【解決手段】医薬組成物は、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とを含有する。該医薬組成物は、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体、並びに酒石酸がヒドロキシプロピルメチルセルロース中に分散された固体分散体であることが好ましい。
前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体、並びに前記酒石酸が、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース中に分散した固体分散体の形態を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体との合計含有量に対する、前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の含有量が、77質量%超である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースとの質量比が、1:1.5〜1:10である、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の医薬組成物は、ソリフェナシンの非晶質体の安定性の点で、未だ十分なものとはいえず、改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、ソリフェナシンの非晶質体の安定性の高い医薬組成物、その医薬組成物の製造方法、及びソリフェナシンの非晶質体の安定性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ソリフェナシンの非晶質体とともに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸を医薬組成物中に含有させることで、ソリフェナシンの非晶質体の安定性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とを含有する、医薬組成物。
【0009】
(2) 前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体、並びに前記酒石酸が、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース中に分散した固体分散体の形態を含む、(1)に記載の医薬組成物。
【0010】
(3) 前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体との合計含有量に対する、前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の含有量が、77質量%超である、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
【0011】
(4) 前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースとの質量比が、1:1.5〜1:10である、(1)から(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0012】
(5) 前記ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、前記酒石酸との質量比が、1:0.2〜1:2である、(1)から(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
(6) 剤形が、錠剤である、(1)から(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
(7) ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体を含有する医薬組成物の製造方法であって、
ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とが、前記ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース並びに前記酒石酸の良溶媒に溶解した溶液を調製する調製工程と、
前記調製工程において調製された溶液を乾燥する乾燥工程と、を有する、製造方法。
【0015】
(8) ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体を含有する医薬組成物中に、
さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び酒石酸を含有させることによって、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の安定性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ソリフェナシンの非晶質体の安定性の高い医薬組成物、その医薬組成物の製造方法、及びソリフェナシンの非晶質体の安定性を向上させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明するが、何ら本発明を限定するものではない。
【0018】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とを含有する。このように、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸を医薬組成物中に含有させることで、高いソリフェナシンの非晶質体の安定性を得ることが可能である。なお、本発明において、ソリフェナシンの非晶質体の安定性とは、非晶質体から結晶体に変換されるのを抑制することで、非晶質体の形態を維持する安定性と、ソリフェナシンの非晶質体の分解(分解の結果、ソリフェナシンの類縁体が生じることも含む)に対する安定性の両方を含む。
【0019】
本発明の医薬組成物は、有効成分として、ソリフェナシンの非晶質体を含んでもよく、ソリフェナシンの塩の非晶質体を含んでもよい。
【0020】
