【解決手段】車両の空調装置1は、車両のエンジン22の熱を熱媒によりヒータコアへ24供給する熱媒サイクル20と、コンプレッサ11により冷媒を圧縮する冷媒サイクル10と、熱媒サイクル20に設けられ、冷媒サイクル10のコンプレッサ11の熱または排気管16の熱を熱媒に伝える伝熱器23と、冷媒サイクル10の冷媒を貯蔵するタンク17と、冷媒サイクル10を制御する制御部31と、を有する。制御部31は、ヒータコア24へ熱媒を供給する場合、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵して過少冷媒状態にしてコンプレッサ11を動作させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハイブリッド自動車などでは、停車中や走行中においてもエンジンが停止することがあり、エンジンの発熱を常に期待できるわけではなく、熱量不足が生じやすい。また、電気自動車では、エンジンを搭載していない。
そこで、車両では、最近、エンジンの不備や作動停止にかかわらず動作可能なヒートポンプ方式のサイクルを用いて、空調に利用する熱媒または冷媒を生成することがある。
しかしながら、ヒートポンプ方式のサイクルでは、そのサイクルが複雑であり、その結果として車両の重量が増加しやすい。車両の重量は、燃費にダイレクトに影響する。また、エンジンが停止している場合でも空調のためにモータなどの動力源を常に作動させることになり、走行用のバッテリの蓄電電力を使用してしまう。その結果、空調を作動させた状態での走行可能距離は低下する。
【0005】
そこで、特許文献2のように、冷房用の冷媒サイクルにコンプレッサを含むようにバイパス回路を追加し、このバイパス回路の冷媒と熱媒サイクルの熱媒との間で熱交換をすることが考えられる。これにより、エンジンが動作している場合にはエンジンの熱をヒータコアへ供給しつつ、下り坂などでエンジンが停止している場合には冷媒の熱を熱媒へ熱交換することが可能になる。重量があって複雑なヒートポンプ方式のサイクルを用いることなく、エンジンが停止している場合であっても、冷媒との熱交換により熱媒を温めることが期待できる。
しかしながら、特許文献2のように単に冷媒の循環経路を通常の冷媒サイクルからバイパス回路へ切り替えてコンプレッサを動作させるとしても、熱媒を冷媒との熱交換により有効に温めることができるとは限らない。たとえば直前まで動作していない場合の冷媒は、外気温と同様に冷却された状態にある。
【0006】
このように車両の空調装置には改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の空調装置は、車両のエンジンの熱を熱媒によりヒータコアへ供給する熱媒サイクルと、コンプレッサにより冷媒を圧縮する冷媒サイクルと、前記熱媒サイクルに設けられ、前記冷媒サイクルの前記コンプレッサの熱または前記コンプレッサの排気管の熱を前記熱媒に伝える伝熱器と、前記冷媒サイクルの前記冷媒を貯蔵するタンクと、前記冷媒サイクルを制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記ヒータコアへ熱媒を供給する場合、前記冷媒サイクルの前記冷媒を前記タンクへ貯蔵して過少冷媒状態にして前記コンプレッサを動作させる。
【0008】
好適には、前記タンクは、前記熱媒サイクルの前記冷媒の半分以上を貯蔵可能である、とよい。
【0009】
好適には、前記伝熱器は、前記コンプレッサおよび前記排気管の少なくとも一部を収容する、とよい。
【0010】
好適には、前記伝熱器から出力される前記熱媒の温度を検出する熱媒温度センサ、を有し、前記制御部は、前記熱媒温度センサにより検出される前記熱媒の温度に応じて、前記コンプレッサの回転数を制御する、とよい。
【0011】
好適には、前記車両の外気温を検出する外気温センサ、を有し、前記制御部は、前記外気温センサにより検出される車両の外気温が低くなると、前記冷媒サイクルの前記冷媒を前記タンクへ貯蔵する、とよい。
【0012】
好適には、前記制御部は、前記車両のエンジンの発熱が低下する状態になると、前記冷媒サイクルの前記冷媒を前記タンクへ貯蔵している状態で前記コンプレッサを動作させる、とよい。
