(54)【発明の名称】高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属、高エネルギー密度ビーム溶接継手、溶接構造体、鋼管、高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材及びその製造方法
【解決手段】鋼材の被溶接部に高エネルギー密度ビームを照射することによって形成された高エネルギー密度ビーム溶接継手における溶接金属であって、C:0.02〜0.12%、Si:0.20〜0.60%、Mn:0.8〜2.3%、S:0.0035〜0.0080%、O:0.0003〜0.0020%を含有し、更に、P、Ti、Al、Ca、Nをそれぞれ制限し、残部が鉄および不純物からなり、MnS生成指標値が0.175超であり、焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であり、溶接金属中に円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
前記酸硫化物粒子のうち、下記の式(6)で計算される[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属。
[MnS]*=[S]/32×87 … (3)
[MnO]*={[Mn]−([S]×55/32)}/55×71 … (4)
[SiO2]*=[Si]/28×60 … (5)
[MnS]=[MnS]*/([MnS]*+[MnO]*+[SiO2]*)×100 … (6)
ここで、式(3)〜式(5)における[S]、[Mn]、[Si]はそれぞれ、酸硫化物粒子中の各元素の含有率(質量%)であり、[MnS]*、[MnO]*、[SiO2]*はそれぞれ、式(3)〜(5)により求められた酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO2の化学量論比率(質量%)であり、式(6)における[MnS]は、酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO2の合計量に対するMnS割合である。
前記酸硫化物粒子のうち、下記の式(12)で計算される[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手。
[MnS]*=[S]/32×87 … (9)
[MnO]*={[Mn]−([S]×55/32)}/55×71 … (10)
[SiO2]*=[Si]/28×60 … (11)
[MnS]=[MnS]*/([MnS]*+[MnO]*+[SiO2]*)×100 … (12)
ここで、式(9)〜式(11)における[S]、[Mn]、[Si]はそれぞれ、酸硫化物粒子中の各元素の含有率(質量%)であり、[MnS]*、[MnO]*、[SiO2]*はそれぞれ、式(9)〜(11)により求められた酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO2の化学量論比率(質量%)であり、式(12)における[MnS]は、酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO2の合計量に対するMnS割合である。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム溶接、レーザ溶接などの高エネルギー密度ビーム溶接は、一般的なアーク溶接に比べて溶接速度が速く、溶接後の変形矯正が不要であることから、高能率な溶接方法として知られている。近年では、巨大な真空チャンバーが不要な局所排気型の減圧電子ビーム溶接機や従来よりも大出力で溶け込み深さが大幅に向上したレーザ溶接機など、従来機の弱点が解消されつつあり、さらなる高能率化が実現している。これらの高エネルギー密度ビーム溶接は基本的に全自動で制御されるためアーク溶接に比べて熟練工が不要であり、溶接変形が少なく溶接後の矯正作業が不要となることなどの利点もあり、近年の製造現場の省人化、全自動化のニーズの高まりを背景に厚板の実施工への本格的な普及拡大が期待されている。
【0003】
電子ビーム溶接法は、電子ビームの持つエネルギーにより、溶接部の母材を一旦溶融し、凝固させて溶接する方法であり、通常、溶接部の成分組成は母材とほぼ同等である。そのため、サブマージアーク溶接等の大入熱アーク溶接法のように、溶接ワイヤー等により、溶融金属部の硬さや、シャルピー衝撃値などの靱性を調整することは難しい。
【0004】
電子ビーム溶接継手の靱性を向上させるために、溶融金属部(WM)の硬さや清浄度を適正化する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、参照)。特許文献1には、溶融金属部の硬さを、母材の硬さの110%超220%以下とし、かつ、溶融金属部の幅が母材部の板厚の20%以下とすることが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、溶接金属中のOの量を20ppm以上とし、粒径2.0μm以上の酸化物の量を10個/mm
2以下とすることが提案されている。
【0006】
特許文献3には、WMの炭素等量の一種であるCeEBを適正化し、鋼板の板厚中心部においてTiを10%以上含有する円相当径が0.05μm以上0.5μm未満の酸化物の数が1×10
3〜1×10
5個/mm
2を含有し、WMと溶接熱影響部(HAZ:Heat−Affected Zone)の破壊靱性値のバランスを最適化することが提案されている。
【0007】
特許文献4では、鋼材の化学組成なかでもAl含有量を調整すると共に、溶接時のシールドガス組成を調整することで、レーザ溶接金属中の酸素含有量やAl/O比を制御し、その結果、レーザ溶接金属組織をアシキュラーフェライトの発達した組織とすることで、レーザ溶接金属部の靱性向上を図る技術が開示されている。
【0008】
