を必須成分とする所定範囲の組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメン固溶体、Ti含有結晶相、スピネル構造、及びコーディエライトの内の少なくとも1つを含むガラス−セラミック物品で、少なくとも12kgf(118N)のビッカース亀裂発生閾値を有し、約0.8mmの厚さの場合に400〜700nmの波長範囲にわたって不透明度≧約85%と、観察者角度10°及びCIE光源F02の場合に、正反射率を含めた測定で−3〜+3のa
結晶相を有し、該結晶相が、β−スポジュメン固溶体、Ti含有結晶相、スピネル構造、及び、コーディエライトの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラス−セラミック物品。
前記Ti含有結晶相が、ルチル、アナターゼ、チタン酸マグネシウム、及び、チタン酸アルミニウムの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項2に記載のガラス−セラミック物品。
前記結晶相及び非晶質相が、前駆体ガラス物品をセラミック化することにより生成され、前記セラミック化が、300℃/分〜500℃/分の範囲の平均冷却速度で、2分未満の時間で、冷却することを含む、ことを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載のガラス−セラミック物品。
5mm未満の厚さを有する前駆体ガラス物品をセラミック化することにより生成された、1つ以上のβ−スポジュメン固溶体および非晶質相をさらに含み、前記セラミック化が、前記前駆体ガラス物品を、10℃/分〜25℃/分の範囲の平均冷却速度で冷却することを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス−セラミック物品。
前記ガラス−セラミック物品の表面から前記ガラス−セラミック物品中に延在する少なくとも300MPaの圧縮応力層と、前記ガラス−セラミック物品の全体の厚さの少なくとも1%の圧縮応力層深さとをさらに有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス−セラミック物品。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の代表的な実施形態の以下の説明において、本発明の一部を形成し、本開示を実施できる特定の実施形態を例として示している添付の図面が参照される。これらの実施形態は、当業者が本開示を実施可能となるように十分詳細に記載されているが、それによって本開示の範囲が限定されることを意図するものではないことを理解されたい。本開示を入手する関連技術の当業者によって見出される、本明細書で説明される特徴の変形形態およびさらなる修正形態、ならびに本明細書で説明される原理のさらなる用途は、本開示の範囲内と見なすべきである。特に、他の実施形態は、論理的変更(たとえば、限定するものではないが、化学的、組成的{たとえば、限定するものではないが、化学物質、材料などのいずれか1つ以上}、電気的、電気化学的、電気機械的、電気光学的、機械的、光学的、物理的、生理化学的などのいずれか1つ以上)を利用することができ、本開示の趣旨または範囲から逸脱することなくその他の変更形態をなすことができる。したがって、以下の説明は、限定の意味で解釈すべきではなく、本開示の実施形態の範囲は添付の特許請求の範囲によって画定される。「上部」、「底部」、「外部」、「内部」などの用語は便宜上の単語であり、限定的な用語として解釈すべきではないことも理解されたい。また、本明細書に別の指定がなければ、ある値の範囲は、その範囲の上限および下限の両方を含む。たとえば、約1〜10モル%の範囲は、1モル%および10モル%の値を含む。
【0026】
記載されるように、本開示の種々の実施形態は、本明細書に開示されるガラス−セラミックおよび前駆体ガラスの実施形態から形成される、および/またはそれらを含む物品および/または機械もしくは装置に関する。ガラス−セラミック物品は、白色および不透明であるとして記載される場合がある。ある実施形態において、ガラス−セラミックは、イオン交換可能である(またはイオン交換して、次に圧縮応力層を含むことができる)として、またはイオン交換されたとして(イオン交換されており圧縮応力層を含むとして)記載される場合がある。本明細書に記載の前駆体ガラスも、イオン交換可能である(またはイオン交換して、次に圧縮応力層を含むことができる)として、またはイオン交換されたとして(イオン交換されており圧縮応力層を含むとして)記載される場合がある。このようなガラス−セラミックおよび/または前駆体ガラスは、無線通信用に構成されてよい種々の電子デバイスまたは携帯型コンピュータデバイス、たとえば、コンピュータおよびコンピュータ付属品、たとえば、「マウス」、キーボード、モニタ(たとえば、冷陰極蛍光灯(CCFLバックライト付きLCD)、発光ダイオード(LEDバックライト付きLCD)のいずれかであってよい液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)など)、ゲームコントローラ、タブレット、サムドライブ、外部ドライブ、およびホワイトボード;携帯情報端末;携帯ナビゲーション装置;携帯型在庫管理装置;娯楽用装置および/または娯楽施設および関連の付属品、たとえば、チューナー、メディアプレーヤ(たとえば、レコード、カセット、ディスク、ソリッドステートなど)、ケーブルおよび/または衛星放送受信機、キーボード、モニタ、およびゲームコントローラ;電子読取装置またはeリーダー;ならびに携帯電話またはスマートフォンに使用することができる。本発明のガラス−セラミックおよび/または前駆体ガラスは、自動車、電気器具、および建築の用途に使用することもできる。そのためには、複雑な形状への操作に適合するように十分低い軟化点および/または十分低い熱膨張係数を有するように、前駆体ガラスを配合することが望ましい。
【0027】
本開示の1つ以上の実施形態は、耐亀裂性などの改善された機械的性質を示すガラス−セラミックに関する。特に、本明細書に開示される1つ以上の実施形態は、圧入破壊閾値法によって測定される改善された耐亀裂性を示しながら、白色の不透明色などの他の所望の性質を維持するガラス−セラミックに関する。
【0028】
1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックは、ビッカース圧入破壊閾値試験によって測定される耐亀裂性を示すことができる。実際には、ビッカース圧入破壊閾値試験によって測定されるビッカース圧入亀裂発生閾値は、少なくとも約15kgf(147N)、少なくとも約16kgf(157N)、少なくとも約17kgf(167N)、少なくとも約18kgf(177N)、少なくとも約19kgf(186N)、少なくとも約20kgf(196N)、少なくとも約21kgf(206N)、少なくとも約22kgf(216N)、少なくとも約23kgf(226N)、少なくとも約24kgf(235N)、少なくとも約25kgf(245N)、少なくとも約26kgf(255N)、少なくとも約27kgf(265N)、少なくとも約28kgf(275N)、少なくとも約29kgf(284N)、または少なくとも約30kgf(294N)であってよい。ある実施形態において、ガラス−セラミックは、約15kgf(147N)〜約20kgf(196N)の範囲内、約20kgf(196N)〜約25kgf(245N)の範囲内、または約25kgf(245N)〜約30kgf(294N)の範囲内のビッカース亀裂発生閾値を示す。ガラス−セラミックは、上記ビッカース圧入亀裂発生閾値および/または範囲を示すIXガラス−セラミック(IX glass−ceramic)を形成するために化学強化することができる。
【0029】
1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックは、約5mm未満の厚さを有する前駆体ガラス物品(結晶化可能なガラスを含む)のセラミック化によって形成される結晶相および非晶質相を含むことができる。たとえば、前駆体ガラス物品は、約4mm以下、約3.8mm以下、3.6mm以下、3.4mm以下、3.2mm以下、3mm以下、2.8mm以下、2.6mm以下、2.4mm以下、2.2mm以下、2mm以下、1.8mm以下、1.6mm以下、1.4mm以下、1.2mm以下、1mm以下、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲の厚さを有することができる。