【0013】
好適には、前記制御部は、前記車両のエンジンが発熱を生じ得る状態になると、前記コンプレッサを停止する、とよい。
【0014】
好適には、前記制御部は、前記外気温センサにより検出される外気温が高くなると、前記タンクから、前記タンクに貯蔵している前記冷媒を排出する、とよい。
【0015】
好適には、前記冷媒サイクルは、前記コンプレッサへのオイル循環を確保するようにオイルセパレータ方式により前記冷媒を循環する、とよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、熱媒サイクルのヒータコアへ熱媒を供給する場合、冷媒サイクルの冷媒をタンクへ貯蔵する。これにより、冷媒サイクルは、過少冷媒状態となることができる。過少冷媒状態でコンプレッサを動作させることにより、コンプレッサは、過少冷媒状態でない通常の場合より高く発熱する。伝熱器は、コンプレッサおよび排気管の少なくとも一部を収容し、過少冷媒状態で動作して高温になるコンプレッサの熱、または高温のコンプレッサの排気管の熱を熱媒へ伝える。熱媒は、発熱するコンプレッサまたは排気管の熱により加熱される。その結果、本発明では、過少冷媒状態で動作するコンプレッサの熱を、熱媒サイクルのヒータコアを通じて、車両の室内へ供給することができる。
これに対し、仮にたとえば過少冷媒状態とすることなくコンプレッサを動作させた場合、コンプレッサはあまり多く発熱しない。冷媒の温度もあまり上がらない。しかも、コンプレッサや冷媒の温度が上がるまでに時間がかかる。この場合、熱媒の熱量が不足する際にコンプレッサを作動させて、その作動開始直後から即時的に高い温度にして、その熱を熱媒サイクルのヒータコアを通じて車両の室内へ供給することは、容易でない。
しかも、本発明では、冷媒サイクルと熱媒サイクルとの組み合わせで構成されている。したがって、本発明では、重量があって複雑なヒートポンプ方式のサイクルを用いることなく、エンジンが停止する場合において熱媒を良好に温めて車両の室内の加温に用いることが可能である。その結果、本発明では、たとえば調温のためだけに走行には不要な状態においてエンジンを動作させる必要が少なくできる。また、本発明では、コンプレッサを作動させる単位エネルギー当たりの発熱量を増やすことができるので、高い発熱効率により車両の燃費を改善できる。
このように本発明では、車両の空調装置を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の空調装置1の説明図である。
図1の車両の空調装置1は、冷媒サイクル10、熱媒サイクル20、および、これらの作動を制御する制御部としての空調ECU31、を有する。冷媒サイクル10、および熱媒サイクル20は、たとえば車両のエンジン22とともに、車両のエンジン室に設けられる。
【0020】
冷媒サイクル10は、冷媒を循環させるために、コンプレッサ11、オイルセパレータ12、コンデンサ13、膨張弁14、およびエバボレータ15が、その順番で耐圧チューブにより連結される。エバボレータ15は、車両の室内に通じる空調ダクト2に設けられる。
冷媒は、たとえばR12、r134aなどでよい。
コンプレッサ11は、冷媒を圧縮し、オイルセパレータ12を通じてコンデンサ13へ供給する。コンデンサ13は、圧縮された冷媒を凝集して液化する。膨張弁14は、凝集により液化している冷媒をエバボレータ15へ向けて噴霧する。噴霧された冷媒は、エバボレータ15において気化する。液状の冷媒が気化することにより、エバボレータ15は、その周囲から気化熱を吸収する。空調ダクト2内の空気は、エバボレータ15により冷却される。
気化した冷媒は、エバボレータ15からコンプレッサ11へ供給され、再び圧縮される。このようにして冷媒サイクル10は、冷媒を循環させて、空調ダクト2内の空気を冷却し続けることができる。
オイルセパレータ12は、冷媒に混ざるオイルを分離し、コンプレッサ11へ戻す。これにより、コンプレッサ11は、コンプレッサ11へのオイル循環を確保できる。
【0021】