これらの鋼材の製造にあたっては、Tiなどの高価なマイクロアロイ元素の添加や、製造工程で高度な脱酸制御技術や、溶接時のシールドガスを最適化するなどの高度な鋼板製造技術ならびに溶接施工技術を有していることが前提となるが、今後、高エネルギー密度ビーム溶接法がアーク溶接法並みに普及していくためには、安価でかつ特別な元素を含まない一般的な化学成分で、一般的な製造技術で製造可能で、かつ溶接継手の靱性が確保可能な鋼材が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属、高エネルギー密度ビーム溶接継手を提供することを課題とする。また、本発明は、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手を備えた溶接構造体および鋼管を提供することを課題とする。更に、本発明は、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手を実現可能な、高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
【0012】
[1] 鋼材の被溶接部に高エネルギー密度ビームを照射することによって形成された高エネルギー密度ビーム溶接継手における溶接金属であって、
質量%で、
C:0.02〜0.12%、
Si:0.20〜0.60%、
Mn:0.80〜2.30%、
S:0.0035〜0.0080%、
O:0.0003〜0.0020%を含有し、
更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限し、
残部が鉄および不純物からなり、
下記(1)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、
下記(2)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であり、
前記溶接金属中に円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在することを特徴とする高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属。
MnS生成指標値=87.5[S]−[Si]/[Mn] … (1)
Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 … (2)
ただし、式(1)及び式(2)における[S]、[Si]、[Mn]、[C]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]はそれぞれ、前記溶接金属中の各元素の質量%であり、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
[2] さらに、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.02%以下、
V:0.1%以下、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属。
[3] 前記酸硫化物粒子のうち、下記の式(6)で計算される[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属。
[MnS]
*=[S]/32×87 … (3)
[MnO]
*={[Mn]−([S]×55/32)}/55×71 … (4)
[SiO
2]
*=[Si]/28×60 … (5)
[MnS]=[MnS]
*/([MnS]
*+[MnO]
*+[SiO
2]
*)×100 … (6)
ここで、式(3)〜式(5)における[S]、[Mn]、[Si]はそれぞれ、酸硫化物粒子中の各元素の含有率(質量%)であり、[MnS]
*、[MnO]
*、[SiO
2]
*はそれぞれ、式(3)〜(5)により求められた酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の化学量論比率(質量%)であり、式(6)における[MnS]は、酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の合計量に対するMnS割合である。
[4] 鋼材と、前記鋼材の被溶接部に高エネルギー密度ビームを照射することによって形成された溶接金属と、を有する高エネルギー密度ビーム溶接継手であって、
前記鋼材が、質量%で、
C:0.02〜0.12%、
Si:0.20〜0.60%、
Mn:1.00〜2.50%、
S:0.0035〜0.0080%、
O:0.0010〜0.0035%を含有し、
更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限し、
残部が鉄及び不純物からなり、
下記(7)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、
下記(8)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であり、
前記溶接金属の組成が、質量%で、
C:0.02〜0.12%、
Si:0.20〜0.60%、
Mn:0.80〜2.30%、
S:0.0035〜0.0080%、
O:0.0003〜0.0020%を含有し、
更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限し、
残部が鉄および不純物からなり、
前記溶接金属中に、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在することを特徴とする高エネルギー密度ビーム溶接継手。
MnS生成指標値=87.5[S]−[Si]/[Mn] … (7)
Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 … (8)
ただし、式(7)及び式(8)における[S]、[Si]、[Mn]、[C]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]はそれぞれ、前記鋼材中の各元素の質量%であり、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
[5] さらに、前記鋼材及び前記溶接金属がそれぞれ、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.02%以下、
V:0.1%以下、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[4]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手。
[6] 前記酸硫化物粒子のうち、下記の式(12)で計算される[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上であることを特徴とする[4]または[5]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手。
