【課題】複数の係合機構を選択的に係合することにより複数の走行モードの設定が可能なハイブリッド車両において、係合機構の係合遅れが生じることを抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】シングルモードから第1走行モードに切り替えると推定された場合に、第1モータの回転数を第1係合機構の駆動側部材と従動側部材との回転数の差である差回転数を低下させる第1待機回転数に制御し、シングルモードから第2走行モードに切り替えると推定された場合に、第1モータの回転数を前記第1待機回転数とは異なる第2係合機構の差回転数を低下させる第2待機回転数に制御する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態におけるハイブリッド車両(以下、車両と記す)Veの一例を
図1を参照して説明する。
図1は、前輪(駆動輪)1R,1Lを駆動するための駆動装置2を示し、駆動装置2は、エンジン(ENG)3と二つのモータ4,5とを駆動力源として備えたいわゆる2モータタイプの駆動装置である。第1モータ4は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG1)によって構成され、エンジン3の回転数を第1モータ4によって制御するとともに、第1モータ4で発電した電力により第2モータ5を駆動し、その第2モータ5が出力するトルクを走行のための駆動力に加えるように構成されている。なお、第2モータ5は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG2)によって構成することができる。
【0022】
エンジン3には、この発明の実施形態における差動機構に相当する動力分割機構6が連結されている。この動力分割機構6は、エンジン3が出力したトルクを第1モータ4側と出力側とに分割する機能を主とする分割部7と、そのトルクの分割率を変更する機能を主とする変速部8とにより構成されている。
【0023】
分割部7は、三つの回転要素によって差動作用を行う構成であればよく、遊星歯車機構を採用することができる。
図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構(第1差動機構)によって構成されている。
図1に示す分割部7は、サンギヤ9と、サンギヤ9に対して同心円上に配置された、内歯歯車であるリングギヤ10と、これらサンギヤ9とリングギヤ10との間に配置されてサンギヤ9とリングギヤ10とに噛み合っているピニオンギヤ11と、ピニオンギヤ11を自転および公転可能に保持するキャリヤ12とを有している。なお、キャリヤ12がこの発明の実施形態における第1回転要素に相当し、サンギヤ9がこの発明の実施形態における第2回転要素に相当し、リングギヤ10がこの発明の実施形態における第3回転要素に相当する。
【0024】
エンジン3が出力した動力が前記キャリヤ12に入力されるように構成されている。具体的には、エンジン3の出力軸13に、動力分割機構6の入力軸14が連結され、その入力軸14がキャリヤ12に連結されている。なお、キャリヤ12と入力軸14とを直接連結する構成に替えて、歯車機構などの伝動機構(図示せず)を介してキャリヤ12と入力軸14とを連結してもよい。また、その出力軸13と入力軸14との間にダンパ機構やトルクコンバータなどの機構(図示せず)を配置してもよい。
【0025】
サンギヤ9に第1モータ4が連結されている。
図1に示す例では、分割部7および第1モータ4は、エンジン3の回転中心軸線と同一の軸線上に配置され、第1モータ4は分割部7を挟んでエンジン3とは反対側に配置されている。さらに、変速部8が、この分割部7とエンジン3との間で、これら分割部7およびエンジン3と同一の軸線上に、その軸線の方向に並んで配置されている。
【0026】
変速部8は、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、変速部8は、上記の分割部7と同様に、サンギヤ15と、サンギヤ15に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ16と、これらサンギヤ15とリングギヤ16との間に配置されてこれらサンギヤ15およびリングギヤ16に噛み合っているピニオンギヤ17と、ピニオンギヤ17を自転および公転可能に保持しているキャリヤ18とを有している。したがって、変速部8は、サンギヤ15、リングギヤ16、およびキャリヤ18の三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構(第2差動機構)となっている。この変速部8におけるサンギヤ15に分割部7におけるリングギヤ10が連結されている。また、変速部8におけるリングギヤ16に、出力ギヤ19が連結されている。なお、上記のリングギヤ16がこの発明の実施形態における第4回転要素に相当し、サンギヤ15がこの発明の実施形態における第5回転要素に相当し、キャリヤ18がこの発明の実施形態における第6回転要素に相当する。
【0027】
上記の分割部7と変速部8とが複合遊星歯車機構を構成するように第1クラッチ機構(第1係合機構)CL1が設けられている。第1クラッチ機構CL1は、変速部8におけるキャリヤ18を、分割部7におけるキャリヤ12および入力軸14に選択的に連結するように構成されている。具体的には、第1クラッチ機構CL1は、互いに係合することによりトルクを伝達し、また互いに解放することによりトルクを遮断する回転部材12a,12bを有している。一方の回転部材12aは入力軸14に連結され、他方の回転部材12bはキャリヤ18に連結されている。これらの回転部材12a,12bのうちの一方がこの発明の実施形態における駆動側部材に相当し、他方がこの発明の実施形態における従動側部材に相当する。この第1クラッチ機構CL1は、湿式多板クラッチなどの摩擦式のクラッチ機構であってもよく、あるいはドグクラッチなどの噛み合い式のクラッチ機構であってもよい。または、制御信号が入力されることにより連結状態と解放状態とを切り替え、かつ制御信号が入力されていない場合に、制御信号が入力されなくなる直前の状態(連結状態または解放状態)を維持するように構成されたいわゆるノーマルステイ型のクラッチ機構であってもよい。この第1クラッチ機構CL1を係合させることにより分割部7におけるキャリヤ12と変速部8におけるキャリヤ18とが連結されてこれらが入力要素となり、また分割部7におけるサンギヤ9が反力要素となり、さらに変速部8におけるリングギヤ16が出力要素となった複合遊星歯車機構が形成される。すなわち、入力軸14と第1モータ4の出力軸4aと、後述するドリブンギヤ21とが差動回転できるように複合遊星歯車機構が構成されている。
【0028】
