【課題】シリンダ部内のピストンの往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる電気自動車用制動トルク発生装置および電気自動車を提供する。
【解決手段】電気自動車100は、電動モータ107によって回転駆動する前輪車軸102a,102bに制動トルクを付与する制動トルク発生装置200を備えている。制動トルク発生装置200は、圧縮膨張機関210、気密度調整弁220およびクラッチ装置222を備えている。圧縮膨張機関210は、シリンダブロック212内を往復摺動して空気室216の容積を増減させるピストン214を備えている。シリンダブロック212におけるシリンダ部212aには、吸排気シリンダ連通路213が形成されている。ピストン214には、空気室216に連通しつつ吸排気シリンダ連通路213に連通する位置にピストン連通路215が形成されている。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車輪が連結されて電動モータによって駆動される車軸に対して制動トルクを付与する電気自動車用制動トルク発生装置であって、車軸に連結されて同車軸からのバックトルクによって空気を導入する空気室の容積の減少による空気の圧縮および同容積の増加による空気の膨張のうちの少なくとも一方を行って制動トルクを発生させる圧縮膨張機関と、圧縮膨張機関の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせる機関作動機構と、車軸にバックトルクが作用する際に、機関作動機構の作動を制御することによって圧縮膨張機関を作動させて車軸に制動トルクを付与する制御装置とを備え、圧縮膨張機関は、一方が閉塞されるとともに他方が開口部を有する有底筒状のシリンダ部内に空気室が形成されるシリンダブロックと、シリンダ部内にて直線往復運動して空気室の容積を変化させるピストンと、車軸からのバックトルクによって回転駆動する駆動軸の回転運動をピストンの直線往復運動に変換するクランク機構とを有し、シリンダブロックは、ピストンの上死点と下死点との間のストローク範囲内に形成されて空気室とシリンダブロックの外部とを連通させる吸排気シリンダ連通路が形成されており、ピストンは、空気室に連通しつつストローク範囲内で摺動する際に吸排気シリンダ連通路に連通する位置に形成されたピストン連通路を備えることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、シリンダブロックおよびピストンにそれぞれ形成した吸排気シリンダ連通路およびピストン連通路とシリンダ部内におけるピストンとの位置関係によってシリンダ部内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部内のピストンの往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0008】
この場合、電気自動車用制動トルク発生装置における制御装置は、運転者からの直接的な指示、運転者の運転操作および車両の走行状況のうちの少なくとも1つに基づいて機関作動機構の作動を制御して圧縮膨張機関を作動させることができる。ここで、運転者からの直接的な指示は、運転者の手または足による操作を電気的に受け付ける機関作動用操作子を介して行なわれるものであり、例えば、ジョイスティック、トグルスイッチ、押下ボタン、タッチパネル、足踏み式ボタンおよびダイヤルなどの各種操作子に対する操作がある。また、運転者の運転操作とは、運転者が電気自動車を運転するために運転操作用操作子を操縦操作する行為であり、例えば、シフトポジション(セレクトレバーともいう)の操作、アクセルペダルを介した加速操作またはブレーキペダルを介した減速操作がある。また、車両の走行状況とは、電気自動車が備える機器の状態(例えば、バッテリの充電量の状態など)、電気自動車の姿勢(例えば、前輪側が後輪側よりも下方に傾いている状態)、電気自動車の位置(例えば、下り坂の走行)または電気自動車の走行状態(例えば、加速状態または減速状態)であり、これらの状態を電気的に検出する走行状況検出器を用いて検出される。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、吸排気シリンダ連通路は、ピストンが下死点に達した際にのみ空気室に連通する位置に形成されていることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、第1シリンダ連通路はピストンが下死点に達した際にのみ空気室に連通する位置に形成されているため、シリンダ部内に最大量の空気を流入させて大きな制動トルクを発生させることができる。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車輪が連結されて電動モータによって駆動される車軸に対して制動トルクを付与する電気自動車用制動トルク発生装置であって、車軸に連結されて同車軸からのバックトルクによって空気を導入する空気室の容積の減少による空気の圧縮および同容積の増加による空気の膨張のうちの少なくとも一方を行って制動トルクを発生させる圧縮膨張機関と、圧縮膨張機関の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせる機関作動機構と、車軸にバックトルクが作用する際に、機関作動機構の作動を制御することによって圧縮膨張機関を作動させて車軸に制動トルクを付与する制御装置とを備え、圧縮膨張機関は、一方が閉塞されるとともに他方が開口部を有する有底筒状のシリンダ部内に空気室が形成されるシリンダブロックと、シリンダ部内にて直線往復運動して空気室の容積を変化させるピストンと、車軸からのバックトルクによって回転駆動する駆動軸の回転運動をピストンの直線往復運動に変換するクランク機構とを有し、シリンダブロックは、シリンダ部における常にピストンが直線往復運動する摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する排気シリンダ連通路と、排気シリンダ連通路よりも前記開口部側に形成されて前記摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する吸気シリンダ連通路とがそれぞれ形成されており、ピストンは、空気室に連通しつつストローク範囲内で摺動する際に排気シリンダ連通路および吸気シリンダ通路に交互に連通する位置に形成されたピストン連通路を備えることにある。
【0012】
このように構成した本発明の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、シリンダブロックおよびピストンにそれぞれ形成した吸気シリンダ連通路、排気シリンダ連通路およびピストン連通路とシリンダ部内におけるピストンとの位置関係によってシリンダ部内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部内のピストンの往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0013】
また、本発明に係る電気自動車用制動トルク発生装置は、ピストン連通路が吸気シリンダ連通路に連通することでシリンダ部内に吸気が行なわれるとともにピストン連通路が排気シリンダ連通路に連通することでシリンダ部内の排気が行なわれるため、吸気の仕様および排気の仕様をそれぞれ独立して規定することができる。また、電気自動車用制動トルク発生装置は、吸気と排気とが別々のシリンダ連通路で行われるため、吸気路または排気路に特有の設備を設けることができる。例えば、吸気シリンダ連通路には、導入する空気からチリ、ホコリまたは水などの各種異物を除去するフィルタを設けることができる。また、排気シリンダ連通路には、排気音を減衰させる消音機を設けることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、排気シリンダ連通路は、ピストンが上死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されており、吸気シリンダ連通路は、ピストンが下死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、排気シリンダ連通路がピストンが上死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されているとともに、吸気シリンダ連通路がピストンが下死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されているため、シリンダ部内に最大量の空気を流入させて最大の圧縮率で圧縮することができ大きな制動トルクを発生させることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車輪が連結されて電動モータによって駆動される車軸に対して制動トルクを付与する電気自動車用制動トルク発生装置であって、車軸に連結されて同車軸からのバックトルクによって空気を導入する空気室の容積の減少による空気の圧縮および同容積の増加による空気の膨張のうちの少なくとも一方を行って制動トルクを発生させる圧縮膨張機関と、圧縮膨張機関の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせる機関作動機構と、車軸にバックトルクが作用する際に、機関作動機構の作動を制御することによって圧縮膨張機関を作動させて車軸に制動トルクを付与する制御装置とを備え、圧縮膨張機関は、一方が閉塞されるとともに他方が開口部を有する有底筒状のシリンダ部内に空気室が形成されるシリンダブロックと、シリンダ部内にて直線往復運動して空気室の容積を変化させるピストンと、車軸からのバックトルクによって回転駆動する駆動軸の回転運動をピストンの直線往復運動に変換するクランク機構とを有し、シリンダブロックは、シリンダ部における常にピストンが直線往復運動する摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する排気シリンダ連通路が形成されており、ピストンは、空気室に連通しつつストローク範囲内で摺動する際に排気シリンダ連通路に連通した後、前記開口部を通過してシリンダ部の外部に露出する位置に形成されたピストン連通路を備えることにある。