[MnS]
*=[S]/32×87 … (9)
[MnO]
*={[Mn]−([S]×55/32)}/55×71 … (10)
[SiO
2]
*=[Si]/28×60 … (11)
[MnS]=[MnS]
*/([MnS]
*+[MnO]
*+[SiO
2]
*)×100 … (12)
ここで、式(9)〜式(11)における[S]、[Mn]、[Si]はそれぞれ、酸硫化物粒子中の各元素の含有率(質量%)であり、[MnS]
*、[MnO]
*、[SiO
2]
*はそれぞれ、式(9)〜(11)により求められた酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の化学量論比率(質量%)であり、式(12)における[MnS]は、酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の合計量に対するMnS割合である。
[7] 前記鋼材の厚さが30〜100mmであることを特徴とする[4]乃至[6]の何れか一項に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手。
[8] [4]乃至[7]の何れか一項に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手を備えた溶接構造体。
[9] [4]乃至[7]の何れか一項に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手を備えた鋼管。
[10] 前記鋼管が、板厚30〜100mm、直径5〜10m、長さ2〜5mの鋼管であることを特徴とする[9]に記載の鋼管。
[11] 質量%で、
C:0.02〜0.12%、
Si:0.20〜0.60%、
Mn:1.00〜2.50%、
S:0.0035〜0.0080%、
O:0.0010〜0.0035%を含有し、
更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限し、
残部が鉄及び不純物からなり、
下記(13)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、
下記(14)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であることを特徴とする高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材。
MnS生成指標値=87.5[S]−[Si]/[Mn] … (13)
Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14 … (14)
ただし、式(13)及び式(14)における[S]、[Si]、[Mn]、[C]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]はそれぞれ、前記鋼材中の各元素の質量%であり、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
[12] さらに、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Nb:0.02%以下、
V:0.1%以下、
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[11]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材。
[13] 厚さが30〜100mmであることを特徴とする[11]または[12]に記載の高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材。
[14] [11]または[12]に記載の化学成分を有する鋼片を鋳造するとともに、鋼片中心温度が400℃以下になるまで冷却する鋳造工程と、
鋼片中心温度が900〜1250℃になるように前記鋼片を加熱する加熱工程と、
前記加熱後の鋼片を熱間加工して鋼材にする工程と、を備えることを特徴とする高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手の溶接金属、高エネルギー密度ビーム溶接継手を提供できる。また、本発明によれば、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手を備えた溶接構造体および鋼管を提供できる。更に、本発明によれば、靱性に優れた高エネルギー密度ビーム溶接継手を実現可能な、高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る高エネルギー密度ビーム溶接継手及びその溶接金属は、例えば、環境温度または設計温度が−10℃となるような寒冷条件に曝される、風力発電鉄塔、橋梁、船舶、海洋構造物、圧力容器、ラインパイプなどの溶接構造物の重要部位に用いられる鋼材の溶接継手を対象とすることができるが、本実施形態の溶接継手及び溶接金属は、これらの用途に限定されるものではない。また、本実施形態に係る鋼材は、YP(降伏点)が約325MPa〜550MPa、TS(引張強さ)が約400MPa〜720MPaであることが好ましい。また。高エネルギー密度溶接を行った際の溶接金属部(WM)および熱影響部(HAZ)において、−10℃のシャルピー衝撃吸収エネルギー値が平均70J以上になることが好ましい。
【0015】
上記の用途では、鋼材を突き合わせて溶接した後、溶接部に熱処理を施すことなく、そのまま使用するので、溶融金属部(WM)及び熱影響部(HAZ)には、優れた靭性が要求される。電子ビーム溶接の場合、溶接ワイヤーを使用しないので、母材の化学組成を調整して、溶融金属部及び熱影響部の靭性を制御することになる。
【0016】
本発明者らは、種々の鋼板の電子ビーム溶接継手を作成し、溶接部の靱性を調査した。その結果、鋼板および溶接金属のS、Si、Mnの含有量を適正範囲に制御することにより、AlやTiが不要で、溶接継手が高靱化することを見いだした。溶接継手の高靱化は、溶接後の溶接金属中に、酸硫化物粒子が生成し、その酸硫化物粒子を核として微細な粒内フェライトが生成することにより、溶接金属の結晶粒径が極めて微細になることに起因している。
【0017】