熱媒サイクル20は、熱媒を循環させるために、ウォータポンプ21、車両のエンジン22、伝熱器23、およびヒータコア24が、その順番で耐圧チューブにより連結される。ヒータコア24は、車両の室内に通じる空調ダクト2に設けられる。なお、熱媒サイクル20は、この他にも、ヒータコア24および伝熱器23と並列的に連結される図示外のラジエタを備えてよい。ラジエタは、熱媒を外気により冷却する。
熱媒は、たとえば冷却水でよい。熱媒は、この他にもたとえば冷却用のオイルでよい。
ウォータポンプ21は、熱媒としての冷却水を、熱媒サイクル20において強制循環させる。エンジン22を通過した熱媒は、作動するエンジン22の排熱により温められ、伝熱器23を通過し、ヒータコア24へ循環する。ヒータコア24は、車両のエンジン22の熱が熱媒により供給されることにより加熱され、空調ダクト2内の空気を温める。空調ダクト2内の空気は、ヒータコア24により加温される。
ヒータコア24を通過した熱媒は、再びウォータポンプ21へ供給される。このようにして熱媒サイクル20は、熱媒を循環させて、空調ダクト2内の空気を加温し続けることができる。
【0022】
空調ECU31は、車両に設けられる車載ネットワーク30に接続される。車載ネットワーク30には、この他にもたとえばエンジンECU32、走行制御ECU33、ユーザインタフェースECU34、などが接続される。
空調ECU31は、ユーザインタフェースECU34からの温度設定に基づいて、車室の温度が設定温度となるように、冷媒サイクル10および熱媒サイクル20の作動を制御する。
【0023】
ところで、車両のエンジンECU32は、停車中や走行中などにおいてエンジン22の駆動力が不要である場合、エンジン22を停止する制御を実行する。また、車両がエンジン22以外の動力源としてたとえばモータなどを有する場合、エンジンECU32は、エンジン22を停止してモータの駆動で車両を走行させることがある。このように走行中などにおいてエンジン22が停止制御される場合、走行中などにおいてエンジン22が停止することなく継続的に作動している場合と比べて、エンジン22の発熱量が減ることがある。この場合、熱媒サイクル20は、エンジン22の発熱を常に期待することができず、エンジン22の停止制御中には熱量不足が生じやすい。熱量不足が生じると、空調ECU31は、熱媒サイクル20を作動させても、車室を設定温度まで温めたり、車室を設定温度に維持したりできなくなる。
【0024】
そこで、車両には、最近、エンジン22の作動停止にかかわらず作動可能なヒートポンプ方式のサイクルを用いて、空調に利用する熱媒体を加熱または冷却するものが増えている。
しかしながら、ヒートポンプ方式のサイクルでは、熱媒体を加熱し且つ冷却できるようにするためにサイクルが複雑化し、空調装置1の重量が増加する。車両の重量は、燃費にダイレクトに影響する。
しかも、ヒートポンプ方式のサイクルでは、エンジン22が作動している場合でも、空調のためのモータを作動させ続ける。これにより、走行用のバッテリの蓄電電力は、空調のために消費され続ける。空調を作動させた状態での走行可能距離は、格段に低下する。
【0025】
このように車両の空調装置1では、改善することが求められている。
【0026】
そこで、本実施形態では、熱媒サイクル20のたとえばエンジン22とヒータコア24との間に、伝熱器23を設ける。伝熱器23は、冷媒サイクル10のコンプレッサ11と、コンプレッサ11の排気管16とを収容する容器である。伝熱器23は、伝熱器23からの放熱を抑制するために断熱構造に形成されてもよい。これにより、伝熱器23は、冷媒サイクル10のコンプレッサ11の熱またはコンプレッサ11の排気管16の熱を、熱媒に伝えることができる。
【0027】
また、冷媒サイクル10には、冷媒を貯蔵するタンク17を設ける。タンク17は、熱媒サイクル20の冷媒の7〜8割以上を貯蔵できるサイズに形成する。タンク17は、熱媒サイクル20の冷媒の半分以上を貯蔵できるサイズに形成されてもよい。タンク17は、冷媒サイクル10において、たとえば膨張弁14に対して並列に接続される。タンク17へ冷媒を分岐する分岐管には、開閉制御可能な流入弁18が設けられる。タンク17から冷媒を戻す戻し管には、開閉制御可能な流出弁19が設けられる。
【0028】
また、制御部としての空調ECU31には、外気温センサ35、熱媒温度センサ36、が接続される。
外気温センサ35は、車両の外気温を検出する。
