【背景技術】
【0002】
プラスチックは、安価で成形が容易なため、様々な製品の材料として広く用いられており、年間3億トン以上のプラスチック製品が生産されている。
プラスチック製品の多くは、適切に処分されているが、その一部は、管理不十分や不法投棄により、環境中にごみとして流出してしまい、最終的に海に到達する。海洋中に流出するプラスチックごみの量は、年間800万トン以上にのぼると推測されている。これらのプラスチックごみの多くは非生分解性であるため、そのほとんどが海洋中に蓄積されてしまう。
【0003】
プラスチックごみによる環境破壊を防ぐための動きが始まっており、プラスチック製使い捨て製品を、環境への負荷の小さな材料で代替することが求められている。プラスチックの代替材料としては、生分解性プラスチック、木材、紙等が挙げられるが、生分解性プラスチックと木材は、破壊されると鋭利な形状になりやすく、手指や口腔内等を傷つけてしまう恐れがある。そのため、安価で、物理的な安全性の高い紙が、注目されている。
【0004】
紙を利用したプラスチック製品の代替としては、例えば、特許文献1には、冷菓用の棒状部が、特許文献2には、ペーパー・スプーンが、提案されている。
しかし、特許文献1に記載の棒状部は、ポリエチレン/紙/ポリエチレンからなる積層原紙を形成し、この積層原紙から所定の形状・寸法に打ち抜いて端面が被覆されていない棒状部を作成した後、この棒状部を射出金型にインサートして混練樹脂で端面を被覆することにより製造されている。特許文献1に記載の棒状部は、打ち抜き金型と射出金型が必要であり、工程数が多い問題がある。また、特許文献2に記載のペーパー・スプーンは、温湯に湿潤させると柔らかくなるなど強度の面で不十分である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明の食品用積層体(以下、単に積層体ともいう)は、複数枚の原紙が接着剤で貼合されてなり、この接着剤が、熱可塑性樹脂とゴム成分を90:10〜50:50の固形分重量比で含むことを特徴とする。
ここで、本発明において、「食品用積層体」とは、下記(1)〜(3)の食品衛生試験を満足する積層体を意味する。
(1)昭和47年 環食化第385号の試験方法にて、PCBが検出されないこと。
(2)昭和34年 厚生省告示第370号に準じた試験方法にて、フェノール、ホルムアルデヒド、重金属が検出されないこと。
(3)昭和46年 環食第244号および平成16年食安基発第0107001号に準じた試験方法にて、蛍光染料が溶出されないこと。
【0010】
本発明の食品用積層体は、上記(1)〜(3)の食品衛生試験により、人体へ悪影響を及ぼす各物質が検出、溶出しないため、安全性が高く、人が経口摂取する物品と接触する用途に好適に用いることができる。
本発明の食品用積層体は、上記(1)〜(3)が対象とする物質以外にも、人体への悪影響がある、または懸念される物質を含まないことが好ましく、原料として食品添加物として認可を受けている、またはFDA認証取得済み等、食品安全性に適合したものを使用することが好ましい。
【0011】
<原紙>
本発明において、原紙とはパルプ、填料、各種助剤等からなるシートである。
パルプとしては、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)等の木材の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、リファイナグランドパルプ(RGP)、ストーングランドパルプ(SGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材の機械パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプ、古紙を原料とし、脱墨工程にてこれらの古紙に含まれるインキを除去した古紙パルプなど、公知のパルプを適宜配合して用いることが可能である。これらの中で、異物混入が発生し難いLBKP、NBKP等の化学パルプが好ましく、また、古紙パルプの配合量が少ないことが好ましい。具体的には、化学パルプの配合量が80%以上であることが好ましく、化学パルプの配合量が100%であることが特に好ましい。
【0012】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、本発明の積層体において、原紙は填料を使用しなくてもよく、填料を使用しないことが好ましい。
【0013】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)等の各種の内添サイズ剤、ノニオン性、カチオン性、両性の各種歩留まり向上剤、濾水度向上剤、紙力向上剤、各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド、ポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物及びこれらの誘導体あるいは変性物等、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル、消泡剤、着色染料、着色顔料、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0014】