【0017】
このように構成した本発明の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、シリンダブロックおよびピストンにそれぞれ形成した排気シリンダ連通路およびピストン連通路とシリンダ部の内外に対するピストンとの位置関係によってシリンダ部内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部内のピストンの往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0018】
また、本発明に係る電気自動車用制動トルク発生装置は、ピストン連通路がピストンがストローク範囲内で摺動する際に開口部を通過してシリンダ部の外部に露出する位置に形成されて吸気と排気とが別々の経路で行われるため、排気の仕様を吸気の仕様とは独立して規定することができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、排気シリンダ連通路は、ピストンが上死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されていることにある。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、排気シリンダ連通路がピストンが上死点に達した際にのみピストン連通路に連通する位置に形成されているため、シリンダ部内に吸気した空気を最大の圧縮率で圧縮することで大きな制動トルクを発生させることができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、吸排気シリンダ連通路、排気シリンダ連通路および吸気シリンダ連通路のうちの少なくとも1つで構成されるシリンダ連通路およびピストン連通路のうちの少なくとも1つは複数形成されていることにある。
【0022】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、吸排気シリンダ連通路、排気シリンダ連通路および吸気シリンダ連通路のうちの少なくとも1つで構成されるシリンダ連通路およびピストン連通路のうちの少なくとも1つは複数形成されているため、シリンダ部内に対して迅速に吸気または排気を行うことができるとともに、各連通路に不具合が生じた場合における信頼度を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の他の特徴は、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、さらに、シリンダ部内における空気室の気密度を変化させる気密度調整弁を備えることにある。
【0024】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、電気自動車用制動トルク発生装置は、さらに、シリンダ部内における空気室の気密度を変化させる気密度調整弁を備えているため、シリンダ部内に吸気した空気の圧縮率を任意に変更して必要とする大きさの制動トルクを発生させることができる。この場合、気密度調整弁は、運転者または車両のメンテナンス者による手動操作によってシリンダ部内の空気室の気密度を変化させることができるほか、制御装置によって作動を制御することもできる。
【0025】
また、本発明の他の特徴によれば、前記電気自動車用制動トルク発生装置において、シリンダブロックは、トランスミッションを収容するトランスミッションケースの一部に形成されていることにある。
【0026】
このように構成した本発明の他の特徴によれば電気自動車用制動トルク発生装置は、シリンダブロックがトランスミッションを収容するトランスミッションケースの一部に形成されているため、電気自動車の構成を簡単または小型化することができる。この場合、電気自動車用制動トルク発生装置は、シリンダ部内の空気をトランスミッションケースが備えるブリーザに排気するように構成することで電気自動車の構成を簡単または小型化することができる。
【0027】
また、本発明は、電気自動車用制動トルク発生装置の発明として実施できるばかりでなく、この電気自動車用制動トルク発生装置を備えた電気自動車の発明としても実施できるものである。
【0028】
具体的には、電気自動車は、車輪に連結された車軸と、車軸を回転駆動させる電動モータと、車輪を制動するブレーキ装置と、請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載した電気自動車用制動トルク発生装置とを備えればよい。
【0029】
これによれば、電気自動車は、上記電気自動車用制動トルク発生装置と同様の作用効果を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る電気自動車用制動トルク発生装置およびこの電気自動車用制動トルク発生装置を搭載した電気自動車の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電気自動車用制動トルク発生装置200(以下、単に「制動トルク発生装置200」という)を搭載した電気自動車100の全体のシステム構成を概略的に示すブロック図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。また、各図においては、本発明に直接関わらない部分は適宜省略して表わしている。この制動トルク発生装置200は、電気自動車100においてエンジンを駆動源とする自動車のエンジンブレーキに相当する制動トルクを発生させる機械装置であり、ブレーキ装置105a〜105dとは別に設けられるものである。
【0032】
まず、制動トルク発生装置200が搭載される電気自動車100について簡単に説明しておく。電気自動車100は、人や荷物を載せて自力で走行する車両であり、車台101を備えている。車台101は、電気自動車100の車体を支える骨格となる部品であり、鋼材などの金属またはエンジニアプラスチックや繊維強化プラスチックなどの樹脂材を枠状に形成して構成されている。
図1においては、車台101は便宜上電気自動車100の進行方向に沿って延びる長方形形状に示している。この車台101には、前輪車軸102a、102b、後輪車軸103a,103b、トランスミッション106、電動モータ107、バッテリ108および制御装置110をそれぞれ備えている。
【0033】
前輪車軸102a,102bおよび後輪車軸103a,103bは、2つの前輪である車輪104a,104bおよび2つの後輪である車輪104c,104dをそれぞれ保持して車台101を支持するための部品であり、車台101の車幅方向に延びる金属製の棒状体でそれぞれ構成されている。この場合、前輪車軸102a,102bは、差動装置106cを介して連結されている左右それぞれ1つずつの棒状体の両端部に車輪104a,104bが設けられているとともにこれらの車輪104aと車輪104bとの間にトランスミッション106が設けられている。また、後輪車軸103a,103bは、車輪104c,104dをそれぞれ保持する各1つずつの棒状体で構成されている。これらの前輪車軸102a,102bおよび後輪車軸103a,103bは、図示しないサスペンション機構を介して車台101にそれぞれ取り付けられている。
【0034】
車輪104a〜104dは、車台101を前方または後方に移動させるために路面上を転動する左右一対の部品であり、金属製のホイールの外側にゴム製のタイヤが取り付けられて構成されている。この場合、前輪である車輪104a,104bには、図示しないステアリング機構を介して運転者が操作するハンドルに連結されている。そして、これらの車輪104a〜104dには、それぞれブレーキ装置105a〜105dが設けられている。
【0035】
ブレーキ装置105a〜105dは、運転者によるブレーキペダル(図示せず)の操作によって車輪104a〜104dの各回転の減速または停止させるための機械装置であり、ディスクブレーキやドラムブレーキなどの摩擦ブレーキによってそれぞれ構成されている。なお、これらのブレーキ装置105a〜105dは、摩擦ブレーキなどの機械的ブレーキに代えてまたは加えて電気エネルギを回収する電気的な回生ブレーキを備えて構成してもよいことは当然である。
【0036】