熱媒温度センサ36は、伝熱器23から出力される熱媒の温度を検出する。
【0029】
そして、空調ECU31は、これらの温度センサ35,36により検出される温度を用いて、冷媒サイクル10での冷媒の循環、および熱媒サイクル20での熱媒の循環を制御する。具体的には、空調ECU31は、流入弁18の開閉、流出弁19の開閉、コンプレッサ11の作動停止、ウォータポンプ21の作動停止、を制御する。たとえばヒータコア24へ熱媒を供給して車室の温度を上げる場合、空調ECU31は、ウォータポンプ21を作動させて、熱媒サイクル20で熱媒を循環する。エバボレータ15へ冷媒を供給して車室の温度を下げる場合、空調ECU31は、流入弁18および流出弁19をともに閉じた状態でコンプレッサ11を作動させて、冷媒サイクル10で冷媒を循環する。
【0030】
図2は、
図1の空調ECU31による冷媒の貯蔵制御のフローチャートである。
空調ECU31は、たとえば車両に乗員が乗車している場合に、
図2の処理を繰り返し実行する。
【0031】
ステップST1において、空調ECU31は、外気温センサ35により検出される車両の外気温を、加温要温度と比較する。加温要温度は、たとえば車室の加温が必要となると考えられる最高の温度でよい。車両の外気温が加温要温度以下である場合、空調ECU31は、処理をステップST3へ進める。車両の外気温が加温要温度より高い場合、空調ECU31は、処理をステップST2へ進める。
【0032】
ステップST2において、空調ECU31は、車内加温の要否を判断する。空調ECU31は、たとえばユーザインタフェースECU34からの車内加温の指示がある場合、車内加温が必要と判断し、処理をステップST2へ進める。ユーザインタフェースECU34から車内加温の指示がない場合、空調ECU31は、車内加温を不要と判断し、処理をステップST4へ進める。
【0033】
ステップST3において、空調ECU31は、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵する。空調ECU31は、流出弁19を閉じたまま流入弁18を開き、コンプレッサ11を作動させる。これにより、冷媒サイクル10の冷媒は、タンク17に流入して圧縮して蓄積される。空調ECU31は、たとえば図示外の圧力センサによりタンク17の内圧を繰り返し計測し、または図示外のタイマにより経過時間を計測し、冷媒サイクル10の冷媒の7〜8割以上がタンク17に蓄積されていると考えられる状態になると、流出弁19を閉じたまま流入弁18を閉じる。これにより、冷媒サイクル10は、過少冷媒状態となる。
【0034】
ステップST4において、空調ECU31は、タンク17に貯蔵されている冷媒を冷媒サイクル10へ戻す。空調ECU31は、流入弁18を閉じたまま流出弁19を開き、コンプレッサ11を作動させる。これにより、タンク17の冷媒は、冷媒サイクル10へ戻る。空調ECU31は、たとえば図示外の圧力センサによりタンク17の内圧を繰り返し計測し、または図示外のタイマにより経過時間を計測し、タンク17の冷媒がほぼ無くなると考えられる状態になると、流入弁18を閉じたまま流出弁19を閉じる。これにより、タンク17は、冷媒サイクル10から分離される。熱媒サイクル20は、通常量の冷媒が存在する状態になる。空調ECU31は、外気温センサ35により検出される外気温が車内加温を不要とする程度に高い場合、タンク17から、タンク17に貯蔵している冷媒を排出する。
【0035】
このように、本実施形態では、ステップST2の判断によりステップST3へ進むことにより、ステップST2の判断によりステップST3へ進んでいなくとも、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵することができる。
また、ステップST2の判断にかかわらずステップST1の判断によりステップST3へ進むことになり、走行途中においてエンジン22が停止している状態で車内加温が操作されたとしても、冷媒サイクル10を予め過少冷媒状態に準備しておいて即時的にコンプレッサ11を作動させて発熱させることが可能になる。
【0036】
図3は、
図1の空調ECU31によるコンプレッサ11の作動制御のフローチャートである。
