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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-204302(P2020-204302A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】ブローバイガス還流装置付エンジン
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/04 20060101AFI20201127BHJP
   F01M 13/00 20060101ALI20201127BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20201127BHJP
【FI】
   F01M13/04 E
   F01M13/00 H
   F02F7/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-113029(P2019-113029)
(22)【出願日】2019年6月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】小山 秀行
(72)【発明者】
【氏名】松延 新吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】奥田 貢
【テーマコード(参考)】
3G015
3G024
【Fターム(参考)】
3G015BD10
3G015BD25
3G015BE06
3G015BE11
3G015BE12
3G015BE13
3G015BE15
3G015BF05
3G015BF07
3G015CA05
3G015DA04
3G015DA10
3G015EA25
3G024AA72
3G024BA24
3G024DA18
3G024FA07
(57)【要約】
【課題】オイル持ち去り量が増えるおそれを軽減或いは解消させ、エアクリーナの目詰まりなどが生じてもエンジンオイルが早期減少しないようにして、改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供する。
【解決手段】ブローバイガスをヘッドカバー3内のカバー内ガス通路26を通して吸気通路kに導くブローバイガス還流装置付エンジンにおいて、カバー内ガス通路26の底壁25に、ブローバイガスから捕捉されたオイルの流下排出が可能な逆止弁34を設け、逆止弁34の弁座46に、弁体34Aが当接する座面46aで開口し、かつ、弁座46に形成されているオイル流し用の弁路33aに連通し、かつ、座面46aの面拡がり方向に貫通する路溝47が形成され、弁体34Aが弁座46aに当接した閉弁状態において、弁路33aにあるオイルの路溝47を通っての流下排出が可能に構成されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースからのブローバイガスを、ヘッドカバーの内部に形成されたカバー内ガス通路を通して吸気通路に導くように構成され、
前記カバー内ガス通路の底壁に、前記カバー内ガス通路においてブローバイガスから捕捉されたオイルの流下排出が可能な逆止弁を設け、
前記逆止弁の弁座に、前記弁座における弁体が当接する座面で開口し、かつ、前記弁座に形成されているオイル流し用の弁路に連通し、かつ、前記座面の面拡がり方向に貫通する路溝が形成され、
前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態において、前記弁路にあるオイルが前記路溝を通って排出されることが可能に構成されているブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項2】
前記路溝は、前記弁座における前記弁路を挟んだ複数箇所に形成されている請求項1に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項3】
前記路溝は、前記底壁の下方で前記逆止弁が設けられている部位におけるブローバイガス流れ方向で前記弁路に対する上流側と下流側とのそれぞれに形成されている請求項2に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項4】