原紙の製造(抄紙)方法、抄紙機の型式は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)等の公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙基材の表面にアルカリ性薬剤を塗布してもよい。
【0015】
原紙は、少なくとも1枚の坪量が、100g/m
2以上であることが好ましく、200g/m
2以上であることがより好ましく、300g/m
2以上であることがさらに好ましい。また、原紙の少なくとも1枚の坪量の上限は、特に制限されないが、650g/m
2以下であることが好ましく、640g/m
2以下であることがより好ましく、630g/m
2以下であることがさらに好ましい。原紙の少なくとも1枚の坪量が100g/m
2未満では、本発明の積層体を形成するために必要な原紙の枚数が増加してしまう。また、本発明の積層体を構成する原紙の全てが、上記坪量を満たすことがより好ましい。
【0016】
原紙は、少なくとも1枚の密度が、0.40g/cm
3以上であることが好ましく、0.50g/cm
3以上であることがより好ましく、0.55g/cm
3以上であることがさらに好ましい。また、原紙の少なくとも1枚の密度は、0.89g/cm
3以下であることが好ましく、0.80g/cm
3以下であることがより好ましく、0.75g/cm
3以下であることがさらに好ましい。また、本発明の積層体を構成する原紙の全てが、上記密度を満たすことがより好ましい。
【0017】
<接着剤>
原紙を接着する接着剤は、熱可塑性樹脂とゴム成分を90:10〜50:50の固形分重量比で含む。熱可塑性樹脂の固形分重量比が90より大きいと乾燥、固化後の柔軟性が減り、原紙と樹脂の密着性が下がり、接着面に支障が生じる場合がある。熱可塑性樹脂の固形分重量比が50より小さいと基材への浸透性、投錨性に影響が有るとともに、原紙を貼合する際に初期接着力が弱く、また、機械貼合を行う際にシート詰まりや機械内部での剥離が発生する等、貼合工程に支障が生じる場合がある。熱可塑性樹脂とゴム成分の固形分重量比は、80:20〜60:40の範囲内であることが好ましい。この接着剤は、無溶剤系または水系であることが好ましい。また、ヒートシール等の熱処理が可能な熱溶融性接着剤を用いることもできる。なお、本発明の接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲内において、熱可塑性樹脂、ゴム成分以外の成分を含むことができる。
【0018】
接着剤が含有する熱可塑性樹脂は、エチレン酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂等の1種または2種以上を混合して用いることができ、これらの中で、エチレン酢酸ビニル系樹脂が、柔軟性、耐衝撃性に優れ、物理的な安全性に優れるため好ましい。
【0019】
接着剤が含有するゴム成分は、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム、天然ゴムのいずれか、または両方を用いることができる。また、これらの2種以上を混合して用いることもできる。これらの中で、食品用積層体として、合成ゴム系より天産物である天然ゴムを含有することが安全性の観点から好ましい。
【0020】
接着剤は、水溶性高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子を含むことにより、接着剤の粘度調整が容易となり、接着時等の取り扱いが良好となる。水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム並びにこれら1つ以上の混合物が挙げられる。
【0021】
これらの中で、接着剤を構成する他の物質との混和性、増粘性、食品安全性等の点から、セルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩が特に好ましい。
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜2.5のものを用いることが好ましく、0.20〜1.6のものがより好ましく、0.55〜1.6のものがより好ましく、0.55〜1.1のものがより好ましく、0.65〜1.1のものがさらに好ましい。また、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の1重量%水溶液における25℃、600rpmでのB型粘度は、3〜14000mPa・sが好ましく、7〜14000mPa・sがより好ましく、1000〜8000mPa・sがさらに好ましい。