トランスミッション106は、電動モータ107の回転を減速して前輪車軸102a,102bに伝達するための機械装置であり、鋼材やアルミニウム材などの金属またはエンジニアプラスチックや繊維強化プラスチックなどの樹脂材からなるケース106a内に減速ギア106b、差動装置106cおよび制動トルク発生装置200をそれぞれ備えて構成されている。減速ギア106bは、前輪車軸102a,102bに設けられて電動モータ107の回転を減速する1段の歯車で構成されている。なお、減速ギア106bは、複数段の歯車列で構成されていてもよいことは当然である。差動装置106cは、前輪である車輪104aと車輪104bとの間の回転差を吸収するための歯車機構であり、前輪車軸102aと前輪車軸102bとの間に設けられている。なお、トランスミッション106は、車輪104a,104bを電動モータ107が直接駆動する場合には不要である。
【0037】
電動モータ107は、前輪である車輪104a,104bをそれぞれ回転駆動させる原動機であるとともに電気自動車100のバックトルクで発電する発電装置であり、制御装置110によって作動が制御される。本実施形態においては、電動モータ107は、埋込磁石モータによって構成されているが、他のモータ、例えば、誘導モータ、表面磁石同期モータ、同期リラクタンスモータ、スイッチトリラクタンスモータまたは直流モータで構成することもできる。この電動モータ107は、回転駆動軸107aが減速ギア106bを介して前輪車軸102a,102bに連結されているとともに制動トルク発生装置200に連結されている。
【0038】
なお、本実施形態においては、電動モータ107は、前輪である車輪104a,104bを回転駆動させるように構成したが、車輪104a,104bに代えて後輪である車輪104c,104dを回転駆動するように構成してもよいし、車輪104a,104bに加えて共通の電動モータ107でまたは別の電動モータ107で回転駆動するように構成してもよい。また、電動モータ107は、各車輪104a〜104dの各ホイール内に設けた所謂インホイールモータで構成することもできる。
【0039】
バッテリ108は、電動モータ107のほか電気自動車100が備える各種電気機器にそれぞれ電力を供給するための電源装置である。このバッテリ108は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池のほか、水素酸素燃料電池、化学電池または金属空気電池など電気を発生させるように構成されていればよく、一次電池であってもよい。本実施形態においては、バッテリ108は、二次電池で構成されており、図示しない外部電源(例えば、家庭用100V電源または200V電源など)から電力の供給を受けて蓄電する。このバッテリ108は、インバータ108aを介して電動モータ107に電気的に接続されている。
【0040】
インバータ108aは、バッテリ108からの直流を電気自動車100のアクセルペダル(図示せず)の開度に応じて適切な周波数の交流に変換して電動モータ107に流す。また、インバータ108aは、電気自動車100の減速時に電動モータ107で発電した交流を直流に変換してバッテリ108に返して充電する電気回路である。
【0041】
制御装置110は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、電動モータ107の作動のほか、電気自動車100の全体の作動を総合的に制御する。この場合、制御装置110は、ROMなどの記憶装置に予め記憶された制動トルク発生プログラム(図示せず)を実行することによって操作子111からの指示に基づいて、制動トルク発生装置200の作動を制御する。
【0042】
操作子111は、運転者が制御装置110に対して制動トルク発生装置200の作動開始または作動停止を指示するための入力装置であり、運転者が手操作または足操作するジョイスティック、トグルスイッチ、押下ボタン、ダイヤル、フットスイッチまたは足踏みペダルなどで構成されている。本実施形態においては、操作子111は、電気自動車100における5つのシフトポジションを選択するシフトレバーで構成されている。この場合、5つのシフトポジションとは、パーキング「P」、後退「R」、ニュートラル「N」、ドライブ「D」およびロー「L」であり、このロー「L」が制動トルク発生装置200の作動を開始させるポジションでありエンジンを搭載した自動車におけるローギア選択のシフトポジションに相当する。
【0043】
また、この電気自動車100は、電気自動車100の外筐を構成するとともに室内空間を構成するボディ、運転者が着座するシート、運転者が車輪104a,104bを操舵するハンドル、運転者が踏み込むことで電動モータ107を作動させて電気自動車100を加速させるアクセルペダルおよび運転者が踏み込むことでブレーキ装置105a〜105dを作動させて電気自動車100を制動するブレーキペダルなどをそれぞれ備えているが本発明に直接関わらないため、それらの説明については省略する。
【0044】
制動トルク発生装置200は、
図2〜
図5にそれぞれ示すように、主として、圧縮膨張機関210、気密度調整弁220、消音器221、クラッチ装置222および前記制御装置110で構成されている。この場合、圧縮膨張機関210、気密度調整弁220、消音器221、クラッチ装置222は、トランスミッション106のケース106a内にそれぞれ設けられている。
【0045】
圧縮膨張機関210は、空気を吸引して圧縮した後に排気する機械装置であり、主として、駆動軸211、シリンダブロック212、ピストン214、連接棒217およびクランク218をそれぞれ備えて構成されている。
【0046】
駆動軸211は、この圧縮膨張機関210を駆動させるための部品であり、金属材または樹脂材を円筒状に形成して構成されている。この場合、駆動軸211は、鋼材またはアルミニウム材などの金属材、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂など)または熱可塑性樹脂(例えば、フッ素樹脂など)などの樹脂材料で構成されている。この駆動軸211は、一方の端部がクラッチ装置222に接続されるとともに他方の端部がシリンダブロック212内に貫通してクランク218に連結されている。また、駆動軸211の内側には、ベアリングを介して電動モータ107の回転駆動軸107aが貫通している。
【0047】
シリンダブロック212は、ピストン214、連接棒217およびクランク218をそれぞれ可動可能な状態で収容する部品であり、シリンダ部212aおよびクランク部212cを有した中空のブロック体で構成されている。この場合、シリンダブロック212は、アルミニウム材などの金属材、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂など)または熱可塑性樹脂(例えば、フッ素樹脂など)などの樹脂材料で構成することができる。
【0048】
シリンダ部212aは、ピストン214を往復摺動可能に支持するとともにこのピストン214とともに空気室216を形成する部分であり一方が開口するとともに他方が閉塞する有底円筒状に形成されている。このシリンダ部212aは、吸排気シリンダ連通路213が形成されている。
【0049】
吸排気シリンダ連通路213は、シリンダ部212a内に形成される空気室216とシリンダブロック212の外部である大気中とを連通させて空気を吸排気させるための部分であり、シリンダ部212aの側面を貫通してシリンダ部212aに開口する貫通孔によって構成されている。この吸排気シリンダ連通路213は、ピストン214が下死点に達した際にのみシリンダ部212a内に連通する位置に形成されている。
【0050】
また、吸排気シリンダ連通路213は、本実施形態においては、2つの貫通孔がピストン214を介して互いに対向する位置に形成されて構成されている。また、これら2つの吸排気シリンダ連通路213は、それぞれ連絡管213aを介して大気に連通している。この場合、吸排気シリンダ連通路213または連絡管213aは、導入する外気からチリ、ホコリまたは水などの各種異物を除去するフィルタを備えるようにしてもよい。
【0051】
また、このシリンダ部212aは、前記一方の端部である開口部212bにクランク部212cが一体的に形成されるとともに、他方の端部に気密度調整管219が設けられている。クランク部212cは、電動モータ107の回転駆動軸107aおよび駆動軸211がそれぞれ貫通するとともにこれらの回転駆動軸107aおよび駆動軸211の軸芯を中心にクランク218が回転運動する部分であり、シリンダ部212aに連通した状態で同シリンダ部212aに直交する円筒状に形成されている。このクランク部212cは、図示しない貫通孔を介してシリンダブロック212の外部の大気に連通している。
【0052】
ピストン214は、シリンダ部212a内を往復摺動するとともに前記シリンダ部212aとともに空気室216を形成する部品であり、シリンダブロック212と同様の金属材または樹脂材を円柱状に形成して構成されている。このピストン214には、ピストン連通路215が形成されている。
【0053】
ピストン連通路215は、空気室216に連通しつつ吸排気シリンダ連通路213に連通することで空気室216内の空気を吸排気シリンダ連通路213に導くための部分であり、ピストン214内を貫通する貫通孔によって構成されている。具体的には、ピストン連通路215は、ピストン214の側面に開口して2つの吸排気シリンダ連通路213にそれぞれ連通する側面連通路215aとピストン214の先端面に開口して側面連通路215aに連通する空気室連通路215bとで構成されている。この場合、側面連通路215aは、ピストン214が上死点に達した際に吸排気シリンダ連通路213に連通する位置に形成されている。