【0030】
1つ以上の実施形態のガラス−セラミックは、ガラス−セラミック物品の約20重量%以上である結晶相を含むことができる。ある実施形態において、結晶相は少なくとも約20重量%、約30重量%、約40重量%、約50重量%、約60重量%、約70重量%、約80重量%、またはさらには約90重量%である。
【0031】
1つ以上の実施形態は、化学強化されたガラス−セラミックを含む。このようなIXガラス−セラミックは、0.8MPa・m
1/2を超え、あるいは0.85MPa・m
1/2を超え、または1MPa・m
1/2を超える破壊靱性を示す。記載の破壊靱性とは無関係に、またはこれと組み合わせて、このようなIXガラス−セラミックは、40,000psi(275.8MPa)を超える、または50,000psi(344.7MPa)を超えるMORを示す。
【0032】
1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックは、不透明および/または白色である。本開示のある実施形態によると、白色不透明のガラス−セラミックは、β−スポジュメンを主結晶相として含むことができる。1つ以上の実施形態において、白色不透明のガラス−セラミックは、モル%の単位で:62〜75のSiO
2;10.5〜17のAl
2O
3;5〜13のLi
2O;0〜4のZnO;0〜8のMgO;2〜5のTiO
2;0〜4のB
2O
3;0〜5のNa
2O;0〜4のK
2O;0〜2のZrO
2;0〜7のP
2O
5;0〜0.3のFe
2O
3;0〜2のMnOx;および0.05〜0.2のSnO
2を含むことができ、別の態様では、モル%の単位で:67〜74のSiO
2;11〜15のAl
2O
3;5.5〜9のLi
2O;0.5〜2のZnO;2〜4.5のMgO;3〜4.5のTiO
2;0〜2.2のB
2O
3;0〜1のNa
2O;0〜1のK
2O;0〜1のZrO
2;0〜4のP
2O
5;0〜0.1のFe
2O
3;0〜1.5のMnOx;および0.08〜0.16のSnO
2を含むことができる。
【0033】
ある態様において、このようなガラス−セラミックは以下の組成基準を示す:
(1)[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]のモル合計の、[Al
2O
3+B
2O
3]のモル合計に対する比が、約0.7〜約1.5の範囲内、ある別の態様では約0.75〜約1.5の範囲内となることができ、別の態様では約0.75〜約1の範囲内、約0.8〜約1、約1〜約1.5、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲となることができ;
(2)[TiO
2+SnO
2]のモル合計の、[SiO
2+B
2O
3]のモル合計に対する比が、0.04を超えることができ、ある別の態様では0.05を超えることができる。
【0034】
さらなるある態様において、このようなガラス−セラミックは、以下の結晶相集合:
(1)1:1:4.5〜1:1:8、または1:1:4.5〜1:1:7の範囲のLi
2O:Al
2O
3:SiO
2比を示し、結晶相の少なくとも70重量%を構成するβ−スポジュメン固溶体と;
(2)
a.ガラス−セラミックの結晶相の約2.5〜8重量%、
b.長さ≧約50nmを示す針状形態、および
c.ルチル
を含む少なくとも1つのTi含有結晶相と;任意選択的に、
(3)スピネル構造を示し結晶相の1〜10重量%を構成する1つ以上の結晶相と
のいずれか1つ以上を示す。
【0035】
さらなる態様において、このようなガラス−セラミックは、0.8mmの厚さの場合に、400nm〜700nmの波長範囲にわたって≧85%の不透明性および/または不透明度を示す。
【0036】
さらに別の態様において、ガラス−セラミックは、CIE光源F02に対して種々のCIELAB色空間座標を示す。1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックは、約350nm〜約800nmの波長範囲にわたって88〜97の範囲(たとえば、約90〜96.5の範囲内)の明度(L
*)レベルを示す。このガラス−セラミックは−3〜+3の範囲のa
*値、および−6〜+6の範囲のb
*値を示すことができる。ある実施形態において、ガラス−セラミックは、−2〜+2の範囲のa
*値、および−5.5〜+5.5の範囲のb
*値を示す。1つ以上の特定の実施形態において、ガラス−セラミックは、−1〜+1の範囲のa
*値、および−4〜+4の範囲のb
*値を示すことができる。
【0037】
記載されるように、1つ以上の実施形態のガラス−セラミック(または前駆体ガラス)は、約0.7〜約1.5、約0.75〜約1.5、約0.75〜約1、約0.8〜約1、または約1〜約1.5の範囲内、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲の組成比
【0039】
を示すことができる。本出願人らは、この比のあらかじめ指定された値を有するように前駆体ガラスを配合することによって、このような前駆体ガラスを用いて得られたガラス−セラミックは、主結晶相および副結晶相の組成および/または量および/または構造を含む所望の性質を有するようにできることを見出した。たとえば、改質剤対アルミナのモル比は、ガラス−セラミックがβ−スポジュメン、ルチルを含むTi含有結晶相、スピネル固溶体、および残留ガラスの1つ以上を含むように規定することができる。β−スポジュメン、Ti含有結晶相、および残留ガラスの1つ以上は、規定される所望の量で存在することができ、同時に規定される所望の組成および/または構造および/または分布を有することができる。そのため、改質剤対アルミナのモル比は、前駆体ガラスの性質および/または加工特性、さらには、それより作製されたガラス−セラミックの性質および/または特性に影響を与える。たとえば、改質剤対アルミナのモル比は、前駆体ガラス組成物のガラス転移温度(Tg)、ならびに主結晶相(たとえば、β−スポジュメン)および副結晶相(たとえば、Ti含有結晶相、スピネル固溶体、β−石英など)の核形成温度(Tn)範囲および/または結晶化温度(Tc)範囲に影響を与える。このように、この比の値によって、実用的な変換計画(たとえば、核形成および結晶化の温度および/または時間)が可能となり、同時に繰り返し確実に実現可能なあらかじめ指定された色座標を特徴とするガラス−セラミックを形成可能となるように、1つ以上の実施形態の前駆体ガラスが配合される。
【0040】
記載されるように、「主結晶相としてのβ−スポジュメン固溶体」(あるいは「主結晶相としてのβ−スポジュメンss」または「主結晶相としてのβ−スポジュメン」と記載される)を示すまたは有する本開示のある実施形態によるガラス−セラミックは、β−スポジュメン固溶体がガラス−セラミックの全結晶相の約70重量パーセント(重量%)を超えることを意味する。ある実施形態によるガラス−セラミックの他の可能性のある結晶相の非限定的な例としては、β−石英固溶体(「β−石英ss」または「β−石英」);β−ユークリプタイト固溶体(「β−ユークリプタイトss」または「β−ユークリプタイト」);スピネル固溶体(「スピネルss」または「スピネル」、たとえばガーナイトなど);Ti含有結晶相(たとえば、ルチル、アナターゼ、チタン酸マグネシウム、たとえばカロライト(karrooite)(MgTi
2O
5)、チタン酸アルミニウム、たとえばタイライト(tielite)(Al
2TiO
5)など);コーディエライト(たとえば、(Mg,Fe)
2Al
3(Si
5AlO
18)〜(Fe,Mg)
2Al
3(Si
5AlO
18)など)などが挙げられる。
【0041】