空調ECU31は、たとえば車両に乗員が乗車している場合に、
図3の処理を繰り返し実行する。
【0037】
ステップST11において、空調ECU31は、
図2のステップST3による冷媒のタンク17への貯蔵が完了したか否かを判断する。冷媒のタンク17への貯蔵が完了している場合、空調ECU31は、処理をステップST12へ進める。冷媒のタンク17への貯蔵が完了していない場合、空調ECU31は、
図3の処理を終了する。冷媒のタンク17への貯蔵が完了している場合、冷媒サイクル10は、過少冷媒状態になる。
【0038】
ステップST12において、空調ECU31は、車内加温の要否を判断する。空調ECU31は、たとえばユーザインタフェースECU34からの車内加温の開始指示があった場合、車内加温が必要と判断し、処理をステップST13へ進める。ユーザインタフェースECU34から車内加温の開始指示がない場合、空調ECU31は、車内加温を不要と判断し、
図3の処理を終了する。なお、ユーザインタフェースECU34からの車内加温の開始指示があった場合、空調ECU31は、すでに熱媒サイクル20において熱媒を循環させて、車室の加温を開始している。したがって、空調ECU31は、車内加温の指示により熱媒サイクル20を用いた加温を開始した後に、処理をステップST13へ進めることになる。
【0039】
ステップST13において、空調ECU31は、車両のエンジン22の発熱が低下する状態を、エンジン22の停止の有無により判断する。エンジンECU32は、たとえば走行制御ECU33からの指示により、たとえば長い下り坂を走行する場合、アイドリングでの停車が生じる場合、エンジン22への燃料供給を停止する。空調ECU31は、たとえばこの走行制御ECU33からエンジンECU32への指示を取得すると、エンジン22が停止すると判断し、処理をステップST14へ進める。エンジン22が停止していないと判断する場合、空調ECU31は、処理をステップST18へ進める。
【0040】
ステップST14において、空調ECU31は、熱媒温度センサ36により検出される伝熱器23から出力される熱媒の温度が、所定の補助開始温度以下であるか否かを判断する。補助開始温度は、たとえばエンジン22が冬季に通常負荷で連続的に作動している場合での熱媒の定常温度より低い温度であればよい。また、補助開始温度は、後述するように、熱媒の温度として熱量が不足して車室を良好に温めることができなくなる熱量不足温度より高い温度とするとよい。熱媒の検出温度が補助開始温度以下である場合、空調ECU31は、処理をステップST16へ進める。熱媒の検出温度が補助開始温度より高い場合、空調ECU31は、処理をステップST15へ進める。
【0041】
ステップST15において、空調ECU31は、熱媒の検出温度が、所定の補助停止温度以上であるか否かを判断する。補助停止温度は、補助開始温度より高く、かつ、たとえばエンジン22が冬季に通常負荷で連続的に作動している場合での熱媒の定常温度より低い温度であればよい。また、補助停止温度は、補助開始温度より高く、かつ、コンプレッサ11の耐熱温度より低い温度であればよい。熱媒の検出温度が補助停止温度以上である場合、空調ECU31は、処理をステップST18へ進める。熱媒の検出温度が補助停止温度より低い場合、空調ECU31は、処理をステップST16へ進める。
【0042】
ステップST16において、空調ECU31は、熱媒温度センサ36により検出される伝熱器23から出力される熱媒の温度に応じたコンプレッサ11の回転数を取得する。空調ECU31は、取得可能なコンプレッサ11の回転数として、過少冷媒状態で作動するコンプレッサ11がその耐熱温度を上回ることがない回転数の範囲から取得する。空調ECU31は、その回転数の範囲において、熱媒の温度が高いほど高い回転数を取得してよい。必要以上の回転数としないことにより、コンプレッサ11を回転させるために消費するエネルギーを最適化できる。
【0043】