さらに、変速部8の全体を一体化させるための第2クラッチ機構(第2係合機構)CL2が設けられている。この第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16もしくはサンギヤ15、あるいはサンギヤ15とリングギヤ16とを連結するなどの少なくともいずれか二つの回転要素を連結するためのものであって、摩擦式、噛み合い式、あるいは、ノーマルステイ型のクラッチ機構によって構成することができる。
図1に示す例では、第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16とを連結するように構成されている。具体的には、第2クラッチ機構CL2は、互いに係合することによりトルクを伝達し、また互いに解放することによりトルクを遮断する回転部材18a,18bを有している。一方の回転部材18aはキャリヤ18に連結され、他方の回転部材18bはリングギヤ16に連結されている。これらの回転部材18a,18bのうちの一方がこの発明の実施形態における駆動側部材に相当し、他方がこの発明の実施形態における従動側部材に相当する。
【0029】
上記のエンジン3や分割部7あるいは変速部8の回転中心軸線と平行にカウンタシャフト20が配置されている。前記出力ギヤ19に噛み合っているドリブンギヤ21がこのカウンタシャフト20に取り付けられている。また、カウンタシャフト20にはドライブギヤ22が取り付けられており、このドライブギヤ22が終減速機であるデファレンシャルギヤユニット23におけるリングギヤ24に噛み合っている。さらに、前記ドリブンギヤ21には、第2モータ5におけるロータシャフト25に取り付けられたドライブギヤ26が噛み合っている。したがって、前記出力ギヤ19から出力された動力もしくはトルクに、第2モータ5が出力した動力もしくはトルクを、上記のドリブンギヤ21の部分で加えるように構成されている。このようにして合成された動力もしくはトルクをデファレンシャルギヤユニット23から左右のドライブシャフト27に出力し、その動力やトルクが前輪1R,1Lに伝達されるように構成されている。
【0030】
なお、駆動装置2には、第1モータ4を走行のための駆動力源とする場合に、エンジン3の回転を止めるための摩擦式あるいは噛み合い式のブレーキ機構(第3係合機構)B1が設けられている。すなわち、ブレーキ機構B1は所定の固定部と出力軸13または入力軸14との間に設けられ、係合して出力軸13または入力軸14を固定することにより、分割部7におけるキャリヤ12や、変速部8におけるキャリヤ18を反力要素として機能させ、分割部7におけるサンギヤ9を入力要素として機能させることができるように構成されている。なお、ブレーキ機構B1は、第1モータ4が駆動トルクを出力した場合に、反力トルクを発生させることができればよく、出力軸13または入力軸14を完全に固定する構成に限らず、要求される反力トルクを出力軸13または入力軸14に作用させることができればよい。または、出力軸13や入力軸14が、エンジン3がその駆動時に回転する方向とは逆方向に回転することを禁止するワンウェイクラッチをブレーキ機構B1として設けてもよい。
【0031】
第1モータ4にインバータやコンバータなどを備えた第1電力制御装置28が連結され、第2モータ5にインバータやコンバータなどを備えた第2電力制御装置29が連結され、それらの各電力制御装置28,29は、リチウムイオン電池、キャパシタ、全固体電池などから構成された蓄電装置30に電気的に連結されている。また、上記第1電力制御装置28と第2電力制御装置29とが相互に電力を供給できるように構成されている。具体的には、第1モータ4が反力トルクを出力することに伴って発電機として機能する場合には、第1モータ4で発電された電力を第2モータ5に供給することができるように構成されている。
【0032】
なお、上記の蓄電装置30は、上述したようにリチウムイオン電池、キャパシタ、全固体電池などによって構成される。それら蓄電デバイスは、それぞれ特性が異なるから、車両Veは、蓄電装置30を単一種類の蓄電デバイスから構成することに限られず、上記の各蓄電デバイスの特性を考慮して複数の蓄電デバイスを組み合わせて構成してもよい。
【0033】
上記の各電力制御装置28,29におけるインバータやコンバータ、エンジン3、各クラッチ機構CL1,CL2およびブレーキ機構B1を制御するための電子制御装置(ECU)31が設けられている。このECU31は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体にして構成されている。
図2は、ECU31の構成の一例を説明するためのブロック図である。
図2に示す例では、統合ECU32、MG-ECU33、エンジンECU34、および、クラッチECU35によりECU31が構成されている。
【0034】
統合ECU32は、車両Veに搭載された種々のセンサから入力されたデータと、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて演算を行い、その演算結果を、MG-ECU33、エンジンECU34、およびクラッチECU35に指令信号を出力するように構成されている。統合ECU32に入力されるデータの一例を
図2に示してある。車速、アクセル開度、第1モータ(MG1)4の回転数、第2モータ(MG2)5の回転数、エンジン3の出力軸13の回転数(エンジン回転数)、変速部8におけるカウンタシャフト20の回転数である出力回転数、各クラッチ機構CL1,CL2やブレーキ機構B1に設けられたピストン(アクチュエータ)のストローク量、蓄電装置30の温度、各電力制御装置28,29の温度、第1モータ4の温度、第2モータ5の温度、分割部7や変速部8などを潤滑するオイル(ATF)の温度、蓄電装置30の充電残量(SOC)などのデータが、統合ECU32に入力される。
【0035】
そして、統合ECU32に入力されたデータなどに基づいて第1モータ4の運転状態(出力トルクや回転数)、第2モータ5の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてMG-ECU33に出力する。同様に、統合ECU32に入力されたデータなどに基づいてエンジン3の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、その求められたデータを指令信号としてエンジンECU34に出力する。同様に、統合ECU32に入力されたデータなどに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2、およびブレーキ機構B1の伝達トルク容量(「0」を含む)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてクラッチECU35に出力する。
