【課題】車体のリアフロアの凹部にバッテリとスペアタイヤを上下に重ねて配置する際に、車体への後突によるスペアタイヤの前方への移動を抑制できるスペアタイヤ取付構造を提供する。
【解決手段】スペアタイヤ取付構造は、リアフロア20の左右縁に沿って前後に延びるリヤフレーム22に架設され、リアフロア20の凹部21に収納されたバッテリ40の上方にスペアタイヤ50を載置するタイヤ取付装置30を備え、タイヤ取付装置30は、スペアタイヤ50の前方への移動を規制するガード部材39を備える。
前記タイヤ取付装置は、前後一対の車幅方向に延びる取付用パイプ材を、前後に延びる複数のブラケットで連結し、当該ブラケットの前端に前記ガード部材が固定されて成る
ことを特徴とする請求項1に記載のスペアタイヤ取付構造。
前記ガード部材は、パイプ材であって、前記車幅方向の左右のリヤフレーム近傍の取付用パイプ材への固定部と、当該取付用パイプ材に片寄って配置されたスペアタイヤに干渉するように折り曲げられた干渉部とを備える
ことを特徴とする請求項3に記載のスペアタイヤ取付構造。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態の構成>
本発明の実施形態について、
図1〜
図10を参照して詳細に説明する。説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図中において、矢印で示す「前後」は自動車の車体(図示せず)の前後方向、「左右」は車体の幅方向、「上下」は鉛直上下方向をそれぞれ示している。
【0011】
図1は車体のリアフロアの凹部にバッテリとスペアタイヤを上下に重ねて配置したスペアタイヤ取付構造を示す斜視図、
図2は
図1のA1−A1断面図である。
図1及び
図2に示すスペアタイヤ取付構造10は、車体のリアフロア20の凹部21における車幅方向の左右縁に沿って、前後に延びる左右のリヤフレーム22が配設されている。この左右のリヤフレーム22に、
図3に示すように、梯子状に延び且つ車体前側にガード部材39を備えるタイヤ取付装置30を架設した構造となっている。ガード部材39は、凸状に立ち上がった形状を成す。
【0012】
タイヤ取付装置30は、
図1及び
図2に示すように、リアフロア20の凹部21に配置したバッテリ40の上方に架設される。このタイヤ取付装置30の上に、スペアタイヤ50を横に寝かせて載置(又は配置)する。この載置されたスペアタイヤ50の車体前側に、立ち上がったガード部材39が存在するので、車体への後突時に、スペアタイヤ50がガード部材39で規制されて前方に移動しないようになっている。
【0013】
図3に示すタイヤ取付装置30は、車体の前側に車幅方向に延在して配置される取付用パイプ材(パイプ材ともいう)31aと、後側に配置される取付用パイプ材31bとが、車体前後方向に延在する4つのブラケット32a,32b,32c,32dで橋渡し状に連結(橋接)されている。前後のパイプ材31a,31bの両端部(又は左右端部)が、左右のリヤフレーム22の上に載置される。
【0014】
後側のパイプ材31bの両端部には、リヤフレーム22への取付部材33が固定されている。取付部材33は、三角板形状を成し、この三角板形状の両角部にネジ穴33a(
図6参照)が形成されている。このネジ穴33aにネジ34を螺合して、
図4に示すように、リヤフレーム22に固定されるようになっている。この取付部材33の固定により後側のパイプ材31bがリヤフレーム22に固定される。前側のパイプ材31aは、この両端部に、ネジ穴35a(
図6参照)を有する長板状の取付部材35が固定されており、そのネジ穴35aにネジ34を螺合してリヤフレーム22に固定されるようになっている。
【0015】
前後のパイプ材31a,31bは、スペアタイヤ50(
図1)を車幅方向の片側に寄せて配置する形状を、ジグザグ状に折り曲げて実現している。本実施形態では、
図1に示すように、車幅方向の左側にスペアタイヤ50を寄せて安定的に配置する。この一方に寄せた配置のため、
図3に示すように、各ブラケット32a〜32dで橋接された前後のパイプ材31a,31bの、左側部分の前後間隔を長く、右側部分の前後間隔を短くして構成している。
【0016】