ステップST17において、空調ECU31は、取得した回転数で、コンプレッサ11を作動する。これにより、コンプレッサ11は、エンジン22が停止する場合に過少冷媒状態で作動し、コンプレッサ11の発熱により熱媒を加熱することができる。熱媒は、エンジン22が停止しているにもかかわらず、コンプレッサ11により加温されて、たとえばエンジン22の停止前と同様に高い温度に維持されるようになり得る。また、エンジン22の停止前よりも温度が低下する場合であっても、冷媒の温度の低下割合を低くすることができる。その後、空調ECU31は、処理をステップST19へ進める。
【0044】
ステップST18において、空調ECU31は、コンプレッサ11を停止する。これにより、過少冷媒状態でのコンプレッサ11の作動を停止することができる。これにより、エンジン22が作動する場合において、コンプレッサ11を過少冷媒状態で作動させないようできる。
【0045】
ステップST19において、空調ECU31は、室内加温が終了するか否かを判断する。空調ECU31は、たとえば乗員の降車やユーザインタフェースECU34からの車内加温の終了指示があった場合、室内加温の終了と判断し、処理をステップST20へ進める。車内加温の終了指示がない場合、空調ECU31は、処理をステップST3へ戻す。空調ECU31は、車内加温の終了指示があるまで、ステップST3からステップST19までの処理を繰り返す。この間に、熱媒の検出温度が補助停止温度より低い場合、ステップST16およびステップST17の処理により、コンプレッサ11が過少冷媒状態で作動する。熱媒の検出温度が補助停止温度以上である場合、ステップST18の処理により、コンプレッサ11の過少冷媒状態での作動が停止する。
【0046】
ステップST20において、空調ECU31は、作動中のコンプレッサ11を停止する。その後、空調ECU31は、
図3の処理を終了する。
【0047】
図4は、
図1の車両の空調装置1による熱媒の制御例の模式的なタイミングチャートである。横軸は、時間である。
図4(A)は、走行中のエンジン22の作動状態である。たとえば走行中に長い下り坂を走行する場合、または走行中において長い期間で減速または停止する場合、エンジン22が停止する。
図4(B)は、コンプレッサ11の作動状態である。コンプレッサ11は、
図4(A)においてエンジン22が停止する期間において連続的に作動し続ける。
【0048】
図4(C)は、熱媒の検出温度である。熱媒の検出温度は、走行中にエンジン22が停止すると、温度が低下し始める。しかしながら、過少冷媒状態で作動して発熱するコンプレッサ11の熱により、熱媒が加熱されているため、
図4(C)の実線で示すように、熱媒の温度低下が抑制される。その後、エンジン22が作動を再開すると、熱媒の温度は停止前と同様の温度に回復する。
図4(C)の破線は、エンジン22の停止中にコンプレッサ11を作動させなかった場合での熱媒の検出温度である。この場合、エンジン22の停止期間が長くなると、ヒータコア24により熱を奪われる熱媒の温度は、熱量不足となり、車室を良好に温めることができる下限温度より低くなる。熱量不足になると、空調ECU31は、エンジンECU32へ、エンジン22の始動指示を出力する。これにより、
図4(A)に破線で示すように、エンジン22が始動する。エンジン22は、エンジン22が停止可能な期間より早く始動してしまう。エンジン22が実際に停止している期間は、エンジン22が停止可能な期間より短くなる。
これに対し、
図4(C)の実線では、エンジン22の停止期間が長くなっても熱媒の温度は下限温度より低くなることはない。車室を良好に温め続けることができる。エンジン22は、エンジン22が停止可能な期間におい実際に停止することが可能になる。
【0049】
以上のように、本実施形態では、熱媒サイクル20のヒータコア24へ熱媒を供給する場合、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵する。タンク17は、たとえば熱媒サイクル20の冷媒の半分以上、好ましくは7〜8割以上を貯蔵してよい。これにより、冷媒サイクル10は、過少冷媒状態となる。この過少冷媒状態でコンプレッサ11を作動させることにより、コンプレッサ11は、過少冷媒状態でない通常の場合より高い温度に発熱する。伝熱器23は、コンプレッサ11および排気管16を収容する容器である。伝熱器23は、過少冷媒状態で作動して高温になるコンプレッサ11の熱、または高温のコンプレッサ11の排気管16の熱を熱媒へ伝える。熱媒は、発熱するコンプレッサ11または排気管16の熱により良好に加熱され得る。その結果、本実施形態では、過少冷媒状態で作動するコンプレッサ11の熱を、熱媒サイクル20のヒータコア24を通じて、車両の室内へ供給することができる。