【0036】
MG-ECU33は、上記のように統合ECU32から入力されたデータに基づいて各モータ4,5に通電するべき電流値を求めて、各モータ4,5に指令信号を出力する。各モータ4,5は、交流式のモータであるから、上記の指令信号は、インバータで生成するべき電流の周波数や、コンバータで昇圧するべき電圧値などが含まれる。
【0037】
エンジンECU34は、上記のように統合ECU32から入力されたデータに基づいて電子スロットルバルブの開度を定めるための電流値やパルス数、点火装置で燃料を着火するための電流値やパルス数、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブの開度を定めるための電流値やパルス数、吸気バルブや排気バルブの開度を定めるための電流値やパルス数などの指令値を求め、それぞれのバルブや装置に指令信号を出力する。すなわち、エンジン3の出力(パワー)や、エンジン3の出力トルク、もしくはエンジン回転数を制御するための指示信号を、エンジンECU34から出力する。
【0038】
クラッチECU35は、上記のように統合ECU32から入力されたデータに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2およびブレーキ機構B1の係合圧を定めるアクチュエータに通電するべき指令値を求めて、それぞれのアクチュエータに指令信号を出力する。
【0039】
上記の駆動装置2は、エンジン3から駆動トルクを出力して走行するHV走行モードと、エンジン3から駆動トルクを出力することなく、第1モータ4や第2モータ5から駆動トルクを出力して走行するEV走行モードとを設定することが可能である。さらに、HV走行モードは、第1モータ4を低回転数で回転させた場合(「0」回転を含む)において、変速部8のリングギヤ16の回転数よりもエンジン3(または入力軸14)の回転数が高回転数となるHV-Loモードと、変速部8のリングギヤ16の回転数よりもエンジン3(または入力軸14)の回転数が低回転数となるHV-Hiモードと、変速部8のリングギヤ16の回転数とエンジン3(または入力軸14)の回転数が同一である直結モード(固定段モード)とを設定することが可能である。なお、HV-LoモードとHV-Hiモードとでは、トルクの増幅率はHV-Loモードの方が大きくなる。
【0040】
またさらに、EV走行モードは、第1モータ4および第2モータ5から駆動トルクを出力するデュアルモードと、第1モータ4から駆動トルクを出力せずに第2モータ5のみから駆動トルクを出力するシングルモード(切り離しモード)とを設定することが可能である。更にデュアルモードは、第1モータ4から出力されたトルクの増幅率が比較的大きいEV-Loモードと、第1モータ4から出力されたトルクの増幅率がEV-Loモードより小さいEV-Hiモードとを設定することが可能である。なお、シングルモードでは、第1クラッチ機構CL1を係合した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行することや、第2クラッチ機構CL2を係合した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行すること、あるいは各クラッチ機構CL1,CL2を解放した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行することが可能である。
【0041】
それらの各走行モードは、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、ブレーキ機構B1、およびエンジン3、各モータ4,5を制御することにより設定される。
図3に、これらの走行モードと、各走行モードにおける、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、ブレーキ機構B1の係合および解放の状態、第1モータ4および第2モータ5の運転状態、エンジン3からの駆動トルクの出力の有無の一例を図表として示してある。図中における「●」のシンボルは係合している状態を示し、「−」のシンボルは解放している状態を示し、「G」のシンボルは主にジェネレータとして運転することを意味し、「M」のシンボルは主にモータとして運転することを意味し、空欄はモータおよびジェネレータとして機能していない、または第1モータ4や第2モータ5が駆動のために関与していない状態を意味し、「ON」はエンジン3から駆動トルクを出力している状態を示し、「OFF」はエンジン3から駆動トルクを出力していない状態を示している。
【0042】
各走行モードを設定した場合における動力分割機構6の各回転要素の回転数、およびエンジン3、各モータ4,5のトルクの向きを説明するための共線図を
図4ないし
図9に示している。共線図は、動力分割機構6における各回転要素を示す直線をギヤ比の間隔をあけて互いに平行に引き、これらの直線に直交する基線からの距離をそれぞれの回転要素の回転数として示す図であり、それぞれの回転要素を示す直線にトルクの向きを矢印で示すとともに、その大きさを矢印の長さで示している。
【0043】
図4に示すようにHV-Hiモードでは、エンジン3から駆動トルクを出力し、第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、第1モータ4から反力トルクを出力する。また、
図5に示すようにHV-Loモードでは、エンジン3から駆動トルクを出力し、第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、第1モータ4から反力トルクを出力する。上記HV-HiモードやHV-Loモードが設定されている場合の第1モータ4の回転数は、エンジン3の燃費や第1モータ4の駆動効率などを考慮した駆動装置2全体としての効率(消費エネルギー量を前輪1R,1Lのエネルギー量で除算した値)が最も良好となるように制御される。上記の第1モータ4の回転数は無段階に連続的に変化させることができ、その第1モータ4の回転数と車速とに基づいてエンジン回転数が定まる。したがって、動力分割機構6は、無段変速機として機能できる。
【0044】
上記のように第1モータ4から反力トルクを出力することにより、第1モータ4が発電機として機能する場合には、エンジン3の動力の一部が第1モータ4により電気エネルギーに変換される。そして、エンジン3の動力から第1モータ4により電気エネルギーに変換された動力分を除いた動力が変速部8におけるリングギヤ16に伝達される。その第1モータ4から出力する反力トルクは、動力分割機構6を介してエンジン3から第1モータ4側に伝達されるトルクの分割率に応じて定められる。この動力分割機構6を介してエンジン3から第1モータ4側に伝達されるトルクと、リングギヤ16側に伝達されるトルクとの比、すなわち動力分割機構6におけるトルクの分割率は、HV-LoモードとHV-Hiモードとで異なる。