前記逆止弁は、弾性を有する板材製で片持ち支持される弁体を有するリード弁に構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項5】
前記弁座は、前記底壁における最も高さの低い最低壁に形成され、前記最低壁の下面でなる前記座面に下方から当接可能な弁体が前記最低壁に取付けられている請求項4に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項6】
前記ヘッドカバーは気筒配列方向に長い長尺形状をなし、前記路溝は前記ヘッドカバーの長手方向に沿って延びる状態で形成されている請求項1〜5の何れか一項に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【請求項7】
前記吸気通路は、前記ヘッドカバーにおける前記逆止弁の上方に設けられたカバー吸気通路を有するとともに、前記カバー内ガス通路と前記カバー吸気通路とが連通されている請求項1〜6の何れか一項に記載のブローバイガス還流装置付エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農機や建機に適用されるディーゼルエンジンや自動車用エンジンなど、ブローバイガスを吸気通路に還流するように構成されたブローバイガス還流装置付エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述した各種のエンジンにおいては、ブローバイガスを吸気通路に戻すためのブローバイガス還流装置を装備しているのが一般的である。即ち、クランクケースからのブローバイガスを、ヘッドカバーの内部に形成されたカバー内ガス通路を通して吸気通路に導くように構成されている。
【0003】
ヘッドカバーのカバー内ガス通路は、ブローバイガスを流すための専用の箱体をヘッドカバーに内装させる構造や、ヘッドカバーの内部スペースを上下に仕切る仕切り壁を設け、仕切り壁の上側をブローバイガスの通り道とする構造のものが多い。このような従来例としては、特許文献1において開示されたものが知られている。
【0004】
ブローバイガスは、ミスト状になったオイル(水分も含まれる)を含んでおり、そのままの状態で吸気通路に戻されるとエンジンオイルが早期に減少して都合が悪い。そこで、ブローバイガスの通路には、ブローバイガス中のオイル成分を捕捉して回収するためのフィルタやセパレータなどのオイル回収部と、回収されたオイルをエンジン内部に戻すためのオイル戻し部が設けられている。
【0005】
特許文献1においては、ヘッドカバー内を上下に仕切る仕切板4を設け、その上側にカバー内ガス通路が形成されるとともに、仕切板4の上側にオイルセパレータ部5が構成されている。カバー内ガス通路にて捕捉されたオイルは、仕切板4に設けられたドレインバルブ43や下方突出する回収筒49から流下排出され、エンジン内(九ランクケース内)に戻されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019−27342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カバー内ガス通路におけるブローバイガス中のオイルミスト(ミスト状のオイル)は、フィルタやセパレータで、或いはヘッドカバーの内壁に衝突したりすることで気液分離され、オイルとして回収されるようになる。しかしながら、回収されたオイルはカバー内ガス通路における各所に滞留しやすいため、エアクリーナの目詰まりなどによって吸気負圧が過大になると、滞留しているオイルが吸気通路に吸込まれてしまい、オイル持ち去り量が一気に増大するおそれがある。
【0008】
エンジンオイルの早期減少を招くオイル持ち去り量の増大は、特許文献1の場合のように、ドレインバルブや回収筒などのオイル回収部を設けていても生じる可能性のあることが判ってきたため、何らかの対策を講じることが必要になってきている。
【0009】
本発明の目的は、ヘッドカバーのさらなる内部構造の工夫により、オイル持ち去り量が増えるおそれを軽減或いは解消させ、エアクリーナの目詰まりなどが生じてもエンジンオイルが早期減少しないようにして、改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ブローバイガス還流装置付エンジンにおいて、
クランクケースからのブローバイガスを、ヘッドカバーの内部に形成されたカバー内ガス通路を通して吸気通路に導くように構成され、