これに対し、仮にたとえば過少冷媒状態とすることなくコンプレッサ11を作動させた場合、コンプレッサ11はあまり多くの発熱をすることなく、しかも、その少ない発熱が得られるまでに時間がかかる。コンプレッサ11を作動開始直後から即時的に高い温度へ発熱させることはできない。
しかも、本実施形態では、重量があって複雑なヒートポンプ方式のサイクルを用いることなく、エンジン22が停止している場合において、熱媒を良好に温めて車両の室内の加温に用いることが可能である。その結果、本実施形態では、たとえば調温のためだけに走行には不要な状態においてエンジン22を作動させる必要がなくなる。また、本実施形態では、コンプレッサ11を作動させるための単位エネルギー当たりの発熱が増えているので、高い発熱効率を得て、車両の燃費を改善することができる。本実施形態では、車両の空調装置1を改善することができる。
【0050】
本実施形態では、熱媒温度センサ36により検出される熱媒の温度に応じて、コンプレッサ11の回転数を制御する。よって、過少冷媒状態で作動するコンプレッサ11が、その耐熱温度以上にならないように、コンプレッサ11の回転数を制御することができる。
【0051】
本実施形態では、外気温センサ35により検出される車両の外気温が低くなると、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵する。よって、外気温が低くなって、車両の室内の加温が必要となりそうな場合には、コンプレッサ11を過少冷媒状態で作動させることが可能になる。そして、実際に車両のエンジン22の発熱が低下する状態になると、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵している状態でコンプレッサ11を作動させる。たとえば、走行中の車両が下り坂にさしかかったり、エンジン22への燃料供給を停止したりする状態では、冷媒サイクル10の冷媒をタンク17へ貯蔵している状態でコンプレッサ11を作動させる。よって、本実施形態では、過少冷媒状態で作動するコンプレッサ11の熱または排気管16の熱により、熱媒を有効に温めて、車両の室内の加温に用いることができる。本実施形態では、温調のためだけにエンジン22を始動させる機会を減らし、燃費を改善できる。
【0052】
本実施形態では、車両のエンジン22が発熱を生じ得る状態になると、コンプレッサ11を停止する。たとえば、走行中の車両が下り坂から平地へ移行したり、エンジン22への燃料供給を再開したりする状態では、コンプレッサ11を停止する。よって、車両のエンジン22の発熱により熱媒が温められることになる状態においてコンプレッサ11を過少冷媒状態で作動させ続けて、コンプレッサ11が過剰な加熱などにより不具合を生じてしまう可能性を減らすことができる。
【0053】
本実施形態では、外気温センサ35により検出される外気温が高くなると、タンク17から、タンク17に貯蔵している冷媒を排出する。これにより、冷媒サイクル10は、外気温が高く場合には通常通り、冷媒によりエバボレータ15を冷却することができる。
【0054】
本実施形態では、冷媒サイクル10は、タンク17に冷媒を貯蔵した状態においてコンプレッサ11へのオイル循環を確保するようにオイルセパレータ12方式により冷媒を循環する。これにより、コンプレッサ11は、過少冷媒状態で作動する際にもオイルによる潤滑を確保でき、焼き付きを効果的に抑制できる。
【0055】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるのもではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0056】
たとえば上記実施形態において、伝熱器23は、コンプレッサ11および排気管16の全体を収容する容器である。
この他にもたとえば、伝熱器23は、コンプレッサ11および排気管16の一部を収容してもよい。