【解決手段】車体120の内部に、客室103とデッキであるデッキ102と、客室103とデッキ102とを仕切る内妻仕切を備える鉄道車両100において、内妻仕切は、客室103側に設けられる客室側壁材211と、デッキ102側に設けられるデッキ側壁材212と、客室側壁材211とデッキ側壁材212とを接続する骨部材を有している。この客室103外部で客室側壁材211とデッキ側壁材212と骨部材204とが組み立てられてユニット化された、内妻仕切ユニット200よりなり、客室103の側構体122及び屋根構体123の内面に配置される内周内壁材の表面と、客室側壁材211の表面に、所定の厚みを備えた多孔質材料よりなる吸音部材が、取り付けられる。
【背景技術】
【0002】
近年は、鉄道車両の室内の静粛性を高める技術を求めるニーズが高まっている。したがって、より高い静粛性を実現するためには、騒音を低減するような装備を備えることが望ましく、そうすることで、乗客に対する不快感や圧迫感を緩和することが行われている。
【0003】
このような車体の外部から客室内に侵入する騒音の中で、特に500Hz以下の低周波の騒音(以下、低周波域騒音とする)の音圧レベルが高いと、乗客が感じる不快感などが高くなることが分かってきた。このため、客室内に吸音部材を設けることで低周波域騒音の低減が行われるようになっている。
【0004】
特許文献1には、鉄道車両に関する技術が開示されている。鉄道車両の客室の上部にあって、客室天井面と側面が交差する軒部の客室側にあり、入り口部分に蓋を有する荷棚部において、荷棚部の蓋及び荷棚の少なくとも一方に、蓋または荷棚の板状構造の両面をパンチングメタルなどの多数の微細な孔の開いた多孔板を2枚並べて構成している。そして、その2枚の多孔板の間にグラスウールやスポンジ、発泡樹脂などの多孔質材料を単層または多層積層して配置する。この結果、多孔質材料が音響エネルギーを吸収して吸音性を発揮し、客室内の静粛性を高めることが可能となる。
【0005】
このような吸音構造を採用することで、鉄道車両の客室内の騒音を低減することができると思われるが、特許文献1に示されるような吸音構造は、屋根構体や側構体だけでは無く、鉄道車両の妻仕切に採用することも考えられる。鉄道車両の騒音の侵入ルートは様々だが、静粛性を高めるためには、妻構体からの騒音侵入も考慮する必要がある。特に客室とデッキが分かれる構造の場合、出入り口のあるデッキからは騒音が侵入し易く、出入り口の扉部分には吸音構造を付与しにくい。
【0006】
特許文献2には、鉄道車両の車内構造に関する技術が開示されている。客室とデッキとを仕切る仕切壁構造を備え、仕切壁構造は、対向して起立する客室側仕切パネルとデッキ側仕切パネルとの間の戸袋で仕切扉が収容可能となっている。客室側仕切パネルでは、客室表面板と客室裏面板は、音波に対する透過率が高くなるように構成されている。デッキ側仕切パネルでは、デッキ表面板及びデッキ裏面板との間が吸音材で構成され、デッキ表面板は音波に対する反射率及び遮音性が高い板材で構成され、デッキ裏面板は音波に対する透過率が高くなるように構成されている。
【0007】
特許文献3には、騒音抑制装置および鉄道車両に関する技術が開示されている。仕切板によって客室から隔てられたデッキを備える鉄道車両は、所定の厚さを有し、デッキの壁面に接合された枠体と、直径が1mm以下の微細孔が複数形成された板状をなし、枠体に、壁面から離間するとともに、枠体が形成する開口を覆うように設けられた微細穿孔板とを備える。その微細孔内における空気の振動エネルギーを、微細孔との摩擦によって熱エネルギーに変換することで騒音を吸収する騒音抑制装置が壁面の所定高さ位置に設けられている。その結果、デッキでの騒音抑制を実現することが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、乗客に対する不快感や圧迫感を生じる騒音の中には低周波域の騒音も存在し、特許文献1乃至特許文献3に記載の技術を適用するだけでは、以下に説明する理由から不十分だと考えられる。例えば、鉄道車両がトンネル内を走行する場合、鉄道車両が走行する際に発する騒音がトンネルの内壁によって反射を繰り返し、反響音を生じる。すると、反響音が低周波域騒音として、車体を構成する外板を透過し、客室に侵入する。なお、特に車体の屋根部分を透過する成分が多いことを、出願人は、実験により確認している。低周波域騒音が客室に侵入しようとする部分が広範囲に渡っているため、客室に侵入する可能性のある低周波域騒音を効果的に吸音するためには、車体を構成する外板(特に屋根部分)の一部に吸音材を付設するのみでは足りず、低周波域騒音が侵入する可能性のある部分に広範囲に渡って吸音部材を付設する必要がある。もちろん、こうした音は騒音対策のしにくいデッキ側から妻仕切を超えて侵入する事が想定される。
【0010】
そして、騒音を吸音するためには音の周波数に対応した所定の厚みを必要とする。鉄道車両で生じる低周波域騒音に対応するためには、場合によっては100mmを超える様な厚みを必要とすると考えられ、客室の居住性が犠牲になってしまう問題がある。また、低周波域騒音の対策として重要な点は、客室に侵入する可能性のある低周波域騒音を吸音すること以上に、隙間からの音漏れ・音の侵入を防ぐことである。こうした理由から、特許文献2に示されるように、単に仕切壁構造内部に吸音部材を配置するような対応だけでは、十分な騒音対策ができないと考えられる。また、客室内に配置された内装パネルが低周波域騒音を反射することで、こもり音となる事も考えられ、不快感の要因となり易い。
【0011】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、鉄道車両の客室内に生じる低周波域騒音について、特にデッキ側から客室内に侵入するルートに対する対策をするとともに、客室の空間確保が可能である鉄道車両の内装構造に関する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両の内装構造は、以下のような特徴を有する。
【0013】
