【実施例】
【0049】
<化合物の抽出方法>
スイカCS種の幼果(結実してから15日後のもの)2kg(湿重量)を粉砕し、この粉砕物にエタノールを5L加え、攪拌しながら常温にてエタノール溶出物を調製した。
【0050】
エタノール溶出物を、ヘキサン、酢酸エチル、ブタノールを用いて順に溶媒分配法により各溶出画分および蒸留水溶解物を調製した。酢酸エチル層をカラムで精製することで複数の分画を得た。そのうちの2つの分画から2つの新規化合物を得た。
【0051】
<物質の特定>
抽出された2つの新規物質は、NMRによって構造を決定した。
【0052】
2−カフェオイル−3−ヒドロキシ−3−メチルブチリック 4’−β−D−グルコピラノシルオキシ−3’−ヒドロキシベンジル エステル(2−Caffeoyl−3−hydroxy−3−methylbutyric 4’−β−D−glucopyranosyloxy−3’−hydroxybenzyl ester):
1H NMR (400MHz,Acetone−d
6):δ7.63(1H,d,J=15.6Hz,H−γ’’),7.16(1H,d,J=1.8Hz,H−2’’),7.12(1H,d,J=8.2Hz,H−5’),7.03(1H,dd,J=8.2 and 1.8Hz,H−6’’),6.91(1H,d,J=2.3Hz,H−2’),6.85(1H,d,J=7.8Hz,H−5’’),6.80(1H,d,J=8.2 and 2.3Hz,H−6’),6.35(1H,d,J=16.0Hz,H−β’’),5.07(2H,s,H−α’),4.85(1H,s,H−2),4.74(1H,d,J=7.3Hz,H−1’’’),3.92−3.84(1H,m,H−6α’’’),3.73−3.68(1H,m,H−6β’’’),3.52−3.43(4H,m,H−2’’’,H−3’’’,H−4’’’, and H−5’’’),1.31(3H,s,H−4),1.30(3H,s,H−5);
13C NMR (100MHz,Acetone−d
6):δ168.5,166.3,148.3,147.9,146.1,145.6,145.3,131.9,126.6,122.0,119.6,118.4,116.0,115.6,114.5,113.8,103.4,79.3,77.2,76.6,73.9,70.5,70.4,66.1,61.7,25.8(2C):HRESITOFMS:m/z 603.1678 [M+Na]
+ (calcd. for C
27H
32O
14Na,603.1690).
以上(1)式の4G3HBEであった。
【0053】
2−カフェオイル−3−ヒドロキシ−3−メチルブチリック 4’−β−D−グルコピラノシルオキシベンジル エステル(2−Caffeoyl−3−hydroxy−3−methylbutyric 4’−β−D−glucopyranosyloxybenzyl ester):
1H NMR (400MHz,Acetone−d
6):δ7.63(1H,d,J=16.0Hz,H−γ’’),7.31(2H,d,J=8.7Hz,H−2’ and H−6’),7.16(1H,d,J=1.8Hz,H−2’’),7.05−7.00(3H,m,H−3’,H−5’, and H−6’’),6.85(1H,d,J=8.3Hz,H−5’’),6.35(1H,d,J=16.0Hz,H−β’’),5.11(2H,s,H−α’),4.94(1H,d,J=7.8Hz,H−1’’’),4.84(1H,s,H−2),3.89−3.84(1H,m,H−6α’’’),3.72−3.65(1H,m,H−6β’’’),3.53−3.42(4H,m,H−2’’’,H−3’’’,H−4’’’, and H−5’’’),1.30(3H,s,H−4),1.28(3H,s,H−5);
13C NMR (100MHz,Acetone−d
6):δ168.5,166.3,157.9,148.3,146.2,145.6,129.8(2C),129.6,126.6,122.0,116.4(2C),115.6,114.5,113.8,100.9,79.3,77.1,76.9,73.8,70.5,70.4,66.0,61.8,25.7(2C);HRESITOFMS:m/z 587.1716 [M+Na]
+ (calcd. for C
27H
32O
13Na,587.1741).