本開示のある実施形態によるβ−スポジュメンガラス−セラミック中でβ−スポジュメン固溶体が支配的であることは、このようなガラス−セラミックに対して1つ以上のイオン交換処理が行われて、イオン交換されたガラス−セラミックが製造される場合に有益となる場合がある。たとえば、β−スポジュメンの構造は、種々のカチオン(たとえば、Na、K、Rbなどのイオン)と交換される場合に、骨格が破壊されることなく自由度を示すことができる。
【0042】
本明細書に開示されるように、ガラス−セラミックのある実施形態は、不透明であるおよび/または白色であることを特徴とすることができる。このような場合、所望の不透明度および/または所望の白色度は、副結晶相としてルチルを含む1つ以上のTi含有結晶相を含むことによって実現されうる。ある実施形態において、ガラス−セラミックは、副結晶相としてルチルを含む1つ以上のTi含有結晶相を含むβ−スポジュメンガラス−セラミックである。このような1つ以上のTi含有結晶相の例は、任意のルチル(TiO
2)を含み、任意選択的にアナターゼ(TiO
2)、カロライト(MgTi
2O
5)、タイライト(Al
2TiO
5)など、およびそれらの混合物の1つ以上を含むことができる。所望の不透明度および所望の白色度の実現が望ましい場合、本出願人らは、所望の程度の不透明度および白色度を実現するためには、β−スポジュメンガラス−セラミックなどのこのようなガラス−セラミックが、1つ以上のTi含有結晶相を含み、これらは、ルチルを含み、ある態様では長さ≧50nm、別の態様では長さ≧110nm、さらに別の態様では長さ≧1μm、一方では場合により最大2μmの針状結晶であってよい。
【0043】
スピネルは、一般式AB
2O
4で表され、立方晶の基本スピネル構造を有する結晶性酸化物である。原型のスピネル構造は、アルミン酸マグネシウム(MgAl
2O
4)のスピネル構造である。基本スピネル構造では、O原子は面心立方(FCC)配列の位置を占め;A原子はFCC構造中の四面体位置(Aサイト)の一部を占め;B原子はFCC構造中の八面体位置(Bサイト)を占める。正スピネルでは、A原子とB原子とは異なり、Aは+2イオンであり、Bは+3イオンである。無秩序スピネルでは、+2イオンおよび+3イオンがAサイトおよびBサイトにわたって不規則に分布する。逆スピネルでは、Aサイトは+3イオンによって占められ、その結果、Bサイトが+2イオンおよび+3イオンの等量混合物を有し、A原子およびB原子は同じであってよい。場合によっては、一部のAサイトは+2イオン、+3イオン、および/または+4イオンが占めることができ、同じ場合または別の場合に、Bサイトは+2イオン、+3イオン、および/または+4イオンが占めることができる。A原子の一部の例としては、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、鉄、銅、コバルトなどが挙げられる。またB原子の一部の例としては、アルミニウム、アンチモン、クロム、鉄、マンガン、チタン、バナジウムなどが挙げられる。広範囲の固溶体は、スピネルにおいて共通であり、一般式
【0045】
で表すことができる。たとえば、完全固溶体はZnAl
2O
4とMgAl
2O
4との間で得られ、これは式
【0047】
で表すことができる。本開示のある実施形態によると、ガラス−セラミックは、スピネル構造を示す1つ以上の結晶相を含み、これはある態様ではガーナイトZnAl
2O
4に近い組成を有する。また、ZnO、またはZnOおよびAl
2O
3の量が増加すると、そのようなガラス−セラミックは、ガーナイトの量が増加しうることを見出した。ガーナイトの屈折率(n)は1.79〜1.82の範囲となることができ、これはβ−スポジュメンの屈折率(n=1.53〜1.57)よりも高くなりうるが、ルチルの屈折率(n=2.61〜2.89)よりもはるかに低い。また、正方晶であるβ−スポジュメンおよびルチルとは対照的に、立方晶のスピネルであると、複屈折を示すことはない。したがって、ある実施形態において、一般にスピネル、特にZn含有スピネルは、ルチルよりもガラス−セラミックの色に対する影響が小さくなりうる。
【0048】
ガラス−セラミックがβ−スポジュメンガラスセラミックであり、ルチルを含むTi含有結晶相を含む場合の本開示の実施形態の態様において、ルチルは結晶相の2.5重量%〜6重量%の範囲となりうる。本出願人らは、結晶相の少なくとも2.5重量%にルチルを維持することによって、最低限の所望の不透明度を保証することができ、一方、結晶相の6重量%以下にルチルを維持することによって、所望の不透明度を維持しながら、同時に所望の白色レベルを保証できることを見出した。換言すれば、β−スポジュメンガラス−セラミックのTiO
2含有量は2〜5モル%の範囲であってよく、少なくとも2モル%を維持することによって、最低限の所望の不透明度を保証することができ、一方、5モル%以下を維持することによって、所望の不透明度を維持しながら、同時に所望の白色レベルを保証することができる。
【0049】
比較のため、数種類の材料の低下する順での屈折率(n)は以下の通りである:ルチル(n=2.61〜2.89);アナターゼ(n=2.48〜2.56);ダイヤモンド(n=2.41〜2.43);ガーナイト(n=1.79〜1.82);サファイア(n=1.75〜1.78);コーディエライト(n=1.52〜1.58);β−スポジュメン(n=1.53〜1.57);残留ガラス(n=1.45〜1.49)。また比較のため、同じ材料の一部の低下する順での複屈折(Δn)は以下の通りである:ルチル(Δn=0.25〜0.29);アナターゼ(Δn=0.073);サファイア(Δn=0.008);コーディエライト(Δn=0.005〜0.017);ダイヤモンド(Δn=0);ガーナイト(Δn=0)。上記データに基づくと、一部のTi含有結晶相、特にルチルは、一部の最高屈折率を示す材料中にあることが分かる。さらに別に、一部のTi含有結晶相、特にルチルは、それらの正方晶結晶構造の異方性特性の結果として、比較的高い複屈折(Δn)であることも分かる。屈折率または複屈折のいずれかの差が、ガラス−セラミックの主結晶相(たとえば、β−スポジュメン{n=1.53〜1.57})および/または任意の残留ガラス(n=1.45〜1.49)および任意の副結晶相の間で増加すると、可視波長の散乱が増加し、不透明度が増加しうる。それぞれの特性の単独での差が有益となりうるが、両方における差がさらに大きいとさらに有益となりうる。一部のTi含有結晶相、特にルチル、および基本相(β−スポジュメンおよび任意の残留ガラス)の間で両方における差が存在すれば、本開示のβ−スポジュメンガラス−セラミックは、比較的高くなりうる所望のレベルの散乱を示し、したがって同様に高くなりうる必要で望ましい不透明度を示す。
【0050】
Al
2O
3は、主結晶相としてβ−スポジュメンを示す本開示のβ−スポジュメンガラス−セラミックに寄与する。したがって、最低10.5モル%のAl
2O
3が望ましい。結果として得られるムライトの液相線によって、前駆体ガラスの溶融および形成が困難となるため、17モル%を超えるAl
2O
3は望ましくない。
【0051】
Na
2OおよびK
2Oを含むと、前駆体ガラスの溶融温度を低下させることができ、および/またはより短い結晶化サイクルが可能となりうる。
【0052】
本開示のガラス−セラミックは0〜4モル%のB
2O
3を含有する。前駆体ガラスは、典型的には1600℃未満、ある態様および/または実施形態では約1580℃未満、別のある態様および/または実施形態では約1550℃未満の温度で溶融することができ、そのため比較的小型の市販のガラスタンク中で溶融可能である。B
2O
3の混入が低い溶融温度につながる。
【0053】
MgOおよびZnOは前駆体ガラスの融剤として機能することができる。したがって、2モル%の最小モル%合計[MgO+ZnO]が、1600℃未満のガラス溶融温度を得るためには望ましい。Mgのイオン、およびより少ない量のZnのイオンが、β−スポジュメンガラス−セラミック中のβ−スポジュメンに関与することができる。
【0054】
前駆体ガラス中のLi
2Oを5〜13モル%に維持することで、β−スポジュメン固溶体結晶相の形成が促進される。また、Li
2Oは前駆体ガラスの融点を低下させるための融剤として機能する。したがって、最低5モル%のLi
2Oが、所望のβ−スポジュメン相を得るために望ましい。13モル%を超えるLi
2Oは、ケイ酸リチウムなどの好ましくない相がガラス−セラミックの形成中に生じうるため、望ましくない場合がある。