【0054】
空気室216は、吸排気シリンダ連通路213を介して大気中から導入した空気を圧縮または膨張させるための空間であり、ピストン214の往復変位によって容積が減少または増加する。この空気室216は、吸排気シリンダ連通路213および気密度調整管219を介して大気と連通している。
【0055】
連接棒217は、クランク218との連動によってピストン214の往復直線運動を回転運動へ変換する部品であり、シリンダブロック212と同様の金属材または樹脂材を棒状に形成して構成されている。クランク218は、連接棒217との連動によってピストン214の往復直線運動を回転運動へ変換する部品であり、シリンダブロック212と同様の金属材または樹脂材を棒状に形成して構成されている。これらの連接棒217とクランク218とが、本発明に係るクランク機構に相当する。
【0056】
気密度調整管219は、シリンダ部212a内を大気に連通させるための管路を構成する部品であり、シリンダ部212aにおける開口部212bとは反対側の閉塞されている側の端面に外側に延びて形成されている。この場合、気密度調整管219は、シリンダブロック212に対して一体的または別体で構成することができる。また、気密度調整管219は、シリンダブロック212と同様の金属材または樹脂材で構成されている。この気密度調整管219には、気密度調整弁220および消音器221がそれぞれ設けられている。
【0057】
気密度調整弁220は、気密度調整管219内を流通する空気の流量を加減することで空気室216の気密度を調整するための器具であり、主として弁体220aおよび開閉アクチュエータ220bをそれぞれ備えて構成されている。弁体220aは、気密度調整管219内を全開から全閉までの間で開度を増減させる部品である。この弁体220aは、本実施形態においては
図2において破線矢印で示すように左右方向に往復変位するシャッター式の板状に形成されているが、気密度調整管219内を塞ぐ板状体、球体または棒体に空気を流通させるための貫通孔を設けて構成することもできる。
【0058】
開閉アクチュエータ220bは、気密度調整管219内にて弁体220aを進退させるための駆動源であり、制御装置110によって作動が制御される。この開閉アクチュエータ220bは、サーボモータやステップモータなどの電動モータで構成することができる。なお、開閉アクチュエータ220bは、気密度調整管219内において弁体220aを回転させることにより空気の流通量を変化させるように構成することもできる。すなわち、気密度調整弁220は、気密度調整管219内を流通する空気の流量を調整する電磁弁で構成することができる。
【0059】
消音器221は、気密度調整管219から空気を排気する際の音を低減するための器具である。この消音器221は、エンジンやコンプレッサなどの排気音を低減する一般的な消音機構、例えば、気密度調整管219よりも太い内径の管路内に気密度調整管219に接続されて多数の孔を有した管路を設けた構造で構成されている。
【0060】
クラッチ装置222は、圧縮膨張機関210の駆動軸211と電動モータ107の回転駆動軸107aとの間に配置されて両者間で回転駆動力の伝達状態と遮断状態とを選択的に切り替える装置であり、制御装置110によって作動が制御される電磁クラッチで構成されている。これにより、クラッチ装置222は、前輪車軸102a,102bと圧縮膨張機関210と間に設けられて両者間の回転駆動力の伝達状態と遮断状態とを選択的に切り替える。
【0061】
(制動トルク発生装置200の作動)
次に、このように構成した制動トルク発生装置200の作動について説明する。この制動トルク発生装置200は、電気自動車100の走行中に運転者による操作子111の操作に起因して制御装置110によって起動される。したがって、制御装置110は、運転者から制動トルク発生装置200の起動に関する指示がない場合には制動トルク発生装置200が制動トルクを発生させない状態とする。
【0062】
具体的には、制御装置110は、運転者によって操作子111がロー「L」のシフトポジションに操作されない場合には、クラッチ装置222の作動を制御して駆動軸211と電動モータ107の回転駆動軸107aとを遮断する。これにより、制動トルク発生装置200は、駆動軸211が回転駆動しないため制動トルクが発生しない状態となる。したがって、電気自動車100は、運転者が操作子111をドライブ「D」のシフトポジションに操作することで前輪車軸102a,102bに制動トルクが作用しない状態で走行することができる。
【0063】
このような電気自動車100が走行中において、運転者が制動トルク発生装置200による制動トルクの発生を望んだ場合には、運転者は操作子111をロー「L」のシフトポジションに操作して制御装置110に対して制動トルク発生装置200の作動の開始を指示する。ここで、運転者が制動トルク発生装置200による制動トルクの発生を望む場合とは、電気自動車100におけるバッテリ108が満充電の状態で回生ブレーキトルクが期待できない場合のほか、長いまたは急な下り坂の降坂時または高速での走行中にブレーキ装置105a〜105dを作動させることなく減速を行いたい場合などにおいて回生ブレーキトルク以上の制動トルクを得たい場合など制動トルクを増大させたい場合である。したがって、制動トルク発生装置200を作動させて制動トルクを発生させる場合とは、電気自動車100が走行中であって運転者がアクセルの踏み込みを行なわないまたは弛めた状態で行われることが通常の使用場面である。
【0064】
前記制動トルク発生装置200の作動の開始の指示に応答して制御装置110は、ROMなどの記憶装置に予め記憶されている制動トルク発生プログラムを実行することにより制動トルク発生装置200の作動を開始させる。具体的には、制御装置110は、クラッチ装置222の作動を制御して駆動軸211と電動モータ107の回転駆動軸107aとを接続して回転駆動軸107aの回転駆動力が駆動軸211に伝達される状態とする。これにより、圧縮膨張機関210は、車輪104a,104bからのバックトルクによる回転駆動力によってピストン214がシリンダ部212a内で往復摺動を開始する。なお、
図2〜
図5においては、クランク218の回転駆動方向を破線矢印で示している。
【0065】
この場合、制御装置110は、運転者によって予め指示された制動トルクの大きさに応じて気密度調整弁220の作動を制御して気密度調整管219内での開度を全閉状態から全開状態までの範囲で規定する。例えば、制御装置110は、運転者が最大の制動トルクの発生を指示した場合には気密度調整弁220の作動を制御して気密度調整管219内での開度を0%の全閉状態とする。また、制御装置110は、運転者が最小の制動トルクの発生を支持した場合には気密度調整弁220の作動を制御して気密度調整管219内での開度を100%の全開状態とする。
【0066】
圧縮膨張機関210は、
図2に示すように、作動を開始してピストン214がシリンダ部212a内において下死点に位置する場合においては吸排気シリンダ連通路213が空気室216に開口して連通するため、空気室216内に連絡管213aを介して外気が導入される(破線矢印参照)。次に、圧縮膨張機関210は、
図3に示すように、ピストン214が上死点に向かうことで空気室216の容積を減少させる容積減少工程においては、吸排気シリンダ連通路213がピストン214によって塞がれるとともに空気室216内の空気が圧縮される。
【0067】
この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって圧縮されるが、この圧縮によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関210は、空気の圧縮工程で制動トルクを発生させる。また、ピストン214内に形成されたピストン連通路215内の空気についてもピストン連通路215が空気室216と連通しているため空気室216内の空気と同様に圧縮される。また、圧縮膨張機関210は、気密度調整弁220の開度が全閉の場合においては空気室216内の空気が気密度調整管219を介して大気中に漏れることはない。
【0068】
次に、圧縮膨張機関210は、
図4に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において上死点に位置することでピストン連通路215における側面連通路215aが吸排気シリンダ連通路213に連通するため、空気室216内の空気は吸排気シリンダ連通路213および連絡管213aを介して大気中に放出される(破線矢印参照)。
【0069】
次に、圧縮膨張機関210は、
図5に示すように、ピストン214が下死点に向かうことで空気室216の容積が増加する容積増加工程においては、空気室216内に残った空気が膨張して空気室216内の圧力は低下する。この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって膨張されるが、この膨張によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関210は、空気の膨張工程で制動トルクを発生させる。そして、圧縮膨張機関210は、