また、酸硫化物粒子中にMnSが形成することで、酸硫化物の周囲のMn濃度が低下し(Mn欠乏層が形成し)、酸硫化物の周囲の変態温度が上昇したことにより、粒内フェライトがより生成しやすくなり、粒界からの粗大なフェライトやベイナイトの形成が更に抑制することができると考えられる。
【0018】
酸硫化物粒子の形成は、S、Si、Mnの含有量の制御が極めて重要であり、これらの元素の含有量を適正にすることにより、酸硫化物の個数密度が増加する。なお、溶接金属における粒内フェライト核としては、従来からTi含有酸化物が広く知られ、工業的に用いられているが、本発明ではTiを含まない成分系であることが特徴である。Ti含有酸化物が適正に生成するためには、Ti含有量のみならず、Al、N、Oの含有量の制御が必要となるが、本発明においてはTiやAlの含有は不要であり、N量、O量も一般的な精錬技術により制御できる範囲で構わない。
【0019】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0020】
本発明の実施形態の高エネルギー密度ビーム溶接継手(以下、溶接継手という)の溶接金属は、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.20〜0.60%、Mn:0.80〜2.30%、S:0.0035〜0.0080%、O:0.0003〜0.0020%を含有し、更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限し、残部が鉄および不純物からなり、下記(A)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、下記(B)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であり、溶接金属中に円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在する。
【0021】
また、本発明の実施形態の溶接継手は、鋼材と、鋼材の被溶接部に高エネルギー密度ビームを照射することによって形成された溶接金属と、を有し、鋼材が、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.20〜0.60%、Mn:1.00〜2.50%、S:0.0035〜0.0080%、O:0.0010〜0.0035%を含有し、更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下、にそれぞれ制限し、残部が鉄及び不純物からなり、下記(A)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、下記(B)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60であり、溶接金属の組成が、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.20〜0.60%、Mn:0.80〜2.30%、S:0.0035〜0.0080%、O:0.0003〜0.0020%を含有し、更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、、N:0.0060%以下、にそれぞれ制限し、残部が鉄および不純物からなり、溶接金属中に円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在する。
【0022】
更に、本発明の実施形態の高エネルギー密度ビーム溶接継手用鋼材(以下、鋼材という)は、質量%で、C:0.02〜0.12%、Si:0.20〜0.60%、Mn:1.00〜2.50%、S:0.0035〜0.0080%、O:0.0010〜0.0035%を含有し、更に、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下、にそれぞれ制限し、残部が鉄及び不純物からなり、下記(A)式で定義するMnS生成指標値が0.175超であり、下記(B)式で定義する焼入れ性指標Ceqが0.35〜0.60である。
【0023】
MnS生成指標値=87.5[S]−[Si]/[Mn] … (A)
Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 … (B)
【0024】
ただし、式(A)及び式(B)における[S]、[Si]、[Mn]、[C]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]はそれぞれ、鋼中の各元素の質量%であり、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
【0025】
更に、本発明の実施形態の鋼材の製造方法は、先に記載の化学成分を有する鋼片を鋳造するとともに、鋼片中心温度が400℃以下になるまで冷却する鋳造工程と、鋼片中心温度が900〜1250℃になるように鋼片を加熱する加熱工程と、加熱後の鋼片を熱間加工して鋼材にする工程と、を備える。
【0026】
まず、本実施形態に係る鋼材及び溶接金属の化学成分について説明する。なお、以下の化学成分の説明では、質量%を単に%と表記する。
【0027】
(鋼材及び溶接金属のC:0.02〜0.12%)
Cは、焼入れ性を高めて高強度化に寄与する元素である。そのため、本実施形態では鋼材及び溶接金属のC量を0.02%以上とする。しかし、C量の過度な増加はMAやセメンタイトの増加を招き靱性を低下させるため、その上限は0.12%以下である。
【0028】
(鋼材及び溶接金属のSi:0.20〜0.60%)
Siは、本発明における重要な元素の一つである。鋼材及び溶接金属がSiを0.20%以上含有することにより、溶接金属において酸硫化物へのMnS生成が促進される。これにより酸硫化物からの粒内フェライト生成が促進され、溶接金属の金属組織が微細化、靱性が向上する。しかし、過剰にSiを含有すると酸硫化物の元となる融体中のS量が低下し、酸硫化物へのMnS生成が抑制される。加えて、Siは脆化相であるMAの生成を促進させるため、鋼材及び溶接金属がSiを0.60%超含有すると、金属組織の微細化による靱性改善効果を上回り、靱性が大幅に低下する。そのため鋼材及び溶接金属のSi量の上限は0.60%以下である。
【0029】
(鋼材のMn:1.00〜2.50%)
(溶接金属のMn:0.80〜2.30%)