(1)車体の内部に、客室とデッキと、前記客室と前記デッキとを仕切る内妻仕切を備える鉄道車両の内装構造において、所定の厚みを備えた多孔質材料を有する吸音部材が、前記内妻仕切の前記客室側の内壁面に取り付けられていること、を特徴とする。
【0014】
上記(1)に記載の態様により、内妻仕切の客室側の内面には多孔質材料を有する吸音部材が取り付けられ、多孔質材料は、音が入射されると、多孔質材料を構成する繊維が振動する。すると、入射された音は熱エネルギーに変換され、多孔質材料に吸音される。そのため、客室に侵入した低周波域騒音が、客室内で内面に当たった場合、反射を繰り返すことなく多孔質材料を有する吸音部材に吸音される。ここで多孔質材料は低周波騒音を吸音するのに必要な所定の厚みを備えている。そして、低周波域騒音の侵入ルートとして想定される、ドアなどが配置されるために騒音対策の難しいデッキ側から客室内に入るルートへの対策として、内妻仕切の客室側の内壁面に取り付けることで、内妻仕切付近に座る乗客の不快感が低減される。
【0015】
従来、客室の内面は樹脂もしくは金属製の内装パネルにより形成されているため、客室内に侵入した低周波域騒音が内装パネルに入射されても、内装パネルは音圧による内部組織の振動を起こしにくく、入射される音が熱エネルギーに変換されにくい。そのため、内装パネルは音を吸音しにくく、客室に侵入した低周波域騒音が内装パネルで反射しやすい。すると、客室内で低周波域騒音が反射を繰り返し、客室内に音がこもり、乗客に不快感を与える。そこで、本発明では内妻仕切の客室側の内壁面に用いる内装材に所定の厚みを備えた多孔質材料を用いることで、こうした低周波域騒音を吸収して反射を防ぐことができる。
【0016】
なお、多孔質材料の所定の厚みとは、その材料の吸音特性にもよるが、20mmから60mmの厚みであることが望ましい。こうした、多孔質材料を採用することで、後述するように低周波域騒音が入射された際に内部の組織が振動して熱エネルギーに変換され、低周波域騒音を吸収することが可能となる。また、吸音材が内妻仕切の客室側に設けられる構成を取ることで、後述するように音漏れ対策を講じ易くなるというメリットも得られる。
【0017】
(2)(1)に記載の鉄道車両の内装構造において、前記吸音部材は、前記客室の側から遠ざかる方向に、ガラス繊維生地、ガラス繊維マット、前記多孔質材料の順に積層されなること、が好ましい。
【0018】
上記(2)に記載の態様により、吸音部材の吸音性能を維持しつつ、吸音部材の不燃性を確保するとともに、客室の内壁の意匠性を向上させることができる。客室の内装に用いる材料は一定の不燃性を有するものでなければならないが、吸音部材として用いられている多孔質材料(例えばポリエチレン、ウレタンやアクリルを材質とするもの)は不燃性を有さない。本発明のように客室の内面を吸音部材により構成すると、吸音部材の使用量が従来よりも多くなる可能性がある。吸音部材の使用量が多くなる分、吸音部材が燃えた場合の有害ガスの発生量も多くなるおそれがあり、例えばトンネル内で火災が発生した場合などは、吸音部材が燃えてしまうと、トンネル内に大量の有害ガスが充満し、乗客や乗務員にとって非常に危険である。
【0019】
そこで、吸音部材に不燃性を有するガラス繊維マットを積層することで、吸音部材が客室側の熱源などに晒されても、多孔質材料が直接熱源に晒されることがなく、燃えてしまうことがない。よって、吸音部材の不燃性を確保することができる。なお、ガラス繊維マットの厚みは5〜20mm程度が望ましい。また、ガラス繊維マットが客室内に露出した状態では、乗客が触れるとガラス繊維マットからガラス繊維が客室内に飛散するおそれがあるが、ガラス繊維マットの上からガラス繊維生地で覆うことで、ガラス繊維の飛散防止を図ることが可能である。
【0020】
(3)(1)または(2)の鉄道車両の内装構造において、前記内妻仕切は、前記客室側に設けられる客室側壁材と、前記デッキ側に設けられるデッキ側壁材と、前記客室側壁材と前記デッキ側壁材とを接続する骨部材を有した、内妻仕切ユニットよりなり、前記内妻仕切ユニットは、あらかじめ前記客室側壁材と前記デッキ側壁材と前記骨部材とが前記車体の外部で組み立てられてユニット化されたものであり、前記内妻仕切ユニットの前記客室側壁材の表面に、前記吸音部材が外面側固定手段により取り付けられていること、が好ましい。
【0021】
上記(3)に記載の態様により、内妻仕切ユニットを用いてデッキと客室とを仕切る構造とするため、内妻仕切壁を鉄道車両の車室内に取り付ける手間がなくなり、施工性が改善することが期待できる。内妻仕切壁の施工は、客室内で行うのが一般的であるが、車室内は狭い上に内妻仕切壁の施工をしている間は周辺での作業を行いにくいという問題も出てくる。
【0022】
特に、デッキを採用する列車は、デッキと客室との間を通れなくなると、車室内にアクセスする手段が無くなってしまう構造となっており、車両の前方または後方どちらか一方の内妻仕切壁を施工している間は、その周囲での作業は行えず、また、通路を確保するために他方の作業も行えないので作業効率が悪い。更に、客室内は作業スペースが限られることも作業効率を悪化させる原因となる。しかし、内妻仕切壁をユニット化することで、ユニットを車外で作ることが可能となり、ユニット化した内妻仕切ユニットを車内に持ち込んで据え付けるという手順で施工が可能であるため、施工性が向上する上に作業効率も向上する。
【0023】
その上で、例えば面ファスナ構造など、面同士で接合する外面側固定手段を吸音部材、または内周側内壁材の表面や客室側壁材の表面に設けておくことで、容易に吸音部材を固定することができる。この事も施工性の向上に寄与する。
【0024】
(4)(3)に記載の鉄道車両の内装構造において、前記多孔質材料は、極細繊維からなる不織布であること、が好ましい。
【0025】
