し、所定範囲内になければ、m+1回目の溶接電流は異常値であり、消耗品は交換されていないと判定してもよい。
【0061】
また、第2判定部312は、m+1回目以降の溶接電流の基準計測値を用いて算出される近似線が、過去に算出された近似線に類似する場合は、消耗品が交換されたと判定し、近似線同士が類似しない場合は、消耗品が交換されたと判定してもよい。類似判定は、近似線のパラメータ(傾きや切片、所定次数の係数など)の二乗誤差が所定範囲内であれば、第2判定部312は、近似線同士が類似すると判定してもよいが、この判定方法以外の方法を用いて近似線同士の類似性を判定してもよい。
【0062】
これにより、消耗品の交換時に、同じ消耗品が交換されれば近似線は同じような特性を持つことに着目し、近似線同士の類似性を判定することで、消耗品の交換を推定することが可能になる。その結果、コンタクトチップなどの消耗品の交換を自動で判定することで、作業者の手間を減らしつつ、かつ、交換前の消耗品に基づく近似線がリセットされることで、交換後の消耗品に基づく適切な閾値を用いることが可能になり、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0063】
なお、溶接パラメータの一例として、溶接電流を用いて説明したが、溶接電圧や送給負荷(=モータの定格電流/モータ電流×100)等の他のパラメータが用いられてもよい。
【0064】
<具体例>
以下、
図3から
図8を用いて、開示された溶接異常の判定処理について説明する。
図3は、実施形態に係る所定の溶接区間における溶接電流と閾値との関係の一例を示す図である。
図3に示す例では、溶接電流Isは、所定の溶接区間において溶接開始から溶接終了までの溶接電流の基準計測値の変移(電流波形)を示す。また、溶接電流Isは、複数回の溶接時の溶接電流が計測され、変換された基準計測値の平均値を示してもよい。閾値Th1は、溶接電流の変移に対する上限閾値の変移(閾値波形)を示し、閾値Th2は、溶接電流の変移に対する下限閾値の変移を示す。
【0065】
図4は、実施形態に係る所定の溶接区間の一例を示す図である。
図4に示す例は、ワークWとして、2枚の母材400が互いに直交するように、2枚の母材400の端部同士が互いに接触するように溶接ビード410が形成された例である。溶接監視部402は、
図4に示すような溶接区間の溶接開始から溶接終了までの溶接パラメータを計測する。
【0066】
図5は、実施形態に係る近似線の一例を示す図である。
図5に示す例では、
図4に示す区間の溶接においてN回の溶接電流が計測されている。第1変換部300は、サンプリングバッファ22Cに記憶された各回における溶接電流の計測値の平均値(以下、「平均電流値」とも称す。)を求め、基準計測値に変換する。算出部302は、このN回の基準計測値から、溶接電流の近似直線を算出する。
図5に示す例では、算出部302は、例えば最小二乗法を用いて近似直線を求めるが、近似曲線を求めてもよい。
【0067】
図6は、実施形態に係る閾値の調整量の一例を示す図である。
図6に示す例では、算出部302がN回までの基準計測値を用いて算出した近似直線に基づき、推定部304は、N+1回目に求められる基準計測値を推定する。調整部306は、この推定された値(推定値)を用いて閾値調整量(調整値)を求める。例えば、調整部306は、近似直線におけるN回目の値と、N+1回目の値(推定値)との差分を調整量Aj1とする。
【0068】
なお、調整量Aj1は、N回目に求められた基準計測値からの差分でもよいし、1回目の近似直線の値又は1回目の基準計測値からの差分でもよい。調整量としていずれの値から差分を求めるかは、予め決定されて、調整部306に設定されていればよい。
【0069】
図7は、実施形態に係る閾値の調整の一例を示す図である。
図7に示す例では、溶接電流Is、上限閾値Th1、及び下限閾値Th2は、
図3に示すものと同様であるため、同じ符号を付す。
【0070】
上限閾値Th3は、上限閾値Th1から調整量Aj1が減算されて算出され、下限閾値Th4は、下限閾値Th2から調整量Aj1が減算されて算出される。なお、
図6に示す調整量Aj1の算出方法が用いられるのであれば、N+2以降は、調整された閾値から毎回算出される調整量が減算されて閾値が調整される。また、調整量が初期値からの差分であれば、N+2以降も、初期の閾値から調整量が減算されて閾値が調整される。
【0071】
図8は、実施形態に係るコンタクトチップの交換に伴う溶接電流の変動の一例を示す図である。
図8に示す例では、L回目に基準計測値Is2が求められた後、L+1回目に基準計測値Is4が求められたとする。このとき、第2判定部312は、基準計測値Is4から基準計測値Is2を減算した差分値D1が所定値以上であるか否かを判定する。
【0072】
第2判定部312は、差分値D1が所定値以上であれば、L+1回目の計測前に、コンタクトチップが交換されたと判定し、判定結果を算出部302及び第1判定部308に通知する。算出部302は、コンタクトチップの交換を示す判定結果を受け取ると、近似線をリセットする。また、第1判定部308は、コンタクトチップの交換を示す判定結果を受け取ると、閾値を初期値に戻して溶接異常の閾値判定を行う。
【0073】
<動作>
図9は、実施形態に係る異常判定手順の一例を示すフローチャートである。
図9に示す例では、消耗品の一例としてコンタクトチップ(チップ)、溶接パラメータの一例として溶接電流が用いられる。
【0074】
ステップS102で、第1変換部300は、サンプリングバッファ22Cに溶接パラメータの新たな計測値(例えば、平均電流値)が入力されたことを検知すると、サンプリングバッファ22Cに記憶された溶接電流の計測値を、基準値及び電流指令値を用いて基準計測値に変換する(例えば式(1)参照)。基準値は、例えば100Aとする。