【0045】
具体的には、第1モータ4側に伝達されるトルクを「1」とした場合、HV-Loモードではリングギヤ16側に伝達されるトルクの割合であるトルク分割率は、「1/(ρ1×ρ2)」となり、HV-Hiモードではそのトルク分割率は、「1/ρ1」となる。すなわち、エンジン3から出力されたトルクのうちリングギヤ16に伝達されるトルクの割合は、HV-Loモードでは、「1/(1−(ρ1×ρ2))」となり、HV-Hiモードでは、「1/(ρ1+1)」となる。ここで、「ρ1」は分割部7のギヤ比(リングギヤ10の歯数とサンギヤ9の歯数との比率)であり、「ρ2」は変速部8のギヤ比(リングギヤ16の歯数とサンギヤ15の歯数との比率)である。なお、ρ1およびρ2は、「1」よりも小さい値である。したがって、HV-Loモードが設定されている場合には、HV-Hiモードが設定されている場合と比較して、リングギヤ16に伝達されるトルクの割合が大きくなる。
【0046】
なお、エンジン3の出力を増大させてエンジン3の回転数を増大させている場合には、エンジン3の出力のうちエンジン3の回転数を増大させるために要したパワーを減じたパワーに相当するトルクが、エンジン3から出力されるトルクとなる。そして、第1モータ4により発電された電力が第2モータ5に供給される。その場合、必要に応じて蓄電装置30に充電されている電力も第2モータ5に供給される。
【0047】
直結モードでは、各クラッチ機構CL1,CL2が係合されることにより、
図6に示すように動力分割機構6における各回転要素が同一回転数で回転する。すなわち、エンジン3の動力の全てが動力分割機構6から出力される。言い換えると、エンジン3の動力の一部が、第1モータ4や第2モータ5により電気エネルギーに変換されることがない。したがって、電気エネルギーに変換する際に生じるジュール損などを要因とした損失がないため、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0048】
さらに、
図7および
図8に示すようにEV-LoモードとEV-Hiモードとでは、ブレーキ機構B1を係合するとともに各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。具体的には、
図7に示すようにEV-Loモードでは、ブレーキ機構B1および第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。すなわち、ブレーキ機構B1により、出力軸13またはキャリヤ12が回転することを制限するための反力トルクを作用させる。その場合における第1モータ4の回転方向は、正方向になり、かつ出力トルクの向きは、その回転数を増大させる方向となる。また、
図8に示すようにEV-Hiモードでは、ブレーキ機構B1および第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。すなわち、ブレーキ機構B1により、出力軸13またはキャリヤ12が回転することを制限するための反力トルクを作用させる。その場合における第1モータ4の回転方向は、エンジン3の回転方向(正方向)とは反対方向(負方向)になり、かつ出力トルクの向きは、その回転数を増大させる方向となる。
【0049】
また、変速部8のリングギヤ16の回転数と第1モータ4の回転数との回転数比は、EV-Loモードの方がEV-Hiモードよりも大きくなる。すなわち、同一車速で走行している場合には、EV-Loモードを設定する場合の方が、EV-Hiモードを設定する場合よりも第1モータ4の回転数が高回転数になる。つまり、EV-Loモードの方が、EV-Hiモードよりも減速比が大きい。そのため、EV-Loモードを設定することにより大きな駆動力を得ることができる。なお、上記のリングギヤ16の回転数は、出力部材(あるいは出力側)の回転数であって、
図1のギヤトレーンでは、便宜上リングギヤ16から駆動輪までの各部材のギヤ比は1とする。そして、シングルモードでは、
図9に示すように第2モータ5のみから駆動トルクを出力しており、かつ各クラッチ機構CL1,CL2が解放されていることにより、動力分割機構6の各回転要素は停止した状態になる。したがって、エンジン3や第1モータ4を連れ回すことによる動力損失を低減することができる。なお、上述した各走行モードにおいて、第1クラッチ機構CL1を係合して設定される走行モードが、この発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、第2クラッチ機構CL2を係合して設定される走行モードが、この発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。
【0050】
蓄電装置30の充電残量(SOC)、車速、要求駆動力などに基づいて上記の各走行モードを定めるように構成されている。この発明の実施形態では、蓄電装置30の充電残量を維持するように各走行モードを設定するCS(Charge Sustain)モードと、蓄電装置に充電された電力を積極的に使用するCD(Charge Depleting)モードとを、蓄電装置30の充電残量に応じて選択するように構成されている。具体的には、蓄電装置30の充電残量が低下している場合などに、CSモードを選択し、蓄電装置30の充電残量が比較的多い場合などにCDモードを選択するように構成されている。
【0051】
図10には、CSモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
【0052】
図10に示す例では、前進走行しており、要求駆動力が比較的小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ5の特性に基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
【0053】
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が比較的大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置30の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
【0054】
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかのモードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両Veの運転状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