【0055】
核形成および/または結晶化熱処理中の主結晶相としての少なくともβ−スポジュメンおよび任意の所望の1つ以上の副結晶相の核形成および/または成長を促進するために、適切な種類および量の1種類以上の核形成剤が前駆体ガラス中に含まれる。1種類以上の核形成剤の適切な種類の中では、TiO
2およびZrO
2が挙げられる。ある実施形態において、最大6モル%のTiO
2を使用することができ、および/または最大約2mol%のZrO
2を使用することができる。少量のSnO
2は、固溶体中のルチル相に入ると思われ、したがって核形成に寄与しうる。1つ以上の実施形態において、規定の程度の不透明度および白色度を実現するために1つ以上のTi含有相の形成が望ましい場合、TiO
2を核形成剤として使用することができる。別の実施形態では、核形成の効率を高めるためにZrO
2を核形成剤として使用することができる。したがって、1種類以上の核形成剤の種類および量は慎重に規定される。β−スポジュメンガラス−セラミック(任意選択的にβ−石英固溶体を示す)に関するある態様および/または実施形態において、2.5モル%を超える最小モル%合計[TiO
2+SnO
2]が前駆体ガラスの成分として望ましいことに留意されたい。言い換えると、有効な方法で核形成が起こり、あらかじめ選択された適切な結晶相集合の成長が実現されるように、このモル%合計[TiO
2+SnO
2]の有効量が前駆体ガラスの成分として配合される。得られる高いルチル液相線によって、前駆体ガラスの形状の形成中の問題が増加する可能性があるため、6モル%を超えるTiO
2は望ましくないことに留意されたい。また、SnO
2の混入は、核形成にわずかに寄与しうることに加えて、前駆体ガラスの製造中に清澄剤として部分的に機能して、それらの品質および完全性に寄与できることに留意されたい。
【0058】
を、ある態様では0.04を超え、別の態様では0.05を超えるように維持することは、あらかじめ選択された適切な結晶相集合の実現に寄与することができ、そのことは規定された程度の不透明度および/または白色度の実現に寄与する。
【0059】
また、実施形態によるβ−スポジュメンガラス−セラミックおよび/または前駆体ガラスにおいて、本出願人は、Li
2O:Al
2O
3:nSiO
2の比が1:1:4.5〜1:1:8であるβ−スポジュメン結晶相が望ましいことを見出した。したがって、得られるβ−スポジュメンガラス−セラミック中の不安定な残留ガラスが過剰に形成するのを回避するために、最小の比の1:1:4.5が望ましい。1:1:8の比を超えることは、前駆体ガラスの溶融性を増加させうる問題として望ましくない。
【0060】
本開示の1つ以上の実施形態によるβ−スポジュメンガラス−セラミックによって示すことができる別の性質としては:
(1)0.03未満の損失正接によって15MHz〜3.0GHzの周波数範囲において定義される無線周波数およびマイクロ波周波数透明性;
(2)1MPa・m
1/2を超える破壊靱性;
(3)20,000psi(137.9MPa)を超える破壊係数(MOR);
(4)少なくとも400kg/mm
2のヌープ硬さ;
(5)4W/m℃(4W/mk)未満の熱伝導率;および
(6)0.1体積%未満の多孔度
の1つ以上が挙げられる。
【0061】
一般に物品、特に電子デバイスのハウジングまたは筐体(それぞれβ−スポジュメンガラス−セラミックで部分的にまたは全体的に構成される)に関する1つ以上の実施形態において、そのような物品および/またはβ−スポジュメンガラス−セラミックは、ある態様では0.02未満、別の態様では0.01未満、さらに別の態様では0.005未満の損失正接によって定義される無線周波数またはマイクロ波周波数透明性を示し、損失正接は15MHz〜3.0GHzの範囲の周波数にわたって約25℃において測定される。この無線周波数またはマイクロ波周波数透明性の特徴は、筐体内部にアンテナを含む無線携帯デバイスの場合に特に有益となりうる。この無線およびマイクロ波透明性によって、無線信号がハウジングまたは筐体を透過することができ、場合によりこれらの伝送が促進される。このような物品および/またはβ−スポジュメンガラス−セラミックが、上記値の損失正接を示すとともに、15MHz〜3.0GHzの範囲の周波数にわたって約25℃において測定される誘電率が約10未満、または約8未満、または約7未満である場合に、さらなる利点が実現されうる。
【0062】
本開示の別の実施形態は、本明細書に記載のガラス−セラミックの前駆体となるように配合できる前駆体ガラスの形成方法に関する。ある実施形態において、この方法は、配合された原材料の混合物を溶融させ、溶融後に本明細書に記載の前駆体ガラスを形成するステップを含む。ある実施形態において、前駆体ガラスは、モル%の単位で、たとえば62〜75のSiO
2;10.5〜17のAl
2O
3;5〜13のLi
2O;0〜4のZnO;0〜8のMgO;2〜5のTiO
2;0〜4のB
2O
3;0〜5のNa
2O;0〜4のK
2O;0〜2のZrO
2;0〜7のP
2O
5;0〜0.3のFe
2O
3;0〜2のMnOx;および0.05〜0.2のSnO
2を含むことができ、別の態様ではモル%の単位で、たとえば67〜74のSiO
2;11〜15のAl
2O
3;5.5〜9のLi
2O;0.5〜2のZnO;2〜4.5のMgO;3〜4.5のTiO
2;0〜2.2のB
2O
3;0〜1のNa
2O;0〜1のK
2O;0〜1のZrO
2;0〜4のP
2O
5;0〜0.1のFe
2O
3;0〜1.5のMnOx;および0.08〜0.16のSnO
2を含むことができる。
【0063】
さらなる態様において、原材料のこのような混合物を配合して、溶融後に、以下の組成基準を示す前駆体ガラスが得られる:
(1)[Li
2O+Na
2O+K
2O+MgO+ZnO]のモル合計の、[Al
2O
3+B
2O
3]のモル合計に対する比が、約0.7〜約1.5の範囲内、ある別の態様では約0.75〜約1.5の範囲内、さらに別の態様では約0.75〜約1、約0.8〜約1、約1〜約1.5の範囲内、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲であってよく、
(2)[TiO
2+SnO
2]のモル合計の、[SiO
2+B
2O
3]のモル合計に対する比が、0.04を超えてよく、ある別の態様では0.05を超えてよい。
さらに別の態様においては、原材料のこのような混合物は、約1600℃未満の温度での溶融ガラス組成物の清澄および均質化によって上記前駆体ガラスが得られるように配合される。
【0064】
1つ以上の実施形態において、原材料は、実質的に白色のガラス−セラミックが得られるような改善された性質を得るために低鉄含有量を有するように選択することができる。別の実施形態において、SiO
2源として砂を使用することができる。砂および他のバッチ材料中の鉄の量を減少させるために、酸前処理が必要となりうる。1つ以上の実施形態において、低鉄含有量が望ましい場合には、バッチ材料の処理に酸化鉄を導入すべきではない。1つ以上の別の実施形態においては、鉄含有量の制御が不要である場合がある。B
2O
3源として無水ホウ酸を使用することができる。スポジュメン、微粒アルミナ、およびメタリン酸Alを出発物質として使用することができる。当業者であれば、ガラス−セラミックの計画最終組成により使用されるバッチ材料の量を計算することができる。前述したように、有用であることが分かっている清澄剤は、約0.05〜0.15モル%の量のSnO
2である。
【0065】
混合したバッチ材料を次にガラスタンク中に投入し、従来のガラス溶融プロセスにより溶融させる。ガラス溶融分野の当業者であれば、ガラス溶融タンクの運転能力および温度に対応するために、バッチの組成を前述の組成範囲内で調節してガラスの溶融しやすさを微調整することができる。溶融したガラスは、従来方法を用いて均一化し清澄することができる。
【0066】
均質化され、清澄され、熱的に均一な溶融ガラスから次にガラス板が形成される。一般に、ガラスは、液相線粘度よりも低い粘度(したがって液相線温度よりも高い温度)で形成すべきである。
【0067】