図2に示すように、ピストン214が再び下死点に位置することで吸排気シリンダ連通路213が空気室216に連通して空気室216内に外気が導入される。
【0070】
圧縮膨張機関210は、これらの圧縮工程と膨張行程とを繰り返し実行することで制動トルクを断続的に発生させる。圧縮膨張機関210が発生させた制動トルクは、回転駆動軸107a、減速ギア106bおよび差動装置106cを介して前輪車軸102a,102bに伝達される。すなわち、制御装置110は、制御装置110に予め設定された開度に従って気密度調整弁220の開度を制御することで回転駆動軸107aに制動トルクを作用させることができる。これにより、運転者は、電気自動車100に制動トルクを作用させることができる。
【0071】
なお、圧縮膨張機関210は、気密度調整弁220の開度が全閉以外の開いた状態で作動する場合においては、空気の圧縮工程において空気室216内の空気の一部が気密度調整管219を介して大気中に流出するとともに空気の膨張行程において空気室216内に大気中の空気が気密度調整管219を介して流入するため、発生させる制動トルクの大きさが気密度調整弁220の開度に応じて小さくなる。
【0072】
次に、運転者は、制動トルク発生装置200による制動トルクの発生を解除した場合には、運転者は操作子111をロー「L」のシフトポジションから他のシフトポジション、例えば、ドライブ「D」のシフトポジションに操作して制御装置110に対して制動トルク発生装置200の作動の停止を指示する。この指示に応答して制御装置110は、クラッチ装置222の作動を制御して駆動軸211と電動モータ107の回転駆動軸107aとを遮断する。これにより、運転者は、電気自動車100に制動トルクを作用させた状態を解除することができる。すなわち、制動トルク発生装置200は、操作子111がロー「L」のシフトポジションに位置した状態で車輪104a,104bからバックトルクが作用する限り制動トルクを発生させ続けることができる。
【0073】
上記作動説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、制動トルク発生装置200は、シリンダブロック212およびピストン214にそれぞれ形成した吸排気シリンダ連通路213およびピストン連通路215とシリンダ部212a内におけるピストン214との位置関係によってシリンダ部212a内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部212a内のピストン214の往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0074】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0075】
例えば、上記第1実施形態においては、吸排気シリンダ連通路213は、ピストン214が下死点に達した際にのみシリンダ部212a内に連通する位置に形成されている。しかし、吸排気シリンダ連通路213は、ピストン214の上死点と下死点との間のストローク範囲内の位置で空気室216とシリンダブロック212の外部とを連通させるように形成されていればよい。したがって、吸排気シリンダ連通路213は、ピストン214のストローク範囲内における下死点よりも上死点側に形成されていてもよい。
【0076】
また、上記実施形態においては、2つの吸排気シリンダ連通路213をそれぞれ1つずつの配管で大気に連通するように構成した。しかし、各吸排気シリンダ連通路213は、吸気経路および排気経路をそれぞれ別々に備えて構成することもできる。例えば、
図6および
図7にそれぞれ示すように、圧縮膨張機関210は、各吸排気シリンダ連通路213に対して2つに分岐する分岐配管223をそれぞれ設けるとともに、それぞれ分岐する2つの配管に流入側一方向弁224および流出側一方向弁225をそれぞれ設ける。
【0077】
ここで、流入側一方向弁224は、大気側から空気室216側への空気の流入が可能で空気室216側から大気側への空気の流出が不能な一方向弁である。また、流出側一方向弁225は、空気室216側から大気側への空気の流出が可能で大気側から空気室216側への空気の流入が不能な一方向弁である。
【0078】
このように構成した圧縮膨張機関210によれば、ピストン214がシリンダ部212a内において下死点に位置する場合においては、
図6に示すように、空気室216には流入側一方向弁224からそれぞれ外気が導入される(破線矢印参照)。その後、
図7に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において上死点に位置する場合においては、空気室216の空気は流出側一方向弁225からそれぞれ大気中に放出される(破線矢印参照)。したがって、圧縮膨張機関210は、空気室216に流入する相対的に冷たい空気と空気室216から排出される相対的に暖かい空気とが別経路を流れることで混ざり合うことを防止することができる。
【0079】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る電気自動車用制動トルク発生装置およびこの電気自動車用制動トルク発生装置を搭載した電気自動車の第2実施形態について
図8〜
図11を参照しながら説明する。この第2実施形態における電気自動車100に搭載される制動トルク発生装置200は、圧縮膨張機関230においてシリンダ部212aの空気室216内への吸気と排気とを別々の通路で行う点において上記第1実施形態と異なる。したがって、この第2実施形態における制動トルク発生装置200においては、上記第1実施形態における圧縮膨張機関210と異なる部分を中心に説明して、両実施形態において共通する部分や対応する部分については適宜説明を省略する。なお、
図8〜
図11においても、クランク218の回転駆動方向を破線矢印で示している。
【0080】
(圧縮膨張機関230の構成)
圧縮膨張機関230は、
図8〜
図11にそれぞれ示すように、シリンダブロック212に吸気シリンダ連通路231および排気シリンダ連通路232がそれぞれ形成されている。また、圧縮膨張機関230は、ピストン214にピストン連通路233が形成されている。
【0081】
吸気シリンダ連通路231は、シリンダ部212a内に形成される空気室216とシリンダブロック212の外部である大気中とを連通させて外気を吸気させるための部分であり、シリンダ部212aの側面を貫通して形成されている。この場合、吸気シリンダ連通路231は、排気シリンダ連通路232よりも開口部212b側の位置であってピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通する貫通孔によって構成されている。また、吸気シリンダ連通路231は、ピストン214が下死点に達した際にのみピストン連通路233に連通する位置に形成されている。また、吸気シリンダ連通路231は、本変形例においては、2つの貫通孔がピストン214を介して互いに対向する位置に形成されている。
【0082】
排気シリンダ連通路232は、シリンダ部212a内に形成される空気室216とシリンダブロック212の外部である大気中とを連通させて空気室216内の空気を大気中に排気させるための部分であり、シリンダ部212aの側面を貫通して形成されている。この場合、排気シリンダ連通路232は、吸気シリンダ連通路231よりも気密度調整管219側の位置であってピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通する貫通孔によって構成されている。また、排気シリンダ連通路232は、ピストン214が上死点に達した際にのみピストン連通路233に連通する位置に形成されている。また、排気シリンダ連通路232は、本変形例においては、2つの貫通孔がピストン214を介して互いに対向する位置に形成されている。
【0083】
ピストン連通路233は、空気室216に連通しつつ吸気シリンダ連通路231および排気シリンダ連通路232にそれぞれ連通することで空気室216内に対して空気を吸排気するための部分であり、ピストン214内を貫通する貫通孔によって構成されている。具体的には、ピストン連通路233は、ピストン214の側面に開口してそれぞれ2つずつの吸気シリンダ連通路231および排気シリンダ連通路232にそれぞれ連通する側面連通路233aとピストン214の先端面に開口して側面連通路233aに連通する空気室連通路233bとで構成されている。この場合、側面連通路233aは、ピストン214が下死点に達した際に吸気シリンダ連通路231に連通する位置に形成されているとともに、ピストン214が上死点に達した際に排気シリンダ連通路232に連通する位置に形成されている。
【0084】
(圧縮膨張機関230の作動)
このように構成した制動トルク発生装置200の作動について説明する。圧縮膨張機関230は、
図8に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において下死点に位置する場合においてはピストン連通路233における側面連通路233aが吸気シリンダ連通路231に連通するため、空気室216内に連絡管213aと同様の図示しない連絡管を介して外気が導入される(破線矢印参照)。次に、圧縮膨張機関230は、
図9に示すように、ピストン214が上死点に向かうことで空気室216の容積を減少させる容積減少工程においては、吸気シリンダ連通路231がピストン214によって塞がれるとともに空気室216内の空気が圧縮される。