Mnは、本発明における重要な元素の一つである。溶接金属がMnを0.80%以上含有することにより、溶接金属において酸硫化物へのMnS生成が促進される。鋼材の靭性、強度、及び、焼入れ性、さらに、溶接金属の焼入れ性を確保するため鋼材にMnを含有させる。また、電子ビーム溶接時、Mnが溶接金属から蒸発して、一部失われる。したがって、本実施形態では溶接金属のMn量を0.80%以上とし、鋼材のMn量を1.00%以上とする。しかし、Mn量の過度の増加は酸硫化物中のSi量を低下させ、酸硫化物へのMnS形成を阻害する。また脆化相であるMAを増加させ、靱性を著しく劣化させるため、溶接金属におけるMnの上限は2.30%以下とし、鋼材のMn量の上限は2.50%以下とする。
【0030】
(鋼材及び溶接金属のS:0.0035〜0.0080%)
Sは、本発明における重要な元素の一つである。鋼材及び溶接金属にSを0.0035%以上含有させることにより、溶接金属において酸硫化物へのMnS生成が促進されるとともに、粒内フェライト生成に有効な酸硫化物の個数密度が増大する。しかし、多量に含有すると酸硫化物が粗大化して、適正な個数密度が確保できなくなり、酸硫化物を核とした粒内フェライトによる金属組織の微細化が困難となる。また粗大な酸硫化物は破壊の起点となるため、靱性を低下させる。したがって、S量は、靱性を安定的に確保するために0.0080%以下に制限する。
【0031】
(鋼材のO:0.0010〜0.0035%)
(溶接金属のO:0.0003〜0.0020%)
Oは、溶接金属において粒内フェライトの生成を促進する酸硫化物の形成に不可欠であり、溶接金属中に0.0003%以上必要である。一方、Oを多量に含有すると酸硫化物が粗大化して、適正な個数密度が確保できなくなり、酸硫化物を核とした粒内フェライトによる金属組織の微細化が困難となる。また粗大な酸硫化物は破壊の起点となるため、靱性を低下させる。したがって、靱性を安定的に確保するために鋼材のO量は0.0035%以下に制限する。また、本発明の実施形態に従って一般的な条件で電子ビーム溶接を行うと、その過程において、溶接金属では、鋼材のO量の内、約半分程度が失われる場合が多い。すなわち、鋼材のO量が0.0035%以下のとき、溶接後の継手においては、溶接金属中のO量が0.0020%以下となる場合が多いので、溶接金属のO量の上限は0.0020%以下とする。同様に、溶接金属の形成時にOの不足を予防するために、鋼材のO量の下限は0.0010%以上とする。
【0032】
また、本実施形態の鋼材及び溶接金属では、P:0.015%以下、Ti:0.005%以下、Al:0.004%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.0060%以下にそれぞれ制限する。これらは0%であってもよい。
【0033】
(P:0.015%以下)
Pは、靭性に有害な不純物であり、靱性を安定的に確保するために0.015%以下とする。P量の下限は特に規定しないが、製造コストの観点からP量は0.001%以上が好ましい。
【0034】
(Ti:0.005%以下)
Tiは、本発明において含有させなくてもよい。Tiの含有は合金コストの上昇を招き経済性が低下するため、0.005%以下とする。
【0035】
(Al:0.004%以下)
Alは、強力な脱酸元素であるため、Alを過剰に含有すると、酸硫化物がAl系酸化物主体に変化することにより、酸硫化物へのMnS生成が著しく減少するため、粒内フェライトが生成せず、靱性が低下する。したがって、Al量は0.004%以下に制限する。
【0036】
(Ca:0.0005%以下)
Caは、強力な脱酸、脱硫能力を有しており、Caが含有するとCa酸硫化物を形成するため、粒内フェライト生成を促進する酸硫化物の生成を阻害する。このため、Ca量は少ないほうが望ましく、製鋼工程での不可避的な混入を考慮して0.0005%以下とする。Ca量は0%であってもよい。
【0037】
(N:0.0060%以下)
Nは、不純物であり、靭性を低下させる粗大な窒化物の形成を防止するため、鋼材及び溶接金属のN量を0.0060%以下に制限する。N量は少ないほうが望ましく0%であってもよいが、製造コストの観点から、N量の下限は0.0010%以上であってもよい。
【0038】
(MnS生成指標値:0.175超)
MnS生成指標値は、鋼中におけるMnSの生成し易さを表す指標であり、この値が大きいほど、溶接時に酸硫化物粒子が形成する。従って鋼材中のMnS生成指標値は0.175超とする。MnS生成指標値は、下記式(C)によって計算される。溶接金属においても、MnS生成指標値は0.175超であるとよい。MnS生成指標値の上限は特に限定する必要はないが、例えば、0.699以下であってもよい。
【0039】
MnS生成指標値=87.5[S]−[Si]/[Mn] … (C)
【0040】
ただし、式(C)における[S]、[Si]、[Mn]はそれぞれ、鋼材中または溶接金属中の各元素の質量%である。
【0041】
(炭素当量Ceq:0.35〜0.60)
炭素当量Ceqは、鋼材の強度及び継手の溶接金属の結晶粒径に大きな影響を及ぼす。溶接金属での焼入れ性を確保し、結晶粒を細粒化させるため、鋼材及び溶接金属の炭素当量Ceqを0.35%以上とする。一方、炭素当量Ceqが0.60%を超えると、溶接金属がマルテンサイトとなり、靱性が低下するので、0.60%以下とする。炭素当量Ceqは、合金元素の含有量によって上記式(D)で計算される。
【0042】
Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 … (D)
【0043】
ただし、式(D)における[C]、[Mn]、[Si]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]はそれぞれ、鋼材中または溶接金属中の各元素の質量%であり、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
【0044】
本実施形態の鋼材及び溶接金属には、鋼材及び溶接金属の強度や靭性を向上させるため、必要に応じて、下記に示す選択元素Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Vの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0045】
(Cu:0.50%以下)
