【課題】上側部材とこの上側部材よりも低剛性の下側部材と上側部材に設ける補強部材とを含むピラー部材であって側突時の車室内側への侵入量を小さくでき且つ軽量化できるピラー部材を有する側部車体構造を提供する。
【解決手段】車体の側部開口部(2)を前後に仕切るピラー部材(3)を有する側部車体構造(1)において、ピラー部材(3)は、高張力鋼製の上側部材(7)と、この上側部材(7)よりも剛性の低い高張力鋼製の下側部材(8)とを接合したものであり、上側部材(7)には上側部材(7)及び下側部材(8)よりも高張力の高張力鋼製の補強部材(10)が設けられており、補強部材(10)の下半部は下端に向って車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が小さくなる形状に構成されている。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の側突時に乗員の安全性を確保することを目的として、ピラー部材の車室内側への変形を抑制する構造が種々開発されている。例えば、特許文献1に記載の車両の側部車体構造では、センターピラーのピラーレインフォースメントの上部側約2/3を上側部材で構成し、下部側約1/3を下側部材で構成し、上側部材と下側部材とを接合し、上側部材と下側部材の断面形状を異ならせて車室内側への曲げに抗する曲げ剛性を異ならせ、側突時の変形モードとして、下側部材の曲げ変形角度を上側部材の曲げ変形角度よりも大きくして、センターピラーの車室内側への最大変位量が小さくなるように設定している。
【0003】
具体的に、上記の上側部材と下側部材は、夫々、車体の側面に沿って延びる側壁部と、これら側壁部の前後両端から車幅方向内側へ延びる前後1対の縦壁部とを有し、下側部材における1対の縦壁部の間隔が車幅方向内側ほど広くなるように1対の縦壁部が傾斜状に設けられ、その傾斜角度が上側部材の縦壁部よりも大きく設定されている。
【0004】
ところで、センターピラーが想定した通りに挙動しない場合に備えて、車体の他の部位に剛性向上や衝撃吸収のための構造を設けることも必要である。
近年では、プレス成形技術の向上、例えばテーラードブランク等の技術の向上により、板厚や強度の異なる板材を一体化したり、部分的な剛性向上のため板材を重合させた状態でプレス成形することが可能となっています。このような技術をセンターピラーに採用すれば、側突時のセンターピラーの下部と上部の変形の精度を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の側部車体構造では、下側部材の1対の縦壁部の間隔が車幅方向内側ほど広くなるように1対の縦壁部が傾斜状に設けられているため、下側部材の車体前後方向の幅が大きくなり、センターピラーが大型化するため好ましくない。
【0007】
しかし、センターピラーが大型化するのを防ぎつつ、センターピラーの側突時の変形の精度を高めるためには、板厚の異なる板材を接合したり、部分的に板材を重合したり、ハイテン材のような強度の異なる板材を接合する場合もあるが、その場合でもセンターピラーの曲げ剛性に影響を及ぼす諸条件を適切に設定しておく必要がある。
【0008】
本発明の目的は、上側部材とこの上側部材よりも低剛性の下側部材と上側部材に設ける補強部材とを含むピラー部材であって側突時の車室内側への侵入量を小さくでき且つ軽量化できるピラー部材を有する側部車体構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る側部車体構造は、車体の側部開口部を前後に仕切るピラー部材を有する側部車体構造において、前記ピラー部材は、上側部材と、この上側部材よりも剛性の低い下側部材とを接合したものであり、前記上側部材には補強部材が設けられており、前記補強部材の下半部は下端に向って車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が小さくなる形状に構成されたことを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、上側部材の剛性は下側部材の剛性よりも高く設定され、この上側部材に補強部材を設けるため、上側部材は下側部材よりも高剛性のものとなっている。補強部材の下半部は下端に向って車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が小さくなる形状に構成されたため、上側部材の全長に亙る曲げ剛性の連続性を確保しながら下側部材の曲げ剛性が上側部材と補強部材よりも小さく設定される。補強部材を介して上側部材の曲げ剛性を調整できるため、ピラー部材の軽量化を図ることができる。
【0011】