ソリフェナシンの非晶質体の塩は、薬学上に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸との塩、コハク酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸との塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属との塩、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属との塩、エチレンジアミン塩、ジエタノールアミン塩、N−メチルグルカミン塩等の有機塩基との塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。薬学上許容される塩は、有機酸との塩であることが好ましく、有機酸との塩のうち、コハク酸塩を用いることがより好ましい。また、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体は、これらの無水物であってもよく、水和物等の溶媒和物であってもよい。
【0021】
本発明の医薬組成物において、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の含有量は、特に限定されず、例えば、医薬組成物全体の質量に対して、0.01〜90.0質量%の範囲内で適宜変更してもよいが、0.05〜85質量%であることが好ましく、0.05〜80質量%であることがより好ましく、0.05〜50質量%であることがさらに好ましく、0.05〜10質量%であることがより一層好ましく、1.5〜3.5質量%であることが特に好ましい。なお、医薬組成物中のソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の含有量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定する。また、本発明の医薬組成物を錠剤に製剤化し、核粒子と、核粒子を覆う原薬層と、これらを覆うコーティング層を設けて構成する場合、本発明の「医薬組成物全体の質量」とは、「核粒子と原薬層とコーティング層の全てを含む製剤全体の質量」であってよい。
【0022】
なお、本明細書において、「核粒子」とは、錠剤の核となる粒子のことを指し、目的に応じて、適宜公知の成分を用いることができるが、例えば、結晶セルロース、精製白糖球状顆粒、カルメロースナトリウム等を用いることができる。また、「原薬層」とは、「ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とを含有する組成物」からなる層のことを指す。核粒子への原薬層による被覆は、原薬層を構成する成分を溶媒に溶解した後、核粒子に噴霧して乾燥することで行うことができる。また、核粒子と原薬層との間に、核粒子を保護するための保護層を設けてもよい。保護層とは、例えば、核粒子を水等によるゲル化から保護するための層を指し、このような場合には、タルク、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等から保護層を構成することができる。コーティング層とは、原薬層を覆う錠剤の最外層のことを指し、後述にて詳細に説明するコーティング層と同様のものを用いることができるが、例えば、コーティング層を、ソリフェナシンの苦みをマスキングするマスキング層として用いた場合は、コーティング層をエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等により構成することができる。
【0023】
本発明の医薬組成物において、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の他に、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体を含んでいてもよいが、結晶体の量が少なく、非晶質体の量が多い方が好ましい。より具体的には、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体との合計含有量に対する、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の含有量が、77質量%超であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、95質量%以上であることがさらに一層好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、99.5質量%以上であることが最も好ましい。本発明において、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体との割合は、X線回折法により測定する。
【0024】
本発明の医薬組成物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを包含する。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの種類は、特に限定されないが、ソリフェナシンの非晶質体の安定性が向上することから、2質量%水溶液の20℃における粘度が、0.1mPa・s以上であるものが好ましく、0.5mPa・s以上であるものがより好ましく、1.0mPa・s以上であるものがさらに好ましく、2.0mPa・s以上であるものがより一層好ましく、2.4mPa・s以上であるものが特に好ましい。他方、粘度の高いヒドロキシプロピルメチルセルロースは、ソリフェナシンの非晶質体の安定性を損なうおそれがあることから、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液の20℃における粘度は、20.0mPa・s以下であることが好ましく、15.0mPa・s以下であることがより好ましく、10.0mPa・s以下であることがさらに好ましく、5.2mPa・s未満であることがより一層好ましく、3.6mPa・s未満であることが特に好ましい。
【0025】
本発明において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液の20℃における粘度は、日本薬局方(第16改正)の基準に基づいて測定する。
【0026】