Cuは、スクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。またCuは、溶接性及び溶接部の靱性に悪影響を及ぼすことなく鋼材の強度、靱性を向上させるため、0.10%以上を含有させてもよい。ただし、含有量が過剰になると鋼材の熱間加工時にCuクラックを発生し製造が困難となる場合や、HAZ靱性、溶接性の劣化を招く場合があり、合金コストの上昇を招き経済性が低下するためCu量を0.50%以下とする。
【0046】
(Ni:0.50%以下)
Niは、焼入れ性を高めて高強度化に寄与し、同時に、溶接部の靱性を高める元素である。またNiは、溶接性及び溶接部の靱性に悪影響を及ぼすことなく鋼材の強度、靱性を向上させるため、0.10%以上を含有させてもよい。下限は0%であってもよい。しかし、Ni量の過度な増加は合金コストの上昇を招き経済性が低下するため、その上限は0.50%以下である。
【0047】
(Cr:0.50%以下)
Crは、スクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。またCrは、鋼材の強度を向上させるため、0.10%以上を含有させてもよい。ただし、含有量が過剰になると溶接部の靱性、溶接性を劣化させる場合があるため、Cr量を0.50%以下とする。
【0048】
(Mo:0.50%以下)
Moは、スクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。またMoは、鋼材の強度、靱性をともに向上させるため、0.10%以上を含有させてもよい。ただし、含有量が過剰になると溶接部の靱性、溶接性の劣化を招く場合があり、合金コストの上昇を招き経済性が低下するため、Mo量を0.50%以下とする。
【0049】
(Nb:0.02%以下)
Nbは、スクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値は特に制限する必要がなく、0%であってもよい。またNbは、鋼材の強度、靱性を向上させるため、0.003%以上を含有させてもよい。ただし、含有量が過剰になると溶接部の靱性、溶接性の劣化を招く場合があり、Nb量を0.02%以下とする。
【0050】
(V:0.1%以下)
Vは、スクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。またVは、鋼材の強度を向上させるため、0.005%以上を含有させてもよい。ただし、含有量が過剰になると溶接部の靱性、溶接性の劣化を招く場合があり、合金コストの上昇を招き経済性が低下するため、V量を0.1%以下とする。
【0051】
本実施形態に係る鋼材及び溶接金属の化学成分の残部は、鉄(Fe)及び不純物である。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分であって、本実施形態に係る鋼材及び溶接金属に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0052】
(溶接金属の組織)
本実施形態に係る溶接金属中には、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在する。この条件を満足することにより、溶接時に粒内フェライトの生成が促進されて溶接金属に含まれる結晶粒が微細化し、靱性を高めることができる。
【0053】
円相当径が0.1μm未満の酸硫化物粒子は、粒内フェライトを形成する効果が小さく、円相当径が2.0μmを超える酸硫化物粒子は、結果的に粒内フェライトの形成を妨げる。したがって、本発明では、粒内フェライトを形成する効果が高い、円相当径が0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子を対象とする。ただし、円相当径が0.1μm未満、2.0μm超の酸硫化物粒子が存在してもよい。
【0054】
また、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子の個数密度は、3×10
5個/mm
3以上であれば粒内フェライトを形成する効果が顕著となるので、これを下限とする。一方、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子の個数密度が1×10
6個/mm
3を超えると粒内フェライトを形成する効果が飽和するので、これを上限とする。円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3であれば、HAZ靭性の向上効果が顕著になる。
【0055】
また、上記酸硫化物粒子のうち、MnS割合が5〜40%の粒子が全酸硫化物粒子数の45%以上であることがより好ましい。この条件を満足することにより、溶接時に粒内フェライトを形成する効果がより高くなる。MnS割合が5〜40%の粒子の周囲では、その粒子の周囲の鋼組織中のMnが欠乏した状態になって変態温度が上昇し、溶接後の冷却時にこの粒子を起点にしてより多くの粒内フェライトが生成すると推測される。これにより、溶接金属に含まれる結晶粒が微細化して、靱性を更に高めることができる。
【0056】
また、MnS割合が多いほど、粒内フェライトを形成する効果がより高くできるため、MnS割合は5%以上とすることが好ましい。また、MnS割合が過剰になると、粒内フェライトの形成能力が飽和するので、MnS割合は40%以下とすることが好ましい。
【0057】
MnS割合は、下記の式(E)〜式(H)によって計算できる。式(E)〜式(G)における[S]、[Mn]、[Si]はそれぞれ、酸硫化物粒子中の各元素の含有率(質量%)である。また、[MnS]
*、[MnO]
*、[SiO
2]
*はそれぞれ、式(E)〜(G)により求められた酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の化学量論比率(質量%)である。更に、式(H)における[MnS]は、酸硫化物粒子中のMnS、MnO及びSiO
2の合計量に対するMnS割合(質量比)である。
【0058】
[MnS]
*=[S]/32×87 … (E)
[MnO]
*={[Mn]−([S]×55/32)}/55×71 … (F)
[SiO
2]
*=[Si]/28×60 … (G)
[MnS]=[MnS]
*/([MnS]
*+[MnO]
*+[SiO
2]
*)×100 … (H)
【0059】
式(E)〜式(H)について詳細に説明する。まず、式(E)〜(G)により、[S]、[Mn]及び[Si]から、[MnS]
*、[MnO]
*及び[SiO
2]