前記カバー内ガス通路の底壁に、前記カバー内ガス通路においてブローバイガスから捕捉されたオイルの流下排出が可能な逆止弁を設け、
前記逆止弁の弁座に、前記弁座における弁体が当接する座面で開口し、かつ、前記弁座に形成されているオイル流し用の弁路に連通し、かつ、前記座面の面拡がり方向に貫通する路溝が形成され、
前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態において、前記弁路にあるオイルが前記路溝を通って排出されることが可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
前記路溝は、前記弁座における前記弁路を挟んだ複数箇所に形成されていると好都合であり、前記路溝が、前記底壁の下方で前記逆止弁が設けられている部位におけるブローバイガス流れ方向で前記弁路に対する上流側と下流側とのそれぞれに形成されていればさらに好都合である。
【0012】
前記逆止弁は、弾性を有する板材製で片持ち支持される弁体を有するリード弁に構成されていると好都合である。そして、前記弁座は、前記底壁における最も高さの低い最低壁に形成され、前記最低壁の下面でなる前記座面に下方から当接可能な弁体が前記最低壁に取付けられていると良い。
【0013】
前記ヘッドカバーは気筒配列方向に長い長尺形状をなし、前記路溝は前記ヘッドカバーの長手方向に沿って延びる状態で形成されていると良い。また、前記吸気通路は、前記ヘッドカバーにおける前記逆止弁の上方に設けられたカバー吸気通路を有するとともに、前記カバー内ガス通路と前記カバー吸気通路とが連通されていると好都合である。
第2の本発明は、本発明において、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カバー内ガス通路の底壁に設けた逆止弁の弁座の座面に、その面拡がり方向に貫通する路溝を形成したので、カバー内ガス通路で捕捉されて弁路に溜まっているオイルは、エンジン内での吸気脈動波によって路溝から流下排出されてエンジン内に戻されるようになる。前記吸気脈動波が無い又は殆ど無い場合は、逆止弁は通常の逆止作用を発揮する弁として機能する。
【0015】
従って、エアクリーナが目詰まりするなどによって吸気負圧が過大になっても、逆止弁からオイルが逆流して吸い上げられることはないし、カバー内ガス通路にオイルが溜まる状態もまず生じないようになるので、吸気通路へのオイル持ち去り量が増えるおそれを解消させることが可能になる。
【0016】
その結果、ヘッドカバーのさらなる内部構造の工夫により、オイル持ち去り量が増えるおそれを軽減或いは解消させ、吸気負圧が過大になることが生じてもエンジンオイルが早期減少しないようになり、改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】産業用ディーゼルエンジンの左側面図
図2図1に示すエンジンの正面図
図3図1に示すエンジンの右側面図
図4図1に示すエンジンの平面図
図5図1に示すエンジンの背面図
図6】ヘッドカバー前部周辺の平面図
図7】ヘッドカバー及びカバー吸気通路を示す一部切欠きの左側面図
図8】ヘッドカバーの平面図
図9】ヘッドカバーの底面図
図10図8のX−X線断面図のヘッドカバーとガス出口カバーとを示す正面図
図11】ガス出口カバーを示し、(A)は平面図、(B)は底面図
図12】ブローバイガス出口部と動弁装置とを示し、(A)は横断面図、(B)は要部の縦断断面図
図13】(A)排出リード弁の側面図、(B)戻しリード弁の側面図
図14】(A)ガスケットの平面図、(B)ガスケットとその上下部分の断面図
図15】戻しリード弁の構造を示す一部切欠きの左側面図
図16】路溝の各種の別実施形態を示し、(A)は戻しリード弁の要部の一部切欠き側面図、(B)前後の戻しリード弁を示す要部の底面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明によるブローバイガス還流装置付エンジンの実施の形態を、産業用ディーゼルエンジンに適用した場合について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1図5に示されるように、産業用ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと略称する)Eは、シリンダブロック1の上部にシリンダヘッド2が組付けられ、シリンダヘッド2の上部にヘッドカバー3が組付けられ、シリンダブロック1の下部にオイルパン4が組付けられている。シリンダブロック1の前端部に伝動ケース5が組付けられ、伝動ケース5の前部にエンジン冷却ファン6が配置され、シリンダブロック1の後部にフライホイール7が配置されている。シリンダブロック1の上半部はシリンダ1Aに、そして、下半部はクランクケース1Bにそれぞれ構成されている。