【0085】
この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって圧縮されるが、この圧縮によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関230は、空気の圧縮工程で制動トルクを発生させる。また、ピストン214内に形成されたピストン連通路233内の空気についてもピストン連通路233が空気室216と連通しているため空気室216内の空気と同様に圧縮される。
【0086】
次に、圧縮膨張機関230は、
図10に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において上死点に位置することでピストン連通路233における側面連通路233aが排気シリンダ連通路232に連通するため、空気室216内の空気は排気シリンダ連通路232および連絡管213aと同様の図示しない連絡管を介して大気中に放出される(破線矢印参照)。
【0087】
次に、圧縮膨張機関230は、
図11に示すように、ピストン214が下死点に向かうことで空気室216の容積が増加する容積増加工程においては、空気室216内に残った空気が膨張して空気室216内の圧力は低下する。この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって膨張されるが、この膨張によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関230は、空気の膨張工程で制動トルクを発生させる。そして、圧縮膨張機関230は、
図8に示すように、ピストン214が再び下死点に位置することでピストン連通路233の側面連通路233aが吸気シリンダ連通路231に連通して空気室216内に外気が導入される。
【0088】
圧縮膨張機関230は、これらの圧縮工程と膨張行程とを繰り返し実行することで制動トルクを断続的に発生させる。圧縮膨張機関230が発生させた制動トルクは、回転駆動軸107a、減速ギア106bおよび差動装置106cを介して前輪車軸102a,102bに伝達される。すなわち、制御装置110は、制御装置110に予め設定された開度に従って気密度調整弁220の開度を制御することで回転駆動軸107aに制動トルクを作用させることができる。これにより、運転者は、電気自動車100に制動トルクを作用させることができる。
【0089】
上記作動説明からも理解できるように、上記第2実施形態によれば、制動トルク発生装置200は、シリンダブロック212およびピストン214にそれぞれ形成した吸気シリンダ連通路231、排気シリンダ連通路232およびピストン連通路233とシリンダ部212a内におけるピストン214との位置関係によってシリンダ部212a内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部212a内のピストン214の往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0090】
また、上記第2実施形態に係る制動トルク発生装置200は、ピストン連通路233が吸気シリンダ連通路231に連通することでシリンダ部212a内に吸気が行なわれるとともにピストン連通路233が排気シリンダ連通路232に連通することでシリンダ部212a内の排気が行なわれるため、吸気の仕様および排気の仕様をそれぞれ独立して規定することができる。また、制動トルク発生装置200は、吸気と排気とが別々のシリンダ連通路で行われるため、吸気路または排気路に特有の設備を設けることができる。例えば、吸気シリンダ連通路231には、導入する空気からチリ、ホコリまたは水などの各種異物を除去するフィルタ(図示せず)を設けることができる。また、排気シリンダ連通路232には、排気音を減衰させる消音機(図示せず)を設けることができる。
【0091】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0092】
例えば、上記第2実施形態においては、吸気シリンダ連通路231は、ピストン214が下死点に達した際にのみピストン連通路233に連通する位置に形成した。また、排気シリンダ連通路232は、ピストン214が上死点に達した際にのみピストン連通路233に連通する位置に形成されている。しかし、吸気シリンダ連通路231は、シリンダ部212aにおける排気シリンダ連通路232よりも開口部212b側の位置でピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通するように形成されていればよい。また、排気シリンダ連通路232は、シリンダ部212aにおける吸気シリンダ連通路231よりも気密度調整管219側の位置でピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通するように形成されていればよい。したがって、吸気シリンダ連通路231は、ピストン214のストローク範囲内における下死点よりも上死点側に形成されていてもよい。また、排気シリンダ連通路232は、ピストン214のストローク範囲内における上死点よりも下死点側に形成されていてもよい。
【0093】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る電気自動車用制動トルク発生装置およびこの電気自動車用制動トルク発生装置を搭載した電気自動車の第3実施形態について
図12〜
図15を参照しながら説明する。この第3実施形態における電気自動車100に搭載される制動トルク発生装置200は、圧縮膨張機関240においてシリンダ部212aの空気室216内への吸気がシリンダ部212aの外部で行われる点において上記第2実施形態と異なる。したがって、この第3実施形態における制動トルク発生装置200においては、上記第2実施形態における圧縮膨張機関210と異なる部分を中心に説明して、両実施形態において共通する部分や対応する部分については適宜説明を省略する。なお、
図12〜
図15においてもクランク218の回転駆動方向を破線矢印で示している。
【0094】
(圧縮膨張機関240の構成)
圧縮膨張機関240は、
図12〜
図15にそれぞれ示すように、シリンダブロック212に排気シリンダ連通路241がそれぞれ形成されている。また、圧縮膨張機関230は、ピストン214にピストン連通路242が形成されている。
【0095】
排気シリンダ連通路241は、排気シリンダ連通路232と同様に、シリンダ部212a内に形成される空気室216とシリンダブロック212の外部である大気中とを連通させて空気室216内の空気を大気中に排気させるための部分であり、シリンダ部212aの側面を貫通して形成されている。この場合、排気シリンダ連通路241は、ピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通する貫通孔によって構成されている。また、排気シリンダ連通路241は、ピストン214が上死点に達した際にのみピストン連通路242に連通する位置に形成されている。また、排気シリンダ連通路241は、本変形例においては、2つの貫通孔がピストン214を介して互いに対向する位置に形成されている。
【0096】
ピストン連通路242は、空気室216に連通しつつ排気シリンダ連通路232およびシリンダ部212aの外部にそれぞれ連通することで空気室216内に対して空気を吸排気するための部分であり、ピストン214内を貫通する貫通孔によって構成されている。具体的には、ピストン連通路242は、ピストン214の側面に開口して2つ排気シリンダ連通路241にそれぞれ連通する側面連通路242aとピストン214の先端面に開口して側面連通路242aに連通する空気室連通路242bとで構成されている。この場合、側面連通路242aは、ピストン214が下死点に達した際にシリンダ部212aの外部であるクランク部212c内に露出する位置に形成されているとともに、ピストン214が上死点に達した際に排気シリンダ連通路241に連通する位置に形成されている。また、クランク部212cは、通気口212dによってシリンダブロック212の外部の大気と連通している。
【0097】
(圧縮膨張機関240の作動)
このように構成した制動トルク発生装置200の作動について説明する。圧縮膨張機関240は、
図12に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において下死点に位置する場合においてはピストン連通路233における側面連通路233aがシリンダ部212aの外部に露出するため、大気に連通するクランク部212cを介して外気が導入される(破線矢印参照)。次に、圧縮膨張機関230は、
図13に示すように、ピストン214が上死点に向かうことで空気室216の容積を減少させる容積減少工程においては、ピストン連通路242がシリンダ部212aによって塞がれるとともに空気室216内の空気が圧縮される。
【0098】
この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって圧縮されるが、この圧縮によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関240は、空気の圧縮工程で制動トルクを発生させる。また、ピストン214内に形成されたピストン連通路242内の空気についてもピストン連通路242が空気室216と連通しているため空気室216内の空気と同様に圧縮される。