このような間隔とするために、4つのブラケット32a〜32dは、左側から右側に向かって順に長くなっている。但し、右端側のブラケット32dは、前後のパイプ材31a,31bを橋接する長さが最も短いが、後述のようにガード部材39を固定するガード部材固定部32d1の長さがある。このため、ブラケット32dの全長では、当該ブラケット32dの左側に隣接するブラケット32cと略同じ長さとなっている。そのガード部材固定部32d1は、ブラケット32dの車体前側に備えられている。
【0017】
左端側のブラケット32aも、車体前側にガード部材固定部32a1を備える。この左端側のガード部材固定部32a1と、右端側のブラケット32dのガード部材固定部32d1とに、ガード部材39が固定されている。
【0018】
このような構成のタイヤ取付装置30は、前後に離間した一対のパイプ材31a,31bが、複数のブラケット32a〜32dで橋渡し状に連結され、左端側及び右端側のブラケット32a,32dの前端にガード部材39が固定されて成る。このため、少ない部品点数で高強度に構成できる。また、前後のパイプ材31a,31bは、ジグザグ状に折り曲げられた形状となっているので、より強度を高めることができる。このようにタイヤ取付装置30が高強度であるため、タイヤ取付装置30を補強無しに単体でリヤフレーム22に、ネジや、ボルト及びナットで取り付ければよいので、リヤフレーム22に容易に取り付けることができる。
【0019】
図3に示すように、タイヤ取付装置30は、略正三角形38の頂点となる位置に配置された3つの座面32a2,32a3,32c1を有する。更に、前後(一対)のパイプ材31a,31bは、車幅方向の一方側における前後のパイプ材31a,31b同士の間隔が、車幅方向の他方側における前後のパイプ材31a,31b同士の間隔よりも拡がるように折り曲げられている。そして、スペアタイヤ50(
図1)は、車幅方向の一方側に片寄って配置されており、且つ、3つの座面32a2,32a3,32c1に支持されている。3つの座面32a2,32a3,32c1は、ブラケット32a,32cの上面に形成されている。なお、略正三角形38は、正三角形でもよく、請求項記載の三角形を構成する。
【0020】
このようなタイヤ取付装置30によって、
図1に示すように、スペアタイヤ50を車幅方向の一方に寄せて配置することで、リアフロア20に荷物等の配置スペース23を確保できる。また、
図3に示すように、前後のパイプ材31a,31bを、スペアタイヤ50が、ブラケット32a,32c上の略正三角形38の3つの頂点で受けられる状態とするためにジグザグ状に折り曲げることで、スペアタイヤ50を安定して支持できる。つまり、スペアタイヤ50を3点で支持するので、スペアタイヤ50の余計な個所が当たらずガタツキを防止できる。しかも、パイプ材31a,31bを折り曲げるだけなので、製造が容易で低コストで作成でき、ジグザグ状に曲げるので高強度に作成できる。
【0021】
各ブラケット32a,32cの上面の略正三角形38の3つの頂点は、当該上面を膨出して成形した3つの座面32a2,32a3,32c1(
図5の座面32a2を参照)で形成されている。各ブラケット32a,32cの内、左側のブラケット32aの前方には座面32a2が形成され、後方には座面32a3が形成されている。右側のブラケット32cの前後中央位置には、座面32c1が形成されている。
【0022】
この構成のように、各ブラケット32a,32cの上面を膨出して3つの座面32a2,32a3,32c1を形成するので、スペアタイヤ50を略正三角形38の3つの頂点で支持する構成を、少ない部品点数で安価に形成できる。また、各座面32a2,32a3,32c1は、各ブラケット32a,32cの上面を膨出して形成しているので、高強度に形成できる。
【0023】
上記の左側のブラケット32aにおける前側の座面32a2は、
図5に示すように、前側のパイプ材31aにミグ溶接等で溶接され、後側の座面32a3は、後側のパイプ材31bにミグ溶接等で溶接されている。
【0024】
この溶接によって、ブラケット32aの前後の座面32a2,32a3の、前後のパイプ材31a,31bへの結合強度を高めることができる。
【0025】
図3に示す各パイプ材31a,31bの両側の上に位置する各ブラケット32a,32d(上側ブラケット32a,32dともいう)の下側に、
図6に示すように、当該ブラケット32a,32dよりも短い、他のブラケット36a,36d(下側ブラケット36a,36dともいう)を備える。
【0026】