【0020】
エンジンEの前部に、クランク軸(図示省略)の軸端に取り付けられる駆動プーリ8、エンジン冷却ファン6の駆動用ファンプーリ6A、及びダイナモ(オルタネータ)9の受動プーリ9Aに跨る伝動ベルト10、ウォータフランジ21などが配備されている。エンジンEの左側には、排気マニホルド11、過給機12、スタータ13、オイルフィルタ14などが装備されている。エンジンEの右側には吸気マニホルド15、燃料噴射ポンプハウジング16、停止ソレノイド17などが装備され、上方には3つのインジェクタ18、コンプレッサ上流側吸入通路19、コンプレッサ下流側吸入通路20などが配置されている。
【0021】
コンプレッサ下流側吸入通路20は、コンプレッサハウジング12Aに連結されてヘッドカバー3の直上に横切って配置されている始端側管20Aと、始端側管20Aと吸気マニホルド15とを繋ぐ終端側管20Bとを備えて構成されている。図4に示されるように、平面視において始端側管20Aは、カバー吸気通路19Aの後側の位置で沿う状態に配置されている。曲り管19B、始端側管20A、終端側管20Bは、ゴム等の可撓性を有する材料製のパイプ、或いは金属製パイプから成るものでも良い。
【0022】
図4,6,7、及び図10に示されるように、このエンジンEには、クランクケース1B内のブローバイガスを、ヘッドカバー3の内部を通してから吸気通路kに導くように構成されたブローバイガス還流装置Aが装備されている。ヘッドカバー3は、動弁装置Bを跨いでシリンダヘッド2に組み付けられる無底箱状(上蓋状)の部品であり、左右に延びる複数のリブ3aがカバー内側に形成されている。ヘッドカバー3の後部には、エンジンオイルの供給用孔22が設けられている。
【0023】
吸気通路kは、ヘッドカバー3のブローバイガス出口部3Aに設けられたカバー吸気通路19Aを有し、ブローバイガス出口部3Aの内部空間である出口空間部(カバー内ガス通路の一例)26とカバー吸気通路19Aとが連通されている。カバー吸気通路19Aは、エアクリーナ23(図4図6を参照)と過給機12とを接続するコンプレッサ上流側吸入通路19の一部として構成されている。つまり、コンプレッサ上流側吸入通路19は、カバー吸気通路19Aと、カバー吸気通路19Aと過給機12のコンプレッサハウジング12Aとを繋ぐ曲り管19Bと、を有して構成されている。なお、吸気通路kとは、エアクリーナ23や吸気マニホルド15など、空気aを燃焼室(図示省略)まで送るための全通路とする概念である。
【0024】
ここで、ブローバイガス還流装置Aにおける主要な機能(吸気通路kへの還流部分)を簡単に説明する。図6図7に示されるように、シリンダブロック1からヘッドカバー3の内部空間に流れてくるブローバイガスgは、排出リード弁31を通ってブローバイガス出口部3Aのブローバイガス通路である出口空間部26に入る。CCV(クランクケースベンチレーション)室とも呼ばれる出口空間部26に入ったブローバイガスgは、ガスケット35の連通孔38及び連絡通路40(後述)を通ってカバー吸気通路19Aに、即ち、吸気通路kに還元される。なお、符記は省略するが、ヘッドカバー3の内部における動弁装置Bを除いた空間部分はブローバイガスgが通過可能であって、出口空間部26と共に「カバー内ガス通路」であると定義する。
【0025】
次に、ヘッドカバー3及びカバー吸気通路19Aについて詳しく説明する。
図6図10に示されるように、平面視で角丸四角形(長円形)を呈するヘッドカバー3は、その頂壁3Cの前端部に、上向き開放状のブローバイガス出口部3Aが形成されている。ブローバイガス出口部3Aは、上下向きの隔側壁24と底壁25とで囲まれた出口空間部26、及び上面である接合面27を備えた無蓋箱状の部分としてヘッドカバー3に形成されている。
【0026】