【0055】
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードは、
図10に示す各ラインを運転点が横切ることにより切り替えるように構成されている。具体的には、
図10における「Lo←Fix」のラインを運転点が
図10における右側から左側に向けて横切って変化した場合や、下側から上側に向けて横切って変化した場合に、直結モードからHV-Loモードに切り替えるように構成され、「Lo→Fix」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切って変化した場合や、上側から下側に向けて横切って変化した場合に、HV-Loモードから直結モードに切り替えるように構成されている。同様に、
図10における「Fix←Hi」のラインを運転点が右側から左側に向けて横切って変化した場合や、下側から上側に向けて横切って変化した場合に、HV-Hiモードから直結モードに切り替えるように構成され、「Fix→Hi」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切って変化した場合や、上側から下側に向けて横切って変化した場合に、直結モードからHV-Hiモードに切り替えるように構成されている。
【0056】
図11には、CDモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
【0057】
図11に示す例では、前進走行しており、要求駆動力が第1駆動力F1よりも小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ5の特性などに基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
【0058】
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が第1駆動力F1よりも大きい場合には、デュアルモードが設定される。さらに、第1車速V1よりも高車速である場合や、第2車速V2よりも高車速でありかつ要求駆動力が第2駆動力F2よりも大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置30の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードやデュアルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
【0059】
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかの走行モードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両Veの走行状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
【0060】
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードの各走行モードは、
図11に示す各ラインを横切って運転点が変化することにより切り替えられるように構成されている。具体的には、
図11における「Lo⇔Fix」のラインを運転点が横切って変化した場合に、直結モードとHV-Loモードとが相互に切り替えられるように構成されている。同様に、
図11における「Fix⇔Hi」のラインを運転点が横切って変化した場合に、HV-Hiモードと直結モードとが相互に切り替えられるように構成されている。
【0061】
なお、
図10や
図11に示す走行モードを設定する領域や、HV走行モードを設定する条件下におけるモードの切り替えを行うためのラインは、駆動装置2を構成する各部材の温度や、蓄電装置30あるいは電力制御装置28,29の温度、もしくは蓄電装置30の充電残量などに応じて変動するように構成してもよい。
【0062】
このように構成された車両Veは、上述したように、複数の走行モードの設定が可能であり、例えばシングルモードからHV走行モードに移行する場合にはHV-LoモードとHV-Hiモードとの複数の遷移先が存在する。またその遷移先の走行モードがHV-Loモードの場合には、
図3の図表で示したように第1クラッチ機構CL1を係合し、一方、HV-Hiモードの場合には第2クラッチ機構CL2を係合する。さらに、第1クラッチ機構CL1あるいは第2クラッチ機構CL2を係合させる際に制御する第1モータ4の目標とする回転数は各クラッチ機構CL1,CL2ごとに異なる。すなわち各クラッチ機構CL1,CL2の同期回転数が異なる。そして、各クラッチ機構CL1,CL2の係合もしくは解放の状態を切り替えて走行モードを変更する際は、走行モードの切り替えにおけるタイムラグを短縮することが好ましく、言い換えれば各クラッチ機構CL1,CL2の係合の遅れを抑制することが好ましい。そこで、この発明の実施形態では、シングルモードから他の走行モードに切り替える際の、各クラッチ機構CL1,CL2の係合の遅れを抑制するように構成されている。以下に、ECU31で実行される制御例について説明する。
【0063】
図12は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、シングルモードから第1クラッチ機構CL1、あるいは、第2クラッチ機構CL2を係合して走行モードを切り替える場合の各クラッチ機構CL1,CL2における係合の応答性が低下すること(係合遅れ)を抑制するように構成されている。具体的には、先ず、現在の走行モードがシングルモードか否かを判断する(ステップS1)。これは、現在の走行状態が第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行しているか否かを判断するステップである。要求駆動力Fや車速Vが比較的低い状態である場合にはシングルモードが設定され、したがって、その場合は、このステップS1で肯定的に判断される。なお、ステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、
図12に示す制御を一旦終了する。
【0064】
現在の走行モードがシングルモードであると判断された場合には、現在の車速Vが第1モータ4の待機モードをオンにする車速Vth_1(第1所定車速)を超えているか否かを判断する(ステップS2)。すなわち、第1モータ4の回転数を後述する待機回転数に制御するための制御要求が成立したか否かを判断する。上述の
図10や