1つ以上の実施形態において、この方法は、溶融前駆体ガラスから、主要寸法に沿って約5mm未満(たとえば、約0.5mm〜約5mmの範囲内)の厚さを有するガラス物品を形成するステップを含む。ガラス物品はガラス板であってよいが、他の形状も考慮される。1つ以上の実施形態において、ガラス板は圧延プロセスによって形成することができ、このガラス板は約5mm未満の厚さを有する。ガラス板は、フロート法、紡糸法、またはさらにはプレス法(たとえば、十分な厚さを有する比較的小さな断片の場合)などの別の方法によって形成することができる。ガラス板の長さおよび高さの寸法は変動してよい。たとえば、ガラス板は、最大約500mmまたはさらには1500mmの長さおよび/または幅の寸法、およびそれらの組合せを有することができる。
【0068】
1つ以上の実施形態においては、ガラス供給装置が、約1000℃以上の温度の溶融前駆体ガラスを、約250℃以上、またはある実施形態においては約500℃以上または約600℃以上の表面温度に維持される成形ロールの組まで供給する方法および装置を用いてガラス板を形成することができる。これらの熱間成形ロールは、溶融前駆体ガラスを受け取るために、ガラス供給デバイスの垂直方向の下に配置することができる。熱間成形ロールによって、供給された溶融前駆体ガラスから、所望の厚さ(たとえば、約5mm以下未満)付近の厚さを有する成形ガラスリボンが形成される。この方法および装置は、約600℃以下、400℃以下、300℃以下、または200℃以下の表面温度に維持されたサイジングロールの組を含むことができ、これらは形成されたガラスリボンを受け取るために熱間成形ロールの垂直方向の下に配置される。これらの冷間サイジングロールによって、成形されたガラスリボンをさらに薄くして、所望の厚さ(たとえば、4mm以下)および所望の厚さ均一性(たとえば、±0.025mm)を有する、サイジングが行われたガラスリボンが製造される。1つ以上の実施形態において、この方法および装置は、サイジングされたガラスリボンを受け取り、サイジングされたガラスリボンに張力を発生させるために、サイジングロールの垂直方向の下に配置された引張ロールの組の使用を含むことができる。本明細書に記載のガラス板を形成するために別の方法および装置を使用することができ、たとえば:“Precision Glass Roll Forming Process and Apparatus”という名称の国際公開第2012/166761号、2012年5月30日に出願された“Apparatus And Method For Producing Sheets Of Glass Presenting At Least One Face Of Very High Surface Quality”という名称の国際公開第2009/070236号、2008年11月20日に出願された“Glass Manufacturing System And Method For Forming A High Quality Thin Glass Sheet”という名称の国際公開第2010/096630号、2010年8月20日に出願された“Crack And Scratch Resistant Glass And Enclosures Made Therefrom”という名称の国際公開第2011/022661号、2012年6月20日に出願された“Microwave−Based Glass Laminate Fabrication”という名称の国際公開第13/012513号、2012年11月29日に出願された“Precision Forming Of Sheet Glass And Sheet Rolling Apparatus”という名称の欧州特許出願公開第12306484.2号明細書、および2013年7月25日に出願された“Methods And Apparatus For Forming A Glass Ribbon”という名称の米国仮特許出願第61/858295号明細書に記載の方法および装置を使用することができ、これら全体が参照により本明細書に援用される。
【0069】
さらなる態様において、一部の別の方法は、約6時間以下、約5時間以下、約4時間以下、またはさらには約3時間以下のセラミック化サイクルでガラス板をガラス−セラミックに変換するステップによるガラス−セラミックの形成方法を含んだ。本明細書において使用される場合、用語「セラミック化サイクル」は、ガラス板を核形成温度(Tn)まで加熱するステップ、ガラス板を核形成温度で維持して、核形成されたガラス板を形成するステップ、核形成されたガラス板を結晶化温度(Tc)まで加熱するステップ、核形成されたガラス板を結晶化温度で維持して、ガラス−セラミックを形成するステップ、およびガラス−セラミックを室温まで冷却するステップを含む。1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックを室温に冷却するステップは、約10℃/分以上、約11℃/分以上、約12℃/分以上、約13℃/分以上、約14℃/分以上、約15℃/分以上、約16℃/分以上、約17℃/分以上、約18℃/分以上、約19℃/分以上、または約20℃/分以上の平均速度で行うことができる。特定の一実施形態においては、ガラス−セラミックは、約10℃/分〜約20℃/分、約10℃/分〜約15℃/分、約15℃/分〜約20℃/分以上の範囲内、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲の平均速度で室温まで冷却される。ある実施形態において、ガラス−セラミックを特定の温度または温度範囲まで冷却するときに、冷却速度を変化させることができる。たとえば、ガラス−セラミックを約950℃から室温まで、約925℃から室温まで、約900℃から室温まで、875℃から室温まで、850℃から室温まで、825℃から室温まで、および/または800℃から室温まで、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲で冷却するときに、ガラス−セラミックを本明細書に開示される速度の範囲内の種々の速度(たとえば、約10℃/分以上、約15℃/分以上、約20℃/分以上、または約10℃/分〜約20℃/分の範囲内の速度)で冷却することができる。
【0070】
1つ以上の実施形態において、セラミック化サイクルの冷却セグメント中に、コンベアシステムまたはローリングシステム上でガラス−セラミックを約0.15m/分以上の速度で移動させるときに、ガラス−セラミックが上記冷却速度で冷却される。別の実施形態においては、コンベアシステムまたはローリングシステムの速度は、本明細書に開示される冷却速度が得られるように調整することができる。1つ以上の実施形態においては、セラミック化サイクルを静止炉中で行うことができ、そのような実施形態では、たとえば、温度維持の終了時に、炉を急速に冷却し、または炉を開放して、本明細書に開示されるようにガラス−セラミックを冷却することによって、本明細書に開示される冷却速度を使用することができる。
【0071】
1つ以上の実施形態において、本発明の方法は、形成されたガラス−セラミックを、15℃/分以上の平均速度でTc以下の温度から室温まで冷却するセラミック化サイクルを用いて、本明細書に開示された約5mm未満の厚さを有するガラス板をセラミック化するステップを含む。1つ以上の実施形態において、前記方法は、(i)前駆体ガラスを含むガラス板を1〜10℃/分の速度で700〜810℃の範囲の核形成が開始する核形成温度(Tn)まで加熱するステップと;(ii)前駆体ガラスを含むガラス板を核形成温度で約2時間以下、1.5時間以下、またはさらには1時間以下の時間維持して、核形成されたガラス板を形成するステップと;(iii)核形成されたガラス板を1〜10℃/分の速度で、850℃〜1250℃の範囲の結晶化温度(Tc)まで加熱して、結晶化を開始させるステップと;(iv)ガラス板を結晶化温度で約5時間未満の時間維持して、結晶化を所望の程度に到達させて、ガラス−セラミックを形成するステップと;(v)ガラス−セラミックをTc以下の温度から室温まで約15℃/分以上または約20℃/分以上の平均速度で冷却するステップとを有してなる。1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックを室温まで冷却するステップは、少なくとも約45分、少なくとも約60分、または最長90分を要しうる。