ブローバイガス通路である出口空間部26は、平面視で右側に短い辺を持つ台形を呈する箇所であり、底壁25は、深さの浅い主底面25Aと、深さが前後方向で異なる状態で主底面25Aの前後それぞれに形成された流し底面25B,25Bとを有している。平面視で横向きT字形状を呈する主底面25Aの前後中央部位には、ブローバイガスgをヘッドカバー3内から送り出すための排出リード弁31が横向き(左向き)姿勢で装備されている。
【0027】
排出リード弁31は、図7図10図12図13に示されるように、主底面25A上に配置される薄肉の排出弁体31Aと、厚肉の排出弁ガイド31Bとを、それぞれの根元側にて底壁25にボルト止めすることで構成されている。排出弁体31Aの丸い先端部31aは、主底面25Aに開口して底壁25に形成された排出弁孔31Cの上側に配置され、通常は排出弁孔31Cの蓋となっている(閉弁状態)。底壁25における排出弁孔31Cの部位は、上下方向視で排出弁孔31Cと同心状の丸形状を呈して下方に突出する突出孔壁25aに形成されている。
【0028】
流し底面25Bは、排出リード弁31の前後から前又は後へ行くに従って低くなる傾斜面32と、傾斜面32の低い側に続く最低面(最低壁)33とを備えている(図8を参照)。最低面33は、傾斜面32に対して斜め左側に寄って位置する状態に構成されている。底壁25における各最低面33,33には、それぞれ上下に貫通する戻し弁孔(弁路の一例)33aが形成され、これら戻し弁孔33aに対する戻しリード弁(逆止弁の一例)34が設けられている。
【0029】
戻しリード弁34は、図7図10図12図13(B)、及び図15に示されるように、底壁25における最低面33の反対側面、即ち最低裏面33Aに接する戻し弁体34Aと、厚肉の戻し弁ガイド34Bとを、それぞれの根元側にて底壁25にボルト止めすることで構成されている。戻しリード弁34は、排出リード弁31とは上下逆さまの姿勢で設けられており、通常は、戻し弁体34Aの先端部34aによって戻し弁孔33aが軽く閉じられた状態になっている。
【0030】
各戻しリード弁34,34は、それぞれ先端部34aが左側になる横向き姿勢で配置されており、出口空間部26においてブローバイガスgから捕捉されたオイルミストを、ヘッドカバー3の内部空間に戻す箇所である。各戻し弁孔33a,33aの径はいずれも排出弁孔31Cの径よりも小さい。弾性を有する板材製で片持ち支持される戻し弁体34Aと排出弁体31A、及び戻し弁ガイド34Bと排出弁ガイド31Bはそれぞれ同一の部品であれば好都合である。
【0031】
図6図8及び図11に示されるように、ブローバイガス出口部3Aの上にはガス出口カバー3Bがボルト止めされており、ガス出口カバー3Bは、蓋カバー部36とカバー吸気通路19Aとを備えて構成されている。蓋カバー部36は、平面視でブローバイガス出口部3Aと同様の外郭形状を有し、ガスケット35を挟んでの3箇所のボルト止めによりヘッドカバー3に固定される箇所である。
【0032】
図11(A),(B)に示されるように、カバー吸気通路19Aは、カバー吸気通路19Aの通路始端部19aに対してカバー吸気通路19Aの通路終端部19bがヘッドカバー3の長手方向で外側に寄る状態に屈曲した蛇行通路に形成されている。詳しくは、カバー吸気通路19Aは、ヘッドカバー長手方向(前後方向)に直交(交差の一例)する方向に延びて互いに平行な通路始端部19a及び通路終端部19bと、通路始端部19aの終端と通路終端部19bの始端とを繋ぐ前後左右で斜め向きの通路中間部19cとを有し、平面視でクランク状(略Z形状)を呈する蛇行通路に形成されている。
【0033】
通路中間部19cは、断面が下向きU字形状の溝状通路部に形成され、その下端の開放口37は、平面視の形状が通路中間部19cと同様な形状で下側に開口する状態に形成されている。また、蓋カバー部36には、開放口37の後に位置して下方開口するガス通路用凹み36aが形成され、ボルト孔3bが3箇所に形成されている。
【0034】
図14(A)に示されるように、ガスケット35は、1箇所の連通孔38と、3箇所のボルト挿通孔39とを備えた薄板状(シート状)のものである。図14(B)に示されるように、ガスケット35は、ブローバイガス出口部3Aの上面である接合面27と蓋カバー部36の(ガス出口カバー3Bの)接合下面36bとの間で挟持される状態で設けられている。ブローバイガス出口部3Aの接合面27の外郭形状と、ガスケット35の外郭形状と、蓋カバー部36の外郭形状とは互いに同形であるが、この限りではない。
【0035】