【0022】
接着剤は、微細セルロースを含むことが好ましい。微細セルロースとは、セルロース原料を、必要に応じ化学変性処理した後で、機械的処理することにより得られる繊維であり、平均繊維径2nm以上60000nm以下、平均繊維長0.1μm以上3000μm以下の繊維である。平均繊維径の上限は、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がさらに好ましい。また、平均繊維長の上限は特に限定されないが、1500μm以下が好ましく、1100μm以下がさらに好ましく、900μm以下がさらに好ましい。微細セルロースを含むことにより、接着力が向上することから、接着剤の塗布量を減らすことができる。また、塗布量が減ることにより、接着後の乾燥工程に必要な熱量が削減され、使用量削減との相乗効果による製作コストの低減を図ることが可能となる。セルロースの材料は特に限定せず、木材、ケナフ、麻、イネ、バガス、竹等の植物が挙げられる。また、セルロースの化学変性についても限定されず、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などが挙げられる。
【0023】
微細セルロースとしては、セルロースナノファイバー(CNF)、ミクロフィブリルセルロース(MFC)等が挙げられる。微細セルロースの平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、通常10以上である。アスペクト比の上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。微細セルロースの平均繊維径及び平均繊維長は、CNFの場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、200本以上の繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができ、MFCの場合はABB株式会社製L&W Fiber Tester Plusや、バルメット株式会社製フラクショネーター等の、画像解析型繊維分析装置により求めることができる。
【0024】
本発明の接着剤で用いる微細セルロースは、例えば、セルロース原料を化学変性した後に機械的処理することで製造してもよいし、化学変性及び化学処理または機械的処理のみで製造した微細セルロースを用いてもよい。
セルロース原料への機械的処理は、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、変性を施した後に行ってもよい。また、機械的処理は、一度に行ってもよいし、同一または異なる処理を複数回行ってもよい。複数回の場合、それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0025】
セルロースの機械的処理としては、解繊、叩解、粉砕等が挙げられる。
解繊または叩解は、ディスク型、コニカル型、シリンダー型等といったリファイナー、高速解繊機、せん断型撹拌機、コロイドミル、高圧噴射分散機、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなどを用いて、湿式で(すなわち、水等を分散媒とする分散体の形態で)行うことが好ましいが、特にこれらの装置に限定されず、湿式にて機械的な解繊力を付与する装置であればいずれでもよい。その中でも、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できるものが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、100MPa以上がより好ましく、140MPa以上がさらに好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加することができ、かつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。
粉砕は、乾式粉砕と湿式粉砕とがあり、乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等、湿式粉砕で用いる装置としては、ホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等があげられる。
【0026】
接着剤の固形分濃度は、接着剤としての機能を有すれば特に限定されないが、好ましくは40重量%以上70重量%以下である。この範囲の接着剤固形分とすることで、原紙に対し均一に接着剤を塗工することができる。40重量%未満の固形分濃度である場合、原紙に水分が浸透し接着力が低下、積層した原紙間にて層間剥離が起こる場合がある。また70重量%を超える固形分濃度である場合、均一な接着剤塗布ができない場合がある。