図11のマップで説明したように、車速Vや要求駆動力F(あるいはアクセル開度Acc)が増大すると、走行モードをHV走行モードやEV走行モード(デュアルモード)に切り替えるので、第1クラッチ機構CL1あるいは第2クラッチ機構CL2を係合させることになる。また、この発明の実施形態では、シングルモードから第1クラッチ機構CL1や第2クラッチ機構CL2を係合する走行モードへ切り替える場合には、各クラッチ機構CL1,CL2を係合する際の応答性の低下を抑制するために、その差回転数を低下させるように第1モータ4の回転数を予め制御する。ここで、差回転数とは、前述した駆動側部材と従動側部材との回転数の差である。そのため、このステップS2では、現在の車速Vが第1モータ4の回転数を待機回転数に制御する待機モード(以下、単に待機モードとも記す)をオンにする車速Vth_1を超えているか否かを判断する。
【0065】
より具体的には、各クラッチ機構CL1,CL2における従動側部材は、シングルモードにおいて、出力ギヤ19と共に回転し、あるいは出力ギヤ19が回転していることにより連れ回されるから、その回転数は車速に応じた回転数あるいはそれに応じた低回転数になる。また、駆動側部材は、エンジン3が停止していることにより停止しており、あるいはエンジン3および第1モータ4が停止しかつ出力ギヤ19が車速に応じた低回転数で回転していることによりリングギヤ16より低速で回転している。したがって、低車速の場合には、駆動側部材および従動側部材が共に低回転数になるので、各クラッチ機構CL1,CL2における差回転数が低回転数になる。このような状態では、係合遅れを回避もしくは抑制するための回転数制御を特には必要としない。そのため、ステップS2では、このような差回転数制御を必要としない低車速であるか否かを判断している。したがって、車速Vが閾値として設定されている車速Vth_1以下であることによりステップS2で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。
【0066】
一方、ステップS2で肯定的に判断された場合、すなわち現在の車速Vが待機モードをオンにする車速Vth_1より大きい場合には、遷移先の走行モードを推定する(ステップS3)。遷移先の走行モードは、現在の車速V、要求駆動力F、あるいは、アクセル開度Accから推定される。その推定される走行モードは、HV-Loモード、HV-Hiモード、EV-Loモード、および、EV-Hiモードである。例えば、比較的低車速の場合や要求駆動力Fが比較的大きい場合に、HV-Loモードが推定され、比較的高車速でかつ要求駆動力Fが比較的小さい場合に、HV-Hiモードが推定される。
【0067】
このステップS3で遷移先の走行モードを推定した後、第1モータ4の待機回転数を算出する(ステップS4)。
図1に示す駆動装置2では、車両Veが前進走行している状態で、第1モータ4によってサンギヤ9を回転させると、リングギヤ10およびこれに連結されているサンギヤ15が、第1モータ4の回転数に応じた回転数で回転し、さらにキャリヤ18がそのサンギヤ15および出力ギヤ19(リングギヤ16)の回転数に応じた回転数で回転する。このキャリヤ18に、第1クラッチ機構CL1の従動側部材である回転部材12bや第2クラッチ機構CL2の駆動側部材である回転部材18aが連結されているので、結局、これらの回転部材12b,18aが第1モータ4の回転数に応じた回転数になる。すなわち、第1モータ4によって第1クラッチ機構CL1や第2クラッチ機構CL2における差回転数を制御することができる。ステップS4では、遷移先の走行モードに応じて、第1クラッチ機構CL1あるいは第2クラッチ機構CL2の差回転数が低下するように第1モータ4の待機回転数を算出する。走行モードを切り替えるために係合させる第1クラッチ機構CL1あるいは第2クラッチ機構CL2の係合遅れを低下もしくは回避するためである。
【0068】
上述したように第1クラッチ機構CL1を係合する場合の第1モータ4の同期回転数と、第2クラッチ機構CL2を係合する場合の第1モータ4の同期回転数とはそれぞれ異なる。例えば
図7および
図8から把握できるように、第1クラッチ機構CL1を係合する場合の第1モータ4の同期回転数は正の回転数であり、それとは反対に第2クラッチ機構CL2を係合する場合の第1モータ4の同期回転数は負の回転数である。そのため、第1モータ4の待機回転数を一律に決定すると、一方のクラッチ機構CL1(CL2)を係合する場合には、第1モータ4を特に制御しない場合(
図9のシングルモードの状態)に比べて却って前記差回転数が大きくなり係合の遅れが生じる。そこで、このステップS4では、ステップS3で推定した遷移先の走行モードと現在の車速Vとに基づいて第1モータ4の待機回転数を算出するように構成されている。
【0069】
図13は、その第1モータ4の待機回転数の一例を示す図であって、遷移先の走行モードがLoモードの場合には、待機回転数をエンジンの回転方向である正方向に制御し、遷移先の走行モードがHiモードの場合には、待機回転数をエンジンの回転方向と反対の負方向に制御する。また、その待機回転数の絶対値は車速Vの増大に伴って大きくなるように構成されている。Loモードの場合には車速Vの増大に伴って正側に増大し、反対にHiモードの場合には車速Vの増大に伴って負側に増大する。なお、上記の待機回転数のうち、Loモードを設定するための待機回転数が、この発明の実施形態における第1待機回転数に相当し、Hiモードを設定するための待機回転数が、この発明の実施形態における第2待機回転数に相当する。また、この待機回転数(ならびに待機回転数の変化率)は、各種の車両ごとに適宜変更されてもよく、例えば運転者の運転志向が通常よりも動力性能や運動性能を重視するスポーツ走行志向の車両であれば、
図13に示す第1モータ4の待機回転数の変化率を更に大きくし、それとは反対に運転者の運転志向が、通常よりも燃費や効率を重視する燃費走行志向の車両であれば、
図13に示す第1モータ4の待機回転数の変化率を更に小さくする。
【0070】
つぎに、
図12の制御例を実行した場合における走行モードなどの変化をタイムチャートを参照して説明する。
図14は、そのタイムチャートを示す図であって、アクセル開度Acc、車速V、現状の走行モード、遷移先の走行モード、待機モード、および、第1モータ4の回転数の変化をそれぞれ示している。また、この
図14に示すタイムチャートは、走行モードをシングルモードからHV-Hiモードに切り替える場合の例を示している。
【0071】
図14において、先ず停車状態から運転者によりアクセルペダルが操作されることによりアクセル開度Accが増大し、それに伴って車速Vが増大し始める(t0時点)。この状態での走行モードは、アクセル開度Accが小さくかつ車速Vが低いためシングルモードが設定される。また、この時点では車速Vが判断基準として予め設定されている前述のVth_1より低いため第1モータ4における待機モードはオフとされ、それに伴って第1モータ4の回転数は「0」に制御される。
【0072】