図6に示されるように、ブローバイガス出口部3Aの出口空間部26は、蓋カバー部36の開放口37のほぼ全面を覆う上面開口を有しており、ガスケット35の連通孔38は、出口空間部26と開放口37とを連通させる唯一の箇所である。つまり、連通孔38は、通路中間部19c(開放口37)と出口空間部26との連通面積及び通路中間部19cに対する連通位置を定める孔である。
【0036】
動弁装置Bについて簡単に説明する。図8図10図12に示されるように、動弁装置Bは、シリンダヘッド2に立設されている軸支部2aの複数個所に支持されて前後方向に延びるロッカーアーム軸28と、ロッカーアーム軸28に揺動可能に軸支される給排気用で複数(計6個)のロッカーアーム29,30とを有して構成されている。
【0037】
ロッカーアーム29,30は、給排バルブ(図示省略)を作動させる駆動側端部29a,30a、及びプッシュロッド(図示省略)により駆動される受動側端部29b,30bを備えている。シリンダヘッド2には、プッシュロッドを通すために形成されたプッシュロッド孔(図示省略)が形成されており、図8に示されるように、そのプッシュロッド孔を通ってブローバイガスgがヘッドカバー3内に送られてくる。
【0038】
ブローバイガス還流装置Aにおいては、ヘッドカバー3の内部と出口空間部26とは、排出リード弁31と2箇所の戻しリード弁34,34を備えた底壁25により仕切られており、出口空間部26はガスケット35の連通孔38によりカバー吸気通路19Aと連通されている。従って、ヘッドカバー3の内圧がカバー吸気通路19Aの圧より高い状態では、排出リード弁31が開弁し、ヘッドカバー3内のブローバイガスgは排出リード弁31、出口空間部26、連通孔38を通って通路中間部19cに入り、吸気通路kに還流される。
【0039】
そして、ヘッドカバー3の内圧とカバー吸気通路19Aの圧とが同じ状態、或いはヘッドカバー3の内圧がカバー吸気通路19Aの圧より低い状態では、一対の戻しリード弁34,34が開弁し、出口空間部26においてブローバイガスg中から捕捉されたオイルが戻し弁孔33a、33aからヘッドカバー3内に落下される。戻し弁孔33a,33aからの滴下オイルは、エンジン内部に戻されるだけでなく、ロッカーアーム軸28とロッカーアーム29との摺動部(図示省略)など、動弁装置Bに供給される良好な潤滑機能も得られる。
【0040】
本実施形態によるブローバイガス還流装置付エンジンでは、コンプレッサ上流側吸入通路19の一部であるカバー吸気通路19Aがヘッドカバー3に取り付けられ、ブローバイガス出口部3Aの出口空間部26と、カバー吸気通路19Aの通路中間部19cとがガスケット35の連通孔38を介して連通されている。ヘッドカバー3は、シリンダヘッド2から熱伝導されて温かくなる箇所であり、その温かくなるヘッドカバー3の一部であるカバー吸気通路19Aにブローバイガスgが戻される。
【0041】
従って、極寒時などによって吸入空気aが冷たくても、カバー吸気通路19Aを流れる空気aは温度上昇される〔図11(A)を参照〕ので、通路中間部19cに還流されるブローバイガスg中の水分が凍結することが解消又は抑制されるようになる。その結果、出口空間部26における吸気系に接続される終端部において凍結され難い状態となり、低温時の凍結による不都合が極力生じないように改善されたブローバイガス還流装置付エンジンを提供することができる。
【0042】
カバー吸気通路19Aは、通路始端部19aに対して通路終端部19bがヘッドカバー長手方向で外側(前側)に寄る状態に形成されている。詳しくは、カバー吸気通路19Aは、ヘッドカバー3の長手方向(前後方向)に交差する方向(左右方向)に延びて互いに平行な通路始端部19a及び通路終端部19bと、通路始端部19aの終端と通路終端部19bの始端とを繋ぐ通路中間部19cとを有して形成されている。
【0043】
そして、図6図11に示されるように、カバー吸気通路19Aは、平面視で略Z状(クランク状又は折れ曲がり状)となる蛇行した通路に設定されている。このカバー吸気通路19Aの蛇行により、図11(A)に示されるように、直線に比べて空気aの流れが変化して活発化されている箇所にブローバイガスgが還流されるので、前述の凍結防止作用が強化される利点がある。
【0044】
通路始端部19aより通路終端部19bが前側(ヘッドカバー長手方向で外側)に寄っているので、型成形部品のガス出口カバー3Bによるカバー吸気通路19Aを蛇行通路にすれば、構造簡単にコンプレッサ上流側吸入通路19の形状を非直線通路にできる利点がある。また、コンプレッサ上流側吸入通路19におけるブローバイガスgの合流箇所(通路中間部19c)より下流側(通路終端部19b)が前に寄っているので、エンジン冷却ファン6の冷却風による冷却作用が通路始端部19aより強化され、吸気マニホルド15への供給空気の温度を低められる利点もある。