上記(4)に記載の態様により、吸音部材の厚みを、従来の吸音部材と比べて厚みを薄くすることができ、客室の空間確保が容易となる。すなわち、多孔質材料である不織布は、極細繊維からなるため、多孔質材料の密度を非常に高くすることができる。密度を高くすることで、多孔質材料内の迷路度が増し、多孔質材料に入射した音の伝播経路が長くなる。伝播経路が長くなることで、多孔質材料に入射した音は極細繊維を振動させるなど熱エネルギーに変換され易く、効果的に吸音が可能となる。この極細繊維は、繊維径が細い方が振動し易く、同じ目付であれば繊維径が細いほど吸音率が高くなる傾向にあり、低周波域騒音対策となる。このように、効果的に吸音が可能であるために、吸音部材の厚みを低周波域騒音の波長よりも厚くする必要がなく、従来の吸音部材と比べて厚みを薄くすることができ、客室の空間確保が容易となる。
【0026】
なお、極細繊維としては、例えば極細アクリル繊維の使用が望ましく、繊維径は、1.5〜6μm程度が望ましい。多様な周波数帯に対応しようとすると、繊維径がより太い極細アクリル繊維を用いた多孔質材料や、繊維径がより細い極細アクリル繊維を用いた多孔質材料が必要となり、吸音部材の厚みが増大するおそれがあるが、低周波域騒音の吸音に適した径である1.5〜6μmの極細アクリル繊維を用いることで、吸音部材の厚みを抑えることができる。
【0027】
(5)(3)に記載の鉄道車両の内装構造において、前記内妻仕切ユニットは、前記客室側壁材と前記デッキ側壁材との間に荷物を納めることができる荷室空間を有していること、が好ましい。
【0028】
上記(5)に記載の態様により、内妻仕切ユニットに荷物を収納できるスペースがあるので、各座席の荷棚の上や足下のスペースだけでなく、大きな荷物をここに収納でき、乗客に対する利便性が向上する。また、荷室空間を備えて内妻仕切ユニットが厚みを増すことで、遮音性が向上する。その結果、客室内の静粛性を高める事にも繋がる。
【0029】
(6)(3)に記載の鉄道車両の内装構造において、前記内妻仕切ユニットは、前記客室側壁材と前記デッキ側壁材との間に電気配線の施された配電盤を有していること、が好ましい。
【0030】
上記(6)に記載の態様により、ユニットとして配電盤が備えられ、電気配線が行われ、例えば電気配線をコネクタ接続とすることで、施工の手間を更に減らすことが可能となる。この場合、内妻仕切ユニットの配線は車外で行うことができる。一方で、車内の配線は車体の組み立ての工程の中で行う必要があるが、内妻仕切ユニットを車内に据え付けた後にコネクタ接続することで、スムーズな配線が行える。その結果、作業時間の短縮に貢献することができる。
【0031】
(7)(3)乃至(6)のいずれか1つに記載の鉄道車両の内装構造において、前記内妻仕切ユニットの前記客室側壁材と、前記客室の側構体及び屋根構体の内面とが、音の伝達を阻害する音密ラインを形成し、前記吸音部材は前記音密ラインを形成する面に取り付けられること、が好ましい。
【0032】
上記(7)に記載の態様により、音密ラインとして設定されているのが、内妻仕切ユニットの客室側壁材と、客室の側構体及び屋根構体の内面とで形成された連続的な面である。ここでいう音密ラインとは、音が透過しにくい連続した面で構成されるラインのことを指している。ここで、音密をとるためには音の透過損失向上はもとより、隙間からの音漏れの対策を講じることが重要になる。そのため、客室側壁材と客室の側構体及び屋根構体の内面が、隙間なく繋げられることで音密ラインを形成し、それぞれの表面に吸音部材が取り付けられる構造としている。
【0033】
従来、客室の内面は樹脂もしくは金属製の内装パネルにより形成され、吸音部材が用いられるケースは少なかったが、例えば内装パネル内に吸音部材を配置する構成を取った場合、客室内の吸音性能向上策としては吸音部材の客室側の面を音密ラインとし、客室外から侵入する音への対策としては、吸音部材の客室側から遠い面を音密ラインとすることが考えられ、音漏れ対策として吸音部材を内部に備えた内装パネル同士が隙間なく配置される必要がある。このため、必要に応じて、隣り合う内装パネルの隙間を、スポンジなどの柔らかい素材を潰して挟み込み、隙間を埋めるような必要があった。しかしその場合、吸音部材を備えた内装パネルは製造誤差により大きさが異なり、内装パネルは客室の内面を構成していて、乗客の目に触れるため、内装パネルの取り付けやスポンジの挟み込みは精度良く微調整をしながら行う必要があり、多大な作業時間を必要とする。
【0034】
本発明では音密ラインを客室側壁材と客室の側構体及び屋根構体の内面とで形成している。このような音密ラインの形成にあたっては、例えば後述するような防音パネルを用いることが考えられ、側構体や屋根構体の客室側に防音パネルを配置し、客室側壁材として防音パネルを用いて、その防音パネル同士の隙間を防音性の高い部材で埋めることが考えられる。そして、客室側壁材や客室の側構体及び屋根構体の内面には、その表面に吸音部材が取り付けられる。このため、客室側壁材と客室の側構体及び屋根構体の内面との間、或いは防音パネル同士の間にできる隙間を埋める場合にも客室に入った乗客の目には触れない部分で施工すれば良いこととなる。そのため接続部分は意匠的な配慮を必要とせず、作業時間の短縮を図る事が可能となる。こうして、音密ラインによって客室の外部からの音の侵入を防ぐとともに、吸音部材によって客室の内部でのこもり音の発生を抑えることが可能となる。
【0035】
また、客室内面を構成する吸音部材は、柔らかい素材であるため、吸音部材のサイズを、隣り合う吸音部材同士が若干量の干渉をするサイズとしておけば、隣り合う吸音部材同士が圧縮し合い、隙間を埋めることもあり、製造誤差による隙間の大小を気にして取付作業を行う必要が無い。また、吸音部材の見付け面が音密ラインとならないために、不連続な部分があっても吸音性を損なわず、施工時に吸音部材同士の接続部分の隙間をふさぐといった作業が必要なくなるので、施工の手間を省くことができる。この結果、作業時間の短縮に貢献することができる。
【0036】
(8)(3)乃至(7)のいずれか1つに記載の鉄道車両の内装構造において、前記客室側壁材に配置される前記吸音部材の厚みが、上部を厚く下部を薄くして傾斜がつけられていること、が好ましい。
【0037】