*をそれぞれ求める。ここで、[S]、[Mn]及び[Si]はそれぞれ、個々の酸硫化物粒子に含まれるS量(質量%)、Mn量(質量%)及びSi量(質量%)であり、後述の測定方法によって求められる数値である。式(E)〜(G)をみてわかるように、[MnS]
*、[MnO]
*及び[SiO
2]
*はそれぞれ、[S]、[Mn]及び[Si]に基づき算出されたMnS、MnO及びSiO
2の化学量論量である。
【0060】
そして、式(H)により、個々の酸硫化物粒子における[MnS]
*、[MnO]
*及び[SiO
2]
*の合計量に対する[MnS]
*の割合を求める。そして、測定対象の酸硫化物粒子における[MnS]
*の割合の平均値を、酸硫化物粒子のMn割合とする。
【0061】
なお、酸硫化物粒子の円相当径及び個数密度は、電子顕微鏡を用いた画像解析により決定する。具体的には、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope))を用いて溶接金属の断面の反射電子像を撮影し、得られた像のコントラストから酸硫化物粒子を抽出し、各酸硫化物粒子の円相当径と個数密度を測定する。また、個々の酸硫化物粒子のS、Mn、Siの質量%である[S]、[Mn]及び[Si]は、FE−SEMに付属するエネルギー分散型X線元素分析装置(EDS)によって分析する。SEMの観察倍率は1000〜10000倍の範囲とする。また、電子ビーム径は0.0001〜1.0μmの範囲とする。
【0062】
本実施形態の鋼材の厚さは、30〜100mmであることが好ましい。
【0063】
また、本実施形態の鋼材は、YP(降伏点)が約325MPa〜550MPa、TS(引張強さ)が約400MPa〜720MPaであることが好ましい。
【0064】
更に、本実施形態に係る溶接金属は、シャルピー吸収エネルギー(試験温度−10℃)の平均値が70J以上となることが好ましい。
【0065】
また、本実施形態に係る溶接継手は、溶接構造体に備えられていてもよい。溶接構造体としては、建築構造物や土木構造物に使用される柱や梁等の鋼構造体を例示できる。より具体的には、風力発電鉄塔、橋梁、船舶、海洋構造物、圧力容器、ラインパイプなどの鋼構造体を例示できる。これらの鋼構造体は、本実施形態の鋼材を高エネルギー密度ビーム溶接することによって形成されたものであり、本実施形態の溶接継手を有している。
【0066】
また、鋼構造体の一例として、本実施形態に係る溶接継手を備えた鋼管を例示できる。鋼管は、板厚30〜100mm、直径5〜10m、長さ2〜5mの鋼管であることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態における高エネルギー密度ビーム溶接とは、電子ビーム溶接やレーザービーム溶接などが含まれる。これらは、溶加材を必要とせずに溶接可能であり、溶接によって、化学成分が鋼材にほぼ近い上記の化学成分を有する溶接金属を形成することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、高エネルギー密度ビーム溶接において溶加材を用いてもよい。溶化材としては、本実施形態の鋼材と同じ化学成分を有する鋼材であれば利用できる。溶化材として具体的には、溶接箇所に挿入する薄板状のインサート材や、鋼材の被溶接面に付着させる粉体でもよい。
【0069】
本実施形態の溶接継手は、鋼材を高エネルギー密度ビーム溶接することによって製造できる。高エネルギー密度ビームとしては、電子ビームやレーザービームを用いることができる。溶接する際の雰囲気、溶接前の加熱条件、溶接後の冷却条件等は特に制限がない。
【0070】
本実施形態に係る溶接金属の組織は次のようにして得られると推測される。すなわち、高エネルギー密度ビームによって鋼材が溶融してから凝固する際に、酸硫化物粒子の元となる融体が形成され、この融体が凝固する過程で円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で形成されると推測される。このとき、鋼中のMnが酸硫化物粒子中のSと結合するために、酸硫化物粒子に濃化するものと推測される。一方、酸硫化物粒子の周囲の組織にはMnの欠乏領域が生じ、これにより粒内フェライトが形成されやすくなって、溶接金属の靱性が向上すると推測される。
【0071】
次に、本実施形態に係る鋼材の製造方法を説明する。
【0072】
本実施形態に係る鋼材は、鋼を溶製し、鋳造して鋼片を製造し、得られた鋼片に熱間加工を施して製造される。熱間加工は例えば熱間圧延を例示できる。鋼片は、転炉、電気炉等の通常の精錬プロセスで溶製した後、連続鋳造法、造塊-分塊法等の公知の方法で製造することができ、製法として特に制限はない。鋼片を熱間圧延した後は、放冷してもよく、熱間圧延後に水冷等の制御冷却を施してもよく、熱間圧延後に水冷等の制御冷却を施した後に焼き戻しを行ってもよい。また、鋼を溶製し、鋳造した後、そのまま熱間圧延を行ってもよいが、鋳造後に一旦鋼片を400℃以下まで冷却し、次いでAc
3以上の温度に再加熱してから熱間圧延を行うとよい。
【0073】
以下、好ましい製造条件について説明する。
【0074】
上述した化学成分から構成される厚み200mm以上の鋼片を、400℃以下に冷却した後、900℃以上1250℃以下に加熱し、熱間圧延によって30mm以上、100mm以下の板厚に仕上げ、必要に応じて各種の熱処理を施す。
【0075】
鋼片を400℃以下に冷却せずにホットチャージで加熱炉に装入すると、鋳造時に生成した粗大γ組織が加熱後に残存し、組織が十分に微細化せず低温靱性が劣化する場合がある。そのため、連続鋳造後の鋼片は一旦400℃以下まで冷却することが好ましい。
【0076】
熱間圧延前の鋼片の加熱温度は900℃以上が好ましい。その理由は、炭窒化物をオーステナイト(γ)中に固溶させるためである。しかし、加熱温度が高すぎると、γ粒が粗大化して熱間圧延しても組織が十分に微細化せず、低温靱性の劣化を招く場合がある。そのため、鋳片の加熱温度は1250℃以下が好ましい。より好ましくは、加熱温度を1000℃以上、1200℃以下とする。
【0077】
また、熱間圧延の終了温度(圧延完了温度)は、オーステナイト(γ)単相域、すなわちフェライト変態が開始するAr
3変態点以上であることが好ましい。さらに好ましくは750〜900℃である。
【0078】
熱間圧延後、空冷あるいは水冷による制御冷却を行うことで、鋼材の材質を造り込むとよい。
【0079】