【0045】
ガス出口カバー3B及びその付近について追加説明する。図10図11に示されるように、出口空間部26とカバー吸気通路19Aとは、連通孔38と、ラビリンス状の連絡通路40とにより連通されている。連絡通路40は、ガス出口カバー3Bのガス通路用凹み36aと、これの開口を塞ぐ蓋となるガスケット35とによって構成されている。ガス出口カバー3Bのガス通路用凹み36aは、通路中間部19cのガス流れ方向で下流側の端部に連通している。
【0046】
図11(A),(B)に示されるように、ガス通路用凹み36aは、その右側端部がガスケット35の連通孔38の上に位置するとともに、通路中間部19cに繋がる幅狭で前後向きの終端凹み42を有している。そして、ガス出口カバー3Bには、終端凹み42に沿ってガス通路用凹み36aに向けて後方突出する左突起壁43と、左突起壁43の右側においてガス通路用凹み36aに向けて前方突出する右突起壁44とが形成されている。従って、連通孔38から流れてくるブローバイガスgが、右突起壁44及び左突起壁43によってラビリンス状(クランク状)に屈曲した経路である連絡通路40を通ってから通路中間部19cに進むように構成されている。
【0047】
図11(A),(B)に示されるように、連絡通路40における吸気通路側の端部(終端凹み42)を除く部分と、カバー吸気通路19A、詳しくは通路中間部19cとの間に断熱部Dが設けられている。断熱部Dは、ガス出口カバー3Bのガスケット側面に開口する状態でガス出口カバー3Bに形成された湾曲状長穴(凹み又は穴の一例)41により構成され、湾曲状長穴41の開口41aは、ガスケット35により覆われている。
【0048】
湾曲状長穴41は、通路中間部19cとガス通路用凹み36aとの間に、厚さの薄い前後それぞれのリブ状壁45,45で仕切られる状態で形成されている。ガスケット35の存在により、湾曲状長穴41は閉塞された空間部となるので、その空間部が空気層となって断熱部Dが形成されている。なお、湾曲状長穴41の深さは、ガス通路用凹み36aの深さよりも深く形成されているが、この限りではない。
【0049】
ブローバイガス通路である出口空間部26と通路中間部19cとを連通させる連絡通路40が、ストレートな経路ではなくジグザグに屈曲したラビリンス状の通路とされているので、エアクリーナ23などの吸気通路k側(通路中間部19c)からの液滴(水分など)がヘッドカバー3の内部に侵入し難い効果がある。そして、ブローバイガス中のオイル成分が連絡通路40に引き込まれ難くなり、引き込まれたとしてもラビリンス状通路によって振り落とされ、オイル除去作用が発揮される効果も奏することができる。
【0050】
また、連絡通路40と通路中間部19cと互いに沿う形状とされているが、これら両者40,19cの間には断熱部Dが形成されているから、寒冷時において、ブローバイガス出口部3Aが、特に連絡通路40の付近の温度が吸気によって低下し難くなり、凍結のおそれがさらに減少する効果が得られる。
【0051】
次に、戻しリード弁34の構造を、後側の戻しリード弁34について詳述する。図9図12(B)、図13(B),及び図15に示されるように、戻しリード弁34は、カバー内ガス通路(出口空間部)26の底壁25に、カバー内ガス通路26においてブローバイガスgから捕捉されたオイルの流下排出が可能な逆止弁である。
【0052】
戻しリード弁34の弁座46に、弁座46における戻し弁体34Aが当接する座面46aで開口し、かつ、弁座46に形成されているオイル流し用の弁路33aに連通し、かつ、座面46aの面拡がり方向(前後方向や左右方向など)に貫通する路溝47が形成されている。弁体34Aが弁座46の座面46aに当接した閉弁状態〔図13(B)の状態〕において、弁路33aにあるオイルが、スリット状の路溝47を通って流下排出されることが可能に構成されている。
【0053】
路溝47は、弁座46における弁路33aを挟んだ複数箇所に形成されている。例えば、図12(B)や図15に示されるように、路溝47は、底壁25の下方で戻しリード弁34が設けられている部位(カバー内ガス通路)におけるブローバイガスg流れ方向で弁路33aに対する上流側と下流側とのそれぞれに、具体的には後側溝部47aと前側溝部47bとの双方によりなるものとして形成されている。路溝47の断面形状は、図13(B)に示されるように、横向きD字状のものが挙げられるが、この限りではない。