そのため、側突時に上側部材が曲げ変形し、下側部材が圧潰するため、下側部材の車室内側への曲げ変形角度は上側部材の曲げ変形角度よりも大きくなって、上側部材と下側部材の境界付近の部位が車室内側へ最大限侵入する状態なる。ここで、上側部材の長さを下側部材の長さよりも長く設定することで、上側部材と下側部材の境界付近の部位が下方へ片寄るため、側突時のピラー部材の車室内側への侵入量を小さくすることができる。
このように、側突時の上側部材と下側部材の機能分担がなされ、強度差が過大にならず、側突時のピラー部材の挙動が安定する。
【0012】
本発明は、次のような種々の好ましい形態を取ることができる。
好ましくは、前記補強部材は、車体前後方向向きの前後幅を介して車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が設定される(請求項2)。
この構成によれば、補強部材の前後幅を調整することで曲げ剛性を自由に設定することができる。
【0013】
好ましくは、前記上側部材は車体上下方向に延びる前後1対の稜線部を有し、前記補強部材は、前記前後1対の稜線部に跨がる広幅部と、この広幅部から下方へ連なり且つ前後何れか一方の稜線部のみを覆う狭幅部とを有する(請求項3)。
この構成によれば、補強部材の一体性を確保しながら、最小限の補強部材により上側部材を補強することができる。
【0014】
好ましくは、前記ピラー部材は、ドアを支持するヒンジを連結する複数のヒンジ連結部有し、最上部のヒンジ連結部に対応する部位の前記補強部材は前記広幅部の下端部分からなり、この広幅部の下端部分から前記狭幅部が下方へ延びていることを特徴としている(請求項4)。
この構成によれば、側突時における最上部のヒンジ連結部に対応するベルトラインの付近のピラー部材の車室内側への侵入を抑制しながら、本発明の前記の効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば種々の効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る側部車体構造を実施するための形態について図面に基づいて説明する。
図1〜
図3には、4ドアセダン型自動車の側部車体構造1が示され、この側部車体構造1には側部開口部2が形成されており、この側部開口部2は、センターピラー(図示略)のピラー部材3により前後に仕切られて前側開口部2aと後側開口部2bとが形成され、前側開口部2aと後側開口部2bは夫々サイドドア4により開閉可能に閉止されるようになっている。但し、
図1では前側開口部2aを閉止するサイドドアは図示省略されている。なお、図中の矢印F,L,Uは夫々前方、左方、上方を示す。
【0018】
以下の説明では、自動車の右側の側部車体構造1を例にして説明する。
側部車体構造1には、前後方向に延びるルーフサイドレール5とサイドシル6が設けられており、これらの部材によって側部開口部2の上辺部と下辺部が形成されている。ルーフサイドレール5とサイドシル6は、その前後方向の中間部同士が上下方向に延びるピラー部材3によって結合されている。
【0019】
尚、センターピラーは、
図1、
図2に図示したピラー部材3と、このピラー部材3の車幅方向内側の内面に接合されるインナーパネル(図示略)と、ピラー部材3の外面側を覆うアウタパネル(図示略)とを有するものであり、車体前後方向の前後幅が下方程大きくなるように形成されている。ピラー部材3の上端部分はルーフサイドレール5に接合され、ピラー部材3の下端部分はサイドシル6に接合されている。
【0020】
ピラー部材3は、上側部材7と、この上側部材7よりも剛性の低い下側部材8とを接合したものであり、上側部材7の下端と下側部材8の上端とが接合線9において溶接接合されている。上側部材7は下側部材8よりも上下長が長く設定され、例えば、上側部材7はピラー部材3の全長の約3/4の長さを有し、下側部材8はピラー部材3の全長の約1/4の長さを有する。但し、上記の約3/4、約1/4の比率はこれに限定されるものではない。
【0021】
上側部材7と下側部材8は高張力鋼製の薄い板材で構成されるが、上側部材7は下側部材8よりも板厚の大きな板材で構成され、上側部材7の剛性は下側部材8の剛性よりも高く設定されている。
【0022】
図6〜
図8、
図10に示すように、上側部材7は、車体前後方向向きの側壁部7aと、この側壁部7aの前後両端から車幅方向内側へ延びる前後1対の縦壁部7b,7cを有し、側壁部7aと1対の縦壁部7b,7cの接合部が車体上下方向に延びる前後1対の稜線部7d,7eになっている。同様に、
図3、
図5、
図11に示すように、下側部材8は、車体前後方向向きの側壁部8aと、この側壁部8aの前後両端から車幅方向内側へ延びる前後1対の縦壁部8b,8cを有し、側壁部8aと1対の縦壁部8b,8cの接合部が車体上下方向に延びる前後1対の稜線部8d,8eになっている。