左端側の下側ブラケット36aは、上側ブラケット32aの約1/3の長さであり、右端側の下側ブラケット36dは、上側ブラケット32dの約1/2の長さを有する。各下側ブラケット36a,36dの先端部は、ガード部材固定部36a1,36d1となっている。このガード部材固定部36a1,36d1は、
図5にガード部材固定部36a1を代表して示すように、ガード部材39のパイプ周回面の一部に嵌る湾曲形状となっている。
図6に示す下側ブラケット36a,36dのパイプ材31a,31bに当接する個所も、湾曲形状となっている。
【0027】
更に、両端側の上側ブラケット32a,32dのガード部材固定部32a1,32d1も、湾曲形状となっている。左端側の上側ブラケット32aの前後の座面32a2,32a3における車幅方向の両側部も、
図5に座面32a2を代表して示すように、湾曲形状となっている。右端側の上側ブラケット32dの前後のパイプ材31a,31bに当接する個所も、湾曲形状となっている。
【0028】
また、
図6に示す両端側の上側ブラケット32a,32dの間の2つのブラケット32b,32cも、前後のパイプ材31a,31bに当接する個所は、湾曲形状となっている。
【0029】
このような両端側の上側ブラケット32a,32dと、下側ブラケット36a,36dとで、ガード部材39並びに前後のパイプ材31a,31bを上下から挟んでミグ溶接等で溶接して固定する。この上下から挟んで溶接した状態を、
図5に上側ブラケット32aと下側ブラケット36aとを代表して示し、溶接個所に符号37を付した。この溶接個所37は、ガード部材固定部32a1の湾曲形状部分とガード部材39との当接箇所、座面32a2の両側の湾曲形状部分とパイプ材31aとの当接箇所、更に、下側ブラケット36aの後端部分と上側ブラケット32aとの当接箇所である。この他、
図5には見えていないが、下側ブラケット36aとパイプ材31aとの当接箇所も溶接されている。
【0030】
この構成のように、前後のパイプ材31a,31bを、上側ブラケット32a,32dと下側ブラケット36a,36dとで挟んで溶接固定するので、高強度に結合でき、タイヤ取付装置30を高強度に構成できる。
【0031】
また、ガード部材39を、左端側の上側ブラケット32aのガード部材固定部32a1と下側ブラケット36aのガード部材固定部36a1とで挟んで溶接固定すると共に、右端側の上側ブラケット32dのガード部材固定部32d1と下側ブラケット36dのガード部材固定部36d1とで挟んで溶接固定するので、後突に耐え得る高強度な結合構造を実現できる。
【0032】
図3に示すように、ガード部材39は、パイプ材であって、車幅方向の左右のリヤフレーム22近傍の前側のパイプ材31aにブラケット32aを介して固定する固定部39aと、パイプ材31a,31bに片寄って配置されたスペアタイヤ50に干渉するように折り曲げられた干渉部39bとを備える。干渉部39bは、
図7に破線で示すように、スペアタイヤ50の接地面50aに、極力広範囲に干渉するように、上下方向、左右方向及び斜め方向に折り曲げることが好ましい。なお、破線で示すように、ガード部材39の干渉部39bの高さは、接地面50aの幅よりも低いが、その幅よりも高く上に突き出るようにしてもよい。
【0033】
この構成によって、ガード部材39がパイプ材なので、容易に折り曲げて固定部39aと干渉部39bを形成できる。また、車幅方向の片側に寄ったスペアタイヤ50でも、リヤフレーム22近傍でブラケット32aを介してパイプ材31aと固定する固定部39aにより高強度に支持できる。
【0034】
また、後突時にスペアタイヤ50が前方側に移動した際に、その接地面50aが即時、ガード部材39に干渉して抑制される(当たって停止する)ので、スペアタイヤ50を前方に移動しないように止めることができる。この際、接地面50aが広範囲にガード部材39に干渉する(当たる)ので、より効果的にスペアタイヤ50を止めることができる。
【0035】
次に、
図3に示すように、複数のブラケット32a〜32dの内の少なくとも一つは、スペアタイヤ50を固定するスペアタイヤ固定部(固定部)32fを備える。詳細には、スペアタイヤ50が載置される3つの座面32a2,32a3,32c1を結んだ三角形38において、三角形38の内部に位置するブラケット32bの前後幅の中央部分に、スペアタイヤ固定部32fが溶接等で固定されている。
【0036】
スペアタイヤ固定部32fは、中央部が膨出したワッシャ形状を成し、その膨出部分の中央にネジ穴32f1が設けられている。