本発明の医薬組成物に含まれるヒドロキシプロピルメチルセルロースの1分子あたりのメトキシ基の置換基の数は、特に限定されないが、1分子あたりの全置換基の数に対して、25.0〜33.0%の割合であることが好ましく、26.0〜32.0%であることがより好ましく、28.0〜30.0%であることがさらに好ましい。また、本発明において結合剤として使用されるヒドロキシプロピルメチルセルロースの1分子あたりのヒドロキシプロポキシ基の置換基の数は、特に限定されないが、全置換基の数に対して、4.0〜15.0%の割合であることが好ましく、5.0〜12.0%の割合であることがより好ましく、7.0〜12.0%の割合であることがさらに好ましい。なお、本発明の医薬組成物に含まれるヒドロキシプロピルメチルセルロースの一部として、上記メトキシ基の置換基の数又はヒドロキシプロポキシ基の置換基の数の範囲を満たすヒドロキシプロピルメチルセルロースと、上記メトキシ基の置換基の数又はヒドロキシプロポキシ基の置換基の数の範囲を満たさないヒドロキシプロピルメチルセルロースを併用してもよい。あるいは、上記メトキシ基の置換基の数又はヒドロキシプロポキシ基の置換基の数の範囲は、本発明の医薬組成物に含まれるヒドロキシプロピルメチルセルロースの平均のメトキシ基の置換基の数又は平均のヒドロキシプロポキシ基の置換基の数の範囲であってもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物に含まれるヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量は、特に限定されないが、例えば、医薬組成物全体質量に対して、0.01〜50質量%の範囲内で適宜変更してもよいが、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%であることがより好ましく、3.0〜10.0質量%であることが特に好ましい。本発明の医薬組成物を錠剤に製剤化し、核粒子と原薬層とこれらを覆うコーティング層(例えば、マスキング層)を設けた場合において、上記の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量」の数値範囲は、「医薬組成物全体の質量」に対する量の数値範囲であることが好ましい。なお、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定する。
【0028】
本発明の医薬組成物に含まれるソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとの質量比は、特に限定されないが、1:1〜1:15であることがより好ましく、1:1.5〜1:10であることがさらに好ましく、1:2〜1:8であることがさらに好ましく、1:1.2〜1:6であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の医薬組成物は、酒石酸を包含する。本発明の医薬組成物において、酒石酸の含有量は、特に限定されず、例えば、医薬組成物全体質量に対して、0.01〜50質量%の範囲内で適宜変更してもよいが、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%であることがより好ましく、0.6〜2.3質量%であることが特に好ましい。本発明の医薬組成物を錠剤に製剤化し、核粒子と原薬層とこれらを覆うコーティング層(例えば、マスキング層)を設けた場合において、上記の「酒石酸の含有量」の数値範囲は、「医薬組成物全体の質量」に対する量の数値範囲であることが好ましい。なお、酒石酸の含有量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定する。また、本発明において、酒石酸は、酒石酸の塩も含むものを意味する。酒石酸は、塩を形成せず、イオン化していない状態の遊離酸であることが好ましい。
【0030】
本発明の医薬組成物に含まれる酒石酸は、非晶質体であっても、結晶体であってもよいが、非晶質体を含むことが好ましい。特に、酒石酸の非晶質体と酒石酸の結晶体との合計含有量に対する、酒石酸の非晶質体の含有量が、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがさらに一層好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、99.5質量%以上であることが最も好ましい。本発明において、酒石酸の非晶質体と、酒石酸の結晶体との割合は、X線回折法により測定する。
【0031】
本発明の医薬組成物に含まれるソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体と、酒石酸との質量比は、特に限定されないが、酒石酸が過小又は過大であると、ソリフェナシンの非晶質体の分解に対する安定性を損なう恐れがあることから、
1:0.01〜1:10が挙げられ、1:0.1〜1:5であることがより好ましく、1:0.2〜1:2であることがさらに好ましく、1:0.4〜1:0.7であることがさらに好ましく、1:0.5〜1:0.6であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の医薬組成物は、固体分散体の形態を含むことが好ましい。「固体分散体」とは、不活性担体の中に薬物が単分子状に分散した固体を意味する。本発明における固体分散体は、上述のヒドロキシプロピルメチルセルロースを不活性担体とすることが好ましい。また、薬物であるソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の他、酒石酸が不活性担体中に分散した固体分散体であることが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中に、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体、並びに酒石酸が分散した固体分散体であることが特に好ましい。
【0033】
本発明の医薬組成物は、製剤化されていてもよい。製剤化される場合の剤形としては、例えば、錠剤、液剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられるが、本発明の剤形は、錠剤であることが好ましく、錠剤のうち、特に、口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【0034】