上記(8)に記載の態様により、上部、すなわち乗客が座席に着いた際に、乗客の耳に近くなる部分の厚みを厚くしておくことで、より効果的に低周波域騒音の低減を図ることができる。一方で、足下側には荷物の入るスペースなどが必要となることと、乗客の耳から遠くなることで、低周波域騒音の低減能力が多少低くなっても影響が薄いと考えられ、効果的に低周波域騒音の低減を図ることができる。また、足下のスペースを確保することで、通行性などに配慮することができる。
【0038】
(9)(3)乃至(8)のいずれか1つに記載の鉄道車両の内装構造において、前記客室側壁材に配置される前記吸音部材の前記客室側の表面の少なくとも一部に、剛性を有する金属繊維材を配置すること、が好ましい。
【0039】
上記(9)に記載の態様により、所定の剛性を備える金属繊維を配置することで、吸音部材の表面に堅い物が接触するなどして、吸音部材が破損することを防ぐことが可能である。この結果、乗客が吸音部材に接触して吸音部材が変形し、吸音部材の性能を低下させることを防ぐことができる。乗客の足下側は、乗客の足や荷物が接触するおそれが強く、吸音部材の変形に繋がることも考えられる。このため、剛性のある金属繊維を配置することで、そうした変形を防ぎ、吸音部材の性能を損なうことがない。
【発明を実施するための形態】
【0041】
まず、本発明の第1の実施形態について、図面を用いて説明を行う。
図1に、第1実施形態の、鉄道車両の内部の様子を断面図に示す。鉄道車両100は、複数の車体120を連結してなり、車体120は、側構体122、屋根構体123、台枠124、妻構体125および床板121よりなる。そして、床板121の上には複数の座席131が配列されている。側構体122には、荷棚133が取り付けられている。そして、一対の側構体122の上端部同士を橋渡すように屋根構体123が配置されている。床板121は台枠124によって支持されている。
【0042】
また、側構体122には、客室103側の内面には、内壁材130として、第3内壁材130Cが備えられている。同様に、屋根構体123の内面には、内壁材130として、第1内壁材130A、第2内壁材130Bが備えられている。これらの内壁材130は、厚みが約50mm程度に設定されており、屋根構体123や側構体122に対して面ファスナによって貼り付けられている。なお、以降、特に言及せずに単に内壁材130と表記した場合には、第1内壁材130A、第2内壁材130B、及び第3内壁材130Cのいずれか、或いはいずれも、を指すものとする。
【0043】
また、床板121の上には部分的に床吸音材130Dが配置されている。床板121の上面には、通路132の両脇、すなわち座席131が配置される場所に、取付面121aが形成されており、床吸音材130Dが面ファスナによって貼り付けられている。なお、床吸音材130Dの厚みは10〜50mmとしている。そして、床吸音材130Dの上に座席131が配置される。なお、必要に応じて通路132の上面にも防音部材を配置しても良い。また、床板121は防音パネルとしての性能を有していることが好ましい。
【0044】
屋根構体123の内面は客室103の天井を構成し、側構体122の内面上端部は、客室103の側天井を構成している。この屋根構体123の内面には、第1防音パネル138Aが設けられている。なお、第1防音パネル138Aは複数のパネルよりなる。この第1防音パネル138Aの内面に吸音部材である第1内壁材130A、第2内壁材130Bが面ファスナによって貼り付けられている。また側構体122の上端部には、第2防音パネル138Bが設けられている。さらに、ルーバ部材137が、第3内壁材130Cの上面を押さえるようにして、配置されている。なお、特にことわりなく防音パネル138とした場合は、第1防音パネル138A及び第2防音パネル138Bのいずれか一方、もしくはいずれも、を指すものとする。
【0045】
図2に、灯具周辺の断面図を示す。内壁材130には吸音部材が採用されており、客室103側から鉄道車両100の外部に向かって、ガラス繊維生地303、ガラス繊維マット302、多孔質材料301の順に積層されて形成されている。多孔質材料301には、直径約3μmの極細アクリル繊維よりなる不織布であり、その目付は、1800g/m
2である。そして、厚みは約40mmのものを採用した。不織布はポーラス(多孔質)構造であり、微細アクリル繊維など極細繊維不織布を所定の厚みで備えることで、高い吸音性を発揮することができる。これは、多孔質基材に音波が入射されると、その微細空間の空気粘性抵抗、素材との摩擦、素材の振動により音響エネルギーが熱に変換され、音波が多孔質基材に吸収されるからである。
【0046】
さらに、天井に取り付けられた灯具136が、第1内壁材130A、第2内壁材130Bの客室103側の面から反対側の面に貫通しており、灯具136を構成する灯具キセ135のフランジ部135aが第1内壁材130A、第2内壁材130Bなどの端部を押さえ付け、固定し、落下を防止している。第1内壁材130A、第2内壁材130Bの端部においては、ガラス繊維生地303が切りっぱなしの状態となっているため、灯具キセ135のフランジ部135aで第1内壁材130A、第2内壁材130Bの端部を押さえ付けることで、ガラス繊維生地303の切りっぱなしの部分がほつれることを防止している。
【0047】
多孔質材料301に接して配置されるガラス繊維マット302の厚みは、約10mmであり、多孔質材料301に熱溶着されて備えられる。客室103の内装に用いる材料は一定の不燃性を備える必要があるが、多孔質材料301は極細アクリル繊維よりなるため、不燃性を有さない。そこで、不燃性を有するガラス繊維マット302を多孔質材料301より客室103側に積層配置することで、客室103側の熱源などに内壁材130が晒されても、多孔質材料301が直接熱源に晒されることを防いでいる。
【0048】
ガラス繊維マット302より客室103側に配置されるガラス繊維生地303は、客室103に面する表皮材として配置される。ガラス繊維生地303は、ガラス繊維マット302と同様にガラス繊維を編んで布状にしたもので、一定の不燃性を有している。また、その表面は乗客の目に触れる部分であるため、ガラス繊維生地303の織り目に特徴のあるものを用いれば、客室103の内壁の意匠性を向上させることができる。