以上(2)式の4GBEであった。
【0054】
<抗酸化作用>
単離した2つの新規化合物について抗酸化能を評価するために、試薬として50%エタノールで溶解した200μMのDPPH(1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl)を調製した。試薬の調製手順は、はじめにエタノールでDPPHを溶解後、同量のMilliQ水を加えた。その後、0.45μmのシリンジフィルターで濾過することで未溶解物を除去した。
【0055】
試料溶液150μLと200μMのDPPHエタノール溶液150μLを96穴プレート中で十分混合し、30分間静置後、520nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Thermo Fisher Scientific, Multiscan −LUX)で測定した。ラジカル消去率は(F1)式により求めた。
【0056】
【数1】
【0057】
なお、ここで、RD(%)は、ラジカル消去率(%)を表す。また、OD
blank520nmは、試薬(DPPH)に各試料溶液を添加していない状態での520nmの吸収であり、OD
sample520nmは、試薬(DPPH)に各試料溶液を添加混合し、30分間静置後の520nmの吸収である。
【0058】
結果を
図2に示す。
図2は、結果を示すグラフとマイクロプレートの状態を撮影した写真である。また
図2のグラフは横軸が試料溶液種およびその濃度(μM)であり、縦軸はラジカル消去率(Radical scavenging activity(%)と記した。)を示す。
【0059】
試料溶液種は、4G3HBEが2−カフェオイル−3−ヒドロキシ−3−メチルブチリック 4’−β−D−グルコピラノシルオキシ−3’−ヒドロキシベンジル エステルであり、4GBEが2−カフェオイル−3−ヒドロキシ−3−メチルブチリック 4’−β−D−グルコピラノシルオキシベンジル エステルである。
【0060】
L−AsAはL−アスコルビン酸である。L−アスコルビン酸(ビタミンC)は、抗酸化作用を有する物質として知られている。
【0061】
4G3HBEおよび4GBEは、抗酸化能の高いビタミンCの半分程度ではあるが,抗酸化活性を有していた。
【0062】
<抗皮膚老化作用>
4G3HBEおよび4GBEの抗皮膚老化作用について、以下の5つの項目で検証を行った。
(1)MMP−1の発現阻害
(2)MMPs産生に寄与するp38MAPおよびSAPK/JNKやNK−κBのシグナル分子の活性化(リン酸化)
(3)そのシグナル経路の下流にあたるAP−1転写活性
(4)細胞内活性酸素種(ROS)の量への影響
(5)カルボニル化タンパク質産生への影響
【0063】
[MMP−1の発現阻害]
皮膚へのUV照射によって皮膚に炎症反応が生じ、その結果コラーゲンを分解するMMP−1(マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現が上方制御され、皮膚老化の現象が発生する。そこで、本発明に係る4G3HBEおよび4GBEのMMP−1の発現阻害能について調べた。
【0064】
ヒト新生児正常皮膚線維芽細胞(NHDF: Normal Human Dermal Fibroblast−Neo、以下単に「NHDF細胞」と呼ぶ。)を1×10
5cells/mLに調整し、12ウェルマルチプレートに1mLずつ播種し、コンフルエントになるまで培養した。その後、供試サンプル(終濃度が50および100μM(各溶媒分画物)(各単離物質))を添加し24時間前培養した。その後、PBSにて二度洗浄し、UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射した。
【0065】
紫外線照射後24時間後の細胞をSDS−PAGEした後に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:polyvinylidene difluoride)に転写し、ウエスタンブロッティングを行い、MMP−1のタンパク質発現を検出した。
【0066】
また、NHDF細胞を上記同様に培養したものに、UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射した細胞から全RNAを抽出し(全RNA液)、High Capacity RNA−to−cDNA Kit(Applied Biosystems, Thermo Ficher Scientific)を用いて表1の組成の逆転写酵素液でcDNAへ逆転写した。表1において、「total RNA solution」は全RNA液である。
【0067】
【表1】
【0068】
そして、リアルタイムPCRで遺伝子(MMP−1とMMP−3)の発現量を調べた。用いたプライマーは表2の通りである。また、リアルタイプPCR反応液の組成は表3の通りである。コントロールにはハウスキーピング遺伝子(GAPDH)を用いた。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