【0023】
図3〜
図5に示すように、上側部材7にはその車幅方向外側面に補強部材10が溶接で接合されている。この補強部材10は、上側部材7や下側部材8よりも高張力の高張力鋼製の薄い板材で構成される。ピラー部材3の製作段階において、上側部材7の素材の表面に補強部材10の素材を溶接接合し、上側部材7の素材の下端に下側部材8の素材の上端を溶接接合してから、これらの素材をテーラードブランク方式によりプレス成形することで、ピラー部材3が製作される。
【0024】
補強部材10の上端部分は上側部材7の上端部分と共にルーフサイドレール5に接合されている。補強部材10は、上側部材7の前後1対の稜線部7d,7eに跨がる広幅部11と、この広幅部11から下方へ連なり且つ前後何れか一方(本実施形態では後側)の稜線部7eのみを覆う狭幅部12とを有する。広幅部11の前後方向向きの前後幅は、狭幅部12の前後方向向きの前後幅よりも大きく設定されている。広幅部11の上下長は例えば補強部材10の全長の約3/4であり、狭幅部12の上下長は例えば補強部材10の全長の約1/4である。
尚、広幅部11の上端寄り部分には三角形の開口10aが形成され、この開口10aから下方へ延びる部分には、細長い開口10bが架橋部10cを隔てて3つ直列状に形成されている。
上記の開口10a,10bを介して補強部材10の車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が調整されている。
【0025】
図4に示すように、補強部材10は、車体前後方向向きの前後幅を介して車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が設定されるため、補強部材10の下半部は下端に向って車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が段階的に小さくなる形状に構成されている。
尚、上側部材7の側壁部7aの前後幅は上側部材7の曲げ剛性に影響を及ぼすが、この側壁部7aの前後幅は、ヒンジ連結部13の付近において最大であり、そのヒンジ連結部13の付近から下方に向って上側部材7の側壁部7aの前後幅は減少している。
【0026】
図3、
図10、
図11に示すように、ピラー部材3は、サイドドア4を支持するヒンジを連結する2つのヒンジ連結部13,14を有し、最上部のヒンジ連結部13に対応する部位の補強部材10は広幅部11の下端部分からなり、この広幅部11の下端部分から狭幅部12が下方へ延びている。広幅部11の下端部分には、最上部のヒンジ連結部13の為の2つのボルト穴10dが形成されている。最下部のヒンジ連結部14は下側部材8の上端近傍部に形成されている。
【0027】
図5、
図9に示すように、ピラー部材3に隣接して配置されたサイドドア4の内部には、サイドドア4のベルトライン付近の剛性を確保し且つ側突荷重をピラー部材3に伝達するインパクトバー15が設けられ、サイドドア4が閉じた状態ではインパクトバー15の前端部分15aは上側部材7と下側部材8の両方と車両側面視で重複している。
インパクトバー15からの側突荷重を上側部材7と下側部材8に確実に伝達可能にする為に、インパクトバー15の前端部分15aは、上側部材7と下側部材8の車体後方側の縦壁部7c,8cに車両側面視で重複している。
【0028】
図5に示すように、インパクトバー15からピラー部材3に作用する側突荷重を上側部材7と下側部材8とで分担するように、インパクトバー15の前端部分15aは車両側面視で上側部材7における補強部材10のある領域16aと補強部材10のない領域16bと下側部材8を覆う領域16cとを有する。
【0029】
図3、
図5に示すように、ピラー部材3にはパワーウインドやスピーカーのハーネス類を貫通させるハーネス貫通用の開口部17が形成されており、上記のハーネス類を保護するためインパクトバー15の前端部分15aは、車両側面視でハーネス貫通用開口部17の少なくとも一部を覆っている。上記の開口部17は、上側部材7の下端近傍部、つまり接合線9の近傍部に形成され、この開口部17を介して上側部材7の曲げ剛性を適度に低下させてある。
【0030】
次に、以上説明した側部車体構造1の作用、効果について説明する。
上側部材7の剛性は下側部材8の剛性よりも高く設定され、この上側部材7に高張力鋼製の補強部材10を設けるため、上側部材7と補強部材10は下側部材8よりも高剛性のものとなっている。補強部材10の下半部は下端に向って車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が小さくなる形状に構成されたため、上側部材7の全長に亙る曲げ剛性の連続性を確保しながら下側部材8の曲げ剛性が上側部材7及び補強部材10よりも小さく設定される。補強部材10を介して上側部材7の曲げ剛性を調整できるため、ピラー部材3の軽量化を図ることができる。