【0049】
図3に、車体の断面図を示す。
図4に、内妻仕切ユニットの客室側からの正面図を示す。
図5に、第1仕切ユニットの斜視図を示す。車体120は、デッキ102と、客室103とを備え、デッキ102と客室103を内妻仕切ユニット200(第1仕切ユニット201及び第2仕切ユニット202)が仕切っている。第1仕切ユニット201と第2仕切ユニット202は、上部にてカモイ203で連結されている。これらの第1仕切ユニット201、第2仕切ユニット202は、車体120に対して図示しないボルト等の結合部材を用いて取り付けられる。
【0050】
第1仕切ユニット201と第2仕切ユニット202には、妻引戸142を開閉する機能を備えている。第1仕切ユニット201には、液晶画面205と非常通報装置206が配置されている。一方の第2仕切ユニット202には、配電盤207が収納されている。カモイ203には、図示していないが必要に応じて電光掲示板などを配置することができる。第1仕切ユニット201の下部には、荷室スペース220が設けられている。なお、必要に応じて荷室スペース220と配電盤207の位置を入れ替えたり、荷室スペース220または配電盤207を増やしたりすることを妨げない。また、液晶画面205を第2仕切ユニット202側に増やしても良い。
【0051】
図6に、車体の内部からの側面図を示す。デッキ102と客室103の間を隔てている内妻仕切ユニット200(
図5では第1仕切ユニット201)の表面には、吸音部材として機能する内妻内壁材210が表面に備え付けられている。内妻内壁材210も、内壁材130と同様に面ファスナ構造で内妻仕切ユニット200の客室103側表面に取付けられている。この内妻内壁材210は、その上方、つまり屋根構体123側に向かって厚みが増すように構成されており、その下部には金属繊維を用いた板材よりなるガード板208が配置されている。ガード板208の下部には、金属製の幅木209が配置されている。なお、内妻内壁材210は、
図6に1つの部品のように描かれているが、複数のパーツに分割された部材とすることを妨げない。
【0052】
ガード板208は、所定の剛性を備え、不燃性を備えていることが必要で、さらには音を透過する性能を備える必要がある。したがって、微細な孔を備える金属繊維であることが望ましいが、吸音性を有した板材を用いても良い。なお、必要に応じてその高さを変更することを妨げない。例えば、ガード板208によって、内妻内壁材210の客室103側の人の手の届く範囲を覆うような形でも良い。これは、人の手の届かないところには剛性のある素材を用いる必要が無いが、人の手が届く範囲では、剛性のある素材で保護することが好ましいからである。
【0053】
また、内妻仕切ユニット200のうち、第1仕切ユニット201側には、客室103側に面する仕切壁である客室側壁材211とデッキ102側に面する仕切壁であるデッキ側壁材212の間には、荷室スペース220が配置される。また、上述するように、液晶画面205や非常通報装置206が内妻内壁材210の表面に現れるように配置される。よって、客室側壁材211とデッキ側壁材212の間のスペースには、電気配線などが第1仕切ユニット201として車体120の外部で製造される段階で配線されている。
【0054】
同様に、第2仕切ユニット202側に配置される配電盤207についても、必要な電気配線がなされた状態で、車体120内部に運ばれた際には図示しないコネクタで接続できるような構造となっている。また、図示しないが配電盤207にはアクセスし易いように、引き出し構造が採用されるか、デッキ側壁材212に図示しない扉が設けられていて、メンテナンスに配慮された構造であることが好ましい。
【0055】
これら内妻仕切ユニット200の施工手順は、まず車体120の内部に第1仕切ユニット201、第2仕切ユニット202及びカモイ203を運び込む。この搬入作業は、極力、鉄道車両100の車体120に妻構体125が取り付けられる前に行われることが望ましい。そして、車体120に対してボルト取り付けによって第1仕切ユニット201及び第2仕切ユニット202を組み付ける。その後、カモイ203を取り付けて、内妻仕切ユニット200によって内妻仕切壁を構成する。妻引戸142はこの段階で取り付け、調整する。なお、液晶画面205や非常通報装置206、配電盤207との配線については、この段階でコネクタ接続しておく。
【0056】
その後に、客室側壁材211の表面に内妻内壁材210を貼り付ける手順となる。ガード板208や幅木209はその後施工すればよく、内壁材130もこの段階で施工することが好ましい。最後に、荷棚133を取り付ける。なお、座席131などの大きな物は、妻引戸142の部分を通らない場合は、内妻仕切ユニット200を施工する前に搬入する事が望ましい。
【0057】
第1実施形態の鉄道車両100の内装構造は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0058】
まず、第1実施形態の効果として、吸音性能を備えた内妻仕切の施工性を向上させる効果が得られる点が挙げられる。これは、本実施形態の鉄道車両100が、車体120の内部に、客室103とデッキ102と、客室103とデッキ102とを仕切る内妻仕切を備える鉄道車両100において、所定の厚みを備えた多孔質材料を有する吸音部材に相当する内妻内壁材210が、内妻仕切となる内妻仕切ユニット200の客室103側内面に取り付けられるためである。
【0059】
また、側構体122及び屋根構体123の内面に、内壁材130を設け、内妻仕切ユニット200の客室側壁材211の表面に内妻内壁材210を外面側固定手段に相当する面ファスナによって取り付けられることで、客室103内の静粛性を高めることに貢献することができる。内壁材130、及び内妻内壁材210に共通する多孔質材料301、ガラス繊維マット302、ガラス繊維生地303の3層構造とすることで、より吸音性能を高めることが可能となる。