図3に結果を示す。
図3(a)はウエスタンブロッティングの写真であり、
図3(b)は、遺伝子発現率のグラフを示す。
【0072】
図3(a)を参照して、写真上部の2段の欄は、上の欄がUV照射の有無(有りは「+」、無は「−」)を表し、下の欄がサンプル(無は「−」であり、4G3HBEおよび4GBE)を表す。また、写真左方の縦方向には、検出対象(MMP−1およびβ−Actin)を表す。β−Actinは、コントロールとして測定している。
【0073】
4G3HBEおよび4GBEは、MMP−1についての検出影が薄く、明らかにMMP−1の発現を抑制していた。
【0074】
図3(b)は、横軸がUVの照射の有無およびサンプルを表し、縦軸はハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に対する遺伝子(MMP−1とMMP−3の合計)の発現率(Gene/GAPDH)を求めたものである。
【0075】
UV照射によって、MMP−1は、ハウスキーピング遺伝子に対して4.8倍程発現するのに対して、4G3HBEおよび4GBEは、およそ1.8〜2.2倍程度に抑制していた。この事からも、4G3HBEおよび4GBEは、MMP−1の発現を抑制することが確認できた。
【0076】
[シグナル分子の活性化]
UV−B照射後に産生誘導されるMMPsにはp38MAPキナーゼおよびSAPK/JNKや炎症反応に関わるNF−κB活性化が深く関与していることからウェスタンブロット法にてこれらシグナル分子の活性化(リン酸化)について検討した。
【0077】
より具体的には、上記同様に24時間前培養し、PBSにて二度洗浄し、UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射したNHDF細胞を、ウエスタンブロッティングし、p38MAP、SAPK/JNKおよびNF−κBのリン酸化を調べた。
【0078】
結果を
図4に示す。
図4(a)はウエスタンブロッティングのブロット像であり、
図4(b)は、リン酸化の前後の変化をデンシトメトリー解析した結果を示す。データは、平均±標準誤差(n=3)で示した。多群間の比較は,Tukey−Kramer法により検定を行った(p<0.05)。
【0079】
図4(a)を参照して、写真上部の3段は、上からUBの照射の有無(有りは「+」、無は「−」)、4G3HBEの有無(有りは「+」、無は「−」)、4GBEの有無(有りは「+」、無は「−」)を表す。
【0080】
また、結果の写真は「p38」はp38MAP、「JNK:」はSAPK/JNK、「NF−κB」はNF−κBを表す。また、「p−p38」、「p−JNK」、「p−NF−κB」は、それぞれのリン酸化物である。β−Actinはコントロールとして同時に測定した。
【0081】
図4(b)を参照する。グラフの横軸はサンプルの状態を表し、UBの照射の有無(有りは「+」、無は「−」)、4G3HBEの有無(有りは「+」、無は「−」)、4GBEの有無(有りは「+」、無は「−」)を表す。また、縦軸はリン酸化の変化を表すものであり、リン酸化活性の相対比率を表す。
図4(b)を参照すると、UV−Bの照射によってp38MAP、SAPK/JNK、リン酸化NF−κBは高くなったが、4G3HBE若しくは4GBEの存在によってシグナル分子の発現は抑制されていた。
【0082】
以上のことから、4G3HBEおよび4GBEによる処理細胞でp38MAPキナーゼおよびSAPK/JNK,NF−κBの活性化が有意に下方制御された。
【0083】
[AP−1転写活性]
UV−B照射後にp38MAPキナーゼおよびSAPK/JNKや炎症反応に関わるNF−κB活性化が4G3HBEおよび4GBE処理により減弱されることが示唆されたことから、つぎに下流のActivator Protein −1(AP−1)の転写活性についてルシフェラーゼレポーターアッセイにより検討した。
【0084】
NHDF細胞にpGL4.44[Luc2P/AP−1−RE/Hygro]と共にpRL−SV40(ウミシイタケルシフェラーゼ)を導入したのち、4G3HBEおよび4GBEをそれぞれ終濃度が50μMになるように添加し、24時間培養した。培養の後UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射し、その後12時間培養した。
【0085】
この細胞を溶解し、pRL−SV40に組み込まれているウミシイタケルシフェラーゼの発光強度をルミノメーターで測定した。結果を
図5に示す。
【0086】
図5を参照して、横軸はサンプルの状態であり縦軸は、コントロールに対するAP−1転写比である。サンプルの状態は、UBの照射の有無(有りは「+」、無は「−」)、4G3HBEの有無(有りは「+」、無は「−」)、4GBEの有無(有りは「+」、無は「−」)を表す。コントロールは、UBの照射無、4G3HBE無、4GBE無の場合であり、この状態をAP−1転写比率1とした。