接着剤が微細セルロースを含む場合、微細セルロースの接着剤への配合量は、固形分重量で熱可塑性樹脂とゴム成分の合計100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下が好ましい。また、接着剤が水溶性高分子を含む場合、水溶性高分子の接着剤への配合量は、固形分重量で熱可塑性樹脂とゴム成分の合計100重量部に対して、0.1重量部以上5重量部以下が好ましい。
接着剤の塗布量は、原紙を強固に接着できる量であれば特に制限されないが、積層した原紙間1箇所につき1.0g/m
2以上が好ましく、1.5g/m
2以上がより好ましく、2.0g/m
2以上が最も好ましい。1.0g/m
2未満の場合は、積層した原紙間にて層間剥離が起こる場合がある。
【0027】
<食品用積層体>
本発明の食品用積層体は、上記した原紙の複数枚が、接着剤で貼合されてなる。積層体を構成する原紙の枚数は、求める積層体の厚さに応じて2枚以上から選択すればよいが、製造工程の簡略化のために、2枚以上5枚以下であることが好ましく、2枚または3枚であることがより好ましい。なお、本発明の積層体において、貼り合わせる原紙は、原料、坪量、密度等が、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
本発明の積層体は、幅10mm、長さ95mmの試験片における、温度23℃、湿度50%の条件下にて40mmのスパンで、先端径2mmの押圧治具により負荷速度30mm/minで加圧した際の曲げ強度(最大強度を示した時点での荷重)が40N以上であることが好ましい。この曲げ強度が40N以上であれば、プラスチックの代替として、様々な用途に用いることができる。この曲げ強度は、50N以上であることがより好ましく、60N以上であることがさらに好ましい。
本発明の積層体の厚さは、0.60mm以上であることが好ましい。厚さが0.60mm未満では、強度が不足する場合がある。積層体の厚さは、0.65mm以上がより好ましく、0.85mm以上がさらに好ましく、1.35mm以上が最も好ましい。積層体の厚さの上限は、特に制限されないが、4mm以下が好ましく、3.5mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。
本発明の積層体の密度は、0.89g/cm
3以下であることが好ましい。密度が0.89g/cm
3を越えると、機械貼合後の断裁や紙加工品への加工が難しくなる場合がある。積層体の密度は、0.85g/cm
3以下がより好ましく、0.8g/cm
3以下がさらに好ましい。積層体の密度の下限は、0.40g/cm
3以上であることが好ましく、0.50g/cm
3以上であることがより好ましく、0.55g/cm
3以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の積層体は、特に、最表面に位置する原紙の原料、坪量、密度、耐水強度等により、その用途に応じて、水との馴染みやすさを調整することができる。例えば、水分を多く含む物体を保持するための棒材、板材等の紙加工品を製造するために用いる場合、積層体の10分間常温の水に浸漬した後の吸水率は、30重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、また、積層体の8時間80℃の水に浸漬した後の吸水率は、50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。10分間常温の水に浸漬した後の吸水率が30重量%以上、8時間80℃の水に浸漬した後の吸水率が50重量%以上のいずれか、または両方を満足する積層体は、吸水性に優れており、水分を多く含む物体を保持しやすく、水分を多く含む物体が落ちにくい。そのため、この積層体は、アイスクリーム、氷菓等の冷菓等を支持する食品用棒材や、ゼリー、プリン等を食するためのスプーン、ゲル状、ペースト状、クリーム状等の食品等を保持するための箆(へら)等に好適に用いることができる。
また、スープ用のスプーン、箸、マドラー、敷紙、紙皿、紙カップ等の、積層体への浸透が好まれない用途の紙加工品を製造するために用いる場合、積層体の10分間常温の水に浸漬した後の吸水率は、30重量%未満であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、また、積層体の8時間80℃の水に浸漬した後の吸水率は、50重量%未満であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0030】
「紙加工品」