【0060】
従来の客室103の内面は、樹脂もしくは金属製の内装パネルにより形成されていたため、客室103内に侵入した低周波域騒音が内装パネルに入射されても、内装パネルは音圧による内部組織の振動を起こしにくく、入射される音が熱エネルギーに変換されにくい。そのため、内装パネルは音を吸音しにくく、客室103に侵入した低周波域騒音が内装パネルで反射し易い。すると、客室103内で低周波域騒音が反射を繰り返し、客室103内に音がこもり、乗客に不快感を与えるおそれがあった。そして、低周波域騒音は、従来のウレタンやグラスウールを用いた吸音部材で吸音しようとすると、波長に応じた厚みが必要となり客室103内のスペースを確保することが困難となる課題があった。
【0061】
しかし、第1実施形態において吸音部材に用いた多孔質材料301は、上述したように極細アクリル繊維による不織布からなる。このため、多孔質材料301の目付が1800g/m
2と非常に高い。目付が高いため、多孔質材料301に入射した音の伝播経路が長くなる。伝播経路が長くなることで、多孔質材料301に入射した音は極細アクリル繊維を振動させるなど熱エネルギーに変換され易く、効果的に吸音が可能である。
【0062】
また、多様な周波数帯に対応しようとすると、繊維径がより太い極細アクリル繊維を用いた多孔質材料301や、繊維径がより細い極細アクリル繊維を用いた多孔質材料301が必要となり、吸音部材である内壁材130、及び内妻内壁材210の厚みが増大するが、低周波域騒音の吸音に適した径である約3μmの極細アクリル繊維を用いることで、吸音部材の厚みを40mm程度に抑えることができ、客室103の空間確保が容易となる。出願人は、従来のウレタンを材質とする吸音部材と比べ、吸音特性が60〜70%向上されることを確認している。
【0063】
一方で、不燃性の無い多孔質材料301の客室103側にガラス繊維マット302を熱溶着することで、内壁材130、及び内妻内壁材210の不燃性を確保することができる。その上で、ガラス繊維マット302の客室103側からガラス繊維生地303で覆うことで、ガラス繊維の飛散防止を図ることができる。ここで、多孔質材料301に用いたアクリル繊維は不燃性を有しておらず、多孔質材料301の表面に不燃性を有するガラス繊維マット302を積層して配置することで、法令に定める耐火性を有することができる。更に、ガラス繊維マット302の表面をガラス繊維生地303で覆うことで、ガラス繊維の剥離や飛散を防止できる。
【0064】
また、多孔質材料301がガラス繊維生地303や、ガラス繊維マット302で覆われる。そのため、外部から客室103内に侵入した低周波域騒音が、ガラス繊維生地303や、ガラス繊維マット302に反射し、客室103内で音がこもることが懸念されるが、ガラス繊維生地303や、ガラス繊維マット302は、織り目が粗く、音が透過可能であるため、客室103に侵入した低周波域騒音がガラス繊維生地303や、ガラス繊維マット302に反射されず、多孔質材料301に届くため、低周波域騒音を多孔質材料301で吸音可能である。よって、ガラス繊維生地303や、ガラス繊維マット302を積層することによって、内壁材130、及び内妻内壁材210の吸音性能が低下することがない。
【0065】
実際に、出願人は本実施形態による鉄道車両100の客室103において、内壁材130、及び内妻内壁材210を設けることで、低周波域騒音の音圧レベルが低減されることを、実験により確認している。
【0066】
また、内妻仕切ユニット200を用いることで、施工性を改善している。これは、第1実施形態の鉄道車両100が、車体120の内部に、客室103とデッキ102と、客室103とデッキ102とを仕切る内妻仕切を備える鉄道車両100であり、内妻仕切は、客室103側に設けられる客室側壁材211と、デッキ102側に設けられるデッキ側壁材212と、客室側壁材211とデッキ側壁材212とを接続する骨部材204を有している。この客室103外部で客室側壁材211とデッキ側壁材212と骨部材204とが組み立てられてユニット化された、内妻仕切ユニット200(第1仕切ユニット201、第2仕切ユニット202、及びカモイ203)において、客室103の側構体122及び屋根構体123の内面に配置される内周内壁材の表面と、客室側壁材211の表面に、所定の厚みを備えた多孔質材料よりなる吸音部材(内壁材130、及び内妻内壁材210)が、取り付けられている構成となっているためである。
【0067】
従来、内妻仕切壁は車体120内で、骨組みに対して内妻仕切壁となるハードボードと呼ばれる木製の板を貼り、このハードボードの面を床面との垂直度を調整した上で、仕切り面化粧板を取り付けるといった手順で行われていた。また、吸音性能を付与する場合には、この仕切り面化粧板の内側、つまり客室103側に吸音部材を配置する手順になる。その後、妻引戸142を取り付けて調整することとなる。
【0068】
しかしながら、第1実施形態で示すように、内妻仕切壁をユニット化し、第1仕切ユニット201と第2仕切ユニット202及びカモイ203に分割しておくことで、開口部からこれらのユニットを鉄道車両100内に搬入し、据え付けてボルトで結合することで内妻仕切壁の施工ができるため、鉄道車両100内で行う作業を大幅に減らすことができる。
【0069】
また、妻引戸142の取り付けにあたっても、予め車外で第1仕切ユニット201と第2仕切ユニット202及びカモイ203を組み立て、妻引戸142の取り付けを行い、床面との隙間の調整などを行っておけば、鉄道車両100内にこれらのユニットをばらして運び込んだ後に、組み付け、簡易の調整にて妻引戸142のセッティングが完了する。
【0070】
さらに、内妻仕切壁をユニット化することで、第1仕切ユニット201と第2仕切ユニット202を鉄道車両100に取り付ける作業は、ボルト等の結合部材を用いて行われる。このため、溶接などで骨部材204を車体120に取り付ける場合に比べて歪みの発生するリスクが少なく、取り付け後の調整が少なくて済むという効果も得られる。この事は妻引戸142の取り付けにも影響し、車体120に取り付けた後の調整作業時間を短縮することが可能である。