ついで、更にアクセル開度Accが増大することにより現在の車速Vが待機モードをオンにする車速閾値Vth_1を超える(t1時点)と、このt1時点で待機モードがオンになる。また待機モードがオンになることにより、LoモードもしくはHiモードのいずれかの遷移先に応じて第1モータ4の回転数が所定の待機回転数に制御される。遷移先の走行モードは、上述のフローチャートのステップS3で説明したように、現在の車速V、アクセル開度Acc、あるいは、要求駆動力Fに基づいて遷移先の走行モードが推定される。このt1時点では車速Vおよびアクセル開度にAccが比較的低いことにより遷移先の走行モードとしてLoモードが推定される。そして、その遷移先の走行モードがLoモードであるから、第1モータ4の回転数(待機回転数)は正側に増大する。すなわち、第1クラッチ機構CL1の差回転数を低下させ、係合する際の応答の遅れを抑制するために第1モータ4の回転数が所定の待機回転数(あるいは所定の回転数域)に制御される。
【0073】
そして、その第1モータ4の回転数は、車速Vやアクセル開度Accあるいは要求駆動力Fの変化に応じて変化するから、第1モータ4の回転数、例えばt1時点からt2時点では車速Vの増大に伴って増大する。また、t2時点からt3時点ではアクセル開度Accや車速Vが一定であり、第1モータ4の回転数は所定の回転数に維持される。更にアクセル開度Accが増大すると車速Vも増大し、その車速Vが遷移先の走行モードを切り替える所定の車速Vth_2に達し、その遷移先の走行モードがLoモードからHiモードに切り替わる(t4時点)。なお、上述した待機モードをオンするか否かを判断する車速Vth_1が、この発明の実施形態における「第1所定車速」に相当し、また遷移先の走行モードがLoモードからHiモードに切り替わる前記所定の車速Vth_2が、この発明の実施形態における「第2所定車速」に相当する。また、推定する遷移先の走行モードは、車速Vに限られず要求駆動力Fやアクセル開度Accから推定してもよい。例えば要求駆動力Fやアクセル開度Accが予め定められた所定値未満の場合にはLoモードを推定し、それとは反対に要求駆動力Fやアクセル開度Accが前記所定値以上の場合には、Hiモードを推定する。
【0074】
ついで、遷移先の走行モードがLoモードからHiモードに切り替わることにより、第1モータ4の回転数は負側に増大し、正の回転数から負の回転数に制御される。すなわちHiモードを設定する第2クラッチ機構CL2の差回転数を低下させ、係合する際の応答の遅れを抑制するために第1モータ4の回転数が制御される。
【0075】
さらに、アクセル開度Accおよび車速Vが増大すると、第1モータ4の回転数は負側に増大し(t4時点からt5時点)、車速Vが切り替え先のHV-Hiモードへ切り替える車速に達したら、第1モータ4の待機モードを示すフラグがオンからオフになる。またそれに応じて第2クラッチ機構CL2を係合する指令がされる(t5時点)。つまり、第2クラッチ機構CL2の係合が開始される。
【0076】
具体的には、第2クラッチ機構CL2の駆動側部材と従動側部材との差回転数は、遷移先のモードに応じて制御されている。その状態で、第2クラッチ機構CL2を係合する指令がされると、第2クラッチ機構CL2の係合動作が行われる。なお、t5時点における第1モータ6の回転数の局所的な変化は、その第2クラッチ機構CL2の係合開始から係合完了までの第1モータの回転数の変化を示しており、第2クラッチ機構CL2の係合が開始されると、遷移先のHiモードを設定するために既に第2クラッチ機構CL2の差回転数が低回転数とされているため、比較的時間を要さずに係合が完了する。すなわち、第1モータ4の回転数がt5時点から低下させられることにより係合が完了する。そして、実際に第2クラッチ機構CL2の係合が完了すると、現状の走行モードがシングルモードからHV-Hiモードに切り替わる。またHV-Hiモードは、エンジン3を駆動力源とする走行モードであるから、第2クラッチ機構CL2の係合に併せて、エンジン3を第1モータ4でモータリングする(t5時点からt6時点)。すなわち、上述した
図4の共線図の状態になる。
【0077】
このように、この発明の実施形態では、第2モータ5のみの駆動トルクで走行するシングルモードからLoモード、あるいは、シングルモードからHiモードへ走行モードを切り替える場合には、各クラッチ機構CL1,CL2の差回転数を予め低下させ、係合の遅れを抑制するように構成されている。上述した実施形態では、シングルモードからの遷移先としてLoモードあるいはHiモードを推定して、その推定した走行モードに応じて第1モータ4の回転数を予め定めた所定の待機回転数(あるいは待機回転数域)に制御するように構成されている。その待機回転数は、LoモードとHiモードとで異なり、例えばLoモードに遷移することが車速Vやアクセル開度Accあるいは要求駆動力Fから判断された場合には、「0」から正側に第1モータ4の回転数を増大させ所定の回転数(あるいは回転数域)で待機させる。その結果、Loモードを設定する第1クラッチ機構CL1の係合が開始された場合には、既に第1クラッチ機構CL1の駆動側と従動側との差回転数が所定の回転数差に低下した状態であるため、このような制御を実行しないで変速する場合に比べて可及的速やかに第1クラッチ機構CL1を係合することができる。それにより、第1クラッチ機構CL1の係合遅れを抑制でき、それを要因とする加速応答性が低下することを抑制できる。
【0078】
また、シングルモードからHiモードに遷移することが車速Vやアクセル開度Acc、あるいは、要求駆動力Fから判断された場合には、「0」から負側に第1モータ4の回転数を増大させ所定の回転数(あるいは回転数域)で待機させる。その結果、Hiモードを設定する第2クラッチ機構CL2の係合が開始された場合には、既に第2クラッチ機構CL2の駆動側と従動側との差回転数が所定の回転数差に低下した状態であるため、このような制御を実行しないで変速する場合に比べて可及的速やかに第2クラッチ機構CL2を係合することができる。それにより、第2クラッチ機構CL2の係合遅れを抑制でき、それを要因とする加速応答性が低下することを抑制できる。すなわち、シングルモードからLoモードとHiモードとのいずれの走行モードに切り替える場合であっても、予め各クラッチ機構CL1,CL2の差回転数が低下した状態となる。そのため、第1モータ4の待機回転数を一律に制御した場合に前記差回転数が大きくなることによって生じる不都合(係合遅れおよび加速応答性の低下)の発生を回避もしくは抑制できる。
【0079】
また、上述のようにLoモードあるいはHiモードの遷移先の走行モードに応じて第1モータ4の待機回転数を制御することにより、第1モータ4の待機回転数を一律に制御する場合に比べて係合遅れが生じないから、各走行モードに応じた駆動力を適切に出力できるとともに加速性能を維持できる。すなわち動力性能が低下することを抑制できる。