【0099】
次に、圧縮膨張機関240は、
図14に示すように、ピストン214がシリンダ部212a内において上死点に位置することでピストン連通路242における側面連通路242aが排気シリンダ連通路241に連通するため、空気室216内の空気は排気シリンダ連通路241および連絡管213aと同様の図示しない連絡管を介して大気中に放出される(破線矢印参照)。
【0100】
次に、圧縮膨張機関240は、
図15に示すように、ピストン214が下死点に向かうことで空気室216の容積が増加する容積増加工程においては、空気室216内に残った空気が膨張して空気室216内の圧力は低下する。この場合、空気室216内の空気は車輪104a,104bからのバックトルクによって膨張されるが、この膨張によってバックトルクを消耗させる負荷が制動トルクである。すなわち、圧縮膨張機関240は、空気の膨張工程で制動トルクを発生させる。そして、圧縮膨張機関240は、
図12に示すように、ピストン214が再び下死点に位置することでシリンダ部212aの外部に露出するため、大気に連通するクランク部212cを介して外気が導入される。
【0101】
圧縮膨張機関240は、これらの圧縮工程と膨張行程とを繰り返し実行することで制動トルクを断続的に発生させる。圧縮膨張機関240が発生させた制動トルクは、回転駆動軸107a、減速ギア106bおよび差動装置106cを介して前輪車軸102a,102bに伝達される。すなわち、制御装置110は、制御装置110に予め設定された開度に従って気密度調整弁220の開度を制御することで回転駆動軸107aに制動トルクを作用させることができる。これにより、運転者は、電気自動車100に制動トルクを作用させることができる。
【0102】
上記作動説明からも理解できるように、上記第3実施形態によれば、制動トルク発生装置200は、シリンダブロック212およびピストン214にそれぞれ形成した排気シリンダ連通路241およびピストン連通路242とシリンダ部212aの内外に対するピストン214との位置関係によってシリンダ部212a内に対して空気の流入または流出が行なわれるため、シリンダ部212a内のピストン214の往復摺動に同期させる流量調整弁を必ずしも必要とすることなく大きな制動トルクを効率的に発生させることができる。
【0103】
また、本発明に係る制動トルク発生装置200は、ピストン連通路242がピストン214がストローク範囲内で摺動する際に開口部212bを通過してシリンダ部212aの外部に露出する位置に形成されて吸気と排気とが別々の経路で行われるため、排気の仕様を吸気の仕様とは独立して規定することができる。
【0104】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0105】
例えば、上記第3実施形態においては、排気シリンダ連通路241は、ピストン214が上死点に達した際にのみピストン連通路242に連通する位置に形成されている。しかし、排気シリンダ連通路241は、ピストン214が常に摺動する摺動面に開口しつつシリンダブロック212の外部に連通するように形成されていればよい。したがって、排気シリンダ連通路241は、ピストン214のストローク範囲内における上死点よりも下死点側に形成されていてもよい。
【0106】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1実施形態、上記第2実施形態および第3実施形態の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例において、上記各実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0107】
例えば、上記各実施形態における制動トルク発生装置200は、吸排気シリンダ連通路213、吸気シリンダ連通路231、排気シリンダ連通路232および排気シリンダ連通路241は、それぞれピストン214を介して対向配置される2つの貫通孔で構成した。しかし、吸排気シリンダ連通路213、吸気シリンダ連通路231、排気シリンダ連通路232および排気シリンダ連通路241は、それぞれ少なくとも1つずつ形成されていればよく、3つ以上に形成されていてよい。
【0108】
また、上記各実施形態における制動トルク発生装置200は、気密度調整管219および気密度調整弁220をそれぞれ備えて構成した。しかし、制動トルク発生装置200は、気密度調整管219および気密度調整弁220をそれぞれ省略して構成することもできる。
【0109】
また、上記各実施形態における制動トルク発生装置200は、トランスミッション106のケース106a内に配置した。しかし、制動トルク発生装置200は、トランスミッション106のケース106aの一部を利用して構成することができる。具体的には、制動トルク発生装置200は、
図16に示すように、トランスミッション106のケース106aの一部に上記第2実施形態における圧縮膨張機関230と同様の圧縮膨張機関250を形成する。
【0110】
この圧縮膨張機関250は、トランスミッション106のケース106aの一部にシリンダブロック212に相当するシリンダ251を形成する。この場合、シリンダ251は、トランスミッション106のケース106aの一部にシリンダ部212aに相当するシリンダ部251aが形成されるがクランク部212cに相当する部分は不要である。
【0111】
また、シリンダ部251aには、上記第2実施形態における吸気シリンダ連通路231に相当する吸気シリンダ連通路252をケース106aの外部に連通するように形成する。また、シリンダ部251aには、上記第2実施形態における排気シリンダ連通路232に相当する排気シリンダ連通路253をケース106aに形成された消音機構としてのブリーザ109に連通するように形成する。なお、排気シリンダ連通路253は、ケース106aの外部に直接連通するように形成することもできる。
【0112】
これによれば、制動トルク発生装置200は、シリンダ251におけるシリンダ部251aがトランスミッション106を収容するケース106aの一部に形成されているため、電気自動車100の構成を簡単または小型化することができる。なお、
図16においてはトランスミッション106の図示を省略している。
【0113】
また、制動トルク発生装置200は、トランスミッション106のケース106aの外に設けることもできる。
【0114】
また、上記各実施形態においては、制動トルク発生装置200は、制動トルクの発生を望まない場合においては、クラッチ装置222の作動を制御して駆動軸211と電動モータ107の回転駆動軸107aとを遮断するように構成した。すなわち、クラッチ装置222は、本発明に係る機関作動機構に相当する。
【0115】
しかし、制動トルク発生装置200は、クラッチ装置222を遮断状態とする制御に代えて、気密度調整弁220の作動を制御して気密度調整管219内での開度を全開または全閉することで制動トルク発生装置200の起動または停止を制御することもできる。この場合、制動トルク発生装置200は、クラッチ装置222を省略して構成することができる。すなわち、気密度調整弁220は、本発明に係る機関作動機構として機能させることもできる。この機関作動機構は、圧縮膨張機関210の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせるように構成されていればよく、必ずしも上記各実施形態に限定されるものはない。
【0116】
また、上記各実施形態においては、制動トルク発生装置200は、1つの圧縮膨張機関210,230,240を備えて構成した。しかし、制動トルク発生装置200は、2つ以上の圧縮膨張機関210,230,240を備えて構成することもできる。これによれば、制動トルク発生装置200は、より大きな制動トルクを発生させることができる。
【0117】
また、上記各実施形態においては、制動トルク発生装置200は、圧縮膨張機関210,230,240をトランスミッション106のケース106a内にて電動モータ107の回転駆動軸107aにクラッチ装置222を介して連結した。しかし、制動トルク発生装置200は、前輪車軸102a,102bおよび/または後輪車軸103a,103bに圧縮膨張機関210,230,240を連結して構成することもできる。
【0118】
また、上記各実施形態においては、制動トルク発生装置200は、操作子111が「L」のシフトポジションに操作されることで作動が開始するように構成した。しかし、制動トルク発生装置200は、操作子111が「D」のシフトポジションに位置した状態であっても作動が開始するように構成することができる。例えば、制動トルク発生装置200は、制動トルク発生装置200の作動を開始させるための操作子を別に設けてもよいし、ブレーキ装置105a〜105dの温度を監視して同温度が所定温度以上になった場合にブレーキ装置105a〜105dの作動とともに作動するように構成することもできる。
【0119】
例えば、