【0071】
また、内壁材130、及び内妻内壁材210が、面ファスナ構造で取り付け可能である点も、施工性の向上に寄与している。このような内壁材130、及び内妻内壁材210の施工を可能としたのは、音密面を見付け面、すなわち内壁材130、及び内妻内壁材210の客室103側の最表面に持って来ず、内壁材130、及び内妻内壁材210の取り付け面、すなわち側構体122、屋根構体123、及び客室側壁材211の客室103側の面、すなわち内壁材130の取付面で音密ラインを形成する構成としたためである。
【0072】
具体的には、屋根構体123から側構体122の上部にかけて、防音パネル138として内妻仕切部防音パネル138Dを配置している。すなわち屋根構体123と第1内壁材130A及び第2内壁材130Bの間、或いは側構体122と第3内壁材130Cの間に、内妻仕切部防音パネル138Dが配置されている。防音パネル138は低周波域騒音が外部から客室103内に伝達されることを阻害する目的で配置されている。そして、音密ラインとしては、屋根構体123の内側に配置される第1防音パネル138Aの客室103側面と、側構体122の上部内側に配置される第2防音パネル138Bと、その下に設けられる側構体122の客室103側面と、内妻仕切ユニット200の客室103側面の内妻仕切部防音パネル138Dで構成されて、防音効果を発揮できるように施工される。
【0073】
ここで、音密ラインとは、音が透過しにくい連続した面で構成されるラインのことであり、例えば金属で連続的に構成される面などがこれに該当する。ただし、車体120はアルミニウム合金材料等が使われることが多く、その遮音性能は比重の大きい材料と比べて劣る。しかし面密度が高いことで比較的音が透過しにくい状態を実現する。
【0074】
第1実施形態では、防音パネル138を配置して、屋根構体123の内側には第1防音パネル138Aが配置され、側構体122の上部には第2防音パネル138Bが配置されている。また、
図6に示すように、内妻仕切ユニット200の客室側壁材211にも内妻仕切部防音パネル138Dが配置されている。これらの防音パネル138は連続した面を構成するために、隙間は防音性の高い部材で塞がれている。そして、その表面には吸音部材として内壁材130及び内妻内壁材210が設けられている。このように、見付け面に直接音密ラインを露出させず、面ファスナ構造で内壁材130、及び内妻内壁材210を取り付けることは、吸音性能を高める意味でも効果がある。また、見付面に極力取り付け用の金属部品が表面に露出しにくいというメリットも得られる。
【0075】
その結果、第1内壁材130A、第2内壁材130B、第3内壁材130C、及び内妻内壁材210による吸音性能を高めることに貢献し、客室103内の静粛性を高めることができる。なお、床板121に防音パネルとしての機能を備え、その表面にも床吸音材130Dを配置することで、より静粛性を高めることに貢献することができる。これは、床面に向かった低周波騒音は床吸音材130Dによって大部分が吸収され、反射されないことも静粛性の向上に寄与する。そして、こうした面ファスナ構造で内壁材130、及び内妻内壁材210を取り付ける構造を採用したことで、内妻仕切ユニット200を車体120に取り付けた後の作業の迅速化を図ることができる。
【0076】
また、見付け面が音密ラインとなっていないことで、内壁材130の接続部分にできる隙間を塞ぐなどの処理が不要となる点も、施工性の向上、作業時間の短縮に貢献する。例えば、従来技術として紹介した特許文献2の様に、部分的に吸音部材を備えたパネルを配置するだけでは、吸音部材同士の間に隙間ができるので、有効な音密ラインを形成することは困難である。これは、内装パネル内に吸音部材を配置した場合も同様の問題を抱えることになる。第1実施形態では、上述したように音密ラインとなる屋根構体123の内側に配置される第1防音パネル138Aの客室103側面と、側構体122の上部内側に配置される第2防音パネル138Bと、その下に設けられる側構体122の客室103側面の表面と、内妻仕切ユニット200の客室103側に設けられる内妻仕切部防音パネル138Dに、それぞれ内壁材130、及び内妻内壁材210を面ファスナ構造により取り付けている。
【0077】
その結果、車体120内部での作業工程が少なくなり、車外で行える作業が増えることは、車体120の製造において、車両製作の工程短縮に繋がり、製造コストの削減にも繋がる。また、ガラス繊維生地303が、最も客室103の側に積層されており、乗客の目に触れる部分であるため、ガラス繊維生地303の織り目に特徴のあるものを用いれば、客室103の内壁の意匠性を向上させることに貢献できる。
【0078】
また、内妻内壁材210の厚みを、屋根構体123側に近づくにつれて厚みを増す構成にしてあることで、乗客の耳回りに近い範囲の吸音性を向上させる効果が得られる。一方で、内妻内壁材210の下部を薄くしてあることで、足下のスペースの確保に繋がり、通行性に配慮することができる。もともと、低周波域騒音は図示しない台車などからも発生すると考えられているが、床板121の上に床吸音材130Dを配置することで、客室103内に低周波域騒音が侵入することを防いでいる。
【0079】
しかしながら、トンネル内などに入って台車などから発生する音が外部の壁に反射して側構体122や屋根構体123側から音が侵入するケースがあることが分かっている。第1内壁材130A、第2内壁材130B、及び第3内壁材130Cの配置は、そうした上側や横側からの音を吸音する狙いがあり、客室103に侵入した低周波域騒音が客室103内にこもることを効果的に防止し、客室103内での音の反響を防ぐ意味でも静粛性向上に寄与できる。
【0080】
さらに、内壁材130及び内妻内壁材210の施工を最後にすることで、比較的柔らかい部材からなるこれらの部品を、他の作業の際に潰してしまうなどのアクシデントを防ぎ、美観や性能を維持することに貢献することができる。
【0081】