本発明の医薬組成物は、製剤化するために、適宜、添加剤を加えてもよい。そのような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、防腐剤、抗酸化剤、酸味料、香料、人工甘味料、界面活性剤等が挙げられる。賦形剤としては、特に限定されず、例えば、結晶セルロース、リン酸水素カルシウム水和物、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、二酸化ケイ素等を用いることができる。結合剤は、特に限定されず、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤は、特に限定されず、例えば、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム等が挙げられる。滑沢剤は、特に限定されず、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ等が挙げられる。着色剤としては、特に限定されず、例えば、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄等が挙げられる。抗酸化剤としては、特に限定されず、例えば、酢酸トコフェロール、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等が挙げられる。酸味料は、特に限定されず、例えば、リンゴ酸等が挙げられる。香料は、特に限定されず、例えば、メントール、レモン等が挙げられる。人工甘味料としては、特に限定されず、例えば、アスパルテーム、ステビア等が挙げられる。界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の医薬組成物を錠剤とする場合、錠剤本体を被覆するコーティングを備える製剤としてもよい。この場合において、錠剤本体は、上記で述べた錠剤の形態である医薬組成物と同様のものを用いることができる。コーティングを構成する成分としては従来の錠剤のコーティング剤として用いられる成分を用いることができ、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、酸化チタン、タルク、乳糖等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の医薬組成物は、水を含んでもよく、含まなくてもよいが、水の量が少ない方が好ましく、例えば、水の含有量が、医薬組成物全体の質量に対し、1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、水を含まないことがより一層好ましい。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与方法は、経口投与であってもよく、非経口投与(静脈投与等)であってよく、医薬組成物の剤形に応じて、適宜選択することができる。また、投与量は、ソリフェナシンの従来の公知の有効量を、投与方法、疾患の症状、投与対象の年齢等を考慮して適宜選択され、例えば、成人に対して、有効成分(ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体)を、0.01〜100mg/kg/日の量で投与してもよい。
【0038】
<医薬組成物の製造方法>
本発明は、上述した医薬組成物の製造方法を包含する。上述した医薬組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した医薬組成物は、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とが、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース並びに酒石酸の良溶媒に溶解した溶液を調製する調製工程と、調製工程において調製された溶液を乾燥する乾燥工程と、を有する方法によって、製造することができる。かかる製造方法は、上述の医薬組成物の製造方法に適している。以下、かかる製造方法について詳細に説明する。
【0039】
(調製工程)
本発明における調製工程は、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、酒石酸とが、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース並びに酒石酸の良溶媒に溶解した溶液を調製する工程である。
【0040】
調製工程において用いられる良溶媒は、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース並びに酒石酸に対する良溶媒であれば、特に限定されない。ここで、本発明における良溶媒とは、20℃において溶媒1mLに対して、ソリフェナシンの結晶体及び/又はその塩の結晶体を0.03g以上、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.05g以上、並びに酒石酸を0.03g以上溶解可能な溶媒のことを意味し、より具体的には、水、水と有機溶媒(エタノール等)との混合溶媒等が挙げられる。これらのうち、良溶媒は、水を含む溶媒であることが好ましい。
【0041】
本発明における調製工程においては、上述した本発明の医薬組成物に添加する添加剤を必要に応じて良溶媒に加えてもよい。
【0042】
(乾燥工程)
本発明における乾燥工程は、調製工程において調製された溶液を乾燥する工程である。これにより、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体を含有する医薬組成物を得ることができる。また、このようにして得られる医薬組成物中には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと酒石酸も含まれるため、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体は、高い安定性を得ることができる。
【0043】