図1に示すように、スペアタイヤ50の中央の貫通孔50bがネジ穴32f1と上下で一致する状態で、スペアタイヤ50を座面32a2,32a3,32c1に載置する。この載置後、貫通孔50bよりも頭部が拡幅したネジ(図示せず)を貫通孔50bから挿通してネジ穴32f1に螺合し、スペアタイヤ50を固定する。
【0037】
この構成のように、3つの座面32a2,32a3,32c1で三角形上に載置されるスペアタイヤ50を、三角形内のブラケット32bに固定されたスペアタイヤ固定部32fにネジ止めすることにより、スペアタイヤ50を強度高く安定的に固定できる。この固定構造を、少ない部品点数で実現できる。
【0038】
図3に示す両端側のブラケット32a,32dの間に、前後のパイプ材31a,31bのみを連結するブラケット32b,32cが配置されている。前後のパイプ材31a,31bのみを連結するブラケット32b,32cは、左右横並びに2つ以上備えられ、パイプ材31a,31bの上面及び下面に交互に連結されている。更に説明すると、
図8に前側のパイプ材31aへのブラケット32a〜32dの固定状態を代表して斜視図で示すように、前後のパイプ材31a(及びパイプ材31b)のみを連結する一方(左側)のブラケット32bがパイプ材31aの下面に固定(連結)され、他方(右側)のブラケット32cがパイプ材31aの上面に固定されている。
【0039】
この構成のように、パイプ材31a,31bの上面及び下面を、交互にブラケット32b,32cで連結することにより、パイプ材31a,31bを上下からバランスよく固定できる。このため、少ない部品点数で高強度にパイプ材31a,31bを連結できる。
【0040】
図4に示すように、車両の左右にリヤダンパベース60が配設されており、左右のリヤダンパベース60の各々に補強部材61が溶接で固定されている。この左右の補強部材61に接続部材65(
図7参照)を介してクロスメンバ62が架設され、このクロスメンバ62の上方にガード部材39が配置されている。クロスメンバ62は、
図8に示すように、上下に離間した上側のクロスメンバ62aと下側のクロスメンバ62bとが、左右の連結部材62cで連結されている。
【0041】
図2に示すように、上下のクロスメンバ62a,62bを、上下で結んだ斜線63の上方に、ガード部材39の車幅方向に水平に延在する上辺(
図4参照)が配置されている。
図4に示すように、上側のクロスメンバ62aの両側は補強部材61に固定され、下のクロスメンバ62bの両側はリヤフレーム22に固定されている。この固定により、クロスメンバ62は強固に固定されている。
【0042】
このように各々が強固に固定されたガード部材39の水平な上辺及びクロスメンバ62を、下から後方に向かって上方向に傾斜する斜線63上に配置することで、後突で前方に移動するスペアタイヤ50を、ガード部材39及びクロスメンバ62の双方による強い反力で食い止めることができる。
【0043】
図9に示すように、前後のパイプ材31a,31bは、リヤフレーム22のバルクヘッド22bの近傍又は、補強部材22eの近傍のリアフロア20(
図1)のフロアパネル20aに固定されている。
【0044】
更に説明すると、前側のパイプ材31aにおける両端部の取付部材35は、
図10に一方を代表して示すように、強固なバルクヘッド22bの近傍のリヤフレーム22に、ネジ35で固定されている。バルクヘッド22bは、前後に延びるリヤフレーム22内を前後に仕切る状態で、上下に壁状に配設されている。また、
図9に示す後側のパイプ材31bにおける両端側の取付部材33は、リヤフレーム22内の内壁に固定された補強部材22eの近傍のフロアパネル20aにネジ34で固定されている。補強部材22eは、リヤフレーム22内の内壁に長手方向に延在して固定された強固な材質から成る。
【0045】
但し、前側のパイプ材31aの取付部材35は、バルクヘッド22bに固定してもよく、後側のパイプ材31bの取付部材33も、補強部材22eに固定してもよい。
【0046】
このように、前後のパイプ材31a,31bが、強固なバルクヘッド22b及び補強部材22eの近傍のフロアパネル20aに固定、又は、フロアパネル20aと、バルクヘッド22b及び補強部材22eとに固定されるので、ガード部材39の後突荷重の支持強度を高めることができる。
【0047】
以上、本実施形態に係るスペアタイヤ取付構造について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。