さらに、強度と靱性を最終的に調整するために、制御冷却後に焼戻しを施してもよい。焼戻しを実施する場合には、焼戻し温度を350〜600℃とすることが好ましい。
【0080】
ここで、上述してきた熱間圧延の圧延完了温度、および焼戻し温度はすべて、板厚方向中心部(板厚内部)での温度を指す。板厚内部の温度は、放射温度計で測定した鋼板表面の温度から、伝熱計算によって求めることができる。
【0081】
以上の製法によって本実施形態に係る鋼材を製造することができる。
【0082】
本実施形態に係る鋼材によれば、電子ビーム溶接やレーザ溶接など、フィラーワイヤーなどの溶接材料を添加せずに高エネルギー密度ビーム溶接を施しても良好な溶接継手靭性を確保することができる。
【0083】
また本実施形態によれば、降伏強度が325MPa以上であり、高エネルギー密度ビーム溶接により形成された溶接部(例えば、電子ビーム溶接部)のHAZにおけるシャルピー吸収エネルギー(試験温度−10℃)の平均値が70J以上である鋼材を安定して供給できる。そのため、本実施形態に係る鋼材は、風力発電鉄塔、橋梁、船舶、海洋構造物、圧力容器、ラインパイプなどの溶接構造体に好適であり、溶接構造体の製造効率を向上させることができ、安全性を確保した上で低コストで構造物を製作することができる。
【実施例】
【0084】
以下に本発明の実施例を示すが、以下に示す実施例は本発明の一例であり、本発明は以下に説明する実施例に制限されるものではない。
【0085】
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さ300mmの鋳片を製造した。得られた鋳片を、室温まで冷却した後、1000〜1100℃まで再加熱し、熱間圧延を行い、表1及び表3に示す化学成分を有するとともに、表5及び表6に示す板厚を有する鋼板(鋼材)を製造した。なお、熱間圧延の圧延完了温度は750〜900℃とした。
【0086】
なお、熱間圧延後の鋼板に対して、各種の熱処理を行った。表5及び表6の加工熱処理の欄における「CR」は、熱間圧延後に空冷したことを示す。「ACC」は、熱間圧延後に水冷による制御冷却を行ったことを示す。「DQ−T」は、熱間圧延後に水冷による制御冷却を行い、更に、焼戻しを行ったことを示す。焼戻し温度は350〜600℃とした。熱間圧延の圧延完了温度、および焼戻し温度はすべて、板厚方向中心部(板厚内部)での温度を指す。板厚内部の温度は、放射温度計で測定した鋼板表面の温度から、伝熱計算によって求めた。
【0087】
得られた鋼板から試料を採取して化学分析を行った。各鋼板の化学成分を表1及び表3に示す。
【0088】
また、溶接金属中の酸硫化物粒子の円相当径及び個数密度は、電子顕微鏡を用いた画像解析により決定した。具体的には、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope))を用いて溶接金属の断面の反射電子像を撮影し、得られた像のコントラストから酸硫化物粒子を抽出し、各酸硫化物粒子の円相当径と個数密度を測定した。また、個々の酸硫化物粒子のS、Mn、Siの質量%である[S]、[Mn]及び[Si]は、FE−SEMに付属するエネルギー分散型X線元素分析装置(EDS)によって分析した。SEMの観察倍率は1000倍とした。また、電子ビーム径は0.1μmとした。
【0089】
そして、溶接金属中における円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子の個数密度を求めた。
また、酸硫化物粒子のうち、[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上であるかどうかを調べた。[MnS]は、上記式(E)〜(H)に基づいて計算した。
結果を表5及び6に示す。
【0090】
表5及び表6において、「個数密度」は、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子が個数密度3×10
5〜1×10
6個/mm
3で存在する場合を「○」とし、この条件を満たさない場合を「×」とした。また、MnS割合は、円相当径で0.1〜2.0μmの酸硫化物粒子のうち、[MnS]が5〜40%である粒子が、全酸硫化物粒子数の45%以上である場合を「○」とし、45%未満の場合を「×」とした。
【0091】
<鋼材の機械的性質>
得られた鋼板の板厚の1/4の位置から、引張試験及びシャルピー衝撃試験に用いる試験片を採取した。
【0092】
引張試験は、JIS Z 2241に準拠し、試験片2本にて行い、YS(0.2%降伏強度)、TS(引張強度)を試験片2本の平均値としてそれぞれ求めた。
【0093】
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242に準拠し、3本のVノッチ試験片を用い、−10℃で吸収エネルギーを測定した。得られた3本の吸収エネルギーの平均値(相加平均)を母材の吸収エネルギー(vE−10℃)とする。
【0094】
<溶接部の靭性>
次に、得られた厚鋼板を用いて、電子ビーム溶接法(EBW)によって溶接継手を作製し、得られた溶接金属WMと熱影響部HAZの靭性を調査した。
【0095】
EBWでは突き合わせ溶接継手を作製し、1パス貫通溶接を適用した。
【0096】
採取した試験片に対し、溶接金属中央(WM)およびHAZ(融合部)上にノッチを入れVノッチ試験片とした。各Vノッチ試験片を用いて、−10℃で、JIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を行った。3本の試験を行い、吸収エネルギーの平均値(相加平均)を採用した。表5及び表6に鋼板の板厚、鋼板の機械的性質、EBW継手のWMとHAZの靱性値を示す。また、表2及び表4に、溶接金属の組成を示す。
【0097】
表1、表2及び表5に示すように、本発明例は、EBW継手とした際、−10℃で70J以上の優れた溶接部の靱性を有していた。また、板厚30〜100mmの鋼板において、325MPa〜550MPaの降伏強度(YS)と400MPa〜720MPaの引張強さ(TS)とを有していた。さらに、鋼材の吸収エネルギー(vE−10℃)も70J以上であった。
【0098】
一方、表3、表4及び表6に示すように、比較例は化学成分が本発明の範囲から外れているため、EBW継手のWMの靭性が劣り、母材の機械的性質も劣っていた。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】