【0054】
弁座46は、底壁25における最も高さの低い最低壁33に形成され、最低壁33の下面でなる座面(本実施形態では最低裏面33Aでもある)46aに下方から当接可能な戻し弁体34Aが最低壁33に取付けられている。ヘッドカバー3は気筒配列方向(前後方向)に長い長尺形状をなし、後側及び前側の各溝部47a,47bはヘッドカバー3の長手方向(前後方向)に沿って延びる状態で形成されている。
【0055】
各溝部47a,47bの断面積は、弁路33aの断面積よりも十分小さいので、戻しリード弁34の上側空間と下側空間との圧力差がないか又は極めて小さい場合は、弁路33aに溜まったオイルは表面張力によって路溝47内に留まり、外部に漏れ出ること、即ち、流下排出されることはない。つまり、後側溝部47aの後側の開口面積、及び前側溝部47bの前側の開口面積は、ヘッドカバー3の内部における空間部26以外の空間部の圧と空間部26の圧とが同じ又はほぼ同じ状態では、各溝部47a,47bからオイルが排出できない表面張力が働く程度の面積に設定されている。
【0056】
一対の溝部47a,47bが弁路33aの下端部を挟んで前後に設けられているので、閉弁状態においては、弁座46の下端部には上下逆向きT字状のオイル通路(図15参照)が、即ち、オイル排出がされやすいラビリンス構造のオイル通路が形成されている。従って、弁路33aに溜まっているオイルは、エンジン内での吸気脈動波(圧力脈動波)によって路溝47から排出されることが可能になる。例えば、15図に示されるように、後側溝部47aに作用する吸気脈動波により、弁路33aの底部に溜まっているオイル(液体オイル)が前側溝部47bから前方に排出されるようになる。
【0057】
つまり、断面積が十分に小さくて前後に貫通する路溝47を戻しリード弁34の弁座46に設けたので、出口空間部26で捕捉されて弁路33aに溜まっているオイルは、吸気脈動波によって路溝47から流下排出されてエンジン内に戻されるようになる。エンジン内での吸気脈動波が無い又は殆ど無い場合は、戻しリード弁34は通常の逆止弁として機能する。
【0058】
従って、吸気負圧が過大になったとしても、戻しリード弁34からオイルが逆流して吸い上げられることはないし、出口空間部26にオイルが溜まる状態もまず生じないので、カバー吸気通路19Aからのオイル持ち去り量が増えるおそれを解消させることが可能になる。オイル持ち去り量が低減されることにより、次の(1)〜(3)の効果が得られる。
(1)オイル消費量の低減が可能になる
(2)吸気ポート内部のオイル付着やエンジン内部へのオイル侵入による性能低下を抑制させることが可能になる
(3)エアクリーナが完全に目詰まりしても、オイル持ち去り量の抑制や解消が可能になる
【0059】
以上、後側の戻しリード弁34について説明したが、前側の戻しリード弁34の場合は、吸気脈動波が前側溝部47bに作用し、後側溝部47aから後方下方へオイルが流下排出されるようになると考えられる。
【0060】
〔別実施形態〕
図16(A)に示されるように、後側溝部47aの断面積と前側溝部47bの断面積とが互いに異なるように路溝47を形成してもよい。
図16(A)に示されるように、後側と前側の各溝部47a,47bを、前後方向で断面積が変化する先細り状、或いは先拡がり状の形状としてもよい。
【0061】
図16(B)に示されるように、ヘッドカバー3の形状や、カバー内ガス通路26の形状などによっては、吸気脈動作用を受ける2つの後側溝部47a,47aと、1つの前側溝部47bとでなる3つの溝部でなる構造の路溝47でもよい。
図16(B)に示されるように、路溝47は、弁座46を前後などに貫通し、かつ、その中間部が弁路33aに連通される1つの溝によりなるものでもよい。
【符号の説明】
【0062】
1B クランクケース
3 ヘッドカバー
19A カバー吸気通路
25 底壁
26 カバー内ガス通路(出口空間部)
33 最低壁
33a 弁路(戻し弁孔)
34 逆止弁、リード弁
34A 弁体
46 弁座
46a 座面
47 路溝
k 吸気通路
図1
図2
図3
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