【0075】
ステップS104で、第2判定部312は、第1変換部300により変換された基準計測値を用いてリセット判定を行う。第2判定部312は、上述した条件を用いてチップの交換がされたと判定すれば(ステップS104−YES)、処理はステップS106に進み、チップは交換されていないと判定すれば(ステップS104−NO)、処理はステップS108に進む。
【0076】
ステップS106で、算出部302は、チップ交換後の溶接回数を示すmを0にリセットし、近似線をリセットするため削除する。近似線同士の類似性が判定される場合には、削除対象の近似線のパラメータは溶接条件記憶部22Aなどに記憶されるようにしてもよい。
【0077】
ステップS108で、算出部302は、第1変換部300から溶接パラメータの新たな基準計測値を取得し、回数mを1つインクリメントする。
【0078】
ステップS110で、第1判定部308は、所定回数Pが回数mと同じ値であるか否かを判定する。所定回数Pは、例えば、閾値算出のために使用された回数などである。所定回数Pが回数mと同じ値であれば(ステップS110−YES)、処理はステップS112に進み、所定回数Pが回数mと同じ値でなければ(ステップS110−NO)、処理はステップS114に進む。
【0079】
ステップS112で、算出部302は、回数m分の溶接電流の基準計測値を用いて近似線を算出する(例えば
図5参照)。
【0080】
ステップS114で、第1判定部308は、これから溶接を行う対象区間が閾値判定を行う区間(判定区間)か否かを判定する。例えば、第1判定部308は、溶接作業前に対象区間の特定情報などを取得することで、溶接異常の判定のための閾値が設定された判定区間であるか否かを判定する。対象区間が判定区間であれば(ステップS114−YES)、処理はステップS116に進み、対象区間が判定区間でなければ(ステップS114−NO)、処理は終了する。
【0081】
ステップS116で、第1判定部308は、所定回数Pが回数m未満か否かを判定する。所定回数P<回数mであれば(ステップS116−YES)、処理はステップS120に進み、所定回数P<回数mでなければ(ステップS116−NO)、処理はステップ118に進む。
【0082】
ステップS118で、第1判定部308は、その溶接区間に対して事前に設定された閾値(閾値波形)を、異常判定に使用することを決定し、閾値判定を行う。
【0083】
ステップS120で、調整部306は、算出された近似線に基づき閾値の調整量(基準閾値調整量)を算出する(例えば
図6参照)。
【0084】
ステップS122で、第2変換部307は、基準閾値調整量を、次回に設定される電流指令値に対する閾値調整量に変換する(例えば式(2)参照)。
【0085】
ステップS124で、調整部306は、変換後の閾値調整量を用いて閾値を調整する(例えば
図7参照)。
【0086】
ステップS126で、第1判定部308は、溶接異常の閾値判定を行う。出力部310は、予め設定された相手先に判定結果を出力する。相手先は、例えば、入出力端末30や、所定の作業者の端末などである。
【0087】
上述した異常判定手順により、溶接区間が異なることによる溶接条件の違いを吸収すべく、溶接パラメータの計測値を、基準値を用いて基準計測値に変換し、変換後の基準計測値を用いて溶接異常の閾値判定を行うことにより、溶接区間や溶接条件を問わず、溶接異常の閾値判定を適切に行うことが可能になる。また、上述した異常判定手順によれば、溶接回数の増加に伴い変動する溶接パラメータの基準計測値に対して近似線を求め、この近似線を用いて次回以降に用いられる溶接パラメータの値を推定し、この溶接パラメータの推定値に基づき、推定の度に適切に調整される閾値を用いて溶接異常判定を行うことにより、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。
【0088】
また、
図9に示す各処理は、コンピュータにより実行される判定プログラムとして実装されてもよい。この判定プログラムは、ロボット制御装置20にインストールされたり、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体(例えば非一時的な記憶媒体)に記憶されたりし、コンピュータの制御部(例えばプロセッサなど)により実行されることで、上記処理が実現されてもよい。
【0089】
また、ロボット制御装置20の制御部21内の各機能は、入出力端末30の制御部において機能するように構成されてもよい。この場合、サンプリングバッファ22Cは、ロボット制御装置20又は入出力端末30のいずれに含められてもよい。
【0090】
上述した実施形態は、算出部302は、所定の溶接区間ごとに近似線を算出し、記憶部22は、各溶接区間に対応付けて近似線を記憶してもよい。この場合、第1判定部308は、溶接の対象区間を示す情報に基づいて、記憶部22に記憶された判定区間か否かを判定してもよい。これにより、溶接区間ごとに近似線を変更することが可能になり、より適切な近似線を用いて溶接異常の判定を行うことで、溶接異常の判定精度を高めることが可能になる。また、消耗品として、コンタクトチップを一例として説明したが、溶接に用いる他の消耗品でもよい。
【0091】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。例えば、前述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。