本発明の食品用積層体から、棒材、板材等の紙加工品を製造することができる。本発明の積層体から紙加工品を製造するための加工方法は制限されず、例えば、打ち抜き、裁断、巻き回し等を挙げることができる。棒材は、積層体を円筒、四角筒等に巻き回した中空形状で成型することもできる。また、棒材、板材は、原紙と平行な面、垂直な面のいずれを主面とすることもできる。
【0031】
棒材、板材等の紙加工品の具体的な用途は特に制限されず、様々な用途に用いることができる。例えば、本発明の食品用積層体は、上記したようにPCB、フェノール、ホルムアルデヒド、重金属、蛍光染料が、検出・溶出されず、安全性が高いため、アイスクリーム、氷菓等の冷菓等に使用される食品用棒材、スプーン、フォーク、串、楊枝、箸等の食用器具、マドラー、ヘラ等の撹拌用棒材、敷紙、紙皿、紙カップ等の食品用板材等の人が経口摂取する物品と接触する棒材、板材等の紙加工品の製造に用いることができる。
また、本発明の食品用積層体からなる棒材、板材等の紙加工品は、人が経口摂取する物品と接触する用途に限定されず、例えば、塗料、接着剤、ワックス等を塗布する箆(へら)等の塗布用棒材、板材等としても利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
「実施例」
針葉樹クラフトパルプを100重量%配合した坪量537g/m
2の原紙(紙厚0.7mm、紙密度0.77g/cm
3)を3枚、エチレン酢酸ビニルを含む熱可塑性樹脂および天然ゴム(70:30)を主成分とし、カルボキシメチルセルロース、およびセルロースナノファイバーを含む接着剤(ムサシノケミカル株式会社製、積層した原紙間1箇所につき塗布量8.5g/m
2、全塗布量17.0g/m
2)で貼り合わせ、積層体を得た。
【0034】
得られた積層体を幅10mm、長さ95mmに切断して試験片とし、下記の通り物性を測定し評価を行った。結果を表1に示す。
・曲げ強度
試験片を、温度23℃、湿度50%の条件下にて40mmのスパンで、先端径2mmの押圧治具により負荷速度30mm/minで加圧、最大強度を示した時点での荷重(単位:N)を曲げ強度とした。
・点滴吸水度
滴下水の量を1μLとする以外は、紙パルプ技術協会 J.TAPPI No.32−2:2000に規定される点滴吸水度を参考に測定した。具体的には、得られた含浸シートより点滴吸水試験用の試験片を得て、その紙表面(原紙と平行な面)に1μLの水滴を滴下し、紙表面上の水滴が吸水されてなくなるまでの秒数を測定した。なお、600秒以上経過しても水滴がなくならない場合は「耐水性あり」と判断した。
【0035】
・吸水量および吸水率
あらかじめ重量を測定した試験片を、10分間常温の水に浸漬後、表面に付着した水を工業用紙ウェス(日本製紙クレシア社製、商品名:キムタオル)で軽く拭き取り、再度重量を測定し、吸水量および吸水率を測定した。
・耐熱水性
あらかじめ重量を測定した試験片を、80℃の熱湯が入った恒温槽に8時間投入した。8時間経過後、接着層の剥離の有無を確認し、表面に付着した水を工業用紙ウェス(日本製紙クレシア社製、商品名:キムタオル)で軽く拭き取り、再度重量を測定し、吸水量および吸水率を算出することで耐熱水性を評価した。
なお、吸水量および吸水率は下記式に基づき算出した。
吸水量(g/m
2)=試験後の坪量(g/m
2)−試験前の坪量(g/m
2)
吸水率(重量%)=吸水量(g/m
2)÷試験前の坪量(g/m
2)×100
【0036】
・食品安全性
食品安全性を評価するため、PCB、フェノール、ホルムアルデヒド、重金属、蛍光染料について、それぞれ厚生労働省告示に基づき下記試験(1)〜(3)を行った。
(1)昭和47年 環食化第385号の試験(PCB)。
(2)昭和34年 厚生省告示第370号に準じた試験(フェノール、ホルムアルデヒド、重金属)。
(3)昭和46年 環食第244号および平成16年食安基発第0107001号に準じた試験(蛍光染料)。
【0037】
・耐折り曲げ性
試験片を手でおよそ90度折り曲げ、折り曲げ箇所の状況を確認した。
【0038】
「比較例」
天然ゴム100%の接着剤を用いた以外は実施例と同様にして積層体の製造を試みたところ、原紙が貼合できず、積層体を製造することができなかった。なお、比較例は、そもそも積層体が製造できなかったため、各試験を実施していない。
【0039】
「参考例」
幅10mm、長さ150mm、長さ方向の両端を半円形に切断した白樺製の木製棒材(市販の氷菓用棒材)について、実施例と同様に評価した。なお厚さは2.0mm、密度は0.55g/cm
3であった。参考例は、木製ではあるが、実施例と同様に評価を行った。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明である実施例で製造した食品用積層体は、折り曲げても鋭利な形状とならず、物理的安全性に優れていた。また、実施例で製造した食品用積層体は、PCB、フェノール、ホルムアルデヒド、重金属、蛍光染料が検出、溶出せず、食品安全性にも優れていた。