1つ以上の実施形態において、ガラス−セラミックは、約45分〜約90分の範囲内の時間で室温まで冷却することができる。1つ以上の特定の実施形態において、冷却ステップは約45分以下の時間を有する。ある実施形態において、ガラス−セラミックを室温まで冷却するための時間の長さは、セラミック化サイクルの長さに依存しうる。周知のセラミック化サイクルは、加熱炉中でガラス−セラミックを室温まで冷却するステップを含む。本開示のある実施形態においては、最初にガラス−セラミックは約950℃から約800℃の温度に冷却される。ある実施形態において、最初にガラス−セラミックは加熱炉中で950℃から約800℃まで約5分〜約35分で冷却することができる。その後ガラス−セラミックは、ガラス−セラミックを約300℃/分〜約500℃/分の範囲内の速度で冷却する急冷プロセスを用いて急速に冷却することができる。ある実施形態において、急冷プロセスは、ガラス−セラミックを約325℃/分、350℃/分、375℃/分、400℃/分、425℃/分、450℃/分、475℃/分、500℃/分、525℃/分、550℃/分、ならびにそれらの間のあらゆる範囲および部分的範囲の速度で冷却する。ある特定の実施形態においては、急冷プロセスでは、扇風機、低温の鋼、または低温の液体が利用される。ある実施形態において、急冷プロセスは、ガラス−セラミックの最大表面領域を扇風機からの空気に向けるステップを含む。別の実施形態においては、急冷プロセス中にガラス−セラミックの少なくとも最大表面領域を、冷たいもしくは低温の鋼、または冷たいまたは低温の液体に接触させて配置することができる。
【0072】
本開示のある実施形態により結果として得られるガラス−セラミックおよび/またはガラス−セラミック物品の、所望の結晶相(たとえば、主結晶相としてのβ−スポジュメン固溶体、および/または1つ以上の副結晶相としてのルチルを含む1つ以上のTi含有結晶相);主結晶相および/または副結晶相および残留ガラスの所望の比率;主結晶相および/または副結晶相および残留ガラスの所望の結晶相集合;主結晶相および/または副結晶相の所望の粒度または粒度分布;ならびに、したがって最終的な完全性、品質、色、および/または不透明度が得られるように、前駆体ガラスに加えて、ステップ(iii)および(iv)の温度−時間プロファイルが慎重に規定される。
【0073】
さらにステップ(v)の温度−時間プロファイルは、ガラス−セラミックの所望の非晶質および/または結晶相、仮想の非晶質相、および機械的性質を得るために制御することができる。たとえば、ガラス−セラミックがコンベアシステム上で冷却される場合、冷却速度を制御するために、コンベアの速度を増加または低下させることができる。別の実施形態においては、ガラス−セラミックの冷却速度を制御するために、コンベアシステムの長さを調節することができる。ガラス−セラミックを冷却するための環境を変更することもできる。たとえば、冷却プロセスの一部は加熱炉または加熱環境中で行うことができ、一方、冷却プロセスの別の部分は周囲空気中または冷却環境中(たとえば、ファンの空気を向かわせることによる、またはガラス−セラミックを低温の鋼もしくは低温の液体と接触させることによる)で行うことができるように、環境温度を変更することができる。これらの変更は、ガラス−セラミックの耐亀裂性を増加させるために調節し制御することができる。
【0074】
本開示のガラス−セラミック物品を製造するため、本明細書に記載のように作製されたガラス板は、結晶化キルン中に入れられて、結晶化プロセスが行われる。キルンの温度−時間プロファイルは、ガラス板からの所望の結晶相(たとえば、主結晶相としてのβ−スポジュメン)を有するガラス−セラミック物品の形成を保証するために、望ましくはプログラム制御され最適化される。前述のように、ガラス組成および結晶化プロセス中の熱履歴によって、最終製品中の最終結晶相、それらの集合、および微結晶サイズが決定される。さらに、セラミック化サイクルおよび/または温度−時間プロファイルによって、ビッカース圧入亀裂発生閾値などの機械的性質が決定されうる。当業者であれば、前述の範囲内の種々のガラス組成に対応させるために結晶化サイクルのTn、Tc、および温度−時間プロファイルを調節することができる。本開示のガラス−セラミックは、有利には不透明な白色を示すことができる。
【0075】
本開示のガラス−セラミック物品は、意図する最終用途の前にさらに処理することができる。そのような後処理の1つとしては、少なくとも1つの表面の少なくとも一部でIXプロセスが行われたIXガラス−セラミック物品を形成するためのガラス−セラミックのIX処理が挙げられ、これによって少なくとも1つの表面のIX部分は、物品全体の厚さの約1%以上、約1.5%、または約2%以上の層深さ(DOL)を有しながら、表面で少なくとも300MPa圧縮応力(σ
s)を示す圧縮層を示す。ある実施形態において、IXガラス−セラミック物品は、IXプロセスが行われた少なくとも1つの表面の少なくとも一部を含み、それによって少なくとも1つの表面のIX部分は、物品全体の厚さの約8%以上、約9%以上、約10%以上、約11%以上、約12%以上、約13%以上、約14%以上、または約16%以上の層深さ(DOL)を有する圧縮層示す。1つ以上の特定の実施形態において、DOLは約80μm〜約120μmの範囲内であってよい。上記のDOLおよび圧縮応力(σ
s)が実現されるのであれば、当業者に周知のあらゆるIXプロセスが好適となりうる。
【0076】
さらに特定の一実施形態においては、ハウジングまたは筐体は、全体の厚さが約0.8mmであり、圧縮層は40μmのDOLを示し、圧縮層は最大500MPa(500MPaを含む)の圧縮応力(σ
s)を示す。この場合も、これらの特徴が実現されるあらゆるIXプロセスが好適となる。
【0077】
1段階のIXプロセスに加えて、性能を向上させるために計画されたIXプロファイルを得るために、複数のIX手順を使用できることに留意されたい。すなわち、異なるイオン濃度を用いて配合したIX浴を使用することによって、または異なるイオン半径を有する異なるイオン種を用いて配合した複数のIX浴を使用することによって、選択された深さに応力プロファイルを形成した。
【0078】
本明細書において使用される場合、用語「イオン交換」は、ガラス−セラミック表面および/または全体に存在するイオンと異なるイオン半径を有するイオンを含有する加熱溶液で、加熱したβ−スポジュメンガラス−セラミックを処理し、それによって、イオン交換(「IX」)温度条件に依存して、より小さなイオンを有するそれらのイオンをより大きなイオンで置換する、またはその逆を行うことを意味するものと理解される。たとえば、カリウム(K)イオンは、この場合もIX温度条件に依存して、ガラス−セラミック中のナトリウム(Na)イオンと置換したり、置換されたりすることが可能である。あるいは、(Rb)ルビジウムまたはセシウム(Cs)などのより大きな原子半径を有する別のアルカリ金属イオンを、ガラス−セラミック中のより小さなアルカリ金属イオンと置換することができる。同様に、限定するものではないが、硫酸塩、ハロゲン化物などの別のアルカリ金属塩をイオン交換(「IX」)プロセスに使用することができる。
【0079】
本発明の方法において、両方の種類のIXが起こりうることが考慮され;すなわち、より大きなイオンがより小さなイオンで置換される、および/またはより小さなイオンがより大きなイオンで置換される。ある実施形態においては、本発明の方法は、310〜430℃の温度のNaNO
3浴中に最長10時間の時間入れることによるガラス−セラミックのIX(特にリチウムイオンのナトリウムイオンによる交換)を含む。別の実施形態においては、IXは、同様の温度および時間の混合カリウム/ナトリウム浴、たとえば、同等の温度の80/20のKNO
3/NaNO
3浴か、あるいは60/40のKNO
3/NaNO
3を用いて行うことができる。さらに別の実施形態においては、2段階のIXプロセスが考慮され、その第1のステップはLi含有塩浴中で行われ;たとえば溶融塩浴は、主成分としてLi
2SO
4から構成されるが、溶融浴を形成するために十分な濃度のNa
2SO
4、K
2SO