また、内妻仕切ユニット200の下部にガード板208が配置されることで、乗客の足や荷物が当たって、内妻内壁材210が潰れたり破損したりすることを防ぎ、美観向上に寄与している。さらに、電気配線なども事前に内妻仕切ユニット200に行っておくことと、コネクタ接続とすることで、車体120の内部で行う作業が少なくなり、鉄道車両100の製造時間を減らし、製造コストを低減させることに貢献することができる。
【0082】
また、第1内壁材130Aや第2内壁材130Bを灯具キセ135によって押さえ、固定することで、固定具等によって吸音部材の表面積が減少することを最小限にし、吸音性能の低下を可能な限り防ぐことができる。天井部分に第1内壁材130Aや第2内壁材130Bを付設する場合には、第1内壁材130Aや第2内壁材130Bが落下することを防止するために固定具により固定が必要な場合がある。
【0083】
その場合には、固定具が第1内壁材130Aや第2内壁材130Bの表面積を減少させる割合を可能な限り小さくすることが望まれる。第1内壁材130Aや第2内壁材130Bの客室103側の面から反対側の面まで固定具を貫通させ、第1内壁材130Aや第2内壁材130Bを固定することとすると、固定具のサイズ分だけ第1内壁材130Aや第2内壁材130Bの表面積が減少し、表面積が減少した分だけ吸音効率が低下するためである。そこで、必ず客室103に設置される灯具136の一部である灯具キセ135を利用して第1内壁材130Aや第2内壁材130Bを固定することで、吸音部材の表面積が減少することを最小限にし、吸音性能の低下を可能な限り防ぐことができる。
【0084】
なお、灯具キセ135は、キセ部材の一例である。その他のキセ部材としては、例えば、車内放送等に用いられるスピーカのカバーなどがあげられる。当該カバーの縁部分などを用いて第1内壁材130Aや第2内壁材130B、或いは第3内壁材130Cを固定することが可能である。
【0085】
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を用いて説明を行う。第2実施形態は、第1実施形態の鉄道車両100とほぼ同じ構成であるが、吸音部材となる内壁材130の配置される範囲が異なる。また、防音パネル138の配置される範囲も異なる。
図7に、第2実施形態の、鉄道車両の内部の様子を示す断面図である。客室103の空間に余裕がある場合には、吸音部材となる第1内壁材130A、第2内壁材130B、第3内壁材130Cに加えて、側構体122の下部に第4内壁材130Fが備えられる。また、床板121の上には床吸音材130Dが備えられ、通路132も吸音機能を有する素材が用いられている。つまり、客室103の内面の全周に吸音機能を有する素材を配置した構成となっている。こうすることで、第1実施形態よりも更に吸音性能を高めることが可能である。
【0086】
また、それぞれの吸音部材の背面、つまり客室103から遠い面には、防音パネル138として第1防音パネル138A、第2防音パネル138B、第3防音パネル138Cが配置されていて、内妻仕切ユニット200の客室103側内面には内妻仕切部防音パネル138Dが配置される。また、床板121は防音機能を有している。この結果、防音パネル138の客室103を取り囲む面が音密ラインを形成する構造となっている。なお、図示していないが、それぞれの防音パネル138の間は、適切に隙間が埋められている。ただし、防音パネル138の配置や吸音部材の配置は、鉄道車両100の車両限界や質量制限、居住空間など様々な要因を加味して適切に判断されることが望ましい。
【0087】
客室103が、防音パネル138(第1防音パネル138A、第2防音パネル138B、第3防音パネル138C、及び内妻仕切部防音パネル138D)及び防音機能を有する床板121に囲まれ、それぞれが適切に隙間で埋められて音密ラインを形成することで、遮音性が高まって鉄道車両100の外部から客室103内に低周波域騒音が伝達されることを防ぐ。また、防音パネル138の客室103側の表面に、内壁材130(第1内壁材130A、第2内壁材130B、第3内壁材130C、及び第4内壁材130F)、内妻内壁材210、及び床吸音材130Dが配置される構造とすることで、客室103内に侵入した低周波数騒音を吸収し、乗客が不快感を覚えることを防ぐことが可能となる。
【0088】
そして、こうした客室103の内面に設けられる防音パネル138や床板121そして内妻仕切ユニット200に備える内妻仕切部防音パネル138Dのそれぞれの隙間は、従来のように防音可能な材料を用いて埋める作業を必要とするが、その内側に吸音部材として機能する内壁材130及び内妻内壁材210が配置される構成であるために、乗客の目に触れることのない位置で施工することが可能となる。こうした意匠性を考慮する必要の無い隙間を埋める作業は、作業性の向上や施工コストの削減にも貢献できる。
【0089】
更に、内壁材130及び内妻内壁材210は、第1実施形態で説明するように比較的柔らかい素材であるため、内壁材130及び内妻内壁材210の大きさを若干大きめに設定しておけば、吸音部材の取り付け作業を簡略化することにも繋がる。
【0090】
これは、第1実施形態でも言及したが音密ラインを内壁材130及び内妻内壁材210の見付面でとらないためで、吸音部材が不連続に配置された場合でも性能を損ない難く、吸音部材の配置を微調整する必要がなくなるためである。このことも、作業性の向上や作業時間の短縮に繋がり、製造コストの削減に貢献する。
【0091】
以上、本発明に係る鉄道車両100に関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。第1実施形態や第2実施形態に示す鉄道車両100の構造についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することを妨げない。例えば、内妻仕切ユニット200を第1仕切ユニット201、第2仕切ユニット202及びカモイ203の3分割構造としているが、必要に応じてこれを増減することを妨げない。