乾燥方法は、従来の公知の方法により行うことができる。例えば、噴霧して乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。特に、噴霧し乾燥を行う場合、あらかじめ核となる粒子に対して噴霧し乾燥を行ってもよい。このような核となる粒子としては、結晶セルロースや、コーティング剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、タルク等)によりコーティングされたカルメロースナトリウム等が挙げられる。噴霧し乾燥を行う場合には、噴霧し乾燥が可能な公知の噴霧乾燥造粒装置等を用いることができる。
【0044】
乾燥工程後に得られた医薬組成物を、所望の剤形になるように製剤する工程を有してもよい。例えば、錠剤とする場合、乾燥工程後に得られた医薬組成物を、公知の打錠装置(ロータリー打錠機等)により、打錠してもよい。
【0045】
<ソリフェナシンの非晶質体の安定性を向上させる方法>
本発明は、ソリフェナシンの非晶質体の安定性を向上させる方法を包含する。
【0046】
本発明の方法は、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体を含有する医薬組成物中に、さらに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び酒石酸を含有させることによって、ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体の安定性を向上させる方法である。
【0047】
ソリフェナシンの非晶質体及び/又はその塩の非晶質体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酒石酸は、上述の本発明の医薬組成物におけるものと同様のものを例示することができる。
【実施例】
【0048】
<非晶質体の安定性評価1>
(参考例1)
二酸化ケイ素(アドソリダー(登録商標)101)20gを分散させた水270mlに、コハク酸ソリフェナシンを10g溶解し、噴霧し乾燥を行う事で、参考例1に係る医薬組成物を調製した。
【0049】
(参考例2)
コハク酸ソリフェナシンを1.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))1.0gを30mlの水に溶解し、シャーレに入れ乾燥を行う事で、参考例2に係る医薬組成物を調製した。
【0050】
(参考例3)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3に変更した点以外は、参考例2と同様の手順により、参考例3に係る医薬組成物を調製した。
【0051】
(参考例4)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:5に変更した点以外は、参考例2と同様の手順により、参考例4に係る医薬組成物を調製した。
【0052】
(評価)
上記の参考例1〜4に係る医薬組成物について、安定性の評価を行った。まず、参考例1〜4に係る医薬組成物をそれぞれチャック付きアルミ袋に入れ、60℃、75%RH条件下で14日保存した。保存後、参考例1〜4の医薬組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの結晶状態と、主分解物の量を評価した。保存後、参考例1〜4におけるコハク酸ソリフェナシンの結晶状態は、非晶質体の形態を維持しているか否かという観点で、X線回折により評価し、ソリフェナシンに特異的なピークが確認された場合を、一部結晶体に変化したものと評価し、ハローピークの場合を、非晶質状態を維持したものと評価した。「主分解物の量」とは、保存開始時のコハク酸ソリフェナシンの非晶質体の量に対する、保存後のコハク酸ソリフェナシンの非晶質体の主分解物の量の割合(質量%)を意味する。「主分解物」とは、コハク酸ソリフェナシンの非晶質体の分解物のうち、最も分解量の多い分解物を意味する。後述する表1、表2における「主分解物」の量の値は、保存開始時の各医薬組成物に含まれる「主分解物」の量を差し引いて計算した数値である。各コハク酸ソリフェナシンの非晶質体の主分解物の量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。その結果を、以下の表1、2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2に示すように、参考例1の医薬組成物は、コハク酸ソリフェナシンの非晶質体の形態を維持できるものの、主分解物の量が多くなってしまい、分解に対する安定性の点では、良好でなかった。他方、参考例2〜4の医薬組成物は、いずれも非晶質体の形態を維持しており、しかも、主分解物の量がいずれも低い値であった。このことから、コハク酸ソリフェナシンとともに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有させることで、コハク酸ソリフェナシンは、非晶質体の形態を維持する安定性と、分解に対する安定性のいずれもが向上することがわかった。特に、コハク酸ソリフェナシンの含有量とヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3、1:5と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの量を多くすることで、より一層非晶質体の分解に対する安定性が向上することがわかった。
【0056】
<非晶質体の安定性評価2>
(実施例1)
コハク酸ソリフェナシンを1.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))1.0gと、酒石酸1.0gを30mlの水に溶解した後、シャーレに入れ、減圧乾燥させることで、実施例1に係る医薬組成物を調製した。
【0057】
(実施例2)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3に変更した点以外は、実施例1と同様の手順により、実施例2に係る医薬組成物を調製した。
【0058】
(実施例3)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:5に変更した点以外は、実施例1と同様の手順により、実施例3に係る医薬組成物を調製した。
【0059】
(比較例1)
酒石酸の代わりに、コハク酸を用いた点以外は、実施例1と同様の手順により、比較例1に係る医薬組成物を調製した。
【0060】