4、またはCs
2SO
4で希釈された高温硫酸塩浴であってよい。このIXステップは、ガラス−セラミック中のより大きなナトリウムイオンを、Li含有塩浴中に見られるより小さなリチウムイオンで置換する機能を果たす。第2のIXステップは、Naをガラス−セラミック中へ交換する機能を果たし、310℃〜430℃の温度のNaNO
3浴によって前述のように行うことができる。
【0080】
本明細書に記載のガラスおよびガラス−セラミックの結晶相集合の結晶相および/または結晶相の結晶サイズの性質は、当業者に周知のX線回折(XRD)分析技術によって、Philips,Netherlands製造のPW1830(CuKα放射線)回折計としてのモデルなどの市販の装置を用いて求めた。スペクトルは典型的には5〜80度の2θで取得した。
【0081】
前駆体ガラスおよび/またはガラス−セラミックの表面の特性決定のために測定される元素プロファイルは、電子マイクロプローブ(EMP)、X線フォトルミネッセンス分光法(XPS)、二次イオン質量分析(SIMS)などの当業者に周知の分析技術によって測定した。
【0082】
透明なIX材料の表面層中の圧縮応力(σ
s)、平均表面圧縮(CSavg)、および層深さ(DOL)は、株式会社ルケオおよび/または有限会社折原製作所(どちらも日本国東京)より入手可能な市販の表面応力計のモデルFSM−30、FSM−60、FSM−6000LE、FSM−7000Hなどの従来の光学技術および計測装置を用いて好都合に測定することができる。前駆体ガラスおよび/またはガラス−セラミックの曲げ強度は、ASTM C1499(およびその後継、全体が参照により本明細書に援用される)“Determination of Monotonic Equibiaxial Flexural Strength Advanced Ceramics,”ASTM International,Conshohocken,PA,USに記載のものなどの当業者に周知の方法によって特性決定することができる。
【0083】
前駆体ガラスおよび/またはガラス−セラミックのビッカース硬さは、ASTM C1327(およびその後継、全体が参照により本明細書に援用される)“Standard Test Methods for Vickers Indentation Hardness of Advanced Ceramics,”ASTM International,Conshohocken,PA,USに記載のものなどの当業者に周知の方法によって特性決定することができる。
【0084】
前駆体ガラスおよび/またはガラス−セラミックのビッカース圧入亀裂閾値測定は、ASTM C1327に記載のようにビッカース圧子から試験される材料表面への圧入荷重を0.2mm/分の速度で加え次に除去することなどによる当業者に周知の方法によって特性決定することができる。最大圧入荷重は10秒維持される。圧入亀裂閾値は、10回の圧入の50%が、圧痕の角から発生する任意の数の半径方向/中央の亀裂を示す圧入荷重で定義される。最大荷重は、特定のガラス組成で閾値に適合するまで増加させる。すべての圧入測定は、室温で相対湿度50%において行われる。
【実施例】
【0085】
以下の実施例は、本開示の利点および特徴を説明するものであり、本開示がそれらに限定されることを意図するものでは決してない。
【0086】
個別の成分の合計は100となる、または100に非常に近づくため、あらゆる実際的な目的から、報告される値はモル%を表すと考えることができる。実際の前駆体ガラスのバッチ成分は、酸化物か、別のバッチ成分とともに溶融させると適切な比率で所望の酸化物に変換される別の化合物かのいずれかのあらゆる材料を含むことができる。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例A、B、C、D、E:
組成1のガラスを工業用炉中で溶融させて溶融ガラスを形成し、これを圧延によって厚さ約15mmの棒に成形した。これらの厚さ15mmの棒を機械加工することによって厚さ約2mmの薄いサンプルを作製した。これらのサンプルは、以下の表4に示されるセラミック化サイクル1の加熱計画を用いて静止炉中でセラミック化したが、サンプルは以下の表2に示されるように異なる冷却速度を用いて冷却した。比較例Aは約5℃/分の速度で静止炉中で室温まで冷却した。実施例B〜Eは、最初に炉速度(すなわち、5℃/分)で炉中で冷却し、800〜950℃の範囲のいずれかの)特定の温度(すなわち、それぞれ800℃、850℃、900℃、950℃)に到達した後、実施例B〜Eは高速扇風機急冷によって室温まで冷却した。高速扇風機急冷の推定冷却速度は約300℃〜約500℃/分の範囲内である。
【0089】
【表2】
【0090】
セラミック化され冷却されたサンプルを次に、390℃の硝酸ナトリウム浴中で3.5時間イオン交換した。実施例A〜Eのそれぞれについて、本明細書に記載のようにビッカース圧入亀裂閾値試験を行って、ビッカース圧入亀裂発生閾値を求めた。結果を
図1に示す。
図1に示されるように、急冷したサンプル(すなわち実施例B〜E)は、20kgf(196N)を超えるビッカース圧入亀裂発生閾値を示したが、炉中で冷却したサンプル(すなわち実施例A)は9kgf(88N)のビッカース圧入亀裂発生閾値を示した。
【0091】
比較例Aのサンプルに10kgf(98N)の力を用いてビッカース圧子を圧入した。実施例Eのサンプルに10kgf(98N)の力を用いてビッカース圧子を圧入し、実施例Eのサンプルに20kgf(196N)の力を用いてビッカース圧子を圧入した。
図2A〜2Cは、各サンプルの圧痕の画像を示している。
図2A〜2Cに示されるように、より速い速度で冷却した実施例Eは、比較例A(より遅い速度で冷却した)よりも、大きい圧入荷重に耐え、亀裂の前に高い緻密化を示した。
【0092】
図1および
図2A〜2Cは、より速い冷却速度によって、より遅い速度で冷却したガラス−セラミックよりも、圧入破壊閾値試験で測定されるより高い耐亀裂性を示すガラス−セラミックが得られることを示している。
【0093】
実施例F〜H:表1に示す代表的な前駆体ガラス(組成1および2)を工業用炉中で溶融させた。実施例Fは、本明細書に記載のようにロールの組の間で圧延することによって溶融前駆体ガラスから形成した棒(550mm×65mm×15mmの寸法を有する)を含んだ。実施例Gは、中空金型に連続注型することによって溶融前駆体ガラスから形成した厚いガラス板(1200mm×600mm×13mmの寸法を有する)を含んだ。実施例Hは、連続する2組のロールの間で圧延することによって溶融前駆体ガラスから形成した薄い圧延ガラス板(500mm×62mm×1.24mmの寸法を有する)を含んだ。表3にまとめたように、実施例F(比較例)および実施例Hの3つのサンプルのそれぞれは組成1から作製し、実施例G(比較例)の3つのサンプルのそれぞれは組成2から作製した。また表3に示されるように、サンプルは、連続圧延炉中で表4に示すセラミック化サイクルの1つを行った。その後、サンプルは、390℃の硝酸ナトリウム浴中で3.5時間のイオン交換を行った。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
得られた実施例F〜Hのガラス−セラミックの種々の性質を分析し、それらを表5に示している。表5に示されるように、実施例によって示されたビッカース圧入亀裂発生閾値を除けば、性質は類似しているか、または実質的に同じである。実施例F〜Hの3つすべてのサンプルについて、ビッカース圧入亀裂閾値を求め、実施例FおよびHの平均閾値を表5に示している。実施例Hのガラス−セラミックは、実施例Fよりもはるかに大きいビッカース圧入亀裂発生閾値を示した。したがって、セラミック化サイクル3終了時のより速い冷却速度と、薄いガラス物品前駆体との組合せが、ガラス−セラミックへの改善された機械的性質、特にそのビッカース圧入亀裂発生閾値によって示される改善された耐亀裂性の付与に寄与している。
【0097】
【表5】
【0098】
実施例F〜Hについて、表6に示されるように各実施例の微結晶サイズ、相のパーセント値、残留ガラス、および格子拘束を評価するためにX線リートベルト解析による分析も行った。微結晶サイズは、すべての結晶が異方性を有さずに球形であると仮定してX線リートベルト技術を用いて求めた。したがって、微結晶サイズの評価には走査型電子顕微鏡(SEM)も使用した。