図1の破線で示すように、制動トルク発生装置200は、操作子111の操作によるシフトチェンジに連動した作動の開始または停止の制御に代えてまたは加えて運転者による直接的な操作によって制動トルク発生装置200の作動の開始または停止を制御装置110に指示する操作子112を備えて構成することができる。この場合、操作子112は、運転者による回動操作によって圧縮膨張機関210,230,240の作動の開始または停止および気密度調整弁220の開度を所望する開度に連続的または段階的に設定することができるダイヤル式で構成することができる。
【0120】
これにより、制御装置110は、運転者が操作子112を操作することによってシフトポジションの位置に拘らず、クラッチ装置222の作動を制御して前輪車軸102a,102bと圧縮膨張機関210,230,240とを回転駆動力の伝達状態と遮断状態とを選択的に切り替えて制動トルクを発生または消滅させることができる。この場合、制御装置110は、操作子112の回動量に応じて気密度調整弁220の開度を増減することにより、運転者が所望する制動トルクを発生させることができる。なお、操作子112は、必ずしも気密度調整弁220の開度を増減させる機能を有する必要はなく、単に圧縮膨張機関210,230,240の作動の開始または停止のみを指示可能に構成することができることは当然である。
【0121】
また、上記第1実施形態においては、電気自動車100は、バッテリ108に蓄電した電力によって電動モータ107を駆動するように構成した。しかし、電気自動車100は、電動モータ107を駆動源とする自走式車両に広く適用することができる。したがって、電気自動車100は、燃料電池から出力される電力によって電動モータ107を駆動する燃料電池車であってもよいし、電動モータ107を補助的な駆動源とする自走式車両、例えば、エンジンを主な駆動源とするとともに電動モータ107を補助的な駆動源とするハイブリット車で構成することもできる。
【0122】
また、上記各実施形態においては、制動トルク発生装置200は、運転者による操作子111の操作によって作動を開始または停止するように構成した。しかし、制動トルク発生装置200は、運転者によるアクセル操作に応じて自動的に作動を開始または停止するように構成することができる。
【0123】
例えば、電気自動車100は、図示しないアクセルの操作に応じて制御装置110が圧縮膨張機関210,230,240の作動を開始または停止するように構成することができる。ここで、アクセルは、制御装置110に対して電動モータ107の回転駆動量を指示して電気自動車100を加速させるための加速指示装置であり、足踏み式のペダルで構成されている。なお、このアクセルは、足踏み式のペダル以外の構成、例えば、棒状のハンドルを軸回りに回動させるタイプで構成してもよいことは当然である。
【0124】
そして、制御装置110は、電気自動車100が走行中において運転者によるアクセルへの加速操作の中断(所謂アクセルオフ)を検出した場合には、制動トルク発生装置200に対して作動の開始を指示する。これにより、制動トルク発生装置200は、上記第1実施形態におけるシフトポジションをロー「L」に操作した場合と同じように、クラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることができる。また、制御装置110は、制動トルク発生装置200が作動している場合において運転者によるアクセルへの加速操作が行なわれたこと(所謂アクセルオン)を検出した場合には、制動トルク発生装置200に対して作動の停止を指示して制動トルクの発生を中断することができる。
【0125】
また、制御装置110は、バッテリ108の充填状態を加味して制動トルク発生装置200の作動の開始または停止を制御することもできる。例えば、電気自動車100は、
図1の破線で示すように、バッテリ108の充電可能量を検出するためにバッテリ108の端子電圧を検出して制御装置110に出力する充電量検出器113を備えて構成することができる。これにより、制御装置110は、充電量検出器113からの検出信号によってバッテリ108の充電可能量を監視してバッテリ108の充電可能量が所定以上ある場合においてアクセルへの加速操作の中断(所謂アクセルオフ)を検出した場合には電動モータ107を回生させてバッテリ108の充電を行う。一方、制御装置110は、バッテリ108の充電可能量が所定未満の場合(例えば、満充電または満充電に近い状態)においてアクセルへの加速操作の中断(所謂アクセルオフ)を検出した場合には、クラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることができる。
【0126】
なお、制動トルク発生装置200は、運転者のアクセルワークに代えて上記第1実施形態における操作子111によるシフトチェンジの際にバッテリ108の充電可能量が所定未満の場合にクラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることもできる。また、制動トルク発生装置200は、電気自動車100の速度を検出することで減速を検出した際にバッテリ108の充電可能量が所定未満の場合にクラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることもできる。
【0127】
また、制動トルク発生装置200は、電気自動車100が下り坂を走行する場合に自動的に作動の開始または停止するように構成することができる。例えば、電気自動車100は、地図情報に標高情報を有するまたは自車の現在地の標高を測定することができるナビゲーションシステム(図示せず)を備えて自車の現在地における標高情報を制御装置110に出力するように構成することができる。これにより、制御装置110は、ナビゲーションシステムから出力される自車の現在位置における標高情報を用いて自車が下り坂を走行しているか否かを判定して自車が所定の勾配以上の下り坂を走行していると判定した場合にクラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることができる。
【0128】
なお、電気自動車100は、自車の傾斜状態に応じた検出信号を制御装置110に出力する傾斜センサ(図示せず)を備えて構成することもできる。これによれば、制御装置110は、傾斜センサから出力される検出信号を用いて自車の傾斜状態を特定して自車が所定の傾斜状態で走行している、すなわち、自車が所定の勾配以上の下り坂を走行していると判定した場合にクラッチ装置222および気密度調整弁220の作動を制御して制動トルクを発生させることもできる。
また、上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車輪が連結されて電動モータによって駆動される車軸に対して制動トルクを付与する電気自動車用制動トルク発生装置であって、車軸に連結されて同車軸からのバックトルクによって空気を導入する空気室の容積の減少による空気の圧縮および同容積の増加による空気の膨張のうちの少なくとも一方を行って制動トルクを発生させる圧縮膨張機関と、圧縮膨張機関の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせる機関作動機構と、車軸にバックトルクが作用する際に、機関作動機構の作動を制御することによって圧縮膨張機関を作動させて車軸に制動トルクを付与する制御装置とを備え、圧縮膨張機関は、一方が閉塞されるとともに他方が開口部を有する有底筒状のシリンダ部内に空気室が形成されるシリンダブロックと、シリンダ部内にて直線往復運動して空気室の容積を変化させるピストンと、車軸からのバックトルクによって回転駆動する駆動軸の回転運動をピストンの直線往復運動に変換するクランク機構とを有し、シリンダブロックは、シリンダ部における常にピストンが直線往復運動する摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する排気シリンダ連通路と、排気シリンダ連通路よりも前記開口部側に形成されて前記摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する吸気シリンダ連通路とがそれぞれ形成されており、ピストンは、空気室に連通しつつ
また、上記目的を達成するため、本発明の特徴は、車輪が連結されて電動モータによって駆動される車軸に対して制動トルクを付与する電気自動車用制動トルク発生装置であって、車軸に連結されて同車軸からのバックトルクによって空気を導入する空気室の容積の減少による空気の圧縮および同容積の増加による空気の膨張のうちの少なくとも一方を行って制動トルクを発生させる圧縮膨張機関と、圧縮膨張機関の作動を開始または停止させて制動トルクの発生または中断を行なわせる機関作動機構と、車軸にバックトルクが作用する際に、機関作動機構の作動を制御することによって圧縮膨張機関を作動させて車軸に制動トルクを付与する制御装置とを備え、圧縮膨張機関は、一方が閉塞されるとともに他方が開口部を有する有底筒状のシリンダ部内に空気室が形成されるシリンダブロックと、シリンダ部内にて直線往復運動して空気室の容積を変化させるピストンと、車軸からのバックトルクによって回転駆動する駆動軸の回転運動をピストンの直線往復運動に変換するクランク機構とを有し、シリンダブロックは、シリンダ部における常にピストンが直線往復運動する摺動面に開口しつつシリンダブロックの外部に連通する排気シリンダ連通路が形成されており、ピストンは、空気室に連通しつつ
ストローク範囲内で摺動する際に排気シリンダ連通路に連通した後、前記開口部を通過してシリンダ部の外部に露出する位置に形成されたピストン連通路を備えることにある。