(比較例2)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3に変更した点以外は、比較例1と同様の手順により、比較例2に係る医薬組成物を調製した。
【0061】
(比較例3)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:5に変更した点以外は、比較例1と同様の手順により、比較例3に係る医薬組成物を調製した。
【0062】
(比較例4)
酒石酸の代わりに、クエン酸を用いた点以外は、実施例1と同様の手順により、比較例1に係る医薬組成物を調製した。
【0063】
(比較例5)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3に変更した点以外は、比較例4と同様の手順により、比較例5に係る医薬組成物を調製した。
【0064】
(比較例6)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:5に変更した点以外は、比較例4と同様の手順により、比較例6に係る医薬組成物を調製した。
【0065】
(比較例7)
酒石酸の代わりに、ブチルヒドロキシトルエンを用いた点以外は、実施例1と同様の手順により、比較例1に係る医薬組成物を調製した。
【0066】
(比較例8)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:3に変更した点以外は、比較例7と同様の手順により、比較例8に係る医薬組成物を調製した。
【0067】
(比較例9)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))の含有量との質量比を1:5に変更した点以外は、比較例7と同様の手順により、比較例9に係る医薬組成物を調製した。
【0068】
(評価)
上記の実施例1〜3及び比較例1〜9に係る医薬組成物について、安定性の評価を行った。まず、実施例1〜3及び比較例1〜9に係る医薬組成物をそれぞれチャック付きアルミ袋に入れて密封し、60℃、75%RH条件下で14日保存した。保存後、実施例1〜3及び比較例1〜9の医薬組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの結晶状態と、主分解物の量と、総類縁体の量を評価した。なお、総類縁体の量は、保存開始時のコハク酸ソリフェナシンの非晶質体の量に対する、保存後のコハク酸ソリフェナシンの総類縁体の量の割合(質量%)を意味する。後述する表3、表4における「主分解物」の量の値は、保存開始時の各医薬組成物に含まれる「主分解物」の量を差し引いて計算した数値である。また、表3、表4における「総類縁体」の量の値は、保存開始時の各医薬組成物に含まれる「総類縁体」の量を差し引いて計算した数値である。結晶状態と主分解物の量の評価は、上記「非晶質体の安定性評価1」における方法と同様の方法で行った。また、総類縁体の量は、それぞれの医薬組成物について、保存の開始時と、保存後のそれぞれについて、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。その結果、実施例1〜3及び比較例1〜9の医薬組成物において、コハク酸ソリフェナシンが非晶質体の形態を維持していた。また、主分解物の量の評価結果を表3に、総類縁体の量の評価結果を表4に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
表3、4に示すように、実施例1〜3の医薬組成物は、いずれも、比較例1〜9の医薬組成物及び上述の参考例2〜4の医薬組成物より、主分解物の量及び総類縁体の量が少なかった。この結果から、ソリフェナシンの非晶質体に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに加えて、酒石酸を加える事で、非晶質体の形態の安定性を維持できるのみでなく、分解及び総類縁体の増加に対する安定性が向上することがわかった。特に、コハク酸、クエン酸、又はブチルヒドロキシトルエンよりも、酒石酸の方が、分解及び総類縁体の増加に対する安定性を高く向上できることがわかった。
【0072】
<非晶質体の安定性評価3>
(実施例4)
コハク酸ソリフェナシンの結晶体を15g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5E(登録商標))30gと、酒石酸1.5g(コハク酸ソリフェナシンの結晶体の含有量に対して、10質量%となる量)を500mlの水に溶解した後、結晶セルロース(粒状)150gに噴霧し乾燥させて、実施例4に係る医薬組成物を調製した。
【0073】
(実施例5)
配合時のコハク酸ソリフェナシンの含有量に対する酒石酸の含有量を50質量%に変更した点以外は、実施例4と同様の手順により、実施例5に係る医薬組成物を調製した。
【0074】
(評価)
上記の実施例4、5に係る医薬組成物について、安定性の評価を行った。まず、実施例4、5に係る医薬組成物をそれぞれチャック付きアルミ袋に入れて密封し、60℃、75%RH条件下で14日保存した。保存後、実施例4、5の医薬組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの結晶状態と、主分解物の量と、総類縁体の量を評価した。結晶状態と主分解物の量の評価は、上記「非晶質体の安定性評価1」における方法と同様の方法で行った。また、総類縁体の量の評価は、上記「非晶質体の安定性評価2」における方法と同様の方法で行った。後述する表5における「主分解物」の量の値は、保存開始時の各医薬組成物に含まれる「主分解物」の量を差し引いて計算した数値である。また、表5における「総類縁体」の量の値は、保存開始時の各医薬組成物に含まれる「総類縁体」の量を差し引いて計算した数値である。コハク酸ソリフェナシンの結晶状態の評価結果については、実施例4、5の医薬組成物において、コハク酸ソリフェナシンが非晶質体の形態を維持していた。また、主分解物の量の評価結果と、総類縁体の量の評価結果を、以下の表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5に示すように、実施例4より、実施例5の医薬組成物の方が、主分解物の量及び総類縁体の量が少なかった。この結果から、ソリフェナシンの非晶質体に対する、酒石酸の量が、10質量%より50質量%の方が、分解及び総類縁体の増加に対する安定性が向上することがわかった。