【0080】
さらに、この発明の実施形態では、遷移先の走行モードに拘わらず第1モータ4の待機回転数を一律に設定した場合に比べて、第1モータの制御する時間を短縮できる。すなわち、第1モータ4の待機回転数を一律に設定した場合には、上述したようにLoモードとHiモードとのいずれかの走行モードに遷移する場合に、クラッチ機構における差回転数が却って大きくなるから回転数の差を解消するのに要する第1モータ4の制御時間が増大する。一方、この発明の実施形態では、LoモードとHiモードとのいずれの走行モードに切り替える場合であっても前記差回転数は小さくなる。したがって、第1モータ4を制御する時間を短縮でき、つまり、走行モードの切り替えに要するタイムラグを低下させることができる。
【0081】
なお、この発明の実施形態では、現在の車速Vが第1モータ4の待機モードをオンにする車速Vth_1以下の場合には、待機モードをオフにし、第1モータ4の回転数の制御を実行しないように構成されている。すなわち、シングルモードで走行している際の車速VがVth_1以下の低車速であれば、第1クラッチ機構CL1や第2クラッチ機構CL2における差回転数が低回転数になっているので、その差回転数を制御するために第1モータ4を駆動する必要がない。つまり、この場合には第1モータ4の制御を行わないように構成したので、電力の消費を抑制でき、その結果、電費を向上させることができる。
【0082】
つぎに、この発明の実施形態における他の例について説明する。上述したように、LoモードあるいはHiモードの遷移先の走行モードは、車速Vやアクセル開度Accなどに基づいて推定される。例えば車速Vが高い場合には、Hiモードへの遷移が推定される。一方、そのように車速Vが高い場合であっても、例えば高速道路等で急加速あるいは急発進する場合や上り勾配を検出した場合など要求駆動力Fが大きい場合(言い換えればアクセル開度の変化率が大きい場合)には、Hiモードより大きな駆動力を出力可能なLoモードへ遷移することが好ましい。
【0083】
図15は、その制御の一例を示すためのタイムチャートであり、アクセル開度Acc、車速V、現状の走行モード、待機モード、要求駆動力Fが「大」となる予測フラグ、遷移先の走行モード、および、第1モータ4の回転数の変化をそれぞれ示している。なお、上述した
図14におけるタイムチャートと同様の制御内容については簡略化して説明する。
【0084】
先ず、停車状態から運転者によりアクセルペダルが操作されることによりアクセル開度Accが増大し、それに伴って車速Vが増大し始める(t10時点)。この状態での走行モードはアクセル開度Accが小さくかつ車速Vが低いためシングルモードが設定される。また、この時点では車速Vが車速閾値Vth_1より低いから第1モータ4における待機モードはオフとされ、それに伴って第1モータ4の回転数は「0」の状態である。
【0085】
更にアクセル開度Accが増大することにより車速Vが待機モードをオンにする車速閾値Vth_1を超え、待機モードがオンになる(t11時点)。また待機モードがオンになることにより、第1モータ4の回転数(待機回転数)が推定される遷移先の走行モード(Loモード)に対応して増大する(t11時点からt12時点)。
【0086】
そして、t12時点で車速Vあるいはアクセル開度Accが遷移先モードを切り替える所定値Vth_2に達し、その遷移先の走行モードがLoモードからHiモードに切り替わる。また、遷移先モードがHiモードに切り替わることにより、第1モータ4の回転数が正側から負側に増大され、負の回転数に制御される(t12時点からt13時点)。
【0087】
また、この
図15に示す実施形態では、t13時点で、アクセル開度Accの変化率が所定値以上になり、要求駆動力が急激に大きくなることが予測される。これは、上述したように高速道路等での急加速、急発進、あるいは、上り勾配の検出などにより駆動力を通常より要する場合などが想定される。したがって、このt13時点で、要求駆動力Fが「大」となる予測フラグがオフからオンになる。また、要求駆動力Fが大きいことにより、上述の
図14の制御例のように車速Vやアクセル開度Accの大きさから判断すれば遷移先モードとしてHiモードを推定するところ、この
図15に示す実施形態では、Hiモードより大きな駆動力を出力可能なLoモードが遷移先の走行モードとして推定される。
【0088】
したがって、このt13時点において、第1モータ4の回転数は正側に増大され、正の回転数に制御される。そして、実際にHV-Loモードに切り替えるべく、第1クラッチ機構CL1を係合し(t14時点)、係合の完了に併せて、エンジン3を第1モータ4によりモータリングする(t14時点からt15時点)。すなわち、上述した
図5の共線図の状態になる。
【0089】
このように
図15の実施形態においても、遷移先の走行モードに応じて第1モータ4の回転数が制御される。それにより、クラッチ機構CL1(CL2)の駆動側と従動側との差回転数が低下して所定の差回転数に制御されるため、走行モードを切り替える際のタイムラグを短縮し、すなわち係合遅れが発生することを抑制できる。そのため、シングルモードから走行モードを切り替える際の車両Veの加速応答性が低下することを抑制できる。また、
図15に示す実施形態では、急加速が要求される場合などアクセル開度Accの変化率や要求駆動力Fが予め定めた所定値以上の場合には、要求駆動力Fが通常より大きいと判断し、通常制御であれば車速Vやアクセル開度Accの大きさから遷移先モードとしてHiモードを推定するところ、Hiモードより大きな駆動力を出力することができるLoモードを選択(推定)するように構成されている。そのため、車両Veの加速応答性を担保しつつ、運転者の要求する駆動力を適格に出力することができる。
【0090】
以上、この発明の複数の実施形態について説明したが、この発明は上述した例に限定されないのであって、この発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。
図14の例では、シングルモードからのHV-Hiモードへ切り替える場合を例として説明したものの、この切り替え先の走行モードはHV-Loモードであってもよい。その場合には、車速Vやアクセル開度Acc(あるいは要求駆動力F)に基づいて遷移先がLoモードであると推定され、かつ車速VがHV-Loモードへ切り替える車速に達したらHV-Loモードへ切り替える。また、切り替え先の走行モードは、HV走行モードに限られずEV-LoモードやEV-Hiモードのデュアルモードであってもよい。また、第1モータ4の待機モードをオンにするか否かの判断は、車速Vth_1に替えてアクセル開度Accをパラメータとして判断してもよい。