【0031】
そのため、側突荷重が作用したとき、上側部材7が曲げ変形する一方、下側部材8が主に圧潰するため、下側部材8の車室内側への曲げ変形角度は上側部材7の曲げ変形角度よりも大きくなって、上側部材7と下側部材8の境界付近の部位が車室内側へ最大限侵入する状態になる。
上側部材7の長さを下側部材8の長さよりも長く設定したことで、上側部材7と下側部材8の境界部が下方へ片寄るため、側突時のピラー部材3の車室内側への最大侵入量を小さくすることができる。このように、側突時の上側部材7と下側部材8の機能分担がなされ、強度差が過大にならず、側突時のピラー部材3の挙動が安定する。
【0032】
具体的には、
図12に示すように、センターピラー3Pに車幅方向外側から側突荷重が矢印Pのように作用したとき、ルーフサイドレール5とサイドシル6が車幅方向内側へ移動すると共に、ピラー部材3が点線の状態を経て1点鎖線の状態へ変形する。
【0033】
このときのピラー部材3の変形モードは、上側部材7と下側部材8の境界部Aにおいて緩屈曲する状態となり、上側部材7は車室内側の方へ曲げ変形すると共に下側部材8は車室内側の方へ主に圧潰的に変形し、下側部材8の曲げ変形角度は上側部材7の曲げ変形角度より大きくなる。そのため、境界部Aにおけるピラー部材3の車室内側への侵入量Dが最大となる。
図13はセンターピラー3P'のピラー部材3’の中段部が屈曲する状態の比較例に係る変形モードを示すものである。この場合のピラー部材3'の車室内側への侵入量D'は、
図12の侵入量Dよりも格段に大きくなる。
【0034】
補強部材10は、車体前後方向向きの前後幅を介して車幅方向内側への曲げに抗する曲げ剛性が設定されるため、補強部材10の前後幅を調整することで曲げ剛性を自由に設定することができる。
補強部材10は、前後1対の稜線部7d,7eに跨がる広幅部11と、この広幅部11から下方へ連なり且つ前後何れか一方の稜線部7e(本実施形態では後側の稜線部7e)のみを覆う狭幅部12とを有するため、補強部材10の一体性を確保しながら、最小限の補強部材10により上側部材7を補強することができる。
【0035】
最上部のヒンジ連結部13に対応する部位の補強部材10は広幅部11の下端部分からなり、この広幅部11の下端部分から狭幅部12が下方へ延びているため、側突時における最上部のヒンジ連結部13に対応するベルトラインの付近のピラー部材3の車室内側への侵入を抑制しながら、前記の効果が得られる。
【0036】
サイドドア4が閉じた状態ではドア内部に設けられたインパクトバー15の前端部分15aは上側部材7と下側部材8の両方と車両側面視で重複しているため、側突時にインパクトバー15に作用する衝突荷重が上側部材7と下側部材8の片方に集中的に作用することはなく、上側部材7と下側部材8の両方に作用するため、側突時のピラー部材3の挙動が安定し、所期の変形モードで変形することになる。
【0037】
インパクトバー15の前端部分15aは車両側面視で上側部材7における補強部材10のある領域16aと補強部材10のない領域16bと下側部材8aとを覆っているため、インパクトバー15の前端部分15aを、補強部材10のある領域16aから補強部材10のない領域16bに移行する境界部と、上側部材7と下側部材8を接合した境界部とを含む構造的不連続部に重複させているため、側突時にインパクトバー15からの荷重を上側部材7と下側部材8とに分散して、ピラー部材3を所期の変形モードで変形させることができる。
【0038】
ピラー部材3にはハーネス貫通用の開口部17が形成されており、インパクトバー15の前端部分15aは、車両側面視で前記開口部17の少なくとも一部を覆っているため、インパクトバー15の前端部分15aで開口部17を貫通するハーネスの保護を図ることができる。
【0039】
インパクトバー15の前端部分15aは、上側部材7と下側部材8の車体後方側の縦壁部7c,8cに車両側面視で重複しているため、側突時にインパクトバー15の前端部分15aから上側部材7と下側部材8の車体後方側の縦壁部7c,8cに荷重を伝達して側突時の荷重を上側部材7と下側部材8に確実に伝達することができる。
【0040】
次に、前記実施形態を部分的に変更する例について説明する。
1)ピラー部材の上側部材と下側部材と補強部材を高張力鋼製の部材で構成したが、下側部材を普通鋼製の部材で構成してもよい。とにかく、ピラー部材の材質は前記実施形態のものに限定される訳ではない。
【0041】
2)補強部材を1部材で構成した例を示したが、補強部材を複数の部材で構成してもよい。
3)その他、当業者ならば前記実施形態に適宜に付加した形態で実施することできる。