【0099】
【表6】
【0100】
表6は、測定した結晶サイズ、残留ガラス、結晶相、および格子拘束に関して差がないことを示している。これはSEM評価によって確認される。
図3A〜3Cは、5,000倍(
図3A)、10,000倍(
図3B)、および20,000倍(
図3C)の倍率で撮影した比較例FのSEM後方散乱電子像(BEI)顕微鏡写真であり、比較例Fの結晶相集合を示している。
図4A〜4Cは、5,000倍(
図4A)、10,000倍(
図4B)、および20,000倍(
図4C)の倍率で撮影した比較例GのSEM BEI顕微鏡写真であり、比較例Gの結晶相集合を示している。
図5A〜5Cは、5,000倍(
図5A)、10,000倍(
図5B)、および20,000倍(
図5C)の倍率で撮影した実施例のSEM BEI顕微鏡写真であり、実施例Hの結晶相集合を示している。
図3A、4A、および5Aの比較、
図3B、4B、および5Bの比較、ならびに
図3C、4C、および5Cの比較では、構造、粒度、および結晶相に関する実施例F、G、およびHの間の微細構造の差は示されていない。
【0101】
実施例F〜Hの色の特性決定のために、CIELAB色空間座標(たとえば、CIE L
*;CIE a
*;およびCIE b
*;またはCIE L
*、a
*、およびb
*;またはL
*、a
*、およびb
*)の測定も行った。
図6および7に示されるように、実施例F〜Hは同様、場合により同一のCIELAB色空間座標を有する。比較例FはCIE a
*座標が約−0.25である。比較例Gおよび実施例HのそれぞれはCIE a
*座標が約−0.3である。比較例FはCIE b
*座標が約−0.2であり、比較例GはCIE b
*座標が約−0.1であり、実施例HはCIE b
*座標が約−0.05である。
【0102】
実施例I〜L:表1に示される組成の1つを使用して実施例F〜Hと同じ方法で溶融前駆体ガラスを形成することによって、実施例I〜Lのガラス−セラミックサンプルを作製した。次に、溶融前駆体ガラスからガラス前駆体を形成し、次にこれらについて表4に示されるセラミック化サイクルの1つを行った。表7に実施例I〜Lのそれぞれをまとめている。
【0103】
【表7】
【0104】
実施例I〜Lのガラス−セラミックのそれぞれの5つのサンプルについて、各ガラス−セラミックを約390℃の温度のNaNO
3浴中に3.5時間浸漬することによるイオン交換プロセスで化学強化した。次に、各サンプルについて、本明細書に記載のように、Instron Corp.より供給されるモデル5500Rのデジタル制御装置を用いて圧入破壊閾値試験を行い、実施例I〜Lのそれぞれの平均ビッカース圧入亀裂発生閾値を測定した。
図8は、実施例I〜Lのそれぞれのビッカース圧入亀裂発生閾値結果を示している。
図8に示されるように、厚さ1mmの薄い圧延ガラス板に対して速い冷却速度(17℃/分)を含むセラミック化サイクルを行って形成された実施例Lは、比較例IおよびJが示したビッカース圧入亀裂発生閾値の2倍を超えるビッカース圧入亀裂発生閾値を示した。厚さ15mmのガラス板に対して13℃/分の冷却速度を含むセラミック化サイクルを行って形成された比較例Kは、比較例IおよびJが示した値よりも高いビッカース圧入亀裂発生閾値を示したが、比較例Kが示したビッカース圧入亀裂発生閾値は、実施例Lが示した値よりも依然としてかなり小さかった。これらの結果は、より速い冷却速度を含むセラミック化サイクルによって、改善された耐亀裂性が得られることを示している(たとえば、比較例JおよびKは、同一の組成および厚さを有するガラス板を使用したが、異なるビッカース圧入亀裂発生閾値を示した)。
【0105】
実施例M〜O:表1に示される組成の1つを使用して実施例F〜Hと同じ方法で溶融前駆体ガラスを形成することによって、実施例M〜Oのガラス−セラミックサンプルを作製した。比較例Mでは、実施例Fと同じ方法で、溶融前駆体ガラスから棒を形成した。実施例Nの場合は、実施例M(および実施例F)で形成したものと同様の方法で棒を形成したが、セラミック化前に機械加工を行って厚さを1mmにした。実施例Oでは、実施例Hと同じ方法で溶融前駆体ガラスを薄く圧延して1mmのガラス板を得た。次に、比較例Mおよび実施例N〜Oのガラス前駆体に対して、表4に示されるセラミック化サイクル3を行った。表8に実施例M〜Oのそれぞれをまとめている。
【0106】
【表8】
【0107】
したがって、比較例Mならびに実施例NおよびOの間には、ガラス前駆体の形状およびガラス前駆体の形成方法の違いしかなかった。実施例M〜Oのガラス−セラミックのそれぞれを0.8mmまで研磨し、次に各ガラス−セラミックを約390℃の温度のNaNO
3浴中に3.5時間浸漬することによるイオン交換プロセスで化学強化した。次に各ガラス−セラミックについて、本明細書に記載のように、Instron Corp.より供給されるモデルTukon 2500のデジタル制御装置を用いて圧入破壊閾値試験を行って、ビッカース圧入亀裂発生閾値を求めた。
図9は、実施例M〜Oのそれぞれのビッカース圧入亀裂発生閾値結果を示している。
図9に示されるように、薄いガラス板から形成された実施例NおよびOの両方は、比較例Mよりもかなり大きいビッカース圧入亀裂発生閾値を示した。厚さ1mmのガラス板(圧延以外の方法で形成された)に対して同じ短いセラミック化サイクルを行って形成された実施例Nは、改善されたビッカース圧入亀裂発生閾値を示した。
【0108】
実施例F〜Nに示されるように、改善された耐亀裂性を示すガラス−セラミックは、少なくともガラス前駆体の形状、およびガラス前駆体が処理されるセラミック化サイクル(特にセラミック化サイクル終了時の冷却速度)を制御することによって得ることができる。特に厚い板または棒の代わりに薄いまたは薄く圧延した前駆体ガラス板を使用することで、改善された耐亀裂性を示した(たとえば実施例M〜O参照)。さらに、より速い冷却サイクルおよびある実施形態ではより短いセラミック化サイクル、およびある実施形態では、より短い冷却サイクルおよび/またはより速い冷却速度の使用によっても、ガラス−セラミックの耐亀裂性が大きく増加した(たとえば実施例I〜L参照)。より短いセラミック化サイクル(より短い冷却サイクルおよび/またはより速い冷却速度を含む)は、ガラス−セラミックの結晶相集合を変化させず、ガラス−セラミックの色の性質に影響を与えない(たとえば実施例F〜H参照)。
【0109】
実施例P〜R:実施例P〜Rを組成1(表1参照)から作製し、これを工業用炉中で溶融させて溶融ガラスを形成した。溶融ガラスを、同じ寸法の形状に成形した。サンプルは、前述の表4に示されるセラミック化サイクル1の加熱計画を用いて静止炉中でセラミック化したが、サンプルは異なる冷却速度を用いて冷却した。実施例Pは静止炉中約5℃/分の速度で室温まで冷却した。実施例Q〜Rは、最初に炉中で炉速度(すなわち、5℃/分)で950℃まで冷却し、次に高速扇風機急冷によって室温まで冷却した。高速扇風機急冷の推定冷却速度は約300℃〜約500℃/分の範囲内である。
【0110】
理論によって束縛しようとするものではないが、高速冷却プロセスによって、本明細書に開示されるガラス−セラミックのガラスまたは非晶質相中でより高い仮想温度が得られることが認められた。このより高い仮想温度のガラス相は、一般により開放された構造を有し、これは圧入中の高荷重下で緻密化機構を示し、その結果、より大きなビッカース圧入亀裂発生閾値が得られる。理論によって束縛しようとするものではないが、この緻密化機構によって、より高くより大きいビッカース圧入亀裂発生閾値が得られると思われる。仮想温度は、ガラス形成性溶融物の構造の特性決定に使用される。非平衡状態にある物質の仮想温度は、構造が非平衡の物質の構造と類似する平衡(液体)状態の同じ物質の実際の温度として定義される。
【0111】
本明細書に記載の材料、方法、および物品に対する種々の修正形態および変形形態をなすことができる。本明細書に記載の材料、方法、および物品の他の態様は、本明細書を考慮し、本明細書に開示される材料、方法、および物品の実践によって明らかとなるであろう。本明細書および実施例は例と見なされることを意図している。