【0087】
UV−Bの照射によってAP−1の転写比率は7倍程度に高くなったが、4G3HBE若しくは4GBEの存在によって3〜4倍程度に抑制されていた。すなわち、4G3HBEおよび4GBEによる処理細胞でAP−1の転写活性が有意に低下した。
【0088】
[細胞内活性酸素種(ROS)の量への影響]
<抗酸化作用>の検討で4G3HBEおよび4GBEはビタミンCの能力の半分程度ではあるが、抗酸化活性を確認した。一方、[MMP−1の発現阻害]と[シグナル分子の活性化]より、UV−B照射により発生したROSを4G3HBEおよび4GBE自身の抗酸化能により消去することが、酸化ストレスシグナルの減弱を誘導しているのではないかと考えられた。そこで、細胞内の活性酸素種(ROS)の量をROSのインジケーターであるCM−H
2DCFDAを用いて測定した。
【0089】
NHDF細胞(1.0×10
5 cells/mL)をコンフルエントまで培養した。その後、4G3HBEおよび4GBEを終濃度が50μMとなるように添加し、24時間前培養した。紫外線照射前1時間に細胞透過性の活性酸素インジケーターであるCM−H
2DCFDAを終濃度が10μMとなるように添加した。その後、UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射し,インキュベータ内でさらに1時間培養した。その後、マルチモードマイクロプレートリーダーVarioscan LUXを用いて励起波長495nm、蛍光波長530nmにて蛍光測定を行った。
【0090】
結果を
図6に示す。
図6を参照して、横軸はサンプルの状態であり、UV−Bの照射の有無(有りは「+」、無は「−」)、4G3HBEの有無(有りは「+」、無は「−」)、4GBEの有無(有りは「+」、無は「−」)を表す。縦軸は細胞内ROSレベル(%)を表す。
【0091】
UV−Bが照射されることで、細胞内ROSの量は、1%から1.7%程度に増加した。しかし、4G3HBE若しくは4GBEの存在によって、1.4%程度に抑制されていた。
【0092】
以上のことから、4G3HBE若しくは4GBEは、有意にUV−B照射後の細胞内ROSレベルを低下させた。
【0093】
[カルボニル化タンパク質産生への影響]
細胞や組織で発生する活性酸素種(ROS)は近くに存在するタンパク質を非特異的に酸化する。タンパク質の酸化修飾体として、よく知られているのがカルボニル化タンパク質である。より詳しくは、カルボニル化タンパク質とは、タンパク質中のプロリン、アルギニン、リシン、スレオニンなどのアミノ酸がROSにより酸化修飾を受け、カルボニル誘導体となったタンパク質の総称をいう。カルボニル誘導体は化学的に安定である。
【0094】
肌における黄変、特に加齢による黄変(黄ぐすみ)は、肌悩みの1つに挙げられ、昨今の研究で真皮のタンパク質が過酸化物などによってカルボニル化することが黄変の大きな要因であることが分かってきた。そこで、今回スイカ幼果から単離した4G3HBEおよび4GBEが示す抗酸化能はこの「黄ぐすみ」に対しても有効ではないかと検討した。この黄変も皮膚老化の現象の1つである。
【0095】
より具体的には、NHDF細胞(1.0×10
5 cells/mL)をコンフルエントまで培養し、4G3HBEおよび4GBEを終濃度が50μMおよび100μMとなるように添加し、24時間前培養した。その後、UV−Bを25mJ/cm
2の照度で照射し,Millipore OxyBlot
TM Protein Oxidation Detection Kitに準じて評価した。
【0096】
結果を
図7に示す。
図7(a)はサンプルの状態におけるウエスタンブロッティングのブロット像である。縦軸はkDaを表す。また、
図7(b)はデンシトメトリー解析結果である。
図7(b)を参照して、横軸はサンプルの状態を表し、縦軸はカルボニル化タンパク質のコントロールに対する比率を示す。
【0097】
コントロールをUV−Bの照射無、4G3HBE無、4GBE無とすると、コントロールのカルボニル化タンパク質の生成比が1%であるのに対して、UV−Bが照射されることで、カルボニル化タンパク質はおよそ1.5%に上昇した。一方、4G3HBE若しくは4GBEがあることによって、カルボニル化タンパク質はおよそ1.1%から1.2%程度に抑制されていた。結果、4G3HBEおよび4GBEにより処理した細胞のカルボニル化タンパク量は有意に低下した。
【0098】
以上のように、新規物質4G3HBEおよび4GBEの少なくとも何れかを含む医薬組成物は抗酸化用医薬組成物と言ってよく、新規物質4G3HBEおよび4GBEの少なくとも何れかを含む加工食品組成物は抗酸化用加工食品組成物と言ってもよい。また、新規物質4G3HBEおよび4GBEの少なくとも何れかを含めば、抗皮膚老化用組成物を構成することができる。